Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
死ぬなよ! 絶対に死ぬなよ!!
が、叶うのか………、解りませんなぁ(^_-)-☆
王都からの使者
朝から実に精が出る。
これは、スバル本人から堂々と、自信満々に聞かされた事でもあるが、彼にとって朝と言う時間帯は、どうやら寝る時間らしい。好きな時間まで寝て、ゆっくり起きてダラダラして、そう言う生活を許された場所で暮らしていたとの事だ。
時折、苦々しい顔をする事があるので、自信満々に言っている様だが、本人は頭の何処かではその生活はよくない、改善しなくてはならない、と思っていた事だろう。
それが、この新たな場所、生まれて初めて労働をする場にて、これまでの遅れを挽回するかの様に実に精力的に活動をしている。
「あい! 最後に腕を天に伸ばしてフィニッシュ―――ヴィクトリー!!」
《ヴィクトリー!!》
活動内容は、特に業務とは関係のない、アーラム村での朝の日課。
何でも、《らじーおたいそう》と言う名で、古来から老若男女問わず広く慕われ続けてきた由緒正しい事らしい。
清々しさは、その体操に参加している者たち、アーラム村の住人、凡そ半数以上の皆の顔を見ればよく解る。
いきなりロズワール邸にやってきた使用人見習いが始めた《らじーおたいそう》は、どうやら村の一大ブームとして、大盛況らしい。
本人はここまで続くとは思っていなくて、業務の合間にせっせとスタンプカードなるモノまで用意しながらぼやいていた。
だが、楽しんでいるという事は傍目から見てもよく解る。
「すばるーー、体操終わった!」
「スタンプ、スタンプ‼ 早く押して!!」
「次は、ツカサと空中おすもう大会だ‼」
「次はお空飛ぼうっ‼ ツカサーー!」
「だーーっはっ! 朝っぱらからテンションたけぇな、おい! それに空中戦は以後中止だ、っつったろ! 惨めに叩き落されるのは、一回で良いわ!」
「空中の相撲大会は、正直真似したら危ないから、控えた方が良いね。……スバルを投げるだけなら別に良いんだけど、やっぱり子供達が飛んでる時に真似したら危ない」
「オレが危ない目に合うのは良いのかよっ!?」
まだスタンプを押し終えてない、つまりは体操がしっかりと終わってないのに、早くも次のアトラクションをご所望な小さなお客様方。
流石に、ただの空中浮遊ならまだしも、アクション性が高いものは危険度が倍どころじゃない。そんな空中アトラクションを楽しみにしている子供達を見ると、当然、心配する親御さん達も増える。なので最近では自重をしていたりもする。今の所、ちょっとした負傷者はスバルだけだと言うのが幸いだ。
スリル満点なのは、子供心を大いに刺激するので、自重しちゃってる事に関しては大ブーイングなのだが、そんな子供心でも、自分達の事を心配してくれてる事、魔獣騒動では 命を懸けて助けてくれた事も相余って、本気でブーイングを上げてる者は1人としていないが。
「ったく、まっ! 怪我しても、オレにはエミリアたんが心まで癒してくれる!
