Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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無間地獄

 

「待て待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!!」

 

 

 

暗闇に包まれたかと思いきや、スバルが次に感じたのは何処かに放り出された様な感覚。

まるで、高い所から――――いや、高い所、と言うより空から突き落とされた様な感覚だ。

やった事は無いが、スカイダイビングがひょっとしたら、近しい感覚かもしれない……、と冷静に頭は回転し、漸く理解が追いついた。

 

 

なんてことはない。

本当に落ちているのだ。真っ逆さまに。

 

 

自分の身体じゃない様に、まるで何処も身体が動かせない。指一本すら動かせないのに、意識を失う事さえ出来ない。落下の恐怖、これが地獄なのか……? と叫びながら感じていたその直ぐ後。

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 

 

ドスンッ! と尻から落ちた。

感覚から察するに、これは竜車の荷台だろうか。

 

 

「痛ッ………、なんて乱暴な放り出し方………!」

「放り出され? ってか、この声って………」

 

 

周囲を見渡すも、今の自分の姿を見る事が出来ない。

早く鏡を所望したくもなるが、生憎声も届いていない様だ。

 

誰か別の人物の中? に入った様で、視点だけは向いてる方向関係なく360度見渡せる様だが、現状は五感の1つ視覚しか機能しなくなっている。

 

 

そして―――更なる地獄が襲い掛かる。

 

 

 

「んなんだそりゃああああ!!! 無理無理無理無理!! ぜーーーったい無理っっっ!!」

 

 

 

竜車の背後より迫りくるとてつもなく大きな物体。

空を泳ぐ、その形状(フォルム)は何処か鯨を彷彿とさせるが……、自分が知る鯨は空なんか飛んだりしない。

おまけに、全長は50mくらい? ありそうだ。海洋生物に詳しいワケではないが、最大規模のシロナガスクジラでさえも大体20~25mと聞いているので、それよりも遥かにデカい怪物。

 

真っ暗闇の中、霧をまき散らしながら、それはスゴイ速度で追いかけてくる。

逃げ出したくても逃げ出せない、あまりにもホラーな体験。

どれだけ叫んでも、声は届かないが喉が潰れる心配だけは無さそうだから、そこだけは良かったのかもしれない。遠慮なく最大音量の叫び声を上げ続ける事が出来るから。

 

これはこれで、発散になっているのかもしれないし。

 

 

 

迫る大きな大きな物体。

その正体が一体何なのか……、それを漸く認識したのは、その直ぐ後だった。

 

 

 

「白鯨、白鯨、白鯨!! 見た事無くても名前くらい聞いたことあるでしょうがっっっ!!」

 

 

竜車の持ち主。

それは初めて出来た友達だ、と言っていた人物。

 

 

―――オットー・スーウェンがそこに居たのだ。

 

 

 

そして、その口からあの化け物の正体が明かされた。

400年間も世界を蹂躙してきた大魔獣だと。

 

 

 

 

 

 

「食事中申し訳ない。―――――ソコ、災害警報発令中」

 

 

 

 

そして、自分は………スバルははっきりと認識する事が出来た。

今、自分がどうなっているのかを。

クルルの中のナニカが、自分に何をしたのかを。

 

 

 

 

「―――……オレは、ツカサの中に居る、のか? それも過去の……」

 

 

 

 

名前こそは聞いていないが、声の感じや雰囲気。オットーと言う商人の存在。

そして何よりもその後に発動した《テンペスト》と巨大すぎる鯨《白鯨》。

 

叙勲式の内容が嘘ではない、と言うのがこの目ではっきりと解った。

スバルが分かった所でどうと言う事ではないし、証明できるような事ではないが、それでもはっきりと解った。

 

 

 

「………いや、カッコ良し男かよ」

 

 

 

颯爽? とツカサはヒーローの様に現れたかどうかは別として。

※結構無様な着地だった。

 

絶対的な死である、あの巨大な白鯨に追いかけられていた時、それを見事に救ってのけたのだから。その後倒れた様だが、聞いた通り目を覚ました直後にあの白鯨+超強力魔法発動。ともなれば、曲りなりにもマナを扱った事があるスバルでも、一発でヤバイ事くらい解る。

