Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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な、なげー……です。_(_^_)_

まぁ、代わり映えが無い場面ではありまするが………、はやく デスデスデス! な人とか、空飛ぶ鯨に会いに行きたい……… ( ;∀;)


演出と覚悟と拒絶と

スバルにとっても、ツカサにとっても大本命だと言って良いのが、この次の候補者であるエミリア。

 

威勢よく、返事を返したは良いが……、この場ではあのいつも身に着けている認識阻害の術式で編まれたローブは使用していない。

アレを使用出来る訳がない。

 

玉座に着く者の正体を明かさないまま、その王座に就かせるのか? 性質の悪い冗談のように聞こえるだろう。

 

 

そして―――エミリアの名が、その姿が顕わになった事そのものが、見ている者にとって極めて悪質な冗談である、と捉える者が殆どの様だが。

 

 

 

《銀髪の……ハーフエルフ》

《半魔ではないか! なんと汚らわしい……!》

《……魔女の身形で、この王座に就こうと言うのか……!?》

 

 

 

エミリアへと悪意が集まる。

声こそは場をわきまえて居るのか、小さなものではあるが、その悪意は隠せられる訳が無いし、隠そうともしていない。

 

 

それを顕著に受け止めて、不快感を増していくのは、想い人であるスバルである。

 

 

「落ち着いてよ、スバル。……見届けるしかない。オレ達はただ、エミリアさんを信じて」

「! わ、わかってるよ。オレだってエミリアがずっと影で努力し続けたのを……知ってるんだ。当然っ! 信じてやらなきゃ誰が信じるってんだよ。………この場を考えたら」

「ふふ……」

 

 

スバルとツカサのやり取りを見ていたラインハルトは、朗らかな笑みを浮かべていた。

恐らく、ツカサがスバルをフォローしていなかったら、ラインハルトがその役を担っていた事だろう。

 

 

「ってオイ、最初から解ってましたー、みたいな顔で笑うなよラインハルト。掌の上かオレは」

「ちょっと何言ってるか解らないけど、僕は君達の事もエミリア様の事も信じているよ」

「……爽やかイケメンって、ズリーよ、まったく」

 

 

ラインハルトの意味深な笑みにまで反応する程、スバルは神経過敏になってしまっている。

ここで暴言暴動の類が起こりでもすれば……と考えたら スバルも瞬く間にその短い導火線に火が付く事だろう。

 

 

「―――念の為(・・・)に、かな」

 

 

ツカサは、そう呟くと自身の右肩に目をやった。

認識阻害どころではなく、視界から遮断されている存在―――クルルがそこには控えており、意思疎通が出来た様に大きく頷いて、その額の紅玉を光らせた。

 

 

 

そして、場は更にざわついた。

 

 

何故なら、エミリアの騎士―――とはまた違うが、推薦人であるロズワールも壇上へと上がったからだ。

その異質極まりない容姿を目の当たりにし、王国内外では変態扱い、王国一の魔術師は、王国一の変人であるのを改めて再確認するかの様。

 

何より、エミリアと言うハーフエルフを推挙した、と言う行動そのものが物語っている。

 

 

当のロズワールもそれを自覚しているのだろう。……否、そのことを楽しんでいる様にも見える。

 

 

 

「いや~、騎士勢が推挙者として続いた後だと、私の場違い感がすごくて、困りもの、だーぁよね? ねぇ?」

「………っ」

 

 

 

エミリアの緊張を解す役割も果たすであろう、その道化の姿。

 

だが、当のエミリアはそれどころでは無かった。

 

 

「(悪意に呑まれて、委縮しているねぇ……。()の姿を見て、その成り立ちを見て聞いて、多少なりとも前進出来たかと思ったんだけどねーぇ)」

 

 

ロズワールは、表情を落としているエミリアを見てそう評した。

 

 

そう―――候補者たちの演説の前の叙勲式。

 

 

エミリアもよく知っており、味方であると言える少ない人物の1人ツカサの話だ。

ロズワールは知る由も無い事ではあるが、あの叙勲式での事はエミリアの中での力になっている。

 

ツカサと言う青年は よく理解もせず、混乱の渦中に放り出されて、言わばこの世界の厄災とも言える悪意と遭遇した。

丁度エミリアと似ている。悪意と言う意味では同じ。だが、相手は命を奪う厄災。安易に同系列には見れないかもしれないが、共感は出来た。

 

 

そこで、厄災をどの様にして撃退? したのかは知る由も無い事だが、過去一切の記憶が無く、たった1人で降り立って……、そして昨今に至る。

 

これまでの経緯は決して並大抵の事では無かった筈だ。

 

それでも前を向き、堂々としている姿。……喝采を浴びている姿を見て、エミリアの中では彼が目標の様に思えた。

 

 

 

「ッ…………」

 

 

 

そんな自分が尻込みをしている場合ではない。怖気づいている場合ではない。

道を示してくれたし、何よりツカサは言ってくれた。

 

 

《絶対にエミリアさんの味方は居るから》

 

 

