Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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((ノェ`*)っ))タシタシ

(´∀`*)ポッ

(〃▽〃)ポッ

(´∀`*)ウフフ




グヘンッ!!(゜o゜(☆○=(-_- )゙オラァ‼️


それぞれの欲しいもの

「お疲れ様、ラム」

「ええ。慣れない仕事はするものじゃ無いわね。大変だったわ」

「………えぇ? 屋敷の仕事と比べたら全然……じゃない?」

 

 

 

 

 

 

―――白鯨を討つ。

 

 

 

交渉が終わり、かの魔獣の討伐の二文字が具体性を、現実性を帯びれば、当然その分関係者たちの動きは早い。

 

そんな中でも王都商業組合代表のラッセル、カララギのホーシン商会のトップ、商人たちのトップと言って良いアナスタシアが特に目立って見えるのは当然だろう。

 

 

いや、厳密に言えば目立つ行動はしていないが、適材適所の采配や最善最短の準備に掛ける号令等、とにかく人を使うのが上手く、仕事が早い。

 

 

それ程までに、下が絶大の信頼を寄せている結果なのだろうか。

 

 

 

だが、だからと言ってやる事が全くない? と言われれば……そうでは無い。

今現在進行形で忙しなく動いていて、武具やら編成やら、正直武力は持ち得ていても一個人に過ぎないツカサやスバルが、手伝える事が無い、と言う方が正しい。

 

 

だから、それとなく簡単な仕事を見つけては、ラムとこっそり行っている。

 

 

ラムは、物凄く嫌な顔をしていたが、取り合えず付き合ってくれたのだ。……今し方、クルシュに止められてしまって、取り合えず今は部屋で休んでいる最中。

 

 

 

 

「間違いなく主役、立役者の1人に、使用人がやりそうな雑用なんてやらせているのをクルシュ様が見れば、当然よ」

「ひ、人聞き悪いな。やらされてなんか無いんだけど……、そう言ったつもりだし」

「それでも、よ。侍女だって使用人だって相応に備わってる屋敷なんだから。あの子達が責任取らされる可能性だってあるのよ」

「…………な、なるほど」

 

 

いたたまれなくなるツカサ。

確かに他人の仕事を取っちゃった形になってるし、見逃してしまった、ともなれば、手を煩わせた、ともなれば……。

 

 

「大人しくしておこうか……(後で、クルシュさんに謝っておこう。オレが勝手にやった事だって)」

「それが最適解よ」

 

 

使用人の不手際は、主の不手際。

何時如何なる時においても、主の不利益になってはならないのは当然。

 

ラムは胸を張って言っていたが、どうにも裏の顔が見え透いている様でならない。

もう、寝たい、仕事したくない、と言ってる様にも見えなくもない。

 

 

―――勿論、ツカサは知っている。ラムがこんな姿を見せるのは、信頼している者、身内以外には見せない、と言う事を。

 

 

まぁ、スバルは外面が良いだけだ、と言いそうだが。

 

 

「ラム」

「なにかしら?」

 

 

椅子に座って目を閉じているラムに声を掛けたツカサ。

呼ばれたラムは目を開けて、ツカサの方を見る。

 

 

ツカサは、いつの間にやらクルルを顕現していた。

その肩の上に乗り、毛繕いをしているクルル。その恰好こそ、何か形容できる容姿ではないが、所作はまるで猫だ。

パックの真似でもしているのだろうか?

