Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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必ず突破する

 

 

 

 

 

「んで、例によってベア子!」

「何が、例によってか わからないのよ!!」

 

 

現在、スバルは業務時間外。

禁書庫にてベアトリスと交流中……である。

 

今回では、ベアトリスの守護は約束していないので、普通にベアトリスの機嫌を損ねれば、そのまま外へと吹き飛ばされてもおかしくないのだが、やはり ベアトリスは口は悪くとも根は優しい。

 

呪術師については、確かにまだまだ情報が少ないと言えばそうだが、粗方話し合いは出来ている。

ラムやスバル、そしてツカサと話した。

そして、今回はベアトリスとだ。

 

 

「いいじゃんいいじゃん、ベア子~~。ちゃ~~んと、見返り用意したよ?? 良いの良いの?? パックの何でも言う事聞く券だよ?? 不意にしちゃう?? 次はないかもだよ??」

「ぐぬぬぬぬ……、にーちゃが何でも……っっ」

 

 

これこそが 例によって、スバルはしっかりとベアトリスを懐柔している。

前回同様、何でも言う事を聞く、と約束してくれたパックを餌にして。

 

物凄くウザい絡み方をされてるベアトリスだったが、それ程までにパックが何でもしてくれる券は魔性の魅力があると言う事だろう。

 

 

「前にも聞いたけど、呪術師の事で追加で訊きてーんだ」

「はぁ? ベティーはお前に教えた事なんて、これまでに一度も無いのよ」

「あーー、ちがうちがう」

 

 

スバルは、ベアトリスの返答を聞いて、慌てて手を振って言い直す。

確かに、以前ベアトリス……、前の世界のベアトリスに質問をした事はスバルは覚えているが、この世界では関係ない。ループ物の難しさを、今まさに実感しているスバルだった。

 

 

「ベア子とオレは心で繋がってんだよ! だから、会話を重ねるまでもなく、想いが伝わるのさっ!」

「気色悪い事言うんじゃないかしら!? 腹立たしい上に胸糞悪いのよ!」

「HAHAHA! そう言うなよ~~、ベア子っ! ま、それはそれとして――――」

 

 

いい具合に揉み消せれた、と判断するスバル。

ベアトリス自身も、何やら誤魔化した様な気がしないでも無いが、時間遡行と言う規格外の能力があるなんて事は当然考えが及ぶワケでも無く、特に追及する事は無かった。――――と言うより、あまり自分から話を伸ばしたくない、と言うのが正直な気持ちだが。

 

幾ら、パックの件があったとしても。

 

 

 

「呪術ってのは、発動前なら解除……解呪したり、妨害したりできる。間違いないよな?」

「ふんっ! けったいな事聞くヤツなのよ。呪術の事を聞きたがるなんて、顔と目つきに現れてるかしら」

「顔と目つきは、しょーがねーだろ! とーちゃんかーちゃんから貰った大切なもんだ! 諦めてくれぃ! ……っとそれより、間違いないよな??」

 

 

 

何の脈絡もない言葉、求める解にベアトリスは訝しむけれど、そこに対しても特に追及する事はない。

 

 

「発動前は、ただの術式だから、出来る技術があれば解呪は可能なのよ。可能、と言うより簡単に出来るかしら」

「おおっ! 流石ベア子だ! そりゃ、ベア子だったら、よゆーのよっちゃんだよな!」

「……何か聞いたこと無い言葉なのに、古臭く感じたかしら」

 

 

ベアトリスの言葉が、ぐさっっ! とスバルに突き刺さる。まさかの射程外からの強攻撃にクリティカルヒットな気分だったが、重要な事なので、そこは深く追求しない。

 

 

「ベティーが出来るのは、当然として、この屋敷で言うなら にーちゃ、あとはロズワールと………、もう村に帰ったクルルもやってのけそうな気はするのよ。魔法に関してはクルルに依存してる面がありそうな、あの男は、多分単独では出来ないかもしれないかしら。それと経験が無さそうな小娘3人も無理かしら」

