Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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ラム

 

 

 

 

「それでツカサ。今後の事なんだけど」

 

 

 

傍から見れば……。

いや、ラムがしっかりと周囲を確認した上での行為? だったので、ツカサ以外の誰かが傍から見る事なんてあり得ない事ではある……が、取り合えず仮に〜とする。

仮に傍からラムを見れば目を見張る程の見事なまでの変わり身の速さだと驚くことだろう。

 

以前、スバルが《切替はやっっ》とラムの事を言っていたが、まさにその通り。

 

ほんのつい先ほど レムの件で感慨極まったラムの熱い抱擁を一心に受けた張本人であるツカサ自身もその通りだ、と スバルの言っていた事を思い返していて、ただ笑っていた。

 

 

「? どうかしたの?」

 

 

そんなツカサの様子を見て疑問に思ったのだろう、首を傾げるラム。

本当に解らないの? とツカサはまた笑いそうになる。

 

 

「いや、スバルの言う通り、切替早くて凄い、って思ってさ? ほんのついさっきまで、スバルの言葉を借りるなら、感動的な場面だったのに、もう元の様子に戻ってるから」

「当然よ。レムの事もそうだけれど、あまり悠長に構えてられる状況じゃないのだし、ツカサも十分ラムの抱擁を堪能したでしょう? この世の極楽を堪能出来たのだから、これ以上ない報酬だわ」

「それはそっか。……確かにそうだね。間違いないよ」

 

 

本当にいつも通り自信満々に胸を張るラム。

そう……いつも通りなんだ。いつものラム。

 

 

それが何よりもツカサにとっては嬉しかった。

 

 

ツカサの魂にまで刻まれた、と称した程のラムの慟哭。

 

鬼の咽び哭く姿。悲しみ……ありとあらゆる負の感情の全てを曝け出していると言っても良いあの姿。

 

巻き戻してやり直して、超える事が出来たのなら、それも良いかもしれないが、本当の意味で笑顔を取り戻す事が出来たのなら、これ以上言う事がない程だ。

 

 

「………はぁ」

 

 

そんなツカサの優しい笑みを見たラムはというと。

 

笑顔なツカサとは実に対照的な表情になった。それと同時に深いため息も出ている。

半ば呆れたように続けた言った。

 

 

「ツカサは少しバルスを見習った方が良いわ。――――そうすれば、女の本音(・・・・)を聞き出せたかもしれないのに」

 

 

ラムからすれば、密かに期待していた部分でもあった事柄だ。

これは嘗ての自分からすれば、考えられないような気持ちだが、今の自分もラムなのだと胸を張って言える。

ラムの本音……紛れもなく本心だと言う事。それを言葉にしてほしかった、と言う事。

 

 

ただ、思い通りにいかないのが少々遺憾だ。

 

 

そんなラムの心情を知ってか知らずか、ツカサはきょとんとしつつも笑みを崩さずに続ける。

 

 

「おやや、それは手厳しい指摘だね? ……だってスバルは良くも悪くもストレートだから。ある程度は自重するオレには、真似るのは荷が重いかもしれないよ」

 

 

スバルの様に自分に正直に、自分のままをさらけ出す生き方をするのも悪くないかもしれない……と思う反面、いやいや、それ以上に思うのは、もっともっと自重しなければならないだろう、と言う気持ち。

抗うだけの力を持ちえないのなら尚更だ。

スバルの場合、ある意味力を持っていると言えるかもしれないが、ツカサ自身限定ではた迷惑なので、より自重して欲しいと思う。

 

ラムは、ツカサの言葉を聞いて頷きつつ、手を軽く横にふる。

 

 

「それは当然よ。だから、少し(・・)とラムは言ったのよ。本当にほんの少し。あまりにもバルスに近付き過ぎる様なら、ラムが矯正するわ。力づくで」

 

 

何処から持ち出したのか? 恐らくはティーセットを運ぶ用のトレーでぶんぶん素振りを始めるラム。

 

どうやら、スバルに近付き過ぎる? 様な事があれば、あの銀一色で彩られた高級感満載なトレーで頭に一撃を受けるらしい。

 

 

非常に痛そうだ。硬度もそれなりに有りそうだし、何より角を使われたら凶悪。

実に攻撃的なメイドさんが居たものだ、とツカサはまた笑う。

 

 

 