そう断言もしてくれた。

自分が言うと怒られるから、と言って言葉を濁していたが、この場に駆け付けたスバルの事も。

 

スバルが 助けてくれた意味が、その理由が今でも解らないエミリアに、言葉を濁しながらもはっきりと言ってくれた。

自分にとって、友好的で好意的であるからだと。誰かを助ける為に理由は要らない、と格好良い事をひょっとしたら思ってるのかもしれない、と。そんな中でエミリアが特別的だったのだと。

 

 

――――特別。

 

 

その言葉だけはエミリアにとって良いモノでは無かったが、純粋に想ってくれて、支援もしてくれているのは、パックの読心を使うまでも無くエミリアにも解った。

 

 

だから――――、背を押された今。自分が頑張らなければならない。

 

 

 

「エミリア様! そして、ロズワール・L・メイザース卿‼ 演説をお願い致します‼」

 

 

 

お誂え向きだ。

決意が固まったと同時に、演説の合図が来た。

 

力を振り絞り―――頭の中で思い描き、イメージした自分の姿をなぞるように……。

 

 

 

「お、おはっ……お初にお目に、かかりましゅっ……! わ、私は私の名は、え、エミリア……です! かっ、家名はありません……。た、ただのエミリア……とお呼びください……!!」

 

 

 

決意は出来た。覚悟も出来た。

 

 

―――が、圧倒的に経験が足りてなかった……。

 

 

悪意云々は兎も角、これ程までの大勢の中で演説する、と言う経験が全く。

 

 

「だ、駄目じゃん……! しゅっ、って可愛いけれども!!」

「す、スバル。声声‼ エミリアさんだって頑張ってるんだから……」

 

 

 

違う方向性で見れば、噛んだ姿とか可愛らしい萌えポイントである、とスバルは喜ばしく高得点ポイントだと断言できるが、この場では、それが通用するのは間違いなく自分以外には居ない。

 

あまりにも上がり過ぎてるエミリアを見てられなくなった気持ちは解るが、だからと言って声を上げたり、何か行動をするような事をすれば……、どうなる? エミリアの救いになるだろうか? いや、余計にエミリアを惨めにしてしまう結果に繋がるかもしれない。

 

スバルとて、それくらいは理解出来る様で、どうにか指摘された通りに声を抑えた。

 

 

―――だが、度々野次を飛ばしていた賢人会の1人はそうはいかない。

 

 

 

微笑ましい、どころではない。忌々しい感情しかないのだから。

 

 

 

「ロズワール‼ 貴様、解っておるのか!? 銀髪の半魔など玉座の間に入れる事すら汚らわしい事を!!」

 

 

 

所々で野次を入れてくるのは,賢人会が1人ボルドーだ。

 

因みに、クルシュの時もプリシラの時も、アナスタシアの時も少なからず彼は横やりを入れている。

 

庶民感覚で言えば、感情的になり文句の1つくらい言いたくなるのは解るし、そう言う人選も頂点に位置する面子の中には1人は必要だと思えるのだが、そう何度も進行を邪魔する様な野次は堪えて貰いたいものだ。

 

王国最高峰の勲章を与える、と言う叙勲式の際にも 前例がない事だ、とブツブツ言っていたのをツカサは見ている。

礼節を重んじ、過去を重んじるのも大切だと思うが、少々彼は未来を、先を見据えていない、と言うのが大方の評価である。

 

 

 

「ボルドー殿。口が過ぎますな」

「‼ マイクロトフ殿もお分かりであろう!?」

 

 

流石に戒めるマイクロトフだが、この時ばかりはボルドーは止まりはしなかった。

前の候補者たちとは 圧倒的に違う。

それ程までに凶大な闇を内包しているのがハーフエルフと言う人種だからだ。

 

 

―――そう、全てはあの忌むべき魔女(・・・・・・・・)に通じるが故に。

 

 

「かつて世界の半分を飲み干し、破滅へと追いやった存在――――。あの半魔は語り継がれる《嫉妬の魔女》の姿そのものではないか‼」

 

 

400年も前の話だ。

情報の真偽も正直怪しく思ってしまうのは、この世界の外から来た者たちの感性だろう。

 

 

幼少期より刷り込まれた厄災の話。

それが齎し続けてきた偏見や差別と言う毒は、もう世界を蝕んでしまっている。

 

 

それを解くのは並大抵の事では済まない。

 

 

「あの者を見て、震え上がる者がどれほどいると思うのだ!!」

 

 

「………………っ」

 

 

自覚してしまっているからだろう。

エミリアがこれまで歩いてきた道筋、その道で何があったのかを。十分過ぎる程知っている。ボルドーに言われるまでも無く、彼女は知っている。

 

だからこそ、表情を硬く、暗くさせてしまっていた。

だが、そんなエミリアの顔も一変する。

 

 

何故なら、唯一の味方である内の1人―――である筈のロズワールの口から予想だにしなかった言葉が告げられたから。

 

 

 

わかっていらっしゃる(・・・・・・・・・・)ではないですか、ボルドー様」

「え?」

 

