Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

90 / 147
白鯨戦しゅ~~りょ~~~ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪

と言っても次の話、最初の方は出てきちゃいますが……(゜-゜)


長かったなぁぁぁ…… ...( = =) トオイメ目


白鯨戦⑪

「お兄ぃ、ちょーーすごーーー!! ちょーーーすごーーーー!! 流石のミミもあそこまでは跳べませんなぁ!! だから、すごーーーー!!」

「皆の力だよ。オレ個人って訳じゃなく」

 

 

作戦を聞いた鉄の牙の副団長ミミ。

 

所定の位置へと移動する際に、ツカサとラムと同じく並走しながら興奮していた。

 

白鯨の生態やそのカラクリに関して、しっかりと理解した訳ではないが、あの空の遥か彼方……超高度に居る白鯨を落とす、と言ってのけた事に関しては理解出来た。

 

謙遜しているものの、迷う事なく出来ると言ってのけたのはツカサ自身だ。

絶対の自信の現れもそこに出ているから、正直その謙遜は意味がない。

 

 

「凄い、です。普通ならあそこまで高い所に飛ばれると、攻撃する手段はない、というのが一般的なのですが………」

 

 

現実主義者(リアリスト)である、とスバルが称していた双子の片割れ、ミミの弟のへータローが、目を丸くしてミミに続いた。

 

団長のリカードの言葉を十全に受け止めながらも、あまりにも規格外の事をやってのける衝撃に、驚きを隠せれない様子だ。

 

 

「当然よ。ラムのツカサだもの」

「ははは…………」

 

 

ここで胸を張るのはラムだったりする。

臆面もなく、自分のモノだと発する男らしさには脱帽モノだ。

 

 

「むむむ、お兄ぃが先に唾つけられてたかーーっ! 落としたのカッコ良いぞーー、惚れたぞーーー! って思ってたのにー」

「ちょっ、お姉ちゃん。まだ落とした訳じゃないし、僕達は僕達でやらなきゃいけない事、あるでしょ」

 

 

両手をばーーん、と上げて仰け反るミミをどうにかフォロー。

 

 

「白鯨2体は正直キツイと思う。―――でも、宜しく頼んだ。絶対に、オレ達で堕として見せる。……終わらせてみせるから」

 

「「………………」」

 

 

ハッキリとそう言ってのける所もそう。真剣な顔つき、端正な顔つき、誠実そうな顔付き。どうしても、目つきが悪い方? と比べてしまう。【失礼だな!!】 と先行してるスバルが何か言ってる様な気がするが……気のせいだろう。

 

 

「やっぱ、ミミ惚れた!! お姉さん! お兄ぃ、ちょーだい!」

「ハッ。ツカサを上げたりしないわ。ラムの独占中よ」

「凄く照れくさくて、嬉しい筈―――なのに、なんか物扱いされてる感があって凄い複雑……」

 

 

ラムとミミの言葉。

男冥利に尽きる気もしなくもないが、如何せん一度考えてしまえば……。

 

途中でハンブンコ! や1日交換! など、恐ろしい単語が聞こえてきた気もするが、きっと気のせいだ。

 

 

「仕様がないですよ、ツカサさん。正直、僕もお姉ちゃんの気持ちが解ります」

「……え?」

「あ、いえ。ヘンな意味じゃないですよ。―――その、憧れと言うか、本の物語に出てくる様な英雄を間近で見ている。そんな感じにさせてくれるんです」

 

 

へータローの言葉に一瞬ギョッ!? っとするが、取り合えず安心すると同時に気恥ずかしくなってくるものだ。

でも、ツカサも思う所はある。

 

 

「ありがとう。頑張らないといけないな。――――でも、この作戦の総仕上げはスバルだ。あんな策を、あんな手段を思いつくなんて、ってオレも驚いてるよ。オレが英雄ならスバルだって英雄だ」

 

 

英雄は複数いたって構わない筈だ。

 

前を走ってるスバルだってそうだ。レムにとっての英雄だけじゃない。皆にとっても同じの筈だから。

 

