Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
「……クソっ。いい加減 数が多過ぎる。単純な物量戦は、
「バルス、死んだら殺すから、そのつもりで。レムに傷1つ付けても同じよ」
「この場最弱のオレにスゲー事言いますね、姉様。んでも、やれる所までは、やってやるよ!」
「流石スバル君です。レムも負けてられません。……早く、早く突破して屋敷へ……っ」
アルゴーアがペテルギウス? を燃やし尽くしたのを合図としたのだろうか、廃村と化したアーラム村の至る所から、更に森の中、……果ては土の中からも、ペテルギウスの指先と呼ばれている黒装束の連中が這い出してきたのだ。
だが、その攻撃手段には違和感がある。
「明らかに、狙いはオレ達の足止め。……それにペテルギウス自身がここに居ない、って事は」
殲滅が目的ではない。
勝てないと解っている相手にジリ貧で挑んできている構図を見てもそうだ。恐らく、指先には殆ど感情と言うものが無いのだろう。
唯一絶対の魔女、そして大罪司教であるペテルギウスの意思以外で、動きを止める事は無い。
例外があるとするなら、引き寄せ効果のあるスバルの魔女の残り香だろうか。
「テンペスト!」
ツカサは、テンペストで複数の魔女教徒を吹き飛ばしながら、確認する。
当然、より厳重に、より死角無く配備されているのは屋敷の方角だ。
「あの野郎、エミリアを……ッッ」
「バルス。集中なさい。分相応な武器を持っていても、使い手が滓じゃ、直ぐにやられるのが落ちよ」
スバルは、以前の魔獣騒動の際に、ツカサの風を纏わせている剣を今回も使っている。
防御に特化した剣。刀身に宿った風で身を守り、他者も守る事が出来る。
ある意味では矛盾した武器だ。
命の取り合いではない剣道をやっていたスバルにとっては、これ以上無い武器でもある。
「この人数で、戦って負けない、それを確認できたのは良い事だし、他力本願なオレにとっちゃありがたい事極まれるだが、大切な人を守れなきゃ、意味がねぇよ……っ クソっっ!!」
スバルは、歯を喰いしばりながら耐えていた。
それを聞いて、ツカサはどこか安堵を覚える。
スバルも一緒なのだ、と。
いや、きっとスバルだけでなく、レムやラムも解ってくれているだろう。
安易に戻れる事を意識していない。
全ての世界に対して全力を尽くしている。だからこそ、悔しさが出てきている。
「―――その悔しさも、無念も、全部忘れずに持って帰る。……最後に
「! ああ、そうだな!」
ツカサの言葉を聞いて、表情を俯かせていたスバルは、はっと、顔を上げた。
「オレの風を使う事で、スバルの魔法の練習になれば尚良いな。実際になるかは解らないけど」
「そりゃな。んでも、そもそもオレのゲートから出した魔法じゃねぇのに、自在に操れるってどういう理屈?」
「……それは、
ツカサの隣に居る精霊クルルを指さした。
攻撃をしつつ、ツカサやスバルの話を聞いたのだろう、何処か胸を張ってる様にも見える。
「……やっぱり一斉攻撃、って言うより波状攻撃って感じ。だったら、奥で相応数控えてる……?」
寄せてくる波を超えても、また同じ様な波が次々にやってくる。
大人数で一斉にかかってくれば、相応の魔法を使って一気に仕留めたい所ではあるが、この攻撃法だと、そうはいかない。
時間とマナや体力を消耗させるのが狙いだろう。恐らくは最優先は時間。……試練とやらを優先する為に。
「レム、空に向かってヒューマを打ってくれないか?」
「え?」
「飛べない訳じゃないけど、そっちの方が速度が段違いなんだ。だから、頼む」
「! 解りました、ツカサ君」
レムは、モーニングスターを使用して、敵を薙ぎ払うと、空に向かって手を掲げた。
最初はよく解ってなかったが、短い話の内容で、ツカサの意図を理解したから。
「アル・ヒューマ」
極大の氷の柱が無から形成される。
