死ぬなよ、絶対に死ぬなよ! ※コレは、フリではありません。   作:リゼロ良し

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王都の一日
ジャンケン


 

 

――――随分長く夢を見ていた気がする。

 

 

 

 

そう、白い世界(あの場所)の夢。

 

本来なら、そんな夢すら見る事は無い筈なのに、見ているという事は……、辛うじて覚えている事が、身体に、心に、魂にまで刻まれている事なのだろうと理解出来た。

 

 

 

もう少し長く夢を見ていたかった。

虚構と言う訳ではなく、実際にあった出来事。

ここに来る前の物だから、復習しておきたい気持ちだったのだけど、意識が不意に覚醒してしまう。

 

 

 

 

鼻腔を擽る良い香りが道しるべとなり瞼が開いた。

そして開くと同時にどこまでも高い青空が見える。そして、彼が身体を預けているのは……布だろうか? 寝心地は決して良くないが、即席で作り上げたにしては及第点だと言える。無論、彼が文句を言ったりする事は一切ないが。

 

 

これは、落ちていた自分を介抱してくれた証なのだから。

 

 

 

 

 

 

「本当なんですってば! 信じて下さいよ!!」

 

 

 

そして、妙に騒がしい声も耳に届く。

何やら騒がしい方向へと首を捻り、視線を向けると、焚火を囲って数名の男達が居た。その話題の中心に居るのが、見知った男。灰色の髪、に全体的に緑でコーディネイトされてる風貌。まだ表情ははっきり見ていないが、声色から察するに、歳は若い方だろうか。

少なくとも周りを囲っている、強面で、髭がよく似合ってる男達と比べたら。

 

 

「んでもなぁ? あそこに白鯨が現れた、って話は聞いてるし。ほんっと哀れで不幸体質で、弄られ男が1人、取り残されたかも、って話も聞いてちゃいたが……なぁ?」

「漸く積もりに積もった不幸の分、神懸かり的な奇跡を頂き、生還を果たした、としか……」

「「「うんうん」」」

 

 

「ちょーー! 間違ってない気もしますが、あまりにもヒドイですよ!! ほんとなんですって、彼が白鯨を、こうやって、どかーーーんっっ! って!!」

 

 

 

オットーが、手を翻して未だ眠っているであろう彼の方へと向けた。

 

 

「証拠に、白鯨の一部を見たでしょ!? アレ、素材として何かに……って思ってましたが、どうも 彼の攻撃をメチャクチャに喰らったせいか、ボロボロで……」

「う~~ん、メチャクチャでボロボロだからこそ、信じて貰えないんじゃねーか? それが白鯨の物だって。似た様な魔獣の一部ちぎって持ってきたかもしれねぇし。デカい事はデカいが、白鯨の一部! っていう割には、小せえぇよ」

「うぐぅっ、そ、それはそうかもしれませんが、ボクは商人として 信頼して頂ける様心掛けてきたつもりです! 仲間内でも勿論! これまでだって、そんな子供染みた嘘なんてついた事ないでしょう!?」

「あ、後 計算高くて、リアリスト。んでも 実の所性根は甘々で情に流されやすい、ってのも付け加えとけよ?」

 

 

オットーが身振り手振りで説明すればするほど、場には笑顔が溢れている。

オットー自身がそれなりに信頼されているからなのか、或いは……これもあの白鯨と呼ばれる巨大な生物が絡んでいるのかは解らないが、とりあえず ゆっくりと身体を起こした。

 

 

「あ!」

 

 

気配を感じたのか、オットーは目を覚ました彼の方へと駆け寄る。

 

 

「良かった! 目を覚ましたんですね! 大丈夫ですか!? その節は本当にありがとうございます!!」

 

 

ずいっ、と顔をめいっぱい近づけてお礼を言う。

寝ぼけた頭に良い気付け……と割とどうでも良い事を考えながら、周囲を見渡した。

 

霧に囲まれたあの時は確かに日の光は一切ない、つまり夜だった筈だ。

でも、今は青空。雲一つない晴天の空。

 

 

「すみません。一体、どれくらい眠ってましたか?」

 

 

軽く頭を振って、霞みがかる頭をはっきりと起こす。

オットーはそれを聞いて 少し考えると。

 

 

「正確には解りませんが、一晩、と言った所でしょうか。ボクも疲れ切っちゃって、寝てしまいましたから……」

「そう、ですか。……ぁぁ、なんにも把握できてない中でちょっとムチャし過ぎたかな……」

 

 

