Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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白鯨戦④

 

暴れまわる4人。

同じく暴れまわる白鯨。

 

 

お陰で、遠距離の攻撃以外の手が出せなくなってしまっている。

 

 

「圧巻、とはこの事か。参戦したい気分ではあるが……」

 

 

クルシュも遠目に見ていて、あの4人の中に飛び込みたい衝動に苛まれる。

だが、前線に立つのと同時に、討伐隊の指揮をとらなければならない立ち位置でもあるが故に、遊撃の様な真似は出来ないのだ。

 

 

出来る事と言えば、隙を見て あの4人に当たらず影響も及ぼさず、白鯨にダメージを与える百人一太刀を浴びせるだけだ。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

数合目になろう風の刃を白鯨に当て、鮮血が宙に舞う。

 

ひょっしてこのまま、何事も無く白鯨を討伐出来れば、と思うが―――、どうにも嫌な予感がする。気持ち悪い悪寒が拭えない。

 

 

「―――400年も世界を食い荒らしてきた魔獣だ。そう簡単には終わらない、と言う事か」

 

 

嫌な予感を吹き飛ばす様に剣を振るい、そしてクルシュは暴れる白鯨に睨みをきかせ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鯨の背の上では、白鯨にとってはまさに惨劇とも言える展開が繰り広げられ続けていた。

流れる血は、白鯨の《白》の字を《赤》に変えんかの如く吹き、出血多量につき絶命してもおかしくないだけの血を流し続けていた。

 

 

「攻め疲れ、っちゅーのは随分久しぶりやで……。こんだけやっても、堪えんとかどんだけ頑丈な身体やねん」

 

 

ザクッ!! とリカードは大鉈を突きさして一息。

 

ヴィルヘルムはその間も縦横無尽に動き回りながら、鮮血に染め上げていく。

彼が幾度も白鯨の背で切り続ける事が出来ているのは、理由がある。

 

そう、宙に居るツカサの存在だ。

 

白鯨の背から振り落とされたとしても、あの風の魔法を用いて戻している。

ヴィルヘルムは一度体感すると、二度目からは、その風の反動をも利用して攻勢に打って出ているのだ。

 

 

「ちと、疲れたから食休め、や。お前さんも相当消耗しとんのとちゃうか? ペース配分考えんと、後々しんどいんとちゃうか?」

「こっちは大丈夫。ヴィルヘルムさんの動きに合わせて、風を調整するのに神経使うけど、そのくらいでまだまだイケる。―――リカードは知ってると思うけど、オレ達の本命はこの後なんでね」

「ははっ、やっぱヤバイなぁ兄ちゃん! お嬢が夢中になる理由が解るってもんや。全部終わったら、ワイら傭兵部隊んトコこんか? 高待遇で迎えんで?」

「はははっ! それは光栄。でも、オレが居るべき所はもう決まってるんだ。ゴメンね」

 

 

ラムが戻ってくる。

肩で息をしているのが解るから、直ぐに抱き寄せて、クルル経由でマナを移譲。

 

 

「見ての通り。―――俺の両手はもう塞がってるんだ」

「熱いなぁ兄ちゃん! そっちの嬢ちゃんも、ほんま ええ男捕まえたな!」

「……当然です。ラムのツカサだもの」

 

 

マナの移譲が無ければ、倒れていたのでは? と思う程だ。

 

それなりに行った。一度引くべきかどうかを、ラムの様子を見て決めたツカサ。

 

 

「そろそろ、第二陣の装填も出来てると思うし、一度白鯨の背から降りる?」

「ヴィルさん次第やな。―――まぁ、あん人も解っとると思うが」

 

 

リカードはチラリとヴィルヘルムを見た。

吼えながら『降りる前に、眼を頂く』と言い、眼球を抉り取っている。

 

 

人間よりも遥かに巨大な眼球は、ヴィルヘルムの剣撃により、切り開かれ……。

 

 

 

「目が落ちるぞ!!!」

 

 

 

どこからともなく聞こえてくる大喝采と共に、自然落下した。

 

 

そしてツカサは 討伐隊の砲撃部隊の方を見た。

次弾装填出来た合図はしっかり打ち合わせ出来ている。その兆候を逃さず確認すると。

 

 

「2人とも、一旦降りるよ」

 

 