その氷柱にツカサは飛び乗った。
「
「お願いします」
「あまり待たせないでよ」
「おおよっ!! こいやぁぁぁぁ!! 黒子ども!!」
ツカサはそう言い、皆の了承を得たのを確認すると、クルルをラムの方へと向かわせた。
ひゅんっ、とクルルはラムの肩に乗る。
明らかな戦力の1つであり、ツカサ自身の力の源でもある精霊を手放して向かう事をラムは良しとはしなかったが、もうツカサは遥か上空だ。
「……何処までも、自分より他人を、なんだから」
「きゅんっ♪」
ラムはそう愚痴った。
確かにクルルの力を用いれば、ラムも十分戦う事が出来ると言って良い。マナの移譲はクルルが行っているも同然だから。
だから、心を通わせた人、
―――と、ツカサはいつも言い訳をするのが定番である。
レムのアルヒューマでそれなりの高さまで飛んだ所でツカサは氷柱を離した。
そして、じっくりと上空からあの指先が何処からやって来ているのかを確認する。
四方八方、拠点にして6つ見えた。村からやや離れているし、かなり暴れているからか、ラムの千里眼でも見れなかったのだろう。
だが、空から見れば解る。
「
見えたのを確認すると、ツカサは右手と左手、夫々に魔法を充填し、合わせた。
右手には
左手には
無より精製され、圧縮し、そして ブレンドされた地と炎の魔法。
地と炎の魔法を足した結果、それは燃え盛る巨岩へと形成された。
「メテオラ」
『!!?』
それは、空から飛来する隕石を見紛う一撃。
6つの拠点に、空から6つの隕石群を落として、瞬く間に殲滅させた。
頭上と言う死角からの魔法攻撃。それに抗う事など出来る筈も無い。
突如、空が暗くなったか? と思ったその時にはもう既に遅いのだ。それに、上から燃える岩が降り注いでくるなんて、一体誰が想像出来ようものか。
辺り一面から、地震の様な振動と、爆発音、衝撃波。
地上に居る3人からは全容は見えない、一部分しか見えないが、それでもどうなったのか、その結果は解る。
無駄な破壊をする事なく、ただただ、集まっていた指先、狙われた指先は、皆平等、等しく灰塵と化した。
「マッジかよっ!! これ、オレが一番最初にやりたい、ってパックにリクエストした魔法じゃんっ! まぁ、隕石の雨! って程じゃねーかもだが! うわわ、マジかよマジかよ!!」
ぽかーん、としていたスバルだったが、漸く声を振り上げた。
あのツカサの魔法を見て、驚きで驚愕で………よりも何よりも、興奮して過ぎて燥ぎまわる。
そして思い返すのは、それは以前、ロズワール邸で魔法教室をパックに開いて貰った時の事だ。
最初は精霊使いと魔法使いの違いの説明を受けていただけだったのだが、魔法が使えると聞いて、あの
《いや、できないよ。魔法は1日にしてならず、だし》
だが、案の定というか何と言うか……。
結局初級どころか、入門すらしていないスバルが扱えるワケもなく、結局は簡単な入門魔法《シャマク》に落ち着いたのだ。
それでも、爆発して大変だったが。
「凄い………っ」
「ツカサなら当然よ」
この時ばかりは、レムもスバルに集中する事なく、今の魔法を魅入ってしまっていた。
余計な破壊をせず、一点集中させているのがより凄まじく感じる。
何せ、燃える岩が森へと落ちて、そのまま燃え広がったら、ここら一帯が焼け野原になってしまうのが目に見えているから。
だが、全てを把握した訳ではないが、燃え広がっていく様な感じはしない。
ラムもラムで、何処か誇らしく胸を張った。
惚れた男は、愛した男は本当に凄いんだと。
―――絶対に、
「キツい。……流石に」
空から戻ったツカサは、膝を付いた。
連戦に次ぐ連戦、更に言えばここから先にはまだペテルギウスが存在している。
その部下相手に力を使い切ってしまい、肝心のペテルギウスが野放しになってしまったら、と考えたら笑い話にもならない。
「スゲーな、兄弟……! っとと、やっぱ、あんな超魔法使ったら、キツイよな。肩貸すぜ」
