Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
「……遅かったね。ツカサ。何をしていたの?」
「! 遅くなってしまってすみません。
「そう」
エミリアにばったり出会ったのは、ユリウスとの一戦を終えて、迅速に汗を流し、迅速に着替え、王城直属の使用人たちの早業でどうにか元通りの姿に戻してもらった直ぐ後の事である。
相応に動き回り、最後の大盛り上がりにおいては、それなりに着飾った礼服も至る所がダメになったので、かなりロズワールには申し訳ない……と考えていたのだが、やはりそこは王城内部。
その程度はものの数秒の仕事だった。
流石にメイザース家の家紋までは入れられなかったが、服の内側に刺繍しているモノだから、目立つ訳じゃないので、そのあたりは大丈夫。
恐らく、エミリアにもバレていないと思われる。
勲章絡みである、と言う事は強ち嘘ではない。あの勲章に見合うだけの男である事を証明できた、と言う意味では。
最後の疲労感はさておき、誰一人ケガなどしていないのだから。
ただ、心配なのは彼女の表情だ。
「スバルの傷の方は……?」
「それは大丈夫。フェリスがしっかりやってくれた。……傷の方は塞がってる。後はいつ目を覚ますか……」
あの時のスバルの顔を、その体を見れば解る。
如何に治癒魔法……青の称号を持つフェリスの治療とはいっても、即座に意識を覚醒させるまでには至らない様だ。
これで、身体だけでなく心の傷も治療できたなら、言う事は無いのだが……心に、魂に刻まれた傷と言うものは、治癒魔法で癒えるモノじゃない事はツカサが誰よりも解っているから、後はスバル自身の問題でしかない。
「私は、スバルが目を覚ますまで、一緒にいます。……そこで、話すつもり。聞きたい事沢山あるから。……ホント、沢山」
「……だよね。スバルにしか聞けない事だ」
大方しめるのは、恐らくユリウスとの一件。
だが、恐らくはそれ以外にもあるだろう。当然エミリアとの約束をなぜ反故にしたのか? と言う部分だ。
間違いなく、あの時エミリアはスバルと約束した。無理しないで身体を休める事、と約束をした。
ツカサ自身はスバルが冷静に考えて、行動した結果が王城へやってきて、ユリウスと一戦交える事になった。全てスバルが選んだ結果なのだから、本人を尊重する……と思っているのだが、エミリアはそうはいかないのだろう。
「―――ツカサにも、1つ……聞きたい」
「答えれる事なら」
エミリアは神妙な顔をして、表情を落としながらもしっかりと相手の目を見て聞いた。
「ツカサは、スバルとユリウスの事を……
それは、王選候補者間との話し合いを交わしていた時の事。
騎士の1人がスバルとユリウスが模擬戦を行っている、と言う報告をしてきた。それも、見ていられない程凄惨なものになっている、と言う報告も併せて。
それをエミリアは、スバルとユリウスの喧嘩だと称していた。……模擬戦とはいえ、そこまでするなんて、思えなかったからだ。
「なんで、ツカサは見てなかったのに、違う、って言いきったの?」
「…………」
ツカサは少し、ほんの少しだけ考えて、言葉を紡いだ。
「……譲れないものが、スバルには有ったんじゃないか、って思ったから。だから、ユリウスとぶつかった。……それをただの喧嘩、とは言えない思ったから」
「スバルの、譲れないもの?」
「ん。そうだね。―――何が譲れないのか、あんな傷つくまで戦って尚、譲れないものは何か。それはオレの口からは言えないし、他人が言うべき事じゃないと思う。……スバル自身が、エミリアさんに伝えなきゃいけない事だと思うから」
「―――そう」
エミリアは、またスバルに聞くべき事が増えた、と少し表情を和らげた。
そんな顔を見たツカサは、改めてエミリアの目を真っすぐ見据えて言った。
彼女がいつも誰かと話をする時、必ずそうする様に。決して目を逸らさず、離さず、誤魔化したりせず。
「……エミリアさんには、正直ちゃんと話せてなかったよね? オレの事。大まかな事くらいしか」
「うん。記憶障害の事は聞いてたけど、あの叙勲式でツカサの事聞いて、ビックリしちゃった。白鯨の事もそう」
