Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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再来の王都……の前
レムの極々平凡で幸せな1日


メイドの朝は早い。

 

 

 

まだ日も地平線から顔を出していない時間帯に目を覚まし……、一息するまもなく身支度開始。

 

顔を洗って最後まで残っていた眠気共々洗い流すと、少々寝癖になってしまっている髪を鋤いて完璧に整える。

 

 

最後に身の顔をしっかりと鏡を前にして確認しながら―――メイドのレムは 自身の胸を見た。

 

 

「また……大きくなってる……」

 

 

実は、最近は姉であるラムの服とサイズが合わなくなってしまっているのがレムの誰にも明かしていない悩みの種でもあった。

 

胸など、大きくなったら邪魔になるだけなのに……、と常々思っていたレムだったが、最近では少々心境に変化があった。

 

 

「……スバル君は、大きなお胸が好み……なのかな……?」

 

 

以前、レムとラムの違いを、姉の代替品である、と自分を評していたレムを否定する様に、レムに言った言葉の中に《胸》があった。

 

 

《レムは優しくて努力家で一生懸命。……そんでもって、胸がラムよりずっと大きい!》

 

 

スバルのいた世界では、普通にセクハラなのだが、生憎こちらの世界では少々馴染みのない言葉。

レム自身も気になっていた部位を指摘されて、それが良い事である、と言わんばかりで……、そこから少々認識が変わりだしたのだ。

 

いきなり受け入れる訳ではないが、少しずつ、少しずつ。……スバルが喜ぶのであれば はしたなくない程度には……。

 

 

「ふふっ……」

 

 

スバルの事を考える時間が本当に楽しい。

仕事の事を忘れそうになってしまうから、それはそれで考え物だ。

 

そして、間接的にではあるが、ツカサにも多大なる恩義がレムの中で生まれている。

姉を助けてくれた事、自分を助けてくれた事、そして何より―――スバルを助けてくれた事。

 

 

レムの中で、世界が広がっていくのを感じながら、寝間着姿から、メイド服へと着替えなおした。

全身をしっかりと移す大鏡の前で、おかしなことがないかを確認しつつ、最後にホワイトプリムを着用。

 

 

「よしっ、準備完了」

 

 

今日も一日仕事を頑張ろう、と小さく声を上げて、レムは自室の扉を開いた。

 

 

仕事を始める前に……まず日課にしている事。

 

 

それは――――。

 

 

 

「――――おはようございます……スバル君」

 

 

スバルが寝泊まりしている部屋にまず最初に訪問。

決して起こさない様に、忍び足で、気配をも殺して、ゆっくりと寝静まっている彼の傍へ。寝息を感じられる程近くまで。

 

 

「スバル君。……スバル君。かわいい……っ」

 

 

すぅ、すぅ、と規則正しい寝息とぽかん、と開けた口。よだれが少々。今のレムにとってはスバルのすべてが好きである、そんな対象なのだ。

レム式の全幅の信頼……とは少し違うだろうか。

 

 

暫くスバルの寝顔を じ――――――っくりと見守って……。

 

 

「け、今朝はここまでです。危なかった……、あと少しで我を忘れるところでした……」

 

 

時間は有限。

業務時間が迫っている。

 

スバルの寝顔を拝見させてもらうのは、今日が初めてではなく、あの鬼がかった日、笑顔を向けあえた日から、今日まで幾度も拝見し……時間を忘れてスバルが起きてしまう寸前まで見ていた事もしばしばなのだ。

今回はしっかりと正気に戻ったので及第点。

 

 

 

まだまだ、しなければならない事が多いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉様、姉様。朝ですよ起きてください」

 

 

ラムの身支度も仕事の内。

決して朝が強いとは言えないラムを、仕事が始まる前に起こす事もレムの仕事の内なのである。

 

 

「んん―――………あと5分……」

 

 

レムの声はしっかり届いている様だが、起きる気配がない。

姉を甘やかす事が多く、全てを許容している様に思えるレムだが、仕事に支障が来す事まではしない。

それに、今のレムは以前よりもはるかに柔らかくなっているのだから。

 

 

「いけませんよ、姉様。それでは見習いのスバル君に示しがつきません。それに、まだ魔獣の件の傷が治りきってませんから、あんまり仕事をさせては可哀想ですし……」

 

