Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
作戦発動は次の話になりそうでございマスw
それは、スバルが起きる数時間前の事。
「―――助ける手段、方法はそれだけかしら。可能性として考えれば無いも同然なのよ」
「ッ……だから、だから諦めるんですか。助ける方法は他には……」
「ベティーがさっき言った通りかしら。……呪いが重なり過ぎて、解呪が出来ない以上、仕掛けた相手を滅する以外に道はないのよ」
苦悶に顔を歪ませて、眠っているスバルの傍で、同じく表情を歪ませていたレムが、無表情なりに、多少は気にかけているベアトリスがいた。
スバルの状態を知ったレム。
このままでは、死を待つだけの身体である事を知ったレム。
助けられる可能性が殆ど無い、と言われたレム。
だが―――それでスバルの命を諦めれる訳がない。
「―――必ず、助けます」
そのレムの声は決心と覚悟。絶望に折れかけた膝を立て直して立ち上がる。
例え、森中の魔獣……ウルガルム以外の魔獣が来たとしても。昨夜以上の相手が来たとしても……、必ず。
レムはそのまま、ベアトリスに軽く礼をすると、即座に行動しようと部屋の外へ………出ようとした所で、丁度入ってきた人物とぶつかってしまった。
普段のレムならば、中々見ない光景。それ程までに切羽詰まっているという事だろう。
「―――ちょっと待った」
「!」
レムよりも頭1つ分は背の高い男、その胸にすっぽりと収まってしまったレムは一歩下がって顔を確認した。
その人物と共に――レムは外へと出る。
部屋の中では、スバルが目を覚ましてしまうかもしれないから。
そして、幸いな事にスバルを安静にさせる為に、煩くしない為に、この辺りには人影はない。
「ツカサ、君」
「ベアトリスさんから、オレも呼び出しされててね。………レムと入れ違いにならなくて良かったよ」
ツカサは、軽くため息を吐くと、一緒に外まで来てくれたベアトリスの方を見て言った。
「それにスバルの事は、クルルにも聞いた。………ベアトリスさんも人が悪いですよ。もうちょっと早くに、呼んでくれても良かったのに」
「………お前は何を落ち着き払った様子で言ってるかしら。ベティーのこれは、そこの男の余命宣告に等しいのよ」
ベアトリスの視線がやや険しくなるのを感じた。
いつもの嘲笑交じりで、何処か無関心な様子は息を潜めている。
本心からの言葉である、と言うのが、その無表情な瞳の奥に隠されている様な感じがした。
「ベティーは可能性は提示した。でも、それは限りなく目が無い。雑じり者の娘を危険に晒したくないにーちゃは勿論。禁書庫とこれだけ離れてしまったベティーも戦力外。今、動けて戦力になるのは鬼の妹とお前とクルル。………先日の件で、ボロ雑巾になったお前。少なくとも落ち着きを払える様な状態じゃないのよ。あまり、クルルに無理させるのは、ベティーとしても止めたい気分かしら」
口では、クルルを止めたい、と言う理由の様だが、その本心は恐らくツカサの事も心配している様な気がする。
何故なら、クルルとツカサは、基本別行動が可能なのだ。そこがパックとエミリアの違いと言えばそうだろうか。
クルルが心配なら、ベアトリスに預ける―――と言った手段も取れなくはないが、その事実を知っている筈のベアトリスが、クルルを使ってツカサを引き留めようとしている。
その気持ちに嬉しく思わない訳がない。
「ありがとうございます」
だから、ベアトリスに礼を言った。
限りなく自然体で、自然な顔で。
そして、ほんの少しだけ―――申し訳なさも含めて。
あの3周目の世界で。……ラムを連れて戻る前の世界で。
悲痛な表情をしているベアトリスを。寂しそうな顔をしているベアトリスを置いていってしまった事実を込めて。
レムは生き返る……なんて言葉を聞いた時は、驚愕以上に鼻で笑いそうになる。
死者蘇生なんて魔法がこの世に存在したとして、それを世界の核――オド・ラグナが許す筈がない。
何より、そんなモノがあると言うのならば―――ベアトリスは、最速で見つけ出し、最速で体得している。どれだけ時間が掛かろうとも、必ず身に着け―――そして、必ず使う。
400年と言う長い歳月。永遠とも呼べる時間の中で、幾ら禁書庫内の魔導書を読み漁っても……そんな夢のような力は存在しなかった。