「ん。……あの時言った通り、突然放り出されて、目を覚ましたら友達……この国で一番最初の友達の竜車に乗ってて、あの鯨に追いかけられて。本当に怒涛だったよ。少し旅みたいな事をして、王都に入って……、エミリアさんとスバルに出会って、ロズワールさん達にベアトリスさんやレム、……ラムと出会って、アーラム村の皆と過ごして。空っぽだった心が埋まっていくような感覚がしてて………」
身の内話を続けていく。
あまりにもツカサには歴史が無さ過ぎる。
だが、それは悪い事ばかりではない。
「何も知らなかったから、エミリアさんの事も。ハーフエルフの事も。魔女と呼ばれる存在がいる事も。何も知らないまっさらな状態だったからこそ、エミリアさんの事をよく知れたんだと思います。だから、今は胸を張って言えますよ。色々と勉強して、色々と知ったけど、オレは何の含みもなく言えます。オレは、オレたちはエミリアさんの味方なんだって」
「っ……!」
エミリアは目を見開いて、驚きの色をその瞳に宿しながら、絶句していた。
知らない、知らないからこそ、自分の事を真っすぐ見てくれるんだと、―――改めて知れたのだ。
「スバルだって同じ。……断言する。でも、
「ツカサ、ありがとう……。本当にありがとう。私の事、助けてくれて。………でも、それでもスバルの事は…………」
嬉しい、物凄く嬉しい。感情が上手く表現できない程に。
魔女と見た目が似ているから、ハーフエルフだから、これまで幾度も幾度も辛い想いをしてきた。――――誰かに心から味方だと言ってもらえる日が来るとは、思えなかったのだ。
でも、エミリアの心の中には、まだまだ燻る影が落とされている。
その燻るものの正体は……当然スバルだろう。
エミリアはとても正直な娘だ。
ツカサに対する感謝の念は、ありがとうと思う気持ちには嘘偽りない事。だけど、それを全面に出して、スバルの事を忘れるなんて器用な真似は出来ない。
「……ゆっくり、ゆっくり話をしたら良いと思うよ。それにスバルも眠ってるからさ」
「そう、よね。……スバルがいない所で、なんてダメだよね」
笑顔でツカサは頷いた。
「ツカサ。お願いがあるの。……貰ってばかりだけど、ツカサにしか頼めない事……だから」
「何回でも言うよ? オレはエミリアさんの味方だから。何でも言って。――――あ、勿論オレに出来る事なら、だからね? 変な事させないでね?」
「そんな事しませんっ! すごーく心外っ」
エミリアは、ぷくっ、と頬を膨らませてむくれた。
それが良い、この顔で良い。暗くなっていた先ほどの表情よりはずっと良い。
「スバルの事なの。……もう、ロズワールには話を通してて、私とロズワールは屋敷に戻る。でも、スバルは残ってもらって、カルステン家で、フェリスの治療を受けてもらう、って」
「スバルの状況を考えたら……それが最善だろうね。……ただ、物凄く駄々こねそうな気はするけど」
「解る。解ってる。……でも、私と一緒だったら、スバルが無理するのはもう解りきってるから。……しっかりと身体を治してほしいの。……今度こそ」
エミリアは、少しだけ寂しそうな顔をした。
どれだけの多大なる恩を返す事も出来ず、ただただ只管身体を酷使続けるスバルの姿を見続けるのは言いようのない苦悩だろう。
それも約束を反故にした挙句の行動だ。……エミリアの心中を察すれば、気持ちは痛い程解る。
スバルの気持ちも解るが、エミリアの事も解る。
自分のせいで、傷ついてしまう姿なんて、見たくないだろう。
―――でも、スバルがはっきりとエミリアに、彼女に想いを打ち明ける事が出来たなら、その気持ちも、申し訳ないと思う気持ちさえも、全て昇華されていくと思う。
唯一無二の相手である、と言う気持ち。日頃言っている様な軽い言葉ではなく、真剣なものを。
「つまり、スバルの監視をして欲しい、って言うお願いかな?」
「えと、監視っていうと……ちょっとアレだけど。結果は、同じになっちゃうかな。一緒にいる事で、ちょっとでも落ち着けるのなら、一緒に残ってスバルの事見ていてあげてほしいの。レムとラムも一緒に置いていくから、身の回りの心配はいらないと思う」
「了解です。……約束します。約束は守らないといけない事だと思うから。それをしっかり、スバルに叩きこんであげますよ。全く、大きな子供だ。スバルは。さしずめ、子守りかな? 今回のは」
しゅっしゅ! とシャドーボクシングをするツカサ。
それを見て、朗らかに笑うエミリア。
「ケガ増やしちゃダメなんだからね?」
「それは出来ない相談ですな!」