 

 

いつもの口調では無く、それでいて真剣身もそこにはある。

ロズワールにそぐわない事だらけだ。

 

 

「……どういう意味だ? ロズワール」

「ボルドー様がおっしゃったように、彼女は国民には受け入れがたい存在です。……しかし、それは我々にとって有益な盤上の駒に成り得る。……即ち 当て馬(・・・)。言葉は悪いですが、ひとつそぉーんな感じで考えてはどうでしょう?」

 

 

エミリアだけじゃない。

スバルの顔も固まった。

 

エミリアの味方である筈だと思っていた相手からのまさかの提案に。

 

エミリアの存在を否定する様な、それでいて踏み台にしようとしている様な扱いに、腸が煮えくり返った。

腸狩りに裂かれるまでも無く、飛び出す勢いで。

 

 

そんな憤怒を悟られる訳も無く、粛々と進んでいく。

 

 

「つまり、この王選を実質的に4人の争いにする、と申されているのでしょうかな?」

「ええ。その通りです。……マイクロトフ様」

 

 

 

憤怒が頂点にまで上ったら、最早噴火は免れない。

自重する様に、と言われ続けていたスバルは、もう周りが一切見えなくなった。

 

 

 

「ロズワァァァァアルッッ!!」

 

 

 

無力だ。闘う力があるワケでも、魔道に精通しているワケでも無い。

それが、王国最高峰の魔術師相手に、何をしようとしても無駄だと言うのは頭で考えれば解る事だ。

半自爆技でもある唯一使える魔法は陰属性の初歩、シャマク。全てに適正があるロズワールに、その程度では 焼け石に水どころの話ではない。

 

 

 

「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

それでも、止まりはしない。考える思考を放棄し、ただ感情に任せているだけだから。

 

 

「「スバル!!」」

 

 

エミリアが、そして隣で見ていたラインハルトが声を上げるが……、それが届くワケも無く一直線にロズワールへと向かっていく。

 

 

 

「なーるほど。これはこれは。予想以上だ……。まさかここまで見えていないとは、ねーぇ。では、僭越ながら火のマナの最上級の火力を見せてあげようじゃなぁーいか」

 

 

ロズワールは、突進してくるスバルに向かって、右手に集中させたマナを……、マナを編み、全てを灰塵させる炎熱の炎を生み出した。

 

 

 

「アルゴーア‼」

 

 

 

それをただの人間が喰らえば、最早骨も残らない。一瞬にして灰燼に帰す事だろう。

 

 

だが――――、その炎はスバルの身体には届かなかった。

 

 

 

「きゅっ、きゅんっ‼」

「っ……、クルル……? お前、いつの間に……」

 

 

スバルの周囲は燃やしている。だが、その身体には届かない。

愛らしい緑の獣が、両手を伸ばし 夫々の腕を左右逆に円を描くように回していた。

 

 

すると―――スバルを囲っていた炎が宙に浮く。

城を燃やす事はしない。周りに被害を及ぼす事もあるまい。

 

 

スバルは反射的に背後を振り返った。

その見る先に居るのは、当然ながらツカサだ。何処か呆れている様で、それでいて何だか解っていた、と言わんばかりな表情に見えた。

 

 

「きゅきゅきゅきゅ~~」

 

 

円を描き、回していた手を止めて、ギュっ、と1つに交わす。

すると、極大の炎がみるみるうちに小さくなっていく。

 

 

 

「じゃあ、ボクもいってみようか。……愛娘を守る為にも、ね」

 

 

 

 

その炎を的に、更なる強大にして、凶悪とも呼べる無尽蔵の氷の矢を飛ばして、完全に消失させた。

 

 

「パック!!」

「ん。クルルに良いトコばっかり持っていかれる訳にはいかないからね? 親として立つ瀬無いや」

「きゅっ!」

 

 

パックとクルルは一緒になって、エミリアの方へと向かった。

 

 

「それ以上の暴挙は許さないわ。……もしも続けるっていうなら―――」

「愛娘の求めに従って、ボクも力をふるう事を辞さない、かな」

 

 

突如現れた2体の精霊に度胆を抜かれる場。

魔法を打ったロズワールはただただ笑っているだけではあるが、全く笑う事が出来ない。

 

 

「永久凍土の……終焉の獣……!?」

 

 

マイクロトフは、そのパックの姿に見覚えがある様で、今日一番の驚きの顔を見せていた。

呼ばれて愉快そうに笑った。

 

 

「へぇ、よく知ってたね。確かにそう呼ばれた事もあったよ。少しは詳しい若造も居る様で安心した。……但し、こっちの存在は知る筈も無いよね?」

 

 

パックは少し高く浮くとその直ぐ下で緑光を発しながら、最初にスバルを守った存在―――クルルが姿を現した。

 

 

終焉の獣(ボク)の友だ。四大精霊とはまた違う。―――人間の世界にはまだ姿を現してない筈だから、伝承すら残ってない。神代の時代より存在する大精霊クルルだ。……頭が高いかもしれないよ?」