―――あの本にも記されてない。
だから、鬼の姉……ラムを騙す詭弁だと思った。
少なくとも、あの場を離脱する為の行動だと。逃げる為の言動だと。
だが、その逃げる相手であるラムの手を取り―――光の扉を開けた時、ベアトリスは手を伸ばそうとしていた。
ツカサが振り返った時、不意にその手は引っ込められる。
ベアトリスは 突っぱねるかの様に、《何する気かしらないけれど、さっさと行くのよ》と言ってしまったのだ。
あの時――ツカサに余裕があれば。
まだ未知数である複数人の次元超え……
歪んだ次元の彼方に、魂だけが残されてしまう可能性だって、想像上ではあるかもしれなく、不安要素は限りなく増大するから。
結果――自身の体力、マナの消費が半端なく使われた以上の、空間や次元に干渉するトラブルは起きなかった。
消耗し具合から考えたら、後1人くらいは間違いなく一緒に連れていけるだけの目算はある。クルルも判断している。
だからこそ、もうベアトリスが知る由も無い事ではあるが、ツカサは申し訳なさを込めたのだ。とても優しくて……それでいて、とても寂しがりやな大精霊ベアトリスに。
「べ、ベティーは礼を言われる様な事はしてないのよ。ただ示しただけに過ぎないかしら。……………」
ベアトリスはじっとツカサを見る。
心の奥まで見透かしそうなその瞳。普通の人間なら気圧されてもおかしくない程の圧が込められているが、それを笑って受け入れてしまうツカサ。
心の中でもどこでも、見て欲しい、と言わんばかりな様子に、ベアトリスは大きくため息。
「それでも、お前は行くのかしら。……どうなっても知らないのよ」
「はい」
話は決まった―――と思っていたその時だ。
「待ってください! ツカサ君! ここは、レムが……、レム1人だけで十分です。ツカサ君の状態だって、物凄く悪いのに、五体満足なのはレムだけなのに……。レムが、レムが1人でやらないと―――レムの……せい、だから……っっ」
涙ながらにレムが訴える。
部屋の中で苦痛に顔を歪ませているスバルの事が頭を過る。
もう、その命の灯は今日にも消え去ってしまうと聞いて、胸が張り裂けそうだった。
当初のレムは―――スバルの笑みが嫌いだった。スバルの態度が嫌いだった。スバルの声が嫌いだった。
空々しい笑みに、根拠のない自信、物怖じしない所。……挙げだしたらキリが無い。
でも、それらは必ず1つの理由に、元凶に辿り着く。
そう―――スバルから漂う魔女の残り香。
嘗て、鬼族の村を焼き、大切な姉を傷つけ、全てを炎で焼いた。
この魔女の残り香……瘴気は あの炎の夜を思い出させてしまうのだ。
スバルを信用せず、害があるのならば、その可能性がある以上遠ざけるべきだと思えた。
でも……誰もがスバルを信用する。
エミリアも、ラムも、ロズワールも。
そして、気付けばレム自身も。
有能な人間ではなく、自分の限界を悟って、無力だと悟っても、懸命だった。
抗う事を決してやめなかった。命を燃やして、誰かを救おうとするその姿が、目に焼き付いて離れなかった。
彼と共に歩むにつれて―――レムは心から軽くなった。
今の今までは、疑いに疑い、敵意を向けていた。……だが、それをする必要が無いのだと。疑う必要等ないのだと。心からそう感じた途端に軽くなった。
こんなにも快いとは思わなかった。
そう―――思っていたのに。
「鬼の力に呑まれてしまったレムのせいなんです……。レムがもっと、もっとちゃんとしていれば、姉様の様に、ちゃんと出来ていれば……、スバル君が、スバル君が――――っ」
涙で視界が歪む。
歪みに歪んで―――昨夜の悪夢を呼び起こす。
世界が闇に包まれたかと思えば……、身体を包む温かな感触があった。
鬼の本能のままに、暴れ、殲滅を重視していた筈なのに、闇に染まったと言うのに、心が晴れやかな矛盾した気持ち。
それを齎してくれたのが―――スバルだと気づいたのは、彼が無数の魔獣に襲われていた場面。
魔獣に囲まれていた事に気付けなかった自分を庇って……
「もう、傷つくのはレムだけで十分なんです―――っ」
「………………」
レムの告白に、心の内の嘆きに。……その葛藤を黙って聞いていたツカサ。
今にも泣いてしまいそうなレム。あの鬼の様な戦いぶりを見せていた姿からは想像も出来ない程弱々しい姿を見せた彼女になんて言葉を掛ける?