 

 

解呪出来るメンバーが、少なくとも3人屋敷に居る事は僥倖。

仮に自分―――若しくはレムが呪術に蝕まれたりしたのなら、助けれる可能性が大幅に上がる。

 

今回に関してはラムも事情を知ってるので、よりスムーズに、安全性が増す事だろう。

ただ―――……。

 

 

「(レムばっか見てて、オレの事知らねーー、ってならなければ、だけど……)」

 

 

ラムについて、絶対それは無い、と言えないのが怖い所なのである。

 

 

「よっしゃ! そんで、発動前の術式って事は前準備が居る。つまり、呪った相手、呪いたい相手に触る必要がある、って事で良いか??」

「知ってるのなら、なんでベティーに確認するのかしら? いちいち無駄な事聞くんじゃないのよ」

「再確認だって。ベアトリスからもお墨付き貰えれりゃ、オレにとっても自信になる」

「あんな性格悪い系統の魔法に関して自信もってどうするのよ。はぁ……。さっきの話だけど、対象者との接触は、必須条件かしら」

 

 

言質を取る事が出来た。

これもスバルの予定通りだ。

 

呪術に関しては前回でもしっかりと情報収集している。なのに今回もベアトリスに聞いた理由は、勿論他にある。

 

呪術について、その方法について話をしておけば、次に(・・)話す時にスムーズに事を進行できるからだ。

 

 

そう―――自分、若しくはレムが呪われた時、診て貰える相手を1人でも増やす為に。

 

 

「よっしゃ、んじゃあ 打ち合わせ通りに進めていきゃ、上手くいけば尻尾捕まえる事は出来る! 仮に出来なくても、スペシャリストがわんさか居るんなら問題なしだ! よっしゃ、今回でぜーーーったい決めてやるぜ!!」

 

 

スバルは大声を上げながらガッツポーズ。

今の話で、何をどうしたら、そう言う反応になるのか、全く理解が出来ないベアトリスは、ただただ呆れ果てた目でスバルを見て言う。

 

 

「全く。ほんと わけわからんヤツなのよ。兎も角 今の話が役立ったならお前からベティーに言うべき事があると思うのよ」

「! おうっっ! 勿論だぜ、ベア子! やっぱ、可愛い上に最高とか、どんだけ贅沢なんだよ~~、ベア子! 愛してるぜーー!」

「んなっっ!?」

 

 

スバルは飛び付き、脇の下に手を差しいれて、ベアトリスの見た通りな軽い体を持ち上げてくるくる、と回る。

豪奢なドレスを纏ってるから、服分の重量くらいは在るかと思えたが、本当に羽根の様に軽い。

 

 

「はなっ! ―――下ろすかしらっ!?」

「ははははは! 今なら空でも飛べそうだ! いやいや、いっそ一緒に飛ぶか、ベア子っ!」

 

 

 

想像以上に軽いベアトリスの身体。

ゴールが輪郭を帯びて、あの約束を果たせそうなスバルの気分高揚。

 

それらが相乗効果によって、回転の速度は倍率ドン、更に倍。

 

 

だが、いつまでもその暴挙を赦してやる程ベアトリスは優しくない。

 

 

「このっっ、お前1人で飛ぶがいいのよ!!」

「あんぶればっ!!」

 

 

いつも、部屋の外にまですっ飛ばされる魔法力を、そのまま叩きつけられた。

いや、冗談抜きで真下に叩きつけられでもすれば、骨の2~3本は余裕で折れてしまいそうなので、流石にそこは加減してくれた様だ。

 

地面に叩きつけられて、ぐわんぐわん、と回る視界。

 

 

「いてて……、ベア子~ 愛情の裏返しはきついぜ!」

「もっと強くやった方が良かったかしら!? 1回、頭叩き潰した方が良いのよ!」

「いやいや、1回で全部OUTだから! 頭潰されそうになるなんて、金輪際ごめん被りたいもんだ」

 

 