 

オットーが女だったとしたなら、間違いなく惚れている場面だ。寧ろオットーも惚れてるかもしれない。あの顔を見てみれば。

生憎、男が男に惚れるそっち系の趣味はスバルには無いので、深く考える事なく、オットーの事を見るのもやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――聞いてた通り、オットーと暫く旅をする様だ。

ツカサが目を覚まして、商人達との話の輪に入り、そこでオットーの不幸さ加減も筋金入りだと言う事が解り、ツカサのジャンケン不敗伝説もここから始まり……。

 

 

「……他人の思い出? に土足で侵入してるオレ大丈夫なのかよ?」

 

 

と、次第にスバルはあまりにもプライバシーの侵害をし過ぎているのでは? と逆に悪い気がしてきた。

地獄を体験しろ、逝ってこい、と言われて相応の覚悟を持って挑むつもりだったが……、本当の意味でツカサの追体験をするとは思っても居なかった。

 

確かに、これならば自分が死ぬタイミングのツカサの様子が解ると言える。肉体的な痛みは今の所皆無。ただ驚かされて心臓に悪い気はするから精神的にはキツイ部分はある程度だ。

だが、それまでの間、ツカサに断りも無く、その中でずっと見続けると言うのは……、正直抵抗がある。

 

 

 

「まっ、これは入門編だよ☆ 大体自分の状況が解るまでの、って感じかな?」

「どわぁぁぁっっっ!!?」

 

 

 

そんな時だった。

耳元で、いきなり囁かれた。

声が聞こえた。それは物凄く傍なのに、その姿が一切見えない相手。

 

 

「おまっ!? クルルか!?」

「今自分に何が起きてるのか、何を見ているのか、それをしっかりと把握しておいた方が良いでしょ? —————この先を視る(・・)為にも」

「いきなり声かけてくんなよ! ドッキリ所の話じゃねーぞ! しかも姿見えねーし! ツカサの中のオレの更に中とか、マトリョーシカかよ!?」

「うんうん。ある程度緊張は解れたみたいだね? でも、そろそろクる(・・)よ」

 

 

クルルの中の……、ナニカ、と命名しよう。

スバルは、ナニカが来る、と言ったその瞬間空間が歪んだのが解った。

 

つい先ほどまで、オットー達と過ごしていた筈なのに、空間が歪み―――場面は見覚えのある街中の風景に変わる。

そして、更に視界がぼやけて……。

 

 

「ここは……王都の……? それに、オットーやラムまでいる」

 

 

歩いているのが解る。

軈て、オットーやラムの姿をその視界に捕えた。

 

 

 

「お待たせ―」

「遅いわよ、ツカサ。………店巡りして楽しんできたみたいね」

「ツカサさん、お疲れ様です! 早速ですが、聞いてくださいよ! ラムさんが酷いんです! こんな短期間で有力な情報なんて、普通に難しいって分かる筈なのに………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程成る程。そこはやっぱオットーだよな。んでもって、兄弟は流石だ。……ラムが一緒って事はエミリアを探してた、って事か。………それって、つまり――――」

 

 

 

場面を、スバルも思い返していく。

自身の記憶の中を、繰り返した時間も含めて思い出せた。

 

 

そう、エミリアと共に行動をしていたのはスバル。

この時、ラムはエミリアを探す為に、ツカサやオットーに頼んだ形だ。

 

 

そして、これは正真正銘の1周目で――――。

 

 

 

「「ッッ!??」」

 

 

 

 

 

そう、この時、この瞬間だったんだ。

 

 

 

 

《オレが……必ず、—————お前を救ってみせる………ッ》

 

 

 

 

初めて、死んだ(・・・)のは。

 

「―――――――――――――ッッ!!?」

 

彼を初めて巻き込んでしまった場面でもある。

そして、これこそ(・・・・)が彼が見て、感じてきた世界だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、か、あッ、あ゛あ゛あ゛―――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世のありとあらゆるものが、全てが捻じ曲がっていく。

それは歪に、更に歪に、生理的嫌悪感が何処までも高まるかの様に捻じり上げ歪んでいく。

 

 

人も建物も、王都や王城、大地すら関係ない。

 

 

