Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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や~~っと長い長い王選終了‼ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
かと思えば、スバルんイベント発生~~。ここは原作同様外せませんな 笑

殺される心配は無いので、大丈夫でしょうなww


王選の開始と模擬戦

最後の候補者の1人―――フェルト。

 

候補者の中では最年少である彼女が、また一波乱を場に齎した。

 

 

 

「アタシは貧民街から無理矢理こっちに連れてこられたんだ‼ 王様になる気なんて、さらさらねーからな!!」

 

 

 

誘拐された被害者である‼

とこの演説の場で堂々と宣言したのである。

 

それはどの候補者とも違う、全く別の意味で混乱を齎せた。

 

 

但し、誘拐された被害者であるが故に――――ではなく彼女の出身についてだ。

 

 

 

《貧民街の出身だと……⁉》

《何故そのようなものがこの場に……⁉》

《ラインハルトは何を考えておるのだ》

 

 

 

血筋、家柄、それらに心から誇りに重んじているが故に、人は平等ではなく不相応と言うものが存在している。究極的に言えば、エミリアの言う様に平等である事が一番だ。生まれ、出身に関してはどうしようもないが、そこからどう這い上がるか、どれ程努力するかは本人次第。

 

最初から道が閉ざされているなんて、あまりにも惨めで残酷過ぎる事だろう。

 

 

だが、そう理想論だけで世の中が回らないのも事実だ。

 

 

貴族色がどうしても、それを拒んでしまうだろう。血筋に重んじていた者たちは、新たなる血の混血を拒むだろう。

 

だからこそ、ハーフである種族は、半魔と侮蔑されてしまうのだから。

 

 

そして、それは同じ人種である筈の人間にも言える事。

みずぼらしく、日銭を漁り、塵を漁り……そうして暮らしていく人間たちが貧民街の人間だ。

 

全ての人間に救いの手を差し伸べる事が出来るのであれば、貧民街など存在しない筈だから。

 

 

 

 

「………まぁ、フェルトの言い分も解る。すごーーく」

 

 

ひょんな事からエミリア的な口調になってしまったツカサ。

パックやスバルが聞いていたら文句言われそうだ……と思いながらも、ツカサはフェルトを見ていた。

 

少々難解に考えを張り巡らせていたが、フェルトの訴えの方がより共感できる。

 

ツカサのルグニカに関する歴史? 等の知識ははっきり言って浅い。

無知は罪である、と思ったが故に、この1ヶ月近くは 文字と並列してそれなりに歴史学や現状についての勉学に勤しんでいたりもする。

 

幸いな事にベアトリスの禁書庫でも、歴史書の類は 見せて貰える事が出来たし、書に記述されている事以外の闇の部分も、(勿論答えれる範囲内だとは思うが)ロズワールに聞いたり、ラムやレムにも、実際の街の様子を聞いた。

滞在したたった数日では見切れる訳がない街の事も聞いた。

 

 

ある程度判ってはいても、あまりにも浅すぎるが故に、歴史を重んじる一派より、日々の暮らしが突如としてガラリと変えられたであろうフェルト側の方が共感を持てたのだ。

 

 

 

「――――皆様の意見は解ります」

 

 

 

そんな中でのラインハルトの演説が始まる。

殆どが困惑若しくは反対側の意見であるのは解っているが、それでもラインハルトの信念は曲げる事は無い。

 

 

「フェルト様は、約1ヵ月前、貧民街の一角で保護致しました。その際、偶然にもフェルト様が竜の巫女の資格を持つ事が解ったのです。……その日、あらゆる運命の交錯をボクは感じました。全ての符号が一致し、その運命に身を委ねる事を決意致しました。――――故に、その導きのままに、この御方こそが次なる王に相応しい!」

 

 

ラインハルトの言っている言葉の意味を理解している者など殆ど居ないだろう。

ただ、唯一理解出来るのは、徽章がフェルトに反応を示した、と言う1点のみ。他の運命の類は、妄言だと思われても仕方が無い。

 

 

だが、そうだとしても、剣聖の家系。今代の剣聖であるラインハルトの発言力は決して低くないのだ。

 

 

「って、オイ!! テメェ!! アタシの話聞いてたのか!?」

 

 

そして、勿論ながらフェルトも何言ってるか解ってない側の人間。

 

 

ラインハルトは王にしたい。

フェルトは王になりたくない。

 

 

その水と油な関係性が、この場で一体何を齎すのか……、と思えたが、その決して混ざる事のないであろう関係性を、混成にまで導いたのは、外部からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 

外が急に騒がしくなった。

揉み合う音、争う声。そして、スバルが出て行った後から閉ざされている入り口の扉が乱暴に勢いよく開かれる。

 

 

「なんだ……? って、ロム爺……!?」

「……フェルト!」

 

 

開かれた扉から割り込んできたのは、何人もの衛兵を薙ぎ倒してきた巨漢の老躯。

その手には手枷が嵌められており、周囲の目には、脱走を企てようとしていた男だ、と認識したのも無理はない。

 

 

 

「あの時の……」

 

 

そして、勿論ツカサも見覚えがある。

盗掘蔵での1件で見ただけであり、言葉を交わした覚えは無い老人だ。

 

話を聴けば、フェルトの保護者、家族だった、と言う程度で……。

 

 

 

「いまだ! 捕まえろ!!」

「ぐっっ」

 

 

 

考える間も無く、慌ただしく展開が変わり続ける。

薙ぎ倒し続けてきたのだが、ここで力尽きた……と言う事なのだろうか、組み倒されてしまった。

 

だが、この場には近衛騎士団が揃っている。精鋭中の精鋭が揃っているのだ。この場に足を運んだ以上、彼の運命は決まってしまったも同然だが。

 

