Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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風見の加護

「お疲れ様、スバル。力抜いて良いと思うよ」

「だっはーーーー、つーかーれーたー! おう、もうしてるよ! へっとへとだから、力もどっか行っちゃったよ!」

 

ツカサが、スバルの右肩に手を触れて、2度、3度と叩いた。

スバルもそれとほぼ同時にだらしなく椅子にもたれかかる。

 

そして、その直ぐ後ろに居たラッセルも同じ労いの言葉をかけた。

 

 

「おめでとうございます。交渉は成立ですね! 何度かひやひやさせられましたが、何よりです。交渉前のお約束は確かに」

「いや、助かったよラッセルさん。約束通り、討伐が済んだら、ミーティアはあんたに譲るさ」

 

 

何処となく人の悪い笑みを浮かべるラッセル。

そこは、スバルも負けてなく、悪い笑顔で応じた。 

 

そんな2人のやり取りを見て、クルシュは察する。

 

 

「やはり根回ししていた様だな。扉の前で入る機会を窺っていたな?」

 

 

クルシュはそう言うと軽く肩を竦めた。

ラッセルやアナスタシアの情報は事前に、入念に得られたからこそだ。

言い方は悪いかもしれないが、4人で話し合い、最大限利用させて貰った。

 

勿論、悪いと思ったのは言い方だけであり、本当の意味で悪かったとは思っていない。

 

 

《交渉の秘訣はテーブルに着く前にどれだけ準備出来るかで決まる。欲しいばかりでは足りない》

 

 

以前――――今はもう無い世界でスバルがアナスタシアにご教授された言葉だ。

 

 

「いつ割り込むかはウチら任せやったけどね?」

 

 

ご教授頂けた教官は、今回に限ってはスバルに及第点を与えている様だ。今の所 低評価なコメントは頂いてないから。

 

 

「遅ぇんだよ。最後まで入ってこねぇのかと思ったよ」

「そう? あのタイミングこそ、無二だったと思うけど」

「さっすが、ツカサ君やね? まだまだ、ナツキ君には交渉事は優点はつけれへんな? 推し時を見極めれる事も、重要な点やで? 時間の猶予も考えたら、尚更な」

 

 

ウインクをして、片目を瞑って見せるアナスタシア。

その言葉を聞いて、クルシュは視線を狭めながら言った。

 

 

「待て。時間の猶予だと? ……それはつまり、限られている、と言う事か?」

「ウチも肝心なとこは聞いてないよ。たぁだ、話の進め方や、事前のツカサ君や桃髪の女の子との交渉(やり取り)で感じた程度。実際のトコ、結構切羽詰まってるのと違う?」

 

 

それは、僅かながらも話し合いで、読取られてしまった事を考えれば、やはりアナスタシアの商人としての才覚、交渉事に関する嗅覚が抜きんでていると言う事が改めて知らしめられた瞬間だった。

極めて冷静に務めたつもりだったツカサ、そして全く問題なしと思っていたラムも想定外だった様だ……が、これ以上尻尾掴まれるのも嫌気がさすので、表情には出さない様にして、軽くクルシュに頷いて見せた。

 

 

それに同盟が締結した以上、隠す事も無い。

 

 

「―――流石、アナスタシアさんだな。その通り。《ミーティア》によると、白鯨が出るのは今から約30時間後。場所は、フリューゲルの大樹。その周辺だ」

 

「30時間………」

「フリューゲルの大樹―――」

 

 

スバルの言葉に、クルシュは歯噛みし、アナスタシアはその地名に首を捻る。

 

 

つまり、白鯨を討伐出来るか否か、それは時間との勝負でもあるのだ。

 

 

「30時間以内に、リーファウス平原に討伐隊を展開し、出現した直後の白鯨を総攻撃にて仕留めなくてはならない。……そのためには」

 

 

クルシュは振り返る。

状況はしっかりと飲み込み、後は確認するだけだ。……そして、クルシュが言うまでもなく、ヴィルヘルムは頷いて見せた。

 

 

「まず討伐隊の編成ですが、これは既に数日前より滞りなく。そもそもこの王都での滞在が、白鯨の出現時期に合わせての準備です。王選開始と時機が重なった事、白鯨討伐における英雄の参戦。……全てはクルシュ様の天運ならではと思いますが」

