Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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白鯨戦②

《風除けの加護》

 

その効果にこの瞬間ほど感謝した事は無いだろう。

振動、風、体勢。本来ならば受ける筈の影響を一切遮断する魔法とはまた違う加護の力。

不思議な力。

 

地竜が大地を駆け、背に乗った状態で最大級の魔法を放つ事が出来たのは、一重に地竜たちの加護のお陰だ。

 

 

「……ありがと、ランバート!」

「フルルッ!!」

 

 

間違いなく先制の一撃。

事前に話し合っていた通りの魔法。スバルが《合体魔法!!》と誇らしげに拳を突き上げていたが、まさに型にはまった魔法だと言えるだろう。

 

実演してみせたのは、レムとラム、そしてツカサだが、アイディア賞はスバルのものだ。

 

この世界に来る以前、……前の世界での知識を役に立てた。

 

イメージしたのは、ライフル弾。

 

何故、貫通力が高いのか? その秘密は回転にある、と言う事を知っていたから。高速に回転する弾丸は、飛距離は勿論、対象物を貫く力をより高めてくれるのだ。

 

白鯨のデカさは、問題点の1つ。如何に表面を叩いたとしても致命傷までには至らないのは自明。ゆうに50mは超えそうな巨体だから、尚更だ。

 

その体内へと侵略する為に、編み出した氷柱(ライフル)弾である。

 

 

「良い感じなんじゃね!? スゲーぜ、やっぱ!!」

「流石スバル君です! でも、もっとしっかりしがみ付いてください。振り落とされない様に!」

「うぉっ!!?」

 

「調子に乗ると襤褸が出る典型がバルスよ。肝に銘じなさい。今はふざけてられる場合じゃないのだから」

「ふふ。――――俺達なら、なんだって出来る。……それに、心強い援軍が加われば、まさに世界最強、だな」

 

 

ツカサがチラリ、と背後を見てみると、まるで呼応するかの様に、高らかにクルシュの声が響いた。

 

 

 

「総員! あの馬鹿共に続け!!」

 

 

 

この信頼に満ちているチームが用いた初撃は、白鯨にダメージを与えただけでなく、良い具合に援軍たちの固さも解せた様だ。

 

 

 

「よっし! 白鯨にオレの存在を意識させて、討伐隊に背中を向けさせる様に立ち回る―――」

「余計な露払いは、オレが務めるよ。それにパトラッシュとランバートだったら、並走も問題なしだし」

 

 

 

 

パトラッシュ。

ランバート。

 

 

それは、夫々の地竜の名。

 

 

今作戦―――白鯨攻略戦において、生命線であり、命を預ける相手である地竜に名を付けよう! とこれまたスバルの提案でそれぞれに名を付けた。

 

数度、名を呼んでみると、スバルの案が大正解だった、とツカサも思う。

ただ、地竜――と呼ぶだけよりも、ずっとずっと良いと感じたからだ。

 

それは地竜側も同じなのだろう。名をつけ、名で呼ぶ前と後とでは、気合の入り方が違うのは、咆哮を聞けば解る事だから。

 

 

「ツカサ! そろそろ来るわ!」

「《夜払い》です! 皆さん、目を瞑ってください!!」

 

 

レムとラムの声に反応し、目を閉じる。

 

その直後―――目を閉じていた筈なのに、瞼に強烈な光があった。……まるで世界が瞬いたかの様に。

 

打ち上げられ、爆ぜた白光は、一瞬にして夜の世界を白い輝きをもって焼き尽くしたからだ。

 

 

「うおおおおおお!! 聞いてた通りだ! すげぇ!!」

「まさに、夜払い(・・・)、か」

 

 

リーファウス街道から夜の気配が完全に消えた。

太陽の代わりに、輝き続ける夜払いと呼ばれる魔石。

 

 

―――本来なら、うす闇を照らす程度のもの、だそうだが……。

 

 

 

 