 

 

「―――絶対一緒に来る。そうだよね?」

「当然よ。……でも、足枷になるつもりも無いわ」

「冗談。オレがラムを枷なんて思うワケが無いよ。だからこそ――――ん」

 

 

ツカサはニコっ、と笑うとそのまま左手で、ラムの頭を撫でた。

それを合図に、クルルの額の紅玉が淡く紅い光を放ち、ツカサの腕を通じてラムの額へと流れ出る。

マナ移譲だ。

 

 

「んっ……、あっ………」

 

 

息を弾ませ、赤く頬を染めるラム。

肉体に活力が戻ってくる。少々期間が開いてしまった為か、その甘美な快感はこれまで以上に思えて、ラムはそのまま身を委ねた。……どうせなら、頭を撫でるのではなく、抱きしめて欲しい、と思わずにはいられないが。

少なくとも、ロズワールとの時(・・・・・・・・)はそうだったから尚更。

 

 

そんなラムの気持ちとは裏腹に、何処までもその無垢な身体は艶やかで、艶やかに、何処か妖艶さも醸し出している色気を放ち続けた。

 

 

身体こそ華奢と称される事が多いラムだったが(影で)、この時ばかりはツカサにとっては目のやり場に困る程の色気を全開に周囲にまき散らしている。

 

 

本当の意味で、2人の時でしか出来ない事であり、スバルは勿論、レムでさえ同席してもらうのは現在控えて貰っていた。

最初は一緒に居て欲しい……とツカサがレムに懇願していたのだが、ラムが許さない、と言う訳で、こういう形に落ち着いた、と言う事情もあったりするのは別の話。

 

 

そして、そんな中でもラムは思う所はある。

 

 

確かに、この白鯨戦。……留守番なんてしていられるワケが無い。だが、だからと言ってラムが一体何の役に立つのだ? とも思えてしまうのだ。

 

 

 

向かうのは白鯨の討伐。標的は白鯨。

 

白鯨が塞ぐ進路を確保し、最短でメイザース領へと向かう事。

そして村を救う為の人員を確保しなければならない。

 

故に、避けて通る事が出来る相手ではない。

 

 

 

ウルガルムの時や、魔女教の時とはまた戦いの規模が違う。

敵は果てしなく巨体であり、巨躯であり、強大なのだ。

400年間世界を跋扈し、脅かしてきた厄災の化身なのだ。

 

 

全てにおいてこれまでとは規模の違う戦いの場。

 

 

エミリア陣営の戦力はどうだろう?

 

 

ツカサは言わずもがな。

全盛期(本人談)と比べたら弱体化しているそうだが、文句なしのトップクラスの戦力として分類される事だろう。

 

レム。

彼女は水の魔法にて大規模な攻撃も可能だし、治療もする事が出来る万能性を持つ。そして鬼族たる証である角を出現させれば、ラム自身は見たくないが、紛れもなく戦力として数えられるだけの戦果を残せるだろう。

 

スバル。

一般人以下。最弱。無知蒙昧。無能使用人。

評価したらマイナス方面な言葉が息を吐くかのように出てくるが、スバルの真骨頂は武力では無く、その身体そのもの。詳細は解らないが、その内に住まうナニカが外部へと流す匂いはレムの嗅覚を刺激するだけでは飽き足らず、魔獣をも引き寄せてしまうのだ。

更に言えば、その匂いに誘われた魔獣は例外なく冷静さを失い、ただただ本能に任せて喰らおうとする知性の無い獣に成り下がる。

 

白鯨は、三大魔獣(・・)だ。

 

恐らくは、スバルのその特性を如何なく発揮すれば、相当有利に動く事が出来るだろう。

 

 

 

なら、自分(ラム)は?

 

一体、何が出来ると言うのだろう?

正直、納得しているとはいえ、掛けがえの無い妹を救えたから、と納得しているとはいえ、随分久しぶりに、ツノナシである事を悔いた。

 

ツカサからマナを、魔法を譲渡されて、それを扱う事だって出来るが、云わば借りもので戦ってる様なものだ。……貸し借り無し、十全のツカサに任せた方が……。

 

頭でそう思っていても、行動が伴わない。

スバルとは違った意味で、ツカサは見ていないといけないタイプの男だから。

 

でも、それはラムの我儘で――――。

 

 

