Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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巨獣と人外

「どっりゃああああ!!!」

 

 

剣の鬼と称されるヴィルヘルムの剣を掻い潜り、見事に胴一本!! と白旗が振られる未来まで視えたと言うのに、結果はと言うと。

 

 

「ぶっはっっ!?」

 

 

何時躱した?

何時避けられた?

何時打たれた??

 

と頭が混乱してしまう程の衝撃が、額に在った。

遠心力を伴う一発にどうやら吹き飛ばされてしまった様で、天地が逆さになる感覚を絶賛味わっている。

 

だが、それは初めての事ではない。

 

スバルは、腕を回して身構え、華麗……とは言えないが、綺麗に転がって転倒によるダメージの加算を防いだ。

 

 

「ぺっっ、ぺぺっっ! どっすか? 見ました?? オレの受け身の上達ぶり」

「ふむ。真剣での立会ならば、無用な技術ですな」

「ですよね~~」

 

 

ヴィルヘルムの言う通り。

これがもしも、真剣での立会だったとすれば、見事に頭が割られ……るどころか、身体が綺麗に縦に割れて、内臓と言う内臓が全て外に露出すると言う、腸をやった時とは比べ物にならない程のスプラッターシーンの出来上がりだ。

 

想像するだけで気持ち悪く、また想像するだけで、相方に非常に……とてつもなく申し訳なくなるので、これ以上は考えない。

 

 

「そろそろ終わりに致しますかな?」

「御冗談を! 兄弟とやってた位は最低でもやらねーと、立つ瀬が無いっす」 

 

 

ツカサと比べるのは、馬鹿も休み休み言え、だろう。

案の定、視界の端に入ってるラムが、ツカサの名前を出した途端、呆れや嘲笑、見下し感満載で、様々な侮蔑系のオーラを向けてくる。

 

流石にヒドイ、と思うが、生憎事実は事実なので、甘んじるべきだ。

 

何せ、スバルの攻撃は掠りもしないのだから。

 

 

「ふむ。……今朝は幾らか普段と気構えが違うご様子ですな。男子三日合わざれば……。刮目すべきでしょう」

「ヴィルヘルムさんに、そう言っていただけるのは、有難い事極まれり、ですよ。クルシュさんにも色々聞いてもらって、オレは常に前を見続ける事が出来ました」

「ほほう。……先日読んだ本の中で、今のスバル殿の様な発言をした人物が、慣れ始めた戦場を甘く見た事が理由で命を落としておりましたな」

「!! 異世界で死亡フラグって存在すんの!? ヤメテください!! 桃色のメイドさんが、射殺さん、って具合で睨んできてるから!!」

 

 

ツカサは隣で笑ってるだけに留まっているが、その横の愛妻(ラム)はそうはいかない様子。

 

ラムの勢いならば、冗談抜きで封印まで施してきそうだから怖い。

結果、スバルにとって良い具合に緊張感を得られる……、と言うプラス面もあるにはあるのだが……、ラムの背後(バック)には王国筆頭魔術師であるロズワールも居るから、本気で封印魔術でも習得されれば、スバル危うし!! となってしまうのだ。

 

 

 

「―――ふむ。スバル殿。1つ、忠告をしておきましょう」

「忠告?」

「左様でございます。それは剣の振り方や受け身の技術、それらをお教えするよりも前に、もっと根本的なものです」

 

 

ヴィルヘルムは、人差し指を立てていた手を下ろし、後ろでに手を組んで………そして、より一層視線が鋭くなった。

 

まさに、鬼と形容する様なそんな眼。……実際に敵対した訳でもないと言うのに、ただほんの少しだけ凄んだ位だとしたら、本気の彼は如何なるものなのか、……と、いつも以上にヴィルヘルムの身体が大きく感じられた。

 

 

 

「―――戦うと、そう決めたのであれば全身全霊で戦いなさい。敗北に至る能書きなど忘れて、どんな手段を用いても、勝利と言う1点に貪欲に食らいつきなさい。……まだ立てるなら、まだ指が動くなら、まだ牙が折れていないのであれば、立ちなさい。……立ちなさい」

 

 

 

心の中まで見据えられている感覚。

漸く逃げずに立ち向かえるだけの気概を持てた。

レムやツカサ、ラムのお陰で持つ事が出来た事を、ヴィルヘルムは解っていたのだろうか? と思える程。

 