「「あははははは!」」
最後は互いに笑い合う。
エミリアに笑顔が戻ったからなのか、或いはタイミングを計っていたのかは解らないが、エミリアの背後から、一匹の猫が飛び出してきた。
「安心できる、っていうのはこの事を言うんだろうね。ツカサ。……凄く、感謝しているよ。リアの味方になってくれて、ありがとう。リアの心を救ってくれてありがとう」
「ずっと前から、味方だって言ってたつもりだったけど、説得力が持てて良かったよ。……暫くはスバルの方に付きっ切りになるから、エミリアさんの身辺警護、それに村の皆の事も。……宜しく頼むよ? パック」
魔獣騒動もあり、王選絡みで言えばあのエルザとの事だってある。
ロズワールもいるから特に問題ないとは思うが……それでも、しっかりと守ってもらいたい。
エミリアは勿論だが、アーラム村の皆も。
「それは勿論さ。リアは僕にとって全てだからね? そこはツカサにも譲れないかなぁ」
「あははは。そこまで踏み込んじゃったら、ものすっごく怒られそうだからやめとくよ」
「それもそっか。特に桃色のメイドさんに、大変な目にあわされちゃいそうだし?」
「……………」
固まってしまったツカサの顔を見て、パックは意地悪そうに笑った。
「ええー、今ひょっとして忘れちゃってた? 良いのかなぁ~~?? ラムに言っちゃうよ~~?」
「ヤメテ下さい。忘れてませんよ」
1秒で怒られる。
それくらいはツカサも解るから。
なので、ツカサはパックに釘をさした。
「あははははっ、2人とも、ほんっと仲良しだよねっ! クルルとべったりだったけど、パックとツカサもとっても仲良し!」
「やっぱり一番は、クルルの世話してくれるから、かな? それだけでも、パックとベアトリスさんには感謝感謝だよ」
「あんなすっごい精霊をペットみたいに言っちゃうなんて、僕の娘もそうだけど、君も怖いモノ知らずだよね~~」
その後、話を聞いていたのか、それとも聞いてなかったのか、クルルがツカサの頭の上に飛び乗った。
パック・クルルの恒例のハイタッチ、&鳴き声合わせをして、またエミリアとツカサは共に笑う。
―――約束破ってばかりだったから、肝心な時にいないんだよ? スバル。
眠っているであろう、スバルに向けて、ツカサは皮肉るのだった。
「で、何か申し開きはあるか、騎士ユリウス」
「いいえ、何もありません。全ては報告を上げた内容の通りです」
とある一室。
日差しの全く入らない暗がりの室内にて、2人の男が言葉を交わしていた。
場所は近衛騎士団・団長室。
机に腰掛けるマーコス、そして背筋を正して立つユリウスの姿がそこにはあった。
「近衛騎士にあるまじき振舞であったと断ぜられても不服はありません」
「ふむ。王選の話し合い最中に候補者関係者を勾留。練兵場に連れ出し、滅多打ちにして治療院送り。更に付け加えるとするなら、王国最高峰の勲章を授与されたルグニカ王国の恩人とも言える相手ともその場で刃を交える。………王国のために友好的である、とまで断言した英傑だ。……賢人会の方々の耳に入れば、更に厄介な事になりうるな」
最優と称されるユリウスが、何を考えて、己の経歴に傷をつけてまで、このような事をしたのか、それが解らない程、察しがつかない程、マーコスは馬鹿ではない。
「情状酌量の余地は当然ある。……何より、練兵場にいた他の騎士たちから、擁護する嘆願書も多く届き、そして、ツカサ殿に対する謝罪の機会を、欠片でも疑ってしまった事に対する謝罪の機会を設けてもらいたい、と言う嘆願も集まっている。現在もな。あの場の騎士全員からだ。………が、やり過ぎはやり過ぎだ」
マーコスはユリウスの顔を真っすぐ見た。
「国を守る騎士として、研鑽を積み、身体を鍛え上げ、命を賭して戦う覚悟を決めて、何れ来る厄災と相対する時のために、力を磨いてきた身だからこそ――――……試してみたかった、と言うのか?」
「……はい。極めて幼稚な行いかと」
「方や、誇りを傷つけられた。貶められたのも、許せなかったか?」
「そちらに関してはどう言い繕っても私怨でしかありません。王国の英雄の力を疑い、王国の騎士を侮辱した彼に怒りを覚え……、そしてすべてを起こした私の不徳の成すところ。……団長。それ以上の言葉を尽くすのはおやめください」
神妙であり、あくまで罰を受けようとする姿勢を一切崩さない。
