Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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クルシュさん素敵デスヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪


白鯨攻略へ

 

 

 

翌日、白鯨討伐までのタイムリミット―――17時間半。

 

 

「さ、クルシュ様からのご指示だから。この中から好きな子選んで良いよ。後スバルきゅんだけだから」

「えぇ……、好きな子っていきなり言われてもよぉ」

 

 

早朝、冷たい風がクルシュ邸にて吹き荒れる。

もう直ぐ始まるであろう激戦の前ぶれかの様に、反比例した冷気が身体を包み込む。

 

そのおかげで、スバルも寝坊せずに済んだと言って良いのだが、現在少々頭を悩ます案件が発生中。

 

眼前にて《好きな子選べ》と言われている地竜。ずらりと並んでおり、途方に暮れていたのである。

 

 

因みにフェリスは、スバルの答えに不満だったようで、頬を膨らませて抗議。

 

 

「にゃにさ! せっかくのクルシュ様のご温情なのに、気に入らないって言うの! スバルきゅんは、ちょっとはツカサきゅん見習った方が良いよ! ツカサきゅんなんて、二つ返事にはお礼。感謝しながら選んでたんにゃからね!」

「フェリス様。バルスに、ツカサを見習わせると言うのは到底荷が重い……と言うより、到達不可能である、と存じ上げます」

「地竜選ぶ事さえ、オレは出来ないってのかよっ!? 違う違う! 選ぶ事くらい出来るっつーの! ただ、地竜の善し悪しなんて、ぶっちゃけわかんねぇ、っつったの! 地竜一筋十数年のベテランにでも見えるか? オレが」

 

 

周りの雑音、罵倒を一蹴しながら、スバルは並んでいる地竜に目を向けた。

因みに、さっさと選んだツカサも、苦笑いしながら直ぐ傍にいるから、聞いてみる。

 

 

「兄弟は、どーやって、選んだの? 血統書でもあったのか?」

「うん? ……敢えて言うとすれば、直感……かな? 地竜の方もオレを気に入ってくれたみたいだから、そっち方面も意識したよ。命を預けると言っても良い相手だし」

「へぇへぇ、出来る男は、地竜にも好かれるのか、ってな。そーいや、オットーも似たような事言ってたなぁ……」

「喧しい! 変な事覚えてないで、スバルもさっさと決める」

「わーってるわーーってるって!」

 

 

ぼちぼち、と地竜を眺め続ける。

そんなこんなで、暫く見ていると、フェリスが再び茶々入れてきた。

 

 

「そーにゃそーにゃ、ツカサきゅんの言う通り、直感が一番! 命預ける子だってのも本当にゃし? もし、死んじゃったりする事考えると、フェリちゃん恨まれたくないから余計な口出ししたくにゃーい!」

「って、おい!! やめろやめろ! 変なフラグ立てんな! 誰が死んでやるか!」

「バルスが死にそうになったら、ラムが死ぬ手前まで殺すから安心なさい」

「1mmも安心出来ねぇよ! 死人に鞭か! 追い打ちとかカンベンしてくれ!」

 

 

ラムは有言実行する事だろう。

間違いなく、あの時の狭間でフルコースを受けてしまいそうだ。

 

如何に痛めつけても死なない次元が違う空間では、死ぬ心配こそ無いが……恐怖と言うモノは魂にまで刻みつけられてくるので、安心などは出来ない。ラムの見た通り鬼の形相での攻撃。レムも庇ってくれるが、本当の意味で死んだりしないし、大丈夫だと言う事は解っているので、そこまで本気で止めたりしてくれないのだ。

 

 

だが、だからこそ良いとも思える。

スバルが言った様に、死ぬつもりは毛頭ない。自分が死ねばどうなるか知っているから。絶対に死ぬつもりは無い。

 

 

良い気付けになる、と言うものだ。

 

 

だが、だからと言って地竜選びが順調に捗るかと問われればそう言う訳でもない様だ。

 

 

「う~~ん、どれ見ても恰好良い、って感想しか出てこない件。レムはどうだ?」

 

 

スバルの問いに先ほどからずっと傍にいてくれる、良い意味でも悪い意味でも自分を肯定してくれるレムに視線を向けた。

 

レムは、直ぐ傍にいる地竜の首を撫でてやりながら答える。

 

 

