Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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喰われる側

「ほんっと、どうしたら良いの……? このまま 失敗しましたー! じゃ、ママに叱られるし、……エルザのせいに出来そうだけど、叱られたくないなぁ。でもでも、連れてこられるだけ連れてきたこの子達全員ぶつけても、勝てる気が全くしない……っ」

 

 

 

 

ウルガルム、ギルティラウ、岩豚(ワッグ・ピッグ)、黒翼鼠。

 

 

 

種類も単純な頭数でも、過去最高の布陣だと言える。

その気になれば、戦争だって仕掛けれそうな気がする程の戦力を揃えたつもりだったのだが……、第一陣、二陣、悉く敗北、全滅。村人を庇いながらの戦いであれば、何とかなるとメィリィは思っていたのだが、何か解らない。俄然やる気にさせてしまった気もするのだ。

 

 

「足手まといが居ると強くなる、とか? ふざけないでよ、もう!」

 

 

そして、仕舞には 慎重に壊してみせた結界も、ごらんの通りだ。……もう、これ以上魔獣を村へ向かわせる事は出来ない。

まだ、残数はそれなりに結界内に残っているが、絶対に無理だ。憂いを無くした、あのバケモノが、魔獣を蹂躙する姿が目に浮かぶ。……見なくても、目に浮かぶ。

 

そして、村の中を一掃すれば……、次に来るのはこの場所かもしれない。

 

 

「うぅ……、やっぱ逃げる方が良い? あの子達は? 殺しちゃう?? いや、1人でも殺しちゃったら………っっ」

 

 

あのバケモノが……、それこそ、本物の怪物(バケモノ)になる。そんな未来をメィリィは幻視()た気がした。

 

 

理に適ってない。足手まといが居る状況で、どうやれば 力が増すと言うのか。神経すり減らす筈なのに、どうして 逆に力が増す様になるのか。

どうして、総攻撃でも防ぎ切れると言うのだろうか。

 

 

 

それに 今日は、ロズワールと言う王国筆頭魔術師不在の絶好のタイミングだった筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――この時。

 

スバルやレムにとって1番好都合だったのは、メィリィの考え。

何をしてくるか解らない、子供達を道連れに殺すかもしれない、と最悪の状況を想定していたスバルたちにとって、好都合、好転したのは メィリィが過剰気味にツカサを恐れた事にあった。

 

 

 

恐れおののいていたが為に、スバルが取った作戦③が、より大きな効力となって場に現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アル・ヒューマ!!」

 

 

 

 

 

 

木々を薙ぎ倒し、大地を抉る、無数の氷の矢。

それがメィリィの眼前の生い茂る森の中で一斉に放たれた。

 

 

 

「ちょっっ、何!? 何何っっ!?? まさか、こっちに攻めてきた!? 村の中、ぜんぶやっちゃったっていうのっ!? 早過ぎるじゃないっっ!?」

 

 

 

体感時間的には異常なまでに長く感じるが、実際の所はそんなに経っていない。

メィリィにとって、今の一撃は村のバケモノの反撃である、と認識するのは 半ば必然だった。

 

 

 

 

 

 

 

「アル・ヒューマ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

渾身のマナを込め、氷系統最上級魔法を叩き込むのは、レムだ。

 

 

《魔法って使えるか?》

 

 

スバルの問いに対しての答えであり、これがスバルの策。

レムには、メィリィ達からある程度離れた場所から、一番目立ち、一番威力のある魔法を連発してもらう、と言うモノ。

 

 

つまり、陽動作戦だ。

 

 

レムを囮に使う!? と思われるかもしれないが、実際はレムではなく、レムの使う魔法だ。

レム自身を囮に使うのはスバルだって容認しない。ただただ、魔獣たちの前方付近、森が影になって見えなくても良い。

 

ちょっとでも、前方へと意識を集中させて、そして―――あわよくば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああ、もうっっ!! いっけぇぇぇーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獣どもを、陽動場所へと向かわせてくれたら最高だ。

 

そして、余程恐ろしいのか警戒しているのか、メィリィは躊躇せずに全戦力を向かわせた。

 

……向かわせてくれた。

即ち、《計画通り》である。

 

 

「これからは、策士・スバルと呼んでくれっっ!!」

 

 