 

「ロム爺!! やめろお前ら! ロム爺を離せ!!」

 

 

ロム爺は、組み倒され苦悶の表情を浮かべていたが、それでもその目は何処か安堵の色が浮かんでいた。

 

彼はフェルトを心配して自分の命を懸けてこの場へと馳せ参じた様だ。

もしも、フェルトが危機的な状況であったのなら、身を挺して、命を捨ててでも連れ帰る覚悟だったのだろう。

 

 

もう悔いは無い、と言わんばかりの表情……。それに強く反応したのはフェルトだ。

 

 

 

「おいアンタ!! ロム爺を解放する様に言ってくれ!! ロム爺はアタシの事を心配してここまで来ただけなんだ!!」

 

 

王城へ、それも要人が一様に集まるこの場へ不法侵入に加えて狼藉。

捕まってしまえば死罪となってしまうだろう事はフェルトにも解っていたのだろう。近衛騎士団の団長で衛兵、騎士たちの中で一番の権力を持つであろうマーコスに言うが、彼は首を縦には振らない。

 

 

「残念ながら、従いかねます。……あなたは先ほど自らが王選を参加する意思はない、そうおっしゃいました。……我々の剣を受け取る意思がない以上、我々に命令する資格もございません。――――解っているな? ラインハルト」

「…………っ」

 

 

マーコスは、フェルトだけでなく、傍で控えていたラインハルトも牽制する。

ラインハルトであれば、瞬く間に解放する事は容易ではある……が、騎士団に名を連ねる以上、それは反逆の意思として取られてしまうだろう。

道理は間違いなくマーコスの側にあるのだから。

 

だからこそ、ラインハルトは動けない。この場を諫める事も出来ない。

 

彼が連れていかれたとしても、それを見ているしかできない。

 

 

「あーそうかよ……」

 

 

何もかも呆れるフェルト。

建前1つ無ければ満足に動く事が出来ないラインハルトも。そして、この世の理不尽な事に関しても全てそう。

 

 

「!! よせ!! フェルト!! こっちへ来るな!! ワシの事は心配いらん!! 貧民街の生活から抜け出すのがお前さんの目標だった筈じゃ!! お前さんの幸せはそちら側の世界にあるんじゃ!! ワシは見届けた! もう、覚悟は出来ておる!! 振り返るな!!」

 

 

ロム爺の言葉を聞いて、フェルトは益々苛立ちを募らせた。

 

綺麗に仕立て上げ、着付けてくれた歩きにくいこのドレスを破り、苛立つ思いを全てぶちまけながら歩を進める。

 

 

「どいつもこいつも……、訳わかんねー理屈抜かしやがって……‼」

 

 

歩を止めず、フェルトはとうとう組み倒されているロム爺の寸前の場所にまでやって来た。

いつもなら見上げる程の巨躯を持つ相手をこれ以上ない程見下ろしながら。

 

 

 

「……確かに、アタシはずっと貧民街から抜け出したいと思ってた……。あんなしみったれた場所嫌いだって。………でもな」

 

 

 

思いの丈、その全てをロム爺に、……家族(・・)にぶつける。

 

 

 

 

「自分の家族見捨てて、幸せになんかなれっかよ!!」

 

 

 

 

フェルトが向かう先に幸せが待っている。そう確信していた筈のロムの考えに、心にヒビが生じた。

それと同時に、もういつ以来か……気が遠くなる程昔から、とっくに枯れてしまっていたと思っていた目に涙が浮かぶ。

 

 

「フェルト……」

 

 

 

間違えていた事を今、痛感しながら フェルトの、大きくなったフェルトの姿を見続けた。

 

 

「もう一度言うぞ。ロム爺を離せ。……ロム爺はアタシの家族だ」

「……団長が言ったように、私共が従う理由は……」

「やるよ」

 

 

 

家族を助ける為に、必要なのであればやる。

それがロム爺とはまた違う覚悟の決め方。

 

 

 

「やってやるよ。王選ってヤツを。……アタシも王を目指す! だから、今すぐロム爺を離せ」

 

 

 

その言葉に、従わない者は居ない。

捕えていた衛兵たちは全て離し、胸に手を当ててフェルトに従った。

 

 

 

「ラインハルト!!」

「はっ! ここに!」

 

 

 

目にも止まらぬ速さで、いつの間にか、フェルトの傍に控えていたラインハルトに、貫禄のある命令を下すフェルト。

 

 

「ロム爺の手枷を頼む」

「は!」

 

 

一閃の元に、ロム爺を縛っていた手枷を切り落とした。……それも。

 

 

「手刀かよ! なんでそれで切れるんだよ!」

「ええ、特に問題ありませんでした」

「そーかよ。……そんで、これも問題なし、ってヤツか? お前の思惑通りってやつか?」

 

 

計算通りなんだろ? と皮肉を込めて、精一杯の抵抗を見せるかの様にフェルトがそう言うが、ラインハルトは、さも当然の様に告げる。

 

 

「とんでもありません。それ以上の運命の導きです。……全ての運命は、あなたに集っている」

「はっ! まーた運命かよ。飽きもせず。何なら、運命の奴隷、って言うのが正しいんじゃねーのか? 騎士じゃなくてよ!」

「――――いいえ、それは間違いです。……僕はあなたの騎士なのですから」

 

 

 

ラインハルトの表情を変えるには、どうすれば良いか? 一矢報いるにはどうすれば良いか?

フェルトは考えに考える……が、浮かばない。

なので、最後の最後に攻撃!

