Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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2つの優しさ

レムが振るってくれた豪勢な夕食。

そのご相伴にツカサも与る事が出来た。

 

スバルも、から元気ではありそうだが、平然と務める事が出来ている。

お互いに並々ならぬ思いでこの日の夜を迎えている、と言う事は容易に想像が出来る事だろう。

 

 

 

何せ、王都の時とは違う。……敵が全く解らない状態だから。

 

 

 

それでも、今夜恐らく何かが起こる可能性は極めて高い。

細かな差異はあれども、スバルもツカサも前回の道筋をある程度辿る事が出来たから。

 

 

そして、全く違うアプローチ。

今回は現場(・・)にツカサも居る。

 

色々と考えていたのだが……、料理が美味しかった、と言うのは心からの本心。パックの読心を使ったとしても、そこだけは信用される事が出来る確信が持てる程に。

 

そして、美味しい美味しい料理を頬張る。

ロズワール邸に居れば、毎日こんな美味しい料理を与る事が出来るのか………、と少なからずスバルの事が羨ましくも思えた。

村の料理も勿論美味しいけれど、やはり いわば貴族の高級料理。美味しいものは美味しい。ロズワールも言っていたが、これこそが胃袋を捕まれる、と言う事なのだろう。

 

 

 

「……ダメだダメ。毎日でも来たくなりそうだけど、そこは我慢我慢。働かないで食べるばかりはダメ」

 

 

ツカサは頭を数度叩くと、視線を再び下へと向けた。

 

 

 

 

 

因みに―――この場所は、ベアトリスの禁書庫。

 

 

 

ツカサは、夕食をご馳走になった後、クルルを出しにベアトリスの禁書庫でお世話になっている。

ベアトリス自身も、ツカサに色々な事情を察しているモノの、クルルと一緒に居る事自体は好ましいモノなので、渋る事なく気軽に了承してくれたのだ。

少なくとも、スバルが夕食後の片付けや他の業務が終わり、本人にとって何よりも重要なエミリアと約束を交わし―――――眠りにつくその時間までは、この禁書庫に居るつもりだった。

時間合わせも入念に行っている。気付いたら、戻るあの最悪の現象に陥ってしまった、なんて間抜けな真似はしないつもりだ。

 

 

そして、暫く本を読んでいた時だ。

 

 

「そろそろ話してくれても良い頃合いなのよ。色々理由を取ってつけてたみたいだけど、どういう理由があって、屋敷に来たのかしら?」

「!」

 

 

クルルの毛並みを堪能しつつ、その鋭い視線をこちら側に向けてくるベアトリス。

ツカサは反射的にベアトリスの方を見てしまった。……その表情を見ればよく解る。……生半可な理由、安易な嘘くらい余裕で見破ってきそうなのを。

そして、今の反応の仕方で更に確信を与えてしまった事も。

 

力に頼らない交渉術も学ばなければならない、と思えた瞬間でもある。

 

 

「……やっぱり、バレてしまいましたか」

「ふん。あからさま過ぎかしら? 何が何でも今日は泊っていきたい、って言ってるも同然だったのよ」

「……すみません。クルルをダシに ベアトリスさんを利用する形になってしまって」

 

 

誤魔化したりせずに素直に謝罪したツカサ。

クルルをけしかけた、と言うのは半分は本当だ。

ベアトリスを頼ろうと思っていたので、その手段で行こうと決めていたから。もう半分はクルル自身。……アレ(・・)ではなく、クルルがベアトリスの傍にいたい、と思ってるのは本当だ。

 

それと、ベアトリスが件の犯人であるとは正直思っていない。

………だが、この禁書庫から離れない事が多いベアトリスと共にいれば、……言い方は悪いが容疑者としては省く事が出来る。

 

その為に色々と利用してしまった節があるのは否めないのだ。

 

 

 

ツカサのその姿を見たベアトリスは、躊躇い、迷い、困惑し、……懇願しようとする等、様々な感情が入り乱れていたが、どうにか立て直す。

クルルは まるでこれからする事を解っていたかの様にベアトリスの腕の中から、ひょいと移動した。

 

ベアトリスはクルルが腕の中からいなくなったのを確認すると、ゆっくりと本を閉じて立ち上がる。

 

 

