Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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地獄の扉

「呪術師……。やっぱり、そう言う系統の使い手が直ぐ傍に居るって事か」

 

 

アーラム村で一息いれているツカサ。

 

考えているのは、恐らくはスバルの命を奪った元凶、その使い手について。

最初の死に戻りの時は、スバル曰く《死の気配が全くしなかった》との事だ。

 

眠っている間に、対象に気付かれずに命を奪う方法――――……パックに聞いた所、呪術の存在を教えて貰った。

 

 

あまりにも性質が悪い系統。

対象を病魔で侵したり、行動を禁じたり、そして命を奪う等、効果は多岐にわたる。

 

パック曰く、本来発動した呪術を防ぐ術はないらしく、発動したら最後らしい。

それでも、命を繋ぐ事が出来たのは…… やっぱりクルルのおかげの様だ。パックと話をしている際の、胸を張る所作は、何処となく、アイツが出てきてる様な気がして、少々鼻につく所はあったものの、自身の持つ感情は一先ず後回しだ。

 

 

「(容疑者を絞る必要がある。呪術発動の条件は対象との接触。オレは呪われたりしてないから、きっとこの村………その、可能性としては低いと思う。……思う、んだけど………っ)」

 

 

考えたくはない。それでも考えなければならない。

たった4日間を繰り返しているだけだが、何度繰り返しても変わらない。この村はとても良い所だ。

よそ者である自分を直ぐに受け入れてくれて、良くしてくれている。片田舎と呼ばれてるそうだが、どんな都会でも……王都にも負けてない温かさがここにはある。

 

そんな所を……疑わなくてはならないのは心苦しい。

 

 

――――だが、自分の感情を優先して疎かにするワケにはいかない。

 

 

あくまで、ツカサの村に対する感想だ。

第一印象だけで、全てを決める訳にはいかないから。

 

 

「(やっぱり、子供らの事も疑わなきゃなのは、正直キツイ……)」

 

 

接触と言うのなら、村一番の濃厚接触者は間違いなく子供達。1日10度くらいは接触をしているから。

 

今日も今日とて、村の子供達の玩具にされて、一頻り皆で空中散歩を楽しんだ後は、親の反対を押し切っての高高度要求された。

勿論、安全第一。

暮らしていく予定の村の人達の身に自分が原因での怪我とかさせてしまうとか、全く笑えない。絵面は、ギャグの様に見えるかもしれないが、大怪我するかもしれないのは、基本的に却下。

特別扱い無し、全員平等。村娘の1人で一番マセている少女ペトラが色目を使ってくると言う背伸び感満載なお願いをしてきたが、心を鬼に、である。

それに、今日は 陽日と冥日の二部構成。いつもより長く遊べるから、と言う点で何とか子供達を窘めた。

 

 

「接触、接触………っと、それと()、か」

 

 

村の次にツカサは、鬼の事を思う。

 

勿論、鬼と言うのは ロズワール邸の姉妹の事だ。

読心術は持ち得ないが、それでもある程度の成果は得たと思いたい。

 

願いを言う時、屋敷でご飯を相伴―――以外に、その礼としてエミリアに協力する、領主ロズワールにも勿論協力する旨を伝えた所、大いに喜んで見せていた。

道化の化粧が歪んで見える気がして、少々圧倒された気がしたが、あの歓喜は裏も表も無い、と信じておきたい。

 

加えて、当然ながら鬼姉妹……ラムとレムの両手。片方は夫々がロズワールで埋まっており、もう片方が互いの姉妹。その2人の両手で塞がっている状態。

 

そんな相手から信頼される様なら、必然的に表向きは ラムやレムの評価も上昇傾向になるだろう。

 

少なくとも、領主の意に沿わない行動は慎む、と思いたい。

 

 

 

「ツカサ――!! お昼! お空! 飛ぶ時間~~! 約束っ!」

「次は朝のときより、もっと高く上げてっっ!」

「良い天気でよかったーーー!」

「トリより早く飛ぶっっ!」

 

 

 

色々と考える事が多過ぎて、どうやら 大分時間が立っていた様だ。

勢いよくツカサが借りている部屋の扉が開かれ、子供達が文字通り飛び込んできた。

 

 

「そろそろノックする事を覚えて欲しいかな~?」

「「「「お空~~!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロズワール邸

 