そして、スバルの名を出すと、前にいるスバルは聞こえたのだろうか、嬉しそうに、或いは更に気合を入れて大空に拳を掲げて吼えた。

 

でも、今 白鯨を誘き寄せる様な真似(魔女の残り香)を出したら、作戦実行困難になるので、その辺はまだ止めて貰う。

 

 

スバル以外にも、命を賭して白鯨を食い止めてる皆を見る。

 

 

「率いてきたクルシュさんやヴィルヘルムさん、リカードやミミ、へータロー。……皆英雄だと思ってる。厄災に終止符を打った英雄だ、って。だから、全員で勝とう!」

 

 

ツカサはへータローに拳を向けた。

並走しているが故に、合わせる、当てる事は出来ない。でも、それでも十分だ。

へータローは、歯を見せながら笑みを浮かべて、同じく拳を向けた。

 

 

「はい!」

「よっしゃーーーー!! やっつけて、お兄ぃに、ナデナデしてもらうぞーーー!! いっくぞーー、へータロー――!!」

「わわ、お、お姉ちゃん待って!」

 

 

一際気合が入ったのか、ミミの乗るライガーにもそれが伝わったのか、爆走しながら鉄の牙のメンバー達と合流に向かう。

へータローは拳を引っ込めて、改めてアイコンタクトをすると、離れていった。

 

 

「じゃあ、ラム。―――行こう。ここからが見せ場だよ」

「ええ」

 

 

ラムは応えると同時に、そのツカサの肩を叩いた。

振り返ってみると、頬に柔らかい感触。

 

 

「っ」

「景気付けとあの子に獲られない様に」

「ん。気合、入りました」

 

 

ニッ、と笑うツカサ。

そしてラムは、人差し指を唇に添えながら言った。

 

 

 

「全部終わったら、こっち(・・・)ね」

 

 

 

小悪魔の様に笑うラム。

ツカサもそれに応える様に頷いた。

 

 

頷くと同時に、ツカサとラムの姿は黒いナニカに包まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から見ていてよく解る。

 

左右どちらの戦場でも、小さな人間たちが魔獣の巨躯に獲り付き、そのあまりにも弱々しい、小さいと言わざるを得ない武器を突き立て続けている。小賢しく抗い続けている。

 

炎が場を支配しようと猛り狂っても、すぐさま空から霧が迫り、全てを包み込む。

結果、立ち込める霧は眼下の分身体に味方する事になる。

 

霧に呑まれ、消えていく者たちを見届けながら。

 

 

 

白鯨には知能と呼べるようなモノはない。

だが、時として知能に勝ると言うのが本能と言うモノ。野生の本能、魔獣の本能と言った所だろうか。

最初こそは、分身体がやられた時は胸中穏やかではいられなかった。知能が無かったとしても、その危険性、危険度は我が分身が受けた苦しみを思えば、本能に任せるまでも無く、察する事が出来た。

 

 

そして、驚くべきはここからだ。

知能が無いと言うのに、学習する。

 

 

 

 

―――あの ニンゲンは、キケン。

 

 

 

 

相手を殲滅する。ただそれだけの為に行動をしている様に見えて、その奥深くには刻み込まれているのだ。

 

相手を殲滅する。ただそれだけな筈なのに逆に己が滅ぼされてしまう幻視をそこに見た。

分身体がやられた場面がまさにそれだろう。

 

 

 

その本能の中で、出来うる最大級の警戒をしつつ、霧で世界を覆う様に吐き続けたその時だ。

 

気配を感じたのか、大地に意識を向けなおした。

ただ、あのキケンな人間の気配ではない。

 

それでも凄まじい勢いで収束するマナを、無視する訳にはいかない。

 

 

 

「アル・ヒューマ」

 

 

 

膨大なマナの渦。

その中心には青い髪の少女が居る。

跪き、時間をかけて練りに練ったマナ。氷系統最大の魔法。

 

攻城兵器を見紛う大きさの巨大な氷槍。鋭い先端がこの夜の霧の中でも鈍く光っているのが解る。

 