「……この屋敷に、揉め事を持ち込もうとしているのかしら? それなら相応の対処をするまでなのよ」

「……オレは、オレ自身は持ち込むつもりなんて全くありません。感謝はしても、仇で返すような事はしたくない。本心です。……………オレ1人で解決できる問題なら、絶対に持ち込んだり、巻き込んだりは、しない」

 

 

圧が強まる。

その華奢な身体からは想像がつかない程の圧を。

 

だが、それに物怖じしている場合ではないのは重々承知のツカサ。

そしてツカサ自身も並々ならぬ決意と覚悟でこの場に居る。……色々と屋敷の人達を利用してしまっている事に対しては申し訳なく思う。……無論、犯人以外には、だが。

 

 

もう何度も戻った。

 

 

スバルの死を引き金に、何度も。

スバル自身も戻る度に死ぬ……、その傷みを苦しみをその戻った回数だけ経験してきている筈だから、身体に掛かっている負荷、恐怖や痛み……その記憶。……相当なモノだろう。常人なら発狂してしまう様に思えてならない。スバルはツカサと違って、守護する召喚獣クルル……精霊クルルはいないのだから。

目指したい未来の為に、その為に精神を立て直している。色々と非難した面があるツカサだが、その辺りは驚嘆に値していた。

 

そして、負荷や苦痛、と言うのなら、そのまま 元に戻らない(リセットされない)ツカサにも言える事。

 

身体が文字通り見た通りバラバラにされる感覚。死の感覚。……実際にスバルの様に死ぬまでは行ってないので、本当の意味では比べる事は出来ないかもしれないが、それでも厳しいと言わざるを得ない。現実に戻っても、その傷は反映されてしまう。

 

目に見えない傷を幾つも増やしてきた。……あの痛みと苦しみだけは、慣れる事はない。

 

 

 

ツカサは、真っ直ぐにベアトリスを見つめ返して続けた。

 

 

「……それに正直、解らない、と言うしか無いです。切っ掛けは先日の魔獣騒ぎでした。ベアトリスさんも聞いてますか?」

「お前が結界の解れをいち早く見つけ、村人が危険を知らせている間に、領域を侵してくる魔獣を数匹退治した。――――その自慢話かしら?」

「あははは……。自慢と言うつもりはないですよ。……ただ、アレは、あの結界が壊れたのは人為的(・・・)な可能性が高いと、パックに言われました」

「…………」

 

 

 

結界の一部、結晶石が綻び、群生地である森の中の魔獣があわや村に入り込む惨事が起きかけた。

そこは、村の青年の1人であるゲルトとツカサの2人が発見、即連絡で大事には至らなかった。十分な功績の1つ……と、安堵し、終わらすには正直早すぎる事件だ。

 

 

「村の人には、ここ暫くそんな事故は起きた記憶が無い、とも言ってました。平和だったと。子供達もよく笑ってました。平和そのものと言って良い。……そんな村で、あの事件。何か村で変わった事があるとするなら……、言われるまでも無い。スバルとオレが来た事(・・・・・・・・・・)。……まるで タイミングを見計らったかの様な、そんな感じがするんです」

 

 

たった数日で起きた事件。

アレは気付くのが早かったから、たまたま居合わせたからこそ、即座に対応する事が出来た。ただの幸運だ。……少なくとも、安易に記録(セーブ)をしなくなった事を鑑みると、より幸運だと言える。

 

 

「それで、昨日は村。なら今日この屋敷で何かが起こる……って事かしら?」

「いえ。起こるかどうかまでは解りません。今日を選んだのは たまたま(・・・・)ですから」

 

 

ある意味では嘘は言ってない。

 

説明の仕様がない事ではあるが、事実だ。たまたま(・・・・)今日、事が起こった。

4日目と5日目の境目でスバルが襲われ命を落としたのだから。

 

 

「皆の前で追及しないでくれたベアトリスさんには感謝してます。あの夕食の場で聞かれたりしたら、より 皆さんに不信感を与えてしまったかもしれません。……まぁ、オレが勝手に屋敷の皆さんに信用されている、思ってるだけなのが前提です。……本当の意味で、屋敷の皆の信頼を得れたか? と聞かれたら……、なかなか首を縦に振れませんからね。あの獣を数匹退治した程度では」

「ふん。感謝なんて必要ないのよ。お前が仮に(・・)厄介を持ち込む男だったとしても? 極端な話、仮に(・・)あの娘の敵であったとしても、ベティーには関係ないし、それに かかる火の粉を払うくらい簡単かしら。………だから、お前が別にそこまで気にする必要なんて、無いのよ」