「もうっ、危ない事しない、って約束したでしょ? ほーら、そんな事より子供達が待ってるよ。スタンプスタンプ」
エミリアが袋に一緒に入れてあったインクの容器、それを芋の?先端に付けて、それを子供達が差し出したスバルお手製スタンプカードに押していく。
1人、また1人押すと歓声が上がっていくから、エミリアも嬉しくなってくる。
「おお、昨日はクルルだったけど、今日はパックだ」
「ホント、びっくり。パックにしか見えないわ。クルルの時も思ってたけど、スバルってすごーく絵が上手」
「はっはっは! 絵心満載、高名有名な絵師であるこのスバルにかかれば、朝飯前よ! 時間的にも!」
何でも、絵の修練の道を通ってきたからこそ、らしい。
生憎、スバルが居た場所では、絵師として大成は出来なかった様だが、少なくともアーラム村では大盛況だ。
クルルとパックと言う二大モフモフ、愛らしさ抜群。
この人気の勢いは恐らく留まる事を知らないだろう。(アーラム村内では)
「さっ、この後の部は、兄弟に任せて。オレは残り少ない時間を有効活用! THE・エミリアたんとデートだ!」
「? でぃと、は以前したばかりでしょ。ラムやレムが屋敷で待ってるんだから、終わったら直ぐに戻るよ」
「だいじょびだいじょび。屋敷まで一緒に歩いて戻るだけでも、プチデートになるのだ! エミリアたんと一緒ならいつでもどこでもどこまでも!」
「もう、ほんと調子良いんだから……」
呆れつつも、何処か楽しそうなエミリア。
最初、村に来ている時は、何処か険しそうな顔をしていた様だが、今はそんな風には見受けられない。
いつの日か……、今エミリアが装着している
「むむむむ、何エミリアたんに見惚れてんだ兄弟! 例え兄弟でも、命の恩人だったとしても、エミリアたんは渡せんからな! あげませーーん! オレのでーーす!」
「ちょっと、私はお人形さんじゃないんだから!」
「スバルって、勢い任せだと大胆な事も言えるよね? オレの、とか言っちゃって」
「ふぐっっ、れ、冷静に突っ込み禁止!! 勢い任せだって解ってんなら尚更だ! 頭ん中でリピートしたら、メッチャ恥ずかしいじゃんっ!」
「まーまー、後は若いお2人でどーぞ。オレはこれからちょこっと挨拶してくるから、別行動ね」
手をひらひら、と振ってツカサははしゃぐ子供達に囲まれながら、ムラオサ、若返りババア、青年団長………早々たる村のメンバーと共に奥へと入っていった。
「へへへっ、若い2人でどーぞ! だって、エミリアたんっ!」
「もうっ、若いお2人で~って、私の年齢知らない癖に……」
「そこは……、ほら。麗しなお姫様、女王候補様の年齢を問うなんて、不敬が過ぎる、って事で! なんなら罰則対象にもなりそうだし?」
「そんな事で罰したりしないわよ。すごーく心外」
色々と話しながらも、スバルはツカサに多大なる感謝を送る。
エミリア好き好きなのは、最早村中に知れ渡っている事で、そんなスバルを邪魔しようとか、無粋な事は考えてない。
結末がどうなるかは気になる所ではあるが、色々としがらみもあるので、時間をゆっくりと掛けて、成る様になれば良い。
ツカサは振り返って、スバルとエミリアの背中に笑顔のエールを送る。
……と言っても、直ぐにまた後で合流するのだが。
「王都に向かうのは明日、って話だし……、しっかりと村の皆には挨拶はしておかないと。……直ぐに戻ってくるとは思うんだけどねぇ」
何だか行く先々で、物凄く濃くて大変な事件に巻き込まれている感じがするツカサ。
考えただけでも縁起が悪いと思うのだが、そうもいかない。
少なくとも、王都とその近辺は ある意味魔境だ。
一般人が結構な頻度で死んだり、腸腸連呼してくる女と遭遇したり、デカイ鯨に食べられかけたり、道中で変なのに絡まれたり、と基本大変だった。