「そうですね。レムの場合、大抵の地竜はどっちが上なのか、ちゃんと教えてあげれば言う事を聞いてくれるので、あまり地竜の違いに拘った事がなくて……」

「なるほどなるほど。流石レム。ラムも似た様な解答だった。この辺は姉妹共々似てるんだな。スパルタ方針。……ええと、どうすっかな」

 

 

レムに撫でられた地竜が、まるで服従を示す様に地面にペタリと座り込む。

あの一瞬で調教?? とは考えにくい。

 

恐らくは、本能的に悟ったのだろう。……生物的な格の違い。鬼族と言うモノの位の高さが解ると言うものだ。

 

正直、一般人以下な戦闘力しか持てず、他力本願、魔法も他力本願一直線なスバルでは参考に出来ない。

 

 

「ん~~~………ん?」

 

 

そんなこんなで、並ぶ地竜を見て回るスバルの足が止まった。

 

 

「お前……ひょっとしてあの時の……?」

 

 

 

それは、王都へと向かう時の地竜。

地竜は確かに似たような姿をしているが、それでも一個体ずつに特徴がやや違ってくる。足を止め、マジマジと姿を確認してみれば一目瞭然だ。

 

漆黒の肌をした美しい―――とも思える地竜。

 

鋭く黄色の瞳が、真っ直ぐ自身を見据えてくる。

 

 

「――――」

 

 

決して逸らせない。真っ直ぐ見てくるその視線にスバルは他の地竜には無いものを感じた。

 

 

そして、自然とスバルは手を伸ばす。

地竜に触れるか触れないかの刹那。

 

地竜の方が鼻先を擦り付ける所作をした。

 

 

「驚いたわ。バルスが食いちぎられるか、蹴っ飛ばされるのが見物だと思っていたのだけど」

「……うーん、血生臭いよ? ラム。……最初から想ってたけど、朝からキツイよね、スバルに対して」

「そう? ラムは昨夜の事なんか気にしてないわ。アッと言う間に意識を手放したツカサの事なんか気にしてない。ええ、気にしてないのよ」

「ぅぅ………、そ、それはほんと、なんて言ったら……、お、オレ初めてで………ごめん」

「だから、気にしてないわ」

 

 

 

昨夜の事を気にしてない、と言いつつ、明らかに気にしているラム。

その一連のやり取り、他に聞かれてなくて良かった……と肩を落とすツカサ。皆スバルの方に集中していた様だから。

 

 

因みに、昨夜……。ラムの先制攻撃? な大人な接吻(でぃ~ぷ・きす)を受けたツカサだったが、最初こそは目が蕩けて、受け入れようとしていたのだが………、ラムが身体を密着させた事、抱きしめた事。色々と―――柔らかかった事。最後には衣服が開けた事も合わさり……、完全に頭がオーバーヒートしてしまって、真っ赤になって気を失ってしまったのだ。

 

 

男としての見せどころな筈なのだが、とラムは呆気にとられたのは言うまでもない。

ラムへのマナ移譲はクルルがしっかり引き継いでるので、問題なかったが、ラムにしてみれば、寸前の所でお預けを喰らった気分。

その気絶した身体に色々と悪戯(・・)はしっかりしたのである。

 

 

口では色々と言ってるラムだが、心底楽しんでる様子は垣間見えるので、ある意味大丈夫だろう。マナも満ちている。精神力も向上し振り切っている。完璧だ。

 

 

だが、この件の事で今後かなり弄られてしまうのは仕方ない事である。

 

 

それは兎も角、他のメンバー、特にレムはラムと同じくスバルに対して驚きの声を上げた。

 

 

「……驚きました。この地竜、気位が高い事で有名な種類だと思ったんですけど……、スバル君の身体が飛ばされるか、もしくは手を食べられちゃうんじゃないか、って」

「えええ!? マジ!??」

「マジ、本当の意。マジです」

「……ちょっと今のはオレの不用意だった!!」

 

 

本当の意味では、心配までしていない様に思えていた。

あの一瞬だが、確かに波長が合った。ツカサが言っていたのはこの事なのだろうか、とスバルは思いながら決める。―――命を預ける相手に。

 

 

 