 

 

ヴィルヘルムの言葉を聞いて、ツカサは少々苦虫をかみつぶしたかの様な表情をする。

かの老兵……剣鬼とも謡われた剣士が言う英雄。それが誰を差しての事か、流石に解るからだ。

 

その点については、誰も異議を唱えないので、特段議論に上がる事はない。

 

 

「よし! 話が早いな!? ……ん? でも白鯨の出る時期ってパターンがあるのか? 何か、間隔がヤベーんじゃ? とは思ったんだけど。兄弟があの鯨と遭遇したのだってほんの1ヶ月前の事だっつー話だし。1ヶ月単位であんなのが暴れ出すとか溜まったもんじゃねーし」

 

 

渡りに船、と喜び、そしてヴィルヘルムの答えにも驚く。

白鯨に関してはスバル自身も多少なりとも調べた。ツカサが調べた事も合わさってそれなりに知っている。

 

《霧の魔獣》の最大の脅威。それは神出鬼没である事。文字通り、霧を隠れ蓑に現れる。霧が広大で広範囲だからこそ、全長50mはあろうかと言う巨大な鯨を。

スバル自身が知る、シロナガスクジラの2倍はあろうかと言う巨躯を持つ鯨を隠し、神出鬼没な最悪の厄災、と言う魔獣へと君臨させているのだ。

 

 

「白鯨の出没する時期と場所、それを突き止めたのはヴィル爺の執念の賜物にゃの。今回、ツカサきゅんが撃退した、って話が回って、ちょ~っち落ち込んじゃったけど、また現れる可能性を捨てきらなかった事もそう。……大征伐から14年。ずっと追いかけ続けてきたからネ」

 

 

ヴィルヘルムの隣にいたフェリスがそう答える。

共に長らく居たからこそ、解る事もあると言う事だろう。肩幅の広い老人の横顔をそっと覗き込み、続けた。

 

 

「討伐隊の練度、士気は大丈夫。んでも、物資の準備不足は否めにゃいかなーー、って。クルシュ様が軍勢を率いて王都に来たにゃんてことになると、色んな所が大騒ぎになっちゃうから、こそこそ集まって貰ったしネ」

「確かに、いまだ武器や道具の準備は万全とは言えません。……が、それは我ら単独であの魔獣と雌雄を決しようとした想定での事です。……今は違う。そのために、アナスタシア様とラッセル様なのでしょう? スバル殿」

 

 

フェリスの指摘を受けて、ヴィルヘルムはスバルを見て言った。

すると、スバルはニヒルな笑みを浮かべながら肯定する。

 

 

「まぁ、こういうこともあろうかと……、って人生で一度は言いたいじゃん? ……一応、エミリア陣営(こっち)が切れるカードも最高にキレてる、って自信もあったし。ある意味では対等に観れる部分だってある、って勝手に思ってたから」

「――――あんまり持ち上げ過ぎないでくれよ? スバル。責任重大で、肩が重くなりそうだ」

「はっはっは。兄弟なら、なんのその、だろ? オレは信じてるぜ」

 

 

びっ、と親指をおったてるスバルに、苦笑いを送るツカサ、そしてラムも同じく。

主要メンバー、重要な面子が居るこの場でなければ、持ち前の毒舌でスバルをこれでもか! とノックアウトしていた所だ。

 

ある意味、それを見越した上でのスバルの発言かもしれないが……、流石は策士スバル。

 

 

そんな中、ラッセルは窓の外を手で示しながら言った。

 

 

「既に、組合には動く様呼びかけ、準備を進めております。明日の昼過ぎまでには王都の商人から必要なものをかき集めて見せましょう」

「ホーシン商会も同じく、やね。組合に所属してない、隙間狙いの商人連中との商いは任せてもらおか。そんで、ツカサくんご指名の商人の子に関しても、同じくな。時期を見てツカサ君たちのとこに向かう様指示しとくわ」

 

 

ラッセルの言葉を引き継ぎ、アナスタシアも実に力強い返事をくれる。

ある意味別件でお願いしていたツカサ指名の商人の事……当然ながら、それはオットーの事だ。かの不幸属性満載な、商人は白鯨こそ回避するかもしれないが、メイザース領にて暗躍する魔女教まで回避できるか? と問われれば正直頷けない。