「…………」

 

 

きゅっ! といつもの愛らしい鳴き声は、この場にはそぐわないので、自重したクルル。

ただ、額の紅玉だけを瞬かせて、存在感をアピールさせた。

 

 

 

「ん~~ふっふっふ。マイクロトフ様のご推察通りでございます。私も驚きを隠す事が出来ませんでしたねーぇ。かの四大精霊の他にも、強大な精霊が存在した事実。……超常なる二つの存在。彼らは今……エミリア様を守る精霊でもある」

 

 

エミリアの左右にパックとクルルが控えた。

 

王の威光と言うのなら、これ以上ない演出だ。

あまりの威圧感に、気圧されてしまう。

 

 

だが、それでも認めたくないのがボルドーだ。

 

 

「そんなバカな……! 四大に連なる精霊に加え、未知の精霊―――だと? それが使役される側など信じられる訳が……!」

 

 

まだ小うるさい蝿が飛んでいるのか、と言わんばかりにパックは視線を鋭くさせて、ボルドーを睨みつける。

 

 

「君達は、リアに感謝するといい……。可愛い愛娘の嘆願があるからこそ、ここで氷漬けにならずに済んでいるんだ。……娘を侮辱されて黙っていられる親など居ないだろう? ……だが、ボクはリア程は気が長く無いんだ。……慎んでもらおうか」

「…………」

 

 

その隣にクルルも控えている。

この2体の精霊を前に、誰がこれ以上の反論を行えるモノだろうか。

 

一瞬で氷漬けにされてしまう未来が見えるこの圧倒的な死を前にして。

 

 

「……ほっほっほ」

 

 

だが、そんな時に、修羅の場で笑うのはマイクロトフ。

 

 

「心胆縮み上がる面白い演出……。趣向ですな? ロズワール殿」

「! ありゃぁ……。ばれちゃいましたか、流石はマイクロトフ様」

 

 

マイクロトフの言う言葉の意味が理解出来ないのは、スバル、そしてエミリアだ。

 

 

 

「未知の大精霊様には驚きを覚えます……が、その力を如何なく発揮する事が出来るエミリア様。……それを見せる事でそれなり以上の力がエミリア様にはあると示す。そのための一芝居だったのでしょう? 今まさに―――四大に連なる、それに匹敵する複数の大精霊を傅かせるエミリア様の構図だ」

 

「え!? ええっっ!?」

 

 

 

マイクロトフの言葉で、漸く理解したエミリア。

ロズワールの言葉も、ロズワールの魔法も、そしてあろう事かクルルが止めに入る事まで全部仕組んでいたとの事だ。

 

更に付け加えると言うなら……。

 

 

「クルルも居た、って事は まさか、ツカサや、パックまで知って……!?」

「あー、いや。うん。リアの為だって、事前に相談されちゃったからね。クルルとも。でも、スバルにロズワールが攻撃するって言うのは予想外だったかな? 最初はロズワールの火力を防いで見せる、って感じだったんだけど………、いきなり趣向を変えるのは良く無いよロズワール」

「いやぁ、まーさかスバル君があそこまで面白い反応を見せてくれるとは思いもしなかったんでねーぇ。……ですが、これ以上ない効果が得られたと思いますよーぉ」

 

 

ロズワールはスバルの方をみて言った。

 

 

「エミリア様が真に恐ろしい存在であると言うのならば、彼の様に身を挺してでも、どんな場でも向かってこよう等とは考えないでしょう?」

「う、ぐ……、オレまんまと嵌められちゃった、ってことかよ……」

 

 

エミリアの存在を、恐ろしいものではないと否定する為にスバルの振舞は一定以上の効果があったと見込めるだろう。嫉妬の魔女に似たエミリアを守ろうとする姿を見れば、アレが演技であるとは到底思えない。

 

だが、それでもやり過ぎはやり過ぎだ。

 

 

「ロズワール‼ 貴様、この場を、この場を何だと心得ておる!!」

 

 

いつも文句の声を上げるのはボルドー。そろそろその口閉じて貰いたい気もするが、それを口にはしない。

ロズワールは頭を下げた。

 

 

「謝罪致します。ボルドー様。……ですが、エミリア様の恩情が無ければ、私達はこうして話す事も叶わなかった筈です。……大精霊様は知っておられました……が、愛娘と呼ぶ彼女を守ろうとする為なら、………あらゆる行使を厭わなかったでしょうからねーぇ」

「ッ…………それは脅迫か? ロズワール」

 

 

絶対的な力を持つ相手をちらつかせ、服従を迫るのか? と問うボルドーに対し、真っ向から返すのはロズワールではなく……。

 

 

 

「そうです。私は脅迫します」

 

 

 

 

エミリアだった。

先ほどまでの沈んだ表情はそこには無い。本当の意味で覚悟と決意に固まった顔をしていた。

 

 

「ゴメンなさい。ロズワール、パック、クルル。……それに、ツカサも。私はもう大丈夫」

 

 