「よっしゃ、フェリス。こいつにする。一目惚れだ」

「はいはーーい、後、一目惚れとかいわなーい。レムちゃんが拗ねるからネ」

「別に拗ねてませんよ。ちゃんと仲良くします。……出来ます!」

 

 

確かめる様に言葉を重ねる辺り、レムの事が心配になるが、大丈夫よ、とラムは口ずさんだ。

 

 

 

バチバチバチッッ‼ と地竜と(レム)の間で、目に見えないバトルが繰り広げられている様だが、それでも大丈夫だ、と。

 

 

 

 

「レムの圧に屈しない所を見ると、……あの地竜がバルスを気に入ったのは間違いない様ね。……全く。何処が良いのかしら? さっぱり解らないわ」

「好いた惚れたは個人の自由だよ、ラム。だから、オレも自由にしてる。……昨日は情けなかったかもだけど、全部終えたら……頑張るから」

「………当然ね。ラムが好きになったツカサだもの」 

 

 

肩に手をやるツカサ。その手をそっと掴むラム。

 

この道のりは安易なモノじゃない。果てしなく厳しく険しい道のり。

だが、必ず超えられると信じている。

 

 

 

―――あの白鯨を、如何に400年もの間、世界を苦しめ続けた厄災と言えど、必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルシュ邸にて。

 

白鯨攻略戦に向けて、続々と討伐隊に組み込まれている人員が集まり始めている。

この中の全員が歴戦の猛者―――と思えばスバルも生唾を呑みこむ思いだ。士気も相応に有り、腕もそう。……直接的にと言えば、エルザ、ヴィルヘルム、そしてユリウスとしか手合わせしていないが、それでも解る事は解る。

 

 

逆に言えば、これだけの戦線をかき集めなければならない程の相手と戦うのだ、と改めて実感した。

白鯨にも直に接した事があるが、あれも掛け値なしにバケモノだ。

 

 

だが、止まる訳にはいかない。

エミリアを、皆を助ける為に。

 

 

 

―――武者震いとはまた違う震えを一喝する様に、スバルは両頬を挟み叩き、前を見ようとしたその時だ。

 

 

「うおっっ!」

 

 

突然、頭に強烈な重みが加わった。

 

 

「よぉ、兄ちゃん! お嬢から話は聞いとるわ! 兄ちゃんが今日の鯨狩りの立役者の1人なんやろ!?今日はワイらも鯨狩りに混ぜて貰うリカード言うんや! よろしゅうな!」

 

 

衝撃に加えて大音量がスバルの耳に叩きこまれる。

 

 

「って、うるせえし声がでけぇし、頭捥げんだろうが! っと、その屋号にカララギ弁の獣人。って事はアナスタシアの?」

「なんや! 兄ちゃん声小さいで! 何言うたか聞こえへんぞ!?」

「だから、うるせえよ!! 何喰って育つとそんなでかくなるんだ! あんた、何族だよ!」

 

 

唐突に始まったスバルとリカードの漫才。

いつもは、陰ながら諫めてくれたりするツカサが居ない分、割とハイペースである。

 

 

「見りゃわかるやろ? コボルトやないかい! 犬人族がコボルト以外におるか!?」

「へぇ、コボルト………、嘘だろ、絶対それ!?」

 

 

スバルの中にある常識? は日々欠落し、崩落していくものである。

イメージするのは、犬の顔をした小人。体格が断然違う。もう、自分自身の常識に当てはめない、と一体何度目になるだろうか、そう思い直すスバル。

 

 

「そっちの嬢ちゃんもよろしゅうな!」

「はい、リカード様。ご丁寧にありがとうございます。レムと申します」

 

 

リカードの挨拶に、心の準備が出来ていたであろうレムは、丁寧に名乗りを返した。

 

そのやり取りを横目にしていると………ふと目があう。

ニヤニヤ、とイヤらしい目をした笑みだ。

だから、スバルもぶっきらぼうな表情で返すが、何処吹く風。

 

 

「あかんでー、ナツキくん。リカードは都合の悪い事は聞こえん耳の持ち主やし、うまぁく付き合うコツは、そない不用意に近づかんこと、若しくはちゃ~~んと、回避できるだけの体術備えとくこと、やね? やぁ、ナツキ君も笑わしてもろたけど、ツカサ君も違う意味で笑わせてもらったわぁ」

「遭遇前に教えて欲しかったよ、それ! 兄弟はまぁ、当然! って感じだな。………」

 