「そう……ですか」

 

 

《気にする必要ない》

と言ってくれた。そして敵と言う言葉を使う時《仮に》と言う言葉を添えてくれた。

 

 

 

気付けばベアトリスの圧は消えている。

気付けばベアトリスは いつもの定位置、イスに戻って本を開いている。

気付けばクルルも ベアトリスの元に戻っていて まるで一緒に本を見ている様な光景が広がっている。

 

 

 

疑いが晴れたワケではないが、それでも禁書庫(ここ)に置いてくれる。

対処する自信がある、と言うのも勿論本当の事だろうが、それ以上に ツカサの必死さが伝わった、そして応えてくれた様にツカサは思えていた。

 

ベアトリスは、ここの領主 ロズワールに対してやエミリア、そしてメイド姉妹のラムとレムに対しても、そこまでの関心を見出せない部分があるが、この禁書庫は違う。この場所を守ると言う事。……契約(・・)は何よりも重んじている、と言う事は、前回も聞いていた。

 

守る為、と言うならば この場所から不安要素を排除すれば一番確実な筈なのだが……。

 

 

「やっぱり、ベアトリスさんは優しいですね」

「っ……! べ、ベティーは常に慈愛で溢れてるかしら? 何今更言ってるのよ」

「あははは。そうですね。間違いないです」

 

 

2人の会話を聞いて、クルルは楽しそうに《きゅきゅっ♪》と鳴き声を上げる。

交わす会話こそ、決して多いとは言えないかもしれないが、それでも和やかに、穏やかに時間が過ぎていった。

 

そして ツカサは少なからず緊張していたが、それが良い具合に解けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾ら自身を知るツカサが居るとはいえ、死なない様に手伝ってくれると約束してくれたとはいえ、……あの恐怖をもう一度味わうかもしれない、と一度でも考えてしまえば、早々拭えるモノではない。

恐怖、あらゆる負の感情が交錯していたスバル……だったが、それと同じくらいの決意と覚悟、戦えない代わりに 人2人分の命を背負ってる覚悟も持っていた。

 

 

後は、この日の夜を無事に過ごし――――エミリアとの約束を果たすだけだ、と考えていた矢先。

飛び切りの想定外、最大級の想定外の事態が起きていた。

 

 

なんと、いつもならラム、若しくはレムが勉強の相手をしてくれていた夜の時間に、エミリアがやってきたのだ。

 

 

想定外過ぎる。

 

夜も遅い時間に、男と女が部屋に居る。……それも意中の相手が。

不安や恐怖が一瞬で消え去り、自分自身の中の欲望、獣の本能と戦う事に集中するスバル。今夜がどんな日なのか、忘れてしまいそうだ。

 

 

そんなスバルを尻目に……エミリアは当初こそは笑顔で勉強の監督を務めていたのだが、やや表情が曇ってきていた。

 

 

「ね、スバル。……どうして勉強と同じように真面目にお仕事はできないの?」

 

 

スバルにしてみれば、正直いきなり過ぎる事。突拍子もない事。

だから、普段通り、お茶らけた仕草と表情で……。

 

 

「真面目に不真面目するのがオレのコンセプト! …………って雰囲気じゃないね。えっと?」

「そう、これは真剣なお話。―――ラムも少しぼやいていたんだから」

 

 

真面目に不真面目、と言ってみたは良いが、今回ばかりは しっかり空気を読む。

言い切る前に読めばよかったのだが……、そこはスバルだから。

 

エミリアも不自然に思えていた様だ。勉強に打ち込む姿勢は真剣そのものにしか見えないから。

 

 

「スバルはお仕事の合間合間で手を抜いてる感じがする、って」

「ッ………」

 

 

ラムは実に的確に見抜いていた。

スバルは、真面目にやっていた。それは間違いない。ただ、方向性(・・・)が違うのだ。

前回を辿る、間違いなく辿る。同じ結果になる様に。……最初の周回時に覚えてしまった分の調整を行っていた。寸分違わず、は無理かもしれないが、可能な範囲内で真剣に取り組んでいた。

 

それが、ラムの目にはサボりに見えた様だ。……ラムの勘も間違っていないから、中々難しい問題だ。

 

 

「………罪悪感なし、ってわけじゃないもんね。スバル、そういう変なところで律儀な感じはするもの」

「ちょっとした事情があって……って言い訳にもならねぇな」

 