リカードとライガ―、そしてラムを包み込む様に旋風を起こし、そのまま白鯨の背から地へ。

 

 

一足先に降りていたヴィルヘルムは、先ほど抉り取った眼球を完全に破壊して白鯨に見せつける様に持ち上げて、口の端を上げ、凄惨な笑みで勝ち誇る。

 

 

「―――無様」

 

 

剣鬼のこの姿もそうだが、それ以上にあの白鯨の背の上戦い続けた3人に惜しみない称讃の嵐を送る。

 

 

 

―――如何に白鯨と言えども、成す術もない。

 

 

 

そう思える程の戦果を齎した4人組だったからだ。

 

それ程までの戦闘力、そして強敵。

白鯨は自分自身が危険である、と言う事を切り刻まれ続けて漸く遅まきながら認識したのかもしれない。

 

 

 

「白鯨の目の色が……変わったぞ!!」

 

 

 

誰かが、叫んだ。

抉り取った眼ではなく、残った方の眼球。

 

黄色と黒で構成された眼球が、遠目から見ても解る程、鮮血の色をし出した。

 

 

 

「む!!」

「なんだ……!?」

 

 

 

ヴィルヘルムが、そしてツカサが身構えた。

リカードはもう既に一時鉄の牙の元へと戻っていっているから反応が遅れたのかもしれない。

明らかに変わる雰囲気。

見上げ、あの傷を背負っても尚、宙を泳ぎ続ける白鯨の様子が一変する。

 

 

 

 

――――ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

咆哮を上げ、隻眼となった怒れる魔獣は、大気、大地を揺らす咆哮を上げ続けた。

4人が下りた事で、我先に、と白鯨に刃を向けようとした者たちが、一目散に退避を意識させる程の変貌。

 

 

そして何より―――生理的な嫌悪感が堪えきれない。

 

 

 

「おい、レム……あれって……」

「……はい。白鯨の無数の()が開いています」

 

 

無数の口とは? 間違えてないか? と思いたくなるが、眼前の光景を見て言葉にしようと思えばそう称する以外ないのだ。

 

普通口は1つだ。

白鯨の口も―――戦いの最中、何度も何度もあの巨大な大地をも呑みこみ兼ねない大きさの口を開けて迫ってくる姿は見続けているので、白鯨だって口は1つだ。

 

 

だけど……確かに開いたのだ。無数の口が。

 

 

もう1つ……言い方を変えるとするなら、こうだろうか。白鯨の全身にあった口に似た窪みが、無数の窪みが一斉に口開く様に開き―――そして咆哮を上げ続けているのだ。

 

 

 

金切り声の様な響き、それはあの無数の口から発せられている様に思える。

不協和音は、聴覚を刺激し、脳に迄達する。

 

この場の全員が武器を収めて、耳を塞ぐ事に集中してしまった。

 

 

 

 

 

 

そして―――この場に居た全員は思い出す事になる。

 

 

 

優勢に攻撃を続けていて、何もさせず圧勝だと思い始めていた頭の中で、思い出す事になる。

かの白鯨は、なんと呼ばれていたかを。

 

 

そう、かの存在は三大魔獣の一角にして―――。

 

 

 

 

 

 

―――ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

《霧の魔獣》

 

咆哮と共に身体の無数の口から《霧》を撒き散らされた。

街道の広範囲にわたり、全てを包み込むかの如く撒き散らされる霧。

 

空から降り積もり、直ぐ前方の視界さえも覚束なくなる程の勢い。夜払いの効果までも呑みこんでゆく。

 

 

 

 

 

「霧―――」

 

 

 

 

白鯨の呼び名、代名詞である《霧》。

 

それを認識した時には既に世界(・・)は霧で包まれていた。

 

視界は遮られたが、声だけははっきりと聞こえてくる。

それも只ならぬ様子の声。

 

 

 

「総員、退避――――――っっ!!」

 

 

 

離れた位置で指揮を執っていたクルシュの声が平原に響く。

それと同時に、各小隊長であろう声も同じく場に響く。

 

悲鳴も―――。

 

 

 

「くっっ―――――デュアル……テンペストッッ!!」

 

 

 

白鯨の変貌に、一歩出遅れてしまった。

 

ツカサは少々『溜め』が少ないが、それでもそのタイミングで出来うる最善・最短の二重のテンペストを放った。

 