「スバルありがと。安心して。
「……結構気にしてたのバレバレだったか。マジ頼りまくってすまん。んで、それ聞いて安心できたよ。サンキュー」
ツカサの落下地点に一番近かったスバルが肩を貸した。
「ラムたちが、ラムとレムが楽を出来たのはとても良い事だけど、バルスは駄目。それに後先考えずに魔法を使い過ぎてるのは感心しないわ。……まだ、
「ぅおい、オレがダメってなんだよ、それ!」
「ツカサ君。レムたちも微力ながらお力添えをします。ツカサ君だけ無理はしないで下さい」
規模が大きければ大きい程、威力が大きければ大きい程、代償を伴うのは当然の事。
敵の波状攻撃は確かに足止めをされたし、一刻も早く向かわなければならないのは解るが、それでツカサが倒れでもしたら、それこそ終わりだ。
「心配かけてゴメンゴメン。……でも、今のは相手を殲滅する為だけに使ったんじゃないよ。……
ツカサは、屋敷の方角を指さした。
それを見て、そして聞いたスバルは察する。
「エミリア達に、今の
「うん。さいれん、って言う言葉は解らないけど、意味は解るよ。大丈夫、パックやベアトリスさんも居るんだから絶対に気付いている筈。それに、多分ペテルギウスにとっても都合が悪い筈だ。……もし、騒ぎを起こして、逃げられでもしたら。何より、オレ達と合流したら、って考えたら。何せアイツ曰く、オレは門番らしい。………折角門番が離れてるのに、意味が無くなるからね」
そう言って笑って見せるツカサの頬にそっと触れるのはラムだ。
狙い通りに事が運んだ、とはいえ、その身体が全く大丈夫だ、という訳ではない筈。怠惰との連戦に次ぐ連戦、指先とも含めて連戦。……この場に立つ者の中で、誰よりも消耗している筈だ。
だが、今更何を言っても止まる訳もなく、ツカサが居なければ魔女教を撃退出来る筈も無い。ツノナシである無力な自分を嘆きたい所でもあるが、それをおくびに出せば、ツカサだけでなくレムまで気を使う。
だからこそ、言葉にせず、顔にも出さず。ただただ想いを胸に、手に込めて、ツカサに触れる事にしたのだ。
「……そうね、ツカサが考え無しな訳が無い。そんなのは1人で十分よ」
「いちいち毒吐かないと死んじゃうの!? 名前呼ばなくても、誰ん事いってっか、わかっからな。姉様!」
「スバル君は素敵ですよ。ツカサ君。治療をさせてください。効果は少ないかもしれませんが、所々の傷は治せると思います。……させてください」
ラムが頬添えをし、傍らではレムが治療を施す。
スバルは文句を口にしつつも、やはり考える事はエミリアの事。
そして、ツカサが考えるのは……、皆を救う為にはどうすれば良いのか? だ。
正面から戦っても、解った通り勝てない相手ではない。
だが、敵は周りを巻き込んでくる。アーラム村の皆を……、エミリアを。
全てを護りながら戦うのは現実的ではない。
間に合わない、という点もそうだが、何より敵の数が多く、村人を狙い出したら止められない。
そもそも――――村を襲うまでの猶予が全くない。
霧が出現したリーファウス街道を避けて、霧を避ける様にそれでいて最短の道筋を目指しても………結果は村を救えなかった。
「(……もう、あそこを、突っ切るしかない、か。……でも、超えれたとしても、戦力は?)」
魔女教を倒し、村人を守り、エミリアも守る。
全てを叶える為には――――どうしても、人手が足りない。
それに、戻れば戻る程、自身の戦力も削られていくのも事実。
「考えるより、今は行動、か」
ツカサはそう言うと、借りていた肩をスバルに返し、ラムの頭とレムの頭を軽く撫でて。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
礼を告げた。
レムは頷く、ラムは、どさくさに紛れて額に………、色々としようと画策したが、未遂に終わり、憤慨。
なので、ツカサの鼻先に人差し指を当てる。