 

「立って、斬りなさい。生きてる限り、戦いなさい。戦え、戦え、戦え! ――――……それが、戦うと言う事です」

 

 

息をつくヴィルヘルム。

まるで、この場の全てを支配していたかの様な緊張感が霧散した。霧散する事で、スバル自身も張りつめていた気が抜けていくのを感じる。

 

 

絶対に死ぬ事は許されない。

 

 

その気概がなければ、生きた心地がしない程までに追い詰められていただろう。

 

 

だが―――ただ、入り口に立てただけに過ぎない。

いや、立つ資格を得た……だけだろうか。

 

 

 

「ヴィルヘルムさんの域にまで―――なんて、大層な事を言うつもりも、そんなハッタリかますワケにもいきませんが。……強くなる為に、強くなる為には半生を捧げる覚悟は持ってますよ」

 

 

真っ直ぐにヴィルヘルムを見つめるスバル。

それを見て、ヴィルヘルムは少なからず驚いた顔を見せた様だ。

 

予習復習が在ったからこそ。

 

スバルは、以前ヴィルヘルムから言われた事を魂に刻み込んでいる。

 

天才ではなく凡才だ、と言っていた事。

剣に半生を捧げる事が出来れば、到達するかもしれないと言う事。

 

何より―――愛する妻の事を想い、剣を振るっていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「散々痛めつけられたサンドバッグお疲れ様。バルス」

「よーし、全然労ってくれてねーのはよーく解るよ、姉様」

 

 

大の字に倒れてるスバルを文字通り見下しながら、嘲る様に言う癒しとは無縁なメイド、ラム。

チラリ、と横目で再びツカサとヴィルヘルムの打ち合いを見ていて、大袈裟ではないため息が何度も何度も溢れ出る。

 

 

「兄弟はズルだ、っつってっけど……ぜってー、それだけじゃねーだろうなぁ……」

 

 

セーブとロードを短時間で超高速で繰り返す事で、相手には実際に起こっていない筈なのに、その次元の歪みからか、残像として、幻視として体感させられる。

当たった未来と当てれない未来を交互に見させて、混乱の渦中に引き摺り込む技法、《揶揄者(ザ・フール)》。

 

確かにズルと言えばそうかもしれない。

 

 

打ち合いがスタートして、右に動いた瞬間打たれたのなら、一度戻って左に動けば良いだろう。

攻撃をしようとして、右に避けられたのなら、またまた戻って、その逃げた方に攻撃を仕掛ければ良いだろう。

 

言葉にすれば、カンニングしながらテストを受けてるようなモノだ。……が、それと身体がついてくるか、は全くの別物だとスバルは思う。

記録(セーブ)読込(ロード)とて、楽な魔法じゃない筈だ。

シャマク一発で潰れる自分だからこそ、魔法を操りながら剣を振るう、魔法剣士なツカサに羨望の眼差しを向けたい所だ。

 

 

「―――……まぁ、ヴィルヘルムさんも十分過ぎる程、バケモンって事なんだろうなぁ……。未来見られてるのに、それを見越して動いてんだから。考えれば考える程、頭痛い……」

「大丈夫ですか? スバル君」

「ハッ! レムの膝枕を受けといて、頭痛いとは笑わせるわね、バルス。贅沢もここに極まったかしら?」

「いやいや、レムの膝枕や水魔法は最高ですよ、最高!! これで、オレも直ぐに元気元気! ですよ。………マジでな」

「はい。レムは幸せ者です。……頭を撫でて下さっても構いませんよ?」

 

 

レムの頭に犬耳が見えた気がした。

レムは座っているし、スバルは寝転んでいるから見えないが、恐らくその可愛らしいお尻には、尻尾も見えている事だろう。ふりふり~ と振り回してるのがよく解る。

 

 

そんな事がご褒美になると言うのなら……、幾らでも。

 

 

と、スバルはレムの頭に手を伸ばして、髪を鋤く様に撫でた。

掌と髪の毛を通して、通じ合っている、と思ってくれるのなら……。

 

 

 

「情けない姿は、今日をもって終わりにする事ね、バルス。ここからが正念場なのよ」

「情緒ってもんを知ってもらいたいトコなんですが、姉様の言う通りだ。……いよいよ、明日だもんな」

「………冥日4時程……でしたね」

 

 

 