スバルの脳裏に過るのは、やはり あのレムの武器、モーニングスターだろう。

あの時、ツカサがいなければ、まず間違いなく頭をぐちゃっ、と良い具合に潰されてミンチにされてしまっていただろう事は容易に想像できるから。……したくはないが。

 

 

「そうやって調子に乗って気安く振舞うから痛い目を見るかしら! 頭潰されなかっただけ感謝してほしいのよ!」

「うーむ……、話しは変わるが―――」

 

 

眼下のスバルの声色の変化を感じたベアトリス。

その原因を知るのは、そう時間は掛からない。

 

 

「見たのは痛い目だけじゃなかったな。―――白かった」

 

 

スバルは現在 床に叩きつけられている状態。

そして、ベアトリスは 羽根の様に軽かった身体がそのまま宙で止まったままになってるので、必然的にスバルの丁度上にふよふよ~と浮いている状態。

 

そんな状態で、ドレス(・・・)を着ているベアトリスを見上げた日には……当然見える(・・・)

 

馬鹿正直に、見た光景の感想をベアトリス本人に言うスバルには、《流石》の一言を送ろう。

 

 

 

「―――!! 喰らうかしら!!」

 

「ばんばららっっ!?」

 

 

 

ベアトリスは、二射目を射出。

スバルのアゴを綺麗に打ち抜いて、書庫の奥へと打ち抜いてしこたま本棚に激突した。そのまま本がスバルに落ちてきて、一昔前のギャグマンガのお約束な状態になってしまう。

 

 

「見たのは事故、不可抗力とはいえ ベア子……、ナイス・ストライクだ……、と言いたいが、スマンスマン。やっぱ、ベア子は攻略対象外なんだ」

「わけわからん事ばかり喧しいのよ! 抱き着いたり、子供みたいに持ち上げたり、振り回したり、下着見たり、上っ面な愛の言葉ほざいたり、もうお前は全部腹立たしいのよ! 存在そのものが害悪かしら!」

「存在全否定は、悲し過ぎるから止めてくれよ! 前にラムにも言われたんだ! 結構くるんだぞー!?」

 

 

 

 

一際楽しそうに盛り上がり、だんだん頭から激突した痛み、本の雪崩を全身に受けた痛みが引き出した所で、スバルはもう1つ聞く。

 

 

これは、前回聞けてなかった事だ。

 

 

自分の身を護る事ばかり注視し、あの死の恐怖を振り切る様に只管今以上の道化を演じ続けたが為に、聞き逃した事柄。

気軽に聞くのは中々ハードルが高い事柄。

 

 

「………魔女の残り香。なぁ、魔女って知ってるか? 一体なんだってんだ?」

「――――!? 呪いの次は魔女。ほんと、お前の頭の中どうなってるのかしら」

 

 

毒づきながらも、ベアトリスはもったいぶる事なく、続ける。

 

 

「この世界で魔女と言う言葉が示すのは、たった1つの存在だけなのよ。……世界を飲み干すモノ。影の城の女王。―――嫉妬の魔女」

 

 

ふいに呟かれた言葉。

心の奥にまで届くかの様だ。

 

いや、或いは心臓を――――……。

 

 

「口に出す事すら禁忌とされた存在かしら。誰もが怖れ、誰もが畏怖し、誰もが彼女に逆らえない。……寧ろ、お前が知らない方がおかしい話なのよ。この世界では親の名前、家族の名前の次に魔女の名前を知らされるぐらいなのよ」

「…………」

 

 

また(・・)————だった。

 

意識してしまったからか、或いは嫉妬(・・)と言う言葉を聞いたからなのか。

 

初めて、自分の中に存在するナニカ(・・・)に触れた時、クルルモドキが似た様に表現をしていたから。誰にも知られたくない。独り占めしたい。他に目移りしてほしくない。

 

――……その嫉妬は、夜の闇よりも遥かに深い。

 

 

 

「嫉妬の魔女《サテラ》。―――かつて、存在した大罪の名を冠する6人の魔女を全て喰らい、世界の半分を滅ぼした、最悪の厄災なのよ」

 