 

以前なら、ラムを引き合いにスバルの名を出す事なんて絶対しなかったであろう。

だが、そんな説得でラムが従う訳はない。

 

 

「レムがラムよりバルスを心配しているのが嫌だから、ラムは起きない」

 

 

余計に子供の様に拗ねてしまうのだ。

だが、そこが良い。……こんなに可愛らしい姉の姿が見れる事は、レムの至福の時の一つでもあるのだから。

 

 

「姉様、そんな可愛いこと言わないでください。……姉様が起きてくださらないのなら、一先ずツカサ君を先に起こしてきましょうか……」

「………!」

 

 

 

 

 

 

ラムの攻略法、その①

 

□ ツカサの名を出す。

 

 

これで高確率で身体を起こそうとする。

何故なら……。

 

 

「今日は、レムがツカサ君を起こしてきますね、姉様。だから、5分と言わずもっとゆっくりと……」

 

 

ロズワールから割り振られている役目でもあるほぼ付き人、専属、それがツカサ。だが、その役目をレムが行ったとしても、別に問題ない、というがロズワールの判断でもあるので、必ずというわけではない。

 

 

「……待ちなさいレム。やっぱり起きるわ。ラムの仕事をレムに任せっぱなしなのは、レムに悪いもの。さぁ、着替えさせて」

 

 

目を擦りながら、ラムは身体を起こした。

 

 

基本的にはその①でラムは、いう事を聞いてくれる。

因みに、その②は スバルである。スバルを優先する~的な事を言えばラムは可愛らしく拗ねて目を覚ますのだ。

 

レムがどちらの手を使うのか……、最近は主に①である。

 

 

 

まず顔を洗って、寝間着をすっかり着替えさせた後、椅子に座ったラムの髪をレムが梳かす。

 

 

 

「ふふ。寝るのが遅かったんですか? またツカサ君とどんなお話をしたか、レムにも教えてください」

「……大した事は話してないわ。ああ、レムの料理が美味しかった、みたいよ。起きるのが遅かったのは、レムが添い寝してくれないから寝つきが悪かったのよ」

「もう、何年も前の話じゃないですか。……それに、ツカサ君にはいつも好評を頂いてとても光栄ですね。これからも頑張ります。……姉様もツカサ君の為に、何か振舞ってはどうです?」

「ツカサを魔獣騒動以上に苦しめる事に繋がるわね。流石のラムも躊躇してしまうわ」

 

 

ラムの手料理を振舞うのは、当分先になるだろう、とレムは笑った。

ツカサなら、ラムの手料理なら喜んで食べてくれるだろう、とレムの中では決定事項なのである。……味の保証は考えてないが。

 

 

「……姉様。レムが髪の毛を伸ばしたら、スバル君に変に思われないでしょうか?」

 

 

ラムの髪をじっと見つめて、今度はレム自身の髪をいじりながら、ラムの意見を聞く。

 

 

「……エミリア様は、長くて綺麗な髪をしているものね」

 

 

ラムにはお見通し、である。

レムがどうして髪を伸ばそうとしているのか、スバルとエミリアの事を考えれば……。

そして、勿論ラムのレムに対する意見は当然決まっている。

 

 

「もちろん、間違いなく可愛いわ。だからこそ、バルスは八つ裂きの刑ね」

「姉様は、スバル君のことがお嫌いなんですか? ツカサ君は大好きなのに」

「……ツカサは話の流れでは関係ないから、一言余計よレム。……バルスの事は嫌いではないけれど、ラムの可愛いレムに相応しくないと思うことは別の話だわ」

「うふふ。関係ないとは思いませんよ。それにレムの目からは、ツカサ君と姉様は、とてもお似合いだと思いますよ。2人ともとても優しくて、とても強くて。理想です」

「っ……、そうね。バルスと比べたら、誰でもそうなるかもね」

 

 

否定したりはしない。

 

何故なら、ラムとレムは共感覚で繋がっているから。特に強い想いに関してはたとえ離れていても伝わるのだ。

 

だからこそ、ラムはレムがスバルの事に夢中になったことを直ぐに気付いた。

つまり、それは逆も然り。

 

感情を押し殺す事はラムの得意とする事ではあるのだが、……事、ツカサに関しては感情を隠し切れなくなってしまっているのだ。

 