 

ここ最近のループでは、王都までやってくるとなっているが、色々と状況が刻一刻と変化しているので、一概には言えない。でも、大量の油を抱えて途方に暮れてるのは間違いないから、ツカサに一縷の希望をかけて、メイザース領へ……と向かわないとも限らない。

 

 

だから、しっかりと保護をしておいてもらうのと、オットーも竜車を持つ商人だから、しっかりと役に立ってもらえる、と言う打算的な考えも勿論ながらある。

 

 

「感謝します、アナスタシアさん」

「ええよええよ。ウチかて、ナツキ君やツカサ君には感謝しとるんよ。この商機を見逃さんかったのも、君らのおかげや。商人の鉄則。何より売るなら一番はやっぱ恩。形ないし、損ないし、在庫にならんし―――何より値札が付いてへんからね。……あ、勿論ツカサ君に関しては、今後ともええ関係でやってきたいから、変な考えは持たんよ?」

「……うへぇぇ、今は味方だから良いけど、改めて聞くとマジでおっかねぇな、この商売人!! そんでもって、ツカサが、オレの大親友(マイベストフレンド)で良かった、と改めて認識中だよ」

 

 

苦笑いするツカサ、心底ほっとしているスバル。

そして、屈託のない笑みを見せるアナスタシア。

 

互いに利のある関係ではあるが、ほんの一瞬の隙で、全ての利を持っていかれてしまう―――様な危うさがそこにはあった。

 

だが、それも恐らくある程度はツカサがブレーキとなってくれる……筈なので、これまた心底ほっとする、だ。

 

 

何はともあれ、全員が上機嫌なのを横目に、クルシュは納得した顔で頷いた。

 

 

「交渉以前に道は整えていた、か。なるほど。この場において、先見と覚悟が足りていなかったのは私の方と言う訳だ。認識をまた、改める必要があるな、ナツキ・スバル。感服したぞ」

「あっははは……、オレに関しては、兄弟やレムとラムに協力による、予習復習が上手く嵌った、ってだけだよ。ぶっちゃけ心底ほっとしてるぜ、オレ。何度場所変わってくれ!! って思った事か……」

 

 

横の男(ツカサ)とチェンジ。

と言われる事。

 

それが、いつでもウェルカムだった、と言うのはスバルの心境。

 

 

「にゃははは。それは見たら解る事だネ」

 

 

フェリスは笑いにわらい、クルシュも緊張を完全に解いて自然な笑みを見せていた。

 

 

「どうだ、ラム。とりま上手くやれたんじゃね?」

「及第点には程遠いわね。まぁ、結果だけを見れば認めてあげなくもない、わ」

「流石姉様。ブレない所尊敬します。……そんで、レム? 姉様評価、認めてくれるっぽいのも頂けたし、面目は保てた、って個人的には想ってっけど、どうだ?」

「はい! さすが、スバル君は素敵です!!」

 

 

ラムの言い方はさて置き、レムのスバル推し過ぎはさて置き。

上手い具合に、2人の評価を平均すると………、紛れもないスバルの成果である、と断言する。

 

 

「胸を張って良いと思うけどね。仕事を1つ、成功させたんだ。関門1突破なんだし」

「おっ、兄弟からも加点頂きました! 報われてるよ、マジで」

 

 

ツカサの言葉にも、嬉しく笑みを見せるスバルだった。

 

 

 

そんな時だ。

 

 

「え?」

 

 

突如、ヴィルヘルムが深く、深く頭を下げた姿を見たのは。

 

 

 

「感謝を――――」

 

 

そう短く告げて、膝をついて礼の形を取った。

突然の振舞に、スバルだけでなくツカサも驚く。

 

頭の高さを明らかに一番下にして、年長者がする所作じゃない、とも思えてしまう。

 

だが、混乱した、驚いたのはスバルとツカサだけであり、他の面々はそれぞれ一定の理解を示している。

 

 

 

 

――――いや、ひとつ訂正しよう。

 

 

ツカサは思い出していた。

ヴィルヘルムについて。

 

 