 

 

深い深い闇が、心臓を潰そうとしてきている。

深い深い闇が、死ぬことを拒絶する。

 

 

 

 

相反する二つの行為が、更に精神を歪ませてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたに死んでほしくない―――――でも

他の誰にも、知って欲しくない―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!?」

「? どうしたのよ?」

「い、いや、何でもない。……サテラ、か。確かエミリアに……」

「……ふん。半魔の小娘に、その名を使わない方が賢明かしら」

 

 

ベアトリスはそう言うと、嫉妬の魔女サテラについて、その内容を続けた。

 

 

 

 

「嫉妬の魔女。―――サテラは いわく 夜を支配していた。いわく、人の言葉が通じない。いわく、この世の全てを妬んでいた。いわく、その顔を見て生き残れた者はいない。いわく、その身は永遠に朽ちず、衰えず、果てることがない。いわく、竜と英雄と賢者の力を持って封印させられしも、その身を滅ぼす事は叶わず―――」

 

 

 

規格外。一言で言えばそんな存在。

まさに御伽噺の中に存在する悪の大魔王。

 

だが、この世界ででは、それは空想の話ではない。ただの物語ではない。

実在した厄災。

 

恐らく、この身に存在するナニカ(・・・)も…………。

 

 

 

そして、最後にベアトリスが言った言葉の意味を、スバルは理解する。

 

 

 

 

「―――その身は、銀髪のハーフエルフであった」

 

 

 

 

エミリアの容姿は 世界が恐怖する嫉妬の魔女と同じだと言うことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他にも色々と確認したい事がある。

色々と話しをしてみたい事がある。

 

だが、悠長に時間がとれるか? と問われれば首を横に振るしかない。

 

やらなければならない事が溜まっているから。

無駄にして良い時間は無いから。

 

 

やらなければならない事もはっきりと解っている。

 

故に目標を定めたら、前進あるのみ。

 

 

 

 

「それにしても、随分と今日は早く仕事が終わりましたね」

「バルスが気味が悪いくらい冴え渡ってたのよ」

「ははっ、オレの潜在能力が開花しただけの事さ!」

 

 

 

スバルは全身全霊を持って、仕事を終わらせた。

前の様に倒れる様な無様は晒さない様に、しっかりとセーブしつつ、最善にして最短で仕事を終わらせたのである。

 

 

「レムレム。きっと、ツカサの村での働きに感化されたみたいよ」

「姉様姉様。ツカサ君の魔獣数体討伐とスバル君の仕事内容とでは、比べるのも烏滸がましくなる程では?」

「レムレム。バルスとかいて身の程知らずと読むそうよ」

 

「!!!! た、確かに兄弟はスゲーーけどさ! そんな兄弟もったオレっちのプレッシャー半端ねーけどさっっ!!」

 

 

何度聞いても、ツカサはやはり凄い。

だから、自分も―――と言う気持ちになったのだって嘘ではないけれど、流石にストレートにラムにそう言われてしまえば、色々と潰されてしまう。

 

だが、潰れるワケにはいかない。もう村は目と鼻の先だから。

 

 

「あ、ラム様とレム様だー!」

「知らないヤツもいるぞー!」

「解った! ツカサが言ってたバルルだ! ほら、全力で遊んで良いって言ってた!!」

 

 

子供達の歓迎? から始まるのも同じ。

そして、ツカサは、別の仕事があった筈だから、遅れてやってくるのも同じだ。

 

 

変わってない。

ここも同じ。

 

 

「とりゃーーー!」

「ルンバ―――!」

「あそぼーーー!」

 

 

「お前らは、ほんと時空を超えてオレに絡みに来るな? もう、何度言ったかわかんねーけど、ス・バ・ルな。目潰しの次は、世の家事担当奥様方にに人気な某自動掃除ロボの名前になってんぞ」

 

 

 

スバルは軽口をたたきながらも、《ミッションスタート!》と頭の中で掛け声と共に、子供達の群れに向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラムとレム、来てたんだ」