この目に映る範囲もの全てが捻じり切られ、粉々になった。

 

その異質にして異様な力は……世界を滅ぼす力は、軈て具現化し黒い靄の様に変化して、纏わりついてきた。

 

 

 

「おっとー、ら、らむ……、ぐ、が、ぁ………」

 

 

 

黒い靄は完全に大地を消滅しさせると、今度は自身に来る。その足先から這い上がってきて……徐々に身体が同じく粉々に砕いていく。

 

それは《痛い》や《激痛》と言い表せるものじゃない。

この世のありとあらゆる痛みを集合させているかの様だ。

この世の不吉の全てを集合させたかの様だ。

 

 

 

腹を裂かれた。

腹を貫かれた。

内臓を露出した。

死の寸前までの衰弱を味わった。

 

 

 

死までの苦痛を味わった事のあるスバルにおいてでも、それがまるで稚拙。まだ先を知らない幼稚で未熟な責め苦痛。本物を知らなかった、とこの時程思った事は無いだろう。

更に深い、底が見えない地獄の拷問を受けているかの様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あがっっ、ぎぃっ、んぐがッ、が、ぎぃぃっっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただただ、死ねない気を失えない、目を逸らす事も出来ない、全てが封じられ、ただただ、この永遠とも言える。

叫びをまだ上げていられるだけ幸運なのかもしれない。もっとのた打ち回りたい、暴れまわりたい衝動に苛まれるが、肉体を持たない自分は、ただただ精神を甚振られ続ける為どうしようもない。

 

だが、それは彼も同じだった。

 

世界が壊れたのだ。

ここから先は、存在がもう無くなってしまった。

 

並行世界の様なものは、この先には無い。

ただただ、巻き戻る過程で、全てを無に返す。

 

 

 

―――これは世界の苦痛? 世界の悲鳴? 世界の――――怨嗟?

 

 

 

 

それらを一身に、全てをこの身に味わい続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ……。時を巻き戻すか。その元、原因となるモノは………いや、やめておこうか………」

 

 

 

闇の中で、声が聞こえた様な気がするが、それどころではない。

だが、まるで関係ないかの様に、その声は続く。

 

 

 

 

「さぁ、目を覚ませ」

 

 

 

 

 

 

 

そして―――苦痛が和らいだ気がした。

 

いや、少し違う。

 

苦痛は、激痛はそのままだ。

 

闇の中で世界が動き出したのを見た。ぼやけた光が視界の中に広がったのを感じて、苦痛以外のナニカを感じた為、僅かながら相殺された様に思えただけだった。

 

 

―――――――――――――!!!!

 

 

イメージを言うなら、声にならない奇声を発しながら、のた打ち回る様。

 

だが、ツカサは違った。

血を流していた。苦痛は去っていないが、それでもどうにか立っていた。このトンデモナイ苦痛の中、立つ事が出来ていたのだ。

 

ラムに思いっきり地に叩きつけられたが。

 

それでも何でもないかの様な顔で、周りを心配させない様に。

 

 

 

「■■■■■■■———……」

「これがあの子が感じてきた世界だよ。世界の崩壊とは言い得て妙、って所かな? その世界の痛みを全て、あの子が引き受けた形だね、きっと。勿論そんな事了承してないと思うけど」

 

 

 

声にならない、思考が纏まらない。

 

不快、気持ち悪い、痛い、苦しい、辛い

 

ただ、言葉にするとそれらな筈なのに、自分が何を言っているのかさえ解らない。

 

 

 

「で、これがこの時後2度程続いた、かな? そうだよ。君が死んだ回数だ。スバル君」

「●●●●!? ■■■■!?」

 

 

 

 

声にならない。

聞こえなかった筈だし、頭の中に入らなかった筈なのに、はっきりと理解し、聞き取る事が出来た部分は在った。

 

 

そう、アレ(・・)がまたやってくると言う事が。

 

 

 

 

今以上の地獄は知らない。

 

 

 

最も深く、最も恐ろしい地獄が今、迫ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――彼はいったい何を目にしているのだろう?

 

――――彼はいったい何を思っているのだろう?

 

 

 

彼は死と言うモノを安易に考えてしまっていた、と言うのではないだろうか?