 

 

「じゃあ、こき使ってやるよ!」

「……お手柔らかに」

 

 

したつもりだったが、やっぱりラインハルトには動じなかったのである。

 

そう言い捨てるだけに留まった。

 

剣聖を意のままに操るフェルトに目を白黒させていたロム爺だったが、自由になったその両手を見て、フェルトが本当に良い子に育ち、更に自分をも助けられる程、大きくなった事に、感無量の想いを込め、再び目頭に涙をためるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況は呑みこめても、この場で行動に移す事は出来ない何処か歯痒い気持ちを持っていたツカサも、強張っていた肩の力を抜く事が出来た。

例え、記録(セーブ)読込(ロード)を使ったとしても、無理だろう。誰一人、本当の意味で間違った事をしていなかったから。

 

 

衛兵は不審者を捕えただけだ。

ロム爺は、結果的に法を犯したかもしれないが、フェルトが心配が故に、駆けつけただけだ。

そして、フェルトに従わなかった団長も、衛兵たちも同じく職務を全うしているに過ぎない。

 

入り込む隙が欠片も無い。

 

最悪、クルルを使い、逃がす様にする事も考えたが……。

 

 

「……ラインハルトも居るから、そこまで心配はしてなかったけどね」

 

 

実の所、ツカサが言う様にラインハルトの存在が、それらの必要性が皆無である事を自身に告げていたのである。

 

 

《そもそも、なーんで、そんなに気にするの? ツカサが》

「………(喧しい! いつの間に戻ってきたんだよ、エミリアさんの護衛じゃなかったのか?)」

《ボクは、君の僕だぜっ♪ いつだって直ぐに駆けつけれる様にしているさ!》

「(また、変な口調になって、この愉快犯)」

《ふふっ♪ でも、やっぱり良いと思ってるからこそだ。共に在る事がこんなにも心地良い。何で幾度も重ねたのに、これを知らなんだか、って過去のボクを殴ってやりたい気分だよ♪》

 

 

いつの間にか肩に戻ってきていたクルルを見て苦笑いをした。

姿は消えているので、周囲には悟られてはいない。パックも同じくエミリアの髪の中に入り込んでいるので、言わば周囲の目からは映らなくなっている。

だから、戻ってきたとしても、特に問題は無いだろう……が、クルルではなく、ナニカなのが鼻につくのは事実だったりするが、受け止める。

 

受け止めて、改めて思った。

なぜ気にするのか? 考えるまでも無い。見ず知らずの他人ならまだしも、フェルトは多少なりとも縁で繋がっている。

繋がりが少ない自分にとっては、多少でもそれは強く太いモノに様変わりする。

 

そんな相手が、家族と引き裂かれる様な場面を見て、何とも思わない様な薄情な心は持っていないつもりだから。

 

 

 

クルルとやり取りをしている間に、とうとう宣言が始まった様だ。

 

 

賢人会の賛同を得て、全員の賛同の声を確認し。

 

 

 

 

「―――では、クルシュ・カルステン様! プリシラ・バーリエル様! アナスタシア・ホーシン様! エミリア様! フェルト様!」

 

 

 

候補者全員の名を高らかに、マイクロトフは呼んだ。

 

 

 

「以上5名は、いずれも竜の巫女たる資格を持つ者とする。選出は全国民の総意を持って。竜珠の輝きと竜の導きによって定められる! 各人は王として即位されるその日まで―――己の領分の及ぶ限り、王国の繁栄に努められる事!」

 

 

 

 

一呼吸置いた後に―――その老体のあらん限りの力を言霊に乗せて、宣言した。

 

 

 

「――――今ここに、王選の開始を宣言する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強行突破していたロム爺の事を考えていたスバル。彼との面識があれば、不法侵入者と自分が関係性がある、と疑われ厄介な事態に見舞われる……と心配していたが、それをロム爺に庇われた。

 

見おぼえない、と突っぱねてくれた。

 

感謝を覚えつつ、ロム爺の事を心配していたが、それは杞憂に終わったのは、王選の開始宣言を聞いたからだろう。

 

フェルトが王を目指す事を決めた以上、ロム爺をそのまま見捨てるワケが無いのだ。

それくらいはスバルにも解る。

 

 

王選開始の宣言の声は、外にまで当然響いてきた。

まるで地鳴りの様な騎士たちの声援に乗せて……。

 

 

それらを耳にしたスバルは、安堵を見せたものの、やはりエミリアの事で頭がいっぱいになっていた。

始まったその瞬間まで共に在れなかった事は極めて無念だと言えるが、それでもあのエミリアの目で顔でいつまでも見られていける自信が自分には無かったから。

 

覚悟を決めた、止めるな、とツカサに言っておいて、どこまで情けないのだろう。

 

 

「―――オレは、間違っちゃいねぇ……。絶対だ。オレの中の不動の1番はエミリアだ。……オレは」

 

 

深く、深く、何が大切なのかだけを連呼するスバル。

だが、ここではそれよりも……大切な人を言うだけではなく、大切な人の為に何が出来るか、を考えるべきだったのだが、今のスバルには柔軟な思考はムリだった。

 

 

 

宣言後も、自問自答を繰り返し 時間だけが過ぎていくにとどまり――――。

 

 

「スバル!」

 

 

 

玉座の間から、出てきたラインハルトやフェリスの姿を見るまで続いた。

 

 

「2人とも……、もう、終わったのか? 全部」

「全部終わった、とはまだ言えないかな。候補者の方々は残ってまだ細部を詰めているからね。―――後、あの老人は無事だよスバル」

「!! そっか……、良かったよ」

 

 

声は聴いた。だが、はっきりと自分の目で確認した訳じゃない。

ラインハルトがはっきりと言ってくれたおかげで、確信が持てたスバルは、頬を緩ませる。

 

