Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
次の話から前に進めそうです( ;∀;)
ギャッホウ!!(゜o゜(☆○=(-_- )゙ハヨヤレ!!
最初は、確かに真剣で、極めて重要な話だった。
ツカサは大丈夫だったのか。
スバル自身の死に戻りの影響によるあの地獄の顕現。それを今の状態のツカサが受けてしまえば、と思えばスバルは震えが止まらなくなる。一度でもアレを体験していれば誰でもそうなるだろう。ましてや、原因が自分にあるともなれば尚更。罪悪感でそれこそ死にたくなる程だ。
だからこそ、固唾を呑んでラムの言葉に耳を傾け、ツカサの無事を知ったときには、心の底から安堵した。
ところが、話はそこで終わらなかった。
いや、始まってすらいなかったのかもしれない。
いつの間にか内容は二人きりの時間へと移り変わり、そこから先は、もう止まらなかった。聞いてもいないことまで次々と明かされ、しかも話が進むほど詳細になっていく始末。
一度は終わりかけたと思った話が、また続き、そのたびにスバルの表情筋がおかしくなっていく。
気づけば、当初聞きたかった話など全体のほんの一部分になっていた。
そして、ようやくラムが口を閉じた、その瞬間。
「いや長ぇぇぇぇぇぇぇぇぇわッッ!!」
溜まりに溜まった感情が、とうとう爆発した。
スバルの絶叫が、聖域に響き渡る。
何事かと周囲の人間が振り返りかねない大音声だったが、当の本人にそれを気にする余裕などない。両腕を大きく振り上げ、全身を使って抗議する姿は、まるで理不尽な仕打ちを受けた被害者そのもの。もっとも、本人に言わせれば、まさしく被害者なのだろう。
「マジで長すぎんだろ!! 何なんだよ今の話!? 途中までは良かったよ!? 俺だって考えさせられた! 気合入るし、ラムたちへご祝儀くらい包まなきゃ! だった! なのに何だよ! 何でそこから延々と惚気を聞かされなきゃなんねぇんだ! 全体的にほぼソレだぞ!?」
顔が赤いのは、声を張り上げたせいか。それとも、あまりにも包み隠さず語られたラムとツカサの親密な時間を思い出したせいか。
恐らく両方だ。
肩で息をしながら睨みつけるスバルに対し、ラムは涼しい顔を崩さない。それどころか、何をそこまで騒ぐ必要があるのかとでも言いたげに、呆れた眼差しを向けていた。
「いきなり騒がしいわね、バルス。ただラムとツカサの愛が、それほど深かった。愛を前にすれば次元さえも超越する。というだけの話でしょう?」
「深いとか愛とか、超越とか、そういう次元の問題じゃねぇんだよ!! つーか、惚気!? いや違う! 惚気なんて可愛いもんじゃねぇ!! 何で俺は朝っぱらから他人の営み! 情事! 大人なアレ! アダルティ! 一部、いやほぼ全部聞かされてんだよ!? しかも妙に描写が細けぇし! 色々言語化されてて生々し過ぎだし! 男子高生の思春期なめんなッ!」
拳を振り上げて抗議するスバルだったが、相手が悪かった。
ラムにとって、ツカサと過ごした時間は何一つ恥じるものではない。そこに至るまでの苦難も、二人が互いを求めたことも、ようやく手に入れた幸福も、全てが等しく大切なもの。少なくとも、聞き手が赤面するという理由だけで、その価値が損なわれることなどあり得なかった。
「当然でしょう。ラムとツカサのことを語るうえで、全て大切な話。避けては通れない重要なことよ。ありがたいと思いなさい」
「姉様にエロ談話させたことにか!? そりゃ金取れるくらいかもしれねーけども!!」
何しろラムである。
整った容姿に、少々どころではなく癖の強い性格。そんな美少女が自らの恋愛事情を赤裸々に語るとなれば、世の中には喜んで耳を傾ける人間もいるだろう。
そこまで考えて、スバルは頭を抱えた。
