Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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崩壊再び

 

 

本当に、突然だった。

 

村の子供達と村の皆と沢山の約束を交わした。

宴会もしよう、と誘われた。………比較的歳の近い村娘メナドに 子供達の様に空中散歩に連れて行って貰いたい、と顔を赤くさせながら告げられた時は、柄にもなく緊張した気がした。

村の皆も囃し立てられた気がする。特に子供達はませている、と言うのだろう。ペトラが頬を膨らませながら、裾を引っ張り、そのペトラを嫁にする競争に勤しんでいるカインとダインにも宣戦布告をされてしまい、益々村の皆から囃し立てられた。

 

ほんの1週間に満たないたった4日でここまで受け入れられた事に感謝をしつつ……、明日の約束、仕事を楽しみに就寝についていた時だ。

 

 

 

 

――――ッッッ!!??

 

 

 

世界が歪む。

空間が次元が、全てが歪む。

 

村も、皆との思い出も、何もかもが歪み、粉々に砕かれていく。

 

そして、自分自身をも。

 

 

 

それが、戻っている(・・・・・)と気付いた時には もう既に遅かった。

 

 

 

あの魔獣に襲われた際、最善を尽くす為に 誰一人怪我しない様にと記憶(セーブ)を施していたからだ。

この現象は、その世界をも飲み込み、砕く。

 

 

その世界の数だけ、その身体の数だけ、自分自身の身が砕かれてゆく。

 

 

言わば、()を追体験しているかの様な感覚。

 

 

 

死んだことは無いから、一概にはそう言えないかもしれない……が、少なくとも世界は死んだ(・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

 

軈て、闇色に包まれた世界に一筋の光が現れ、その光に吸い込まれる。

そして、光の中にて 粉々に砕かれた五体を生成されていく。まるで新たな命が光りを母として胎動し始める様に、自分自身が築かれていく。

 

 

 

ただ―――――。

 

 

 

 

「うぐっ……、がはっっ!!」

 

 

 

新たなる命へと生まれると言うのであれば、前回の自身(・・・・・)のあの理不尽な痛みまで継がれていくのは本当に止めて欲しい、と切に願わずにはいられない。

 

そして、とうとう吐血すると言う目に見えてヤバくなってきた。

 

ロズワール邸の見事な庭園を血で汚してしまうと言う愚行も。

 

だが、今はそれどころではない。

 

 

「ぐ……、くっ、くる、る……」

 

 

何処に戻されたのかは解らない。

ひょっとしたらベアトリスの所で此処には居ないかもしれない……と思っていたが、その不安は問題なく解消される。

 

 

「はいよ。今回は一段ときつかったみたいだね? ちょっと僕でも心配になっちゃうよ。君がどう思っていたとしても、君は僕にとっての相棒だからさ」

「……………その辺、口調、ぜったい、パックのまね……だろうが」

「てへ☆ でもさ? ほんとの部分もあるんだよ~~?」

 

 

半身をベアトリスの方へ、本身をツカサの所にしているから。

 

起こった出来事を解っている存在。恐らくはこの世界で指折り程度にしかいないであろう、この現象を解っている存在であるクルルが、ツカサの傍へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻某場所。

 

戻りの原因であるナツキ・スバルも同様に苦しんでいた。

それは、肉体的な痛みではない。

 

 

「お客様お客様。お加減の悪いご様子ですが、大丈夫ですか?」

「お客様お客様。お腹痛そうだけど、まさか漏らしちゃった?」

 

 

たった4日間。短い時間と言えばそうだが、この双子メイドには 散々こき使われてきた。下男ポジションとして、ロズワール邸で働く道を選んだスバル。

 

自分と同じと言って良いツカサは、村への在住を褒美として受け取り、自分自身は気になる存在であり、助けになりたい、笑顔が見たい、……心を寄せた相手であるエミリアの傍に居る道を選んだ。

 

そして5日目の朝を迎える事が出来なかったのだ。

 

 

この、時には煩わしく、時には安心し、信頼を寄せた声が……全くの感情も無くなっている。

見上げてみても、その2人の瞳を見ても……、そこには声と同じく 何ら感情が籠っていない。

たった4日間と人は言うかもしれないが、何処かへ霞のように消え失せた。

この現象が何を意味するのか、スバルは知っている。……何度も経験をしてきたから、当然知っている。

 

