Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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よーやく、クジラ狩り編とつにゅー………

暑い、暑いデス……
へ(×_×;)へ


白鯨戦①

 

 

 

 

クルシュ・カルステン公爵を筆頭に、今回の《白鯨討伐》の遠征は行われる。

 

 

それは、遡る事14年前―――……《大征伐》以来の白鯨攻略戦だ。

世界の為、と言う大義は当然ある。失われた者があまりにも多すぎるから。

 

だが、それ以上に先の戦に敗れ、命を落とした者たちのために―――仇を討つ雪辱戦だ。

 

白鯨攻略戦。それはこれまでに類を見ない激戦になるであろう事は想定される。

 

特に先代剣聖テレシア・ヴァン・アストレアが白鯨に討ち取られたと言う最大にして最悪の事態も尾を引いている事だろう。

 

14年もの間、血眼になりながら白鯨を追い続けてきたヴィルヘルムの姿を見れば解る事だ。

 

 

長い年月を要したが、漸く想いが報われる日が来る、とヴィルヘルムが招集をかけ続けた部隊が集い、更に商業組合代表ラッセルの指示で必要な物資の運搬が行われ、更にはクルシュと同じく王選候補者であるアナスタシアより貸し出されたリカード率いる獣人傭兵団《鉄の牙》の一団が、集う。

 

 

「………はぁ~~」

 

 

かつてない規模の総力戦を前に、身体が震える思いではある……が、直ぐ横で並走している賑やかな姉弟を見ていれば、そんな緊張も何処かに消し飛んだ。

 

 

「ミミなのだーーー!」

「へータローです。宜しくお願いします」

 

 

元気が良い、とはこの事を言うのだろう。

これから、大魔獣との戦争が始まると言うのに、愛らしい姿を振りまく子猫の獣人。

毒気抜かれる気分になるが、無視するワケにはいかないだろう。

 

 

「ナツキ・スバルだ! ……んや、しかし、疑ってたワケじゃないんだけど……、お前 本当に副団長だったんだな」

「んーー? おにーさん、ミミとどっかであったっけ? むむー、思い出せない感じがじんじょーじゃない!」

「ちょっ、お姉ちゃん。ちゃんと乗って……」

 

 

両手をクロスさせて首をかしげるミミ。傾げるのは良いが身体全体まで傾いてしまってるので、あわや落馬ならぬ落犬してしまいそうになるのを、へータローがフォローしていた。

 

 

「ま、気にすんな。んで、2人は腕は立つのか?」

「ミミとへータローが居ればさいきょーー! 団長も居るし、ちょーさいきょーー! おーっと、そーゆーおにーさんこそ、どーなの? お嬢お気に入りのお(にぃ)と同じくらいやれるーー??」

「お、お兄……? なんか、そっちの方が萌える。抱きしめたくなる程可愛い子に言われたら尚更。妹萌え属性は、特にオレの中では無かった筈なのだが、新たなる目覚めが!!」

 

 

ミミが言う《お兄》が誰の事をさすのか。……そんなもの、言うまでも無い事だ。

やや後方に居て、現在リカードと並走しながら何やら話をしているナツキ・スバルの兄弟? であるツカサの事だろう。

 

 

そして、このモフモフな抱き心地満点を上げれそう、クルルやパッククラス? と思しき子猫なミミの質問に答えようと、数瞬考えて……。

 

 

「どっちかってと、トリッキー的なポジション? いやいや、参謀的な? だからこその策士スバル!」

「んんーーー? どゆことどゆこと??」

 

 

マジマジと見つめてくる円らな瞳。

麗しき瞳、可愛らしき瞳、何かを期待している瞳。

 

ここは口八丁手八丁で言い包めて、色々と堪能したい気分にでもなるのだが………、嘘がバレて、和を乱すような事はあってはならない。

白鯨と言う巨悪と対峙するのだから尚更。

 

 

更に言えば……、何だかスバルは嘘をつきたくない、気分にさせられる瞳だった、と言う理由もある。

 