 

「あれ? そういや、ツカサはどうしたんだ? 一緒に出てくるんじゃ……?」

 

 

気にするな、キモチワルイと斬って捨てられたが、それでもやはり一度謝るくらいでは済まされないのが、複雑なスバルの男心である。

 

と言うよりは、ラインハルトやフェリスが出てきたのに、ツカサが出てこないのが単純に疑問だった、と言うのが強いが。

 

 

 

「ツカサは、最高位の勲章を授与された身だからね。候補者の方々の興味がそそられたんだと思う。色々と次いでに聞きたい事があるから、と残ったよ」

「―――……それ、残らされた、って方が正しそうだな、オイ。あの高慢女がムチャブリしてそうな光景が目に浮かぶよ」

 

 

スバルが言うのは当然プリシラ。

どうあがいても一方通行なのだが、アレがそう簡単にあきらめるとは思えないし、寧ろそれすらも楽しんでる節が見えるので、始末に負えない。

 

 

ただ―――あの時アルが見せたとんでもない殺気だけは、スバルも気に掛ける所ではある、が結果的には ツカサに降参した形になっているので、そこまで深刻には考えていない。

 

 

「ん? 兄弟が残ってんのに、2人とも主人の傍にいなくていいのか? オレんトコの見舞いに来てくれたのはありがたいけどよ」

「んっん~~、それに関しては安心かな!」

 

 

フェリスがニッコリと笑って告げた。

 

 

「クルシュ様ってば、フェリちゃんよりずっとお強い方だしね!」

「えぇ……、おいおい。近衛騎士団って強くなきゃ務まんねーんじゃなかったのか?」

 

 

散々言われたユリウスの言葉がスバルの頭に突き刺さる。

フェリスに器が無い、とまでは言わないが、事強さにおいて主の方が強いともなれば、それは務まらない、と言われても無理無いだろう。

 

 

……スバルもエミリアには到底敵わないので、完全に自分の事を棚に上げた形にはなっているが。

 

 

「ん~~、フェリちゃんの売りはそれとは別の所にあるから、いーにゃ! 知ってるんじゃにゃいの? スバルきゅんも!」

「ッ………、そ、そういや すごい水の魔法の使い手って聞いてたな……(すげぇ……、指先で触れられてるだけなのに、全身の疲労が抜けてくような気がする………)」

「そーそ! そっちを競い合う、って言う意味じゃ、ツカサきゅんと是非してみたいにゃ! スバルきゅんも、ツカサきゅんに色々治してもらった~って言ってたみたいだし?」

「んん? ああ、……体感としちゃ……、フェリスの方がすげーと、思う………。色々と世話かけて貰っといて、恩知らずかもしれねぇけど……、そう言う嘘は逆によくねぇ、と思うからな……」

 

 

指先で触れられ続けているスバル。

フェリスの様な猫耳美少女に触られているのとツカサに触られているのと、では申し訳ないが気分的にも絵面的にもフェリスの完勝だ。

 

 

 

「ふふ。ツカサもやっぱり凄いと思う。凄いじゃ足りないとも思う、でもフェリスもそうなんだよ、スバル」

「へ?」

 

 

 

視界の端にいたラインハルトが一歩前に出た。

他人に対して高評価連発な所があるラインハルトは、中でもツカサの事を一目も二目も置いていた印象だったのだが、そのラインハルトが負けてない、と断じたのがフェリス。

 

 

「フェリスは属性の頂点を意味する《青》の称号を与えられている騎士なのだから」

「えへへ。よかったね? スバルきゅん! エミリア様に感謝しないと‼フェリちゃんの治療が受けられるんだから!」

「………」

 

 

治療に関してはありがたい。

だが、エミリアの迷惑を考えたら、そして何より治療でエミリアの傍を長時間離れるのは、と危惧したスバル。

 

 

「なぁ、どうしても治療って受けなきゃダメか?」

「対価はもう支払われてるからね……。エミリア様に無駄骨を折らせる結果になるよ?」

 

 

スバルがそう言う事は予想していたのだろう。

フェリスは、一切の淀みなく、途切れる事なく、淡々と返事でかえした。

 

 

「対価……、それを返すワケにもいかないとか?」

「残念だけど、それは物理的なものじゃないし、知ってしまったからには、返せない類の対価なんだよ」

「……くそっ、オレがどうあがいてもエミリアに迷惑かけるだけか……」

「フェリちゃんが言える事はやっぱり1つ。スバルきゅんは、ツカサきゅんの事、信頼してるんでしょ?」

 

 

フェリスは指をぴんっ、と立ててスバルに確認する様に聞く。

スバルは、それに対して当然、と言わんばかりに迷う事なく頷いた。

 

 

「当たり前だ。……色々と言っちまったが、間違いなく男ン中じゃ、不動のトップがアイツだ」

「ほーほー、それはそれは。羨ましい限りだにゃ。……その信頼するツカサきゅんに、今はエミリア様を任せて、万全にする事。身体を万全の元通りに戻す事を勧めるにゃ。……その間、何もできにゃいワケじゃにゃい。自分が出来る事、これから成す事。――――隣に居たいと思える相手の為に何が出来るのか。……ご不満かもしれにゃいけど、有意義な時間はスバルきゅんの心持ち次第だにゃ」

「っ………」

 

 

考えてなかった事じゃない。

何度も考えた事柄だ。

 

少なくともエミリアの懸念事項である自身の体調部分を拭い去った後、どうにか力になれる事を証明する。それに専念する。

時間は有限かもしれないが、焦って仕損じてしまえばそれまでだから。

 

 