相手が向かう先には、当然レムはいない。

あるとするなら、レムが放った魔法の残滓。無残に自然破壊してしまった光景が広がってるだけだ。

自然を破壊してしまう事に関しては、ecoな視点では申し訳なく感じるスバルだが、この際目を瞑ってもらおう環境大臣、な気分である。

 

 

 

そして、次もまた最大の関門。

 

 

 

「ガキども……6人っっ!!」

 

 

 

前方に気を逸らせているとはいえ、魔獣の数が数。

バレない事もそうだが、何より子供達をこの死地から連れ戻す事が何よりも優先される。

 

 

ペトラ、リュカ、ミルド、メイーナ、ダイン、カイン。

 

 

子供達の総数……6人。

6人纏めて抱えられるだけの腕力は、間違いなくスバルじゃなく、レムにしかない。

 

女子たちの体重が10㎏程だとして、リュカ、カインダインが20~25㎏。……ミルドは、考えたく無い。

総重量は、考えたく無い。

 

 

 

「火事場の馬鹿力、ってヤツを見せてやるぜっっ!!」

 

 

気合を入れて頬を叩いた。

レムのおかげで、メィリィは全勢力を前方へと向けてくれている。

完全に子供達から意識が離れたのを確認出来た。

 

―――後は振り返らないで貰う事を祈るのみ。

 

 

陽動が済めば、レムと共に後は逃げるだけだ。

 

 

気合十分でも静かに、それでいて最高速度で子供達が倒れている小高い丘へと駆け上がる。

1人、2人、……安否を確認するのはまだ。絶対生きていると信じて、最短最速で運び出す。

 

 

 

「うぉ、らぁぁ……!!」

 

 

スバルは、レディファーストと言う事で、まずは ペトラとメイーナ、そして男子の中でも比較的身体の軽そうなカインとダインの順番で担ごうとしたのだが……。

 

 

「ふぎっっっ、く、っそ!!」

 

 

総重量が、身体にかかる負担がとんでもない。

お子様とはいえ、娘さんを重たい、等とはスバルとていうつもりは無いが、こればかりは仕方ない。

こちとら、健康的な一般高校生。

 

6人合計すると100kgは超えそうな子供たちを運んで、逃げ出すのは現実味に欠ける。

 

 

 

「くそっ、往復するしかねーってか。ぜってー、戻ってくるからな……っ!」

 

多くても2回に分ける。

回数を増やした方が、時間的には早くなるかも? と思ったが、一刻も早くここから連れ出したいが為に、スバルは3人と3人で分けて運ぶ事にした。

 

 

「レディファーストだ。お前ら。……ぜってー戻ってくる!」

 

 

まずはペトラとメイーナ、リュカを運び出す。

レムが頑張ってくれてる時間を無駄にしない為に、敵が陽動である事に気付く前に。

 

 

子供達を落とさない様に、それでいて全速力で運び出し……、木陰になっている場所で下ろした。

 

 

「今、ここを襲われちまったら最悪だな……、クソっ」

 

 

安心はしてられない。

この場所は結界の外。レムの陽動で魔獣たちの気は逸れてるかもしれないが、アレが全部、とは限らないから。

 

野良魔獣でも1匹居たら終わりだ……と、スバルは恐怖を覚えつつも、2組目を救うために駆けだした。

 

小高い丘を駆け上り、そして一番の大物であるミルドを背に担ぐ。

 

 

「どんどん食って大きくなれよーー! って言いたくねぇな、こん時ばっかは……!」

 

 

ずっしり、と重量感たっぷりなミルドの体躯。

村の子供の中でも一番の大食漢。デブ! と言うよりは子供ぽっちゃり型である。

 

だが、泣き言を言ってる暇は無い。

カインダイン兄弟をどうにか担ぎ上げて、重力と格闘しながら足を進める。

 

 

「こん、じょう……っっ!! かじばの、くそぢから……!!」

 

 

思う存分、大声を振り上げたい気分だが、バレては元も子もない。

最小の掛け声で、最大の力を込めて、どんどん先へと進む。

 

後、ほんの少し―――ほんの少しで先に運んだ3人の元へとたどり着く筈だったのに。

 

 

「ッッ!? クソっ!!」

 

 

足元が疎かになってしまった。

もうゴールである、と言う事が注意力を散漫にさせてしまった。

 