 

もしかしたら、ここでも時間跳躍を使ったのかな? とスバルは訝しむ。

変な所で体力使ってどーすんだ、とも思えたが、人並み以上に体力が劣る自分が突っ込んだ所で意味ないので、深く追求する事は止めた。

 

 

「おお!! お嬢っ!」

「ぐわわっっっ!! 次いでみたいに人の頭ぐりぐりかき回すな! 首が捥げるだろ、馬鹿力!!」

 

 

アナスタシアの登場に、リカードのテンションは割り増しになったのか、再びスバルの頭を鷲掴みにして、ガクガクと、揺らす。……揺らした意味が解らないが、なんにせよ、不当な暴力の様なものだと言う事は即座に理解。

 

 

「あ、あぶねぇあぶねぇ……、決戦前に味方からの攻撃? で死ぬとかシャレになんねぇよ、いや、マジで。……ラムちー姉様にも やられちまうとこだったよ」

「なんや、大袈裟やなぁ。仲良ぉやろて言うてるだけやんなぁ」

「その仲良くに国民性の違いがあるってんだよ。カララギの人ってみんなこうなの?」

「そんなわけないやん。リカードが特別。ウチ見てたら上品でお淑やかな国風が見て取れるんと違う? ん??」

 

 

リカードと並ぶアナスタシア。

確かに比べてみると、違う事は違うが、いけしゃあしゃあと……と思ってしまうのは無理ない事。

 

 

と言う訳で、見本である、と言わしめるレムを前に押し出した。

 

 

 

「いいか? 真にお淑やかってのはレムみたいなのを言うんだ。見ろ、この雅やかさを! 因みに、ラムちー姉様は見なくて良し。毒舌本日も決まってっから」

「そんな……可愛いだなんて、照れてしまいます」

「んふっふっふ―――って、いだぁぁっ!?」

 

 

突然、背後より後頭部に痛みが走った。

一体どこから取り出したのか、持ち出したのか、銀製のトレーにてスバルの脳天は打ち付けられている。

 

 

「いまだ寝惚けている様だから、喝を入れてあげたわ。ラムに感謝する事ね」

「あはははは。リカードにスバルもやられたかぁ。……うんうん。予想通りと言えばそうかな?」

 

 

いつの間にやら、合流を果たしたツカサとラム。

 

スバルは正直、意識外からの一撃なので、相応に答えたのか、両手で頭を摩りながらしゃがみ込む。

 

 

「ツッコミ強過ぎるよ、姉様!!」

「ハッ。違うわ。ここは戦いの前の良い気付けになった、と咽び喜ぶ所よ」

 

 

「んっん―――、ほんま、あの子は羨ましい人らに囲まれてんなぁ、……ウチとしては、正直悔しくも有るんやけど」

 

 

レムにスバル、そしてラムにツカサ。

商人として、数多の出会いと別れを経験し、その目を養ってきたつもりではあるが、それをしても底が見えないと言わしめる面子だ。

 

それが、まさか――――王選の中でも一際異彩を放つハーフエルフ、エミリア陣営に集まっているのだから。

 

 

スバルは、どう転んでもエミリアの傍を離れないだろう。

ツカサは、エミリアに対してはスバル程の執着があるとは思えないが、メイドの2人、その姉については特別な情を感じるので、恐らく同じく離れない。

 

 

ほんのちょっとの期間でエミリアの元に集ったのか、ロズワールの隠し玉なのか……。

 

 

「まぁ、恩を売れたって事でよし、としとくかな。今んとこは」

 

 

 

アナスタシアはそう言うと、改めて笑うのだった。

 

 

 

 

「―――その様子を見ると、顔合わせは済んでいる様だな」

 

 

 

と、珍妙な集まり、とも言える面子の中、クルシュも姿を現した。

 

その姿は、普段の男装めいた礼服ではなく、装飾を極端に減らした鎧姿。

動きやすさを重視した、彼女の兵装は それだけでも戦闘スタイルがどのようなモノなのか、解る感じがする。目にも止まらぬ動きで敵を薙ぎ倒していく……様な姿がスバルの脳裏にはあった。

 

 

 