それは当然決まっている。
「レムは何も解ってない」
「っ……え?」
それは、真っ向からの否定だ。
ここにいる誰よりも、……いや、
「レムのその行動は、罪悪感から、自分だけが傷つけば良い、って考えは……間違ってる。……って、オレが言っても説得力無い、って、
「どうして、どうしてですか……? レムの、レムのせいなんですよ……? スバル君が死にかけてしまったのは。……命を、奪われてしまいそうになっている事は。―――レムは、
この時レムの脳裏に過るのは、スバルの事以上に嘗て、幼き日の炎の記憶。
あの失った夜の事。
身体は大きくなっても、出来る事が多少なりとも増えても……本質的な所は、変わってない。と言わしめるだけの十分な威力が秘められていた。
まるで、それは 形は違えど―――スバルを蝕む呪いと大差ない。
「レムは知らないから。心配をしてくれてる人の事を。―――大切な人がいなくなってしまった結果。残された人達がどんな風になってしまうのかを、レムは知らない」
そして、ツカサにも過る苦い記憶と言うモノはある。
この世界で3人しか知らない。……それでも、魂にまで刻まれた記憶。
限りなく遠く、限りなく近い世界で体感した最悪の記憶。
レムが目覚めず、命の炎を消失させて―――ラムが泣き叫ぶ姿。
ラムだけではない。誰もが悲しみに暮れていた。
スバルも、第一印象最悪だったかもしれないが、それは
仮に、何も知らず、あの場面に遭遇したとなれば、誰かの為に命を懸ける事が出来るスバルなら、どういう行動をとるかは……容易に解るから。
そして、当然ながらレムがそれを知る由も無い。
魂にまで刻まれた3人の中に、レムは入っていないから。
「ッ……、で、でも悪いのはレム1人だから」
「それは、ただの自己満足になってしまうよ。……それとも、レムは自分さえ贖罪が出来れば、罪悪感が拭えれば、……気が晴れるなら。残された人達がどう思おうと自分には関係ない、って思ってる?」
「そ、それは………」
ツカサの言葉に、レムは気圧されてしまった。
自分が、自分だけが傷つけば良い。その結果―――スバルが助かるのなら。例え命を落とした結果となってしまっても、救う事が出来たなら、命を対価として支払い、願いが叶うなら……。
「………ラムに説教を貰ってね? レムも」
「え?」
「当然よ」
「!!」
背後から、声が突然聞こえてきた。
どうやら、いつも以上に周りがレムには見えてないらしい。
その背後の人物とは、勿論ラム。
一体いつから控えていたのだろうか、家の屋根に立っていて、今このタイミングで降りてきたのだ。
「本当に、手間のかかる子だわ。……レム」
「姉……様」
見事なタイミングで降りてきたラム。ツカサもその様子を見てほっと一息ついていたのだが……。
「でも、あのツカサも他人の事を絶対言えないわ。―――レムレム。ツカサってばね、最初は1人で全部やろうとしていたのよ。レムがやろうとしてた事を、ツカサがやろうとしていた。……言ってる事とやろうとした事が違うわ」
「……ごめんなさい。ラムのおかげで目が覚めました……」
「ッッ……!?」
いつもの調子で、いつもレムと他愛ない会話を、主にスバルやツカサを揶揄う時に使ってるやり取りを、この場でも見せるラム。
今のレムに必要な事……と思ったのだろうか、或いはただただ、先ほどまでのツカサとのやり取り、そして今のレムに対するツカサの物言いに納得してなかっただけなのか。……恐らく後者だろう。
「昔よりも今。言っているでしょう? レム。……無茶をして、ボロボロに傷つく姿を、ラムは見たく無いもの」
「姉様……、でも、でも、レムは姉様の………」
レムの絞り出す様な、小さな悲鳴を聞いて、ラムはゆっくりと首を横に振った。
「でも、じゃない。解っているでしょう? ……レムの事が、本当に大切で心配だから」