 

 

その威力は脅威だと感じ取れた。

何せ、開戦一番白鯨が受けた氷槍よりも更に巨躯な氷。

白鯨は知る由もないが、アレは回転を加えたことで更に貫通性が増したが故のダメージだ。

知る由もない事、だからこそ、アレは脅威に感じた。

 

 

 

「―――お願い!」

 

 

 

少女の祈るような叫びと共に、氷の槍が射出された。

1本ではない、2,3,4…… マナを振り絞っているのが解る。全身全霊の一撃。

 

遥か彼方に遊泳する白鯨にも届き得る。

 

それが近づいてくるのを白鯨は感じていたが――――、ここで知能も無い筈なのに、また違う事を考える事が出来た。

 

 

 

―――ナニを、オソレル、しんぱい、がアル?

 

 

 

白鯨は知っている。

霧とは違う白き何かが、我が身の一部と言っても良い分身体を一撃で屠ったのを。

一撃で屠ったのを。

 

それに比べれば、どれだけ矮小なモノなのだろうか。

速度・大きさ共に、余裕をもって確認出来る。

複数来ようが問題ない。

 

 

白鯨は尾を振って風を薙ぎながら宙を泳ぐ。それだけで、生み出される暴風に似た圧力が、氷槍の横腹に当たった。

 

前に進む力が強ければ強い程、横から受ける影響には弱い。

そして、当たらなければ効果は当然得られない。

 

 

1本、2本、3本――――これで仕舞だ。

 

 

 

最後の4本目の軌道を逸らし、そのまま更に高度を上げようとしたその時だ。

 

 

 

 

 

「漸く―――捕らえたぞ」

「―――――――!?」

 

 

 

あり得ない場所から、あり得ない声が白鯨の耳に、聴覚に、脳髄に迄届いた。

互いの大きさ、質量の差を鑑みれば、届いたのは奇跡と言うしかないが、それでも奇跡であっても奇跡ではない、と言える。

矛盾しているかもしれないが、白鯨には、この声は間違いなく届くと断言できるからだ。

 

 

あの耐え難い悪臭とはまた違う。

本能が警笛を最大級に上げている相手。

 

 

 

「地に堕ちる時だ」

「永遠に、ね」

 

 

 

あの男とあの女。自分よりも上に居る現実。

一切関知されず、マナの動きを読まれずにここまで来た。その手段が解らない。

知能が無い白鯨―――否、新たに知能と言うべき器官が出来つつあると言って良い白鯨の脳は、急速に進化し、形成された。

 

何故、何故上に居るのか。何故、気付けなかったのか。

下の膨大なマナの流れは読めた筈なのに、これだけ接近するまで気付けなかったのか。

 

 

初めて魔獣に芽生えた自我。

だが折角の自我も今は混乱の渦中。

 

 

 

そして、漸くその理由が判明する。

 

 

ギョロリ、と動いた隻眼の眼球が、2人をハッキリと捉えた。

 

 

この男は―――。

 

 

 

 

―――我が、霧……まとって………!?

 

 

 

黒き暴風の中に2人は居た。

だが、特筆すべきは(そこ)ではない。

 

その更に外に、霧が……地上に吐き続けていた霧があったのだ。

 

この人間は、まさかの霧に擬態を施した。風を巧みに、精密に操り自身の鎧とした。

丁度、白鯨が霧の海に身を隠したのと同じ様に。

 

 

 

 

「いくよ」

「ええ」

 

 

 

謎が解けた。

解く事が出来た。

 

だが、最早手遅れ。

 

 

 

 

 

「デュアル―――」

「トリプル―――」

 

 

 

 

 

ラムが左手で。

ツカサが右手で。

 

指を全て絡ませて繋いだ先に、極限まで圧縮された黒い暴風があった。

マナを溜めに溜めて……次いでにクルルがラムの頭上に控えて更にマナを籠める。

 

二本が三本に、軈て四本に集まり、稲光も発生。

 

