Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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白鯨戦⑤

 

 

 

白鯨の次なる手。

 

 

 

「―――――ッッ!!」

 

 

ツカサやラムの風の魔法の活躍もあり、それなりに霧が薄れたリーファウス街道に軋るような嬌声が響き渡った。

 

 

「うぉあっっ、なんだなんだなんだなんなんだ!?」

 

 

生理的嫌悪感、とでも言うべきだろうか。こみ上げてくる嫌悪感。

これまでのどの攻撃手段とも違う別次元のおぞましさは、この霧を介して伝わってきている様で、平原中に響き、舐め回していた。

 

 

 

「ッッ……、耳障り、の次元じゃないな」

「ぁ――――ッ」

「ラム?」

 

 

 

ツカサの直ぐ後ろに居たラムが。

マナの移譲を施していた時に伝わっていたラムが明らかに変わったのをツカサは手で感じ取る。

 

白鯨を牽制する為に、周囲を見ていたツカサだったが、視線をラムへと移した。

 

ラムは目を瞑り、眉間に皺をよせ、どうにか堪えようと踏みとどまっている様に見える。

 

 

「ラム!? ラムっ!!?」

「だ、だいじょうぶ……よ」

 

 

毅然と振舞おうとしているが、その表情を見ればただ事じゃない。ラムをよく知っている……と言うより、例え知らなかったとしても、解るレベルで表情が変わっている。

ツカサは思わず抱き寄せようとしたその時だ。

 

 

「あァァァァァアアアアアァァァァァッッッ!!」

「あう、あぐ、あぐ、ふぐっっっぁぁぁぁあああ!!」

「あァあァあァあァあァ――――っ!!?」

 

 

至る所から、悲鳴? いや、奇声を発せられたのは。

地竜に跨ろうとしていた者は、奇声を発しながら地に落ちて、転がり回っている。

或いは、頭を大地に打ち付けて、喚き散らしている。

 

そして―――誰もが共通するのは、その表情。目を見開き、狂ったかの様に呻き続けている。

 

 

「お、おい、お前らどうしたんだよっっ!? レムっっ!?」

「ッ……、さっきの、で。《霧》が精神に直接………、マナ酔いに似てますけど、ヒドイ……ッッ!」

 

 

スバルと一緒にいるレムも、ラムの様に声は押し殺しながらも、苦し気な声で答えていた。

 

 

「マナ酔いっ!? やっぱ、ただの霧じゃなかったって事か!? くっそ、霧に耐性がある奴と無い奴がいるのかよ……、ツカサやヴィルヘルムさんが大丈夫そうなのはせめてもの救いっていや、そうだが………」

 

 

ツカサを見て、問題なさそうなのは間違いないが、ラムはそうはいかない様だ。

レムの様に鬼化できないと言う点も考慮すると、体内、オドにまで浸蝕してきた霧に抗う術を持ち合わせているのだろうか、不明であり、心配な点だ。

 

だが、ツカサが傍にいる。

 

ツカサならば、絶対にラムを救う。

そこだけはスバルの中ではある意味譲れない信頼だ。

 

だから、今自分が出来る事は……。

 

 

「っ、まずは、お前っっ!!」

 

 

直ぐ傍でうめき声をあげながら自傷行為を続ける男を取り押さえた。

 

 

「止めろ、止めろ!! それ以上は傷がやべぇっっっ、って!!」

 

 

技術を伴う身体能力はさて置き、単純な腕力、筋トレはしてきたつもりなので、男1人位抑える事は出来るだろう、と押し倒す形で取り押さえた。

 

だが、それでも想像以上の力具合だ。

体のリミッターが外れた火事場の馬鹿力に似ている。スバルを振り払うように腕を振り回し、只管顔面を掻きむしる。

 

 

「ィィィイイイイ!! 寄るなぁァァァ!!?」

「ぐぉっっ!? くそ、くそが!! 殺すより怪我人出す方が戦力的にキツイって話だが、それを怪物がやるかよっっ、あんな図体して汚ねぇやろうだ!!」

 

