Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
見事、白鯨の背ビレを、空を舞う器官であろう一翼を叩き斬ってみせたヴィルヘルム。
再び拡散型の霧の中に白鯨は潜った様だが、断末魔の叫び、地平の彼方にまで届くかの様な絶叫は、この霧の中でもはっきりと聞こえる。
そして、超高高度からの落下、ヴィルヘルム、そしてリカード共に、重力に引かれ、勢いよく地面へと激突必至な速度で落ちるが……、問題ない。
「ヴィルヘルムさん! リカード!」
下には、風を器用に操る英雄、大魔導士と呼んで良い男が存在するから。
身体が重力に反発し、浮遊感を覚える。
魔法の才能の欠片も無いヴィルヘルムやリカードにとっては、未知なる感覚とも呼んで良いが、風に包まれ、守られているのは十分解る。
「感謝を」
「スマンのぉ! 兄ちゃん!!」
ふわり、と着地。
リカードが乗っていたライガ―も最初こそは驚いて足をばたつかせていたが、直ぐに順応した様だ。獣にしては惜しい程、賢い。それは地竜にも言える事だが。
主を迎えに、全速力で走っていたヴィルヘルムの地竜も、突如主が浮かんだ事に驚きを隠せれないが、その速度にも合わせて走行し、見事に落下地点へと先回りしていたからだ。
「無事でしたか、ヴィルヘルムさん!」
「霧に潜られました。警戒を―――どこから攻めてくるか分かりませぬ」
スバルとやり取りをしつつ、ヴィルヘルムは更に先に居るツカサの方を見た。
それは、たまたま等ではない。……異様な気配を、感じ取ったからだ。
「―――――ッッ!?」
異様な気配の根源。
それは白鯨ではなく……ツカサから。
「どうしたの? ツカサ」
ラムも当然気付いた様だ。
ヴィルヘルムやリカードに風を操っていた時とはまるで違う。
ただただ、目を大きく見開き、前方を凝視していた。
そして、右手を大きく横へと広げる。
「全員、止まってくれ!!」
ツカサの指示に連動するかの様に、夫々の地竜、ライガ―達は一様に足を止めた。
只ならぬ気配を、白鯨からではなくツカサから感じ取ったのだろう。
「一体何が―――――ッッ!?」
そして、ヴィルヘルムも少し遅れて気が付く。
圧倒的な殺意が、悪意が、この世の不吉を全て孕んだかの様なモノが、前方より集中的に迫ってきているのが。
そして、それは直ぐにやってくる。
やってきたのは、消滅型の霧。
大地を削り、全てを呑みこまんとする勢いで迫ってくる。……これまで以上の規模、広範囲で。リーファウス街道の全てを呑みこむのか? と思われる程の消滅型の霧が、前方向から迫ってくるのだ。
ツカサが、止めてくれなければ、アレはそのまま自分達を呑みこんでいたかもしれない。
拡散型の霧に紛れて迫る凶悪な消滅の霧に。
攻撃。―――消滅の霧による凶悪な攻撃。
これまでとは違う明らかに異質だった。
前方からの攻撃に加えて……。
「上!!?」
「こっちからも来やがるでぇ!?」
何よりも凶悪に感じたのは、白鯨の消滅の霧が左右から、そして頭上からも迫ってきていると言う事。
拡散型の霧を散布し、それを消滅型の霧へと変えて、結果どの方角からも攻撃が可能なのか?