ベアトリスの守護を約束させたスバルだが、そのまま引きこもってる……と言う訳ではない。今回は 屋敷と村、呪術師の正体を見極める為に、村へは行かない様にしている。

雇われた身であれば、下男として買い出しイベントは必須だが、その辺も食客ポジションなのが幸いした。

 

因みに禁書庫にいつでも来て良い、出るのもスバルの自由になっているので、ベアトリスこそ、現在は幸いと言える。

 

 

 

「細かくは聞けてないけど、兎に角ベアトリスと仲良くなれたのは、すごーく良い事。感心感心」

「仲良くなれたつーか、余計に嫌悪されちゃったつーか……。ベア子に何度かぶっ飛ばされちゃってるから、ちょ~~っと エミリアたんに慰めて貰いたいなぁ~……って」

「はいはい。そうやって茶化せる間は大丈夫。それに、ラムとレムも初日の事、気にしていたから、2人とも仲良くなってくれると嬉しいかな?」

「え、エミリアたんが喜ぶ事なら何でも! と言いたいんだけど、ハードル高過ぎて、飛ぶ前から躊躇ってる段階で……」

 

 

現在、エミリアとスバルは庭園で2人きり。

スバルにとっての1番がエミリアである事は変わりないし、当然エミリアの事も信用しているし信頼もしている。

だから、逆に信頼と信用を勝ち得たい所ではあるのだが、流石に悪夢が尾を引いているので、あの鬼姉妹と仲良くなる未来は望めない。

 

せめて、呪術師との関連性は無し、と言う太鼓判を頂けたのなら、スバルの軽口スキルでより接近は出来そうだと思う……。だが、それは まだラムに対してのみであり、モーニングスターを手に頭を潰そうとしてきたレム相手には正直難しいと言うのが心情。

 

 

「ラムもレムも良い子よ。これは本当だから」

「………うん。解ってる。オレも………解ってるんだ。……解ったんだ」

 

 

エミリアの言葉に、スバルは少し歯を喰いしばった。

命を狙われた側が、狙う側を擁護するのは非常に難しい事だが……、スバルは解っているし、もう知ったのだ。

 

ただの殺人鬼ならどれだけ楽だったことか。………ただ、レムはラムの為に、ラムはレムの為に、だから。

 

スバルを襲った動機。それは間違いなく冤罪。

スバルは無罪。証明は難しいのかもしれないが、断言はできる。だから、一方的に命を奪いに来た鬼の方に問題がある……と言えるのだが、彼女を知れば、客観的に見れば…… 当事者でさえなければ感情移入だって出来る。

 

故郷を、両親を、そして大切な姉を……。

 

そんな一味と同じ性質、同じ匂いを発する男が突然やって来たとなれば、当然憤慨し警戒もするだろう。

レム自身の立場もあるから表立っては無理だったかもしれないが、今思えばスバルの匂いを察知した瞬間に、あの鉄球が飛んできたとしても不思議じゃない。

 

魔女の残り香だけでなく、更に加えて、メイザース家に、……エミリアに取り入ったと言う事実も拍車をかけるだろう。

 

エミリアは、ハーフエルフ。魔女教が崇拝する嫉妬の魔女(サテラ)と同じ銀髪のハーフエルフ。これらの符号点も加えてみれば、よりスバルが魔女教と関わりがある男であると断言できる。……物的証拠はなく状況証拠だけではあるが、それだけで十分だ。

 

 

確証を得る為に、時間をかけてしまえば……、全てが血に染まってしまうから。

疑わしきは罰せよ。それは、例え違ったとしても、本当だった時の事を考えたら……、魔女教が齎す不幸を鑑みれば妥当な判断なのだ。

 

そして、この場所に現れた理由の候補として、レムとラム、鬼族の生き残りを根絶やしにする為にやってきた、とも受け取られても不思議じゃない。

 

 

 

 

話し合った通り、容疑者を絞る事が出来たとしよう。

だが、そこから先どうすれば良いか、皆目見当がつかない。

 

 

スバルの身体から取る事が出来ない、消す事が出来ない残り香。

それは、目に見えず、常人には嗅ぎつける事も出来ない香り。

 

それを発しているから、数日後には撲殺か呪殺。この世から抹消。異世界生活終了……否、只管ループを繰り返す。

ツカサも、《死に戻り》の(ペナルティ)を受けてしまえば、文字通り見た通り死ぬような苦痛を味わってしまうのだ。

 

 