手をぎゅっ、と握っては開き、力の具合を確認する。

降り立った瞬間に即戦闘。当然の消耗と言えばそうだ。普通なら、真っ白(・・・)な筈なので、あの時点で命を落としていた事だろう。

いや、普通と言うなら、今までなら(・・・・・) 誰かの息子、若しくは娘として この世に生を受ける所から始まる筈だから、そもそもアレは普通じゃないのだ。

 

 

「すみません。昨日は 大丈夫でしたか? ちょっと加減とか解んなくて、色々暴走したと思うんです……、周囲に気に掛ける余裕も無くて。ほら、他に被害が出たり、とか……。見ての通り、オレは賠償能力なんて一切無い無一文でして……」

 

 

身体を色々と弄り、ポケットの部分を引っ張り出して、何にも無い事をアピール、そして項垂れた。

 

その返答を聞いて、仕草を見てぽかん、とするのはオットー。

それどころか、周囲の男達も同じだ。

 

 

オットーのトンデモ話は置いといて。兎も角真相は、オットーがたまたま自分の竜車に乗せただけ、行きがけの駄賃か何かを払い、乗せて貰っただけの間柄だ、と思っていたのだが、突拍子もない事を言い始めたのだ。

 

確かに、白鯨が暴れた地点は、見るも無残な光景が広がっていた。

 

大地は抉れ、街道の一部は完全に崩壊。

暫くは迂回しなければならないだろう。………そもそも、白鯨が現れたとなれば、暫くは警戒を強め、近辺に近づく事さえしない。遠回りになろうとも自分の安全安心、そして商品の無事が大切だから。

 

 

あの霧には注意を払っている、霧と共に白鯨は現れるから。

商人たちの間では注意事項の1つとしてしっかりと刻まれている。

 

オットーが生きた心地がしなかったと同じ様に、彼ら商人は 様々な所を行き来する商人たちは、白鯨の存在が何よりも恐ろしいから。

 

 

 

……それは兎も角、この目の前の寝ぼけた男は、まだ寝言を? と言う意見が大半だったのだが、驚く事にその顔は嘘をついてる様には見えないのだ。

 

 

「いやいやいや、あの白鯨を撃退してくれたんですよ!? あの何かスゴイので、霧を晴らしてくれたんです! 全てを吹き飛ばしてくれたんです! おかげで逃げる事が出来ました! 白鯨が出現した時点で 大きな被害は起こるものなんです。感謝こそしたとしても、迷惑だなんて一切ありません!」

「そう、ですか。良かった」

 

 

盛り上がってるオットーに、心底安心して胸を撫でおろしてる男。

何度も聞いては笑い飛ばしていたオットーの主張を、この場の誰もがもう一度、本人にもう一度聞いてみたい、と思ったのは共通認識。

 

 

 

 

 

「……なぁ、兄ちゃん。アンタ、マジで言ってんのか? あの白鯨(・・・・)を追い払ったって」

 

 

 

 

 

 

そして、最前列に居た男が、意を決して子供の妄言、夢物語を再度聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商人たちの伝達網広さ、そして広がる速度を侮る事無かれ。

 

様々な情報を色々な所から仕入れ続けている。

 

勝ち馬に乗る為に、時にはライバルを出し抜く為に。

その情報戦を制する事こそが、商人として成り上がれるか否かにかかっているとも言って良い。

 

だが、今回の情報は………半信半疑ながらも、他の商品の流通状況、今回の様な白鯨と言う厄災の情報等と同じ速度で一気に知れ渡った。

 

 

 

 

そう―――ルグニカ王国……王都の方でも。

 

 

 

 

白鯨関連の情報。

それもこれまでにない情報。はっきり言ってしまえば妄言と獲られて切って捨てられる様な情報内容だと言うのに、興味本位の噂話の様なモノが、尋常じゃない速度で広がる。

 

 

 

 

「………面白い事になってきたねーぇ。ひょっとして コレ(・・)の出所なのか……? この事を(・・・・)、なのか………?」

 

 

 

そして、所詮は戯言、とんだ妄想、と切って捨てる者が殆どな中で、決して無視をせず、注目する者たちも出てくる。

 

 

「―――白鯨を」

「こんなのムシムシ! って言っちゃっても良い気はするんだけどにゃ~……」

「その噂の出所……、特定するのは難しいか?」

「う~ん……、ちょ~っと時間を要するかな? クルシュちゃんの前に連れてこれたなら、簡単に真偽は確かめられそうだけど……、商人たちの間で広まった、ってだけだから」

「……ならば、アナスタシア・ホーシンの耳に入る方が早い、か」

 

 

笑い飛ばされる話が各所で僅かにだが確実に広がる。

まだ小さい種火、それは徐々に―――確実に、業火へと変わるかのよう。

 

 

 