 

スバルは1人抑えて置くのに精いっぱい。他の面々も同じ様だ。

ヴィルヘルムも無事……とはいえ、全くの無傷とは言い難い。どうにか、自傷行為を取り押さえようと、奮戦する。

白鯨に攻撃をしていた時よりも、正直厳しいと言えるだろう。

 

 

「動ける者は負傷者を大樹の傍に!! 多少の実力行使はやむを得ん!!」

 

 

誰もが、血が噴き出してもお構いなしに、身体を掻きむしり続けている。

幸いにも眼球と言った部位を傷付けてはいないが、これでは時間の問題だったが、クルシュの一声で、方針転換をする事が出来た。

 

 

「どいてっ!!」

「フェリス!?」

 

 

体感的には、クルシュの声と殆ど同時だった。

殆ど同時に、フェリスがスバルと代わり、スバルが抑えていた男に回復を施した。自傷行為を続けて、奇声を上げ続けていた男は、見る見るうちに小康状態となり、瞼を閉じる。

 

 

「フェリックス様のお力であれば、汚染効果をはがせる様です……っ」

「その通り。レムちゃんは、大丈夫……とは言い難いケド、皆と比べたら大丈夫だよね?」

「勿論です。フェリックス様は他の皆さまを………っ」

 

 

自力で何とかしたレムは、口籠った。

 

その訳はスバルにも十分解る。

これだけの規模の被害だ。回復特化の生命線であるフェリスの手が完全に塞がってしまう事を意味する。

 

攻撃は最大の防御、と言う事でツカサやヴィルヘルム、リカード達で特攻気味に攻撃を仕掛けて、時間を稼ぐ―――と言う他力本願極まる策を考えたが、霧に潜った今、それが最善の手段だとは正直言い難い。

 

 

「どっから攻めてくるか解んねぇ今、ずっと無防備ではいられねぇぞ」

「うん。その通りだよ。正直不味い状況だ。こんな攻撃してくるなんて、思ってもいなかった(記録(セーブ)読込(ロード)を縛ったのは、失敗だった? でも、これ以上の戦力ダウンは……っ)」

 

 

情報収集はツカサの十八番でもある。

未来から過去へと戻る事が出来るので、当然だ……が、白鯨・魔女教と連戦して相手にする以上、負担の大きい時間遡行(ループ)系の魔法を安易に使うのは好ましくない、ともいえる。

 

あのペテルギウスなら兎も角、この物量戦がモノを言う白鯨戦ならば尚更。

 

 

「! ツカサ。大丈夫だったか!? ラムも!」

「キンキン叫ばないで。白鯨の霧より不快よ」

「その毒舌聞けてめっちゃ嬉しい、って思ったの初めてかもだよ、姉様! 無事でよかった」

 

 

不安要素はあまりにも大きいが、とにかくラムと共にツカサは戻ってきていた。

ラムの様子も問題なさそうなのを間近で確認出来て、安堵するスバルとレム。

 

 

「時間が足りない。フェリスにこのまま治療は任せるにしても、殆ど無防備も同然。今襲われたら、もっと事態が深刻になる」

「密集した皆が霧でヤられる、って言わない辺りは最高だな、兄弟。……正直、魔獣は畜生だって思ってるし、考える脳みそなんてもんも無ぇ、って今の今まで想いたかったんだが……」

 

 

スバルの言葉に、レムもラムも首を左右に振った。

 

 

「知能があるとは思いたくない、と言うのはレムも同じです。……ですが、この状況を作り上げた以上、あまり楽観視は……」

「バルス同等の知能だったら、とラムも思うけど、レムと同じね。……実に理に適った攻撃をしてくる相手よ。あの霧は、攻撃であり、身を隠す防御でもある。ほんとよく出来ているわ」

 

 

白鯨の頭の中までは読めない。

だが、レムやラムの言う通り、人間でも行いそうな兵法を魔獣がやってのけたのだ。

 