嘘偽りざる言葉。
これ以上ない本音。
レムがそれを解らない訳がない。
「確かに何をやらせても、ずっとレムの方が出来る。ずっとずっと上の自慢の妹。……でも、心配しない理由にはならないし、無茶をしようとしてる事を止めない理由にならないわ」
レムが何をしようとしているのかも、ラムは知っている。
しっかりと見て、聞いていたから。
「……ラムはレムの姉様。その立場だけは絶対に揺るがない。……その妹が無茶をしたら、ラムだって傷つく。レム以上に、傷つくかもしれない。……レムは、ラムを。大切な姉様をこれ以上痛めつけようと思ってるのかしら?」
「そんな………、そんな事は………っ」
揺らがぬ決心を、決意を胸に抱いていた筈のレムの牙城が完全に崩れ始める。
元々ツカサと話をしていた段階で、その間違った方面への決意は揺らいでいたが、ラムの言葉で更にトドメを刺す。
自己評価が極端に低いレム。
居なくなってしまったら、どうなるのか? そこまで考えが及んでいなかった。
行動の1つ1つが、その結果傷つけてしまうなんて思いもしなかった。
ラムは、そんなレムの身体を抱きしめて、頭を撫でる。
その姿は、迷って迷って……迷子になってしまった妹を漸く見つけた姉の様に。
「良かった……な」
「状況は一切良くなんてなってないかしら。どうする、って言うのよ」
「大丈夫です。策はありますよ。……心配をおかけしました」
「し、心配なんてしてないかしら! あんな男の1人や2人、死んだ所でベティーは心を痛めたりしないのよ」
姉妹を安心して見ていたツカサと、流石に口を挟むにはハードルが高いと思ったのか、空気を見事に読んでくれたベアトリス。
「それより、メイド姉の言葉を聞いて、ベティーは呆れ果てるかしら。メイド妹にご高説ほざいていたけど 確かに、説得力の欠片も無いのよ」
「うぅ………、追撃はもう良いですよ……」
言葉は刃物。
それを身に染みるツカサ。
ベアトリスの言葉が刃となり、ツカサに刺さって―――戒めにするかの如く、ラムとの事を思い返した。
それは、魔獣騒動がある程度片が付いた時の事。
まだ日も昇ってない深夜の時間帯。
―――いや、訂正しよう。魔獣騒動は まだ片は付いていない。大事な部分が解決せず残ってしまっている。
「
「そう、か。……わかった。……と言うか、突然クルルが普通に喋ったら驚くし混乱するし、色々嫌だから、それヤメれ」
「ま~たまた。結構ありがとー、って思ってる癖に~♪ ……今回に限ってはボクもちゃんと手伝ったし、想う所が無かった訳でもないから。もち、
「………否定はしない。でも本能的な部分だって事くらい解ってるだろ? 最後のは変身の件は、特に言う事ない」
「そりゃ勿論&寂しいね☆」
ベッドで横になっているツカサとその直ぐ傍をクルクル回りながら飛ぶクルル。
人語を介している事から解る通り―――今はクルルであって、クルルではない存在。
「……多重にかかった呪い。……厄介な呪い、か。パックもベアトリスさんも、お前も解呪は無理な」
「そーそー。……でも、大体手は考えたんでしょ? 驚いてる割には、まだまだイケるって顔じゃん♪」
「そりゃそうだよ。後退する訳にはいかない。……後ろには道は もう無いって思ってる」
ベッドで寝ていた身体をツカサはゆっくりと起こした。
身体の調子を確認しつつ―――まだ大丈夫である、と言う事を確認。
「まっ、後ろは《戻る》か《死に戻る》かの二つ。それ考えてたら、取れる行動なんて決まってるかな? ————解ってると思うけど、ただ
「―――解ってる。戻る時に使う
「あっはは。ここ数日で通算戻り回数、戻ってる時間の長さも考えたら当然だよ~~。多分、
「……解らないオレに、
「きゅ、きゅきゅー!」
「!」
突然、流暢に話をしていた筈のクルルが元に戻った。