それは四重の暴風。

霧を消滅させる暴風。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「クアドラプル・テンペスト」」

 

「―――――――!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

現実味の無い感覚、である。

敢えて例えるなら―――空が落ちてきた(・・・・・・・)

 

 

この暴風は吹き飛ばすのではなく、叩きつけてくる。じり、じり―――と飛ぶ力よりも遥かに強い力で地に落とされ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吼えに吼えて、懸命に堪えようとする白鯨だったが、全くと言って良い程動かない。空に壁が出来た、壁が迫ってきている。空が見える範囲の全て。避ける隙間も一切ない。

 

 

 

「後は、精密な操作だ。―――働けよ、クルル」

「きゅきゅっっ!!」

 

 

単に暴れ狂う四重の暴風をぶつけて終わりじゃない。

それをすれば、眼下で戦い続けてる皆に影響がある。

 

イメージは、まさに白鯨が味わってる感覚、風の壁。

余計な破壊は一切せず、これ以上、上げれないと言う領域を作り出し、それを徐々に下げていく。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

ただ、ラムはマナをあまりにも酷使し過ぎた様で、これ以上は何も出来そうになかった。それでも隣に立つために、一緒に居る為に、どうにか奮起しているが……それでも、身体に力が入らない。

 

生命線となっていたマナ移譲の要であるクルルが離れた以上、ラム自身にも危険が迫っていると言って良い状態だった。

 

 

ツカサとクルルが白鯨に呑まれた時、マナを使い過ぎた。

そして、今のテンペストが文字通り最後の一撃だった。

 

 

「大丈夫、大丈夫だ。……後は、オレに、皆に任せても大丈夫。ラム」

 

 

倒れてしまいそうになるラムを力強く抱き留める。

ツカサの魔法で宙に浮いている状態だから、落ちる事は端から無い。

でも、しっかりと腕で抱き留める。

ラムの頭を自身の胸に抱き寄せる。

 

互いの鼓動を感じる。

それだけで、ツカサは力になると言うものだった。

 

そして、それはラムも例外ではない。

ツカサからマナを移譲してくれてる訳じゃない。

ツノナシで、己の身体を維持する事も難しくなった元の身体だが、不思議と何でもできる気がしてきた。

 

 

 

「愛が成せる業―――という事、ね」

 

 

 

それはツカサだからこそだ。

間違いない。

 

ツカサが来る前は、ツカサと出会う前は、ロズワールの事が全てだった。勿論妹のレムもそうだが、女である部分は、ロズワールを愛してしまっていた。憎しみから始まった繋がり、制約が軈て愛へと変わる。

 

こんな事があるのだろうか、とロズワール邸へとやってきた時は思わず笑ってしまった。

 

そして、今。その愛は違う男へ、完全に移り変わってしまった。

尻軽だと思われても良い。浅いと思われても構わない。

 

それで共に在れるのなら……構わない。

 

 

ツカサと言う男と共に在れると言うのなら。

 

 

「……ラム?」

 

 

ラムと握っている手、そしてその身体が、一際力強くなった気がした。

触れているところ全てから、湧き上がってくる様に感じた。

 

 

「ツカサの隣に居るんだもの。一緒に立ち向かうと約束、したもの。……最後の最後まで、共に」

 

 

額が淡く光った。

無理をするくらいなら、預けてくれて良い。目を閉じて良い。

ツカサはそう思ったが、ラムの顔を見たら何も言えない。言うべきじゃない。

 

 

 

 

自分の本質は臆病なのは変わってないな、とツカサは笑う。

ラムに怒られたくない。叱られたくない。

 

 

 

「――――さぁ、落ちろ!!」

 

 

 

渾身の力を籠める。

 

 

 

 

 

 

―――今、自分達が住む世界に、破壊の限りを尽くす白鯨(お前)は、邪魔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鯨の高度が下がり続ける。

もう半分以下、砲撃や魔法攻撃でも余裕で届く高さ。

 

 

「ここからだ。ここから! 行くぜ! レム!」

「はい!」

 

 