今日がカルステン家に来て4日目。……即ち、明日が厄災の到来日。

 

本来ならば、クルシュを始め、カルステン家に事情を説明する……と言うのが最善の策かもしれないが、生憎それはムリだ。

嘘を見抜く事が出来るクルシュに言った所で、何故知っているのか? と言う疑問が残るし、狂信の類だった場合は見抜けないとの事だから。

 

 

時と場合-――と言う事はあるが、ツカサの言う通り、能力を安易に広めてはならない。

如何によくして貰った間柄とはいえ、カルステン家は政敵。

ツカサのリスクが跳ね上がる可能性だって捨てきれないから。

 

 

明かしても良い相手の選別は、ツカサに一任はしていて、スバルの口からは絶対に言わない。

言っても信じないと思うが、ツカサはラインハルトやユリウスから、未来を見据える、とまで言われている男だから、ひょっとしたら信じる者も居るかもしれない、と言う訳で口をしっかりと噤んでいる。

 

 

「アレに関しちゃ、兄弟を頼る他ねーってのが、辛い所ではあるが。兎に角、オレは死なない。ぜってー死なない様にする事だけは心掛けるつもりだ。後、時間もきっちり把握しとかないと……」

 

 

スバルはジャージのポケットを弄って、唯一この世界に持ち込んで、残ってるアイテム、携帯電話を取り出した。

ずっと使ってないから、まだまだ電池は活きている。

体内時計より余程正確。タイムキーパーは、極めて重要な役処だ。

 

 

 

 

 

 

 

そして、暫くして―――本日の稽古は終了。

汗を拭い、ツカサは3人の元へと戻ってきた。

 

 

「おつかれーー、兄弟。やっぱ、パネェわ。背中見えねーわ」

 

 

倒れていた身体を起こし、スバルは拳を突き出した。

それに応える様にツカサも拳を突き出して、当てる。

 

 

「背中は見えてるよ。視覚的な意味じゃ無く。ゆっくりでも着実に進んでれば、大丈夫」

「嫌味に聞こえねぇのがスゲェ。もし、これがユリウスとかだったら、唾の1つや2つ飛ばしてたわ」

 

 

ユリウスの心証に関しては、スバルにとっては最悪の一言だった……が、実は今はそうでもない。

何故なら、ツカサが聞いてきた(・・・・・)事を、スバルもツカサを通じて知ったからだ。

 

ある意味、ユリウスは恩人。スバルにとっても……ツカサにとっても。

 

 

だが、しこたま殴られた。リンチされた。手足折られて頭割られて、トラウマものを味あわされた相手だ。そう簡単に受け入れられる程、スバルは大人ではないのは仕方ない。

 

 

「手筈通りに。明日は王都の外に出よう。……王都の中にいたんじゃ、死角が多過ぎて、対応が遅れるかもしれないし。ある程度は見通しを良くしておかないといけないから」

 

 

西の空から、白い悪魔がやって来たのを覚えている。

故に、城門を超えた外で待ち構えた方が大分都合が良いのだ。

 

 

 

「……ツカサ。本気でバルスを外へ連れて行く気? 何処かの地下牢にでも閉じ込めておくべきじゃないかしら?」

「それ、結構同感な気が済んだけど、すっげーー、納得し兼ねちゃうよ、オレ」

「大丈夫です! レムがスバル君と一緒に居ますから。レムは何処へでも付いて行きますよ」

 

 

外に出る以上、あの凶悪な攻撃? を遮る事が出来ない。

そもそも、城壁を消し飛ばす程の威力を誇り、全てを凍らせる白の咆哮だ。王都に居ても安全とは言えない……が、地下なら或いは、と思ってしまうのだ。

 

 

「いや、攻撃の範囲がよく解ってないし、あの一撃が地殻をも貫通する程だったら、意味を成さないよ。全部凍らされて終わりだ。……クルル(コイツ)なら、ある程度受け流したりする事は出来る筈だと思うから、皆で一緒に居る方が幾らか安全だよ。………ラインハルトに、頼もうかな? とも思ったんだけど、どうやら王都を離れてるらしいからさ」

 

 

策として、真っ先に上がったのが、当代の剣聖に助力を求める事。

ラインハルトは、超がつく程お人よし。普通ならば疑うだろう事でも、彼は信じてくれる。特に未来を見据えている、と思っているツカサ相手なら、必ず信じてくれる事だろう。

 