「大奮発したって事だな! 財力に溶かして山程買い込んだんだから!!」

「改めて、資金力のすさまじさを見たよ、ほんと。…………さて、ここからだ」

 

 

 

 

宵闇を失った空に―――かの魔獣が溶け込む事はない。

くっきりと浮かび上がる巨体が、そこにはあった。

 

 

前回のループの時とは全く違う印象。初めて出会った訳じゃないのに、全く違うバケモノの様に見えてしまう。

 

 

「あれ―――が……」

 

 

白鯨の姿を、疑似太陽の下で、はっきり見たスバルは絶句した。

大きい大きいとは聞いているし、事前に見ても居る。……だが、宵闇の中での邂逅は、身体の全体を映していた訳では無かった。

 

真なる姿を解放してみせたかの様な、かの魔獣の大きさは、想像を遥かに凌駕してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、かの魔獣は漸くレムが放ち、ツカサとラムで弾速・貫通性を上げたアル・ヒューマからの苦しみから解放された。

痛みからの解放、そして夜空から引きずり出された事による激昂。……あらゆる怒りを込めて、白鯨が巨体を震わせて咆哮をする。

 

 

 

「テンペスト!!」

 

 

 

その咆哮は、騒音の域に留まらない。

最早風を使った兵器、若しくは魔法攻撃。―――魔獣が齎す破壊行為だ。

 

 

それを緩和する為に、前方にテンペストの竜巻を形成させた。 

 

 

全盛期の時は、この竜巻で白鯨を更に空の彼方に迄弾き飛ばしたらしい―――が。

 

 

 

「うっっ、おっっ!??」

 

 

 

咆哮による攻撃、衝撃波を、跳ね返して白鯨を弾き飛ばす――――事は出来ず、その衝撃はを左右に割り、直撃を防ぐだけに留まった。

 

味方全体も受ける事なく、その代わり左右の大地が削れ、凄まじい砂塵が巻き起こる。

 

 

 

「―――んなろっ! やっぱ火力は落ちてるか。後ろの皆に、ガッカリさせちゃったかも。……でも、ラムのせいじゃないから、その辺りは宜しく」

「解っているわ。全部バルスが悪いもの」

「オレかよっっ!! そーだよっっ!! ごめんなさい!!」

「この戦い、後の魔女教で挽回してくれればそれでよし!」

 

 

 

謙遜をしたがツカサの機転は、地竜たちをも救ったのである。

大気が鳴動し、大地が震えるかの咆哮は、戦闘用に訓練された地竜すら本能的に怯える。暴悪的な雄叫びなのだ。

 

 

そして、スバルは白鯨を視認し、目を凝らせながら確認。

 

 

「なんてデカさ……、ってか それよりどてっぱらに風穴開けたった! って気分だったんだが、そんな様子はなし、か」

 

 

アル・ヒューマは、白鯨の身体を抉ったが、貫き通す事は無かった様だ。

大量の出血は見られるが、白鯨の動きに支障は一切きたしてない。寧ろ、怒りに震えている程なので、早まった真似をしてしまったか? とも思えてしまう。

 

 

そして、あの山の様なバケモノ、何で空を飛んでいるのか、どんな揚力が働いて宙に浮いているのか解らないバケモノをマジマジと見つめる。

 

隣には兄弟が。前にはレムが。……ラムの毒舌も今ではこれ以上ない程安心出来る。

 

持ってる最大のカードは最強。……そう、解っている筈なのに、身体の芯が震える。

シロナガスクジラ、と言う種が哺乳類最長のデカさだったとスバルは記憶しているが、やはり……以前の夜の中でも、今日のはっきり見えた場面でも、どう見繕っても、どう贔屓目に見ても、遥かに上回っている。50mとは、途方もない大きさの様だ。

 

 

「怖いですか? スバルくん」

「……チビったのかしら? バルス。あの時(・・・)の様に」

「パトラッシュには、後でちゃんと謝る事。許してもらえたかは、オットーに聞かないと、だね」

 