ロズワール邸で繰り返した日々も相応に長く感じたが、王都だって負けてはいない。
「―――……何事も無ければ良いけど」
ツカサは呟く。
恐らく、この時スバルが聞いていたら、盛大にこう叫ぶだろう。
《そのフラグ建てるのヤメテ!!》
と。
小一時間程遅れて、ツカサもロズワール邸へと戻る。
特に子供達に物凄く残念がられたが、直ぐ戻ってくる事を約束して、何とか解放して貰えた。
戻ってきたら、スバルを含めた皆でもっと遊ぶ、と言う約束を交わして。
「ん? あれ?」
ロズワール邸に到着……すると、屋敷の前に竜車が止まっているのが目に入った。
今日、来客がある事はラムからは聞いてないが……。
「ラムが忘れてた、って可能性は大いにあるな、うん。後は別に知らせる必要も無かった、って言う線も濃厚だけど」
力になる、とは言ったが、基本的にはツカサは屋敷では一客人的な立ち位置。ラムやレム、スバルの仕事の手伝いをしたりしてる事も多々あるので、客人―使用人の間を行ったり来たりしているよく解らない役職。
……別に、自分には関係のない今後の予定を逐一説明される必要性はないか、とも思いながら、竜車を横切ろうとしたその時だ。
「おかえりなさいませ。ただいま、門の前を失礼させていただいております」
竜車の影から、声が聞こえてきた。
その佇まいや眼光、そして立ち振る舞いの全てを見れば解る。
見た目は、ただの御者。老紳士だが―――中身はトンデモナイ。
これまで会ってきた中でも明らかに上位に位置するであろう使い手であると、肌で感じた。
「ほう………」
それは、この老紳士も同じなのだろう。
頭を下げて、上げた後。少し固まっているツカサの姿を見て……、何やら察した様に表情を変えたから。
「っと、申し訳ありません。挨拶して頂いたのに。申し遅れました。私はこの屋敷でお世話になってるツカサと申します」
「いえいえ。こちらも申し訳ない。ヴィルヘルム・トリアスと申します。カルステン家に仕え、仕事を頂けてる身でございます」
互いに挨拶を交わし、妙な間が生まれる。
傍から見れば、その2人の間だけが空気が違うのを感じ取れた事だろう。
それが証拠に……。
「なになに?? 今から果し合いでもなさるおつもりですか、兄弟?? それに御者さんも」
何故か、ティーセットを手に持ったスバルが、思わずギョッとしていたから。
スゴイ空気だったのを感じ取ったのだろう。……ただ、そんな中で普通に話に入ってくる当たり、スバルの神経もかなり図太いモノだと思われるが。
「果し合い……って、なんでそんな物騒な発想になるわけ? 普通に挨拶交わしてただけだよ、スバル」
「今のが普通、ってんなら、兄弟は常識欠如してると見たよ、一遍しらべてらっしゃい! 兄からの忠告です」
「……成る程、オレはスバルの弟って、ワケ。兄ならもっとしっかりしてもらいたいんだけどなぁ……」
スバルとツカサのやり取りを見て、軽く微笑む老紳士ヴィルヘルム。警戒していた……と言うには聊か程遠いと思われるが、少なくともスバルにはそう見えた様なので、改めて頭を下げた。
「ご無礼を申し訳ありません。老骨のつまらぬ習性……と思っていただければ。腕の立つ若人を目にすると、心湧き踊った次第で」
「スゲーーですね!? 一目で兄弟の凄さ理解するとか、マジパネーです!! それはさて置き一服如何っスか? 兄弟も欲しかったら、カップ持ってくるよ?」
「うんや。大丈夫。村でご馳走になってきたばかりだし。喉渇いてないから大丈夫(………それに、なーんだか裏がありそうだし)」
わざわざスバルが外に待つ御者であるヴィルヘルムに、お茶を振舞う。
使用人としての気遣いとも思わなくもないが、エミリアとの時間をふいにしてまで取る行動とは思えないので、取り合えず離れた位置で様子を見る事にした。