幸い? な事に……ツカサにはラムと言うご両人! な間柄が居るので、俗世っぽいが、そっち方面での心配性はもう無くなってきている。ラムの告白とラムに対してのツカサの信頼を聞いたのだから尚更。

 

 

「……まっさか、女ったらし、ってワケじゃねーだろうし。ハーレム目指すとかもしねーと思うし……」

「どーして、そんな言葉が出てきたのかわかんにゃいけど、ツカサきゅんに結構失礼な事考えてると思うにゃ。昨日今日の付き合いだけど、彼無茶苦茶優等生なのにね」

「わーってるよ! 複雑な男心なんだよっ!!」

 

 

 

 

 

 

自分の行く末を、目指す先の輪郭をしっかりと見定まりつつある場面で……更なる波乱が起きる。

 

 

 

「……男心とやらを考える前に、自身の力の無さを嘆く機会を多く取った方が良い。―――獲るべき選択肢を見誤らない為にもね」

「!! てめぇは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄く場違いな気がしますね、オレ……。エミリアさんの騎士でもないのに」

「いんやぁーあ。それを言うなら、わたーぁしもそうじゃなーぁいかい? さっきも言ったが」

「でも、皆にロズワールさんは既に周知されてる事実だし、推挙人だし。……それより面識度合いで言えば、やっぱりオレの方が……」

「君はもう既に、王選参加者に連なる程の有名人であり、周知もされている。王国最高峰緋光勲章(スカーレット・エンブレム)を授与されると言う事はそう言う事だーぁよ」

 

 

1つのテーブルに5人が座って囲っている場面。

唯一騎士として残ったアルも確かに場違いと言えばそうだが、プリシラの命令なのだから仕方が無い。主の傍に居るのは騎士としての役割だ。

 

但し、ツカサの場合は少し違う。

 

プリシラを始めとして、クルシュ、アナスタシア……色々と興味を持たられてしまったのである。

 

 

「兄ちゃんモテモテじゃねーの。未来の王様の旦那だな、こりゃ。誰がなったとしても」

「凄い爆弾発言止めて」

 

 

フェルトだけは愉快そうに眺めていた。

 

王を目指す、とは口では言ったモノの、あれはあくまでロム爺を助ける為。

本当に自分が王になろうとは思っても無いのだろう。ツカサの事を未来の旦那、と称するなら、自分もその内の1人になるかもしれないのだから。

 

後いうなら、年齢的に除外されたかどうかだ。

 

 

「今は男として卿をどうこう見てはいない。その実績に惹かれているだけに過ぎないさ」

「そーやね。流石に殆ど知らん相手を迎え入れる冒険はウチには出来んわー。投資は十分しときたいけどな」

 

 

フェルトに乗っかってくるのが意外な事に、プリシラ……では無く、クルシュとアナスタシア。

クルシュに関しては楽しむような性格には見えないのだが、話しに合わせられてしまった。

そもそも、今は(・・)と言うのも結構誤解を招きそうな発言ではなかろうか? 色々と知り合ったら大丈夫だと?

 

 

事の説明で、王選の候補者は婚姻を行う事は無用な派閥を生む関係上、御法度な筈だが……、と、そこまで口にしたりはしないが。

 

 

 

 

「それじゃーぁ、わたーぁしは 用事があるから。此処を宜しく頼むよぉーお」

「………え? ロズワールさん、何処か行っちゃうんですか?」

 

 

突然のタイミングで席をはずそうとするロズワールに驚き目を見張る。

 

 

「わたーぁしに一緒に居て貰いたい! なーぁんて、言ってくれるのは凄く貴重な事だぁけどね。少々多忙なのさ」

「ぅ……。そう言われたら……しょうがない、か……。無理言う訳にはいかないし……」

「んふふふ。………じゃあ、頼むよ。ツカサ君。君には心より、期待をしているからねーぇ」

 

 

ロズワールはそう言うと、マントをはためかせながら、この場を後にした。

 

 

「くくくっ。別に男色家と言う訳でもあるまい? 人肌恋しいと言うのなら、妾の胸を貸すのを許す。ちこうよれ」

「……謹んで、遠慮させて頂きますよプリシラ様」

 

 

これ見よがしに挑発してくるプリシラ。

この場での一番の愉快犯は彼女で決定だ。

 

 

「ごめんね? ツカサ。もうちょっとで終わると思うから」

 

 

そして、唯一心配してくれてるのはエミリア。

やや過剰気味かもしれないが、それでも心配してくれている、と言う意味ではありがたい。

 

 

「大丈夫ですよ。………あっ、1つお願いを聞いてもらえるなら……なーんて」

「え? 何? 私に出来る事なら何でも言って」

 

 

エミリアが思った以上に強く食いついてきた。

返しきれない程の恩があるのはツカサも同じだ。だからこそ、返せるものなら、自分に出来る事なら、とエミリアはやや過剰反応しているのである。

 

逆に何だか願いを言うのを躊躇ってしまいそうになる程に真っ直ぐに食いついてくる……が、それでも 今回の事は相当堪えたであろう、この場には居ないあの男へのフォローをエミリアに願おうとしたその時だ。

 

 

 

「―――失礼します。報告があります!」

 

 

 

新たなる来訪者があり……、そして 想像してなかった事態が発生したのは。

 

 

 

「現在、練兵場にて、騎士ユリウス様と……エミリア様の従者 ナツキ・スバル殿が模擬戦を行っております!」

「!!」

「スバルが……?」

 

 

今まさに、スバルの事をフォローしようとエミリアに口添えを。恩義にかこつけるのは少々汚いかもしれないが、それでも苦楽を共にしてきた仲も有るので、それとなく……と思っていた矢先にコレである。