「今日もお疲れ様です、ツカサ君。村と結界を見て回ってたと聞いてます。ロズワール様に代わり、感謝を」

「今日もお疲れ様、ツカサ。あまり差を見せすぎるとバルスがより惨めになるから気を付けた方がいいかもしれないわ」

 

 

村仕事を終えたツカサは、まずレムとラムと合流を果たす。

 

これも通常通りだ。ややラムの発言が変わってきたような気がするが……、些細な差異である、と特にツカサは気にせず。

 

 

「あははは……。手を抜け、って事になりそうだから 流石にそれは善処出来ないって。それはそうと、スバルは?」

「今スバル君は自由時間と言う事で、村を見て回ってますよ」

「もうそろそろ自由時間も終わりだから、見つけたら連れてくるわ」

 

 

ラムがレムから離れて、ツカサとレムの2人になる。

 

 

「それで、スバルは屋敷の方では頑張ってる? 4日前は思いっきり啖呵切ってくれたけど」

「はい。スバル君は掃除をやらせれば、花瓶を割り、洗い物をさせればお皿を割り、お裁縫の腕は満点ですが、その後 張り切って屋敷中動き回ったかと思えば、身体を痛めて丸1日休みをしたりして、頑張ってくれてますよ」

「………それ、絶対褒めてないよね? はは……そりゃ教える側は大変だ」

 

 

使用人歴の差と言うモノはあるだろうから、レムと比べるのはあまりにも早過ぎるのは当然。

スバル自身も、3度目の周回。つまり、まだまだ働き出して1ヶ月にも満たないし、この世界線においては、まだ4日目。評価するとしても時期尚早だと言えるだろう。

 

 

「でも、真面目に真剣に頑張ってくれてる、と言う部分に関しては、エミリア様も姉様も高く評価しています」

 

 

結果がまだまだ伴わなくても、その働く姿勢は評価できるとの事。

ラムは兎も角、エミリアがそう評価したと言うのであれば、失敗をしたとしても恐れず諦めず、愚直に懸命に前を向いて働き続けているのがよく解った。

 

 

「それで、レムから見て スバルはどうかな?」

「……………私は……、私も勿論、姉様と同意見です」

 

 

 

レムの事をそれなりに観察をするが……、今の所 レムに殺意の類は無いような気がする。

―――ラムやエミリアだけでは無い。明確であるとは言えないが、レムにも信頼してもらおうと頑張ったんだろう。

 

 

 

 

「オレもスバルと出会って、まだほんの数日だけどさ? あの時のスバルの姿は見てる。……自分の命を投げ出してまで、誰かを助けようとする姿勢は、誰にでも出来るワケじゃない、って思ってるんだ」

「………はい」

 

 

ツカサが言っている言葉の意味はレムにも解る。

あの王都での襲撃事件で身を挺してエミリアを守った事についてだろう。

 

 

「――スバルはいい男だよ。(……だからこそ、オレだって助けたい、って思うんだろうな)」

 

 

スバルにとってどうしようもない魔女の残り香と言う代物を、レムにとっての巨悪の根源であもある それを、その根拠を取り除けない以上、周りから説得し、固めていかなければならない。

 

 

恐らくラムもエミリアも屋敷でしてくれている事だろう。

 

 

続いてツカサ自身もそう評価したとするなら、レムの中でのスバルの認識が、もう少し和らぐかもしれない、と言う打算的な考えもツカサの中ではあった。

 

 

だが、打算的な考えは持っていても、良い男、良い人間であると言うのは 殆ど本心。

時折雑な扱い! と称される事もあるが、早い話悪い人間だったのなら、封印する方向性に舵を切ったとしても何ら不思議ではないから。

 

 

そんなツカサのスバルへの評価に対して、レムはと言うと。

 

 

「…………ツカサ君は、男色家の方でしょうか?」

 

 

中々に想定外な反応を見せてくれた。

思わずこけそうになるが、どうにか堪えるツカサ。

 