 

「漏らしてねーーよ!! ……ただ、怖いってのはその通りだ。―――アレを落として、称讃されるオレ達の未来の輝きっぷりが!!」

 

 

 

未来を視ている。

未来を見据えている。

 

辿り着きたい未来。……そこしか見えていない。

 

それはツカサも同じだ。

 

 

 

「さぁ、オレの命、お前らに預けた!! あのバケモノ惹きつけるのは任せろ!! んで、頼んだ!! 逃げ回るぞ!」

「レムの命も、スバルくんのものです」

「死んだら、死ぬまで殺す。これだけは頭に入れておく事ね、バルス」

「―――死なせないよ。絶対に」

 

 

パトラッシュ、ランバート共に、本能で白鯨を恐れているのは間違いないが、それでも怖気ずく事なく、主に応える様に地を蹴った。

 

 

スバルの魔女の残り香による囮作戦。

 

 

かの魔獣に、ウルガルムやギルティラウに使った手が通用するかどうか、それは現時点では予習は出来ていない。

正確な出現時間と場所、それを重視して、戻ったからだ。……リスクを犯し、戦力を更に下げるかもしれない場面では無かったから。

 

 

だが、不思議と成功するだろう事は疑ってなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鯨がスバルの匂いを、遥か上空からでも嗅ぎ付ける。………見ていなくても、戻っていなくても、未来がはっきりと見えた気がしたから。

 

 

大きな口を開き、石うすの様な歯を剥き出しに、スバルとツカサの方へと旋回して迫る。

 

 

目立つ、目立たない、を考えれば 明らかに出遅れた討伐隊の方が圧倒的に目立っている筈だが、目もくれず、ただただスバルを追いかける。―――白鯨は、……魔獣の本能は、魔女の残り香を求めている様だ。

 

 

 

その時。

 

 

 

「余所見とはずいぶんと、安く見られたものだな―――!!」

 

 

 

勇ましい女傑の声がしたと同時に、白鯨の頭部は真一文字に浅く斬り裂かれた。血が噴き出し、思わず方向転換をしてしまう程の衝撃。

 

その切傷は、凡そ人の刃でつけれる様な大きさじゃない筈、と思える程のもの。

 

 

 

「射程を無視した無形の剣」

「百人一太刀で有名なクルシュ様の剣」

 

 

「成る程。……戦乙女と呼ばれる所以が解る、って感じ。凄いね」

「スゲェェ、完全な遠距離攻撃じゃねーか! 接近する必要無し、遠間で切り刻むとか、ヤベェ! おまけに魔大砲までガンガン撃ってくれてる!」

 

 

クルシュの剣撃で白鯨の身体を歪ませ、高度を落とさせ、続いてその腹部を集中的に攻撃する。

 

 

「―――負けてられない、な」

 

 

 

求めた訳でも、狙った訳でもない。

 

だが、結果的に白鯨を撃退した英雄とまで言われて称讃された身だ。

身に余る勲章まで頂いた。……それに見合うだけの仕事をしなければ、気が納まらない。

 

 

 

それに、早ければ早い方が良いのだ。――――白鯨の討伐は、事の次いで、と言っても良いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如何に魔女の残り香に誘われ、本能的な部分を引っ掻き回されたとはいえ、横からくる強烈な攻撃を無視できる程鈍感でも、固い身体でもない様だ。

 

剣撃を嫌い、魔石砲を睨み、追撃をしようと頭をクルシュたちの方に向けたのを見計らい。

 

 

 

 

 

 

「メテオラ!」

 

 

 

 

 

 

 

ツカサは、左手と右手の魔法を合わせ、あの時――――魔女教の拠点であろう地点を吹き飛ばした地の魔法と火の魔法を合わせた隕石攻撃(スバル命名)を撃ち放った。

 

 

 

 

まるで火山噴火の様に、打ち上げられた無数の弾は、正確に、高速で、白鯨の横っ面に直撃して炎上した。

 