息つく暇も無いとはまさにこの事だろう。

 

 

「それは、今開始した、って事ですか? それとも……」

 

 

ここで1つの疑問が浮かんだ。

 

この場所はいわば王国の中核を成す人物。未来の王、その候補者たちが集っている場所だ。近衛騎士団団長であるマーコスがここに控えているとはいえ、騎士と従者の模擬戦を、こんな所に逐一報告する義務はあるのだろうか? と。

 

比較的一番近くに居たのがツカサだったから、最初の質問者になった。

 

 

「いえ。……それが……、その」

 

 

ツカサを見て言い淀む。

スバルとツカサは同じエミリア陣営。少なからず関係性が深いであろうツカサに直接言うのは憚られたのだろう、口籠っていた。

 

 

だが、それも一瞬だ。

 

 

 

「たかだか模擬戦の1つをなぜ報告する必要がある! そちらで対応しろ!」

 

 

 

マーコスに一喝されたからだ。

そこで黙っていられるワケにはいかない。

 

事の次第を……あった事を包み隠さずに説明する為に、口を開いた。

 

 

「―――現状、ナツキ・スバル殿は、立つのもやっとな程に、打ちのめされる一方的な内容でした為……、指示を仰いだ方がよろしいかと……」

「!!」

 

 

騎士たちが、わざわざ指示を仰ぎに来る程だ。

穏便な状態ではない事は明らか。

 

加えて、ユリウスはマーコスに次いで地位が高く、信用と信頼が厚い騎士、と言う理由もあるだろう。

 

よもや命までは奪うとは思えないが……。

 

 

「現場へ案内してもらってもよろしいか?」

 

 

ツカサは直ぐにスバルの元へと向かう。

 

 

「どうして、どうしてスバルとユリウスが……、ケンカ、なんかっ……」

「エミリアさん。ケンカじゃないと思います」

「えっ……?」

 

 

ツカサの言葉に対し、エミリアはただただ理解出来ない、と頭を悩ます。

でも、理解する前にする事は解っていた。

 

 

 

「とにかく、すぐに止めに行かなきゃ……。私もいきます!! 案内して……」

 

 

エミリアは疑問や疑惑、すべてを放りすてて立ち上がった。

 

 

「では、案内を宜しくお願いします」

「はっ……。こちらになります」

 

 

ツカサもそのままエミリアと共に、騎士団詰所、練兵場を目指して通路を走った。

 

 

 

「こりゃ、オレらも嬢ちゃん追っかけて、模擬戦見にいくとしようぜ?」

 

 

エミリアとツカサが居なくなり、騒然となりかける室内でアルが提案した。

開かれた扉を手で示すと、隣に立つプリシラに肩を竦めて話をする。

 

 

「ほれ、姫さんも好きだろ? 弱い生き物が猛獣にいたぶられるショーとか見るの」

「勝手な想像で妾を見誤るでないぞ、アル。まぁ、大好きじゃが」

 

 

軽く背を逸らして、その豊かな胸を揺らすプリシラは嫣然と微笑んだ。

 

 

「見られるやもしれんな。……その弱者と猛獣のしょー、とやらが終わった後、真なる強さを持つ強者が仇討ち。……これ以上ないお膳立てであろう」

「いやいや、流石に模擬戦で殺されんのはちと残酷だぜ、姫さん」

 

 

王国でも屈指の実力者の1人であるユリウスとナツキスバルの模擬戦。

そこに興味があるとするなら、アルが言う様にそれは強者が弱者を甚振る場面以外に見栄えは無いだろう。

プリシラも多少見ごたえがある男であるなら、一矢報いる可能性も余興。窮地に陥った後の一矢を余興として楽しむのも有りだと思えたが、生憎スバルには期待はしていない。

 

 

ただ、期待するのはやはり、自分の思い通りにならない男に関してだ。

仇を討つのか、或いはまた別の道を往くのか、2段構えの興味である。

 

 

 

「うーん、ユリウスとツカサ君が模擬戦って言うのは複雑やね……。ホーシン商会贔屓にして貰うつもりやのに、軋轢が生まれそうや……」

 

 

スバルとユリウスの模擬戦は眼中にない、と言うのはプリシラ以外でもアナスタシアもそうだ。

仮に、他人事であるならば、白鯨を退けたと言う未曽有の力を持つ男と自身の騎士であり、《最優》を冠する男との一戦。商売以外で心躍る対戦カードと言える。

 

 

「ふむ。……ならば、私も同席しよう」

「か―――、あの目つき悪い方の兄ちゃん、浮かばれねぇよ、まったく」

 

 

口々で興味があるのは、決まっても無いユリウスとツカサの一戦のみ。

辛うじて最初のプリシラとアルだけは、興味を示してくれた様だが、中身が最悪だ。

 

知らない相手でもないし、色々世話になった、と言う意味ではフェルトもこのまま知らぬ存ぜぬ、と言う訳にはいかないだろう。

 

 

「まぁ、なんかありゃ、ラインハルト使えば何とでもなるよな」

 

 

と言う事で、満場一致で練兵場へと向かう事になったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それは、もうほぼ決着がついていた。

 

 

 

裂けた額、滴る血。その血が目に入り、視界が赤く染まる。

ボクサーが目に血が入り、遠近感がわからなくなって、攻撃を受けやすい、と聞いた事があるスバルは、今まさにそれを体感していた……どころじゃない。

 

額が裂けたのは、まだ生易しい方だ。

 

もうすでに、何度地面に打倒されたか、転がったか覚えていない。

片目だけが見えないのではない、もう片方の目は腫れあがって既に塞がっている。

口の中は血の味でいっぱいだ。

 

 

 