 

「………ゴメンなさい。兄弟とオレじゃ、実力は天地程の差があります。つか、一般人以下?」

「んっっ」

 

 

腕をクロスさせてたミミは、ぴょこんっ! と子猫を象徴するパーツの1つである耳、そして尻尾をぴんっ、と立たせていた。

幻滅されるだろうか、とやや、げんなりと構えていたスバルだったが。

 

 

「あっはっはーーー、だよねだよねーー‼ ミミ聞いてみただけーーー! おにーさんが、お城でユリウスにボッコボコにされちゃったの聞いてるからーー」

「んがーーーー!! 知ってて尚聞いてくるか、この猫耳子娘!」

「お、お姉ちゃん。だからしっかりと乗って……」

 

 

せっせと後ろを支える男とへータロー。何処か哀愁漂ってる気がする。それも可愛いのだが。

 

 

「弟は見た感じ、大変そうだな……」

「え、あ、はい。よくお姉ちゃんと団長は先走っちゃうので、ボクが指揮を取ったり、指示を出したりしてるんです」

「姉だけじゃなく、団長もかよっ!! よくまとまってんな、そんなんで!!」

 

 

 

鉄の牙。

名前こそ強そう格好良さそうな、ネーミングなのに、団長を筆頭に、副団長まで自分勝手気ままに動くとか、崩壊するんじゃ? とも思えるのだが、どうやら落ち着きのある弟へータローは十分すぎる程優秀な様だ。

 

 

「喧しいわよ、バルス。何を喚いているの」

 

 

そんなこんなで、盛り上がっていたらいつの間にやら反対側にて並走していたのは、ツカサとラムの2人組。

 

 

「ちょっと、鉄の牙さんに注意喚起していた所だよ。弟に迷惑かけてやるな~~ってな」

「ハッ。迷惑と言う部類じゃ、バルスの右に出るものは居ないでしょうに。自分の事を棚に上げて、策士とか、笑わせるにも程があるわ。ハッ」

「何喚いてる、とか言いつつ全部聞いてたんじゃねーかよ、前後で嘲るな! こんちくしょーーー!!」

 

 

ぐぅぅぅ、と項垂れてしまうスバル。

 

 

「あ、その、あの……、スバル……君?」

「んあ……?」

「いえ、レムはとても、とても嬉しいのですが……スバル君の吐息がレムの首にかかって、くすぐったくて……」

「ああ、っと。わるいわるい」

 

 

思わず手綱を握ってるレムにもたれかかる勢いで項垂れたスバル。丁度、レムの項に息がかかった様で。

レムにとってはご褒美極まるのだが、生憎今は手綱を握っていて、竜車を操っているので、ちょっとした手違いがあってはならない、と言う事で泣く泣くスバルにそう言ったのである。

 

 

「ラムの可愛い妹に何してるのバルス。視覚的に、性的ないやらしさを感じたわ。このケダモノ」

「9割は姉様のせいだと思ってるんですがねーぇ。そう言うラムこそ、兄弟にぎゅーーっと抱き着いて! 似たようなものじゃないのかなぁーあ?」

 

 

ヒューヒューと囃し立てるスバル。

確かにラムはガッチリホールドするかの様にツカサに腕を回している。手綱を握ってるのもツカサで、レムとは真逆だ。

 

 

「ハッ。ラムがラムの特等席でどうしようが勝手よ。それにラムだからこそ許される事もこの世には存在するわ。無数に」

「流石姉様です。レムは感服致しました。ツカサ君、姉様の事を末永く宜しくお願い致します。レムはお2人の幸せを願ってますので」

 

「えーー、なになになに?? なんでそんな流れになっちゃってるの??」

「―――まぁ、スバルがそーいう流れにした、って言うのは間違いないと思うよ。それこそ9割方」

「いや、どっちかっていえば、ラムの暴走じゃねーのかよ!」

 

「ひゅーひゅーー! お似合いカップルたんじょーだーー!」

「ちょ、お姉ちゃん、しっかり前見て前見て」

 