 

―――スバルとツカサの2人で魔獣騒動を対処しようとした、あの時から特に。

 

 

ラムは、レムに対して隠していても無駄である事はよく解っているのである。

 

そんな姉を慈しむ様に見てレムは告げる。

 

 

「姉様は自慢の姉様です」

「それも仕方ないわね。ラムは自慢したくなる姉だもの」

 

 

レムは未来の話を……スバルが言っていた通り、未来の話を頭の中で、夢想しながら微笑んだ。

 

ひょっとしたら、……いや、ひょっとしなくても、お義兄様が出来るだろう……という幸せな未来の話。

姉の幸せは自分の幸せでもあるから―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイドの仕事……邸内の清掃。

 

屋敷の中は大きくて広い掃除。一日でスバルは筋肉痛に苛まれる程なのだが、元来鬼の体力、そして努力家であるレム。研鑽を積み重ねてきたメイドスキルは極めて高い。

 

「スバルくん、楽しそうで可愛い……っ」

 

仕事を完璧に熟しながら、庭園でエミリアと楽しそうに話すスバルの事を観察するなど造作もないことである。

 

 

 

「……精霊との大切な時間の邪魔をして―――本当に度し難いヤツかしら」

「あはは。でも、楽しそうなのは良い事じゃないですか。……クルル(こいつ)も、一応、オレが楽しそうにしてた方が良いみたいですから、エミリアさんも楽しんでそうで、精霊たちもきっと同じでしょう」

「きゅきゅっ♪」

 

 

そんな時、ベアトリスとツカサ、クルルと出会った。

 

 

「ベアトリス様、ツカサ君」

「仕事お疲れ様、レム。……なんだか、悪いね、ほんとに……。たまにご飯を相伴に与れれば~ ってお願いだったのに、こんなに長く世話になって……」

 

 

元々は村に滞在する許可~というのが最初の褒美内容。

なのに、ここ最近はずっとロズワール邸に滞在させてもらっているのだから、低姿勢になるというものだ。

 

時折村にはいくものの、基本的にはロズワール邸にいるので、住まいが変わったと思った方が良い。

 

 

「いいえ。ツカサ君はレムや姉様、スバル君。それに村を救ってもらいました。返し足りない程の恩がありますよ。だから、レムの料理でよろしければ幾らでも!」

「……少し力を抜く事を覚えた方が良いのよ、お前は」

「! ひょっとして、レムを心配してくださったんですか?」

 

ベアトリスはレムを見ながらそう言い、言われた事に驚くのはレム。

いつも何処か興味がなさそうな様子を見せるベアトリスから、心配されるのには驚きがある。

 

 

「最近のお前は力が入りっぱなし。見ていて危なっかしいかしら。適度に様子を見ておこうと思ったのよ」

「きゅっきゅんっ♪」

 

 

ベアトリスの肩に乗っているクルルも胸を張りながら頷いた。

クルルの様子を、その反応を見て、レムは色々と思う所が多くあった。

 

 

「クルル様も……? 私に戯れてくださったのはそう言う訳が?」

「きゅんっ♪」

「いや、クルルの場合はただ、レムと遊びたかっただけ、の割合が大きいと思うよ。ベアトリスさんにも最初から懐いちゃってるし、色々と大変で迷惑ばかりだ」

「そんなことないのよ。クルルはにーちゃに次ぐ最高かしら。それに、お前の事はクルルが発案した事かしら。……ベティーはちょっぴり、参加してあげただけに過ぎないのよ」

 

 

皆に色々と支えられていることを、レムは痛感する。

ベアトリス、ツカサ、クルル。……この場にいる全員に。

 

 

「ありがとうございます! そのお気持ち――本当にうれしいです。今後はもっと死力を尽くしてやらせていただきます!」

「って、なんでそーなるのかしら! 適度に力をぬいて、疲れないようにするかしら! クルルに癒されるが良いのよ」

 

 

肩に乗ったクルルを右手に移動させると、レムの方へと向けた。

きゅん、と鳴きながらレムの肩に飛び乗ると、その頬に摺り寄せる。

 

 

「あは、あはは、くすぐったいですよぉ。……ふふふ、皆さん、本当にありがとうございます。こうして、レムの事を心配してくださる事が、レムにとってとても光栄で、とてもうれしいです」