 

 

 

だが、以前と明確に違う点がある―――。

 

 

 

「うはははは!! メテオって、空から降ってくるんじゃねーの!? 隕石が空に打ち上っちゃったよ!」

 

 

 

大火球で滅多打ち。

当たれば歪み、当たれば歪み、を繰り返してまるで下から殴られているかの様に見える。

 

その光景を見たスバルは、最初はロマン魔法、隕石魔法だ、と目を爛々とさせていたけれど、今は白目向いて驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

 

「連続はキツイ、でも もう、一撃くらいは………ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

また、メテオラの準備をしようとしたその時だ。

 

左右に散開していた筈のクルシュの部隊。白鯨の正面に1頭の地竜が居る事に気付けた。

 

駆け抜け、寸前で地竜から飛び降り―――地に足を付けて、かの魔獣を正面で捕える。

 

 

 

「―――14年」

 

 

 

割った鼻先に剣を突き立てて、ボソリと呟く人影。

 

まるで大気が歪んで見えるかの様な剣気をその刀身に迸らせながら続ける。

 

 

 

 

 

 

「ただひたすらに、この日を夢見てきた」

 

 

 

 

 

剣の届く距離に、かの魔獣は居る。

地を蹴れば、飛び乗れる場所にまで降ちてきた事に、深く、深く感謝を覚える。

 

 

 

 

 

「―――ここで落ち、屍を晒せ」

 

 

 

 

 

 

攻撃を受けながらも、白鯨は突進する。

魔女の残り香でもなく、クルシュの剣でもなく、ツカサの魔法でもない。

 

剣鬼が発する剣気に充てられて―――暴走する様に突進してくる。

 

 

 

 

それを見据えて、禍々しい笑みを浮かべながら―――ヴィルヘルムは吼えた。

 

 

 

「化け物風情が―――!! うおおおおおおお!!!」

 

 

 

ヴィルヘルム自身が風となったかの様だ。

如何に強大で巨大な体躯を突進させようと、風を捕らえる事は不可能。

 

ヴィルヘルムは、考えられない様な運動量にて、白鯨の背に飛び乗った。

 

 

魔法攻撃での出血量から考えると、その固さは容易に想像が出来る。

想像が出来る筈の、その白鯨の強靭な筈の外皮を難なく斬り、突き立てる。

 

 

白鯨は、飛び乗られた事を悟ったのか、振り落とさんと再び空で側転するが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇぇぇぇぇぇぇっっ!!! わざわざ斬られにくるとは、協力的で結構!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

側転する勢いを利用する。

不安定な足場を捨てるかの様に宙を飛び、白鯨の側転に合わせて刃を入れる。

 

剣を動かせば、その都度どす黒い血で空を彩る。

まさしく剣鬼。

 

そして、それに圧される事無く、果敢に挑む、……引けを取らず、否、剣鬼にも負けていないのが鉄の牙。

 

 

「余所見すんなや、ダボがぁ!! おどれの相手はワイらもおんねや!!」

 

 

ライガの瞬足と跳躍を活かして、大鉈を一振り。

白鯨の顎を斬り裂く……ではなく、抉ってみせた。

 

 

「そらそらそらぁぁあ、まだまだ終わらんでぇぇ!!」

 

 

鉄の牙団長リカード。

 

独断専行してしまう、とボヤかれているが、それを黙認出来る程の技量と力を備えているのである。白鯨の身体を駆け回り、獣より獣染みた雄叫びを上げた。

 

 

「いっくぞぉぉーーー!!」

「皆っ! 今だよ!!」

 

 

そして、その団長を見て、他の団員が……、副団長が黙っていられる訳もない。

小型のライガ―に跨る双子の副団長が散開し、後続の傭兵団に指示。

 

 

幾重の魔法攻撃、剣鬼の攻撃、それらに加えて、隙を見せた横原に剣や槍を用いて波状攻撃を仕掛けた。

 