「なるほど。話には聞いていたが、噂以上の兵だな。卿がアナスタシア・ホーシンが誇る懐刀、《鉄の牙》の団長か」

「あくまで雇われ、ですわ。クルシュ・カルステンさんやろ? 噂と話は外とお嬢に聞かされ執ったけど、実物はこれまた………、傑物やな! これは王選、しんどいんとちゃうか、お嬢!?」

「やーかーら、こうやって恩とか売りつけとるとこやないの。値札にいっくらつけて貰えるんか、リカードの仕事ぶり次第なんやからしっかりしぃや!」

「がはははは‼ そらそーやな!!」

 

 

アナスタシアとリカードとの間には、相応の絆の様なものが見て取れる。

クルシュで言うフェリス、と言った感じだろうか。……ユリウスには申し訳ないが、商人としての顔は完全に息を潜め、歳相応、見た目相応の少女らしい雰囲気が垣間見える。

 

 

 

「―――スバルも、エミリアさんとしっかり仲直りしとかんと、いかんよ?」

「っっ、わ、わーってるよ! ってか、突然変な鈍り入れてくるんじゃないよ、まったく。似合ってねえし、その関西……カララギ弁!」

「あ、いや、失敬……。リカードと長々と話をしてたら、ちょっと写っちゃってた」

 

 

 

ツカサはごほんごほん、と咳払いをした。

 

 

「兄弟は、リカード(アレ)回避したって言ってたけど、気配でも感じたか? それか、やっぱアレ(・・)でも使った?」

「ん~、今回は気配の方かな。風の魔法を色々と試してみたりしてたら、彼が引っかかった。……白鯨以外にも、厄介な()を使うヤツが居るから、色々と人込みの中で実験を」

「なーる。……って、実験て、何か物騒だな」

「変な事はしてないよ? 当たり前だけど」

 

 

これから共に戦う仲間である人達に変な事をするワケが無い、と言うのは当然の認識であり常識。リカードはその辺り欠如してる? とスバルは思ったりしているが、あまりにもスバル自身が華奢で脆いのが悪い、とラムに一蹴されてしまった。

 

 

「ふむ。良い具合に解れている様だ。……昨晩は休めたか? ナツキ・スバル」

「おかげさまでな。クルシュさん達が忙しくしてる間、呑気に寝てたみたいだよ………、っと。クルシュさんのその兵装。やっぱ戦うんだな?」

 

 

改めて、スバルはクルシュの姿を見て聞いた。

クルシュはいわば王様であり、討ち取られるワケにはいかない存在だ。背後にどっしりと構えて~ と言うのが陣取り合戦ではセオリーだと思えるのだが……、と考えていたらクルシュはスバルの考えを見据えた上で言った。

 

 

「椅子に腰かけて、ただ吉報を待つことが私に出来ると思うか?」

「クルシュさんは才気溢れる女傑で有名だ、って街でも聞いたじゃん、スバル」

「いや、まぁそうなんだが、やっぱ実際に見たワケじゃねーからなぁ……」

「自分の目で見て判断をする。その考えは好ましい限りだぞ。ナツキスバル。―――が、それを言うのであれば、私は寧ろ卿の参戦の方が意外だ。卿は戦えるのか?」

 

 

チラリ、とスバルの姿を見た。

いつも通りのジャージ姿であり、こちらの世界では見慣れない服装。

動きやすそうではあるが、あまりにも軽装過ぎる。クルシュの鎧よりも更にだ。布切れが相応の防御の力があるのならば解るが、生憎そう言った類の材質、繊維ではない事は事前に聞いている。

 

 

「戦えるか、戦えないか、っつったら、完全に後者。オレは兄弟、他力本願上等。なんちゃって、魔法剣使った事はあるが、それも兄弟の魔法を纏った剣を使ってるだけ。戦力としては論外だ」

 

 

自信満々に情けない事を言っている様だが、スバルのその目を見ればクルシュは解る。

何か隠し玉を持っている事くらい。

 

 

「―――ただ、白鯨……魔獣相手なら、オレって人間は割と役に立つ、って思ってる」

「ほう? ならば聞こう。その根拠は」

「……あんまし、オレ自身も嬉しくねぇんだが、どうもオレって魔獣を引き寄せる体質があるっぽいんだ」

「なんだと?」

 

 