どういう訳か? と訝しんでいたら……、この部屋に来訪者があったのだ。
「……!」
「ラム」
「ええ。……目を覚ましたのね。…………心配、したわ」
備え付けられている椅子に腰かけ、山盛りのリンガを同じく備え付けのテーブルに置き、座った。慣れた手つきで、リンガの皮をむき、並べていく。
「――無いよりはマシでしょう。栄養を取りなさい。ラムが看病してあげてるもの。しっかり治す事ね」
「あはは……。ありがとうラム。でも、もう夜も遅いし、働き尽くしだったんだから、もう、眠った方が良いよ。オレの方は大丈夫だから」
「………寝られそうに無いわ。レムの事もそうだけど、ここまでラムの事を心配かけさせて、呑気に寝ていられるとでも思ったの?」
ラムのリンガに向けられていた視線が、ツカサに刺さる。
「レムも居る、ツカサも居る。……だから、大丈夫だと、安易に判断したラムが間違ってた。ここまで大事になってるなんて……。千里眼をもっと早く使っていたら……」
「………ごめん。心配かけちゃったね」
「まったくよ。ラムの全幅の信頼・信用。それをラムの抱擁と共に一心に受けたツカサにも責任は伴うもの。……ラムに
「……そう、そうだ。うん。それはラムに対して失礼にもなる。レムを助けて終わり、じゃ駄目だったか。………でも、ゴメン。もう1つ……まだ、もう1つ厄介な難題が残ってるんだ」
ここで、スバルの身に起きた事実を、解決してない問題を告げた。
死に戻りに関しては伝える事は不可能だが、自身の能力である、と言う前提で伝える分は問題ない。……スバルが死ねば、自身がどうなるのかもラムは知っているから。
「だから、明日。スバルの調子が戻るのを待ってから行動しようと思ってる。あまり時間が無いから、半ば無理矢理にでも起こさなきゃいけないのが心配だけど」
「……それで、どうやって呪いを解くって言うの?」
「それは大丈夫。考えてるよ。だから、オレはスバルを連れて
2人で。
その言葉を聞いた途端に、ラムの顔は一変した。
手に持っていたリンガを、トレーに乱暴に叩きつけて、ツカサの胸元まで手を伸ばし、ぎゅっっ、と捻り上げる……いや、縋る様に両手で胸元を握り締めた。
「また、また、ラムに心配をしろと!? ここまで心を痛めて、まだ、これでも足りないと言うの!? いい加減にして!! 自分1人でどうにか解決すればそれで良いなんて思わないで!!」
「ッッ……!?」
「ツカサ。貴方は解ってない。……ラムの信頼と信用を、解ってない! ラムとレム以外の鬼族が滅んで、……もう、ラムにはツカサを含めた3人しかいない。そのことを、解ってない! ツカサが、ラムにもう1本の手を伸ばさせた事を……解ってない」
握り上げる力が徐々に弱くなっている様に感じた。
「それに……、ラムを見縊らないで。……ツカサ。貴方の具合が悪くなってるのなんて、簡単に解る。……あの、レムを救ってくれた日。あの日よりも更に悪くなってる。……そんな姿を見て、ラムは平気な女なのだと、ツカサ、貴方はそう思っているの……?」
「………………」
ラムの言葉が、ツカサの心に突き刺さる。
見たく無い、させたくないと思っていた顔にしてしまった自分を戒める様に、その言葉が刃となり、心に刺さった。
―――失うのが怖かった。
―――何故なら、自分は空っぽな存在だから。
だから、得たものが失うのが凄く怖く思えた。
スバルの事は勿論、古くはオットーの時もそう。
どちらにせよ、
空っぽだった心に芽生えた温かさ。人と人との繋がり。心が埋まり満たされていくのを感じた。
だからこそ、大切だからこそ、頑張れる。無茶だと周囲から見ればそう思うかも知れない様になってでも出来る。
それなら―――もし、自分がラムの立場だったらどう思う?
傷つき、血を吐き、倒れ、それでも立ち上がって進もうとしていたら?
安心して見送れる? 背中を見ていられる?