何を冷静に需要の分析などしているのか。そもそも、自分が聞きたかったのはそんな話ではない。
「あーーもーーー! よけーな記憶力フル稼働させんなよ! 俺が主に聞きたかったのは兄弟の安否であって、情事の実況中継じゃねぇんだ! そこら辺は二人だけの秘密とかにしといてくれよ姉様」
散々言っているが、少し前まで、スバルにはそんな軽口を叩く余裕すらなかった事を思えばある意味良かったのかもしれない。
ツカサがどうなったのか、生きているのか、無事に戻ってくるのか。胸を締めつける不安の中では、いつもの調子で「兄弟」と呼ぶことさえ、どこか憚られたのだ。
だが、今は違う。
大丈夫。
そう確信できたからこそ、スバルはこうして遠慮なく騒げる。それこそ祝福もできるし、突然の官能シーンに文句だって言える。
もっとも、無事を喜ぶ気持ちと、聞かされた内容に対する抗議は別問題だが。
「バルス」
「何だよ」
「素直になれないなんてまだまだお子様ね。ただ、バルスは羨ましいだけなのでしょう? 素直に刺激が強すぎた、と言えばどうかしら?」
「うぐっ……!」
不意に突きつけられた指摘に、スバルは言葉を詰まらせた。
否定したい。全力で否定したい。
しかし、エミリアとの関係が未だ清く正しい段階にあるスバルにとって、ラムが語った一連の出来事は、あまりにも刺激が強すぎた。何より、ツカサとは男女の関係についても似たようなところにいると思っていたのだ。
スバルは好きだと伝えた。一世一代の告白。
その想いを、エミリアは受け止めてくれた。
でも、その先はまだで……。
そう思っていたはずが、ツカサは知らぬ間に大人の階段を駆け上がっていたらしい。キスまでならば何とか追いつける、と奮い立たせていたのだが、まさかの濃厚接触、粘膜接触まで行ってるのなら話は変わってくる。
そう易々と追いつけるような英雄とは思ってないわけだが、こと、男としてまで周回遅れにされるというのは、何とも複雑な気分である。
無論、だからといってエミリアとの関係を急ぎたいわけではない。そこは彼女の気持ちを何より大切にしたいし、焦ってどうにかするようなものでもない。
それはそれとして、羨ましいものは羨ましい。
……いや、認めるわけにはいかない。
「……ち、違ぇし〜! 別に、う、羨ましくなんかないんだからね……っ!」
「そう。なら、話の続きをしても問題ない筈よね?」
「まだあんのかよぉ!! 話しきってねぇのかよ!! あれだけ話したのに!? つーかラム! 乙女の恥じらいってもんはねぇのか!? よくそこまで赤裸々に話せるな!?」
「ハッ。今度は何を言い出すかと思えば、くだらないわね」
ラムは鼻で笑うと、ふん、と胸を張った。
「このラムには、自分自身を恥じるようなところなど一つもないわ」
全くブレない。
それがラムという女なのである。
「そういう意味じゃねぇのよ! 何で自分に誇りを持ってますみたいな話になってんだ?? 俺が言ってんのは、そういうプライベートなことを、よくもまあ堂々と話せるなってことだよ」
「スバルくんスバルくん」
「ん? 何だ、レム?」
「ぷらいべーと、とは何でしょうか?」
横合いから聞き慣れた声がした。
反射的に応じたスバルだったが、意識の大半は依然としてラムへの抗議に向けられている。そのため、いつの間にレムが隣に立っていたのか、深く考えることもなかった。
当のレムは、姉とスバルのやり取りを楽しそうに眺めている。どうやら、聞き慣れない言葉が気になったらしい。
「そこからか。あー、あれだ。要するに個人的なこと! 他人にはあんまり知られたくない、本人だけの秘密とか、そういう意味だよ」
「なるほど。つまり、姉様とツカサ君が二人きりで過ごされた時間は、ぷらいべーと、ということですね」