「……だって、今のオレには、これでも十分過ぎる。十分、なんだ――……」

 

 

ツカサの笑顔が徐々に陰る。

 

 

「もう、あんなラムの姿は見たくないから」

「…………………」

 

 

あの悲劇が頭の中を過ったから。

 

スバルや自分に毒を吐くラムが良い。時折見せる笑顔や自信過剰、空回りしても自分を崩さないラムが良い。

 

 

そんなツカサの言葉を聞いて、少しだけラムは呆気にとられる。

そして、聞きたかった事の1つである確認をツカサにした。

 

 

「……ツカサは、何度、重ねて(・・・)きたの?」

「うん?」

 

 

ラムが聞きたかった事。

今のラムにとっては、屋敷5日目から初日に戻った。ツカサとの付き合いを王都の1件も含めれば、凡そ6日。約1週間。

 

だが、あの力を目の当たりにすれば解る。ツカサはそんなに短い訳が無い、と。

それだけ重ねて―――身体を傷つけてきたのだと。

 

他の誰でもない。自分達(ラムやレム)の為に。

 

 

※因みに、この時はスバルの存在をラムは脳裏から消去している。

 

 

 

「何度あの力を使ったの?」

「――――……この屋敷に来てからで言えば、3度、かな」

 

 

少しだけ迷ったが、結果的に(・・・・)戻った回数に関しては 嘘偽りなくラムに説明した。

一度はスバルの死に戻りも含まれているが、それも自分自身の力である事にして、ラムに伝えている。と言うより、そうしないと伝わらない。異常なまでに独占欲が強いと言うか、嫉妬が深すぎると言うか……、スバルを想っている存在は、他人の介入を早々赦しはしないだろう。

……ラムがその底が知れない闇に近付いたら、近付き過ぎたなら、正直笑えない。

 

 

「…………そう」

 

 

そして、ラムはまた少し考えた。

ツカサは、力を使った回数に関して、《この屋敷に来てから》と言ったのだ。

 

 

それは つまり、この屋敷に来る前にも使ったという事。……ラムにも心当たりがある。

突然苦しみだしたツカサの姿を見ている。

 

 

あの商人、オットーと共にエミリアの捜索をしたあの時に。何の前触れもなく、突然苦しみだしたのを覚えている。あの時は、ただの発作である事を告げられて、そう気にする事でも無かったのだが、今なら解る。

 

 

恐らくはエミリアを救うために奔走したのだと言う事が。

勿論、スバルの絡んでいる事は間違いないだろうが、自身の身を顧みず、ここまでの行動が出来るツカサと言う男の事を考えてみれば……一目瞭然。考えるまでも無い。

 

 

 

ラムは、ツカサから少し距離を取って、姿勢を正し 優雅にスカートを摘まんでお辞儀をした。

 

 

「ツカサ様」

「!」

 

 

突然敬称を変えた事に驚くツカサ。

普通に接して貰いたい、とお願いした筈だったし、何よりラムの性格上の話で、元に戻すとは思いにくかったから。

だからこそ、これが真剣な話である事が分かるとも言える。

 

事実、ラムの姿勢を見れば解る事だ。

 

お辞儀の後は両の手を胸元で握り、祈る様な所作で続けた。

 

 

「改めて感謝を。………我が主ロズワール・L・メイザース様と同等の感謝を貴方に。……そして私、ラムの全幅の信頼を。主と同等以上の感謝と信頼を貴方に……」

 

 

普通に接する事を求めたツカサだったが、今は別に良いと思う。

今はラムとツカサの2人切り。誰にもヘンな目で見られる事も無い。ラムの感覚はレムにも伝わっている様だから、悪い感情でないのだから問題ない筈だから。

 

 

《両手はもう塞がっている》

 

 

それはラムにもレムにも言われた言葉だ。

当然、姉妹同士で繋がる手と主ロズワールの手で塞がっているという事。

立ち入る隙は無いと思われていたモノだったが、信頼を勝ち得る事が出来た。

 

自分自身の力を打ち明けると言う、相応のリスクは背負ったものの、ラム相手ではリスクはリスクになり得ない。信頼すると言う事はそう言う事だ。

 

「ーーーーー本当に、無事で良かった」

 