 

霧が爆発したかの様に霧散し、四方八方に掻き消える。

 

 

ある程度の中空で放った為、地を掛ける討伐隊への影響は最小限度で済むだろう。

 

 

「くそっ……!! 無事で、無事でいてくれよ……! ラム! ヴィルヘルムさん!」

「解ってるわ」

「承知!」

 

 

ツカサとラムは、ランバートの背に乗り、ヴィルヘルムも同じく赤い地竜の背に乗って、霧の晴れた方角へと駆ける。

 

 

 

 

完全な総力戦、火力戦になると想定していたが故に、白鯨戦では《揶揄者(ザ・フール)》とは相性が悪いと思い、使用せず、攻撃魔法に集中していた。

 

つまり、安易に戻る事は出来ない。

 

最悪の事態となれば、あの数日前。スバルの死に戻りの場面に戻る事は出来るが、それは自身の相当の戦力ダウンを意味する。白鯨だけでなく、魔女教の事も考えると―――戻る事は難しいと言わざるを得ない。

 

 

「(皆無事でありたい。……でも、全員生存は現実的じゃない、のか。……切れる手札(カード)はある。……でも、1回限りの最終手段。使いどころを見誤ったら、自分の首を絞める……っ)」

 

 

頭の中を横切るのは、あのパックと相対した時の事だが……。

 

 

「ツカサ」

「!」

 

 

背に居るラムから、回された腕の力が増したのと同時に声が聞こえてきた。

 

 

「全部背負う必要は無いのよ。ラムがついてる」

「ん……ありがとう」

 

 

 

 

 

開けた視界、目に飛び込む大地の惨状。

それを目にした瞬間から、甘く欲深く、傲慢とも言える考えは霧散した。

 

 

全てを救う? 

そんな事が出来ると自惚れているのか?

 

 

 

そう思わされた。

 

 

平原の地面は、至る所で抉られている。巨大な穴があり、抉られ、大地を形を変えられ、何度も見てきたリーファウス平原の姿はそこには無かった。

 

白鯨の物理的な攻撃で、ここまで大地を削ったのか? と一瞬思えたが、どうにもあの巨体とこの大地の損傷の傷跡が合わない。

 

 

「これが、霧。……視界を遮る程度の水分じゃない。本当の意味での霧」

 

 

霧の魔獣と呼ばれる所以。

その霧の性質が大きく分けられて2種類ある事は事前ブリーフィングで聞かされているし、現に自分自身も今まさに見ている。

 

 

1つは、視界を遮る霧。

偏に視界を遮り、と言うが、その規模が半端じゃないのだ。街道をも覆いつくす霧。自らの巨体も完全に隠す事が出来、領域を拡大する為の霧だ。

 

ツカサのテンペストである程度吹き飛ばす事が出来ている事から解るように、決して防ぐ事が出来ない類の代物ではないが、無限に思う程撒き散らしてくるが故に、消耗戦になってしまえば、分が悪くなる。

 

そしてもう1つ。

これがもっとも厄介な霧。

目の前に広がっている光景を、大地の亡骸を生み出した霧。

 

触れた部分を消滅させる霧。これまでに一切見せなかったのは纏わりついていては放てないのか、或いは本気を出すに至らない、と浅はかだったのか、だ。

 

触れた部分から消滅するその霧の破壊力、恐ろしさは一目瞭然。

そして、何より―――。

 

 

 

 

「―――助かった。すまない、ツカサ」

 

 

 

集団に合流を果たしたツカサを迎えたクルシュは開口一番感謝の意を伝える。

 

 

「もう少し、遅れていればもっと犠牲が出ていた……っ」

「何人、やられてしまったんですか?」

「合わせて11名だ。……文字通り消滅させられてしまった。倒れた者たちの名誉すら、最早守る事は叶わない」

「……すまないッ」

 

 

ツカサの直ぐ後ろに居るヴィルヘルムも唇を噛みしめる。

自身が先導し続けた呼びかけ続けたが故に、彼らは消滅してしまったからだ。

 

だが、自らの意思で、戦の場にたった以上覚悟は出来ている筈だ。それを軽んじる事はあってはならない、とも思うのだが、それでも……、《存在の記憶ごと、消滅させられてしまう》のだけは、どうしても我慢ならない。