 

止まる事の無い連撃に白鯨は絶叫を上げる。

白鯨はその巨体は確かに脅威ではある―――が、その逆、小回りが利かないと言う弱点もあるのだ。

 

更にそこへ。

 

 

「総員、離れろ!!」

 

 

戦場を貫くクルシュの号令。鉄の牙たちはいっせいに白鯨の身体から飛びのいた。

 

解放され、反撃に転じようと大きく旋回した所へ。

 

 

「横腹を晒した!! 今だ!!」

 

 

クルシュの射程を無視した剣技が、白鯨の身体を裂く。

そして、その号令の元、詠唱をし続け最大級に溜めに溜めた魔法隊の攻撃が開始された。

 

 

 

《アル・ゴーア!!》

 

 

 

複数の人員の詠唱が重なり、生み出された赤熱の極光。

 

 

まるで第二の太陽だ。

隕石攻撃を始めとした、驚きの攻撃を幾つも目の当たりにしてきているから、大概の事は驚かないつもりだったが、すごいものはすごい。

 

 

第二の太陽の爆裂は、白鯨の50mもの身体を呑みこむ。

炎上する身体を見て、その圧倒的な戦果を見て、討伐隊が歓声……勝鬨の様なものを上げてしまうのは無理もない事だ。

 

 

まさに一方的。

 

 

これまでは白鯨の神出鬼没な出現により、良い様に蹂躙され続けたと言うのに、400年分の想いを全て乗せて、逆にやり返した形となった。

 

 

―――このまま、三大魔獣の一翼を堕とす事が出来る。

 

 

そう思える程の光景だ。

 

 

 

「かなり効いた感じがするぜ! このまま落とせるんじゃねーか!?」

 

 

炎の余波が届かない位置、熱風はラムやツカサの風の魔法で遮って貰ったので、ほぼ無傷。スバルは歓声を上げた。

 

正直、楽勝ムードとさえ思えてしまう。事前の策が全て嵌り、まだまだ余力を残し、切り札だってあるのに、出さずに勝利を目前。高揚感が湧いて出ると言うものだ。

 

 

 

「―――いや。まだみたいだよ。………何せ アレだけやっても、アイツの高度は落ちてない。……落ちる様子もない」

 

 

 

そんな楽観的なスバルの意見に首を振ったのはツカサだ。

極大魔法を当てた。剣鬼と戦乙女の剣撃で彩った。

 

 

何処にどんな力が働いているのかは不明だが、消耗したのなら、浮遊する力、宙を浮く力も失っても良い筈だが、落ちる気配が全くない。

 

 

 

「……出来る事なら、今の奇襲で地に落としてしまいたかったですが」

 

 

レムも悔し気に魔獣を睨みつける。

 

 

 

「巨大故に、的が大きい。……って侮ってたわ。ツカサが言っていた様に、自己再生能力も高いと言う事ね」

 

 

 

ツカサと初めての邂逅の時。白鯨の一部を抉りとり、王都へと持ち帰った実績があった。

それにオットーの証言もある。

 

白鯨の多数の翼の一部を、損失させた筈なのに、今目の前に居る白鯨の身体は新品も同然だ。

つまり、ダメージは快復する事が出来る。

 

 

「ダメージ数と回復力が釣り合っちまってるかも、って事かよ、それ」

「……可能性は、ある。無限に回復出来るとは思わないし、思えないけど……ね」

 

 

 

10のダメージを与えたとして、直ぐに8程回復されたとなれば結局与えたダメージは2だ。

 

しかも、その力の持続性が解らない以上は、待てば待つ程、回復時間を与えてしまうかも知れない。回復されても、攻撃を続ければ……と思うが。

火力100%で永遠に攻撃出来る様な、機械染みた人間はこの場には居ない。マナを消費すれば消費しただけ消耗する。

 

 

鬼族であり、角から周囲のマナを吸収する事が出来るレムでさえ、同じ事なのだ。

 