レムを、そしてラムの心を救う事が出来たのだと、ツカサは改めて実感した。心を抉られるようなラムの悲痛な叫び。生気を喪ったレムの姿。

世界を巻き戻す事が出来るツカサとて、アレは無かったことにはならないし、してはならないと思っている。思っているからこそ、心の底から安堵する。

 

ツカサはもう一度笑うと、頭を下げたままのラムを、ベッドに座ったままの体勢で丁度良い高さにあるラムの頭を軽く撫でる。

ラムは何も言わず、されるがままの状態。

感極まったツカサは、撫でた後に軽く優しく、抱きしめるのだった。

 

 

 

ラムの表情はツカサからは見えない。だが、その顔はしっかりと赤く染まっている。

ツカサはそれ以上何も言わない。それでもラムにもはっきりと伝わった。ツカサの想いが、その温もりを通じてラムに伝わった。

 

 

 

ーー無事で、良かった。

 

 

 

何度思い返しては、その度に目頭が熱くなる。

 

抱き締めたツカサからは見えない様に、ラムは頬を染め、同時に一筋の涙を目から溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――ツカサはスバルと合流。

 

少々遅らせてしまったが、豪勢な朝食にも与る事が出来た。

あの日のレムの事を想えば、いつも以上に美味しく感じるのはきっと気のせいではない。

 

そんな感情が、表情に現れて、それが伝わった様で パックには笑われたが、それも良い気分だ。

 

 

 

「んじゃま、ロズワール邸1週間! 攻略スタートすっぜ、兄弟!」

「スバルが要なのは間違いないから。しっかり頑張ってよ、使用人見習いとしても」

「おおともさ! ラムちーが居る事に関しちゃ、でけーアドバンテージなのは間違いねーが、それに頼る事なくやってやるぜ!! んでもって、頑張ったご褒美をエミリアたんから……」

「……まーた、空回りし過ぎない様に、って言いたいトコではあるけど、エミリアさんになら、多少 強引気味に行く方が良いかもね。勿論 パックが許す範囲でだけど」

「よっしゃあ! エミリアたんのデート券もゲットして、誰もが幸せハッピーエンドだ!」

 

 

 

ラムに頼り過ぎてしまえば、レムがスバルに対して持つ印象が悪くなるのは当然。

全ては姉の為に、を掲げているので、現在もレムが言う魔女の匂いを漂わせているスバルが、それをすれば、殺意を育む事を手助けしてしまうも同義だ。

 

 

ツカサは、勿論再び村で住まわせてもらう事と、美味しい御飯を与れる事を約束してもらい、張り切って2人は二手に分かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロズワール邸初日の夜。

夜天に月が掛かる刻限、ロズワール邸最上階の執務室にて、密談は行われていた。

 

参加者は、ロズワールとラムの2人。

 

 

「そぉれでラム? 君の意見を聞きたい。まずは君から見たところの彼……スバル君の方の評価はどんなもんかな?」

「はい。―――彼、バルスは正直能力的には全然ダメです。使用人としての仕事ぶりは素人に毛が生えた程度でしかありません。向き不向きの対象にすら入らないのが実状かと」

 

 

一切の忖度無し。

 

痛烈な批判・評価はスバルだから―――と言う訳ではなく、これでも公平な目で見ているつもりだ。ラムは、素性を完璧に把握出来た訳ではないが、スバルに対しても、ある一定の信頼はしている。……ツカサと比べたら、文字通り天地の差が離れているのはご愛敬だが。

 

 

「うぅん、自分から働かせてほしい、と言い出したのに、それもまたどーぉにも不思議なモンだねーぇ。それを言えば、もう1人………村へと向かった彼の事もそーぉだけど」

 

 

朝食の時の事を思い返すロズワール。

村に住まわせて欲しいツカサと屋敷で働かせて欲しいスバル。

共通して言えるのが、2人ともが実に欲を欠いた願いだと言う事だ。

 

 

金銀財宝、願いは思いのまま。手の届く範囲にはなるだろうが、ある程度の願いは叶えられる。大精霊の後押しもあれば尚更様々な事に届く筈の願いが、こう使われるとは思いもしない、と言うのがロズワールの考えだ。

 

 

「どちらか、と言われれば、間違いなくツカサの方が優秀でしょう。王都でラムを助けてくれた事も合わせると」

「うんうん。……彼の事は、特に重要だーぁよ? ラム。最優先で信頼を勝ち得ないといけない。極めて重要だ」

 