考えるだけで、恐ろしい攻撃手段を頭に描きながらも、この目の前に迫る脅威をまずは排除しなければならない。
「皆、オレの後ろに!! 絶対、離れるな!」
ツカサが止めた事、そしてクルシュ達も恐らくはまだ霧の影響も有り、散開は出来ていないだろう。たまたま密集していたのが功を成した様だ。
クルシュは、当初 集まっていては下策だと言っていたが、広範囲に散開したままだったら、この広範囲の霧で消されてしまっていた可能性が高いと言わざるを得ない。
そして、何よりこの霧は自分達。ツカサやヴィルヘルム、リカードと言った接近戦の主力メンバー達を集中的に狙ってきているのもまた好都合。
余計な被害を出さない為にも、狙われている方が大分マシなのだ。
スバルではないが、自分が目立ち、迫ってくる間に背後や側面からダメージを与え続けていく作戦が一番良い。
防御不能・一撃死と言って良いあの霧を攻撃手段として多様してくる以上、頼ってばかりいられない、等と言った精神論は最早邪魔なだけだからだ。
適材適所で動く、そして白鯨を落としにかかる。そうしなければ、勝てない。こちらが全滅する。
霧と相性の良い風系譜の魔法を操る者が居れば霧を防げる。
「ラム」
「ええ」
ツカサの傍にはラムも居る。
風を扱うエキスパートが揃っている。出来ない訳が無い。
互いに一瞬目を合わせると、即座に前方の脅威に向かって魔法を放った。
「「テンペスト!」」
右手にマナを集中させて、短い時間ではあるが、練れるだけ練ったテンペストを放つツカサ。
そして、その右手に合わせる様に同じくツカサから貰った力を。クルルの力も合わせて、ラムは左手にマナを集中させた。
このテンペストは、威力よりも竜巻の規模、範囲を上げる方に注力した。
そうする事により、吹き飛ばし返す事は出来ずとも、霧を遮る、受け流す事が出来る。
風の通り道を作り、そちらへと促したのである。消滅の霧とはいえ、その本質は気体。流れる通り道を作れば、そちら側へと流れるのが道理。
最早、これは風の
空を一面覆うような霧も、左右方向から迫る頭上と同じ規模の霧も、ツカサが包んだテンペストを貫き、消失させる事は無かった。
風の流れに逆らう事無く、夫々が的外れな方向へと受け流されていったから。
結果、討伐隊は誰一人かける事なく、無傷で済んだ……が、消滅の霧を逸らした為、そこ以外の大地が酷い事になってしまっていた。
「スバル君っっっ」
「ぐぉぉぉっっ、レム、さんきゅ……っっ、っと、それに さっっ、すが 兄弟、だ!」
「っっ……、感謝を!」
暴風の余波に煽られつつも、直ぐ傍にいたスバルとヴィルヘルムが感謝を言い、そしてクルシュ達もまさに英雄と呼ぶに相応しい力量・魔法を放ったツカサに歓声を送る。
「まだ、まだだ。緩めず警戒を。あんな軌道の霧を打てるなら、四方八方どこから打ってきてもおかしくない」
表情を強張らせ、声を荒げるツカサの姿を見て、あの竜巻が齎した安堵の余韻は一瞬で消し飛んだ。
全てを覆いつくす様な何か。
感じていた違和感の正体が、顕わになってしまったから。
―――これは、現実なのか?
―――この光景は、いったい……?
空の光景、そして更に左右。
消滅の霧が無くなった後、顕わになった。
拡散型の霧から、消滅型の霧へと変えて、襲っていた訳じゃない。
3方向からやってくる
空を泳ぐ白鯨が。
左右で得物を値踏みしてるかの様な白鯨が。
あの白い悪魔が、3体に増えていたのだ。
英雄、剣鬼、鉄の牙、そして討伐隊。
想定以上の兵力、そして神出鬼没な魔獣に対しての奇襲。
全てが完璧だった。これ以上ない布陣で十分勝算を持って挑んだ白鯨戦。
その希望のひとつひとつを、絶望へと変えんかの如く、白い悪魔がやってきた。
「―――なん、で……?」
誰が声を上げたのだろうか。
解らないが、誰しもが同じ感覚だったのだろう。
たった1体でも落とすに至らなかった。
剣鬼や英雄、全兵力を持って傷を負わせる事は出来た。勝鬨を上げようともした。
だが、この圧倒的な絶望の光景を前に、つい先ほどまでの優勢的な感情など消し飛んでしまう。
更に最悪なのは、まるで向こうに知能、知性があるかの如く行動をとった事。
呆気に取られている間、これまで散々痛い目にあっていた筈なのに、ここがチャンスと見たのか、3体同時に突っ込んできたのだ。