 

他とは一味違う盛り上がりを見せている中、更に一際喧しいのがやってきた。

 

 

 

「なんや盛り上がっとるやないか! 兄ちゃんたち!」

「あんたの声が一番でけーよ! それよか、団長が部下に迷惑かけてんじゃねーっての」

「おお! ええ地竜乗っとるのぉ、兄ちゃんも!」

「おぃ、話きけー!」

 

 

大きな大きな戦の前とは思えない程のやり取り。

程よく緊張も解れた様だ。

 

 

 

「リカードがああやって皆の緊張をほぐしてくれてる所を見ると、やっぱり団長は彼なんだな、って思うんだけど……それ以上にスバルも中々どうして。気遣うとか、出る幕無かったかもしれないね」

「バルスはツカサに依存しているも同然だから大した事ないわ。他力本願とはよく言ったモノ」

「ん……、それが当初オレ自身が望んでた事でもあるけどね。(スバルの死に戻りがきつすぎるから)……でもスバルの場合、仮にオレが居なくても、オレの力が無くても、上手く立ち回っていた様な気がするんだけどね? かなり危なっかしそうなのは事実だと思うけど、何となくスバル見てたらそう思うよ」

「………買いかぶり過ぎね」

「そうかな? ………客観的に見ても、あの権能の性質は 正直えげつない。誰とも共有する事が出来ない。問答無用で、内に潜むナニカが命を食む。……オレも正直クルル(こいつ)が居なかったら、って考えたら 背筋が凍る……かな」

 

 

闇を具現化したかの様な存在。

スバルの背後より現れる闇撫での手。

 

今でこそ、ツカサのいわば切り札(超疑問。寧ろただの愉快犯?)でもあるクルルが居たからこそ、コミュニケーションをとってくれて、あの魔の手が仲間たちに向かわない様に、……ラムやツカサに向かない様にしてくれたが、クルルが居なければ、訳も解らぬまま―――時が止まった世界で心臓を握りつぶされている事だろう。

 

静止した時の中、自由に動けるナニカ。……白鯨にも勝るとも劣らないバケモノだと言える。

 

 

そして、スバルの内に居るナニカもそうだが……それ以上に思う事がある。

それはスバル自身。

 

 

「……アレ(・・)を経験して尚、エミリアさんや、屋敷の皆を助けようとする気概を見せるのは並大抵じゃない、って思ってる。クルルに聞いた話じゃ、オレの死の体感(・・・・)も受けたらしいし。感服通り越すよ。いや、ホント」

 

 

 

死を乗り越えても尚、必ず救う。

死よりも苦しい事態に見舞われても、立ち上がる。

 

 

人間には欲と言うモノが存在するが、その頂点に君臨するのは生存欲だと言われている。

死なないとはいえ、その瞬間まで苦しみを体感するのだから、並大抵の精神力じゃ、逃げてしまっても不思議じゃないし、精神が崩落してしまう方が普通だ。

 

 

「―――1人じゃないから(・・・・・・・・)

「え?」

 

 

ラムが不意に呟く。

ツカサに抱き着く腕に力を込めて。

 

 

「レムを失ったあの日。……ラムは壊れかけた。いいえ。壊れたと言って良い。……でも、立ち直る事が出来たのは、ツカサに戻してもらっただけじゃない。……傍にいてくれたから」

 

 

 

きっと、バルスも同じ。

 

 

ラムはそこまでは口にしなかった。

ラム自身が感じている事を、スバルも同じくらい感じている……と、同調するのは聊か……いやいや、大いに抵抗があったからだ。

 

ラムの想いも、この気持ちも、全部ラムだけのモノだ、と思いたいから。

 

 

 

ツカサはラムの言葉を聞いて、肯定する様に頷くと、胴に回されてる手をそっと手に取って、固く握りしめたのだった。

 

 