「そうそう! まさしくそれ! それなのに何で姉様はこんな堂々と……」
そこで、スバルはぴたりと動きを止めた。
レムの表情が、あまりにも穏やかだったからだ。
あれほど刺激の強い話を聞かされたというのに、頬を染めるでもなく、困惑するでもない。それどころか、姉を見つめる瞳には、どこかうっとりとした色さえ浮かんでいる。
まるで、これ以上ないほど素晴らしい話を聞かせてもらったとでもいうように。
「……なあなあ、レムさんや?」
「はい、どうしましたか? スバルくん」
「いつからそこに……っていうか、よくそんな平然としてられるよな?」
「そうでしょうか?」
レムは不思議そうに小首を傾げた。
別におかしなことなど何もない。そう言いたげな仕草だったが、スバルからすれば十分すぎるほどおかしい案件である。
百歩譲って、ラムとツカサの添い寝姿をガーフィールに見せつけるという鬼の所業は、まだいい。
いや、よくはないが。
ともかく、あの程度ならば微笑ましい惚気で済ませられる。しかし、今回の話は違う。濃厚に、具体的に、これでもかというほど詳細に語られた二人の時間。聞き手の想像力に一切の慈悲を与えない、恐るべき内容だった。
健全な思春期高校生男子には、少々どころではなく刺激が強い。
「こっちは聞いてるだけで精神的にやべーのに、レムはマジで幸せそうで鬼がかってるな、って」
「勿論姉様がとても幸せそうですから。はい、鬼がかってますね」
「いや、それは分かるけどさ……」
「それに、姉様の幸せは、レムにも伝わってきますので」
「……あ、確か共感覚っていうのがあったっけ」
以前に聞いた、双子の鬼族が持つという不思議な繋がり。
互いの存在や状態を感じ取り、ときには感覚さえ分かち合うことができるという、何とも便利で、何とも不思議な能力だったはずだ。
なるほど、それなら納得である。
実際、今のラムは誰が見ても幸せの絶頂にいるだろう。肌艶など、以前にも増して良くなったように見える。何なら、ほんのり光沢まで帯びている気がするほどだ。
もちろん、本当に光っているわけではない。
何しろ、ラムとツカサはようやく互いの想いを確かめ合い、文字通り二人だけの時間を過ごしたのだ。あの白い世界での出来事が現実とどこまで同じなのか、細かいことは分からない。それでも、彼女がこれ以上ない幸福に満たされていることだけは、疑いようがなかった。
そして、レムである。
元より姉を敬愛してやまない彼女のことだ。共感覚などという特別な能力がなくとも、ラムが幸せであれば、それだけで十分に幸せなのだろう。
実に美しい姉妹愛。
先ほどまでの猥談騒動が嘘のように、何とも心温まる話ではないか。
「なるほどなぁ。そりゃ、ラムが幸せならレムだって嬉しいよな。わかりきってることだったわ」
「はい、スバルくん。姉様のお幸せは、レムにとっても何より嬉しいことですから」
「うんうん。いやぁ、いい話じゃねぇか。姉妹ってのはいいもんだなぁ……。兄弟として、こっちも負けるわけには……」
腕を組み、しみじみと頷くスバル。
先ほどまでの絶叫が嘘のように、穏やかな空気が流れ始めた。
少なくとも、スバル自身はそう思っていた。
しかし、その平穏は長く続かなかった。
「…………ん?」
ふと、脳裏を掠めた疑問に、スバルの眉がぴくりと動いた。
共感覚。
感覚を共有する能力。
ラムの幸せが、レムにも伝わってくる。
そこまではいい。何一つおかしなところなどない。
問題は、その『感覚』という言葉が、具体的にどこまでを指すのかということだった。
例えば、嬉しいとか、悲しいとか。感情が伝わってくる程度なら良い。
だが、もしも………。
もしも、それ以外の感覚まで共有できるのだとしたら――?
まるで自分自身が体験しているかのように、相手の感覚を受け取れるのだとしたら――?