「うっし、んじゃ、兄弟の分まで取りに行く手間が省けて良かった、って事で、早速どうぞ」
「これはこれは、どうも。お言葉に甘えましょう。確か少々、喉が渇いておりましたので」
「取り合えず好みが解んないんで、一番高い奴にしときました」
「え………?」
サラっとスバルは言っていたが、ロズワール邸で備蓄している茶の中で一番高いのを持ってきた……と言う所を聞いて、ツカサは目が点になった。
それもその筈だ。
茶葉の管理は大雑把に見えて意外と舌が肥えているラムが行っている。
更に付け加えると、その茶葉の入った筒には大きく《持ち出し厳禁》と書かれている。スバルでも読める様にイ文字で、大きく。
ヴィルヘルムがこの時ツカサの顔を見ていれば、ある程度躊躇していたかもしれないが、今はスバルと対面中。
流石の凄まじいであろう力量を持つ老紳士であったとしても、見てない表情から事情を読む事は出来ない様で、流れる様な優雅とも言える所作でカップを受け取ると、そのまま口の中へと運ぶ。
一連の動作だけでも、気品の高い御者である事が解る。オットーも見習って貰いたいものだ。……彼は商人だけど。
「とても良い味です。かなり奮発されたものと思いますが……」
一含みしただけで、味を判別した様。
スバルの言葉を聞いたから、出た言葉だろう……とも思えなくもないが、ヴィルヘルムの所作からは、全てが一流な香りが漂うので、仮に高級茶であると偽って安い茶を出したとしても一瞬で見抜いてきそうだ。
「誇張でもなく、マジに一番高い茶ですよ。たぶん、勝手に飲んだのバレたら、桃色髪のメイドが本気ギレするくらいです」
「……確信犯だったなら、良いかな、別に」
管理している、と言うくらいだ。当然ラムも在庫量は逐一チェックしている事だろう。
一度使った程度……と思う事無かれ。仕事は結構杜撰でテキトー、とも思う事なかれ。
自分が出来る得意分野においては、驚く程に性能が良くなるのがラムだから。
だから、ラムが顔を真っ赤にさせて怒る想像は容易に出来る―――が、その怒りのベクトルを向けられるのはスバルだから、とツカサは思っていた………その時だ。
在ろう事か、不意打ちを喰らってしまうのは。
「ああ、でもその辺は気にしないで貰えれば! 兄弟2人でしっかりと頭を下げときますので」
「変なトコで巻き込まないでくれるかなぁ!? オレ、飲んでも無ければ持ち出してもないからね!?」
「いや、ワンチャン説教回避はあるかもよ! 何せ、持ち出し厳禁だろ? つまり、厨房からは持ち出さず、ちゃんと中で作って外に持ち出したんだから」
「うわっ、子供がする屁理屈と一緒だ」
「……ふむ、策士ですな」
しっかりと巻き込まれてしまった。
否定しようにも証拠がないので、中々ラムを説得するのが難しい。信用されてない訳ではないが、この手のやり取りまでは、すんなり信用とまでは行かない。スバルに甘々なレムであっても、同じ事だろう。
ヴィルヘルムは本当に感心しているのか、呆れてるのか解らないが、取り合えずスバルに策士の称号を送っていた。以前も策士・スバルと名乗っていたから、調子をよくするかな? と思ったのだが……。
「いえいえ。残念な事に相手にこの屁理屈が通じるとは思ってません。負け確7割。運次第。なので、オレと兄弟のコンボで乗り切ります」
「……ほんっと、良い迷惑だよ。マジで。一回封印されとく? クルルと頑張っちゃうよ、オレ」
「やめとく! つか、ツカサ、マジ、の使い方上手くなったなぁ!!」
ツカサの逆鱗に触れかけた様な気がしたので、懸命に拒否&話題を逸らせるスバル。
若者に囲まれて、悪く無い一時を過ごすヴィルヘルム。
高級茶を一通り堪能した所で、スバルの目を真っ直ぐ見据えて本題に入った。
「さて、それでこのお茶を撒餌に、この老骨に何をお求めですかな?」