「やっぱ、兄ちゃんは ええ具合やな。警戒に覚悟、そんでもって身体の芯から湧き出とる、漲っとる自信。ええ具合に混ざりあって、まさに理想やで」

 

 

いつの間にやら、リカードはツカサの方へと来ていた。どうやら、スバルたちとの雑談ならぬ爆笑は終了した様だ。

 

短期間で、部隊全員に声をかけて回ってるリカード。ここに留まる時間が少々長いように感じるが、それほどまでに物珍しいと言う事なのだろうか。

 

 

「スバルもオレも、こう言うだろうね。《死んでも未来は諦めない》」

「がっはっはっは!! 2人して豪毅なこった! 兄弟兄弟って、なれ合いで言うとんのかと思っとったけど、案外ほんまもんの兄弟なんかもしれんなぁ! そっちの嬢ちゃんは怒りそうやけど」

「寒気と虫唾が走って、八つ当たりでバルスが消し飛ぶかもしれないですね」

「がっはっはっは! そーやろうな! お嬢の友達にもピッタリやわ。これ無事に終わった後も、ええ付き合いしたってや」

 

 

アナスタシアの事を言うリカード。

やっぱり、その表情は何処か違う。同じ笑顔でも……質が違う、と言えばそうだろうか。

 

 

「立場を考えたら、慎重に―――って言いたい所なんだけど。個人的には繋げる手は繋ぎたい。……()が増えるのは、好ましい事だよ」

「!」

 

 

ツカサの応対に反応を見せるのはラム。

そして、自然と笑顔になり、そっと頬をツカサの背につけた。

 

―――繋がる事を怖いと言っていたツカサはもう居ないのだから。

 

 

「あ、でも こっちにはアナスタシアさんは兎も角、彼女の一の騎士さんに、拒絶反応魅せるのが居るんだよなぁ……」

「おお、そやろな! それもなんや、ゆうてたわ、あの兄ちゃんも!」

 

 

大口開けて笑うリカードの姿を見て、ツカサも自然と笑みを零す。

あの時の様な嘲る姿は、もう恐らくスバルには向けられないだろう。

 

出来る事は多くないのかもしれないが、それでも着実に確実に前へと進めれているのは、ツカサにも解るし。

 

 

 

「なんたって、兄弟(・・)。―――嬉しい限りだ」

 

 

 

 

―――魔獣だろうが、魔女教だろうが、何だって来い、来てみろ。

………全部打ち破って、未来を掴んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白鯨出現時刻 五時間前。

 

 

討伐隊は特にトラブルに見舞われる事なく、フリューゲルの大樹へと無事到着した。

決戦の夜空には、白い月明かりが昇り始めている。

 

 

 

「―――この夜空を見ていたら、こんな場所に、あのデカいのが現れて、霧が発生するなんて思いもしないだろうに」

 

 

 

そう思うのは、澄み切った空。雲一つない夜空にあの巨体が現れて、一面霧で満たされる、なんて事は想像できないだろう。

 

未来を知る力が、これ以上なく有能であり、有効であり、最適な力である事を認識するのと同時に、過信すべからず、と戒めにもする。

 

 

「全盛期―――の半分くらい、かな。案外皆にがっかりされるかもしれない」

 

 

ツカサは己の手を握り、目を瞑り、身の内に循環し、身体を巡る力を―――マナを感じ取った。

感覚ではあるが、凡その消耗具合は確認できる。時を巻き戻せば巻き戻す程。その期間が長ければ長い程、それに見合う力を消費してしまう。

大きな力には代償がつきもの。当然と言えば当然だ。

 

 

「そんな無礼を働く輩は、ラムが許さないから」

「―――ん。ありがとう。凄く頼りにしてる。ラムにも、レムにも。勿論スバルにだって。……助けてもらうから」

 

 

周囲を見渡し、少々離れた位置、フリューゲルの大樹の根本に居るスバルやレム、そしてラムを見て ニッ、と笑顔を作る。

 

 