 

「―――何だか、その不穏な問いは前にも聞いたような気がするけど、そこは断固否定しておくね。違います」

「そうですか。申し訳ありません。良い男、と聞いてレムは不覚にも連想させてしまいました」

「同性愛者じゃなくて、ちゃんと女の人が好きです。………まぁ、スバルみたいに真っ直ぐ、愚直に、誰かを追いかけようとする姿を自分に出来るか? って問われれば………中々想像しにくいけどね。何せ自分の事さえよく解ってないのに」

 

 

苦笑いをするツカサ。

レムは、そんなツカサを見て、やや驚いたような表情を見せつつ―――思い出した。

 

あまりにも言動や行動と今のツカサの状態とが一致しない事が多いから。

 

そう、ツカサは記憶障害を抱えている男だ。

王都に来る前の記憶が完全に欠落しているとの事。

 

身分を調べて貰って構わない、と言う発言と 剣聖との繋がりがある事も含めたら、それが真実である事は容易に連想する事が出来る。

 

 

「申し訳ありません。レムは失念していました。……ツカサ君は、過去の記憶が……思い出せないんですよね」

「ん。……そうだね」

「……こんな事を聞くのは、大変失礼で、無神経な事かもしれませんが…………」

「大丈夫だよ。何でも聞いて」

 

 

レムの表情が少し沈む……が、直ぐにツカサの方をはっきりと見据えて聞いた。

ツカサは、数ある内の1つを、未来()を見てきたから、レムの心情、言わんとする事を事前に把握する事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

「過去を………、思い出したい、と思っていますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レムにとっての過去。

 

―――それは苦痛以外のなんでもない代物。

 

 

例え目を瞑っていても無理矢理砂を捻じ込まれる様に、息をしていても内側から焼かれる様に、その苦悩は、苦しみは癒える事はない。

 

その元凶に近しいかもしれない者が直ぐ傍に居る事自体も、記憶を無理矢理に呼び起こされてしまうレムにとっては苦痛で苦悩の日々だった事だろう。

 

 

 

「記憶………か」

 

 

 

ツカサは、魔女教以上の話は聞いてはいないが、その他にも何かある―――程度には感じていた。

恐らくラムとレムの間に、この仲睦まじい姉妹の間柄に、2人を分け隔てる事は無いにしても、深くに絡みついて離れない(ナニカ)が。

 

 

「過去何があったか解らないのは、正直苦悩の要因でもあるし、少なからず葛藤だってあったから、思い出せるのなら―――思い出さなきゃならない、とは思ってるよ。だから、思い出したい(・・・・・・)とは少し違うかもね?」

「………そう、ですか」

「それと―――」

 

 

レムにとっての過去とは、辛く苦しいものだと言う事は解ってる。

だからこそ、取り繕ったものではなく、誠実に真摯に応えなければならない、ともツカサは思うのだ。

 

 

「本当の意味では、過去には戻れない(・・・・・・・・)んだから。……過去より、今を、ここから先を大切にしたい」

 

 

時間遡行(セーブ&ロード)が出来る自分だが、そこまで万能ではない。

任意の次元にしか飛べないし、例外と思いたいが、スバルの様な能力で破壊されないとも限らない。おまけに自分には極大ダメージ付きとくれば尚更。

 

 

今回はたまたま運が良かったに過ぎないのだ。

 

 

だからこそ、ツカサには 失敗しても戻れるから、と言う慢心は一切無い。例え前回の様に戻れる世界だったとしても、安易に戻らない。出来る限りを全力でする。……もう、今しかない、後がない、と言う気概を持っているから。

 

 

ツカサは、レムの方に手を差しだした。

 

 

 

「こうやって今、手を伸ばして、自分の手で届くのなら……出来る限り応えたい。それがオレの答えかな。例え、過去にどんな事があったとしても、これまで関わってきた皆が嘘になったりはしないと思うからさ」

「………!」

 

 

 