形勢は一気に逆転したと言って良い。状況も待てば待つ程悪化の一途。―――だが、この程度で、諦める訳もない。

 

 

 

「―――ふぅ」

 

 

そんな中で、スバルは大きく深く息を吐き、肺の中を空っぽにし、大きく息を吸って気を落ち着かせる。

すると、心臓の鼓動がゆっくりと、そして確かなリズムを刻んでいるのが自分でもわかった。

 

 

「(何を恐れる心配がある? 確かにキツイよ。ヤベェよ。……でも、オレはそれ以上(・・・・)を知っているだろ? それに、レムに宣言した事だって、無かった事にはならねぇ(・・・・・・・・・・・)よ)」

 

 

皆最善を尽くしている。

力になりたいし、力を渇望したのもスバル自身。

エミリアの為から始まり、今は力を合わせてこの白鯨と言う悪魔を打倒したい。

 

その為に―――できる事はあるのだ。

 

少しばかり、痛みを伴う事にはなるが、―――あの恐怖を、あの苦痛を思い返せば、乗り越える。乗り越えられる。

 

 

スバルはぐっ、と力を入れると、顔を上げた。

 

 

「借り物でも、勇気は勇気って事だ―――オレは、出来る」

 

 

意思は固い。

例え、魔女が心臓を握りつぶしたとしても、頼れる男が、傍にいるのだ。……英雄を目指す、と言う割には他力本願癖が全く抜けない気もするが、出来る最善を、全力で尽くす。

 

 

「じゃあ――――」

 

 

スバルが意思を固めて、告げようとしたその時だ。

 

 

「じゃあ、助けてくれ、スバル」

「!!」

 

 

告げるよりも先に、ツカサの方が早かった。

それは、あの時、ラムのと同じだった。

本当に力を借りたい、助けてもらいたい。

 

純粋に、裏表無く、頼りにしてくれてる(・・・・・・・・・)。それが解る顔だった。

 

スバルは、歯を見せながら笑みを見せると。

 

 

「やっぱ、兄弟には敵わねぇ! あったり前だ!! 見せ場、作るぜ!」

「んっ! 任せた」

 

 

ごつんっっ! と互いに拳を合わせた。

 

 

 

「レム、これから一番危なくて、ひょっとしたら、一番安全かも? って感じな所に行くんだが、付き合ってくれるか?」

「はい。―――どこまででも」

 

 

「とっておきを見せに行く。ラムも行く?」

「バルスを連れて行って、ラムだけ置いていくなんてさせないわ。当然よ」

 

 

 

レムもラムも、それぞれの最愛の人の頼みには躊躇しない。

頷く以外の選択肢は無い。

 

例えどんな死地であろうとも。

 

 

「一番危険で、一番安全な場所って何? 物凄く矛盾してるんだけど」

「そりゃ、オレも思った。でも考えてみりゃ、そうなっちまうんだよ。……オレだけなら、間違いなく最悪最強、ぶっちぎりで危険地帯。……んでも、そこに兄弟や姉様、レムまで付いてきてくれるんだ。この場で一番の安全地帯だって思っちまうよ」

「――――はは。成る程」

 

 

ランバートとパトラッシュに跨り、準備は出来た。

地上で暴れる仲間たちを引きとどめる騎士たちに向かって、大声でスバルは告げる。

 

 

「それどころじゃねーかもしれねーが、聞いてくれ!! オレ達で白鯨を惹きつける! その間、あんたらはフェリスの治療を受けてくれ!!」

 

 

スバルの行動に目を見開くのはクルシュだ。

常に全体を把握し、最善を尽くす為に、一番視野が広くなってる彼女こそが、この場で誰よりも、その話をハッキリと聞く事が出来たのである。

 

だからこそ、驚いた。

事前に戦えない、と言っていた男が、自ら白鯨を惹きつけると言うのだから。

 

 

 

「まて、一体何をするんだ―――!!」

 

 