1人の命に2人分の運命が掛かってくる。

 

 

「どーすりゃいいの。……満員電車の痴漢冤罪も真っ青だ」

「ん? どうしたの?」

「いいや、なーんも。あ、そーだエミリアたん! 改めて言っとくけど、夜は……」

 

 

スバルは気を紛らわせる様に話題を変えつつ、重要な事をエミリアに伝える。

呪術師に関しては、未知の相手だ。

 

襲撃者が レム以外にもいないとも限らない現状で、エミリアに対して何か出来るとするなら、注意喚起くらいなもの。

初日も話しているから、もう二度目なのだが、それでも。

 

 

「解ってるわよ。しっかり部屋に鍵かけて、誰も入れない事」

「スバルが入ってきちゃうからね?」

「って、ちっがーう! 二度目は騙されねーぞ、パック!」

「えへへ、ちょっと安易だったかな? リアの事を真剣に気にして、案じてくれてるのは解るからね。僕にとっては好ましい事なんだ。……真剣にそこまで考えてくれる子。……リアは友達少ないからさ? こんな短時間に2人も出来て嬉しいよ」

「ちょっとパック! なんだかすごーく、私にとって不本意なお話しないで!」

 

 

この平和なやり取りをしながら、スバルは涙が出そうになるのを懸命に堪えていた。

 

心の底から安堵する。

この場に、ツカサもいてクルルと一緒になって笑ってくれてる未来を想像するだけで、心が弾む。

 

そんな未来をスバルは目指しているのだ。

そして、それは決して100%他力本願だけではない。

 

 

「いのちはだいじに、は基本中の基本! んでも、命くらいなら何回でも投げ出す覚悟は常に持つ!! その意気込みは大事!!」

「スバル? 命は1つしか無いから、何回も投げ出すとか、怖い、と言うより変な事言わないの。メッ」

「はーい、ごめんなさい! エミリアせんせー!」

 

 

必ずハッピーエンドで終わる。

そのことだけを考えて、最善の道を模索するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――4日目。

 

 

 

 

「レム。見回りご苦労様です」

「いえ。ツカサ君こそ。ロズワール様が使用人を代表し、改めてお礼を。……本当にありがとうございました」

「いやいや。オレも、あの村の一員、それに……屋敷の皆の友達でもありたいからね? ……出来る限りの事はするさ」

 

 

やはり、全く同じ道筋に、とはならないものだ。些細だが、確実に現れ続ける。

 

あの時こうしていたら? 

行動を変えたらどうなるか?

 

その決して確認する事が出来ない過去への疑問を、解決する事が出来るのが、この時間遡行と言う力なのだろう。

 

 

大きな事件。

3日目の魔獣騒動。

 

 

解決する事は出来た。でも、前回、前々回と4日目に村へとやってきたのは、レムとラムの2人だった。

だが、今回はレムが1人でやって来て、森の巡回をツカサと共に行った。

 

スバルの行動が……、いや 或いはツカサの発言の1つ1つが、僅かな差異を生むのではないだろうか?

 

色々興味は尽きないが、……スバルの死に戻り発動のリスクを考えたら、安易な記録(セーブ)はしない様にしているので、事細かな確認まではしようとは思わないが。

 

 

「……パックから聞いたけど、レムから見ても やっぱり この結界の解れって………」

「正直、確証はありませんが、大精霊様がそうおっしゃられるのなら、間違いないかと……」

「………そっか」

 

 

この結界の解れに関しては、ある程度調査をしてきたつもりだ。

村人で、おかしな行動をとってる者はいないかどうかを確認してきたが、それと言った気配は見つけれなかった。あの魔獣が細工をした、と言う方が可能性がありそうな気がする程だ。所詮は獣の知能だが……。

 

 

「………レム。今日、以前ロズワールさんにお願いした、ご相伴に与るのは良いかな?」

「! はい。ツカサ君の頼みは必ず聞く様にと仰せつかっております。レムも存分に腕を振るって応えようと思います」

 

 

即興にしては良い。

アプローチ法は前回とは違うが、エミリアに味方をする事、何でも協力する事を伝えている現状、限りなく自然に、違和感なく4日目の夜をロズワール邸で過ごす口実だと言えるだろう。

 

でも、だからと言って嘘をついてる訳ではない。

レムの料理が美味しい、と言うのも本当だから。

 