木の根が、地上に出てきている木の根が、スバルの足を取る。

どうにか堪えようとしたが、子供達の重量も有り、これまでの筋肉疲労もあるだろう。身体に踏ん張りがきかず、そのまま倒れそうになったその時だ。

 

 

がしっ、と雄大で男らしい力強い腕を感じた。

それと相反するかの様に、ぽふんっ、と顔面に感じる柔らかさは、まさに至上の喜び。

 

 

「お疲れ様です、スバル君。もう大丈夫」

「れ、レム……!」

 

 

倒れ込んだ先は、どうやらレムの豊満なお胸だった。エミリアよりも先に、胸に飛び込んでしまった事に対して、多少なりともエミリアに罪悪感が……等考えて居たりしたが、想像以上に心地良い感触に、昇天しかかってしまう。

 

 

「「スバル様!!」」

「ご無事ですか!?」

 

「!!」

 

 

そして、更に事態は好転した。

今の今まで、レムと2人でどうにか子供達を救出しよう、と躍起になっていた。

自分は力不足&戦闘力1の一般人。レム頼りで難易度鬼。そんな中で、心強い援軍が来てくれたのだ。

 

 

「どうやって、ここまで……?」

「レム様のおかげです。レム様の魔法がここまでの道しるべになってくれました」

「村の方は、まだウルガルムやギルティラウ、魔獣が多く居たんですが、ツカサ様が大丈夫だと、子供たちの方を頼む、と」

「……流石はオレの兄弟だぜ全く。も、マジで足向けて寝れねぇや……」

 

 

青年団の1人であるゲルトは、仲間をもう2人引き連れて、森の中へと入ってきていたのである。

村の中も、まだ予断を許さない状況だったと思われるが、そこはツカサが断言したのであれば、間違いないだろう。

 

 

「いや、でも まてよ……。あれじゃね? レムの魔法を目印にしてたってんなら、そのまま知らずに突っ込んでったとしたら……」

「はい。後、ほんの少しレムが見つけるのが遅れたら、魔獣の餌食になってました。さぁ、ここから離れましょう」

「デスヨネ~」

「「「…………」」」

 

 

レムのあっけらかんとした言葉に、一瞬青ざめてしまうゲルト達。

陽動の為の魔法だ。故に大量の魔獣を呼び寄せるのが目的。

氷系統の魔法を魔獣が使用する事は確認されてないので、氷の魔法は間違いなくレム……と言う当たりまでは良かったのだが、本当に危機一髪だった様だ。

 

 

兎に角、気を取り直して、3人がそれぞれ2人ずつ担ぎ上げた。

 

流石は、青年団。肉体労働派。そして何よりも体躯の差。

 

まだまだ後数人くらいは運べますよ、と言わんばかりに軽々と運ぶ姿を見たスバルは……。

 

 

「くっそーー、オレも鍛えねーと……。エミリアを守る! なんて、軽々しく言えねぇよ」

 

 

と、気を新たにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――事態は好転したかに思えたが、即座に暗転、悪化する。

 

 

 

 

 

「あああ!!! 何処行ったのっっ!?」

 

 

 

魔獣たちが気付いたのか、メィリィが気付いたのかは解らない。

ただ、森の中で魔獣の唸り声以外の甲高い声が響いてきた。

 

そう―――子供達が居なくなった事に気付いたのだ。

 

 

 

「まさか……っ、岩豚ちゃん! 皆っっ!!」

 

 

 

そして、その意味を即座に理解する。

 

ツカサの様な強大な力を持つ者がここへと来たのなら、こんな小賢しい真似をせずとも、正面から叩き潰す事だって出来そうだ。

正面突破された時、子供達を人質にして、交渉する事さえメィリィは考えていたのだが………、騒音が合った箇所、衝撃があった箇所を見ても誰も居ない。更に後ろを振り返ってみると倒れていた場所には誰も居ない。

 

子供の癖に、頭の回転の速さは舌を巻く思いだ。

 

それだけの死線を潜り抜けてきているのだと言う事が解る程に。

 

 

 

メィリィは、即座に指笛を鳴らし、手を鳴らし、魔獣たちを意のままに操る。

先ほどまで、レムが魔法連発していた地点周辺に群がっていた筈の魔獣たち皆一目散に回れ右。

 

 

地を揺らしながら、空を震わせながら追ってきた。

 

 

それは、背後を見なくても解る。

 

 

 