 

スバルはグッ、と姿勢を正して、エミリアの方に向き直る。

 

 

 

「兄弟が躾のなってねぇ獣討伐して、エミリアたんポイント獲得、っつうリードをされちゃってんのに、オレは馬鹿でした!」

 

 

森を群生地にしている魔獣を数匹討伐。

その一報は当然スバルも耳にしている。

 

あの腸狩りのエルザとの一戦を前にしていたから、ツカサならそれくらい余裕だろう、と思ったが、それ以上にエミリアの感謝の言葉やら、その表情やらを見て嫉妬してしまったのも、言うまでも無い。

 

だから、もっともっと真剣になる必要がある。幸いにも――――明日以降なら問題ない。明日から本気出す! を有言実行できるお膳立ては整えてある。

 

 

「―――明日からは気持ちを入れ替えてちゃんとやります故、御許しを。女王様」

「んむっ。苦しゅうない! ———……って、ちょっと違うかも?」

「はははっ!」

 

 

困らせてしまった顔は見たくない。

悲痛に満ちた顔も見たくない。

 

 

エミリアには笑ってもらいたい。

そう、スバルは改めて思う。

 

 

「そだ! 明日から頑張る為に、エミリアたんからご褒美欲しいな――――って………」

「……ご褒美って?」

「ま、まぁ とにかく聞くだけ聞いてよ!」

 

 

そして、ここで重要な事を思いだした。

 

確かに、明日を迎えれる事が出来れば……最高だが、スバルにはまだある。

約束を―――前回はしっかりと交わす事が出来た約束を、今回もエミリアと。

 

それを果たさなければ、明日の朝日を迎える事が出来ても、嬉しさ半減! と言っても良い。

 

 

「明日から真面目に働くから……、デートしようぜ!」

「? 《でぃと》って何するの?」

 

 

ツカサには申し訳ないが、エミリアとのデートの約束は悲願なのだから。

そして、エミリアがデートを知らない事はもう予習済み。

 

 

「ふっふっふっ……。男と女が2人切りでデカければ、それは最早デート、と言っても良いのである!」

 

 

そしてそして、その間に何が起こるのかは、恋の女神だけが知っている……、とスバルの頭の中ではご都合主義満載の光景が広がっていて、妄想パラダイスになっていた………が、エミリアの一言で現実に引き戻される。

 

 

「あっ、じゃあ 今日、スバルはレムと《でぃと》してきたのね? えっと、でも 帰りはツカサと3人だったから、男のコ2人、女の子1人でも、その《でぃと》って言うのにならないの?」

「ぬおおおおっっ!! 予想外の切り替えし!! 兄弟とは三角関係なのは間違いないかもだが、それはノーカン、ノーカンっ!」

 

 

スバルの慌てっぷりを見て、エミリアは一頻り笑うと、したい事、そのご褒美。デートの本質的な部分については解ってないが、したい事は解った。

 

 

「一緒に出掛けたい、っていうのは解ったけど、どこに行くの?」

「ふっふっふ、それはもうデートプランは、何十、何百通りもシミュレート済みだぜ! 直ぐ近くのあの村には、超ラブリーな犬畜生がいてさ! それに花畑とかもあんの! エミリアたんと咲き乱れる花の共演! それをオレの《携帯電話(ミーティア)》で是非永遠に残したい! 心のアルバムに!」

 

 

スバルは盛り上がっているが、《村》の単語を聞いたエミリアは表情を曇らせていた。

 

 

「うーんと……、村……か」

「犬畜生、超かわいい! 行こうぜ!」

「かわいいこを、畜生、なんてつけないと思うけど……。それ以前にスバルに迷惑かけるかもしれないの。村の人にも……」

 

 

乗り気ではないのは解る。

だが、スバルはめげない。前回は上手くいったのだから、後は押し押し、押せ押せあるのみである。

 

 

「子供達とかも無邪気でマジ天使の軍勢! 行こうぜ!!」

「………」

 

 

エミリアの曇った表情が、徐々にだが光明がさすかの様になる。

軈て、呆れた表情ではあるものの、最初に比べたら大分柔らかいモノになると。

 

 

「……もう、解りました。仕方ないんだから、一緒に行ってあげる」

「えっと、花畑もマジカラフルでワンダフルで………え、マジ?? マジで??」

 

 