それに、こうやって笑顔で話を交わす事が出来たのは……、レムと1対1で交わす事が出来たのは僥倖だと言えるかも知れない。

 

このやり取りがあったお陰で……、今夜の襲撃は無いかもしれないし、或いはあったとしても、説得が出来る可能性が少しでも上がったかもしれないから。

 

 

 

 

「腹を空かせた子犬の様な顔をしているわよ、ツカサ」

「会うなり結構辛辣な一言だね……。ラム」

 

 

 

ツカサがロズワール邸に来る理由、最も可能性が高いのは……。

 

「確かに、ロズワールさんは、食事を一緒に、って約束してくれたけど、今回の訪問は 獣の騒動の報告だとは思わなかった?」

「そう? その顔を見たら、10割方レムの食事の方かと思ったわ」

「10割って……。まぁ、違うと言えばウソになるけどさ」

 

そう、先日の魔獣騒動の件。その報告がてら―――と言うのが真っ先に候補に挙がるのだが、ラムは迷う事なく、食事の方を言った。

……いや、よくよく考えてみると、ツカサありがとう、みたいな展開の会話を選ぶよりは、息を吐く様に毒を吐くラムだ。辛辣度合いが強い理由の方を選ぶと言うのはある意味普通の事なのかもしれない。

 

 

「おかえりなさい、レム。大丈夫だった?」

「はい。姉様。問題ありません」

 

 

ツカサとの会話を切り上げて、レムを気遣うラム。

何やら、左手から腕にかけてを気にしている様だが、レムは首を横に振っていた。

 

 

 

 

 

―――それが何を意味するのかは、後にそれが重要な場面であると言う事は、この時ツカサには知る由も無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高の食事を終え、最高の団欒を終え、改めてこの日常を取り戻す、と気合を胸に―――いざ、運命との対決へと、その扉を思いっきり開けたスバル。

 

 

「ってな訳で、本日! この本に囲まれたエミリアたんの次に癒し空間で、オールナイトしまーーす!! 参加者、兄弟&ナツキスバル&ベア子―――!! どんどん、ぱふぱふ~~~♪」

「来るなりわけわからん事、ほざくなかしら!!」

「ぼんばるでぃあっ!??」

 

 

開けた扉が繋がっていた場所は、勿論 禁書庫。

ロズワール邸の中で、ベアトリスやパック曰く1,2を争う程の安全な場所との事だ。

 

運命と対決する場面で、選んだ場所がこの禁書庫。

意気揚々と扉を開けて、中に入り、明らかに不快感&憤怒の表情を浮かべているベアトリスを無視して、両手を掲げてヴィクトリーポーズ。

 

そこで堪忍袋の緒が切れたのか、ベアトリスはその小さな身体をめいっぱい使った跳び蹴りをスバルにプレゼント。

鳩尾に突き刺さり、そのまま床にダイブしたのである。

 

 

「あはは……。すみません、ベアトリスさん。ほら、クルル」

「きゅきゅ!」

 

 

後から遅れて入ってきたのはツカサ。

その右肩にはクルルが乗っており、ツカサが指示すると 右肩から飛び降りてベアトリスの胸の中に飛び込んだ。

 

明らかに怒った表情だったのだが、あっと言う間に消えて、クルルを両手を広げて迎え入れる。

 

 

「ふんっ、ベティーは優しいから、このくらいでカンベンしてやるのよ」

「きゅ~‼ きゅきゅっ‼」

「良いのよ。クルルはいつでも大歓迎かしら」

 

 

パックに匹敵―――とまでは言わないが、相応の愛情表現をしながら、クルルと戯れてるベアトリス。先ほどの見事な跳び蹴りが嘘の様だ。

 

 

「ほら、スバル。良い気付けになったんじゃない?」

「ててて……、あんのドリル……。ちっとは手加減、って事を覚えてほしいぜ、全く」

「何言ってんの。……気合を入れて貰うつもりでやった、ってバレバレだったよ」

「…………うぐっ」

 

 

怖いのは間違いない。

ツカサと違って、スバルには抗うだけの能力を持ち合わせていないから、当然と言えば当然。レムにもラムにも、ベアトリスにも誰にも敵わない。1秒でやられてしまう自信がある。

 

―――だが。

 

 

「乗り切りてぇよ。今度こそ。……運命様はどうしても、オレに苦行を与えたいみてーだからな」

 

 