クルシュは、あのミーティア……白鯨の位置を教えるミーティアの様に、まだ何か違う武器になるものを所持しているのだろうか、と予想を立てていたのだが、完全に外れていた様で、目を丸くさせた。珍しい光景だ。

 

 

「本当ですよ、クルシュさん。以前はウルガルム、ギルティラウでしたが、スバルが惹きつけてつけてくれたおかげで、アーラム村の住人に脅威が迫る事は無かったんです」

「レムからも言わせてください。スバル君のその力のおかげで、レムは助かりました」

「ラムも見ています。バルスがあまりにも弱そうに見えるから、本能的に魔獣はバルスを襲おうとするんです」

 

「最後は散々な言い方だが、まぁあってるかもだよ! だから、オレの体質を活かした戦術。借りた地竜で白鯨の鼻先を掛け釣り回って……その隙に総攻撃を入れて貰う。めちゃくちゃデケーから当然的もデカい。オレにあたる可能性も少ない。正直、オススメ戦術の1つだって思ってるぜ」

 

 

自分で言ってて涙が出そうにならなくもない。

 

戦力に関しては0だが、生餌として役に立つから戦場を走らせてくれ、と。まるで自殺願望、自殺志願者だと思われても仕方ないが、こればかりはツカサにも出来ない役割。

途中で逃げられれば最悪だが、これまでの個体は例外なく、向かってきた先に死が待ってい様とも、突っ込んできていたから。

 

 

「――――白鯨の、鼻先を? ……驚くべき事に、嘘の気配は卿らからは見えない。昨日からの半日で、こう何度も自分の加護を疑う機会がくるとは思わなんだ。万能である、などと心得違いをしていたわけではないが……」

「あー……、ちょっと自信喪失したり?」

「違うな。世には私の思惑を超える者などいくらでもある、と身が引き締まる思いだ。……人知を超えた力を持つ者もいるのだから当然と言えるがな。そう言う意味では、ここ数日、実に有意義だったと言えるだろう」

 

 

クルシュはチラリとツカサの姿を見た。

 

スバルの体質、魔獣を引き寄せる体質に関しても目を見張るものがあるし、信じられない、と加護を疑うのも無理はない事柄であるが、それ以上に思うのは、やはり白鯨を単独で撃退して見せた彼にあるだろう。

 

本人曰く、一瞬の邂逅だった故に、そこまでの期待は……と謙遜をしているが、それがまた、真偽をより解らせる、と言うモノだ。

 

真の強者とは、安易にその爪を、牙を、見せたりはしないものだと言う事はクルシュとて解っているから。

 

 

 

そんな時だ。

 

 

 

「―――どうやら、集まってきた様だな」

 

 

クルシュが視線をこの大ホールの入り口に向けたと思えば、片目を瞑って呟いた。

それが合図であるかの様に、次々と人が足を踏み入れる。全員が同じく戦装束に身を包み、厳しい顔つきをした者たちだ。

 

その佇まいだけでも十分過ぎる程解る。

 

彼らもまた、強者なのだと言う事が。

 

 

だが、幾分か年齢の偏りがある様に思える。

 

 

「若さが足りないメンバーに見えるな、随分」

「歳だけで判断すると痛い目見るんじゃないか? ヴィルヘルムさんと相対したスバルなら、解ると思うんだけど」

「……そりゃぁ、そっか」

 

 

思い浮かんだ感想をそのまま口にしたスバルだったが、即座にツカサに撃墜された。

ヴィルヘルムの剣術指南を受けてきたスバル。その実力は肌で感じた。あの様な老人が何人もいるとは考えたくもない事だが、ツカサの言う通りだ。安易に侮るのは悪手も良い所だ。

 

 

 

そんな時、スバルやツカサの言葉が届いたワケ……ではないだろうが、その男達の内の1人が、こちらに視線を向けて、歩み寄ってきた。

 

 

「クルシュ様。参上いたしてございます。―――そちらの方々が?」

「ああ、そうだ。先ほど伝えた通りの英傑。そして最高位を受勲した男も共に在る」

 

 

そう言うと、男性はスバルとツカサの前に立ち、頭を下げた。

 

 

「ありがとう」

「へ?」

「………」

 

 

スバルは、まさか礼を言われるとは思わず、素っ頓狂な声で答え、ツカサはあらかじめ聞いていた部分もあった様で、真っ直ぐ見据えながら軽く頭を下げ返していた。

 