死に戻りを体験し、文字通り死ぬほど苦しい苦痛を数度受けても尚、立ち上がる事が出来た。助けてくれる親友に支えられながらも、立ち上がり、再起を誓う事が出来た。

 

自分の死が、何を意味するのか一切理解しないで。

 

 

 

 

――――今は、何度目の死だろう?

 

 

――――後、何度死を迎えれば終わりなのだろう?

 

 

 

 

片道切符だと言っていた。

途中下車は出来ない、と。

 

いや、仮に出来たとしても、思考が定まらない。降りる(・・・)と口にさえ出来ない。

自分が今どうなっているのか解らないでいるからだ。

 

 

ただ―――――着実にその苦痛は上書きされていく。

 

 

死に戻りで、世界を破壊し、その世界の怨嗟が上塗りされ、つもりに積もっていく。

 

 

彼が死んで死んで死んで………そして、最後に待っているのは、今回の死(・・・・)

体感的には成るが、恐らく一番凶悪なモノ。

 

直ぐに立ち上がる事が出来た彼が、……長くても1時間程で起き上がる事が出来ていた彼が、一番長引いているのが、この最後の死。

 

 

 

――――本当の意味で、自分の存在が捩じ切られるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後の死がやってきた。

あの白い悪魔がやってきた。

 

ものの数秒で、脆弱な命を散らした正体不明のナニカ。

 

 

 

 

―――クルルといい、アイツといい。《ナニカ》って名前が多いな。

 

 

 

 

最後の命が潰えるその瞬間、どういう訳か、彼は戻ってくる事が出来た。

理屈は解らないが、それでも馬鹿な事を言える、軽口を考えるだけの事は出来る様になった。

 

だが、これ以上重ねれば、正真正銘の死が待っているだろう。

 

最後の白い悪魔が、その命を食い荒そうとしたその時だ。

 

 

 

 

「何やってるんだよ。馬鹿」

 

 

 

ぐいっ、と身体を起こされた感覚があった。

先ほどまでは、中に居た意識だけの存在だった筈なのに、掴まれた肩には感覚がある。

起こされたと言う感覚もある。

 

その手を掴もうとしたら……掴めた感触がある。

 

 

そして、白く塗りつぶされた筈の世界に、はっきりと彼の姿が見えた。

 

 

「いや、これはスバルに言うべきじゃない。……アイツ(・・・)か? アイツ(・・・)に連れてこられたな?」

「ぁっ……ぅ………っ、ぃ………」

「ゆっくり、ゆっくりで良い。ゆっくりで良いから、深呼吸……をするみたいにイメージしてみて。ここは現実と違うから、感覚も勝手も少々違うから難しいと思うけど、……大丈夫だから、落ち着いて」

 

 

背を摩られ、肩を叩かれ、その度に命が吹き込まれてくる様な感覚を自分は……スバルは覚えた。

 

 

「……取り敢えずさ? スバルは、オレには抗う術って言うのがある、って事忘れてないかな? いうならスバルは無防備で飛び込んできたんだよ? 防具も武器もない、裸の状態で魔獣の群れの中に入っていったも同然なんだよ? ……オレよりキツイの貰ってるよ、それ。だからこそ……」

 

 

彼は……ツカサはそう言うと、両方の肩を軽く叩いて、言い利かせる様に続けた。

 

 

「大馬鹿で、………凄いよスバルは。どうやってここまで耐えてこれたのか説明つかないし、理解出来ない程にな」

「ぁ……、ぅ………っ」

「だから、もう戻れ。オレは多分、ここでの事は覚えてないと思うから、何聞かれても解んないって事だけ覚えておいてね?」

 

 

 

そう言うと、軽く身体を押される。

白の世界から再び黒の世界へと身体が押し戻されていった。

 

 

 

「スバルの気持ちは嬉しいよ。凄く嬉しい。オレは1人じゃない、って思えたから。…………だけど、もうちょっと、やる前にちゃんと考える事!」

 

 

 

 

 

 

 

その声と共に――――スバルの意識は完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルが完全に消えた後。

 

 

 

 