初めてロズワール邸にて出会った時の威圧を受けた。

敵意の類は見えなかったが、件の気配だけは看破出来ない程の強大さだったが為に、ある程度彼について、調べてみたのだ。

 

 

すると――――以前名乗った家名とは違う家名を持つ事実に突き当たった。

 

 

そして、白鯨を追い続けている、と言う事実も知っている。

 

ならば、感謝と言う意味は直ぐに理解出来ないワケが無い。

以前、スバルが……ラインハルト(・・・・・・)に関して思う所があった事にも通じる。白鯨関連の話をしようとした時の。

 

 

 

「我が主、クルシュ・カルステン公爵へ捧げるものと同等の感謝をあなたがたに。この至らぬ我が身に、仇討の機会を与えて下さった温情に感謝を……」

「え? ええ?? それってどういう……」

 

 

スバルは混乱極まり、驚いて立ち上がった所に、ツカサがそっと手を出して、落ち着く様に示した。

口には出さない。ヴィルヘルムの言葉を待つ。

 

 

「……賢明なあなた方です。既に見抜かれておいででしょう。……改めて」

 

 

 

ヴィルヘルムは、腰から剣を鞘事外して、その剣を床に置き、その上に手を沿える最敬礼をもって最大の敬意を示し、名乗った。

 

 

「以前、名乗ったトレアスは昔の家名。……私の本当の家名はアストレア。先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアを妻に娶り、剣聖の家系の末席を汚した身。……それが私、ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアです」

 

 

息継ぎをし、ヴィルヘルムは続けた。

 

 

 

「妻を奪った憎き魔獣を討つ機を、この老体に与えて下さる温情に感謝を」

 

 

 

ヴィルヘルムが再度深々と頭を下げるのを見た後、ツカサは一歩前に出て言った。

 

 

 

 

「―――以前、今代の剣聖の彼に、最優の騎士の彼に、言っていた事があります。……《あなた方には申し訳ないが、次があるなら仕留めるつもりでいきます》と。……私も、この場に居れるこの偶然と、皆と協力を取り付く事が出来たこの幸運に感謝したい気持ちです、ヴィルヘルムさん」

 

 

 

 

先代が討たれた、と言う話は聞いていた。

騎士団の宿願であるとも聞かされた。

 

それでも、だからと言って次に遭遇し、出来る事があるなら、この瞬間も世界を苦しめている魔獣を見過ごすワケにはいかない。

彼らの気持ちを汲む事も大切な事だと思うが。

知らぬ間に、仇が討伐されたとなれば、行き場のない想いがどう出てくるか解るものではない。分別を弁えているとは思っていても、……やはり、互いに協力し合い、あの魔獣を滅する。それが最善にして最高だ。

 

 

 

 

ツカサが答えた。

王国から与えられた最高位の勲章(スカーレット・エンブレム)を有する英雄の言葉の次に、待つのはスバルの言葉。

その答えに期待する。何せ、ツカサが先に言ったのだから、相応の物を期待するのが人情と言うモノではないだろうか?

 

 

ハードル上げやがった! と思ったスバルだったが、時はすでに遅し、だ。

それに、ツカサがそんな邪な考えを持って言っていたのではない事くらいは解るので。

 

 

兎に角、勢いに任せる道を選んだ。

 

 

「も、勿論だとも! なんせ兄弟とオレ、ナツキ・スバルは一心同体! だからこそ、それ込みでクルシュさんが乗ってくると思ってたわけで!」

「ナツキ・スバル」

 

 

だが、それは悪手だ。

極めて杜撰で、幼稚な手。

 

それを思い知る結果となる。

 

 

間に割って入ったのはクルシュ。

琥珀色の瞳が泳ぐ、スバルの目をのぞき込み、小さくため息交じりに言った。

 

 

 

「嘘の風が吹いてるぞ。卿から」

 

 

 

誤魔化しきれないスバルの嘘を暴いて、《風見の加護》の力を証明。

そもそも、誤魔化すつもりがあるのか? と思える程の演技だったので、横に居たツカサが、背後に居たラムが、夫々 スバルの頭と脇腹にツッコミと言う一撃を与えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




嘘はいかんよ~~、スバル君( ´艸`)
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