「精神的に、ラムが必要って言ってるだけじゃないからね?」

「んっ、っぁ………っ、え?」

「ふふ。ラムの考えが読めたよ。こうやって接しているからかな? いつも以上に理解する事が出来た気がする。……ラムは中々表情に出さないから、嬉しいよ。とても」

「……ツカサの、前では、んっ……。違う、気も……するけど」

 

 

ラムは、頭に置かれたツカサの手を握り、そのまま自身の頬をへと誘った。

大きな手。……いや、そこまで実物は大きくは無いかもしれないが、今のラムにとっては全てから護ってくれる大きな大きな手だ。

 

 

「ん。それはそれで光栄だね。……ラム。色々と考えてるみたいだけど、断言するから。ラムは足枷なんかじゃない。紛れもない戦力だ。その理由も勿論話すよ」

 

 

ツカサは、空いた方の手で直ぐ横に備え付けられている机を借り、羽ペンと紙を使って、絵を描いた。

 

 

簡素なものではあるが、ツカサ自身の簡単な絵と、その体内にあるマナの様子、そしてラムの絵。

クルルも次いでに書いて、譲渡している光景も一応描いた。

 

 

「オレの身体の中にあるエネルギー(マナ)総量を10として、ゲートを通じて外に出せる最大出力を2とする。オレから発せられる魔法はどう頑張っても2が最大値だから、そこにクルルを通じて譲渡したラムが揃えばどうなるか。ラムのゲートから放たれる魔法も2とすれば、オレの2と合わさって、単純計算で倍の力になる。マナ総量は確かに渡した分減少はするけど、その分効率は遥かに良い。……力の分譲だよ。使い方次第では、2倍にも3倍にもなるかもしれない。信頼しているからこそ。だから、ラムが足枷なんて考えられないよ」

 

 

さらさら、と紙とペンを走らせて、時折〇も記入して、その絵と説明をされたラム。

この甘美な感覚の中でも、しっかりと頭の中に居れた。

嬉しかった。愛おしかった。本当に心から。

 

でも、それを直ぐに表に出したりはしない。

 

 

「………」

「わかったかな? あんまり説明するの得意じゃないんだけど……」

「え、ええっ、んっ……、わかったわ。…ツカサは、絵がヘタクソだって、こと……んっ」

「そこっ!? それは申し訳ないね!! オレ、スバルみたいに器用な真似できないみたいで!!」

 

 

まさかの絵の駄目だしをされるとは思ってなかったツカサ。思わず突っ込んでしまっていたが、ラムはただただ笑っていた。

 

 

 

「んっ……、愛の、力……んっ、とか、言って欲しかったり、する……もの、よ。……大好き、な。人……の前、なんだから。女は、それを……第一に、望むも、の」

 

 

 

艶やかで、蕩けそうな瞳を向けてくるラム。

ツカサはドキンッ、と心臓が強く高鳴った。

 

 

 

「勿論。……でも、ラムに しっかりと説明しておかないと、精神面だけじゃなくて、本当の意味で大丈夫なんだ、って事を説明しておかないと、苦戦した時、自分を責めそうだからさ? それにラムだって凄く優しいから」

 

 

ツカサはそう言うと右手をラムの頬に添えた。

両手で両頬を沿える。

ラムの頬はとても柔らかく、癖になってしまいそうな心地良さがある。

 

 

「っ………」

 

 

ラムの眼前に、顔を仄かに赤くさせたツカサが居る。

手を通じて解る。ツカサの心臓は激しく鼓動をしている、と言う事が。注がれるマナと共に、ツカサの事が伝わってきて、これ以上ない快楽を齎してくれた。

 

そして、ツカサは 朗らかに笑うと、意を決する。

淡い光がラムの頬から、角の傷跡に注がれていく。一番艶やかに輝きを見せる額に、ツカサはそっと口づけを施した。

 

 

「ラムがツノナシ? 鬼族としての力が出せない? ………そんなの関係ないよ。力が無くなってしまったなら、その分オレが支えるんだ。だから その………、一緒になる(・・・・・)って、そう言う、事……でしょ?」