それを見届けたスバルは、ここから始動する。

高さ自体は目算になって曖昧と言えばそうだが、大丈夫だ、と言い聞かせる。

 

レムも、スバルの事を心から信頼し、信じているので、疑ったりしない。迷ったりしない。

 

 

 

「アル・ヒューマ!!」

 

 

 

レムは練りに練ったマナで再び氷を生み出す。

今回は槍ではなく、いわば柱。氷柱。

 

 

「魔法のじゅうたん! 氷ヴァージョン、ってな!」

 

 

形成された氷柱の上に飛び乗るスバル、そしてレムも続く。

 

 

「自分の魔法に、乗って飛んだ事は?」

「レムはありません。これが初めてです」

「っしゃあ! ぶっつけ本番だな! 成功するイメージしか湧かねぇよ!」

 

 

今回は、遥か彼方に居る白鯨を狙った攻撃じゃない。

ゆっくりで良いんだ。速度は要らない。ただ、少しだけ高く跳ぶだけで良い。

あの白鯨にも解るくらいの高さに。

 

 

白鯨にも届くくらいの高さに。

 

 

 

「行きます! スバル君!」

「っしゃああ!」

 

 

レムの意志の通りに、氷柱は空に上がった。

白鯨が落ちてくる、レムとスバルは空に上がる。

 

あの白鯨でさえ、何も出来ず、させず落としてくる風の大魔法だが……。

 

 

 

「近くで見ても、恐ろしい……、なんて全く思えねぇから不思議だ」

 

 

 

超極大魔法!! 当たれば粉微塵!! と言っても良い魔法なのに、スバルはそう評する。

バランス崩したり、近付き過ぎたら、如何にレムのアル・ヒューマとて粉々バラバラは避けられないと思えるのにも関わらずだ。

 

 

 

「当然ですよ、スバル君。ツカサ君と姉様、そしてクルル様の力です。心強い以外の感情、レムは持ち得ません」

「ははっ! 全くだ!」

 

 

 

スバルはレムの言う通りだ、と笑った。

 

一頻り笑った所で、とうとうあの白鯨の姿、その詳細までがハッキリわかる所までの高さに来た。

所々藻掻いているせいか、傷が増えて、ヴィルヘルムが抉った片目の部分、幾つもの傷がより一層スバルにある感情を覚えさせる。

 

 

 

「超気持ちわりぃな、コイツ」

 

 

 

兎に角不快感しかない。

だが、その不快感ともここでお別れだ。

 

 

 

「上ばっかり気にし過ぎて悪いが、下もあるんだぜ? お前らの大好きで、大嫌いで、今にも喰いつきたくなる極上のモンが、よ……!」

 

 

 

スバルは立ち上がり、大きく吼えた。

 

 

 

「レム!! 耳を塞げ! 臭いの方は……スマン!! 我慢してくれ!!」

「はい!! スバル君の臭いなら、何でも良いです!!」

 

 

 

 

レムの了承を聞き、そして更に更に大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

 

「大サービスだぁぁぁ、よく聞けやぁ!! テメェをどうにかする為に、テメェを超える為に、オレは死に戻り―――――――――」

 

 

 

 

 

言い切った瞬間、だった。

暴風の中にいた筈なのに。身体に影響こそはないが、その聴覚には確実に届いてくる空一面の暴風の世界が、まるで台風の目? に入ったかの様に静けさに包まれた。

 

いや、これは違う。

 

肉体が世界から切り離されたのだ。

静か、ではない。完全に世界から切り離され、時が止まったのだ。

 

全身の感覚が遠ざかり、時間の概念が存在しないであろう場所へと誘われる。

 

 

そして、黒い手がハッキリと見える。

 

 

 

――――頼む。殺して、くれるなよ……。レムも、オレも……。

 

 

 

この黒い手こそが、いや その背後にいるであろう底知れぬ闇こそが、この作戦の肝。

だが、その肝の逆鱗に触れて命を奪われました、じゃ話にならない。

これまでの苦労が全て水の泡―――どころか、最悪の結末にしかならない可能性が極めて高い。

 