「頼れる部分で、ラムとレムに、もっと頼りなさい。……極稀にバルスにも。ツカサに足りないモノがあるとするなら、繋がってる輪、繋げている輪をもっとしっかり自覚する事、だから」

 

 

重たくなったのなら手伝って貰ったら良い。

苦しくなったのなら吐き出してしまえば良い。

 

切れる事のない輪を、ツカサは紡ぎ、繋ぎ合わせてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

心も身体も準備を整えつつある。

 

 

 

「レムレム。バルスは酷い男よね。堂々と二股宣言するもの」

「姉様姉様。スバル君てばひどい人なんです。……いえ、やっぱり素敵です。愛してます。―――レムは、第二夫人でも、構いません。愛を頂けるのなら」

 

 

いつも通りなシンクロ姉妹……とはならなかった。

冗談交じりだったとしても、レムの中ではスバルが最高位であり、心酔もしていて―――溢れんばかりの愛情を向ける相手なのだから。

 

 

 

「それで、エミリアさんに一夫多妻を説得する、と? まずエミリアさんに告白して、それで……その、告白のオーケーをエミリアさんから貰わないと、じゃない?」

「おーけーおーけー! オールおっけーー! レムも手伝ってくれるってさ! あ、そっちは ラムちー姉様は許してくれそうにないけどな!」

 

 

笑いながらスバルはラムを見ると、ラムは心外、と言わんばかりに鼻で笑った。

 

 

「ツカサの器量はラム自身が知っているモノ。バルスと違って、偉大な男になる、

と言う事も解っている。ラムだけに収まるなんて、自惚れるつもりは無いわ」

「………ええええ!!? あの傲岸不遜《毒舌》担当のラムちー姉様が!??」

 

 

目玉飛び出ん勢いで驚くスバルに、どこから取り出したのか、銀製のトレーを投げつけるラム。

良い具合に、頭に当たり、ぱかんっ! と乾いた音を響かせた。

 

 

 

「ただ、どんな王侯貴族だったとしても、第一夫人の座は渡さない。それが絶対の条件よ」

「―――あまり、話を大きくしないでね? 変な噂とか流れても嫌だから」

 

 

ツカサはそういって苦笑い。

誰かを好きになるなんて、初めての事だ。

―――まぁ、当然ともいえる。ツカサは生まれて間もない。生後 数ヵ月程度なのだから。

 

仮に、スバルの様にエミリアとレムの様に2人を。誰かを好きになる事があるとして―――――今の所、ラムと同じ様に、ラムの様に想いを寄せる相手が複数出来るか? と問われれば、首を縦に振る事は出来なさそうだから。

 

政略結婚? みたいな形でもない限り。

 

 

「―――何考えてんのさ。元国籍不明、正体不明人」

 

 

ツカサはそう言って、笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一頻り笑い、そして時間も徐々に迫ってきた。

 

 

白鯨出現2時間前。

 

 

ツカサは、ラムと……ヴィルヘルムと共に花畑の前に立ち、同じ方向を向いていた。

一言、二言、話を紡ぎ 先代剣聖―――ヴィルヘルムの奥方の話も少しだけして、軈て言葉は少なくなり、ただただ花畑の先の空を見据えている。

 

 

 

「これはスバルから、習いました。……共に、必ず道を切り開く為にする所作だと」

 

 

ツカサは、拳をぎゅっと握りしめて―――ヴィルヘルムへと差し出した。

偶然か、或いは必然なのか、……若しくは ツカサがまた能力を使ったのか、ヴィルヘルムが《感謝》の二文字をツカサに告げる前に。

 

 

「戦いの場に来れた事の《感謝》は、もう十分受け取ってます。―――それでも感謝の言葉を頂けると言うのなら、……あの厄災を地に落とした後に。と言う事にしませんか」

「!」

 

 

先の先を読まれた事に、その細い瞳が普段よりも大きく見開かれる。

未来を見据えているかの様な少年の曇りなき眼に、ヴィルヘルムは心打たれる。

 

 

 

―――全てを遂げる事が出来る。全てが叶う。

 