自分の為に尽くしてくれた彼らに一声。心の中では一礼までして、賢人会の面々と本当の意味で対峙をする。

 

 

 

「改めて、栄誉ある賢人会の皆様に申し上げます。―――私の名はエミリア。家名はありません。ただのエミリアとお呼びください。……そして、先ほどの通り私は脅迫します。要求はたった1つ……公平であること!」

 

 

 

威風堂々。

先ほどまで完全に上がってしまい、言葉を噛んでしまった姿とはかけ離れている。

 

 

 

「……ツカサ、知ってたって事か。知ってた上で、オレにクルルを?」

「まさか。オレが知ってたのはロズワールさんとパックとで、エミリアさんの力を誇示する事の手伝いだよ。……その場面が来たら、きっとスバルも納得するかな、と思ってたら案の定だ。……念のためクルルを付けてた」

 

 

壇上に居る自分の精霊を見た。

目が合い、胸を張ってる様にも見えたが……、軽く舌を出しておこう。ただ褒めるのは何だか癪だから。何せ、クルルの中のヤツが提案した事でもあるので。

 

 

パックだけでなく、強大な精霊を複数従えるエミリアの姿を。

 

 

そして、今までであれば、ただの忌むべき姿、即刻退場願うと言った空気感が完全に吹き飛んでいる。大成功と言えるだろう。

 

エミリアの自信にもつながったのだから尚更。

 

 

 

「私にとって公平である事は、とても重要な事です。だから、契約した精霊たちを盾に、玉座を奪い取るだなんて、公平さを欠く行いは絶対にしない!」

 

 

 

その改めての宣言を聞き、いの一番に肩の力を抜いたのはボルドーだろう。

他の誰よりも直接的にエミリアを罵倒した、不敬をした男なのだから。

 

 

 

「……私は他の候補者に比べてもまだ未熟な存在です。知らない事ばかりだし、学ばなければならない事は山ほどある。……だから私は努力し続けます」

 

 

 

強大な存在の前で胡坐をかけば、大分楽になる事だろう。

力で従わせる事が出来る程のものを持っているのであれば、そちらに流れた方が楽だろう。

 

 

だが、目の前の少女は、それを拒んだ。

 

 

 

「――――今日ここで、目指すべき頂きが分かったから……! 私の努力が玉座に見合うものなのかは、分かりません。でも、その想いだけは他の候補者に負けたりしない! だから、公平な目で見て下さい。――――家名のない、ただのエミリアを!」

 

 

 

最も確実に近しい道を捨て、敢えて険しい道を選ぶ。

辛く困難な事も待っているだろう。彼女が生まれながらに背負う、その重み……呪いと言って良いソレは、どんな場面でも彼女を蝕み続ける事だろう。

 

 

だが、それでも彼女は前を向いて歩こうとしている。

目指すべき場所があるから。その道を真っ直ぐに――――。

 

 

その愚直なまでの想いが、心が――――届かない訳がない。響かない訳がない。

 

 

 

「エミリア様。……私の意見は決して変わらん。そなたの外見が、国民に及ぼす影響を考えれば……、王選に際し不利な立場にあるのは依然同じだ」

 

 

 

そんな中で、真っ先に声を掛けたのは……ボルドー。

ただの口だけな男ならば、ただ非難、批判するだけの男である小心者なのであれば、精霊たちの圧に押されたまま、口を挟む事など出来ないだろう。

 

だが、それでも声を上げるのは……、彼もまた、国を想っているが故になのだ。

その想いは、決して他に劣っている訳ではない。

 

 

「―――だが、先ほどの私の非礼はお詫びいたします。……エミリア様」

 

 

そして、己が間違っていた事を認める事も出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、兄弟。オレすげー感動してる」

「……そうだね。あんな小細工する必要なかったんじゃないかな? って思うくらいだよ」

 

 

スバルは、輝いて見えるエミリアを見て、心からそう思っていた。

そしてツカサも同じく。

力を貸した。威光と言う意味ではクルルも同じくらいの価値がある事だろう。誰もが知らない大精霊なのだから、当然と言えばそう。加えて、この世界でも有名である大精霊の証言があれば、その効果は何倍にも跳ね上がる。

 

―――だが、今は自身の元に戻ってきては少々不味いので、そのままエミリアの傍に控えて置いてもらう所存だ。

 

 

「それで、オレも固まったよ。……やっと覚悟が決まった」

「うん?」

 

 

スバルはエミリアを見据えて、はっきりと言った。

エミリア程……とは言うつもりは無いが、それでも嘘偽りではない、ふざけて言っている訳ではない事は解る。

 

 

「だから、止めてくれるなよ。……オレは、この場を借りて、大宣言する。自重しない!」

「……………それで、エミリアさんがどう思うかは……?」

「やった後に考える!」

 

 

 

ツカサはスバルが自分で考えて、決めた事なら……頭ごなしに否定したり止めたりはしない。

 

スバルだって自我がある。人形ではない。死ぬと言う最悪極まりない事に繋がるのであれば事前に止めようとも思うだろう。

 