「ありゃあ、バレてらっしゃった? ……うーん、これまであった中だと、ロズワールの次にやり辛いな、こりゃ」
「ほほう、メイザース辺境伯と同じように扱われるとは光栄ですな」
「いや、つまるところ変態と同等扱いって事ですよ? 怒られるの結構覚悟してたんですけど」
「……それが無ければ良かったと思うよ。どっちにも物凄く失礼だし。自重って忘れた?」
王都でも同じ様に自重を知らずに行動を勤しんだが為、色々と事件に巻き込まれ、結果短時間で何度も命を落とす結果になったスバル。
それに関して、結構声を上げて非難めいた事まで言って諫めた、と思っていたツカサなのだが……、やはり時間が経つにつれて薄れてしまうと言うものなのだろう。
本人の性格と言うのは、そう変えれるモノじゃないのは解っていたが。
「今は自重しちゃいられないんでね。悪いが目ぇ瞑ってくれぃ、兄弟! ……こほんっ、私はナツキ・スバル。現在ここロズワール邸にて使用人見習いをやっております」
「これはこれはご丁寧に。私はヴィルヘルムと申します。今はカルステン家に使え、仕事を頂いてる身になりますかな」
「互いに自己紹介も済んだところで……、今日の訪問内容を少々お聞きしても?? さわりだけでも結構ですので………」
ここまで云われた所でツカサも状況を把握。
使者が来たは良いのだが、スバルは門前払いを喰らったのだろう。
一応、活躍をした内の1人ではあるが、まだまだメイザース家の使用人見習いの枠を超えていない。王選絡みの話に入るには、少々荷が重すぎる。
撒餌を貰ったヴィルヘルムだったが、流石にそこは老紳士。相手に不快にさせない言葉を選び、淀みない仕草でしっかりと拒否。
「申し訳ない。あなた様が屋敷でどのような立場にあるのか解らない私には、迂闊な事を口にすることは出来ませぬ。どうか、ご理解を」
ここまで丁寧に応じてくれたヴィルヘルムにこれ以上突っかかるのは不躾極まりない。
それ以上に、口が堅いのはその佇まいからでも容易に解るヴィルヘルムの気持ちを曲げさせる交渉術など、スバルが持ち合わせてる訳がない。
ちらっ、と視線を送るアイコンタクトを受け取ったツカサだったが、これまでにそれなりに不興を買ったのが災いしたのか、或いはそんな事無くても即答だったのか、腕を交差させて、×を作りながら首を左右に振った。
八方塞、でも知りたい気持ちは抑えるには少々リビドーが強過ぎる……と、がっくり肩を落としたスバルを横目に、武士の情け、と言わんばかりにヴィルヘルムは続けた。
「ただ、王選候補者であるエミリア様と親しい間柄にある、というのは先ほどの様子から伺えましたな」
今日あったばかりの他人に、エミリアとの間柄を客観的に観られた評価を貰えて、一気に持ち直すスバル。単純極まれり。
「お、お、お、見えちゃいました!? オレとエミリアたんが仲睦まじい嬉し恥ずかし赤面トークしちゃってるの、見えちゃいました?」
「スバル。たん、って多分理解されないと思うから、ある程度補足した方が良いよ。混乱の元だ」
「お恥ずかしながら、私の見聞でも少々聞いた事が無い語尾ですな」
名前の後に着ける、スバル式愛着呼称。《●●たん》
今の所、エミリア以外では使ってないので、それが好意の最上級であると言う事は理解しているが、当然それ以上な意味はツカサも知らないし、ヴィルヘルムも聞いたことが無いとの事で、顔を少し顰めていた。
だが、顰めた理由は名前の方では無い様だ。
「……険しい道をお行きになりますな。相手はもしかすると、次期ルグニカの女王となられる相手ですよ?」
身分の違い、と言えばこれ以上ないだろう。
貴族様~どころか、国の頂点なのだから尚更だ。
だが、その衝撃はスバルはロズワール家に来た時に十分味わっている。
今更動じる様子は一切見せない。
「彼は覚悟はもう決めてるようですので。……初めて会った瞬間から、運命を感じたそうですよ」
