Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
ながーい。
んでも、そろそろ戦局が――――……
「卿らは何のためにここまで来た!!」
戦意喪失し、武器を構える事も出来ず、首を垂れてしまっている討伐隊の者たちに、クルシュの激が飛ぶ。
絶望と悲嘆、それらが彼らの全て覆いつくそうとした時、クルシュの檄が僅かに光明となって、頭に……魂に突き刺さる。
クルシュは、皆の前で堂々と宝剣を天にかざしながら告げる。
「あの者たちを――――あの男を見ろ!!」
その宝剣が示す先に有るのは、絶望の化身。3体に増えた白鯨に対して決死の覚悟を以て、攻撃を仕掛けている3名。
そして―――あの男。
「鬼族の娘2人、そして剣鬼! なるほど、この場においても戦い、敵うだけの武を持ち得ている事だろう! だが、あの男はどうだ!? あれは武器もなく、非力で、吹けば飛ぶような弱者だ! 英雄の片割れ、と言えば聞こえは良いかもしれないが、専ら頭脳担当。力においては弱者と言って間違いない! 何故ならば、私は打倒されるところをこの目で見たからな!」
宝剣が捕らえる先に居るのは、地竜を走らせる男、スバル。
一切振り返る事なく、ただただ只管に走らせ、手綱を握り地竜を操り、白鯨を掻い潜り続けている。
死地の中へと居る。紛れもなく、自分達よりも更に深い死地に。
「他の誰よりもあの男が一番弱い!」
それを知るのはクルシュだけでは無かった。
あの場、最優と称される近衛騎士の1人に打ちのめされ、完膚なきまでに叩きのめされたのを覚えている。
「そんな一番弱い男が、まだやれると吼えている! 英雄を失っても尚、いや! 英雄の復活を信じて疑わず、吼え続けている! ―――私もそうだ! 英雄は伏して死なず、必ず舞い戻ると信じて疑わない!」
英雄とはツカサの事。
皆を守る為、白鯨に呑まれた男。
その行為の時点で英雄と祀り上げられるだけの功績と言って良い。
暴風を操り、部隊を守ったのだから。
「なのに、どうして我らが下を向いていられようか!? かの英雄は何のために、卿らを救ったというのだ!?」
「―――――」
文字通り見た通り、風に運ばれ、白鯨の顎から、白鯨の霧から離脱する事が叶った。
助けられたのだ。救われた命を、今ここで無駄にするのか? 蹲り、恐怖に怯え、……このままその命が喰われるまで?
「確かに、我々の力は弱く、束ねたとて、本性を顕わにした かの魔獣の喉元に届くかわからない。だとしても、最も弱い男が諦めていないと言うのに、どうして我らに膝を折る事が許される!」
スバル達が相手にしている白鯨ではなく、もう1体の白鯨がこちら側へと迫ってくるのが解った。
絶望の化身だ。400年もの間、世界を蹂躙してきた絶望の化身。その姿を見れば身が竦み、魂までもが怯えてしまう。
……筈、だった。先ほどまでは。
「今一度 問おう!! 卿らは、恥に溺れる為に―――ここまで来たのか!?」
宝剣を構えて、構えるクルシュ。
英雄は1人ではない。彼女こそ、紛れもない英雄の1人だ。
その背に、全てを思い知らされた。そして、何よりも自分自身が許せなかった。
「ぬううううえええええぃ!!!」
何の為にここへ来た?
悲願を叶える為、だろう?
渾身の力で投擲された、モーニングスターが、白鯨の瞼を穿つ。
眼球には届かなかっただろうが、大絶叫と共に攻撃の軌道が逸れた。
あのバケモノに消された世界の記憶。
悲しみにすら辿り着かなかった者たちも居る事だろう。
今日、その全てを終わらせると誓った筈だ。
1人、また1人と、騎士たちが雄叫びを上げる。
クルシュのその凛とした佇まい、王者の風格。
それは屈した筈の男達を、魂まで畏縮させた男達の士気を奮い立たせる事に成功した。
自らの心を奮い立たせ、己の魂に誇りを取り戻す。
英雄の帰還を信じて疑わず、懸命に戦い続ける少年の後ろで蹲って下を向くのはもう沢山だ。
恥は―――もう、要らない。
そして、奮い立つ者たちの魂に応えるが如く、もう一度深く大きく息を吸い込むと―――。
「総員、続けェェェ!!」
【うおおおおおおおおおおお!!!】
討伐隊の膨れ上がる士気。
それは全力で逃げ回るスバルの元にも届いている。
「弱者だの負け犬だの、好き放題言ってくれやがったな―――。まぁ、間違ってねぇけどよ!」
絶望し、馬鹿な行動をするくらいなら、自惚れろ。
どうせなら、ヘラヘラ笑えるくらいに。
絶望に打ちのめされ、沈むくらいなら笑って―――抗って見せろ!