「愉快な妄言。普段ならば、そのような妄言、わらわの耳に届く前に消え去るのが常。―――しかし、届いた。つまりはそう言う事」

「どーいう事なんスかねぇ? つか、なんでオレをここに?」

「暇じゃろう? アル。ふふふ……。少々付き合え」

「………ヘイヘイ。付き合った後 無理難題吹っ掛けられる様な気がしてならないわ……嫌な予感ってヤツ?」

 

 

 

 

 

 

「お嬢、お嬢! スゴイでしょーー! おもしろいでしょーー!? ミミ、久しぶりにお話で楽しんだーーー! すごーたのしんだーー!」

「そら おもろいよなぁ。フフフ。………血が騒ぐっていうのはこういう時に使うんやな。なんや、欲しいなぁ……。気になってまうわ。その真偽。……白鯨を退けたっていうソレ(・・)が……」

「白鯨の問題は見過ごせませんからね。火の無い所に煙は立ちません。事は商人の間で起こった出来事。ボクも注意しておきます。単なる噂話だけの可能性もありますが」

 

 

 

 

 

ただの夢物語、妄言、虚構、空言……普段なら そう笑い飛ばして明日には忘れる。

そんな類のモノである筈なのに、心に引っかかりを覚える者も居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その根源の者が今、王都へと近付こうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白鯨騒動より5日後。

 

 

 

 

「あァ! また負けた!」

「はい、これでオレの51戦51勝目です」

 

 

商人オットーが頭を抱えながら悶えていた。

 

丁度今、彼と勝負をしていたのだ。

何てことない単純な子供の遊びの様な勝負。その名も《ジャンケン》。

 

 

「うぅ……、どーしてですか!? 確率で言えば、えっと3割で勝ちを拾える筈なのに、どーして!!? その、《あいこ》を含めたら7割は負けない筈なのに!」

「えっと、それは オットーさんがジャンケン(コレ)での勝負(・・)、と言いましたので。やっぱり勝負には常に本気をです。子供相手ならまだしも、大人が相手なら全力を出してますよ」

「うぐぐぐ……、何かの加護? いや、まさかこれは イカサマ!?」

 

 

因みに以前の野営地にて。

 

色々と質問攻めだった。でも、あまりにも質問する人数が多過ぎて、順番にと言う話になった時、彼がジャンケンで決めればどうか? と提案をした。

 

だが、どうやら ジャンケンを知る者は1人もいなかった様なので、ほんの余興のつもりで、ジャンケンの簡単なルールと勝敗についてを説明した。

そうしたら 思いのほか大好評だった。

 

回数を重ねていくにつれて、質問の順番と言うより互いに相手の手の内を読み合う心理戦が白熱していき……彼への質問の順番を決めるのが目的だった筈なのに、すっかり逸れてしまったのである。

 

そして、暫く盛り上がった後、彼は手を上に掲げて一言。

 

 

『ジャンケンでは負け知らずの最強なんです。もし、オレに勝つ事が出来たなら、質問以外に何でも言う事聞く権利をさしあげますよ』

 

 

その一言は 更に盛り上がる結果にも繋がった。

聞きたい事や何でも言う事を聞くと言う事は、今後とも良い繋がりになるかもしれない、何なら護衛でもして貰えたりもする。

 

 

様々な思惑が渦巻いていたが……結果、彼にジャンケンで勝利出来た者は誰一人としていなかったのである。まさに最強の二の字に相応しい程の100人斬り状態だった。

 

 

 

そして今。彼はオットー・スーウェンと共に行動をしている。

まずは、オットーの仕事を済ませてもらい、その後 一番人が集まる場所……即ち、ルグニカ王国の王都へと向かってもらう手筈になっていた。

 

時折休憩を挟みながら、こうやってジャンケン勝負をオットーが挑んでくるのである。

 

 

「イカサマ……。まぁ 言い得て妙、ですね」

 

 

一瞬きょとん、としていたが 直ぐに笑顔になる。

その笑顔を見てオットーは

 

 

「うぅ、やっぱり! そりゃそーですよ! そうでもしないと、あの人数全員を撃退するなんて、確率的にあり得ないです!」

「ふっふっふ……。でも、それくらい見破るだけの目が無いと、目利きが無いといけないのでは? 商人としては」

「ふぐっ……、い、痛い所を突いてきますね……。でも、俄然やる気出ました! 勝つ、と言うより見破って見せます! このオットー・スーウェン、スーウェン家の名に賭けて!!

 

 

その後、商人として鍛えに鍛えてきた眼力(自称)で、オットーはどうにか見破ろうとしたが……それが叶う事は無かった。

 

 


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