 

そう思わせるには十分過ぎる眼だった。

無論、それに甘んじる訳ではない。

 

14年間。

 

それを老木の無為に過ごした時と、揶揄しながらも、後悔は一度足りとてしていない。

 

その全てを―――この1戦に込める。

 

 

 

「―――私の全てに賭けて、お約束致します」

 

 

 

ヴィルヘルムは、同じく拳を突き出し、応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――定刻が迫り、大樹の周囲には戦場独特の緊迫感が張り詰めつつあった。

 

 

三大魔獣の一角を。かの神出鬼没な霧の魔獣 白鯨に対して、これ程までに有利な状況で迎え撃つ事が叶う機会など、400年間1度だって無かった筈だ。

 

全ての準備を終えて、綿密な戦術と、それを可能にする兵士たちを有し、万全の体勢で迎える……のは間違いないが、それでも尚、かの魔獣と相対する、となれば緊迫感の1つや2つ、振り切ってしまうのは無理もない。

 

 

月明りが、また雲により遮られる。

 

その瞬間、視線を月に向ける者が多々いる。白鯨が現れたのでは? と警戒心が皆の心を支配していく。

 

 

 

「――定刻まで、あとわずかだな」

 

 

静かに呟くクルシュは、横に立つフェリスが小さくうなずくのを目端に捕えた。

いつもの軽口も、この時ばかりは無い。

 

フェリスとて、己がこの討伐隊における一種の生命線である事を理解し、そして役割に徹しようと心に決めている。

 

それは、恐らくは英雄と称される者にも――――誰にも出来ない事。

青の称号を持つ、自分しか出来ない。

 

 

クルシュは、フェリスのそんな思いも、長年連れ添った経験則から容易に読み取り、そして信頼感をまた、露わにした。

 

 

自分たちの勝利を信じているが、白鯨相手に犠牲なしで、とまでは自惚れていない。

 

白鯨単独撃退、と言う前代未聞を成し遂げたツカサと言う男が、王国が英雄と認め、授与した男が傍にいても、大いに期待をしていても、その考えは変える事はない。

 

 

仲間たち、全員が持てる全てを擲ち、全力を尽くしてこそ、掴み取る事が出来ると思っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、唐突に、それは聞こえてきた。闇夜に沈むリーファウス平原に響き渡った。

 

軽やかな音、聞いたことが無い音が、音楽が鼓膜を震わせる。

間違いなく、それはスバルが齎した《ミーティア》から発せられている。

 

 

スバルと目が合い、スバル自身もミーティアを手に、それをクルシュに見せた。

鮮やかに光りを放ち、音を奏で続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「総員、警戒――!」

 

 

 

 

 

 

クルシュの掛け声と共に、討伐隊が一斉に身構えた。

 

 

あのミーティアの報せから数10秒で、白鯨が現れる。

 

 

信じがたい事ではあるが、今この瞬間にその巨体が空を泳ぎ始めても不思議ではない。

 

疑う余地は幾分かあるが、その疑いを生む理由はスバルに、ツカサに、……エミリア陣営には無い筈だ。

 

 

軈て、緊張感に身体が耐え切れない、と言わんばかりに汗を流す者も出始めた。

号令をかけられて、凡そ1分。―――10数秒、と言う大まかではあるが、その時は過ぎたと言っても良い。

 

 

 

「……来ない、か?」

 

 

 

スバルが、虚偽を働いたとは思っていないが、何等かのアクシデント、想定の誤りはあるだろう。

 

世に絶対と言う言葉は無い、とクルシュは思っているから。

周囲の景色には敵影は無い。

白鯨の巨体も見えない。……これだけ澄み渡った夜空の下であれば、見逃す筈もない。

 

 

その時だ。

 

 

月明りが、本日何度目になるか……と、雲に月明りが遮られた、かと思っていたその瞬間、1人の兵士が声を上げた。

 

 

 

「おい、アレ(・・)を見ろっ……!!」

 

 

 