「ぜってーーーアイツは帰ってくる! 頼むぜパトラッシュ! もっぺん、鼻先までいって、即離脱だ!」
「ギャオオオオ!!」
パトラッシュは吼えると、更に速度を上げた。
前で戦っているランバートに後れを取らない様に、と言わんばかりに。
背後で、そして側面で、3体の白鯨と死闘が行われている事だろう。
文字通り霧に隠れてしまって解らないが、かの巨体が3倍だ。………これまで被害なく攻め続けてこれたが、あの光景を目の当たりにした今、そんな理想論はもう言えない。
だが、決して目を逸らせない、後ろ向きに考えない。
「ぐおおおお!!」
白鯨との戦、その余波はとんでもない事になっている。
ただでさえ、視界が厳しい状態に加えて、質量が増えたのだ。3体に増えたのだ。霧以外にも戦塵が舞い上がり、それはまるでいつも見ていると言って良い、兄弟の代名詞、暴風の魔法にして、スバルの魔法剣(笑)にも使われてる【テンペスト】の様。
「こん、じょぉぉぉぉぉ!!」
パトラッシュは吹き飛ばされたりはしないが、バランスは崩れてしまった。
その結果、スバルは堕ちそうになってしまうが、どうにか握り締めた手綱と鞍に膝をつっかけて、地面スレスレの大スペクタクルを味わったが、どうにか堪えた。
唯一、他よりも自慢できる事があるとすれば、己の握力。特に意味もなく木刀を振って鍛えてきた握力が、この時ばかりは大活躍だ。
どうせなら、ツカサがくれた魔法剣で活躍したいモノだが、生憎まだ剣は拾う事が出来てない。
「かき回して、かき回して―――! クソっ、そんだけじゃ駄目だ! オレぁ、頭脳、担当なんだろっ!? 小賢しい頭フル回転させろっ! なんで、あの野郎は突然増えやがった!? 3体も! 最初ん時は何処にもいなかった筈だろっ!?」
荒い息を吐き、まさに命懸けの囮行為。
その時点で、スバルの働きは常人のそれを、騎士たちをも含めて遥かに凌駕していると言えるのだが、満足できる訳がない。
クルシュが言っていた事を思い返す。
白鯨が群れを成す魔獣なのであれば、言い伝えられていないわけがない。
白鯨の生態については誰よりも無知かもしれないが、無知であるが故に穿った見方が出来る。こちらの世界の住人では考えもつかない事情を思いつく事が出来る筈だ。
何より、今も尚、命を懸けて兄弟を救おうと白鯨に挑んでいるヴィルヘルムの存在がある。
14年間、ただ只管に白鯨を追いかけ続けてきた剣鬼が致命的とさえいえる複数の白鯨の存在を見落とすなんて考えられない。
「どうして増えた!? ―――元から、3匹? いや、待てよ……、白鯨っつーのは霧。霧の魔獣って通り名。それが代名詞で……」
本来の三大魔獣の一角である白鯨は、霧と共に現れて、更には神出鬼没だ。
今回は自分やツカサの存在があったからこそ、より正確に出現時間と場所を知る事ができ、且つ先手を打ち、様々な策を弄してあの霧をどうにか回避する事が出来た。
それでも尚、超広範囲に霧を撒き散らしてきたから、大成功・完璧、とは言えないかもしれないが……、霧で身体を隠す理由が他にあるとすれば?。
「ギュオ!?」
「パトラッシュ!!? ナイスだ!」
試行錯誤、考えを張り巡らせている間に、活躍してくれる相手の1人が、このパトラッシュ。まさに命を懸けるに相応しい相方。片腕―――いやいや、両足だってくれてやれる。
「最高だぜ、パトラッシュ!」
「ぐるっ!」
当たり前だ、と言わんばかりに頭を振る。
霧が四方八方から迫ってくるこの極限の状態で、パトラッシュは見事な走りを見せているが、一発でも当たれば即ゲームオーバーのクソゲーだ。
いつまでもパトラッシュに負担ばかりかけてられない―――早くどうにか頭を絞れ!
