死ぬなよ、絶対に死ぬなよ! ※コレは、フリではありません。 作:リゼロ良し
「ふむふむ……。時を巻き戻すか。その元、原因となるモノは………いや、やめておこうか………」
無の世界。
何も見えない真っ暗の世界にて、近いのか遠いのかさえ分からないが、妙な声が聞こえてきた。
その声は、懐かしい様な………、それでいて何故か腹だたしい様な……。
「――――……我もそろそろ出たかった気分でもある。……良いだろう、我はここから始めるとしよう」
額に何かが触れたかと思えば……何もない虚無の世界に光が灯った。
五感の殆どが無かったと言って良いのに、ゆっくりと瞼を開く事が出来た。
「さぁ、目を覚ませ」
「ッッ!!?」
眼前に迫る物体に思わず仰け反りたい気になるが、瞼を開ける、見る・聞く以外の行為が出来なかった。
眼前の物体を目を凝らしながら確認する。少しずつ朧気に輪郭が見えてきた。
エメラルドの輝きを持ち、その額にはルビーの紅玉が埋め込まれている。
「ここは、固定した次元の狭間。我と貴様だけの空間だ。……ふふ、確か、似た様なのが、
「ッ、ッッ……」
「ふむ、口が利けないか。ならば……」
表情を読んだのだろう。
今度は顔を更に近づけてきた。厳密に言えば、その額に存在する紅玉を近づけてきた。
すると、赤く輝き出し、身体を包み込んだ。
「っっは!!?」
すると、ビックリ。
言葉を使う事が出来た。
言葉を口にする事が出来た。
「良かっただろ? 我が貴様の魂にほんのすこ~~~し、ほんのちょっ~~~ぴりついてきたお陰だ。でもなければ、貴様自身も崩壊しとったかもしれんぞ。崩壊した
「お前は……、お前………、確か…………」
目の前の存在を思い出そうとするが、どうしても思い出せない。全く知らない相手じゃないのは間違いないが、どうしても思い出せない。
「記憶・技能共に テキトーにくっつけて送り出したからその影響がでておるのだろう。……まぁ、それはそれで良い」
愛くるしい程の姿で笑い、宙を泳ぐ獣。
何度も何度も思い出そうとするが、どうしても記憶の扉が開かない。ビクともしなかった。
それを察したのか、泳いでいた獣はピタリと止まってこちら側を見てくる。
「そもそも、我を無理に思い出す必要もあるまい? 本能で悟れば良い。それに ほれほれ、我は
ひゅるひゅる、再び宙を泳ぐ様に、縦横無尽に回る獣。
確かに言われた通り……何処か解る気はしていた。どういう存在なのかを。
だが気がかりが1つ…………。
「何か、嫌な感じだけはする。……非常に、物凄く」
「おうおう、流石じゃの流石。その感情を持つ事の説明は、最早我には出来ん。……だが、
今度は、額ではなく そのエメラルドの輝きを持つ身体の手をゆっくりと伸ばして、頭に着けてきた。
すると、頭に温もりを感じたその瞬間。
「ッ!!?」
ガツン!! と頭を思いっきりぶん殴られる感覚に見舞われた。
気絶したくても出来ない故に、収まるまで味わうしかない。……気を失えない現在の状況を恨みたくなる、と言うより目の前の……。
そう、目の前の………存在。
何故だろうか、何故解らなかったのだろうか、と思う程 その姿には覚えが有った。
本能で解る、と言ったあやふやなモノではない。はっきりとその姿形が解る。
「く、る、る…………? しょう、かん………、じゅう……」
「そうじゃ、そう。
召喚獣クルル。
名の通り、召喚士が召喚して世に顕現させる聖獣。
その召喚獣と言う存在そのものについては何故、自分が知っていたのかは別として、頭では理解出来ていた。
――ただし、クルルと言う召喚獣を知っているそれだけだ。
それ以上は 解らない。
明らかにクルルの身体を依り代に、中身が違う事だって察しがついてるけれど、解らない。
目の前の召喚獣クルルと言う存在の事しか思い出せない。
それに他にもクルルと同種、数多の存在、その世界の成り立ち等があったと思う。
《前の世界》と言うものが。……それらは一切思い出せなかった。
――――……実に都合が良い事だ。
「くくっ、さぁ 我も共に行くぞ。これより
クルルが光を放ったかと思えば、目の前が再び黒く染まり……漆黒に包まれ 意識は遮断された。
「……サ、……んッ!?」
黒く沈む世界の中で、何かが聞こえてくる。
「しっ……り……! ツ……、さん!?」
ただただ、激しい痛みを覚え、闇が全身を覆ってくる。圧倒的な嫌悪感。それを拭い去る事が出来ない。
この苦しみが……永遠に続くのか……? とも思えたその時だった。
闇の中に光が差したと同時に、妙な感覚に見舞われる。まるで、飛ばされる様なそんな感覚がした気がした。
「フーラ」
「!」
気がした、のではなく、実際に飛ばされた。