 

 

自分が今し方行った事。

自分が今し方交わした言動。

 

 

それらを頭の中で何度も再生されているのだろう、ツカサは笑っていた顔が完全に照れ笑いへと変化して、明後日の方向へ視線を向けていた。

 

 

ラムは一体何回覆されるのか、上回るのか、この甘美さは……と悶えそうになったのだが、ツカサの所作を見て、我に返った。

 

不意を突かれてしまったのだから、ラムも同じくそうしよう。

 

 

「子供じゃないのよ。……ツカサ。それで(・・・)満足できる訳がないわ」

 

 

いまだ流れる快感に、負ける事なくしっかりとツカサの姿を捕らえる。

潤んだ瞳で、ぼやけていたツカサの素顔を、しっかりと目に焼き付ける。

 

 

 

そして、ツカサが《どういう事?》と聞き返す為に、ラムの方へと視線を向けたのを確認した瞬間、ラムはツカサの唇を自身の唇で覆った。

 

 

 

触れた瞬間から、完全に固まるツカサ。世界が完全に止まった感覚。まるで時の狭間? にいるかの様。

 

そして ラムは、ツカサのそれに構う事なく心行くまで堪能する。

この世の物とは思えない程の柔らかさ、(レム)のソレとはまた種類が全然違う愛しさを。

 

 

この世の快楽の全てがそこに凝縮している、と言っても過言ではない甘美を、ラムは口で成就する。……し続ける。

 

 

唇を動かし、挟み込み、軈て舌を持って、ツカサの中へと侵入する。

全てが欲しい、もっと欲しい、と言わんばかりに。

 

 

そして、一瞬だったのか、長い時間だったのか、ラムにもツカサにも解らなかったが、一先ず息継ぎの為に、一時離れたラムはツカサの顔をしっかり見た。

 

何が起きたのか、まだ解っていない様子だ。

 

 

 

 

「女が、……ラムが欲してるものは何なのか。……しっかり覚えておいてね、ツカサ」

 

 

 

ラムはそう言うと、己もツカサに負けない位頬を紅く染め上げながら……再び甘美を堪能するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな大人な空間にラムとツカサが居た頃。

 

一方スバルは――――。

 

 

 

「やっぱ、スゲー数だよな……、それに竜車の数もパネぇ。どおりで屋敷に戻る足の確保にてこずった訳だ。……更にいや、こんな状況でも竜車かしてくれるクルシュさんの懐の深さに脱帽」

 

 

人の流れの多さ、それに比例するかのように運び込まれる竜車。

以前、どうにかロズワール邸へ、メイザース領へと帰還する為に、と長距離用竜車を模索したりしていたのだが、どう頑張っても無理だったのは、こういう理由からなのだ、と言う事を改めて理解した。

 

 

「あれれ~~? スバルきゅん、こんなとこいたの?」

「おぅ……フェリス!」

「ツカサきゅんやラムちゃんはもう部屋に戻っていったよ? まだ寝ないの?」

「そんなワケ行くかよ。ってか、兄弟の性質上、のこのこと部屋に戻るなんて考えられないんですが?」

 

 

ツカサが部屋に戻った、と言う話を聞いてにわかに信じがたい様で、訝しむスバル。

そんなスバルにフェリスは笑って答えた。

 

 

「ツカサきゅんも同じだよんっ。色々手伝おうとしてた。でも出来る事って正直限られてる。こればっかりは長く準備してきた間柄、昨日今日の関係じゃどうも賄いきれないからネ。それでも色々とやりだしちゃって――――、英雄様に雑用紛いな事させちゃってたからさ? クルシュ様直々に、止めて~~ って」

「おう……、目に浮かぶよ、その光景」

 

 

ツカサはツカサで頑張って? る。

でも、自分は今の所なにも出来てない。

白鯨に関してもツカサ頼りな面があり過ぎるのは否定できない。

 