「全部無事に片付く事が出来たなら、ラムと今の続きをするわよ」
「うわっ、大胆にして、拒否権ないヤツだ! コレ!」
そう言って笑っていた。
修羅の場で、最悪の場でも笑う余裕がある事は本当にありがたい、と改めて感じるのはスバルだ。
この時、例え死に戻りがあったとしても、例えやり直せるかもしれない状況だったとしても、きっと笑えていないだろう。
1人じゃ無いから。最善の道を通って、最高の未来へと一緒に向かう事が出来るから。
「―――そこまでよ! 悪党!」
そして、ツカサの狙い通りになった。
ペテルギウスを含めた魔女教、怠惰の一団の残りが、ロズワール邸へと乗り込む寸前、あの魔法でまずフレデリカが気付いた。
魔女教の存在にも気づく事が出来た。
奇襲こそ防ぐ事が出来たが、それでも突然の襲撃には変わらない。
ここまでの事態を想定した事前準備は出来ていない為、後手後手になってしまったフレデリカだったが、離れているアーラム村の異常ならまだしも、屋敷周辺の異常くらいはエミリアとて解る。
エミリアを危険な目に合わせたくない事を第一と考えているパックも、エミリアの意思には従う。故に、当然ながら共に参戦したのだ。
「屋敷をめちゃめちゃにして、フレデリカまで傷付けて、私は許さない!」
「鳴呼………、なんと、なんと、なんと好き日! なんという吉日!! 我が指先がほぼ失われたこの凶日の中で、なんという宿命!!」
エミリアを目にした瞬間、ペテルギウスは声を張り上げた。
ツカサの魔法で、村に集中させていた指先達が全滅した事は気付いている。試練の厳しさを体感し、この狂人に歯痒い気持ちにさせる事は出来たが、エミリアの姿を確認した途端、それは消し飛んだ。
「おお、魔女よ、魔女よっっ!! 我が愛の道しるべよ!!」
「自慢の愛娘に見惚れるのは解るケドね、悪い虫はお断りだよ」
パックの氷結が、ペテルギウスを捕らえる。
氷漬けにして、それで仕舞い……という訳にはならない。
「甘い! 甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘いまいまいまいまいまいデス!!」
見えざる手が、無数のその黒い手が、氷結を砕いてチリへと変えたからだ。
「!! なに? 砕けた……っっ!!」
エミリアやパックの眼からは、何の前触れも、攻撃や防御手段も、一切見えず氷が打ち砕かれた様に見えた。
そして、ヒューマを主体とした氷の魔法も瞬く間に砕かれていく。
「見えない攻撃、か。リア。間合いをもっと取って。後、あの近接戦闘主体な大きなメイドさんとは相性最悪だと思うから、呼び戻す様に言って」
「うん、わかった! フレデリカ!!」
エミリアは、フレデリカの周囲に氷の壁を作り、敵の追撃を阻止しつつ、下がる様に告げた。
所々傷は負っているものの、そこまで重症ではない様で、すぐさまフレデリカは退避する。
「申し訳ありませんわ、エミリア様。私の為に」
「いいの。……あの悪党は目に見えない何かで、攻撃してきている。近づくのは危険よ。離れて、魔法攻撃で仕留めるから」
パックの攻撃は幾度も見えない何かで、砕かれている。
だが、それこそが、目に見えない攻撃を可視化する事に成功する結果となった。
細かく砕かれた無数の氷の粒子が……、見えない何かに纏わりつくかの様に、道しるべになっているから。
「我が愛の印!! 試練を!! 受けるがいいのデス!!!」
ペテルギウスは、その事実に気付くのが遅れたのだろう。
フレデリカは横へと跳躍し、回避。
エミリアは、逃げでは無く向かっていった。
見えざる手を回避し、時には魔法をぶつけて、……そして、巨大な氷像を作って高くに跳躍。
「無駄無駄無駄ぁぁぁぁ!! 空中では、動きが鈍るのデス!! 怠惰怠惰怠惰怠惰ぁぁぁ」
見えざる手を、エミリアへと伸ばす……が。
「ダメだよ。僕の前で余所見しちゃ。……それに、僕の前で、娘に危害を加えようとするなんて、もっと駄目だよ」