だから、スバルは念じる。

 

独占欲が強いとクルル―――あの存在から聞いたが、この瞬間だけは全てを独占させてやるから、力を貸してくれ、と念じ続けた。

 

 

すると、永遠にすら思えた次元の狭間の世界で。

 

 

 

 

 

【愛してる】

 

 

 

 

 

あの声が囁かれた。

どんどん近付いてくるあの声。

 

己の心臓が鷲掴みにされる感覚。まるで稲妻で全身を焦がされたかの様な感覚。

 

 

 

 

力を貸してくれ、その代償がコレなら甘んじて受ける―――!

 

 

 

耐え難い激痛、不快感の筈なのに、スバルはそれすらも呑みこみながら進む。

己を肯定してくれた、受け入れてくれた、と思ったのか、黒の手は、その衝動は更に熱く、激しく燃え盛り――――世界の終焉を迎えた。

 

 

 

 

 

「戻って……きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

ゴウッ!! と、何かが空を叩いた様な気がした。

上から下から、と白鯨自身も感じられた。

 

そして、それはあの魔法を行使しているツカサにまで届いてきた。

 

 

 

「これは――――」

 

 

 

打ち合わせをしていた訳じゃない。

あの手が来る事は解っていたし、魔女の残り香を発生させると言う事も聞いていたが、まさか物理的な圧力? となって、やってくるとは思っても無かった―――が。

 

 

 

「好都合だ」

 

 

 

ツカサは瞬時に暴風を解除。

延々と頭上から圧を加えられてきた白鯨だったが、これで空に逃げれる、もっと高く、遠くに一度避難出来る……と、結論付けれた筈。自我が芽生えたのであれば尚更。この状況から一刻も早く逃げ出さねばならない、と警笛を鳴らす筈なのに。地に落とそうとする力が消えた筈なのに。

 

 

 

 

 

 

「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

本能や、生まれた自我でさえ容易に上回る、圧倒的な憎悪を以て全てが塗りつぶされた。

これまでの事が全て。何も見えなくなり、ただただ巨大に膨れ上がった憎悪のみを頼りに身体を動かす。

 

 

その悪臭……根源の元を滅する為に。

 

今の白鯨には、上空で起こった全ての出来事でさえ、忘却の彼方だ。

 

 

 

 

 

「きた、きたきたきた来やがった!! レム、もう大丈夫か!?」

「はい!」

「よっしゃ! 今、ぜってーオレくさいよな? 悪い、文句は後だ! 逃げるぞ!」

「じゃあ、失礼します!」

「へ?」

 

 

レムはスバルを抱きかかえた。丁度お姫様抱っこの様な体勢だ。

ここからは、このレムの魔法で逃げる―――と思っていたのだが、予想は外れてレムに運ばれる事になる。

 

 

 

 

 

 

「ぬおおおおおおおお!!? 無理無理無理無理――――!!」

 

 

 

 

 

 

氷柱から飛び降り、目指した先に居るのは―――パトラッシュ。

 

スバルはまさか飛び降りると思ってなかったので、思わず恐怖からレムの身体にしがみ付く……言うならレムの胸の中に顔を埋める形となる。

男の子としては、役得で最高の感触で、本懐! とも言えなくもない……が、それを感じるには、あまりにも恐怖の方が勝っている状態だ。

 

 

大絶叫をしていたスバルだったが、どしんっ! とパトラッシュに無事に乗れた事、安定し落ち着けた事で、漸くレムの胸から離れる事が出来た。

 

 

「じ、事前に打ち合わせしといてねっっ!? まさかのバンジーすると思わないじゃん? 紐無しの!」

「はい! ご馳走さまです!」

「な、何言ってんの!?」

 

 

 

抗議を盛大にした。でも胸の中に顔を埋めた事実もある―――などと考えていたが、今はそれどころではない。

 

 

白鯨が迫ってきている。

スバルの放った悪臭が、これまでと比べても格段に濃いモノだったらしく、地に激突しても尚、我武者羅に動き回り、何とか喰らおうと藻掻いている。

 