 

だが、生憎ツカサが言う様に、ラインハルトはフェルト達と共にルグニカ王国、王都を離れている様で、助力は求める事が出来ない。

 

 

「ラインハルトか……、確かに、ただ剣振っただけで、あんな衝撃破出るんなら、冷凍ビームも吹っ飛ばしてくれそうだよな………。来ねぇんじゃ、無理だけど」

 

 

スバルも期待していた相手でもあったから、落胆の色は隠せれない。

エルザを消し飛ばしかけた一撃は、建物をたったの一振り。

吹き飛ばした剣聖の一撃であり、それが本気だったかどうか怪しい限りだ。エミリアはラインハルトが本気を出したら~~、と言っていたが、抜くべき時に抜ける伝説の剣とやらも有る以上、本気中の本気のラインハルトは、未知数を通り越している。

 

だからこそ……この異常事態に欠かせない人材……だったのだが、いない者は仕方が無い。

 

 

 

「スバルは、オレに頼らなきゃ、って言ってたケド、厳密に言えば、頼るのはコイツだから。苦手意識芽生えたかもしれないけど、こき使う事に関しちゃ同意もらってるから、安心していいよ」

「お、おぅ」

「きゅきゅっ!」

 

 

ツカサの死以上追体験をした経験から……スバルはこの愛らしく、モフりたい衝動を掻き垂れられる形態(フォルム)なクルルが……、遠ざけたくなる、視界に入れたくない程のバケモノへと変貌を遂げていたのである。

無理もない事ではあるが、今のクルルとあのクルルは別の存在だ。ツカサ自身の説得もあって、どうにか納得させる事にするのだった。

 

 

 

「取り合えず、明日はダブルデート、って事にすっか。買い物って名目でここから出て………だな」

「うん」

 

 

 

「レム。ラムたちも警戒は怠らない様にするわよ」

「はい、姉様。……レムも解っています」

 

 

ラムとレムも気を新たに持つ。

例え自分が傷つく結果となっても、反射的にラムやレムを、スバルを優先してしまうツカサだ。話を重ねた所で、それは変わらないらしい。

 

ならば、出来る事はただ1つだ。

それは、スバルの決意と同じ。

 

 

 

―――絶対に死なないし、死なせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の日。

 

 

当日、スバルとツカサ、そしてその従者でもあるレムとラムを合わせて4人は、一緒に外へと出る旨を事前にクルシュに告げていた。

嘘が通じないクルシュに、ダブルデートなる言葉を告げた所で、あっさりと見破られるのは解っているので、どうしても外せない用がある、と曖昧な理由にする。

 

理由と言う面が気になる所ではあるが、ツカサやスバルの目を見て、踏み込んで良いか悪いかはクルシュとて解る。

 

なので、家を出る分には特に問題は無かった。

 

 

「政敵とはいえ、クルシュさんが友好的になってくれたら、こちらとしては凄く助かると思うんだけどね……」

「友好的、ってか、対等な同盟みたいなの結べりゃぁな? でも、向こうに旨味があるかどうかにかかってくると思うし、王選絡みじゃキツイだろ」

「ん………」

 

 

クルシュは、大きな事をすると言っていた。

それに対し、ツカサが手を貸すと言った時は、お世辞でも社交辞令でもなく、本当に感謝の念を示していた。

 

 

その内容が何なのか、それ次第では不可能ではないのでは……? とは思えたが、だからと言ってエミリア陣営とクルシュ陣営が対等な立場で同盟を組むか? それを良しとするか? と改めて考えなおすと、やはり可能性としては極めて低いと判断せざるを得ない。

 

王選、国を左右する決断だ。

 

一個人の存在で、安易に揺れる程度な信念なワケが無い事くらい、クルシュと接していてわかったつもりだから。

 

 

「……でも、ひょっとしたら、今回の件で借りを作れるかもしれないよ」

 

 

ツカサは、考える。

今回の件。

もし、事前に防ぐ事が出来たのなら、切り札を切る事で防ぐ事が出来たのなら、どの程度の規模まで広がる厄災なのかは解らないが、少なくとも前回自分達がいた位置は跡形もない。氷結し、粉微塵の様に消し飛んだ。

 

一瞬ではあるが、想像上では カルステン家のある貴族街も決して無事では済まされないだろう。

 

 