伸びた手は上に、故に足元が完全に疎かになっている。
地面から張ってきた氷結攻撃を、ペテルギウスは防ぐ事が出来なかった。
足元から、下半身全てを凍らされ、動きを止められる。
動きが完全に止まり、更にペテルギウスの意識が足元へと逸れたのを見計らい……。
「ウル・ヒューマ!!!」
エミリアはその頭に氷の鉄槌を落とした。
勝敗は決する。
ロズワール邸、庭園での戦い。
軍配があがったのはエミリア陣営。
ペテルギウスはエミリアが、そしてフレデリカが周囲の雑兵を排除した。
全てを、終えた所で――――、ツカサ達が屋敷へと到着。
いや、厳密に言えば少し違う。
ペテルギウスにトドメをさす寸前だ。
「嗚呼……、これは実に………、勤勉デス!」
「ありがとう。……ちゃんとやられて」
こうして、ペテルギウスは完全に氷結。
その身体を砕かれて散った。
「……エミリアさんは、無事でよかった」
「あ、ああ。………エミリア」
スバルは、エミリアの姿を見て、いの一番に駆けつけるつもりだったのに、足が動かなかった。
エミリアは、泣いていたから。ペテルギウスが居た場所をずっと眺めながら、ただただ無表情で、泣いていたから。
「…………っっっっ!???」
その時、だった。
エミリアの涙に、その姿から目を離せられないでいた筈なのに、まるで身体の内側を抉られるかの様な感覚に見舞われたのは。
「スバル?」
身体が震える、身体の芯が震える。
そして、解った。理解した。……とうとう、尻尾を掴んだ、と歓喜する。
力になれる。
力になれる。
そう、何度も何度も奮い立たせた。
「えみえみ、ここ、えみ……、はな、はな……れる!!」
頭の中ではしっかりと話せていると言うのに、口が回らない。
でも、まだ身体は動く、動かす事が出来る。
エミリアの所に、では無く、反対の森の中へとスバルは駆け出した。
「スバル!!」
「スバルくん!?」
「バルス!」
スバルの突然の行動に、疑問を持ったツカサとレムとラムの3人は、エミリア達と合流する事はなく、スバルが駆け出していった森の方へと付いて行った。
「どうしたんだ! スバル!!」
「―――つかさ、わかった。わかった、ぜ。やった。やったん、だ……! ……おれ、おれから、はなれた、いちで、きいてくれ……っ」
身体が震えているのが解る。
胸を抑えているのが解る。
明らかにスバルの状態は普通ではないと言うのに、その顔は苦しそうなのに何処か誇らし気だった。
「とうとう、やろう、のちから、、の……正体……気付けた……ッッ!! 怠惰は、怠惰は、複数存在するんじゃ……ないっっ すべて、すべてどういつの――――――――――」
そこまで言った所で、スバルの身体の震えは止まる。
「もう、遅いのデス。―――気付けても、無意味、なのデス」
スバルの雰囲気が一変する。
この不快感は忘れようがない。レムがスバルに感じると言う魔女の残り香よりも強烈だと思う程に。
そして、スバルが何を言おうとしたのか、その真意をくみ取る事も出来た。
「! ……そう言う、事か。殺しても殺しても、死なない訳だ。肉体が死んでも、お前には関係ない。……次々と他人の身体に、他人の肉体に寄生するんだからな。――――それがお前か」
「そう、ワタシは魔女教大罪司教。《怠惰》担当……ペテルギウス・ロマネコンティ、デス!」
スバルの身体で、スバルの首を90度曲げて骨をへし折った。
この時点で、飛ぶ事を考えたが、どうやらペテルギウスが肉体を制御している限りは、死は訪れないらしい。普通に人間であれば首の骨をああも折り曲げて、ああも骨を鳴らせながら折れば、死ぬだろう。
だが、平然と立っている。
「実に、実に実に、良い!! これほど馴染む身体は何十年ぶりか!! ケタケタケタケタケタケタ!!」
「他人をのっとって、その命を奪って。――――貴様、どこまでも狂っているな」