「……なあ、レム」
「はい、何でしょうかスバルくん」
「その共感覚ってさ。具体的に、どこまで分かるもんなの?」
「どこまで、ですか?」
レムが小首を傾げる。
何の疑問も抱いていないらしいその様子に、スバルは早くも質問したことを後悔しかけた。
いや、別に変な意味で聞いているわけではない。
純粋な好奇心。
そう、あくまで知的探究心というやつだ。
……などと、自分自身に言い訳を重ねている時点で、相当に怪しいのだが、それはそれ精神だ。
「いや、ほら。嬉しいとか悲しいとか、そういう気持ちが伝わってくるのは分かるんだよ。でもさ、それ以外にも具体的っつーか、色々あったりすんのかなーって……」
「そうですね。姉様のお気持ちが伝わってくることもありますし、痛みを感じ取ることもあります」
「……痛み、までも?」
思わず聞き返したスバルに、レムはこくりと頷いた。
その瞬間、彼の脳裏に一つの可能性が浮かび上がる。
痛み。
つまり、喜怒哀楽のような感情だけではなく、身体に生じる感覚まで伝わる場合があるということだ。
それにつまり
それはそうと、その行為の本質は温かさだったり、くすぐったさがきたりして、そして最後には――。
「…………」
──待て。
──待て待て待て。
──そこから先は考えちゃダメなやつ。
言葉として口から出ないから、スバルは脳内で思い切り急ブレーキ。思い切り踏み込む。
先ほどラムが延々と語っていた内容が、嫌でも頭を過ぎる。
ツカサとラムが、二人きりで過ごした時間。
互いを求め、想いを確かめ合い、心も身体も満たされたという、あまりにも生々しい話。
そして、レムはラムと共感覚で繋がっている。
ならば、もしも。その幸福感だけではなく、もっと具体的な感覚まで伝わっていたとしたら――。
「…………ッ!?」
スバルの背筋に、ぞわりと妙なものが走った。
──いや、いやいやいや。それはおかしい。何がおかしいのか、上手く説明できないが、とにかくおかしい。
何しろ、レムは自分を好きだと言ってくれた女の子。初デートで初告白をしてくれた相手。
エミリアへの想いを知った上で、それでも傍にいたいと願ってくれた、大切な存在。
そんなレムが、もしも共感覚を通じて、ツカサとラムのあれやこれやを――。
「…………」
──待て待て待て待て。これは、あれか。本人は何もしていないのに、感覚だけ共有していたらどうなる?
そもそも何もしていないのだから、何も起きていないに決まっているだろう。肉体的な接触は無いはずなのだから。
決まっているのだが、何というか、こう。
間接的に。
疑似的に。
いや、だから──。
「……スバルくん?」
「うひょあッ!?」
レムの声に思わず裏返った声が出たスバル。
目の前では、レムが心配そうにこちらを見上げている。
その青い瞳に邪な色など微塵もない。ただ、急に黙り込んだスバルを案じているだけだった。
それが分かるからこそ、余計にいたたまれない。
一体、自分は何を考えて、何を一人で悶えているのだろうか、と。自己嫌悪。
「スバルくん大丈夫ですか? お顔が赤いですよ?」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから! ちょっと脳内で色々と事故が起きただけだから!」
「事故、ですか?」
「そう! しかも単独事故! 被害者も加害者も俺一人! だから気にしないでくれ!」
「はいスバルくんが大丈夫と言うのなら……」
訳が分からないといった様子のレム。
当然だろう。
スバル自身、まとまってない。何を言っているのかよく分かっていないのだから。
ただ、一つだけ確かなことがある。
このままでは、勝手な想像でレムに妙な疑いを向けることになってしまう。それだけは避けなければならない。
自分のことを好きだと言ってくれてるレムに対する裏切りにも等しいから。
そもそも、共感覚で感情や痛みが伝わるからといって、あらゆる身体感覚がそのまま共有されるとは限らないのだ。
だったら、聞けばいい。
変なことを考えていると思われないように、できるだけ自然に。
できるだけ、さりげなく。
「……なあ、レム」
「はい、スバルくん」
「さっき、ラムの幸せが伝わってくるって言ったよな?」
「はい。姉様は、とてもお幸せそうです」
「……それってさ。具体的には、どんな感じなんだ?」
「どんな感じ、ですか?」
「いや、その……何があったとか、何をしてたとか、そういうのまで分かったりするのかなーって……。幸せになった瞬間はこれだろうなー…………とか」
とうとう言ってしまった、とスバルに緊張が走る。
しかも、これのどこが自然なのか。
質問した本人が一番そう思っているのだから、救いようがない。