ただ―――ここまでされても尚、恐怖と言うものは一切感じられない。

あの死に掛けた時の教訓……ではないが、あの恐怖の体験はスバルにこれ以上ない程の精神力を植え付けてくれていた様で、この世界線ではない、別の時間軸の世界で培った、魂に刻まれた恐怖の記憶が、この程度の痛みでは恐怖足りえない、と精神に余裕さえ醸し出していた。

 

 

 

だが――――、精神はついていけても、身体がついて来なければ意味はない。

 

 

 

「もうそろそろ、自分自身の限界を認めてはどうだろうか? そして自らの至らなさを認める方が良い。これが、君が侮辱し、軽んじた《騎士》と言うものだ。……その差も解ったことだろう」

 

 

 

方やユリウスは、汗1つかかない涼し気の顔のままだ。

ただ騎士の在り様を示す為に、彼もまた容赦せず打ち続けた。

 

最初こそは、ユリウスが言う様に騎士の在り方を軽んじたスバルに対し、王国の未来を左右する王選そのものを侮辱した無礼者。それが近衛騎士の筆頭であり、最優とも称される騎士、ユリウスに痛めつけられ、最後には謝罪する……と言う場面まで浮かんでいた、期待した映像だったのだが……。

 

 

 

「これ以上は命に関わると思うが……」

 

 

ただ只管に無謀な意地を張り続けるだけだ。

ここからの逆転劇は皆無であり、これ以上何かが生まれるとは思えない。それでもスバルは止める気配は無かった。

 

 

「安心しろよ……。この程度じゃ、まだ人間は死なねぇよ」

「まるで経験者の様に語るのだね」

「それに関しちゃ、オレはちょっとばかし精通しててね」

 

 

 

通算にすると……4度? 5度?? スバルは頭の中で思い返そうとする。明確な回数はもう解らない。

 

死ぬな!!

 

そう、強く言い聞かされてからは、死ぬ等考えなくなったからだ。死んでやり直せる、なんてことを考えなくなったからだ。

結果、命の大切さと言うものを改めて知った気もするが、かと言って死を経験した事が無くなった訳ではない。

 

 

そう、この程度では死なない事を知っている。

 

 

腹を裂かれ、腹を貫かれ、そして呪術で死の手前まで運ばれた。

死ぬ瞬間と言うモノを、スバルは良く知っているから。

 

 

「らぁっ!!」

「美しくないな」

 

 

スバルは突貫するが、それも成す術も無くユリウスに弾かれる。射程圏内に入れば、スバルの如何なる攻撃もユリウスの身体に触れる事が出来ない。

 

足、腕、胴、頭。全ての部位に打ち込まれ、何度も天地の逆転を味わい、大の字になる。血反吐をまき散らして、地に身体を埋めた。

 

 

「へ………、血反吐の中、こんな感じ……か?」

「何を言ってるか解らないが、気が漫ろでは最早立つ事も出来まい。そのまま這いつくばっている方が幾らか利口だと思うが」

「ばか、いえ。……そんで、もって……、オレも、ばか、いえ。……あいつの、苦しみが、こんなもんな筈がねぇ。この、程度なわけ……ねぇんだ。なに、調子にのって、やがる……!!」

 

 

血の海に倒れ伏す姿を客観的に観たら……スバルが追いかけているかの背中に似ているのかもしれない。

 

だが、それを即座に否定し、一笑に伏す。

 

状況が違いすぎるし、比べれるワケが無い。烏滸がましすぎる。

 

何よりもこの程度なワケが無い。

 

彼の言う死の体感を経験出来ない以上、スバルの想像上での事には成るが、間違いなくこの程度ではない、と確信は出来る。

 

 

そんな事が考えれる自分は、まだまだ余裕がある証拠だ、とスバルは立ち上がった。

 

 

 

――――だが、やはり精神は奮い立っていても、肉体は限界だ。

 

 

 

 

「(次の一撃が……最後か)」

 

 

身体の限界が、痛みの信号となって脳内へと津波の様に押し寄せてくる。

 

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 

死を知っていても、痛みを感じない訳でも、痛みに慣れているワケでも無い。

 

だが、揺るぎない意志だけは、その痛みの信号の波の中であっても確かに飲み込まれ、消え入る事なく強く発信し続けてきた。

 

 

 

――― 一発ぶち込んでやる!!

 

 

ほんの一瞬、その隙に全てを懸ける。

それまでは、痛みも邪魔でしかない。全てを遮断した。

 

 

 

そんな時だ。

 

 

 

――――ル!

 

――――――バル!

 

 

 

遠くから、徐々に近づいてくるかの様に、聞き覚えのある心地良い声が聞こえてきた気がした。

それがまるで合図であるかの様に。

 

 

「スバルっっ!!」

 

「シャマァァァァァァク!!」

 

 

はっきりと聞こえた銀鈴の声。

それが愛しい人のものである、と頭の何処かでは解っていた筈なのに、行くな、と言ってくれているのが解っていた筈なのに、スバルはそれを裏切って、声高に詠唱を口にした。

 

 

暗黒空間……黒雲が身体から発生し、赤茶けた練兵場の全てを漆黒で塗りつぶした。

そう、世界は消えたのだ。

 

無理解、精神をも蝕む暗黒の世界が続く。

 

全身全霊、最後の命令に従ったその腕は、脳の命令が電気信号となって届くよりも早く、目標に向かって木剣を振り下ろし――――。

 

 

「陰の魔法。……これが君の切り札と言う訳か」

 

 

聞こえる筈がない世界で、はっきりとその声はスバルの鼓膜を打つ。

暗黒の世界に光が差し込んだ。……光……まるで主人公の様ではないか。憧れたそのもの。闇を払うのが光だ。そして、光の先にいつもいつも正義の主人公が待ち構えている。

 