「……はぁ、何を笑って言うかと思えば。お前は特にあの男の変な影響を受け過ぎなのよ。姉の方は、こっちに影響受けっぱなしかしら」

 

 

ベアトリスは、窓の外、庭園にいるスバルを……、そして次にツカサの方を見た。

 

 

「え? オレですか?」

「自覚ないとか、嘲笑ものなのよ」

「はいっ! 姉様はツカサ君のおかげでとても可愛らしくなりました! きっと、ツカサ君のおかげです!」

 

 

ラムの話題+ツカサの影響、と言う所に注目したかと思えば、一足飛び足でツカサの前へと駆け寄ったレム。両手をぎゅっ、と握って力強く断言する様に。

 

 

「あははは、それはこちらこそ光栄だよ」

 

 

ラムが自分で可愛らしくなった、というのは兎も角、ラムのあの顔(・・・)を覚えているツカサとしては、ラムが幸せならそれだけでも十分喜ばしいのはツカサも同じだから。

 

 

「それに、更に言うなら……、ベアトリスさんも影響を受けてそうな気がしますよ? 特にスバルの影響」

「は?」

 

 

何言ってんだ? こいつ。みたいな顔をするベアトリスだったが、レムの肩に乗っていたクルルは、また飛んで、ベアトリスの肩に乗って。

 

 

「きゅんきゅんっ!」

 

 

二度、三度と頷いた。

激しく肯定している。

 

 

「私もそう思いますよ、ベアトリス様」

「……なかなか強烈な皮肉なのよ。そろそろ、書庫に戻るかしら」

 

 

全員が肯定するものだから、ばつが悪くなったのか、ベアトリスは背を向けた。

 

 

「クルル。ベアトリスさんに迷惑をかけるなよ」

「きゅんっ」

 

「あっ、ベアトリス様、また朝食の時間にお呼びに上がりますので」

 

 

ベアトリスは、無言で手を振ると、クルルと一緒にそのまま陰魔法で扉の先を禁書庫へと繋げて、禁書庫の中へと戻っていった。

 

 

「ベアトリス様もやっぱり変わられたと思いますよ。ね? ツカサ君」

「んー。変わる前? のベアトリスさんを知らないからね、オレは。元々優しかったのは知ってるんだけど。……それにしても、変わる切っ掛けの1人が自分かもしれない、って言うのは何だか気恥ずかしいね……」

「ふふ、良い風に変わられたと思いますので、誇って良いのではないでしょうか? 少なくとも……、姉様の事はレムの太鼓判です!」

 

 

 

その後、暫くツカサと談笑を続けた後、再びレムは仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリアのティータイム。

 

 

王選の勉強を続けているエミリアの息抜きタイムでもある。給仕係としてレムがいるのだ。

 

 

「わっ、今日はレムがお茶を淹れてくれるのね。すごーく久しぶり」

「スバル君は一緒じゃなかったのですか?」

「ええ。スバルはラムに仕事を頼まれてて、忙しそうにしてるわよ」

「あれ? 姉様は……、あっ!」

「???」

 

 

レムは先ほど、ラムと出会った時のことを思い出して思わず口を噤んだが、もうエミリアに聞かれてしまったので、隠す事もないだろう。

 

 

「姉様はツカサ君と村に買い物に向かったので。スバル君に姉様の仕事を頼んだんだと思いまして」

「へぇー、2人は今日も仲良しっ! すごーく良い事ね!」

「はいっ! ……欲を言えば、スバル君も姉様と仲良くなってほしいと思ってます」

「うん、私も大賛成! 皆仲良くが一番!」

 

 

話をしている間も、手際よく準備を続ける。

エミリアの前に一式、揃えたところで手を止めて、エミリアの傍らに立つレム。

それを見てエミリアは首を傾げた。

 

 

「あれ? レムの分は? 飲まないの?」

 

 

それは、エミリア一人分しか用意されていない事に対しての疑問だった。

でも、レムはそれは当然、と言った様子で続ける。

 

 

「いえ、レムは単なる給仕ですから。エミリア様とご一緒なんて……」

「でも、ツカサもスバルも、それにラムも一緒に飲んでいくよ?」

「……では、レムもお言葉に甘えます」

 