レムには、そのツカサの何処か暖かな笑みは、少なからずつもり続けている憎しみを、憎悪を、洗い流してくれるような、感じがした。

 

 

この人は、こうやって皆の手を取って、全力で戦ってくれるのだ。

何故そのような事が出来るのかは解らない。記憶がない事も関係しているのだろうか? と幾らか想像する事は出来るが、それは無意味だと言う事も解る。

 

この人だから―――と言う答えが一番しっくりくるから。

 

 

伸ばされた手に、無意識に掴もうと手を伸ばしかけたその時だ。

 

 

 

「ラムの可愛い妹に、一体何をしようとしてるの? ツカサ」

「痛っっ」

 

 

いつの間にか、戻ってきていたラム。いつの間にか接近されていたラムに、思いっきり脇腹を抓られた。

 

 

「姉様! スバル君の方は?」

「バルスなら村人集めて余興した後、子供達に連れられて行ったわ」

「ラムラム、痛い痛い! 何だかドンドン力強くなってってる!」

 

 

ぎゅ~~っと抓られる。

離してくれる気配が見えないので、痛みが継続。何なら増してる様な気もする。

 

 

「可愛らしいレムに手を出そうとしたのだから、当然でしょ。可愛い妹に欲情するなんて、見損なったわツカサ!」

「いたたたたっっ、ほんと痛い、そんな事してないって!」

 

 

ラムの姿を見て。

最愛の姉の姿を見て、レムは思う。

 

ツカサの脇腹を抓るラムの表情は何処か赤みを帯びている。

今まで見た事の無い姉の姿だ。……ロズワールと一緒に居る所でも、表情が柔らかくなる事はあるが、あんな風に……楽しそうにするラムの姿を見るのは、本当に……久しぶりで……。

 

 

「ツカサ君ツカサ君」

「……痛い……。ん?」

 

 

まだ離してくれそうに無いラムから、レムの方に視線を移すと、レムは晴れやかに笑って言った。

 

 

 

 

「とても可愛らしい姉様を見せて頂いて、ありがとうございます!」

「?? それってどういう……?」

「! 何言ってるのよ、ラムは常に可愛らしい姉でしょ!」

 

 

 

 

 

何処か慌てているラムも心底愛らしい。

男色家じゃなくて良かった、とレムは思う。

 

とても楽しそうな姉の為にも。

 

その後も暫く笑い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――今回で突破する。必ず。

 

 

 

その後、スバルとも合流を果たし、互いに突破すると気合を入れ合った。

スバルの方にも、今回の策がある様で自信満々な様だ。

 

 

前回は、ツカサとクルルの力で呪術を抑えてくれていたが、今回は違う。

 

 

「てなワケで。今回はツカサには村に居て貰いたい。……オレがバッチリ裏を取ったら、村に戻ってくっから、そこで一発ぶちかまそうぜ!」

「ん。了解。……確かに、この村に呪術を使うヤツが居る可能性が高いのは間違いないよな……。それに今までは屋敷にいた」

 

 

 

 

屋敷でレムと戦った。

屋敷でレムが死に、ラムやロズワールと対峙をした。

 

 

 

屋敷を中心に色々な騒動が起こってる様に見えるが、元凶がアーラム村に居るとするなら、この村の方が危ないとさえ思う。

 

 

 

 

呪術の回避に関しては、ツカサがいなくとも、スバルにはかなり自信がある様だ。

加えて、今回はラムが居るので、レムが暴走する様な事は……多分(・・)起こらないだろう。―――無いとまでは言わないが……その辺りもスバルは大丈夫だと言い切った。

 

 

「スバルに言えるのは、これだけだよ。――――絶対に死ぬなよ」

「おおともさ! 死ぬなんて、人生で1回きりで良い。……絶対(ぜってー)死なねぇよ……。オレ自身の為に、兄弟(お前)の為にも死ねねぇ」

 

 

笑顔と共に突き出された拳にツカサも拳で返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、僅か数時間後……想像を遥かに超えた大事件が―――アーラム村で起こるのである。

 

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