「無理無理無理無理無理!! 来てる来てる来てる!!」

 

 

夜の闇が襲ってくる、とよく比喩表現で聴いたり、見たり、読んだりした事があるスバルだったが、まさか身をもって体感するとは思わなかった。

 

 

黒翼鼠が、木々の間から迫ってくる。

ウルガルムが、目を光らせながら迫ってくる。

岩豚が、木々を薙ぎ倒しながら迫ってくる。

 

 

黒塗りにされた何か一個の個体。大きな大きな塊となって襲い掛かってきたのだから。

 

 

 

「アル・ヒューマ!!」

 

 

 

今度は陽動ではない。

レムの魔法、氷系統最大の攻撃魔法で応戦。

闇の一部に大穴を開ける事に成功したが……、まるで黒い霧を相手にしているかの様。空いた穴は、即座に新たな闇で埋まって、襲い掛かってくる。

 

地からは、血に飢えたウルガルムが飛び掛かってくる。

 

 

「ふッッ!!」

 

 

レムは手に持つモーニングスターを全力で投球。

迫ってきた数体を見事に薙ぎ倒し、胴体を真っ二つに粉砕して見せた。……だが、空と同じ様に、地でも直ぐに()は塞がれる。

 

 

「(数が、多過ぎる……ッッ!!)結界へ! 急いでください! 結界を抜ける事が出来たなら、勝負がつきます! 皆さん、スバル君に案内を!!」

「レムッッ!?」

「レムが足止めをします! 行ってください! 早くッッ!!」

 

 

残った所で、何にも出来ない。

闘う力の無い自分が力になれる事なんて、何も無い。

 

 

「スバル様‼ こっちへ!!」

「走れ走れ走れ!!」

 

 

現在、あの規模の魔獣に対し、抗う事が出来るのは、情けない事にこの場で唯一の紅一点であるレムただ1人。

巨漢の青年団とは言え、あの規模の魔獣と戦えばどうなるか、火を見るよりも明らかだ。

 

 

「くっそっっ!! 鎖の音が背中を守ってくれるのは、スゲー頼もしい!! でも、レムだって無事じゃなきゃ意味がねーんだ!」

 

 

吼えながらも、ただただ只管逃げる逃げる。

せめて、憂いを無くす為に。レムが逃げる事に集中できる様に、皆を村へ、結界の内側へ。

 

 

 

走って、走って、走って……、一体どれくらい走っただろうか?

鎖の音は健在だから、レムが無事な事は解る。……だが、余程森の奥にまで来ていたのだろうか、入った時は解らなかったが、なかなか村につかないもどかしさをスバルは覚えていた。

 

 

だが、泣き言なんか言う筈がない。

 

 

 

子供らは青年団の皆が運んでくれていて、自分は普通に走ってるだけなのだから。

 

 

走って、走って、走って―――漸く、光明が見えた。

 

 

 

「スバル様!! あちらです!!」

「ああ! 見えた!! 見えたぞ!! 村の灯りだ!!」

 

 

 

疲労がいっぺんに吹き飛ぶ。

希望を見た瞬間に活力が沸いてくる。

 

先ほどまでは、鎖の音だけを頼りに、背後を確認する事も憚れたが、今は構う事無い。

 

 

「レム‼ 結界に着くぞ! ————ッッ!?」

 

 

 

確かに鎖の音はしていた。

だが、レムの姿を目視していた訳ではない。

 

見たのは、綺麗だったメイド服。ちょっとした憧れでもあり、眼福でもあったメイド服が、血濡れでグシャグシャになっている。

いつも身なりをきっちり整えているレムの姿からはかけ離れていた。

 

 

「……いって、ください。レムが、レムで居られる内に……」

「な、なに!?」

 

 

レムの言葉を聞いて、納得できる訳も無い。

レムの言葉の真意は、スバルにも解る。……朦朧とする意識の中で、苦痛だけを感じていた地獄の中で、……あの2週目の地獄の中での体験を覚えているから。

 

 

人非ざるもの。

 

額に角を生やし、赤い光を放ち、本能のままに暴れ狂う姿を。

 

 

 

「ば、バカッッ、もう少しなんだ! もう少しで――――ッッ!?」

 

 

 

次の瞬間、レムは闇に喰われた(・・・・・・)

 

 

 