 

「だからって、戦闘面じゃからっきしだし、ツカサに頼ってばっかのオレまで寝ちまうワケにはいかねーよ。……それに皆の姿見てたら」

「しょーがにゃいの。今から30時間、リーファウス街道、ってなったら、こーなっちゃう。のは。移動の時間とか考えてもギリギリだし、当然必然! ……それにスバルきゅんだって気付いてるんじゃにゃいの?」

 

 

フェリスに促されるまま、スバルは再び準備に忙しなく勤しんでいる皆の方を見た。

 

 

「……嫌々準備している人なんて、1人もいにゃい。千載一遇のチャンス、って舞い込んだこの機会、皆喜んでいる。白鯨討伐は、皆の悲願だから。―――特に、ヴィル爺にとってはね」

 

 

視界の中に、準備する者たちの中に、ヴィルヘルムの姿もあった。

丹念に、入念に、剣を、その刃の冴えを確認している様子。一本一本手を抜く事なく入念に。

 

剣の鬼は、剣そのものに認められて初めて成す者なのか、とスバルは思えた。

 

そして、それ以上に思うのは……。

 

 

「そう、だったよな。奥さんを……」

「うん。14年前に白鯨にやられた先代の剣聖。あの時からずっとヴィル爺は追いかけ続けてきたから。《霧》を掴むみたいに、先が見えない中。ずっと記録に残った白鯨の出現場所や時期、天候。全部ひっくるめて、法則性まで掴んで、漸く―――にゃの」

 

 

その話を聞いて、如何に大変な事なのか、如何に無念だったのかが解る。

スバルやツカサ、自分達は時を遡る事が出来るからこそ、最善にして最適な未来を模索する事が出来る。……だが、それはあまりに危険をはらんだ最強の力だ。

 

ある意味、中立的な存在であるスバルやツカサだからこそ、持って良い力とさえ思える。

 

現在はエミリアにぞっこんだから、中立かと言われれば、正直首を左右に振るが、少なくとも私利私欲の為に力を使ったりしない。誰かを貶める為に、力を使ったりしない。

 

 

自分の尺度にはなるかもしれないが、間違った力の使い方をしたりする様な男じゃない、と言う事はスバルでもわかるから。

 

 

「でね? スバルきゅん。あの場で、ヴィル爺が頭を下げてたけど、本当にこれ以上ない位、本当の意味でクルシュ様と同等の感謝、にゃんだよ?」

「へ? それってどういう……?」

 

 

どうやら、《主クルシュと同等の感謝》と言う言葉はヴィルヘルムから貰ったが、その言葉にはスバルには解らない程の重みが備わっているらしい。

フェリスは何処か遠く―――ヴィルヘルムを見つつ、更にその先……否、彼の過去を想い馳せながら、続けた。

 

 

「ヴィル爺が血眼になってかき集めて検証をもした情報をもってしても、誰も聞き入れようとしにゃかったんだ。大征伐の爪痕は王国に根深く残っててね。王座が空位になった時期も、ヴィル爺に味方しなかった。白鯨と戦う気概も、白鯨に気を向ける余裕も誰も無くて。・・…支援者を募る事もできなくなって、ヴィル爺の心境はきっと絶望的だったと思う」

 

 

仇を討とうと願っても、その戦いにすら辿り着く事が出来ない。

かと言って闇雲で戦っても無駄死にするだけだ。本懐は決して遂げられないだろう。

 

その無力感、スバルも覚えがある。

 

自分は周りに恵まれたから。……仲間たちに恵まれたからこそ、今こうやって地に足を付けて立つ事が出来るが、14年間……ともなると、想像すらできない。

 

弱さは罪。……その罪は決して自由にしてくれない。逃してくれないものだから。

 

 