「いやはや、ただの人間の力って侮れないもんだね。ささっと驚かせた後、連れて帰ろうと思ってたら、最後の手前まで行くんだもん☆ 本気で驚いちゃったよ。………彼、本当に(・・・)ただの人間………なのかな?」

 

 

 

何処か愉快そうな、そんな声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ス」

 

 

何処から聞こえてくるのか解らないが、はっきりと聞こえてくる。

 

 

「――――ルス‼ ――――ルス!」

 

 

その声は着実に大きくなってきて、そして――――。

 

 

「バルス!!」

「っっ……!?」

 

 

身体を走る鈍い痛みと共に……意識を完全に覚醒させた。

 

 

「話を、聞いていたの……? しっかりしなさい。ラムの気も知らないで、ほんと情けないわね」

「あ……あっ………、らむ? ラム……?」

「何を呆けた顔をしているのよ。……ツカサが目を覚ましても、そんな顔してたら、ハっ倒すわよ」

「……大丈夫、ですか? スバル君」

「れむ……? レム……?」

「は、はい。レムですよ。ど、どうしたんですか? スバル君」

 

 

スバルは、伸ばしてきたレムの手を握る。

右手にはツカサの、左手にはレムの。それぞれの感触を確かめる様に何度も握っては緩めて、を繰り返した。

 

 

 

……あの全てが白昼夢だったのか……? と思える程安くはない事は解っている。

 

 

 

幸いな事に、生きたまま死んでる様な状態にはならなかった様だ。

ハッキリしない点は多々あるものの、唯一解るのは、自分は生きていると言う事実。考える事が出来ると言う事実。

 

 

だが、それが必ずしも良かったとは言えない。

 

 

「っ………!」

 

 

スバルは、ツカサとレムの手を解くと、わき目も振らず走った。覚束ない足取り、転びそうになっても、どうにか這ってでも只管足を動かして、この部屋から逃げる様に出て行ったのだった。

 

 

「スバルくんっ!?」

「………レム。バルスをお願い。ツカサはラムが看てるから」

「は、はい!!」

 

 

ラムは驚いたり、怒鳴ったりせず、ただただレムにスバルの事を任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る、走る走る走る。

 

 

カルステン家のを飛び出して、誰に見られても関係なく、ただただ只管に走り続けた。

 

 

 

 

――――覚悟を、決めた筈だったのに。

 

 

 

 

苦しかったし、辛かったし、痛かった。

簡単に説明できない程の体験をしてきたのは、魂がはっきりと覚えている。

 

 

 

「さい、ごの、さいごで……、オレは、オレは………どこまでも、どこまでもっっ」

 

 

 

そう、魂がはっきりと覚えている。

覚悟を決めた筈だったのに、最後の最後で……また、ツカサに救われた。

 

ツカサの苦しみを解る為に。自分が齎した結果、何が起きたのかを本当の意味で理解する為に、あの世界へと赴いた筈だった。

 

キツイとヤバイと、止められても尚、制止を振り切って突撃した結果……、どうなった?

 

 

「また、またっ……」

 

 

無くした筈の五感ははっきりと戻ってきている。

擂り潰されていく地獄を経験しながらも、五体満足で戻ってきた。

 

とてつもない安堵感に満ち溢れている自分自身が憎くて仕方が無い。

 

 

 

「――――かくご、きめた? だと?? あのざまでか?」

 

 

死の深淵で、助けられた結果……スバルに齎されたのは生きてて良かったと言う安堵感。

《自分は安全である、……助けられると言う愉悦》

 

 

あのまま、死んでしまった方がマシだった、と思える今この瞬間も、ただの格好つけだ。

 

 

 

 

 

 

 

走って、走って緩やかな斜面を下って……、また走って走って、辿り着いたのは城壁の内外を繋ぐ王都正門の上部。

 

王都ルグニカと書かれたハ文字とロ文字がはっきりとスバルにも読めた。

 

 

 

 

――――………このまま、死とは無縁の何処かに逃げた方が良いのか?

 

 

 

 

正門の先に広がる空を見ながら、そう思ったその時だ。

 

 

 

「スバルくんっ!!」

 

 

 

 

取り得もない、覚悟も似非。

そんな自分の為に必死になって追いかけてくれた少女の姿を見たのは……。

 

 

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