そして―――、常人であれば、ボロ雑巾にでもなっているだろう、空飛ぶ薄汚い鼠たちの攻撃を受けつつも、レムは立っている。

光を放っている。

 

そう―――あの鬼の姿。

 

 

 

「あは……、あはははは…………」

 

 

 

闇の中で、響く笑い声。

 

 

 

「なに、いったいなんなのぉ!?」

 

 

 

そして、レムではないもう1人。元凶である魔獣使いの声。

異常な状況に気付いたのだろう、岩豚の上に乗っていた彼女は動きを止めさせていた。

 

 

レムの全力のモーニングスターの投球。

それはこれまでとは比較にならない。

闇を斬り裂き、闇を引きずり下ろし、闇を粉砕した。

 

あっという間に、黒翼鼠の死骸の山を築き上げたのだ。

 

 

 

「魔獣、魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣――――魔女!!!」

 

 

 

そして、あの時同様に、理性を失ったレムがそこには居た。

魔女の残り香と、魔獣の気配と言うモノは、同質なモノだと言うのだろうか。狂わせる何かがあるのだろうか。

 

あまりにも、あのレムの姿は、2周目の時と酷似していた。

 

魔女の残り香――――、あの世界が止まり、心臓を握りつぶそうとしてきた空間に飛ばされた時により発せられたのであろう、性質の悪い呪いの香りを全身に浴びた時の様に。

 

 

ウルガルムが一斉に飛び掛かるが、今のレムを止めるには馬力不足だ。

まるで紙切れの様に粉砕され、その帰り地にまみれて狂笑を響かせるだけに過ぎない。

 

 

どれだけ、返り血を浴びようとも、額に輝く角は一切汚れる事は無い。あの光こそが、レムの力の源であるのだろう、と直感的に理解したが……。

 

 

「改めて見てもヤベェ、スゲェ、……最強鬼モードってヤツかよ。……でも、相手は最強じゃないにせよ、無限(・・)なんだ。レム……ッッ!??」

 

 

 

スバルは はっきり見えた。

ほんの僅かな隙だと言うだろうか、レムの暴風の様な攻撃が済み、新たなるターゲットを絞ろうとした刹那の時。その隙を狙い定めて、一斉に迫っている魔獣の姿が。

 

 

死の直前。物凄く時間の流れがスローになる……と言う事はスバルも聞いた事があったが、生憎、この世界で死ぬ時は、そんな事は無い。

驚く程あっさり死んでしまう。

致死の攻撃を受けた後、苦しみの時間だけは鬼の様に長いが、死の間際に流れる走馬灯の様なモノとは無縁だった。

 

 

だが、今は違う。

 

 

ハッキリとレムの姿が見える。襲ってくる牙や爪が見える。

そして、自分の無力さも感じてしまう。

 

出来ない、出来ない、何も出来ない。レムやツカサの様に、敵を粉砕出来る様な力があれば。魔法でもあれば。

 

 

 

 

《結論から言うと、スバルのゲートは制御が甘すぎだから、無理しない方が良いね!》

 

 

 

そんな時だ。

無限に続くのか? とも思えた異常なまでに遅い時の流れの中で……聞き覚えのある声が聞こえてきた。

あの愛くるしい姿とは裏腹に、実はとんでもない力を兼ね備えているネコ精霊の声。

 

 

「魔法……ッッ!! そうだ!!」

 

 

スバルは、時の流れが遅くなってる世界で、思いっきり駆け出した。

追いつけるとは到底思えなかったのに、後数歩で追いつく事が出来る。

 

レムの、鬼の恐ろしさも関係なく、レムを救おうと駆け出す。

 

 

使い勝手が悪い身体だろうが何だろうが、盛大に使ってやる、と決意。

 

唯一使える様になった? スバルの初めての魔法。

 

 

 

 

 

 

「シャマァァァクッッ!!」

 

 

 

 

 

 

陰魔法《シャマク》

目くらましの魔法、として認識していたが、そんな生易しいモノではないと言う事はスバルも知っている。

 

 

漆黒に埋め尽くされて、世界から孤立してしまう様な感覚。

 

 

魔法に関しては素人以下。身体的にも問題ありなので、無暗矢鱈に使うと危険だと言う事は知っていたが、躊躇う事は無かった。

 

ボンッ! と言う何かが爆発した様な破裂音と共に、スバルの身体から黒い雲が周囲の魔獣を、レムを包み込み、闇の中へと閉ざしていった。

 