「ほほう……」
「ちょ、ちょい! ハズイ事言わないでよ! そりゃ、ビンビンにセンサー働いちゃったけどさ!! あんな可愛い女の子なんだから! 可愛い女の子と冴えない使用人、って間柄だったら、ワンチャン、ツーチャン、可能性無限大! だろっ!? それに、そこはヴィルヘルムさんもきっと同じですよね? 奥さんの事、世界一可愛い、ってピンと来たからこそ、結婚されたのでは?」
「!」
初めて出会った時から……と言うツカサの言葉を聞いて。
そしてスバルからは、ヴィルヘルム自身の馴れ初め話を聴かれて、……一瞬だけ口籠る。
まるで、記憶の奥底から、秘められたそれを大切に取り出す様に……ゆっくりと言葉にした。
「妻は―――……なるほど。スバル様の言う通りです。私も妻が世界一美しいと思ってました。誰もが彼女を見ている気がした。……釣り合わないかも、などとは情けない」
ヴィルヘルムに共感を得られたスバルはここぞとばかりに深く入り込む。
「でしょでしょ? 誰か他のヤツに渡すくらいなら、相応しくないと思っても、どーにか一緒になりたい! 先にハートをぎゅっと掴みたいし、掴んでもらいたい。どうにかこうにか、手の届く位置にいてもらって……、あとはこっちが釣り合う様に、日進月歩。……ってな訳で、兄弟には負けん!! わたさん!」
「何がてなわけで、か解らないんだけど。また、エミリアさんに怒られるよ? 私モノじゃない~って。あんまりいうと、ぶつから、って」
「いや~~、ぶつって今日日きかねーな~~、って! エミリアたんの今日日聞かないシリーズを兄弟が言うんじゃねーよ! 新鮮味薄れるじゃん!」
「それこそ知らないから」
楽しそうに1人の女性を巡ってやり合う若人を見て、自身も少しだけ若返った様な感覚に見舞われる。
生憎、ヴィルヘルムの場合は女性関係で、このようなやり取りとは縁がなかったのだが……自身の妻の事を頭に浮かべ、そして同じく好意を持っている者が居たとするなら? 妻自身もどちらを選ぶか迷っていたとするなら?
「……私も、お恥ずかしながら、スバル様の様に牽制をしていたかもしれませぬな」
「おおっ! 共感してもらえるの嬉しいっす! どうです?? 同じ様な恋愛脳を持ち同士、ちょ~~っと腹を割って話すのは」
まだ諦めてないらしい。見事の一言。
「あくまで私は単なる御者です。事情に関してそこまで詳しく把握しているわけではありません。……なので、あなたのお役には立てそうにありませんな」
「ん~~、そっかなぁ? フード被ってるエミリアたんの素性に気付いたくらいだし、ただの御者って言い訳はちょいキツイと思いません?」
「…………」
思いの外、スバルは更にもう2歩程、ヴィルヘルムへと踏み込んだ様だ。
かなりの手練れである事は十分スバルも解っている筈なのに、こうも遠慮せず踏み込むとは、それ程までに共感したのが嬉しかったのか……、それで縮めても問題ないと思ったのか……。或いは単なる勢いなのか。
恐らくは勢いだけだろう。
スバルは指をたてて、立て続けに詰める。
「あのエミリアたんが着てたローブは、ややこしい術式が編まれてるロズっちお手製らしくて。なんでも認識阻害するとかなんとか。エミリアたんが許可してるか、その効果を突破できるような人でないと、エミリアたんに見えないらしいですよ」
エミリアの事情は、流石のスバルも解っている。
ハーフエルフで銀髪で………、そして嫉妬の魔女の事も。
もしかしたら、自分の身の内にいるのがその魔女だったなら、エミリアは絶対に関係ない! と断言できるのだが、それを証明する術がないのが悲しい所だ。
解ってくれるのはツカサだけ。……解ってくれる人が1人でもいる事自体は幸運ではあるが。……自身の死に戻りも然り。
ヴィルヘルムは、少々驚いた様に力なく首を振った。