 

僅かに震えるその声に呼応し、それぞれが上を見上げる。

月明りを遮っている物の正体を。

 

 

 

 

 

 

「――――――っっ」

 

 

 

 

 

 

見上げる、見上げる、見上げる。

 

 

全員が等しく同じ反応をし、……そしてクルシュは浅はかだったと、己の考えを呪う。

幾度も、月明りを遮った。何度も遮った。

 

それは雲霞が原因。数度、起こった事で、先入観を植え付けられていた。

 

 

 

――月明りを遮るのは雲霞ではなく……あまりにも巨大な魚影。

 

 

 

クルシュは息をのむ。

 

かの魔獣が現れた。

目算ではあるが、40m……いや、50はある程の巨大な魚影が、眼前へと迫る。

やかましくも、何処か陽気なミーティアの音に合わせて泳ぐ魔獣。ミーティアから流れる音が、まるで呪音の様に感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白鯨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かの魔獣には、暗がり故にか、まだ気づかれてないかもしれない。

先制を仕掛けるなら今しかない。

 

 

息を吸い、最初の号令を発しようと肺に、腹に空気を余す事なくため込み―――。

 

 

 

 

「総員―――!」

 

 

 

 

総攻撃、と口にしようとしたその時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶちかませぇぇぇぇ!!」

 

「アル・ヒューマ!!」

「纏え――「テンペスト!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルシュを飛び越えて、号令が発せられ、同時に魔法詠唱によるマナが展開された。

 

少女から発せられた凍てつく凄まじい巨大な氷柱。それに2人の影が、漆黒の風を纏わせる。

 

抑えきれない凄まじい暴風が、巨大な氷柱に纏わり、軈てその逆巻く風に抗う事が出来なくなったかの様に、回転を始めた。

 

 

それは徐々に速度を上げて―――軈て目にもとまらぬ程の回天を生む。

 

 

 

 

 

黒き竜巻を纏った氷柱は、超高速で射出され、宙を泳ぐ、かの巨体に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優雅に泳いでいた筈の白鯨が、途端に大絶叫を始めた。

 

 

突き刺さるだけで終わる訳はなく、氷柱が、回転を続け傷口を抉り続けている。

 

捩じり、抉り、深く深く、その巨躯の体内へと迫ろうとしている。

 

 

想像を絶する程の痛みである事は。見ていて明らかだ。

 

どうにか身体を捩らせ、歪ませ、藻掻き続ける。

 

 

 

 

――――効いている!?

 

 

 

 

 

あの攻撃が、間違いなくかの魔獣の腸の全てを抉り出さんと、苦しめ続けているのが解る。

耳を劈くような大絶叫がそれを物語っている。

 

 

そしてクルシュはスバルと目が合った。

大分離れている様だが、はっきりと目が合い、そして大きく腕を振り上げた。

 

 

会心の表情。

 

 

役割はこれからであり、更には先制攻撃まで行った。―――導いた。

 

 

それも、たった4人で。

 

 

その事実に、討伐隊にも動揺が走る。

白鯨の鼻先でひきつける、と言う話は聞いていたが、先制攻撃までは聞いていない。いわば抜け駆けの様な物。

第一刃を、今は無き魂に、魂の在り方まで解らぬ英霊に、全てを込めて一陣の刃を叩きつけよう、と心していた筈だったが……、こうもあっさりと先んじられ、そしてかの大魔獣を歪ませた。

 

クルシュは、それを見て自分の口が大きくゆがむ。堪えきれない。

戦場においては、思わしくない感情――――笑いによって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員!! あの馬鹿共に続け!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルシュの号令に、討伐隊の面々が反射的に攻撃を開始した。

地竜を蹴り、地をかけ、あの魔獣に刃を突き立てる為に。

 

 

粉塵が舞い上がり、未だ大絶叫が続く白鯨目掛けて。

 

 

 

 

 

 

 

―――白鯨攻略戦が、満を持してその火蓋を切ったのだった。

 

 

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