 

《死に戻り》

 

 

 

 

「お客様?」

「!! あ、ああ……」

 

 

再度、メイドたちに呼ばれた。

彼女達は自分を知ってる訳がない。知る前に戻されたのだから当然だ。……当然、なのだが……。

 

 

「心配かけて、その……悪かった。少し、寝起きでボケたというかなんというか……」

 

 

ベッドから起きて、気丈に振舞う。

でも、どうしても 彼女達が近づいてくるにつれて心が蝕まれる。

 

 

「お客様。急に動かれてはいけません。まだ安静にしてないと」

「お客様。急に動かれると危ないわ。まだゆっくり休んでないと」

 

 

何ら感情が籠ってないとはいえ、自身を気遣う言葉。

だが、その言葉の1つ1つが、痛くて、苦しくて……。

 

 

「っ……、悪い………。今は、今は無理だ……」

 

 

 

逃げ出してしまった。

 

いったい自分は何から逃げているというのだろうか、と疑問が頭に過る……が、これだけは言える。

 

明確な言葉では表す事は出来ないが、それでも――――あの場にあのまま、残り続ける事だけは絶対に出来ない、と。

 

 

 

 

無我夢中で駆けこんだ先は………、少なくとも嫌悪と言う感情を向けてくれる相手の所。

 

 

 

「ノックもしないで入り込んで。随分と無礼なヤツなのよ」

 

 

 

言わば殺されそうになった相手、と言って良い存在、ベアトリスの禁書庫。

それでも、4日間絡み続けて、吹き飛ばされ続けて……、少しくらいは前に進んだと自分では思っていた。例えベアトリス相手であったとしても、全て無かった事にされるのは、どうしても苦しい。

 

 

「全く。どうやって《扉渡り》を破ったと言うのかしら? こんな平凡で凡愚なニンゲンの男が。今と良いさっきと良い。てんで不可解で不愉快なのよ」

 

 

どんな毒舌でも、暴言でも、今はここ以上にほんの少しでも休まる場所は存在しない、とスバルは確信していた。

 

だから、どれだけ恥を晒そうとも頼むだけだ。

 

 

 

「すまねぇ……、少しだけで良い。いさせてくれ……。頼む………」

 

 

 

現実と己に向き合う為に。

自分自身の名、ここがどこなのか、さっきの双子のメイドは誰なのか、そして眼前の少女の名前と存在、加えて この膨大な書庫……不思議な空間。

 

 

そして、大事な、大事な約束があった筈だ。

 

 

 

 

 

『いっくら兄弟でも 負けねぇからな! 明日、エミリアたんとデートに漕ぎ着ける!!』

『ははは……、何するのか解らないけど、まずは子供らの相手を十分に熟した後の話だね』

 

 

 

 

 

そう―――啖呵切った。

そしてその結果……漕ぎつける事が出来た。

 

 

『私の勉強が一段落して、ちゃんとスバルのお仕事が終わってからなんだからね』

『よっしゃ!! ラジャった!! 超マッハで終わらせてやんよ!! これでオレのリードだぜっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エミリア……! 約束、約束が……」

 

 

大切な約束を思い出す事が出来た。

幸か不幸か、恋敵として(勝手に)見ているツカサのお陰で。

 

思い出す事が出来た。大切な約束を……、ならば次は? 決まっている。

 

 

 

「お前……、オレに〈扉渡り〉をさっきと今、破られたって言ってたよな? ベアトリス」

「呼び捨てかしら」

 

 

明らかに怒気を含んだ返答だったが、ベアトリス自身も 今のスバルに対し思う所があるのだろう。特に実力行使をする事無く続けた。

 

 

「つい3~4時間前かしら。無神経で無礼なお前をからかってやったばかりなのよ。もちっと痛めつけて分相応を教えようとしたのだけど、その程度で済んだのは クルルともう1人の男に感謝するかしら?」

「クルル……」

「きゅっ♪」

 

 