でも生憎、一応警戒して記録(セーブ)は使ってないので、本当に見守る事しか出来ないが、それで構わない。

 

 

 

「―――して、そちらの御仁はどういった立場になるのですかな?」

 

 

 

お誂え向きだ。

マイクロトフがスバルに対して答えを求めてきた。

 

エミリアは元の位置に戻ろうとしていた矢先のまさかの質問で困惑している。先ほどまでの威厳に満ちた顔はもうそこにはない。

 

 

「あ、えっと、その、この子はその、私の……」

 

 

困った様に……いや、本当に困った顔で、どうにか言葉を選ぼうとするが、この場において適切である、と言える言葉が出てこなかった様だ。

 

 

だから、その間にスバルは一歩前に出る。

 

 

「ッッ! ――――あ、あのツカサ……」

 

 

暗に止めて、と言う風に見えなくもないが、最早手遅れ。

スバルはとっとと先に行ってしまった。

 

ツカサも少し頭を下げてエミリアに謝罪の気持ちを送る。

 

 

 

「いいよ、エミリア! オレも覚悟が決まった。遅くなったのは情けねぇが、君の声を、演説を、……君の姿を見て、覚悟が決まった!」

「え? いや、覚悟って、ちょっと待って! スバル!!」

 

 

 

エミリアの命令に背くのは、もう恒例。

止めようとするエミリアの静止を聞かず、賢人会の面々の前で威風堂々、態度だけは一人前以上。

 

 

 

「ご挨拶が遅れました。賢人会の皆様。オレの名前はナツキスバル。ロズワール邸の下男にして――――」

 

 

 

先ほどの演説では、エミリアの騎士の名は誰一人上がらなかった。ロズワールは推挙人。……つまり、今エミリアの騎士は不在なのだ。命を賭して彼女を守る存在が、公の場では居ない。

 

力量で言えば、ツカサが最適かもしれない。そのくらいは弁えている。

 

だが、スバルは口先だけで終えたく無かった。

エミリアを本当に守りたい、エミリアを王様にしたい、と言う気持ちは、他にも負けてない。

 

 

 

 

「エミリア様の、一の騎士!! どうぞ、お見知りおきをば、よしなに」

 

 

 

 

たかだかと拳を振り上げ、指を立てて、1番である、と象徴する。

 

 

自分自身の立場をはっきりさせた。

確かに場違いなのは解っている。急速に冷えていく場も解っている。

 

だが、これも覚悟の証でもある、と甘んじて受け入れるスバルだった。

 

 

 

 

「――—ふむ。騎士、ですかな。ロズワール辺境伯。説明を願いますかな?」

 

 

マイクロトフだけは決して呆れたり、冷めたりと言った感情を交えず、ただただ事実確認だけを進行していた。

 

 

「んっん~~、彼は少々もの知らずな子でしてねーぇ」

 

 

差しのロズワールも困惑を隠せられなかった様子だ。

横のエミリアも同じく固まってしまっている。下手をしたら演説を始める前よりも固まってしまっているかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唯一笑っている者と言えばプリシラだけだ。

 

《馬鹿じゃ、馬鹿がおるぞ!》

 

とセンスを手に大笑いをしていた。

その従者であり、先ほど一触即発になってたアルも。

 

《やらかした―――!》

 

 

と合いの手。

 

普段のスバルであれば、文句の1つでも2つでも言おうものだが、今凝り固まった決意に満ち溢れているので、プリシラの暴言、そしてアルには見て見ぬふりである。

 

 

「やっぱりそうだったんだね。スバルがエミリア様の……」

「覚悟決まった、って言った時点で、こう宣言するとは思ってたけど。ほんと勢いってすごいよ。……色んな意味で」

 

 

少々安易にツカサも考えていたのかもしれない。

そう、魔獣(ウルガルム等)の群れに正面から突進する様な無謀な事ならば、命に関わる事ならば止めただろうが、恥をかくかもしれない、と その程度で終わるだろう、と思っていた程度だった。

ラインハルトも大した事無い、寧ろスバルに感銘を受けたと言わんばかりだったのが更に拍車をかける。

 

 

 

―――このスバルの行動が 後に大変な事を起こしてしまうとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際のところ、エミリア様の騎士はどうなっておられるので? ロズワール辺境伯。申し分ない力量を持つ彼も、貴方の陣営に加わっているそうですが」

「そーぅですねーぇ。彼―――ツカサ殿に関しては少々複雑な事情が。先ほどにも仰ってた様に、自身の記憶の事を兼ね合いにして、重要な役どころを担うのには相応しくない、と辞退なされました……が、力を尽くしてくれると言ってくださったのでねーぇ。エミリア様の騎士、とはまた違う形。いわば用心棒の様なものでしょーぅか?」

 

 

ツカサに関してのエミリアとの間柄を掻い摘んで説明をした。

どちらかと言えば、用心棒ッポイのは、プリシラの騎士、アルの身形の方なのだが、と言う感想がちらほら、プリシラもエミリアを目の敵にでもするかの様な視線を送っていた。……手と口は出してない様なので、安心だが、一悶着あってもおかしくない様子だった。