 

悲しむ事も、怒る事も、……侮辱する事すらも、正確に出来ないのだから。

 

 

 

「ッ、スバル!! レムッッ!!」

「おう!! こっちは大丈夫だ!!」

「大丈夫です、ツカサ君!」

 

 

ツカサは一瞬危惧する。

スバルが死ねば、自分自身も元に戻るのは間違いない。

 

だが、白鯨の霧に《消された》場合がどうなってしまうのか皆目見当もつかない。

 

スバルの中に居る、あのナニカが 想像の通り―――かの魔女(・・・・)であるのなら、その配下とも言って良い白鯨、暴食に消されるとは考えにくい事ではあるが、それでも検証できないし、しようとも思わない。

 

 

だから、最悪―――消滅してしまった? と思ったのだが、その心配は杞憂に終わった様だ。

 

 

ラムが直ぐに駆け寄り、レムもラムの身体を気遣う。……本当に無事でよかった。今は(・・)、だが。

 

 

「……兄弟は、覚えているか(・・・・・・)?」

「―――ああ、勿論だ(・・・)

 

 

スバルの問いに間髪入れずにツカサは答える。

傍から見たら、意味の解らない内容かもしれない。

 

 

そう―――消滅し、この世界から存在の記憶事消された人達の事を、だ。

 

 

 

「………なんて事ない。オレは この世界の一部(・・・・・・・)じゃない、って事が正確に分かったよ。予想通りとはいえ、少々複雑かな」

「それをいや、オレだってそうさ兄弟。………だが、オレらだけ覚えてるから、って割り切れねぇよ。こんな完全に忘れられちまうなんて……ッ」

 

 

聞いていた通りとはいえ、あまりにもむごい事だ。

愛する人が、共に過ごしてきた仲間が、親友が、かけがえのない主が。

 

誰であろうと等しく、あの霧に消されたら覚える事は叶わないのだから。

 

 

 

「厄介な霧が出てきてしもうたな。兄ちゃんの風で全部ぶっ飛ばしたり出来んか?」

「……白鯨を落とす事は出来ても、こうも広範囲に散らばった霧を全部、って言うのは無理だったよ」

「……そらそうやろな。出来とったら直ぐヤル。それが兄ちゃんや。ヘンに安心してもうたな」

「リカードの方の鉄の牙は、皆大丈夫?」

「おうよ。しっかり数は抑えとる(・・・・・・・・・・)。忘れとるだけ、って事も無い」

 

 

一先ず鉄の牙は大丈夫な様子だ。少々離れた位置に居る様だが、あの賑やかなミミの声も聞こえてくる。

 

 

 

 

 

「―――聞けッッ!!」

 

 

 

そんな時だ。

士気が危険水域にまで達しかねない、と判断したクルシュから怒号の様な声が響く。

 

 

 

「ツカサのお陰で、一時霧を除去する事が出来たとはいえ、依然周囲は包まれている。……彼奴が霧を再び攻勢にでれば直ぐにでも再びこの場も包まれるだろう。その霧に隠れ、潜られた今、どこから襲ってくるかも解らない。密集していれば、下策もいい所だ。だから、まず―――」

 

 

 

討伐隊の顔ぶれを見渡し、クルシュは手短に説明をしていたその時だ。

 

 

 

 

 

 

―――ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

再び、金切り音と共に、拡散型の霧が迫ってくる。

ツカサが吹き飛ばした部分を、簡単に追加補充してくる霧。

 

視界攪乱は十八番、と言わんばかりの《霧の魔獣》本領発揮。

 

 

 

「デカい図体して、まともじゃ勝てないから、狡い真似しようとしてるのか……!? それに、同じ手を二度も、とは。―――舐めるなよ」

 

 

 

今度は先ほどの風の魔法とは違う。

入念に、しっかりと練りに練って竜巻(テンペスト)を生み出す。

 

ラムも、そのツカサの手に自身の手を添えて、更なる威力を生み出そうとマナを練る。

 

 

 

そんな時だった。

 

かの霧の魔獣は、単に同じ手を二度使った訳ではない。

 

 

 

 

あの霧を発生させる合図でもある金切り音とはまた違う音。

何か―――目に見えない何か(・・)が、討伐隊全体を覆ってきた。

 

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