恐ろしい事にあの白鯨が3体。
こちら側は、いまだ現実を受け入れる事が出来ないのか、完全に乱れてしまっている。
「ッッ――――!! 駄目だ!!」
咄嗟に、ツカサはマナを練った。
一瞬、ツカサもこの悪夢のような光景に呆気に取られてしまい、初動が確実に遅れてしまった事を悔いるが、今はそれどころじゃない。
この時ばかりは、ラムの肩からクルルを呼び戻し、己の力へと変換させて、最速で最善、最高のマナを溜める。
「テン――――ペスト!!」
それは、白鯨を遮る為に、防ぐ為の風ではない。
これまでのぶつかり合いから解っている事だが、あの白鯨を1体ならまだしも、3倍の質量で突っ込んでこられたら、如何に風の通り道を作った所で、防ぎ切れる訳がない。
ならば発想の逆転。
あの魔獣が狙う的を散らせる。
テンペストの暴風は、まるで意思があるかの様に、討伐隊全体を包み込み、夫々を緊急避難させた。白鯨の直線状から逸らせた。 吹き飛ばされた事により、地面と激突して負傷してしまうかも知れないが、それは大目に見て貰いたい。
「ランバート!」
「ブルッ!」
直ぐ傍に控えていたランバートをツカサは呼び寄せた。
手はまだテンペストを操作している為、動かす事が出来ない。
「ラム!!」
「ッ! 嫌!! 絶対、嫌よ! ラムも戦うわ!」
ツカサの思惑を一瞬で見抜いた。
ランバートと共に離れろ、と言う事だろう。
だが、ランバートはラムのメイド服の襟部分を咥えると、そのまま身体の軽いラムは持ち上げられ、強引に連れ去った。
「はなっ、離しなさい!! ツカサっ! ツカサァァっっ!!?」
狂気した様に叫び続けるラム。
そのラムの感情を止めたのは、耳に届いてくるツカサの声。
――――ラム! 絶対、絶対大丈夫! だから。
ツカサはラムに向かって親指を一本立てて、叫んだ。
――――信じてくれ。
「ツカサぁぁぁ!! 逃げろォぉォぉ!!!」
パトラッシュとレムと共に、宙に投げ出されるスバルがハッキリと見たのは、悪夢の光景。
消滅型の霧、3倍の規模で放ってきた白鯨は、あろう事か突進してきた。
魔法を放ったばかりだから動けないのか、目の中に居るツカサは、ラムを避難させる。ランバートが連れて避難させる。何か叫んでいる様に見えたが、それどころじゃない。
接近する巨体、音もなく宙を泳ぐ巨体の大口が開き、その顎が大地を抉りながらツカサに迫っているのだ。……いや、大地事、呑みこまんとしている。
その後は、ほんの一瞬の感覚だった。
地に足がつき、思ったような衝撃は皆無で、安心する……事すら出来ない。
ほんの一瞬で、ツカサを中心に地面がまるまる抉られて、全て白鯨の口の中。
その衝撃的な光景を前に、スバルだけでなく、レムですら絶句する。
この風に煽られ、飛ばされた現状でさえ、順応して見せたレムでも、目を見開き、驚愕し、悲痛な叫びを口にしていた。
ラムの感情がレムにも流れてきているのだろう。
「ちぃっっ、あかんぞぉ!!」
「スバル殿っっ!!」
そして、続いて傍らから別の声が聞こえてくる
ヴィルヘルムとリカードのモノだと気づいたのは、もう全てが終わった後だった。
先ず、ヴィルヘルムが宙を跳び、スバルとレムの2人を抱えて回避。
リカードはヴィルヘルムの行動を予期していたワケでも、はっきり見たワケでもない。
ただただ、全力でライガ―を操り、パトラッシュの側面部分にぶつかったのだ。
ライガ―は地竜よりは力がないかもしれないが、全速力で衝突するのであれば話は別だ。
パトラッシュは横っ腹をぶっ飛ばされた形。
そして、リカードとライガ―は……。
「―――――がッッ!!?」
目の前で赤い華を咲かせて……散った。
赤い華の大部分は、ライガ―のもの。
千切れ飛んだ肉片が一面に赤い華となったのだ。
リカードは……? と思えないスバル。もしも、客観的に見る事が出来たなら、申し訳ない、と感じる事だろう。
だが、それでも、それ以上に、白鯨に呑まれた兄弟と呼ぶツカサの事で頭がいっぱいだった。
白い悪魔は、3体に増え、英雄を喰らい、無数の口で哄笑し――――人間たちの絶望を掻き立ててくる。
完全なる悪夢となり希望が塗りつぶされていくのを、スバルは感じていた。
ぱっくん! げ~~っぷ\( 'ω')/