 

 

前に進む、進む、世界の形も色も臭いも一切把握できない中で、足の裏の地面の感触だけがリアル。歩を進めている事も理解。

 

レムの姿を……捕える事が出来た。

 

 

黒い雲の効果、魔獣にも怖れを抱かせるのには十全に効果を発揮した様だ。

黒い雲、シャマクの発生も何も関係ない、と言わんばかりに攻めていたら、紛れもなくレムはやられていただろうから。

 

 

「う、おおおおああああっっ!!」

 

 

レムを担ぎ上げると、そのまま踵を返し、180度反対に向かって駆け出す。

 

軈て、黒い雲も晴れて、村の灯りが見え……レムを救う事が出来た! と思ったその瞬間だった。

 

 

 

「グアッッ!!」

 

 

足に、強烈な痛みが走る。

 

右足に、アキレス腱に、脹脛に、太腿に、何か所か解らない、一斉に痛みの信号が頭から命令された。

 

足に力が入らず、倒れてしまうだろう、その瞬間―――レムの身体を投げ飛ばした。

凄まじい力を持っていても、その身体は華奢で、軽い。スバルのなけなしの力でも十分過ぎる程飛ばす事が出来た。

 

 

 

 

「スバルくん―――!!」

 

 

 

 

そして、その刹那――レム()戻ってくる事が出来た。

 

最悪のタイミングで……。

 

 

 

 

 

「があああああああ!!!」

 

 

 

 

 

レムが見たのは、スバルの身体を、魔獣たちが食い荒らす場面。

 

右足の次は、左腕がかみ砕かれる。

右脇腹、背中、右腕、今の所無傷なのは頭だけだ。

 

生きているのも不思議だと思える程の傷を一瞬で無数につけられ、肉を削がれ血を吹き出し続ける。

 

 

レムの悲鳴、そしてスバルの悲鳴。そんな中で、唯一の歓喜を上げているのは、遅れてやって来たメィリィ。

慎重に慎重を重ね続けてきたメィリィはレムに対してもそれを心掛けており、魔獣の物量差で押し切れると判断した途端に、前戦へと足を運んでいたのだ。

 

 

 

 

「やっと捕まえた!! 皆!! そのままやっちゃえ――――ッッ!!?」

 

 

 

 

メィリィが歓喜を上げた瞬間、それは歓喜から狂気へと変わり、最後には恐怖へと進化を果たす。

 

間違いなく圧していた筈だった。任務完了な筈だった。

あと一息だった。

 

 

 

 

筈なのに―――、何故前方から炎が迫ってくるのだろう?

 

 

 

 

小さな赤い点が、途端に大きくなる。渦を描きながら、迫ってくる。

真横から、炎を伴う竜巻が迫ってくる。

 

 

 

「きゃあああああ!!!」

 

 

 

その一撃は、闇を焼き払い、闇を炎と言う光で呑みこんだ。

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ………」

 

「うあ……っ!! ああ……っっ」

 

 

 

 

 

結果的に言えば、メィリィは無事だった。

無限にすら感じる黒翼鼠、そして彼女が乗ってきていた岩豚、それらが壁となり盾となったお陰で、彼女にまで攻撃は通る事は無かったが、……はっきりと見た。

 

 

血走った目を見た。

片目は、前髪ではっきりと見えず、唯一見える左目は、頭から流れる血のせいで、まるで赤く光っている様に見える。

 

 

レムの姿も鬼だと言えるが、今目の前に居る者……男は、それ以上だった。

 

 

 

 

 

 

「何を――してやがる……!」

 

 

 

 

 

 

血走る目が、自分を捕えた瞬間、氷の様に固まってしまった。

まるで、今の今までは、喰う側だった。……捕食者だった筈なのに、一瞬で喰われる側、被食者になったかの様だ。

 

 

動けない彼女の代わりに、行動したのは一匹の魔獣ギルティラウ。

村へ襲撃した個体とはまた違うもの。

 

いつも共にいたであろう魔獣が、いつも傍に居たであろう相棒とも言える魔獣が、メィリィの身体を咥えて、即座に離脱の姿勢を取った。

 

 

そのまま、闇夜に紛れてメィリィは離脱。

炎の竜巻に呑まれる事の無かった魔獣たちは一気に散り散りになったのだった。

 

 

 

 

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