 

ツカサは客人扱いだからまだしも、同じ給仕であるラム、スバルも一緒に飲んでいるというのに、このままではレムだけが仲間外れ……なので、エミリアは是非との姿勢。レムもそれなら……と、自分の分を用意し、エミリアと対面する形で座った。

 

 

「ふふ。こうやって静かにお茶を飲むのも素敵よね。いつもはスバルがたくさんお話ししてくれたり、ツカサはクルルと一緒だから、パックとクルルとツカサと私で、賑やかになるし、ラムは勉強の事で助言してくれるの。……レムと一緒だと、すごーく落ち着く」

「!」

 

 

エミリアに自分と一緒にいると落ち着く―――と言ってもらえた事にレムは驚く。

元来、レムはエミリアと深くかかわる事はなるべく避けていた。

それに、ラムと比べたら明らかに少ない。

 

その理由は……スバルの事を狙っていた嘗ての件と似ている。

そう―――スバルは、魔女の残り香。

エミリアは、その容姿とハーフエルフと言う種族。―――嫉妬の魔女と似ているその姿ゆえにだ。

 

 

 

 

もしも――、エミリアに王選の件がなく、スバルと同じ扱い、この屋敷に雇われた身だったとするなら?

……彼女の事も狙っていたかもしれないだろう。

 

 

 

 

実際は、……今はそんなことはなく、平和にお茶を飲み交わしているのだが。

それはあり得ない世界線での話だ。

 

 

 

 

 

「勉強の進み具合はいかがですか?」

「悪くはない……といいなって思ってるの。私の場合、他の人よりも遅れてるから、もっと頑張らなくちゃだけど……」

 

 

エミリアの悩みを聞いている内に、なんだかレムは自身と被ってみた気がした。

 

 

「レムや姉様も屋敷にきた直後は、まず学ばせていただくことばかりでしたから、お気持ちは解ります」

「うーん、やっぱり近道なんてないのよね。焦る気持ちもあったんだけど……コツコツ続けないとダメね」

「! エミリア様でも焦ったりするんですか?」

「もうっ、当たり前じゃない」

 

 

いつもしっかりしている様に見えて、その実……そうではないらしい。

エミリアに関わる事を控えていたレムは、また違うエミリアの一面を見て……。

 

 

 

「エミリア様は歌うのがとても残念ですね」

「ええ!?」

 

 

それは以前、宴会での席。

どういう切っ掛けか、エミリアが歌を披露した事があった。……お世辞にも歌が上手い……とは言えない出来。

 

 

「あと、意外と手先が不器用ですし、それに周りの影響を受けやすくて……」

「えっ? ええっ? やだ、急にどうしたの、レム??」

 

 

恥ずかしい所を次々と暴露。

どれもこれもエミリア自身が自覚していることだから、尚更恥ずかしい。なかなか直る事ではないから。

 

 

「これらは全部この1カ月でレムが知った事です。……エミリア様の事を沢山見て、知りました」

「むむ~~……ん! じゃあ、私も!」

 

 

エミリアはお返し、と言わんばかりに反論。

 

 

「レムって、実はすごーく頑固で意地っ張り、あと絵本とか詩歌が好きで、スバルが言い出した調味料のマヨネーズがちょっと苦手。あ、でもスバルとはとっても仲良し!」

「さすが、エミリア様! 反論の余地はありません! 特に最後のは納得です!」

 

「ふふふ。スバルもツカサも、いい風をここに齎してくれた、って思ってるの。すごーく感謝してる。それに、ラムやレムと話すことがずっと増えたのもそう! ……でも、いきなりどうしたの?」

 

 

突然、レムが言い出した事に疑問を覚えたエミリアは、どうしたのか? と聞いた所、レムは意を決したように告げる。

 

 

「レムは、レムもエミリア様を応援してます! その、レムの力なんてとても小さいとは思いますが、この微力で出来る限り、エミリア様を知っていこう、レムはそう思いました」

「! …………えと、変なところばっかりじゃなかった?」

「……そんなことは、あったかもしれませんね」

「そっか、そう、だよね」

 

 

正直に告げられる事。

それが良い事だけだとは言えない。時には傷つけることだってあるから、それをエミリアはよく知っているから。

 