―――出来る訳がない。
「―――思わない。……ラムはいつも心配してくれる。……初めて会った時も、初めて会った時からずっと」
「………ラムに、これからも、ずっと心配をさせるの? 心配して待ってろと言うの?」
「いいや。……無理無茶はしなきゃならない時は絶対あると思う。だから、絶対に、とは言わないし、言えない。……でも、心配させない様に……」
ツカサはラムの目を、今日初めて真っ直ぐ見つめて言った。
「ラムに、頼る事にするよ。……無茶しないか、オレの事を見てて欲しい。また、バカな事をしない様に。
「――――言質取ったわ。もう、引っ込められない。ラムは訊いたから」
ラムの顔は笑顔に戻った。
人差し指が、ツカサの唇に触れて、片目をぱちんっ、と閉じる。
心底安堵すると同時に、また―――心が満たされていく様にツカサは感じるのだった。
顔が赤くなりそうだ。
何なら顔から火だって出せるかもしれない。
そんなツカサの心境を、元に戻したのはベアトリスのファインプレイ。
「―――例え1人でも出来る。それは本心からなのかしら?」
追撃は止めてくれて、今回のスバルを助ける為の行動、行為、そして真意のについての話にしてくれたのである。
だから、ツカサは気をしっかりと持って、平常心へと戻り――――断言した。
「……ええ。出来ると思ってますよ。………ただ、
「不安と言いながら、その顔は自信満々。逆に、うさん臭くなるのよ。オマエの方は、アッチよりは誠実と思ってたベティーが間違いだったかしら」
「では、それを払拭する為にも、結果で見せてみます。……待っていてください。ベアトリスさん」
「…………ベティーは、
ベアトリスが不意に顔を背ける。
最後まで聞き取れなかったが、きっと待っててくれる、とツカサは思っていた。……ベアトリスが言っていた言葉の真意、それが伝わる訳もなく――――。
まだまだ、万全であるとは言わないし、言えない。
レムやラムも居る、ここにはまだいないがスバルだっている。
これ以上ない布陣だ。
だが、危惧事項は当然ながらある。
ラムが一番考えている事。それはスバルが死ねば―――ツカサに纏わりつく死に戻りの効果は、自身が戻った時の比ではないと言う事。
力の根幹部分については、ラムも触れれてはいないが、ただ解るのはツカサにかかる負担がとてつもないと言う事と、自動で発動する能力だから、回避……即ちスバルを見捨てるなんて事も出来ない。
ただ前に進むしかない。
そして、ある程度レムも落ち着いた所を見計らって、改めてレム1人で行うより、1人で無理するより、スバルが助かる可能性が高い事を話しつつ―――。
「取り合えず、スバルが起きたら話を聞いてみよう、レム。………絶対バカって言われると思うよ。聖金貨10枚賭けても良い」
そう言って笑っていた。
ツカサは懐事情を思い出しながら、10枚くらいだったら余裕でかけれる、と何処か強気なのか弱気なのか解らない事を考えていた。
それを感じ取ったのか、ラムは半ば呆れた様子で言った。
「
「それに関しては、もう何も言えません……。独り善がりは無し。頼れる皆が居るんだから」
表情を落とすツカサの方に、ラムは近づいて手を伸ばし、ぐっ、と裾を握り締めた。
「解りなさい。……もっと女の本音を、ちゃんと理解出来る様になりなさい。それが男の使命でもあると知りなさい」
顔を近づけて、急接近するラム。
何処までも心配をかけるな、戻れた後の献身的な介護の事も忘れるな。戻れたとしても、身体が壊れてしまっては元も子もない。
「……ツカサ君と、姉様は、とても仲良しになりましたね……っ」
漸く、少し笑みを見せる事が出来る様になっているレム。
スバルを助ける方法はある。
可能性の面で言えば、一番高い。
そして―――全員が納得できるようにする。
それらの言葉を聞いていたからだろう。
罪悪感も当然残ってるし、自己嫌悪にだってまだ陥っているが、ツカサとラムの言葉は、それらを払拭するだけの威力は込められている。
ただ、まだ足りない。
その最後の
「また、聞かせてください。姉様とツカサ君の間に何があったのか。……レムだけ仲間外れは寂しいですから」
「あ、いや……そんなつもりは無いのよ? レム」
先ほどまでは圧倒? していた筈のラムが慌てる姿が面白いし、素敵だとレムは思う。
新たな姉の一面を見たから。
ラムとツカサに関しては、実の所当初から様子がおかしい事には気付いていた。
スバルと言う魔女の残り香を発する人物がいなければ、矛先がツカサの方へと向いていてもおかしくないくらいは……見ていた。
最高である姉のラムに相応しいのか?
最高である姉のラムを騙してないのか?
最高である姉のラムに迷惑をかけてないのか?
挙動1つ1つが、あらゆるものを誇張させ、膨大にさせて……爆発したかもしれない。
だが、今は違う。
大切で大好きなラムを、温かな気持ちにさせてくれる。
自分以外の事を気に掛けたり、本気で心配する姉を見るのは、少々寂しい気もするが、そこまで想える相手が出来た事が、心から喜ばしい。
困ってるラムを他所に。
「全部解決したら、皆で話そう。――――それだけじゃなく、色んな事を、沢山。勿論 スバルとも」
―――綺麗に締めているかもしれないけれど、それは悪手でございます、ツカサ君。今の可愛らしい乙女な姉様を前にしたら。事の次いでに話す、みたいな言い方はダメですよ。
ラムの機嫌が損ねたのは、レムにはよく解る。
結果――ラムはツカサのつま先を強く踏みしめるのだった。