「何もかも捨てて、1人で白鯨に挑む事も考えてたみたいだネ。勝てないより、戦えない方が恥だと思うって。―――ほんっと、男ってバカみたい。ヴィル爺の奥さんだって、きっとそんな事望んじゃいないだろうにさ」

「――――そう、ですね」

 

 

そんな時だ。少しの間、スバルから離れていたレムが戻ってきて、スバルの代わりに相槌を打った。

 

そして胸に手を当てながら、断言する様に呟く。

 

 

「愛した人には、レムはずっと元気でいて欲しいです。……ツカサ君には、《残された人の辛さを知っているか?》と怒られてしまいましたが、それでも……レムは考えてしまいます。たとえレムがいなくなっても、と。……レムのことは笑顔で思い出してほしいって」

「馬鹿。思い出になる話をするのは、早過ぎるだろうがよ。……ぜってーーー大丈夫だ。大丈夫、なんだ」

 

 

感傷的なレムの言葉に溜まらずスバルは言い返した。

軽く小突き、そして掌で撫でる。

 

それだけで、それだけでも、レムは全て報われる想いだ。

 

今の姉から感じられる幸せを、それをレムも得る事が出来た、と思えた。

 

 

「では、フェリス様。そのヴィルヘルム様に声をおかけになったのが、クルシュ様なのですね」

「クルシュ様は本当に大変にお優しい方だから。絶望して悲嘆して、誰もが見向きもしなくなったような相手にも、手を差し伸べてしまう。大切な誰かのために、何かしようって人のことなら――――」

 

 

更に更に遠くを見る様に空を見上げるフェリス。

その先に居るのは、今はもうどこにもいない、ある御方の姿で――――――――。

 

 

 

儚く消え入りそうな表情をしていたフェリスだったが、直ぐに普段通りに戻って舌を出した。

 

 

 

「はーい、お話おしまい! 長々と話したけど、結局にゃにが言いたいかと言うと、スバルきゅんに出来る事はにゃーんにもにゃいんだから、さっさと寝る事! ほれほれ、空いてる仕事と言えば、物資の手配とか、部隊の編成にゃよ? できる?? できる???」

「うっがーーー、なんだよ! シリアスモードに加えて、感傷的な場面でもあった筈なのに、突然の返し手!! はいはい、ご想像通りなーーんもできねーよ!! ストレート言うな! 言わすな!!」

「にゃっはっははははっ!!」

 

 

最後の最後は、ご機嫌のままに、フェリスは戻っていった。

 

 

「ったく……」

「フェリス様、良い具合にスバル君を緊張を解してくださったみたいですね」

「そーか? ぐっちゃぐちゃに引っ掻き回された気がしてならないんだが……」

 

 

ちらり、とレムを見た。

その顔は仄かにではあるが、赤く染まっている。

 

 

頭撫でた位で、こうも気に入って貰えるのか、と。

 

 

「(そーいや、以前酒飲んでた時も、撫でたらネコみたいによろこんでたっけ……)」

 

 

スバルは、少し考えた後、レムの頭をまた撫でた。

 

 

「ひゃっ、スバルくんっ!?」

「レムもあんがとな? 色々考えてくれて。……目指せ英雄、って解ってんだけどまぁ、どうにもこうにも、オレにゃまだまだ遠すぎてゴールが全く見えてねーのが辛いトコだ」

 

 

レムの柔らかい髪質。温もりを感じつつ、撫でるスバル。

レムはレムで、紅潮していた頬を更に赤く染め上げていた。

 

 

「(レムがして欲しいことは……。レムが欲しいものは……。姉様………、やっぱりレム()幸せ者です)」

 

 

 

ほんの少しだが、ラムの感覚がレムに共感覚として伝わった。

後は意図的に、レムは感覚を遮断している。

ラムが感じている(幸せ)は、ラムだけのものだとレムは想っているから。

 

 

そして、今―――レムも幸せを感じる事が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鯨討伐に向けて。

 

鬼姉妹、エネルギーチャージ完了、である。

 


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