そうスバルが考えていたその時だ。
「わーーー!!」
「はーーー!!」
心強い援軍が、来てくれた。
迫る白鯨の霧とスバル達の間に割り込んできたのはミミとへータローである。
超強い、と言っていたミミは、その実力を如何なく発揮。「わ」と「は」の咆哮は今も尚健在。
「うおおおおお!! すっげぇぇぇぇ!」
「そーでしょーでしょでしょーー! もっと褒めろ! うりゃーーー!!」
「お姉ちゃんってば……」
スバルの端的な称讃に対して、身体全身で喜びを表すミミ。へータローの苦労が偲ばれるなぁ、と思わなくもないが、これ以上心強い援軍は無い。
「援護します。ナツキさん! ツカサさんが
「居ない、って表現に、
「ええ。そこは信じて疑ってませんよ。……散々、団長に釘を刺されましたから」
へータローの言葉に耳を疑った。
忘れていた訳ではない。リカードの身体が赤く花開いた光景は、今でも目に焼き付いている。
この戦、終えた後にしっかりと感謝と謝罪、……それを全霊で行うつもりだったから。忘れている訳ではない。大事なので2度。ただ、今は申し訳ないが優先順位的に後ろに下がってしまっただけだ。……何せ、絶望に沈みかけたあの驚愕の光景を目の当たりにした後だったから。
「リカードのヤツ! 無事だったのか!?」
「暴れて大変だったーー!」
「はい、瀕死―――の一歩手前と言った所でしょうか。五体満足とは言えませんが、戦闘から完全離脱、という訳でもありません。……ツカサさんの風が団長を守ってくれました。団長も信じて疑ってません。ツカサさんは必ず戻ってくる、って」
「ライガーのリリディアは残念だったなーー。弔い合戦だ、がおーーー!」
身体が千切れ、肉片を飛び散らせてしまったあのライガーはどうやら助からなかったらしい。……パトラッシュと心を通わせてる、と言っても良くなってきたスバルにとって歯痒い気持ちはあるが、兎に角、この状況下でリカードの無事を知れたのは僥倖だ。
「ナツキさんに、伝言も承ってますよ」
「伝言? ……高くつくぞ、とかじゃねぇだろな」
「うーん、本人が言ってくるかもしれませんが、ナツキさんが兄弟と慕うツカサさんから守って貰った借りがありますからね。きっと相殺されると思いますよ。……こほんっ、団長からの伝言はこうです。『なんや、軽ぅなっとるで。あん兄ちゃんの風の守りがあった事を踏まえても、ワイがこの程度で済んでんのがその証拠や』――――以上です」
へータローの律儀なカララギ弁まで踏襲。
リカードの声マネ。
そのモノマネのクオリティに関しては、個人の感想につき、割愛させていただく―――と思ったが。
「うん。似てねぇな!」
「うん、チョーー似てない! すごー才能ないぞー、ダメだこりゃーー!」
盛大な駄目だしに、へータローは眉をひそめて『それどころじゃない』と反論しているが、スバルは言いっぱなしでそれ以上は考えず、ただただ別の事を考えている。
「……この状況で、軽いとか。ヘビーでベリーハードの間違いだろ、リカード」
パトラッシュに完全に身を預けて、再び白鯨の鼻先を突っ切る。
クルシュの斬撃が、ラムやレム、ヴィルヘルムの奮闘が、ミミとへータローのおかげで良く見える。
騎士たちの雄叫びも同じく聞こえてくる。
だが、また1人、また1人とその身体を宙に舞わせていく―――が、気がかりがあった。
白鯨の消滅の霧。
単純なその巨体にモノを言わせた体当たり、リカードが喰らった様な体当たりよりも遥かに凶悪な攻撃手段であるにも関わらず、その霧の直接的な被害が少なく感じる。
スバルにだけは確実に解る。何故なら、霧に呑まれたとしても、何故かは解らないがハッキリと覚えているから。白鯨戦を前に、皆の顔は覚えられるだけ覚えた。確かに彼らにとっての悲願は白鯨かもしれないが、スバルにとっては、エミリアを救うために手を貸してくれている人達なのだから。
だからこそ、覚えている。
覚えている事を考慮しても、白鯨によって消滅させられた人達は少ないと断言できる。
「ったりめーだ。あの状況ででも咄嗟に皆を守って、更に白鯨の口ん中にいてもリカードまで守った兄弟だぜ? まさに霧の天敵! あの鯨の天敵ってヤツだ!」