気に入ってるがこそ、だろう。

 

 

 

「つまり、他の候補者と違い、現状エミリア様には騎士は不在と言う事になります。……その騎士の選出も簡単なものじゃありませんし。……いずれ王になられる方の騎士を名乗るなら、特にね」

 

 

ロズワールの言葉を、一言一句聞き逃すまいとスバルは彼を睨みつける様に見続けた。

 

 

 

「一の騎士としての資格……。主への忠誠心。主を守り抜く力。そして王となるべき主の道を切り開く特別な何か……、そういったものがなければねーぇ?」

「それだけでは足りませんよ。ロズワール辺境伯」

 

 

ここで、一歩前に出たのはアナスタシアの騎士ユリウスだった。

先日、スバルと一悶着あったというかの最優の騎士だ。

 

 

「まず、彼には器が足りない」

「……なんだと?」

 

 

ロズワールの指摘は最もだ。

少なくともこの場では特に長い付き合いの分類に入る男であり、そもそもスバルの主なのだから。

 

だが、ユリウスに関しては違う。

第一印象最悪な相手なのだから。

 

 

「人は自らの器を超えて何かを得る事は出来ない。……《騎士》と言う名誉はそう言うモノだ。だからこそ、私は《騎士》を辞退したと言う彼に、器の形(・・・)が明らかではない、と言う理由で辞退した彼に、……心より敬意を表したいと思う」

 

 

ユリウスはそう言うとスバルから視線を外し、ツカサの方を見て一礼をした。

どういう反応をすればよいのか、正直戸惑ってしまっているツカサは、ただただスバルを見守る事だけに徹する。

 

 

こう言う事態も含めて、覚悟をした筈だからだ。

 

 

騎士を名乗る以上は。

 

 

 

「……得る事は出来ない? そんな事やって見なきゃわかんねーだろ!?」

「……いいや、分かるとも」

 

 

頭を下げていたユリウスだが、スバルの返答を聞き、再びスバルに向き直した。

 

 

「我々騎士は日々、自覚と意識を高く持ち、心身の鍛錬をかかすことは無い。……君にそれと並ぶ覚悟はあるのかな? 奇しくも、もっとも君の傍に居る彼は、どういう覚悟を持って、騎士と言う名誉を放棄したか、それが解るだろうか?」

「………解んねぇよ。解んねぇ。……でも、アイツはオレと同じだって事くらいは解る。命を懸けて、エミリアや皆の為に戦えるヤツだって。オレにはそれだけ解ってりゃ良い。………そして、オレも同じでありたい。エミリアの為に、エミリアを王にする。その願いをオレが叶える。一翼を担うつもりだ」

「成る程。……だが、それは少々傲慢な答えだ。そうは思わないかい? そもそも、君にそれを実現できるだけの力が備わっていると?」

 

 

ユリウスの視線はより鋭くなって畳みかける様に言った。

 

 

「————400年、世界の脅威となり、脅かし続けた厄災を退ける力を持つ彼が辞退した。その騎士に。……彼に迫るとまでは言わない。……見劣りする事の無い程の力が備わっていると、そう思うのかい?」

 

 

騎士と言う名誉を、尊重したが故のツカサの行動。

あのまま、エミリアの騎士にツカサがなっていたとしてもユリウスは敬意を表していただろう。だが、その騎士を辞退したからこそ、より強く、より心から彼の事に対して敬意を払うようになったのだ。

 

騎士と言う名は、そう軽いものではない、と身をもって証明したも同然だと思えたから。

 

 

 

「……誰よりも近くで見てきた。だからこそ解る。オレなんざ足元にも及んでねぇ。滓も同然だ。……間違いなく力不足。……それでも、オレは覚悟を決めた。エミリアの為に生きる。エミリアの為に戦う。……エミリアの為に行動をする。それがオレの答えだ!」

 

 

ユリウスの圧に一歩も退かずに、スバルは前に出た。

ユリウスの後ろには、何十人と言う騎士たちが居る。

時折、ユリウスに同調するかのようにスバルに圧が飛んでくるが、それでも怯まない。

多勢に無勢かもしれないが、それでも。

 

 

「騎士って言う名を持つ仲間とつるんだ挙句、上から目線で偉そうな事を言ってくるヤツに……気持ちで負けてるとも思えねぇ!!」

 

 

そのスバルの答えを聞いて、ユリウスは少し息継ぎをすると……続けた。

 

 

「気持ちで、か。……ならば君はその強く気高い気持ちで、この場に立つ資格を得る為に、務めてきたのか? 常に高みにあろうと努め、その為に血反吐を吐き、自分の後ろにある大きなものの為には命すらなげうつ。騎士の資格とはそのような誉れの先にあるものなのだ!」

 

 

 

言葉が刃となってスバルに突き刺さる。

命賭して戦った経験は確かにあるにはあるが、圧倒的に実績面でも経験面でも足りていないのは明らかだ。

 