「これはこれは、最初の時点でこちらを測っておられたとは……。あなたも人が悪い方ですな。友が心配なさる理由が十全に理解出来ると言うものです」
「……解って貰えて嬉しいですよ、ヴィルヘルムさん。スバルの場合、測る、と言うよりその場の勢いです。餌を見つけた魔獣みたいに、見境が無いんです」
「人をけだものみたいに言わないでくださいっっ!! 心配かけちゃってるのはゴメンさい! 自覚して、反省して、今後活かします!」
スバルの言葉を聞いて、《あてに出来ないでしょ?》と言わんばかりに苦笑いしながら首を振ってヴィルヘルムを見るツカサ。
ヴィルヘルムも、口には出さずとも、目を閉じて頷いてくれた。《確かに》と言わんばかりに。
ツーカーなやり取りを見せられて、共感を得られて、ある程度縮めれたと思っていたスバルが、またしてもツカサに一足飛び足で抜かれてしまった様をまざまざと見せつけられて肩を落とす。
「エミリアたんのライバルにはなって欲しくねーんですよ。これだから、兄弟は」
「ふふ。……ふむ。先ほどの返答を―――申しますとな。私はただの御者、と言う言い訳は通りますまい。お察しの通り、私は王選の関係者―――、いえ、関係者の関係者、と言うべきですかな」
「! つまり、それってオレや兄弟みたいな話? あー、でも兄弟は王都に呼ばれてる訳だから、オレよか先に行っちゃってるし……、オレ以上兄弟以下って感じな立ち位置ですか?」
「……ほう」
スバルのツカサが《王都に呼ばれている》と言う部分に着目するヴィルヘルム。
後々に解る事ではあるが、単にメイザース辺境伯で世話になっている程度の人物が、王都に召集されるとは考えにくい。色々と候補が上がるが………憶測、推測の域を出ないので、それ以上はいずれ答えが解るまで待ちとする事にした。
「理由が懸想でない事が、あなたと私の差異ですかな」
「世界一美人な奥さんがいるなら、浮気のひとつも考えないでしょ。可愛さならエミリアたんの方が上」
「いいえ。可愛さでも私の妻の方が上の筈です」
「「!!」」
茶化したつもりのスバル。だが、真っ向から言い返されてしまって思わずたじろいだ。
「……そう言うもの、ですよね。妻にする、と言う事は。自身の中では不動の最上位。これは挑んだスバルの負けかな?」
「うぐっっ、エミリアたん関係で遅れを取るなんて、考えられなかった……が、他人の認識を変えるまでの戦術はオレには持ち合わせてない!! って言うか、ヴィルヘルムさんが思ったよりお茶目で驚きました」
「……ふふ。若人、年少者にやり込められた老体の意地、と思っていただければ幸いですな。……おや、どうやら時間切れのようです」
「へ?」
ヴィルヘルムの視線の先を追ってみると……そこは屋敷の玄関。扉が左右に開かれており、中から出てきた。
「あれ? レムと……だれ?」
「使者の方かな?」
「ふぉぉぉ……、離れてても解る。これぞ、THE・ファンタジー! 定番のポイントの1つ!」
「よく解んない事を、初対面で言わない方が良いと思う、って一応言っとくね? 期待はしてないけど」
ヴィルヘルムを前にして全く物怖じしないスバルだ。……あの見た目な使者を前に、第一印象を前に、遜る様な事はしないだろう。
何せ、ツカサの辛辣な一言にも反応しなかったのだから。
「コラコラ~~そこの君ぃ? 美人がいるからって、そんなにじろじろと見てたら失礼だぞ」
ペコり、と軽く会釈を交わしたツカサとは違い、スバルはいつまでもガン見。
成る程、口に出さなくとも、こうなる運命か、とため息を吐く。
その様子を食い入る様に見つめ続けるスバルは、色んな忠告を完全に消去して思い続ける。
何せ特徴的なのは、この使者と思われる人物の頭部。……この村は勿論、ロズワールファミリーの中にも存在しない、獣の耳が備わっている。