だが、レムの言葉はうれしい。うれしいものだった。

 

 

「ありがと。レムがそう言ってくれてすごーく嬉しい! ほんと……良い風を運んでくれた。やっぱり、間違ってないわね? レムもラムも、私も。……皆」

「はい。スバル君とツカサ君、そういう名の風です。とても、素敵です。……姉様もきっと、同じ様に感じていると思います」

「ふふふっ。ラムとツカサはずっと仲良しだもんね」

 

 

エミリアとレム。

今日はまた一段と……距離が縮まり、よりよく互いの事を知る切っ掛けになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の夜……ロズワールと大精霊パックの晩酌の準備。

腕を振るって料理を運ぶ。

 

 

「う~ん、僕の本能を揺さぶるいい匂いだね」

「お気に召していただければ幸いです。では、失礼いたします」

 

 

長居は無用、2人の邪魔をせずに早々に立ち去ろうとしたが。

 

 

「ご苦労様、と言いたいところだーぁけど、ちょっと付き合ってもらおうか」

「―――! あの、レムはお酒は……」

「飲めないのは知ってるとーぉも。臭いも危ないってね。大丈夫離しておくさ」

 

 

レムが酒がダメなのは、周知の事実になっているのだ。

 

 

「鬼は酒好き、酒豪揃いて噂なのにね~」

「顔色も変わらないラムにも驚くが、レムにも別の意味で驚かされる」

「あー、前の宴会の時、リアと二人でフワフワしてたもんね? あれはあれでかわいかったからいいけど」

 

 

ほんの少量酒を飲んだだけで、顔を真っ赤にさせて、エミリアと抱き合ったりして色々大変だった……事はない。

いつもとは違う二人を微笑ましく見る事が出来て楽しかった、と言うのが本音だ。

 

 

「その節は大変みっともない所を……」

「いやいや、いいとも。……いい、と言えば、レム。その顔だ。困ったときに困った顔をするようになったね。良いことだと思うよ。……さて、ここからが本題だ。スバル君とツカサ君の事だーぁよ」

「! お二人の……、お聞きします」

 

 

恥ずかしい行いに、顔を赤くさせていたレムだったが、直ぐに調子を戻す。

スバルの事とツカサの事。……ツカサの事に関しては、姉にも止められない限り報告するべき、と一言一句聞き逃さない構えだ。

 

 

「まずはツカサ君の事だーぁよ。アストレア家から王都への招待状が届いた。どうも、彼に褒章を。叙勲と言う形も取りたい、との事だーぁね」

「ツカサ君がですか!? 王都の叙勲!?」

「ほんと、あの子はスゴイよね。クルルもすっごいけど、何と言うか、いろんな常識? っていうのが欠如してるみたいでさ? リアとはまた違った感じで、可愛らしいとも思うけど」

 

叙勲の話にレムは驚き、パックもどこか呆れ気味に驚いていた。

離れ業をいくつやれば気が済むのだろう? と。……だが、友好的な間柄になれているのは実に幸運である、とも思っている。エミリアの心強い味方になってくれているのだから。

 

 

 

「そうだ。正直、眉唾ものだったのだが、彼が王都に、持ち込んだ魔獣の断片……、確認の結果、白鯨のものである、と王都で証明されたようなんだーぁよ。それに剣聖ラインハルトが強く推薦した。だから報酬、と言うより叙勲、勲章と言う形だぁーね」

 

 

ツカサの話は、以前にレムも聞いたことがある。

なんでも、単身で白鯨を撃退したとか、何とか。

 

正直、誇張されたものなのではないか? と最初は思っていて、彼の実力を知った後も、完全に信じたか? と問われればやっぱり難しい。

 

白鯨とは、嫉妬の魔女が400年前にこの世界に生み出し……、この世界を狩場として、跋扈し続けた存在であり、厄災と言って良い存在だ。

 

それを単身で……と思っていたのだが、さすがにロズワールの口から、それも正式に王都に召集された、と言う形になったのなら……、それが証明となるのだろう。

 

 

「丁度良いタイミングでもあるからねーぇ。ツカサ君にはラムを宛がう事にした。ラムには話を通してるから、確認してくれても良―ぃよ」

「は、はい!」

「うんうん。それと、こっちはレムに直接関係のある事だーぁね。次はスバル君の事だ」

「!」

 