しかし、レムはそんなスバルの葛藤など知る由もなく、少し考えるように視線を伏せた。
やがて、柔らかく微笑む。
「そんなに難しいことではありませんよ、スバルくん。ただ姉様が、とても幸せだということだけで」
「……うん?」
「とても温かくて、満たされていて……。言葉にするのは難しいのですが、姉様が心からお幸せなのだと、そう感じます」
「…………うん??」
「何をなさっているかまで、何でも分かるわけではありません。直接姉様やツカサくんにお聞きするのも手ではありますが、レムも、姉様とツカサ君のお邪魔をしたくありませんから」
「…………」
スバルは、しばし無言になった。
そして。
──……ああ、そういうことか。
ようやく、スバルの肩から力が抜けた。
レムが感じ取ったのは、ラムの圧倒的な幸福感。その詳細まで事細かに感じ取っているわけではない。
その幸福がどんな出来事から生まれたのか、レムは姉の話を聞いて知っている。だが、だからといって、その出来事を共感覚で一から十まで追体験したわけではない。
ラムが幸せだから、レムも嬉しい。
ただ、それだけの話だった。
「いや、アホか。何一人で盛り上がって、変な汗かいてるんだよ、俺……」
「スバルくん?」
「いや、何でもない。うん、何でもないんだ。忘れてくれ」
「……? はい。スバルくんがそうおっしゃるのでしたら」
レムは素直に頷いた。
その様子を見て、スバルはますます自分が情けなくなる。
レムは、ただ姉の幸せを喜んでいただけなのだ。
それを勝手に深読みして、あらぬ方向へ想像を膨らませて、一人で慌てふためいていた。しかも、その根底には、レムを大切に思う気持ちに紛れて、ほんの少しばかりの独占欲まで顔を覗かせていたのだから始末が悪い。
何というか、男として器が小さい。
小さすぎる。
英雄見習いなどと名乗るのもおこがましい。これでは、英雄どころか、ただの妄想逞しい思春期男子ではないか。
いっそ、このまま地面に穴を掘って埋まりたい。
そんなことを考えていた、そのときだった。
「……ハッ」
聞き慣れた鼻笑い。暫く黙っていたラムの鼻笑いがスバルの耳に届いた。
嫌な予感がした。
非常に嫌な予感がした。
「バルス」
「……何だよ」
「随分と熱心に聞いていたけれど、何を想像していたのかしら?」
これだけは確信が持てる。共感覚なんて能力は必要ない。スバルははっきりと確信を持っている。
ラムは分かった上で、聞き返しているのだと言うことが。
「…………」
「バルスはレムが何を感じ取ったのか、そんなに気になるようね」
「い、いや、別に……!」
ラムの嘲笑している顔がスバルに突き刺さる。
「そう。なら、どうしてそんなに顔が赤いのかしら?」
「うるせぇ!! これはアレだ! さっき叫びすぎたせいで血行が良くなっただけだ!!」
「便利な言い訳ね。鼻血まで出して、いやらしい」
「鼻血!? 出てねぇよ!! つーか、分かってて煽ってるだろ姉様!!」
反射的に鼻の下へ手をやりかけ、スバルは寸前で踏みとどまった。危ない、今ここで確かめようものなら、出てもいない鼻血の存在を自ら認めるようなものだ。
そんなスバルの葛藤を見透かしたかのように、ラムの口元が僅かに吊り上がる。
「ハッ」
「鼻で笑うだけとかヤメて! せめてなんか言って!!」
ラムはそんな抗議に答えることもなく、涼しい顔のまま、隣に立つ妹へちらりと視線を向けた。
その態度が、またしてもスバルの神経を逆撫でする。言い返されるならまだしも、鼻で笑われた挙げ句、相手にすらされないとは。
もっとも、そんな彼の不満など、ラムにとっては些細なことだった。
ただ、最後の最後で、ラムにとんでもない事を言われる。
「ああ、言い忘れていたわ。今後、ツカサに降りかかっていたあの災厄は、バルスの方へ移るそうよ。どれほど苦しむことになるかは、その時々で違うそうだけれど」
「…………は?」
「せいぜい運が良いことを祈るのね、バルス」
あまりにも唐突な宣告に、スバルの思考が停止した。
一秒。二秒。三秒。
そして、ようやく言葉の意味を理解した、その瞬間。
────本日二度目となるスバルの絶叫が、聖域の空へと響き渡ったのである。
その叫びに込められていたのは、恐怖でも絶望でもない。
そんな大事なことを、どうして最初に言わなかったのか。
ただ、それだけである。
無論、あの地獄が振りかかること自体に恐怖はある。が、それ以上にツカサの負担を肩代わり出来るのなら、という気持ちの方が強いから。
ただ、もっとタイミングと言うものがあるだろう!? とラムに抗議したかっただけである。
スバルにとっては、今日一番切実な叫びなのだった。