真剣な顔で拳をぎゅっ、と握り締める。

先ほどまでの賑やかさは完全に息を潜め、決意と覚悟を漲らせ、恐怖を抑え込もうとしている。

 

……少々肩に力が入り過ぎの様に思えたが、それくらいが丁度良い。

 

 

「じゃあ、待ってる間、オレは本読んで勉強でもしようかな」

「軽いなっ!? オレの決意表明、眼前で訊いたのに!?」

「まぁ、力み過ぎない様に、って事だよ。……やるべき時にやる事、自分に出来る事をしっかりやる。オレもスバルもそれしか出来ないんだから」

 

 

ベアトリスに許可を貰って、ツカサは読める範囲の本を探して読書タイム。

 

スバルも、苦言を呈してはいたが、良い具合に毒気抜かれた様だ。

同じくベアトリスに選んでもらった子供向けの童話、《イ文字》とイラストとで描かれている本を読むのだった。

 

 

 

 

読む、捲る、読む、捲る、読む、捲る………。

 

 

 

 

 

時間が立つのが早いのか、遅いのかが解らない。

 

直ぐ横で、頼りになる兄弟が、口は悪くとも護ってくれると約束してくれた凄まじい能力を持った幼女が居るのにも関わらず、あの時、死にかけた時の事が、魂に刻まれたもう既に消失した世界の記憶が頭の中を巡っている。

暑くもなく寒くもない筈なのに、汗が出て、舌先が乾き、心臓が高鳴る。

 

 

「(……大丈夫だ、大丈夫。……オレは、1人じゃねぇんだ)」

 

 

身体の震えが、明らかになってきたと自分で判断したら、スバルはその度に自身に言い聞かせ続けた。

1人じゃない、と言う事が、どれだけ嬉しくて、嬉しくて……、みっともなく涙を流す程だと思い出すかの様に。

 

 

自他共に求める単純な事が功を成したのか、それである程度は抑える事が出来ていた。

 

 

 

そして、気付けばクルルはベアトリスの髪を枕にして寝ている。

ベアトリスは、そんなクルルを起こさない様に細心の注意を払いつつ、本を見ている。

ツカサも同じく熟読中。もう既に2冊の本を読み上げており、机の上に重ねて置いている。

 

 

 

――――この時間はいつまで続くのか?

 

 

 

なるべく考えない様にしていた事がふと、スバルの頭を過ったその時だ。

 

 

「!」

 

読みかけの本をやや過剰に閉じて、音を鳴らせる。

 

 

「――――呼んでる」

 

 

そして、続いて書庫内にその呟きが響く。

 

 

「……気付いたのかしら?」

「クルルとオレはある程度繋がってますから。……間接的なので、はっきりとは解らないですが」

 

 

ベアトリスは、椅子から降りると指を振った。

それが扉渡りである事はツカサも知っている。

 

そして、スバルも解った。

 

何故なら、全方位に浮遊感に似た何かが身体を襲い、疲労感・吐き気・倦怠感、等々の症状が出てきて全身がだるくなり、崩れ落ちたから。何度か経験している。そして解るのは、当分は慣れる事は無いだろうと言う事。

 

 

 

「き、気付くってなんだ? 何をだよ?」

「ああ、いたのかしら。そういえば。忘れてたのよ」

「……目の前にいるのに、忘れるとか、ヒドイを通りこして呆れちまうよ」

 

 

 

何か尋常じゃない気配だけは察知出来た様だ。

いつものベアトリスなら、意図せずスバルに攻撃? 出来た様なモノなので、ある程度留飲下がった、と言わんばかりの表情を浮かべているのだが、そう言った気配は一切ない。

 

ベアトリスは扉の方へと視線を移し、そして肩に乗っていたクルルはツカサの方へと戻った。

それを確認すると同時に、ツカサも立ち上がる。

 

 

「……お前は別に来なくて別に良いのよ。ここに居れば安全かしら」

「兄弟には言わず、オレにだけ言うってのも、それはそれでどうなのよ。……皆で行くってんなら、オレだって行く。………行ってやる」

 

 

 

置いていかれるワケにはいかない、とスバルも、どうにか身体を起こして立ち上がった。

これまで何度も何度も潜ってきたこの不思議扉。

 

今は、まるで鬼が住まう焦熱の地獄に通じてる扉とさえ、錯覚して見えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――その先は、確かに地獄だった。

 

 

 

鬼が哭く(・・)——……そんな地獄。

 

 

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