 

 

「初っ端にキレる手札は、ぜぇんぶ切ったった。それでも落ちんちゅーことは、向こうのタフさが一枚上手や言う事やな」

 

 

リカードが帰ってきた。

 

 

「一当たりした感じやと、分厚い肌の下に攻撃すんは楽やないな。ワイの得物みたいに力ずくか、ヴィルさんぐらいの技量がないと、接近戦じゃジリ貧やぞ」

「それだけじゃないわ。……あの白い体毛。恐らくマナを散らす役割を果たしてる。威力を殺してるとみて間違いない」

「……ッ。はい。レムの魔法も見た目程効いてない様です」

「オレの魔法も同じだろう。……他とは違う魔法だけど、マナを使うって言う意味じゃどっちも同じ、って事か」

 

 

マナを散らす。

そう言う性質があるのであれば、魔法の燃料にマナを使う以上、白鯨とは相性が悪い。単純に火力不足、と言う面もある。

 

 

「いや、そう悲観する必要もあらへん。魔力散らす毛ぇ焼いて、その下の炙った鯨肉なら料理出来るんやからな。火の魔法は有効や」

「――――火、火か。……高度。………なら」

 

 

ツカサは、リカードの言葉を聞いて、次なる手を考えた。

白鯨はとてつもなくタフでデカい。……だが、衝撃に耐えている様には見えない。

クルシュの攻撃にもツカサの攻撃にも、衝撃だけの影響はその身体に現れている。

 

一定方向に継続して、力を与え続ける事が出来れば―――。

 

 

「レム、スバル。クルシュさんの所に。ちょっと強引だけど、あの白鯨を下に落とせるか、やってみる」

「はぁっ!? 無茶言うなよ、ツカサ!! あんだけの攻撃で落ちなかったんだぜ!? 自爆攻撃、みたいな事すんなら断固反対だぞ!」

「そんな事しないよ。堕とす、じゃなくて、落とすんだ。……魔法が切れたら、また空に跳び上がろうとするさ。……その隙を、一気に攻撃してもらう。高度が下がれば、もっと効率よく攻撃出来る。―――やってみる価値はある」

 

 

炎が晴れて、白鯨の頭が、角が顕わになってきた。

 

 

―――悠長に時間をかけてられる場合じゃなくなってきている。

 

 

 

「ラム、手綱を頼める?」

「任せなさい。……一緒に抗うと決めたあの日から、ラムの心はツカサと一緒よ。何処まででも」

 

 

ツカサの手を取り、そしてランバートの手綱を握り締めた。

 

 

「リカードは、落としたタイミング、ぶっ飛ばされない様なら、落ちたタイミングで同じく白鯨の余力を削って欲しい!」

「何すんのか知らんが、見せて貰おうやないかい。英雄様の一撃、ってヤツをのぉ!! お嬢に良い土産話ができるわ!」

「んっ! 落とせなかったら、恥かくね、それ!! でもやるだけやる! レム、スバル! 頼んだ!!」

 

やる気満々、それでいて成功させる気も満々。………加えて無茶する気も満々、と言った所だ。

色々と止めたい、皆で頑張る、と言いたい、言い聞かせたい所だが、皆で頑張った結果堕とす事が出来なかったのだ。

 

それを見て、落とせるかもしれない、と言うのなら――――これ以上、感情に任せて止めて、白鯨に回復の時間を与え続けるのも本末転倒と言うものだ。

 

「っ、っ、おう! ぜってーー無茶すんなよ!! オレばっか死ぬな死ぬな言われてっけど、お前だって同じだからな、兄弟!!」

「姉様、ツカサ君! ご武運を! 直ぐに、直ぐに戻ります!」

 

 

 

 

その後、ラムとツカサは座位置を交代。

ラムが前に、そしてツカサが後で白鯨に備える。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第二の太陽は完全消失―――白鯨の巨大な目がギョロリ、と動いたのだった。

 

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