 

引きとどめる事も出来ず、手を伸ばしたが、パトラッシュとランバートの動きの方が遥かに早い。

クルシュを横切り、霧の入り口付近まで差し掛かった所で。

 

 

 

「―――聞こえる奴らは耳を塞げ!! それどころじゃない奴らはそのままで!!」

 

 

 

禁忌の言葉が、他人に何処まで影響するのか、それははっきりとは解っていない。

ただ、以前にクルルには警告された事はある。

 

《心臓を食べちゃいたくなる程、独り占めしたい娘が、自分達だけの秘密を、他の誰かに話しをしたら? ボクの説得も無しで。……ひょっとしたら、自分以外にも影響クルかもしれないから覚えといてね》

 

 

正直ふざけて、遊んでる印象が拭えない。

その底知れぬ感は、パックのそれを遥かに上回る程のモノだから。

 

だからこそ、この土壇場であってもしっかりと覚えて置くし、予防線は張るのだ。

 

 

そして、この件に関しても説明はしている。

色々と脚色はして、スバルの内にいる彼女に怒られない程度に話をしている。

 

 

だから、声の届く範囲の討伐隊はしっかりと耳を塞いでくれるだろう。

 

 

「――――俺は、《死に戻り》をして―――!!」

 

 

信じているからこそ、躊躇う事なく禁忌の言葉を口に出した。

湧き上がる恐怖、心胆を締めつける感覚。

 

伸びるあの黒い手が傷付けるのは自分だけにしてくれ、と頭の中で念じる。

 

レムに触れるな、ラムに触れるな。……兄弟にも同じだ。

 

 

 

――――自分だけだ。―――自分だけが、今はお前を求めている。

 

 

 

スバルの言葉に、強く反応をしてくれたのか、それは不意に訪れた。

 

 

 

 

 

『愛してる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳元でささやかれる様な弱々しくか細い声。

だが、そこに込められている熱情はトンデモない。心臓を握られる。ハートをぎゅっ、と掴まれる、と言うのはこの事なのだろうか。

 

誰にも渡したくない情念は、スバルを離すまい、とその黒い手を伸ばして、しっかりとつかんだ。

 

 

スバルの心臓を――――。

 

 

不思議と、今は痛みではない。

ただただ、愛おしさが全身を支配する熱の中、真っ白に燃え上がった。

強く求めた結果なのだろうか、或いは―――――。

 

 

「っ……! 戻ってきたぁぁ!!」

 

 

刹那の邂逅。

スバルは無事現実世界へと覚醒した。

 

あの燃える様な情念。

愛おしさの中に切なさもあり、様々な感情で支配されていた筈だったが、解き放たれたスバルには、それがどんな感概だったのかも解らない。

 

 

スバルと、その身に居る彼女だけのもの――――、と言わんばかりだった。

 

 

 

 

「どうだ!? レム。オレから魔女の匂いは?」

「はい! 臭いです!」

「やっぱ、言い方悪いよな!? あんときと同じだ! 狙い通りなんだけど!」

「バルスが臭いのだから仕様がない事よ」

「大丈夫。帰ったらあの大浴場で疲れと身体を洗い流したら」

「だぁぁぁ、そっちもうるせーーよ! オレの体臭って訳じゃねーのしってんでしょ!?」

 

 

 

スバルが無事戻ってきた事、レムの、レムだけに感じる事が出来る魔女の匂いを放つ事に成功した事、色々な思惑が合致し、兎も角第一関門突破出来た。

 

 

ただ、スバルは解らない。

アーラム村では、森中のウルガルムを引き寄せる事は出来た。

ただ、岩豚やギルティラウは来なかった様だから、ひょっとしたら、種類によっては効果の程が違うのかもしれない。

 

そして、それをしっかりと検証していられる時間は無い。

 

 

「どうだ? 鯨追ってきてるか?」

「―――間違いない。風が乱れてる。なりふり構わず近付いてきてる」

 

 