そして、何よりもユリウスの言葉ではないが……、その騎士の姿には やはりツカサと言う男が相応しいと思えてしまう。

 

彼でも、身に余ると手を退いた。……ユリウスの言葉がより深く、突き刺さってくるが、それでも。

 

 

 

「―――いった筈だ。覚悟は決めた。オレはエミリアを王にする」

「……解らないな。ここまで否定されてなぜ、君はこの場に立ち続ける?」

「何故? ……決まってる。エミリアが……、彼女が特別だからだ」

 

 

 

ユリウスの実態無き刃は、スバルには届かない。それを悟ったのかユリウスはため息を吐いて告げた。

 

 

 

「……どこまでも、強情だな。まぁ、良い。ならば私から言う事はもう何もあるまい。君が守りたいと尊ぶべき相手を定めている事は解った。……ただし、やはり君を《騎士》として認める訳にはいかないよ。騎士とは守るべき主の剣であり、盾でもあり、信頼と信用を寄せている相手である、と言うのは大前提だ。………騎士であるのなら、騎士たる者ならば、隣に立とうと望む相手に、あのような顔をさせてはならない」

 

 

 

隣に立つ、と言う事は認めたが、騎士としては決して認めてない。

ある程度妥協し、柔らかくなった、と思ったユリウスの言葉は、かつてない程苛烈なものだった。

 

ここで漸くスバルは視野が狭い事に気づかされる。

 

 

覚悟を決めた。

エミリアの為に。

 

 

それを頭に、頭の中に大前提に入れ続けていた筈なのに……、その彼女を見ていなかったのだ。

 

 

 

その―――あの時の決意に満ちていた顔が、……覚悟を決めさせてくれた眩しくて、見惚れていた筈のその顔が、そこには無かった。

 

 

 

 

「……もう、良いでしょうスバル。……賢人会の皆様、不要な時間を取らせてしまい、申し訳ありません。彼は、直ぐに下がらせます」

 

 

スバルの袖を引きながら、エミリアは頭を下げた。

不要な時間。その言葉が何よりも痛く、苦しく、スバルの心に突き刺さる。

 

だが、エミリアに抗弁をすることなどあるワケがない。

覚悟と決意、エミリアにそんな顔をさせた時点で、踏みにじってしまった事を気付かされたから。

 

覚悟を決めた、その決意など、……何処までも無力である、と悟らされた瞬間だった。

 

 

「有意義な時間、そう判断できる部分も有りましたよ、エミリア様。あなたが世に恐れられるハーフエルフとは違うと、彼は皆の前で証明してみせました。―――もしも、かの存在と同義であると言うのならば、そこまで頑なには成れないでしょうな。……良い従者をお持ちです」

 

 

マイクロトフからの賛辞の言葉だった。

だが、それはスバルには何ら影響がなく、エミリアにとっても同じ。

 

 

感情の凍えた冷たい目をして、ばっさりと何かを切り捨てるかのように、エミリアははっきりと言ったから。

 

 

 

「―――スバルは、私の従者なんかじゃありません」

 

 

 

拒絶の言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の最後まで、口を一切挟む事なく見届けたツカサ。

当然だ。万事物事上手くいくなんてスバルだって考えてないに決まっている。

 

 

あのロズワール邸の1週間だって、失敗を繰り返し、議論を重ね、最適の未来を模索して……漸く乗り越えたのだから。

だから、これで心が折れる……だなんてあり得ない。

 

 

「………大丈夫だ。スバルはきっと大丈夫だよ、ツカサ」

「ん。解っているよ。……ユリウスの言葉だって正しいと思うし、スバルの想いだって間違えてないと思う。……どちらかと言えば、記憶が浅いから、スバルの方に立ってしまうけど。――――スバルはエミリアさんに救われたんだ。ここで生きる意味を、見出したんだと思う。だから、否定されても、前を向き続けたんだ。………流石にエミリアさん直々に否定されちゃ、厳しいかもしれないけど。きっと、立ち上がるよ」

 

 

ラインハルトの言葉も、ラインハルトならきっとそう言うだろう、と解っていた言葉であったとしても、やはり嬉しいものだ。

 

苦難を共に超えた間柄であるスバルとは、兄弟と呼び友とも呼ぶスバルの事だから。

 

 

「じゃあ、次はラインハルトだね? ……フェルト(あの子)も一筋縄ではいかないと思うけど」

「ああ。全力を尽くすさ。……僕はフェルト様に運命を感じているんだ。君にも似たモノを感じている運命を」

「………………いやいやいや、流石にそれは無いんじゃない? 運命って言うのは、大事な人に取っておいてよ。気軽に使うもんじゃないよ」

「いいや、気軽になんか使ってないさ」

 

 

ラインハルトは、最後の候補者であるフェルトの名が呼ばれたのを知ると、ツカサに背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――生まれて初めてだったんだ。勝負(・・)で負けたのが。……そして、運命が導くままに、フェルト様にも出会えた。……気軽に使ってないつもりだよ」

 

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