 

「うっは~~、効果は抜群ってヤツだな、オイ! 最初考えてた空中大作戦でこれやったら……バクッ! って喰われてたんじゃねーか?」

 

 

絶対喰らってやる!! と言った意気込みが、執念が可視化されてるも同然な白鯨の姿に身震いするが、それもこれまでだ。

 

まだ作戦は続いている。

 

 

ツカサとラム、クルルは見事完遂して見せた。

ならば、ここでやらなければならない。

 

 

「とは言っても、主に頑張って貰うのはお前なんだけどな! パトラッシュ!! これが最後だ。最後!」

 

 

スバルは、パトラッシュの身体を力強く撫でると続けて言った。

 

 

 

「パトラッシュ! お前はドラゴンなんだろ!? かっこいいトコ見せてくれ!」

「―――――ッッッ!!」

 

 

パトラッシュの速度が更に上がった。

風と一体化した様な感覚がスバルにはある。

 

 

白鯨の咆哮が轟き続ける。

 

 

 

剣鬼も戦乙女も討伐隊も傭兵集団も―――英雄も、全て無視して迫ってくる。

 

地を海と見立てたかの様に、大地を削りながら泳ぎ迫ってくる。

 

 

―――迫る迫る迫る。

 

―――駆ける駆ける駆ける。

 

 

 

猛然とスバルを喰らいつくそうと迫りくる白鯨。

竜の名を冠するパトラッシュの全霊をもって、鯨には追いつかれまい、と駆け続ける。

 

 

そして―――。

 

 

 

「喰らい、やがれぇ―――――!!」

 

 

「放てぇぇ――――――!!」

 

 

 

 

スバルの声と、そして終始タイミングを計っていたクルシュの声が、交差した。

 

轟音が幾重も重なり合って場に轟き、獄炎が周囲を焦がす。

白鯨に向けていた集中砲火が、あらぬ場所で巻き起こる。

 

 

いや、あらぬ場所―――ではない。

 

全てが狙い通り、タイミングも完璧なのだ。

 

 

 

無視出来ない程の轟音の間隔は狭まり、近付き……軈てそれは強大な影を生み出した。

空が落ちてくる、と感じたあの時と大差ない程のモノ。

 

目の前の悪臭、憎悪に呑みこまれてなければ、或いは自我が芽生えた白鯨なら、対応しようとしたかもしれないが、それも出来ない。

 

 

 

 

 

持てる全ての力を束ねて破壊の力を放った先は―――この平原の代名詞であり、賢者が植えたとされている大樹フリューゲル。

 

 

 

かの大樹をへし折り、それを武器とし白鯨を圧し潰す。

それがスバルの考えた作戦だった。

 

 

 

 

 

そして、それは成功する。

天を衝く程の大樹の重量に、白鯨は真上から叩き潰されたのだから。

 

 

 

 

その一撃は、あの暴風の様に優しくはない。瞬時に身体の全てを圧し潰すと言わんばかりの力。

 

純粋な物量、質量での攻撃。白鯨を軽く上回る圧倒的な物体を利用した攻撃。

 

大樹と大地に挟まれた以上―――かの魔獣に抗う術はもう何も持ち得てなかった。

 

 

 

大絶叫が場に響く。

それはこれまでにない甲高く……悲痛な叫び。死を予見させる叫びだ。

 

 

 

だが、それでも藻掻き、どうにか抜け出ようとする。

まだ生きる事を諦めてない生命力。

 

 

だが、その命も今終わる。

 

 

 

 

「――――我が妻、テレシア・ヴァン・アストレアに捧ぐ」

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ。

 

 

 

1人の男が、剣鬼が舞い降りてきた。

白鯨の分身体を相手にしながらも、この瞬間を、この瞬間を決して逃さない様に、と。

 

 

 

 

 

14年に亘る執念、そして400年にも及ぶ戦いの歴史に幕を下ろす。その為に。

 

 

 

 

 

 




テレシアさん可愛いデスヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。