スバルは、今はいないツカサが、その残り香が加護を齎してくれていると信じていた。
紛れもなく、白鯨の口、若しくは腹の中で死闘を繰り広げているであろうツカサに、そしてその白鯨を決して逃すまい、と戦い続けている3人に拳を向けて、自身も奮い立たそうと、天へと掲げる。
「ぜってー尻尾掴んでやる!! ――――――……ん?」
天へと拳を向けた時だ。
不意に、白鯨の姿がその視界に入った。
登場場面でこそ、複数現れた白鯨に面食らってしまっていたが、今冷静に見てみると……。
違和感を感じた。違和感を感じる。物凄くビンビンと。
「まさか……」
歯噛みし、湧き上がった可能性。クルシュに託され、頭脳派ともツカサから言われ(直接ではないが) 漸く、漸く役に立てる瞬間が来た、と力が入る。
パトラッシュに手綱を握る力、引く力で意志を伝えて、パトラッシュもまた、それに応える様に鋭い切替しで、猛然ともう一体の白鯨へと迫る。
奮闘するレムが視界の中に入った。
そして、驚くべき事に そこにはラムの姿もある。
「ツカサを―――――――返せッッッ!!!」
拳に暴風を纏い、巧みに操り、かの巨体に攻撃を入れ続けている。
荒れ狂う暴風は白鯨の白い体毛を斬り裂き、その内部の肉質にも切れ目を入れて、鮮血を散らせ続けた。
ツノナシ、と以前言っていた筈なのに、その額には光る何かがハッキリと見てとれた。
そして、共に戦っていたレムも気づいている。
ラムが角を失ったあの日から、自分が全てを、戦う事も働く事も、全てをやらなければならない、と思い続けてきた。
その考えは2人の英雄によって改めさせられ、新たな一歩を踏み出すことが出来たのだが、忘れて無くなった訳ではない。
ハッキリ見える。ラムの額に輝く
「ガッ――――!!」
巨体の白鯨の空中での鋭い旋回。
一度回転するだけで、周りにとんでもない余波を生む。
如何に暴風を巧みに操っているラムとはいえ、体躯の差を覆すには至らず、弾き出されてしまった。
「姉―――様ッッ!!」
飛ばされたラムを、跳躍して抱きとめるレム。
見事にキャッチし、大事ないかを確認する。……勿論、額のそれの存在も。
「レム、ありがとう」
腕の中にいるラムの額には、光るソレは……なかった。
「……まだ、まだ。テンペスト。ラムは使いこなせてない」
ギリ、と歯ぎしりし、白鯨を見据えた。
丁度、ヴィルヘルムが跳躍し、その回転する白鯨に一撃を入れる場面が映る。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
裂帛の気合、剣鬼の一閃が、白鯨の巨体を貫通するが勢いで突き刺さる。
そのまま、縦横無尽に動き回り、身体中を切り刻んでいく。
「スバル君なら、ツカサ君なら絶対にやってくれます。レムと姉様の英雄は、世界一なんですから」
レムの力強い言葉と、抱く力の強さ。
激昂しきったラムの精神に、一筋の光を灯す。
「ええ。解ってる。解っているわ。―――だからこそ、さっさと帰ってきなさいよ。もう、待ちくたびれたわ。……ラムの元に、帰ってきて」
スバルは考えを纏めるまとめあげる。
ほぼほぼ間違いない。
あの白鯨の
クルシュ達が戦っている1体。
ラムとレム、ヴィルヘルムの3人で戦い、更にツカサを取り込んだ1体。
もう1体はかなりの高さに居るから、確実に確認する事は出来ないが、想像通りだとするなら、その位置から降りてこない理由も検討がつく。
「てめぇら、
確信を持ち、スバルがそう吼えたその時。
―――――――――――!!!
ヴィルヘルムが刻み、ラムが刻み、レムが殴打し続けてきた白鯨の身体が震えた。
宙を泳ぎながら、小刻みに震えるその巨躯。それがちょっとした衝撃波となって周囲に伝わってくるが、攻撃の類ではない。
無数有る霧を噴出する口から、黒煙の様な黒い霧が沸いて出てきたと思った更に次の瞬間だった。
―――大口開けて、笑え。
白鯨の身体が、その身から発する光に包まれたのは。
ピカ――っと白鯨光りました(((o(*゚▽゚*)o)))