 

ツカサの話題から、スバルの話題へと移る。

 

 

「スバル君は、短期間に数回ゲートを酷使した。その調子が良くないんだ」

「最初の1度はボクにも責任があると思うんだけど、乱暴な使い方を覚えちゃったみたいでね」

 

 

シャマクを教えたのはパックであり、実演もした。

スバルのマナを制御しながら、実際に使わせて見せたが……、その時も自爆するかの様にマナを放出。

最初はパックが一緒にいたから、まだ軽傷だったのだが、二度目はそうはいかなかったのだろう。

 

 

「流石のクルルでも、ゲートの修復~なんて離れ業までは出来ないみたいだし、ボクもお手上げだ」

「そう、だから彼には王国最高の治癒術士を当ててあげようと思ってねーぇ。……彼の功績に報いる義務も私にはあるからねーぇ。だから、ラムはツカサ君を、レムはスバル君を、それぞれ同行してもらいたいんだーぁよ。……もっとも、スバル君に関しては無茶しないように、見守る、監視、と言う役目をレムに与える。よろしく頼むよーぉ」

「そ、それはつまり……」

 

 

レムの感情は一気に爆発する。

 

 

「ロズワール様は与えてくださるというのですか!? レムと姉様の幸せを!! 大義名分を!!」

「! ものすごい自分都合に捻じ曲げたねーぇ」

「姉様も! 普段とは違う王都で、もっと積極的になれます! 四六時中共にあれる、と言う事はつまり! レムにとうとう、お義兄様が!! うれしい限りです! それに私もです! ずっと自制してました! スバル君の影を踏まない様に、吐いた息をなるべく吸わない様に、日々注意して過ごしているレムに、四六時中スバル君を見守れと命じるんですね!?」

「……そんな風に自分を縛ってたんだね~。それにお付き人から、一気に婚儀は気が早いよね? 面白そうだから良いけど」

 

 

今口にしたこと以外にも、色々と報告してない事は多々ある。

歯止めが利かなくなるのは、大体寝顔を拝見している時で、その数も相応なもの。

 

今は語るときではない、と口を閉ざした。

 

 

「とにかく! レムはこれよりロズワール様の命令により、スバル君に付きまといます! ご命令! 仕方なくです!! 姉様にもお伝えしないと……!! 私、とても楽しみにしているのです!!」

 

 

ビシッ! と敬礼して、レムはおぼつかない足取り、ふらふら、と移動をすると。

 

 

「それでは、失礼します。ロズワール様、大精霊様、よい夢を―――――」

 

 

ぽわぽわ、フワフワしている。

この様子は以前見たことがある。

 

 

「……たぶん、あの子風下にいたね? 酒の匂いを嗅いじゃったんだ。……前よりすごくなってない?」

「……流石に今のは狙ってませんからね?」

「はははは。ロズワールも可愛がってる娘が2人も嫁入りするなんて、心中穏やかじゃなかったりしてるんじゃない?」

「親心、っていうのを堪能するのも良いかもしれませーぇんね」

 

 

 

ロズワールとパックは暫く、今日のレムのネタを肴に、晩酌を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意気揚々とまず向かったのは、当然ラムの所。

 

 

「姉様姉様!! 聞きましたよ! 王都へ、ツカサ君と! 二人で!! 姉様! おめでとうございます!!」

「おめでとう? ……レム? ひょっとして酔っているの?」

 

一発でレムの状態に気付いたラム。

共感覚を用いる必要すらない。

 

 

「レムも、スバル君を四六時中見張れ、と命令を頂きました! なので、仕方なく、仕方なく、スバル君を見張る事にします! なので、姉様もぜひ、ツカサ君と夜をお過ごしください!」

「……自分で何言ってるのかわかってる? レム。ちょっと水でも飲んで落ち着きなさい」

 

 

 

その夜、ラムは珍しくも忙しかった。

いつもとは逆で、レムの世話。一度酔ってしまったレムはなかなか回復しないのは解っているから。

 

 

 

だが、ラムも満更ではない―――と言うのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

王都へ向かう事。

遊びに行く訳ではない。仕事だという事は解っているがそれでも、湧き上がる想いを胸に、レムを寝かしつけるラムだった。

 

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