 

自分は―――悪役だ。

 

 

 

 

その光の先に主人公(ユリウス)がいた。容赦なく、大地の上に叩き落される。

 

 

「《陰》の系統魔法を使うと言うのは予想外だった。意表をつかれたのは認めよう。―――だが」

 

 

ご丁寧に解説までしてくれる親切っぷり。

悪役であるなら、その隙をつこうとも考えなくもないが、身体の一切が動かない。

マナを酷使したが故に、身体の至る所にガタが着てしまっている為だ。

 

 

「練度が低すぎる。低級の魔法など自分より格下、或いは知能の無い獣でもない限り、通用しない。私どころか、近衛騎士の誰1人、この策は通じなかっただろう」

 

 

最後には敗者を憐れむ。

何処まで………何処までも………。

 

 

「君は無力だ」

 

 

最後の一撃を受けた瞬間、スバルの意識は刈り取られた。

銀髪の少女の悲痛な顔を……目に焼き付けて。

 

 

 

エミリアが到着、そして同じくツカサも到着。更には背後にはかの王選の参加者たちも来ていた。何れも皆、冷めた目でこの結果を見ている。

 

 

 

「なんじゃ。妾が来る前に決着とは、無礼極まりないものよ。幾分か持たす事はできんのか」

 

プリシラは、これ以上ない程つまらなそうに吐き捨てる。

アルも、流石にこの戦いを最初から見ていたワケではないが、実力の差は明らかだった、と言うのは2人の姿を見れば一目瞭然だったと解る。

 

 

「若ぇってのは、時にはスゲー力も出て、無鉄砲になるもんだが。……まぁ、良い薬になったんじゃねぇのか? 兄弟」

 

 

敗者を憐れむワケでも無く、ただ淡々と自身の感想としての言葉をスバルに送る。

 

他の者たちは声すら発してない。解りきった結末をただただ見ただけ。それ以上の言葉を紡ぐ必要性すらない様だ。

 

 

「スバルを運びます」

 

 

そんな中で、血反吐の海に伏している敗者に手を差し伸べる者が居た。

誰もが動こうとしない中、一番最初に動いたエミリアとツカサである。

 

ツカサは、騎士たちに、ユリウスたちに一礼をすると、その倒れた身体を肩に掛けた。

透明化しているクルルが、応急措置はしているだろうから、これ以上悪くなる事は取り合えず無い。死に戻りによる大ダメージも大丈夫だ。

 

 

 

「それで良いのか?」

 

 

 

そんな時だ。センスを片手に、口元を隠し、笑みを見せまいとするが、それでいて真剣身を帯びたプリシラがツカサの行く先に留まった。

 

 

 

「その凡夫は、ツカサの知る近しい者なのであろう? それが痛めつけられた。弱者等、這いつくばるのが世の常。――――が、ツカサ。貴様はそのまま背を向けると? 曲りなりにも、共に在ったのであるならば、すべき事があるじゃろう」

 

 

プリシラの狙いはこの先。

スバルの結果に関してはそれ以上も以下も無い、弱者が甚振られた。それだけだが、見たいのはここから先なのだ。

 

 

そして、それをまるで後押しするかの様に声を掛けてきたのはユリウスだ。

 

 

 

「プリシラ様の言う通りだ。私の行いに関しては騎士としての理由があり、意義はある。……が、それは君には関係のない事だ。騎士ではない、と言った君には関係のない独善的なものに過ぎない」

 

 

ユリウスは 剣を向けるまでも無く、そしてプリシラの様に好戦的でもない。

ツカサと戦いたい、と言う気持ちはそこには無い……が。

 

 

 

「君の友を酷く打ちのめした男が、私ユリウス・ユークリウスだ。ツカサ、君には怒る権利がある」

 

 

 

そこまで言い切った所で、ツカサはゆっくりと振り返った。

フェリスにスバルを託して。

 

 

 

「確かに、スバルはオレの友だ。……友だからこそ」

 

 

行く末を見守っている騎士たちの前で、全員を見渡して……ツカサは続けた。

 

 

 

 

「エミリアさんにこれ以上心配かけるワケにも、辛い顔をさせるワケにもいかないよ。スバルなら、間違いなくそう言う。……オレに続け、なんて口が裂けても言わない筈だ。誰よりも大切に考えていたのがスバルだったから。………皆の前では間違えたのかもしれない。けど、共に過ごしてきたからこそ、オレは知ってる」

 

 

 

 

ツカサまでまさか……と心配をしていたエミリアの顔が撥ねる様に動いた。

 

 

 

「混じり者。とっととソイツを連れてここから失せるが良い。曲りなりにも貴様の従者とされる凡夫じゃ。死なせたくなかろう? 早う治療せんと死ぬぞ」

「!! わ、解ってるわよ!! フェリス……お願い」

「はいはーい。死なない限りは、どんな事しても治してあげる、って約束してるからねんっ! フェリちゃんにお任せ!」

 

 

フェリスがラインハルトに合図をして、ラインハルトがスバルを背負い、フェリスと共にエミリアも続く。

 

 

「ツカサも……」

「大丈夫ですよ。先に行っててください」

「うん。………ありがとう」

 

 

 

 

エミリアは一言そう呟いて、フェリス達と共にこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、それを見届けた後、お膳立てを済ませた、と言わんばかりにプリシラがセンスを前に突き出し、宣言した。

 

 

 

 

「さぁ、貴様の懸念は今去った。――――見せてみよ」

 

 

 

 

そして―――両者は、再び向き合うのだった。

 

 

 

 

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