浮かされた身体は、ずっと宙に浮いている筈もなく、起こった風が消えると同時に身体は落下。しこたま身体を地面に打ち付けてしまった。
「ちょ、ちょっとラムさん! 幾ら何でもそれはやり過ぎでしょ!」
「突然固まったかと思えば、そのまま このラムの話も一切聞かず無視する。これでも優しく対応してあげた方よ。スッキリしたんじゃないかしら」
「ほんの少しでも優しくなって欲しいですよ、優しく慈しむメイドさんになってくださいよ!」
「ハッ、ラムが優しくするのは この世界に2人だけ。もう埋まっているわ」
「ヒドイ!」
2人の声がはっきり聞こえてきた所で、どうにか
「悪い……ありがとな、ラム……」
傍から見れば、ラムが魔法をツカサにぶっ放した構図。
だが、ツカサはラムに礼を言っていた。
勿論、それを聞いて驚くのはラム……ではなくオットー。
「いやいやいや、ツカサさんもおかしいですって! 明らかにツカサさんの状態がおかしくなっちゃったのに、そこに フーラですよ!? 気付けどころか更に怪我しちゃいますよ」
「つまり、そう言った類の性癖の持ち主だったってワケね。軽蔑するわ」
「いや……、とりあえず性癖って言うのは否定しとくよ。軽蔑どころか、もっと痛めつけてやろう、って顔するのもやめておこうか」
ツカサはそう言い切ると同時に、プッと口から血反吐を吐いた。
それを見て、ぎょっとするオットー、そして流石のラムも想像以上の傷? を与えたのか、セリフとは裏腹に表情を曇らせた。
無視したとは言っても、明らかにおかしかったのはラム自身にも解っていたから。気付けと言う意味で軽い風を当てたに過ぎない。……身体が浮いて、地面にダイブしたのは間違いないけれど。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫。だからオットーも気にしないで。
「…………当然よ。ラムは悪い事なんてしていないもの」
ぐいっ、と口元を拭うと、ツカサは周囲を見渡した。
「ごめんごめん。それで……なんの、話だったっけ?」
「……………万が一にでも、ラムの身に危険があれば 自分達が生きている意味が無い、死にたくなるから、どうか手伝わせてくれ、とラムに言った後の話よ」
「脚色が酷い!?」
ラムの発言で、今の時間を理解出来た。
理解したのと同時に――――意識する。
「(———
頭の中で、意識し、魔法を発動させようとするが……、失敗した。
いや、出来なくなっている。
「(崩壊した、って言うのは、こういう事……か。
ズキンッ、と頭に鈍い痛みが走った。
身体が相当消耗しているのも解った。
原因が何故なのか、それだけが解らないが……。
「じゃ、話すから しっかり聞きなさい」
再び2人と分かれた後に考え直す事にしよう、とツカサは思うのだった。
その後は同じだ。
予定通り、迷子探しが始まった。
ラムの探し人は 長い銀の髪を持つ少女。その手掛かりを手分けして探す。
「……店先の皆には悪いけど、買い物は無しだ。………変な事が起きてるのは間違いないから、そっちを優先……しないと。
頭を抑え、ふらつく身体を抑えて足を前に運ぶ。
2人の前ではどうにか虚勢を張る事が出来たが、中々にキツイ。
「くっそ……、仕方ない。……正直、呼ぶのは嫌だったけど」
ツカサは呟くと右掌が上を向く様にして顕現させる。
「――――出てこい、クルル」
「きゅっっ♪」
それは、あの空間が、あの全てが白昼夢じゃなかった事の証明でもあった。
身体の中身は兎も角、外側は愛くるしい緑の獣の姿で。
「話を色々聞きたいが、どうせ喋ってくれないんだろ?」
「きゅっ?? きゅきゅ??」
首を45度捻ってくりくりの目を向けてくる。
この獣は、人の言葉は理解出来ているのはツカサも知っているから、言葉の意味が解らない訳じゃないのは理解していた。
「………惚けてるのか、本気で解らないのか、微妙だな。…………こほんっ! 楽しみたいんなら、少し協力してくれないか? 同じ様な時間を行ったり来たりするだけなんて、つまらないだろ?」
「……………きゅっ」
先ほどまで解らないような仕草をしていた癖に、今度は手を東の方向へと差し出した。
「あっちだな。……何があるかなんてわかるワケ無いし。どうすれば良いかまで教えてくれても良いだろ」
「きゅきゅっ??」
「あーー、もう! 解ったよ!! だったら、召喚獣クルルとしての力は使うからな! こき使ってやる!」
「きゅうっっ!」
クルルを顕現する為にも、その力を発揮させる為にも、自分自身の力を有しなければならない………と言う事を、知っている筈の知識を、この時のツカサはすっかり失念。
そして この後に更に大変な目に合うのだった。