ベアトリスの後ろに隠れていたであろうクルルが顔を出した。

突然、扉が開かれて反射的に後ろへと隠れていた様子。

でも、スバルの事は知っているので、安心して出てきた。……少なくとも、先ほどよりは様子が良くなっているのも解ったから。

 

 

「その辛気臭い顔もやめるが良いかしら? クルルに無用な心配をさせてしまうのよ」

「きゅきゅきゅっ」

「……ああ、もう、わかったかしら。ちょっとだけなのよ」

 

 

ベアトリスの頬にすりすり、と頬ずりするクルル。

すると、先ほどまでは嫌悪感MAXで、そろそろ叩き出そうかとも思っていたかもしれない心情が緩やかになる。

 

もう少しなら居ても良い、と言わんばかりに。

 

 

 

 

その間……スバルは状況を整理していた。

 

この場所に居るのは2度目に目覚めた場面……だから、つまり 5日後から4日前まで戻ってきたと言う事になる。

それが事実であると物語っている。これまでの状況を推察、そしてベアトリスの証言からも。……嘘を言っている可能性も疑わない訳ではないが、こんな意味の無い妙な嘘をつく理由も解らない。嘘を言うのなら、最初から話したりしないのがベアトリスだ。

 

 

 

そして、確信部へと考えを移行する。

 

 

 

突然の時間遡行。

 

 

これまでの条件通り、自身の死をトリガーに発動する《死に戻り》が原因ならば……、その理由は明白だ。

 

 

 

「――――オレは、死んだんだ」

 

 

 

そう、殺されたと言う事実。考えたくも無い事だが。

 

だが、次に疑問が生まれる。

 

 

「死んだとしたらどうして死んだ? 寝る前までは全部普通だったぞ。眠った後だって、少なくとも《死》を感じる要素は一切なかった。そんな事態には陥ってない。……だが、《死》を意識させない死。毒やガスで眠ったまま殺された、って線もある。……つまり暗殺だ。………でも、何故? 殺される理由、身に覚えがねぇし……」

 

 

ベアトリスが居る前で、堂々と自身の死についてを自問自答している。

それは、現象が解っている者からすれば当然の悩みではあるが、全く知らない者からしたら、狂言・妄言を言っている以外ない。

 

 

「死ぬだの生きるだの、ニンゲンの尺度でつまらないくだらないかしら。挙句に出るのが妄言虚言の類。お話にならないとは このことなのよ」

「きゅきゅ? きゅーー」

「ははっ……。ありがとな、クルル。もう大丈夫だ」

 

 

いつの間にか傍に来ていてくれたクルルを一撫ですると、立ち上がった。

 

 

「行くのかしら?」

「ああ。確かめたい事があるんでな。助かった」

「別にベティーは何もしてないのよ。クルルの情けだけに感謝するが良いかしら」

 

 

ベアトリスは、ぷいっ、とそっぽ向いた。

スバルが背を向けたそれが合図。クルルは、ベアトリスの傍にへと移動。その肩に乗る。

 

 

「さ、とっとと出て行くかしら。扉を移し直さなきゃならないのよ」

 

 

クルルが再び戻ってきた事で、頬が少し緩むベアトリス。

だが、言い方は相も変わらず優しさとは縁のない響き。優しさの対象に向けられる事は恐らくないだろうスバルは思う。

 

でも、それでも――――どんな言葉で会っても、嬉しいのは事実だ。自分を知っていてくれる。ただ、それだけが。

 

 

 

「……確かめなきゃならない事。エミリアと……、ツカサ。……そうだ、なんで オレは前に(・・)聞かなかった? 確かめなかった?」

 

 

 

初めて会った時の事を、思い返す。

ツカサは何と言っていたか、を。

 

印象深い言葉を思い返す。

 

《クソイカレキチガイ殺人女》

 

そして、もう1つ。……文句なしの一番の重要部分。

 

《やり直してる奴》

 

 

そのやり直してる、と言う意味が 自分が知る通りなのなら、死に戻りの事を指すのであれば、この4日間を覚えている世界でただ1人の存在かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――スバルは庭園にて目撃した。

 

 

エミリアの姿。

 

 

 

「ッッ!!?」

 

 

 

そして、彼女の直ぐ傍で 血を吐いて、その自分の血溜まりの中で蹲るツカサの姿。

 


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