「そう、その通りデス!! ワタシは、狂っている!! 狂人!! 愛に、愛に愛に愛に狂っている!! 慈愛に、敬愛に、純情愛に、親愛に、性愛に、、友愛に、愛だけが全て!! ワタシの全て、なのデス!!!」
スバルの身体を乗っ取った凶行。
それを目撃したレムは、目を血走らせながら、飛び掛かろうとしたが、それはツカサに遮られる。
ペテルギウスにしてみれば、実に心地良い場面だと言えるだろう。
完全に試練は勝ちだ、と疑う事が無いだろう。
スバルの身体を使えば、試練を超える事も容易だと。
だが……、そうはいかない。
「――――流石。スバル。お手柄だ。……お前の言う通り、尻尾を掴んだ。この戦いの立役者は、スバル。……お前になる」
「アイアイアイアイアイアイアイアイ……。ん? 何を言っているのデス?? この状況がお見えにならない、と?? アナタ、やはり怠惰だったのデスね?? ぐ、ぐぐぐぐ、んが、ぐああああ、おれ、おれ、おれろれおれおろえおえれ、オレはなつき、なつきすばる!! 黙れ、クソ、クソ野郎が!!!」
精神を乗っ取られているが、そこから気合か根性か、誰よりも弱い筈の男が、大罪司教と言うこの世界にとっての厄災の1つとも言われる男から抗う事が出来ていた。
「オレ達の勝ちだ。……スバル」
「あ、ああ……ッッ、ちゃんと、ちゃんと……、あとで、おしえて、くれよ?? おれの、ゆうし、ゆうしを……っ、おれの、めいすいり、を……。らむ、れむ、おまえら、も、たのむ、ぞ……?」
「スバル君っっ!!」
「レム。落ち着きなさい。大丈夫よ。冷静に冷静に。……大罪司教の力が解った。偶然と幸運が重なっただけの事だけど、まぁよくやった、と言っておくわ。いや、駄目ね。その他で落とした評価が多過ぎるから、漸くマシになった、と言った所かしら」
「あい、かわらず、ひでぇ、な。姉様。れむ、だいじょうぶ、だいじょうぶだ。おまえの、英雄は、だいじょうぶ。……んぐうああああああああああ なにを何を何を!!? あなた方は、いったい何を言っていると言うのデス!!?」
ナツキスバルを振り払う様に、狂人ペテルギウスは目を覚ました。
狂人である、という自覚はあるのに、目の前の存在の異質さに、漸く気付く事が出来たのだろうか。
狂人である筈なのに、狂っている筈なのに、この連中こそが解らない。狂っている。冷たいナニカを感じる。……これが―――――。
「
ツカサは、ゆっくりと
身体は、顔はスバルのソレだが、ツカサにはハッキリとペテルギウスが見えている気がしていた。
身体は、いつの間にか下半身を凍らされていて、動く事が出来ない。
ペテルギウスにとって、真なる狂人を見た。
身体の芯が震え出した。
「何故、オレがこの状況で笑えるか。何故、お前の力を知って、笑う事が出来るのか。……もう、解るだろう?
「無かった事になるのなら、一発殴っておこうかしら? バルスの肉体なら問題ないわね」
「姉様、それは流石に………」
「冗談よ」
もう、乗っ取られているスバルだったが、ラムの言葉を聞いて、《嘘つけ!!》と思ったのは言うまでもない。
「そんな、そんなそんなそんなそんな、馬鹿な、馬鹿なばかなばかな、ばかなばかばかばかばかばかばかな!! そんなばかげた、チカラがある筈が、無い、無い無い無い無いないの、デス!!!」
無い、と否定しているのに慌てふためくのは何故だろうか?
そう、ペテルギウス自身が解っているからだ。
短い時間ではあったが、ほんの少し程度だったが、ツカサと交戦して………、自らが体験したからだ。
時間の流れを自由に行き来出来ると言うのなら、あの現象も……納得が出来る。
「ま――――――――っっっ」
「《怠惰》だったな、ペテルギウス。……スバル。ちゃんと説明するから安心して。――――
見えざる手を伸ばすペテルギウスだったが、その手は3人に触れる事はなかった。
さて、次から鯨編でしょうか(((o(*゚▽゚*)o)))