「ツカサを疑う訳じゃないけれど、最悪逃げる事も当然候補に入れておく、そのラムとの約束は忘れたワケじゃないわよね?」

「それは勿論解ってるよ。……大丈夫。最善策を常に考えて、行動するから」

 

 

ツカサは、スバルに倣ってラムの頭を撫でてあげた。

レムがスバルに対して感じていた感情と全く同じ種類のものがラムにも溢れ出てくいる。通じ合っていると言う気持ち。その心地良さは一度でも味わってしまえば、レムの様に幾度となくせがむ気持ちに繋がるのも頷けるだろう。

 

 

「……ふふ。早く、本当の意味(・・・・・)で通じ合える、繋がれる日が来る事をラムは願ってるわ」

「全部、全部終えた後に、ね?」

「恥ずかしがらなくても良いと思うわよ、ツカサ。……ラムも初めてだから」

「や、えっと、そう言う訳じゃない……ことも、無いけど………。えと……っっ」

 

 

これから先は死地。

そう言っても過言ではない場所に赴くと言うのに、随分余裕がありそうだ……と感じたのはスバル。

 

 

「ほんっと、パネェよな、2人とも」

「ふふ。レムは嬉しいですよ。レムがいて、スバル君がいて、姉様がいて、ツカサ君がいて。何でもできる気分です!」

「おおよ!! その意気だな、レム!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――ソレ(・・)はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――……この身も、あの男も、……全て同罪だ」

 

 

 

 

 

 

 

空の色が真っ白に変わり……全てを覆いつくす凍土が広がってゆく。

そんな白の世界で、はっきりとソレ(・・)は姿を見せた。

周囲を睥睨する灰色の獣。……いや、獣と称するには聊か無理がある。その身体から発するオーラは、他を寄せ付けぬどころじゃなく、全てを氷で閉ざしてしまう程。

一息吐けば、そこに吹雪が生まれる。一歩踏み出せば、大地が凍る。

 

それを視界に入れれば……問答無用で命の火を消される程の代物。

 

 

 

それは灰色の巨獣。

 

 

 

世界を真白の雪化粧で覆いつくす。

生きとし生けるもの全てを凍り付かせ、地獄へと塗り替えていく――――筈だった。

 

 

 

 

 

 

―――ジ・アース。

 

 

 

 

 

「………む?」

 

 

全てを凍土へと染める為に、闊歩続ける巨獣。

その先を見て、無の表情だった筈のそれが歪んだ。

 

何故なら、この先のルグニカ王都……の筈だったが、それが視界から一瞬で消え去ったからだ。

 

 

あの王都に居る筈の男達を。……味方である、と断言した男達を滅するが為に、歩を進めていたが、それを止める。

 

 

 

真白な世界で、はっきりと視認出来たのは、せり上がった大地だ。

行く手を阻もうとでもいうのだろうか、或いは王都を守っているのだろうか。

理由は解らないし、どうやったのかも解らないが、間違いなく目の前に大地が壁となって立ちはだかった。

 

 

 

 

――――インヴェルノ。

 

 

 

 

 

そして、驚くべき事に、そのせり上がった大地は、今度は凍結したのだ。

それも、自分が染めたワケではない。勝手に、雪化粧の様に白く、瞬時に凍った。

 

 

それはまるで大地を使った巨大な氷の盾。

 

 

 

 

 

「なるほど。……随分型破りな事をする。……漸く、理解出来たよ」

 

 

 

 

巨獣は、まるで猛獣の様な唸り声をあげた。

その瞬間、猛烈な吹雪が発生するが、同じ属性故にか、氷の盾には通じなかった。ただただ、受け流され、破壊には至らない。……間違いなくその内部に居るであろう者たちは無事だろう。

 

 

 

 

更に歩を進め……。

軈て―――氷の盾から、1つの影が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えなかった訳じゃない。だが剣聖以外に、か……――成る程成る程」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剥き出しの牙を唸らせ、巨獣はその影を見据えた。

 

真白の世界の影。

 

それは徐々に()を伴っていく。

 

影は軈て緑玉と紅玉の輝きを周囲に奏でさせながら―――そして、世界を真白に染めあげんとする巨獣と相対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――成る程。……人外か」

「はじめまして。……取り合えず、何者なのかと目的も聞いておこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

巨獣と人外が今、相まみえた。

 

 

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