押せ押せムードだから、それに従った。本気で嫌だ、と拒否されるまでは、OKと言われるまで頑張る所存。前回交わす事が出来たのだから、それに一縷の望みをかける。拒絶されるなんて考えたくも無い。ただただ只管真っ直ぐに………と意気込んでいた所で、不意打ち気味のOK返事に、スバルは声が裏返る。

 

 

 

 

「そんなことでスバルが明日からやる気になってくれるなら、付き合ったげる。……もう、あんまりふらふらしてちゃ駄目なんだからね?」

「しないしないしない!! 全然しない! もうすで、どうすれば仕事を完璧に終わらせられるかに魂を燃やし尽くしてる!!」

「こんなとこで、魂、燃え尽きちゃうの!?」

 

 

 

 

本当に楽しかった。

今日の、この後起こるかもしれない出来事を、忘れられる程に。

 

 

 

 

 

 

 

会話の間、スバルは、エミリアと窓から夜空を見た。

 

 

 

あの時(・・・)も、こんな風に綺麗に見えた。星が綺麗で、明日の天気は確認するまでも無く晴天である事も解った。

 

 

 

明日を……迎えたい。

 

 

 

その悲願する真剣な顔をエミリアに一瞬だが見られて……、不安にさせかけたが、どうにか誤魔化す事が出来た。

 

 

 

エミリアとの勉強を終えて―――――とうとう、この瞬間。

 

 

「……オレはまた、この夜に挑む事が出来る。4日目の夜を超えて、5日目の約束の朝を迎える為に。………兄弟は、ベアトリスの書庫に居る、って言ってたな。…………ほんと、心強いよ」

 

 

震える手が、止まるような気がした。

 

 

ぐっ……と拳を握り締めると、もう一度窓から差し込む月明りを辿り―――満月を見た。

そして、前回のエミリアと交わしたスバル渾身の一言《月が綺麗ですね》を思い出す。

 

故郷に伝わる告白……なのだが、当然それを知る筈もないエミリアからは、《手の届かないところあるから》と胸に染みる返事が返ってきて慌てたものだ。

 

 

形は違えど、あの時の夜に戻ってきた。

 

 

 

「さぁ、今のオレには最強の仲間が居る。最高の約束も取り付ける事が出来た。――――勝負といこうぜ、運命様よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇しくも同刻。某書庫。

決して、そこまで細かに示し合わせたワケでも無ければ、狙って合わせるなんて不可能だと思えるタイミングでツカサは、本をゆっくりと閉じて立ち上がった。

 

 

「――――――」

 

 

その本を丁寧に、埃を軽く払って元あった棚の位置にまで戻すと、この禁書庫の入り口を見る。

 

 

「行くのかしら?」

 

 

雰囲気から察したのだろう、ベアトリスは手に持ってる本から視線を外したりしないが、はっきりとそう聞いてきた。

 

 

「はい。………幸いな事に、ロズワールさんから一部屋お借りする事も出来てますから、そちらへ行こうかと。……沢山お世話になったベアトリスさんに、これ以上の迷惑はかけられません」

 

 

ツカサはそう言うと、腕を伸ばした。

それを合図に、クルルはベアトリスの腕の中から飛び出して、そのツカサの腕に止まる。

 

 

「オレも、クルルもお世話になりました。……また、本を読みに来ても良いですか?」

「…………好きにすれば良いのよ。ただ、あの男と同伴で、って言うのなら、ゴメン被るかしら? 余波で お前も一緒に吹き飛ばされるかもしれないのよ」

「あはは。その時はクルルに助けてもらいますよ。こうやって、ガシッ! っと」

「きゅきゅきゅっ♪」

「!! ……全く。クルルを盾に使うとか、度し難いにも程があるのよ」

 

 

ベアトリスとそう会話をした後、ツカサは禁書庫の扉を開く。

これは気遣いなのだろう。ベアトリスはツカサがロズワールから借りている部屋へと扉渡りで繋げてくれていた。

 

少し、スバルの部屋と距離はあるが、襲撃者がいたりすれば、感知する事は容易。

 

 

 

ツカサとスバル。

偶然にも2人とも、優しさに触れる事が出来た。ベアトリスとエミリアそれぞれの優しさに。

 

2人して、俄然やる気が漲ると言うモノだ。

 

 

 

 

 

 

「………さて、鬼が出るか蛇が出るか(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

ある意味、これは決戦の時……である。

 

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