ツカサの力量に関しては、確かに眉唾なものが多かった。剣聖ラインハルトの強い推薦も影響を及ぼしたが、実際にその力を見た訳ではない。
それを証明させた点においては、ある意味ユリウスの功績であり、騎士達との蟠りを解消させたのも、ユリウスだ。
だが、ユリウスは全てを罰とし、罪とし、受け止める姿勢を崩さない。
とそこへ。
「はいはーーい、フェリちゃんのご帰還ですよーぅ」
気やすい態度で、気やすい声で、扉を勢いよく押し開いてフェリスが入ってきた。
あの少年の治療は終えたのだろう、と言う事はマーコスも解っているのだが、如何せん、公使を弁えないのはフェリス。
「あらら、そんな二人して熱い眼差しで向き合っちゃって。イケナイ事でもしてましたぁ?」
「……下らねぇこと言ってねぇで、とっとと報告しろや、マセガキが」
「おお~、団長の地! ひっさしぶりに出ましたよぅ」
「部下の前では公人であるべきだ。戒めてはいるが、……まぁお前相手なら仕方ない。とにかく報告しろ」
ぞんざいな扱いをされてしまうフェリスだが、これも恒例行事であるので、特に気にする事なく続けた。
「団長のご命令通り、スバルきゅんには全開で治療ををぶちこんでおきました! 傷も塞いで、骨も繋いで、大体問題なし? 歯も再生したし、まっ、目に見える範囲内は問題なしですね。たーーーだーーーー??」
フェリスは不満顔になったまま、マーコスとユリウスを相互に見て、愚痴を入れた。
「おかげで、ツカサきゅんとユリウスの戦い、フェリちゃんだけ見れなかったのが、不満たらたらでーーーす! 皆皆、すっごく興奮しちゃって~~、おまけにクルシュ様までっ!! 不満がつもりに積もっちゃってますよぅ!」
「その点なら心配するな。……オレも見れてないから同じだ」
「およっ!? 団長もやっぱ気になっちゃう?? 何なら、近衛騎士団での模擬戦にご招待をします??」
「阿呆」
やる訳がないだろ、と一蹴した。
あのユリウスとツカサの一戦に関しては口伝いではあるが、マーコスも聞いている。少なからず興味が尽きないのも当然だ。
だが、だからと言って感情を優先して良い訳がない。
ただでさえ、彼の陣営ともいえるナツキ・スバルを痛めつけた後ろめたさもあるというのに。
「でも、フェリちゃんはユリウスは、本当に良い事をした、それに、すごく優しい! 最高っ! フェリちゃんから、太鼓判押しちゃう!」
「言っている意味が解らないよ、フェリス」
「えへへ~、そんな肩肘張らなくても良いよ。気付く子は気づいてるし、気づいてない様な奴には効果覿面っ! これ以上ない! あれだけやられちゃっても、怒らなかったツカサきゅんだけど……、歯止めが利かない連中が手を出して、バッサリいった日には、折角お友達になれる、力になる、って言ってくれた最高戦力を、あっさりと失っちゃう事になるからね~~。寧ろ厄災追加!! ってなっても驚かないヨ」
フェリスの言葉に、目尻が少し吊り上がるユリウス。
その表情を見て察したフェリスは笑いながら続ける。
「おやおや? フェリちゃんや団長の目が節穴、頭空っぽなお馬鹿さんに見えてたのかにゃ?? ………スバルきゅんは、いつ斬られてもおかしくない状態だった。ユリウスが徹底的にやってなかったら、ね?」
フェリスの言葉に、今度はユリウスが微苦笑を浮かべていた。
「騎士の身分を侮る発言をしたあの小僧に、若い連中はかなりピリピリ来ていた筈だ。同じ陣営の叙勲を受けた彼とはまさに正反対。……それも少なからず影響があっただろうな。―――何せ、近衛騎士団に所属しているヤツは、剣の腕前とプライドの高さは保証付きだからな」
マーコスの言葉に、ユリウスはまた反応する。
はっきりとバレている事が口に出して解った。
「フェリックス・アーガイルの言う通りだ。……あの小僧が、先走った誰かと接触していたら、最悪斬られていただろう。結果、厄災を跳ねのけた英傑をも敵に回す危険性は十全にあった。……許容を見せたのは、自分達陣営、あの小僧に無礼があったのを認めていることと……小僧が無事であった事がそうだろう。その命を奪ったともなると………、どうなるか想像がつかん」
最優の騎士、近衛の中でもトップクラスを誇る剣の腕前のユリウスに完勝した相手だ。
それも―――本職は魔法だという事も聞いている。
白鯨を撃退できる魔法を、怒りのままに放ってしまったら………?