 

スバルの話をしていた筈なのだが、ツカサの話に切り替わった途端、ロズワールの表情は引き締まる。

 

 

「―――まーぁさか、書自らが意思を持ったかの様に行動し記述した訳だーぁからね、彼がその源泉であると私は睨んでいる。――――しーぃかし、書自らが記述に無い事柄を、現象で示しだすとはねーぇ。私にとっては 或いは助かった(・・・・)、と受け取るべきかぁーな? ……恐らく 未知の存在であると書は彼を認めた。それが故の現象だ。……仮に、それを放置した結果……記述にズレへと繋がれば、その時点で、私は………」

 

 

そこまで言ってロズワールは口を閉じる。

やや、表情が強張り、その化粧で見え隠れしていた表情筋の皺が顕わになる程。

 

ラムは、黙ったままその表情をじっと見つめていた。

 

 

「……もう一度、言っておくよラム。この件はひどーぉく慎重に扱うべき問題だ。彼と彼……、ツカサ君とスバル君の繋がりも決して細ぉーいものじゃない様だーぁし? だから、くれぐれもレムが先走らない様、姉の君が注意しておくよーぅにね」

「はい」

 

 

最強のカードにもなり、最悪のカードにも成りうる存在である、と言う事をロズワールは本能的に理解していた。

まだ、確かに確証はない。彼の言う《書》には、明確には書かれていないのだから。

 

 

だが、これまでの事を思い返してみれば、あらゆる符号が1つの解を示している。

 

 

 

 

《大精霊のマナを戻す》

《剣聖を打ち負かす》

《白鯨を単独で撃退》

 

 

 

 

 

白鯨の件は裏が取れない噂の範疇だったので、ある程度の誇張表現が入っているのかもしれないが、その他2つは別だ。

大精霊パックに裏は取れてる上に、剣聖の本気の前での魔法の使用など、状況証拠的には揃いつつある。

 

だからこそ、極めて冷静に且つ慎重に扱わなければならない。

 

盤上の駒を、単独で全てをひっくり返しかねないのだから。

 

 

 

その後、ロズワールはラムを改めてみた。

 

 

「今が大事な時期であり、集大成が試される。――――時にラム」

「はい」

「二晩も空いたんだ。……随分と疼いていると思えていたんだーぁが、どうやら その心配は無い様だーぁね?」

「あ……、いえ、それは……。っ」

 

 

ラムは、自身の身体を見渡した。

ロズワールは知る由も無いが、ラムは精神面では体感で1週間既に過ごした身体だ。

あまりにも考える事が多く、怒涛の様に押し寄せてくるので、気にする暇が無かった、と言うのが正しいかもしれない。

 

あの5日目の朝――――全てを失い、命をも捨てる覚悟だったが故に、身体の事は二の次にしてしまった事が今の今までに繋がっている。

 

そして、今この瞬間に気付き、自身の身体を確認して驚いていた。

その表情はロズワールにも勿論伝わる。

 

 

「恐らくは無意識下、と言う事なのかーぁな? まぁ大精霊様にマナを供給できる彼だ。……それはつまり……出来る(・・・)と言う事。どういう理由かは、まだまだ解らないが、つまり、彼は君に十分気を掛けている、気に入っていると受け取っても良いかもねーぇ?」

「それは……、ラムにはまだ判断しかねます。まだ評するには、幾らか経過を見守るべき案件かと……」

 

 

 

 

 

まだ日は浅いが、恐らくは ラムの事を気に入っている、と取って良いとロズワールは判断した。

それは何よりも喜ばしい事だ。

 

何せ、朝食でも解る通り 本人は……あの2人は極端に無欲だから。

使える手、手段、そして付け入る手、その綻びは幾つあっても困るものではない。

 

 

 

「ラム。―――これまで以上に 大事な身体になると自覚するんだーぁよ? ……君1人のものではなーぁいんだからね」

「っ………はい」

 

 

 

 

ロズワールの言葉に、これまでの様に(・・・・・・・)心中穏やかではいられないラムだった。この耳に残る、頭に残る、……身体が覚えている温もり。それらを覚えてしまったから。……知ってしまったから。

 

様々な感情が入り乱れてしまうが、どうにか持ちこたえる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

―――いつか必ず訪れるであろう全ての決着の時(・・・・)を見据えながら。

 

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