つまり亜人。
王都で見かけた事はあるのだが、接触まではしてない。こうして実物を目の当たりにすると相応な威力があるそうで。
「ついに接触キター! 猫耳フサフサ!! モフリフトとしての魂が、目の前の存在を求めて―――――」
言動どころか、行動にまで移そうとしてたので、この辺りでツカサはクルルを出して、スバルの眼前に押し付けた。
「ふげっっ!!!」
「使者の方の前で、変な事しない。使用人見習い」
クルルでもモフモフしていろ、と言わんばかりに押し付けて、スバルの衝動を諫めた。
「ありゃりゃ、フェリちゃんなら、いつでも大丈夫なんだよ~~? ワザワザ精霊まで使って止めなくても良かったのに~~」
舌だしウインクをされて、スバルに戦慄が走る。
もう、ツカサの苦言など宇宙の彼方。
眼前にはクルルの最上級なモフリ具合が、視界の中にどうにか収めた眼前の猫耳美少女のその仕草が、スバルの全てを支配。
「くぅぅぅ、ここは地上の楽園か!? オレの名も入ってるし!!」
「………エミリアさんに言おうか?」
「マジカンベンしてください、スミマセン」
猫耳の破壊力は凄い様だが、まだエミリア至上主義は捨てきれない様子なスバルは即降伏した。
「ただいま、ヴィル爺。外で待たせてごめんネ? 退屈だったでしょ?」
「いえいえ。大変有意義な時間でした。こちらの方々が老骨の話し相手になってくださいましたので」
「ふみゅ?? おーー、なるほど!! えっと、エミリア様が言ってた……バルス? が君?」
「それ、エミリアたんじゃない、桃色髪のメイドだ」
「あっはは、そーだったそーだった! でも、それで大体解ったよ。エミリア様が言っていた男の子だ~って事と………」
クルルを肩に戻しているツカサの方に着目する。
「王都にお呼ばれしちゃってる、辺境伯曰く、スゴイ子は君なんだね? えーーっと、ツカサ君??」
「……ロズワールさんがどう説明したのかが気になる所ではありますが、ツカサで間違いないですよ」
上から下までなめるように見つめている少女は、何やら納得したのか満足したのか、視線をツカサからスバルに向けた。
後から見られた事に不満が――――あるワケが無い。猫耳美少女にじっくり見られて、身悶えるスバル。
反応を見せないツカサが異常なのだ、と言わんばかりに。
「いや、やめて。男だからってそんなジロジロ見られたら恥ずかしいじゃない!」
「にゃっはは、そう言わない言わない。なんたって、フェリちゃんのお仕事相手だもん? ちゃーーんと見せて貰わないと………」
「うえぇぇ!?」
そう言うと、フェリちゃん? と名乗る彼女はスバルに抱き着いた。
顔を殆ど密着されて、良い匂いまでして、とんでもない包容力を味わっているスバルは言葉にならない。
ツカサは別な意味で言葉にならない。
失礼な事を使者の方にしない様に、なるべく気を使った筈だったのだが、何処を間違えたのか解らないが、どうやら気に入られちゃった様だ。
第一印象で、こうまでに好意的にみられるスバルを初めて見たかもしれない。……子供以外で。
「ん……っと、多分これって……、あ!」
スバルが何をされているのか、大体雰囲気で察しようとしていたツカサだったが、そんな時不意にレムの顔が視界の中に入った。
いつもは、スバルを見る彼女の目は輝いている。好意的な眼差しをいつも向けていた筈なのに、今のスバルに向けている顔は、まさに無表情。
スバルに好意を持っているからこそ、スバルに別の女性が抱き着いている姿を見て……やはりそれなりの嫉妬を覚えるのだろう。
それも、普段からエミリアエミリア言っているスバルが、エミリアとはまた違う人に。
なので、レムは極めて事務的に、それでいて最大級のダメージが行くように、スバルに一言。
「エミリア様に報告させていただきます」
「やめてーーーーーー!!」