 

「君たちのおかげだ。……此度、我々の悲願が叶う。これほど嬉しい事は無い」

 

 

両手でガッチリと握手を交わした。

強い感情が、手を通して伝わってくる。

 

ここで漸くスバルも気付く事が出来た。

 

 

「……全員、白鯨に縁のある方々なのでしょうね」

「ええ。先の大征伐……過去の討伐隊の関係者よ」

「ッ………」

 

 

14年前に敗北を喫してしまった部隊の関係者。

 

そう―――ヴィルヘルムと同じく。

 

 

 

「一線を退いていた者たちも多かったがな。此度、ヴィルヘルムの呼びかけで、討伐隊に加わった兵揃いだ。士気と練度は、現役の王国騎士団にも見劣りしまい」

 

「復讐に燃える老兵たちって事か。――――ぜってぇ、成就させてやりてぇ、って燃えてくるよ」

「足引っ張らない事だけ考えてなさい」

「やっぱ辛辣!!」

 

 

男の子として、滾るものをしかりと感じさせて、身体の芯から燃える気持ちだったのだが、否が応でも、ラムは現実に引き戻したいのか、見事なまでの手際で現実世界? へと連れ戻してきた。

 

 

 

 

「―――そろそろ時間だな。卿らも広間に居て欲しい」

 

 

 

 

そして、クルシュはそう言い残して、壇上へと向かった。

出発前の口上、士気高揚の為の演説があるのだろう

 

 

フェリスも顔を出し、時間である、と言う事をクルシュに伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――400年だ」

 

 

定刻となり、集った兵士たちの前で、クルシュの言葉が始まりを告げる。

全員の顔を一瞥するかの様に見渡し、そして続ける。

 

 

「世界史に残る、最悪の災厄、《嫉妬の魔女》が世界を脅かした時代から400年。その魔女の手で生み出された白鯨が世界を狩り場とし、我が物顔で弱者を蹂躙しながら跋扈する様になって、それだけの月日が過ぎた」

 

 

嫉妬の魔女の名をここでも耳にする。

かの魔女は世界の半分を呑みほしたと言う話は、如何に無知蒙昧なスバルでも解っている。

最愛にして意中の彼女の悩みでもある、かの魔女の存在。忘れる筈もない。

 

 

その魔女の僕が、あの白鯨と言う存在。

主を失って尚、自由を謳歌し、生き続け、死をまき散らす怪物。

 

 

「白鯨により奪われた命は数えきれない。その霧の性質の悪辣さも相まって、犠牲者の正確な数は誰にもわからないというべきだろう。400年の時間を経て、銘の刻まれた墓碑と銘すら残すことのできない墓碑の数は増えるばかりだ」

 

 

 

クルシュのその言葉に下を向き、歯を喰いしばり、握りつぶした手に血を滴らせる。

嗚咽を堪える老兵たち。皆が、かの怪物に踏み躙られたのだ。

 

 

内側には尽きる事のない激情が抱え込まれているただただ、静かに怒りを爆発させる機会を待ち続けた老剣士も直ぐ傍にいる。

 

 

 

「だが、その無為の日々は今日を持って終わりを告げる。此処に居る我らが終わらせる」

 

 

 

 

クルシュの力強い言葉に、一陣の風を見た。

無念や怨念が、周囲を彩っている最中、生きる活力が、希望が、その光が風となって場に拭いたかの様だ。

 

 

 

 

「白鯨を討ち、数多の悲しみを終わらせよう。悲しみにすら辿り着けなかった悲しみに、正しく涙の機会を与えよう。―――既に主を失った身で、尚も終わらぬ命令に従う哀れな魔獣を終わらせよう」

 

 

 

 

胸が熱くなる。

 

魂は、生きている、生きている。……今、ここに確かに生きている。

 

消えてしまった、潰えてしまった彼らが、この場に集ってきているかのよう。

 

 

数多の視線を、無念を、全て背負い、クルシュは一身にそれを受けて、声を大にして剣を掲げた。

 

 

 

 

「出陣する!! ―――場所はリーファウス街道、フリューゲルの大樹! 今宵我らの手で――――白鯨を討つ!!」

 

 

 

 

 

白鯨攻略戦。

この世界に来て最大の―――――(いくさ)が始まる。

 

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