ツカサが使用しているのは、マナを節約し、極限まで威力を弱めたテンペスト。

それは、敵を攻撃する為でも、防御する為でもない。―――風の範囲内の情報を掬いとる事を是とする為のモノ。

 

風と自らの感覚を完全に接続する―――事は出来ないが、白鯨程の大きさの魔獣が範囲内にあるテンペストに引っかかれば、否が応でも反応してしまうのだ。

 

 

 

「ラム!」

「ええ!」

 

 

そして、ツカサの合図で、前方―――やや右よりの霧部分に、魔法を放った。

 

 

「「テンペスト!」」

 

 

2人の魔法は、眼前の霧を貫き、白鯨の巨体を捕らえた。

ただガムシャラに、本能のままに突っ込んでくる白鯨の突進を、防ぎ切る事は出来ないが、それでもはっきりと視認出来たし、このまま囮になり続ける事は可能だろう。

 

それに、攻撃手段は何もツカサやラムだけではない。

 

 

「レム!」

「はい!」

 

 

ラムの合図で、レムが魔法を放つ。

風の縛を受けている間に放つレムの一撃。

 

 

「ウル・ヒューマ!!」

 

 

レムの詠唱に呼応して、3本の氷の槍が大地から一斉に突き出してくる。

下っ腹を貫く勢いで当たった一撃だったが。

 

 

「クソがッッ!! そんなにオレが旨そうかよっ!?」

 

 

腹に刺さったまま、暴風に煽られ、身体を刻まれながらも、白鯨は止まることを知らなかった。

スバルの中の何かは、魔女の残り香は、三大魔獣の一角である白鯨にも有効であり、ゴチソウである事が証明された瞬間だった。

 

 

「悪いが、お前にくれてやるメシは無ぇ、そんかわり、こっちのフルコースを受けやがれ!!」

 

 

スバルの中指立てての挑発に応えるかの如く、白鯨が強く反応する。

ツカサとラムの放ったテンペストを振り切って、スバルに迫ろうとしたその時だ。

 

 

 

「りぁぁぁぁぁぁぁ――――ッッ!!」

 

 

飛び掛かるヴィルヘルムの斬撃がそれを阻んだ。

スバルの言うフルコース。それはツカサやラム、レムだけではない。

 

 

「お姉ちゃん、合わせて!」

「いっくぞーー! へータロー―!!」

 

 

剣鬼に続き、2頭のライガ―に跨る子猫の姉弟が顔を見合わせて、その口を大きく開け。

 

 

「わーーーー!!」

「はーーーー!!」

 

 

2人の声が重なり、波状的に広がる音波が凄まじい破壊の力を齎せた。

 

ヴィルヘルムの斬撃の箇所を抉る様に、それは丁度ツカサも白鯨の上で傷口を開き続けていた風の力に似ているが、正直それ以上に荒っぽい。

 

広げる、のではなく、壱点集中で風穴を開ける、と言った印象だ。

 

 

「ダンチョ――!!」

「お願いします!!」

 

「おうよ!任せぇ! チビ共が頑張ったんなら、ワイもやらなあかんわなぁ!! 食休めは終わりや!」

 

 

リカードが再び白鯨の背に飛び乗ると、ヴィルヘルムが斬った傷、ミミとへータローの刻んだ傷から、真一文字に大鉈で割り続ける。

 

それは、白鯨の霧を出す口部分も同じく刻んでいく。潰しても潰しても正直無くならない数かもしれないが、それでも潰しておかなければならない。

 

霧が晴れたから解る事ではあるが、まるで弾幕の様に消滅型の霧が放射されているからだ。

 

地竜やライガ―の機動性があるからこそ、回避出来ている様だが、アレを生身で躱すのは無茶だ。

 

 

 

 

だが、それだけの攻撃を浴びても尚、白鯨の興味はスバルだった。

 

 

「好かれたものだね、スバル」

「全然嬉しくねーけどな!! つーか、ひょっとしたら、兄弟の事もみてんじゃね? ほら、初めてあった時に、ぶっ飛ばしたの覚えてたりしてな!?」

 