想像がつかない、ではなく考えたくもない事だ。
「だよねだよね~~? って、団長っ! フェリス、って呼んでくださいよっ!」
「知らん」
「もーーっ。……んで、話戻すけど、ユリウスがやらなきゃ、フェリちゃんがやらなきゃかなー、って思ってたんだよネ」
「……それは適材適所、と言うヤツだよ。治療しなくてはならない君自身が敵対する訳にはいかないだろう。………それに私は不自然でないだけの理由もあった。彼とは面識もあった。……私が一番うまくやれる自信もあったのでね。あわよくば、彼の実力を測る事も―――とも考えていた。そして、叶ったんだ。是非もないことだよ」
「未知の強大な使い手相手、そして明らかな格下。どう取り繕っても、ユリウスが正解だ。……お前がやりたいというのなら、日頃から鍛錬しておけ」
「やーですよー、汗水たらして剣なんて、フェリちゃんの白くて透き通るような掌に豆でも出来たら、クルシュ様に顔向けできなくなっちゃいますもんっ!」
一応、団長命令だというのに、軽口1つで躱すフェリスにそれ以上マーコスは言わず、ため息を吐いた。
そして―――改めてユリウスの方を向き。
「騎士ユリウス・ユークリウス。処分を言い渡す。――――5日の謹慎処分とし、兵舎及び王城への登城を禁ずる。……その間、お前の剣は預かっておくこととする」
「――――拝命致しました」
覚悟は出来ているし、後悔はない。得られたものも相応にあるから。
「すまぬな。本来ならお前が負うべきではない責を負わせている。……寧ろ、最悪を回避した。お前は益を齎した、ともいえるのだが」
「団長はご自身が出来る最善を尽くされておいでです。一度は瓦解した近衛騎士団が今日も精強で勇壮足りえるのは団長の存在があればこそ。……そして、彼に巡り合う事が出来たのも、全ては団長の存在があればこそだと私は信じています」
「むっふふ~~、ユリウスってば、ツカサきゅんにゾッコンになっちゃった?? フェリちゃんも解らなくもないけど~~、残念がる女の子たちがたーーくさんいるだろうから、そっちの方も気を付けた方が良いかもねっ?
スバルきゅん闇討ちじゃなくて、ツカサきゅんを狙う子が増えるかもよん?? 」
「お前はいつまでも軽口ばかり叩いてないで少しは落ち着け。後、せめてちゃんと男の制服を着ろってんだよ。誤解されたままにしておくつもりか?」
「そのつもりですネ!」
その命令は聞けない、と言いたげなフェリス。
なので、マーコスはそれ以上は言わないのである。
「用件は以上だ。私も処理しなければならない雑務が多々ある。……退室を命じる」
マーコスの一人称が《私》に戻った。
それ即ち、公人の証だろう。
ユリウスとフェリスはそれ以上は何も告げず、敬礼をして、部屋を立ち去って行った。
「――――……それにしても、
2人が去った後、書類の山に目を通した。
とある男の情報が詳細に書かれている。
ハーフエルフ、あの魔女に似ている少女を推挙。
そして、この度の騒動の発起人である異国の者。
最大なのは、この世界の厄災を退けて見せた男の存在。
「……ロズワール。お前は今何を考えてやがる?」
少数ではあるが、あまりにも際物揃いが過ぎる。
それも短い期間。……不自然な程に。
あの道化師の姿を頭に思い浮かべた後……マーコスは歯ぎしりをするのだった。
「あの、ラム、さん………?」
「ラムの願いよ。暫く一緒に王都を巡るわ。バルスの馬鹿が使った茶葉の買い出しもあるし」
「うん。それは全然良いんだけど……、何で手を?」
「不貞寝してたラムの可愛い憂さ晴らしよ。それに、目移りしそうなツカサを御する必要もありそうだわ」
「憂さ晴らし?? え? なんで………?」
「エミリア様と随分楽しそうだったわね……。だから、暫く解放してあげないから、そのつもりでいることね」
ぎゅっ、と固く、強く、そして柔らかな手で繋がっている。
色々と処分を受けた者がいる。
重症を負い、眠っている者も居る。
大なり小なり、大変なだった者の割合が大きい筈の本日。
どこかぎこちなく、それでいて実に微笑ましい光景が、王都内で見られたのだった。