 

スバルの言葉を聞いて、ツカサは苦笑い。

確かに、あの時は全盛期の一撃、と言って良い。

 

意識がすっ飛ぶ程の、力のセーブが出来てない、完全にリミッターを外した一撃。

白鯨にしても、何が起きたか理解できなかっただろう。

 

 

「好かれたくはないな」

「当然よ。好きなのはラムで十分。それ以上は無いわ」

 

 

ラムとツカサ、2人は手を合わせた。

指と指の全てを絡ませる繋ぎ方で、前に出して放つ。

 

 

 

「インヴェルノ」

「テンペスト」

 

 

 

氷と風が合わさり、氷結を纏った竜巻が形成される。

 

 

「アイス・ストーム」

 

 

より強靭な刃を纏った暴風が白鯨を押し戻そうとする―――が、それでも白鯨は止まらない。

いや、やや遅くなっただろうか。

 

 

「余所見などつれないことをしてくれるな」

 

 

そんな時だ。

白鯨の翼により、氷結の竜巻の攻撃範囲外の安全地帯となっている場所を見つけたヴィルヘルムがそこに立ち、剣を突き立てた。

 

 

「私は14年前からついぞ、貴様に首ったけだというのに」

 

 

根元まで突き刺し、その剣を足賭けとして、白鯨の頭先まで飛んだ。

氷結の暴風もここまでは到達しておらず、リカードも同じ位置に居る。

 

 

「ほんま、あの兄ちゃんの魔法どうなってんねん。あんだけ、ポンポン攻撃されたら、こっちもビビってまうわ」

「ふむ。しかし、ツカサ殿の魔法は威力もそうですが、精度も極めて高いレベルに水準していると推察できます。我々を避けて、攻撃を与えてましたから」

「そーやろな。ワイが上までなーんもなく、これたんがええ証拠やで。下の方は 今もヤバめやし」

 

 

下を見てみると、氷結の竜巻が未だ健在であり、白鯨を傷着け続けている。

 

ミミとへータローもいたが、小さく悲鳴を上げながら撤退出来ていたので、本当に精密操作を可能にしているのだろう。……後でミミから、文句言われるかもしれないが。

 

 

「楽しくなってきたわ!! 正直、どこまで頑丈やねんっ! って今も思ってるけど、強さ自体は大したこと無いしなぁ」

「ええ、と頷きたい所ではありますが、少々手応えが無さすぎる、と言わざるを得ません」

 

 

リカードの快哉に、ヴィルヘルムは眉根を寄せて呟いた。

確かに、英雄と称される男の実力は本物の一言。

 

白鯨を1人で撃退した、と言う話も最早誰もが信じるだろう。

 

だが、それらを考慮したとしても―――――。

 

 

「この程度の魔獣に妻が――――……剣聖が遅れをとったとは考え難い。機先を制せた事、次代の新たな英雄の参戦、霧の分断。……こちらに有利だったことを考慮したとしても」

 

 

剣聖の強さを、知っているからこそ、拭えない違和感がある。

 

 

そんな時だ。

 

 

ツカサとラムの魔法が消えたと同時に魔獣の挙動が変わったのは。

 

 

「ど、わぁぁぁ!!?」

 

 

これまでは、スバルに突進するだけだった行動が、完全に変わった。

原因は極めて単純。

 

スバルの魔女の残り香の効果が切れた……薄れたからだ。

 

だが、それを感知できるのはレムだけで、2人が気付く筈もない。

故に白鯨の急上昇に対応できず、落とされてしまう……が。

 

 

 

「降りる前に、もう1つ貰うぞ―――!!」

 

 

 

空を泳ぐ魔獣を、その落下速度も利用して、両断する。

背びれの1つを根本から。

 

 

白鯨の絶叫が響き――――そして、再び拡散型の霧を撒き散らせ、その中へと潜っていった。

 

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