Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
大変名誉な場面、とっちゃってゴメンナサイm(._.)m
「少し良いか?」
「はい。大丈夫です」
今は少し前にスバルは席を外し、クルシュとツカサの2人のみとなっている。
スバルが席を外した理由は、何やらレムがあまり穏やかとは言い難い程の大きな声を上げているからだ。
つい今し方、ラムは兎も角レムの顔は晴れやかだった筈。
それどころか、レムは何処か色艶が増し、色気も同じく増し、可愛らしさも一割以上は増したと言えるだろう。
敢えて言うなら1つ
ラムはラムで、スバルに対して並々ならぬ怒気やら殺気やらを込める場面になるのだが、自分自身もある意味 レム同様最高潮~~から、落とされてしまった様な状態なので、スバルどころじゃなかったりする。
兎も角、スバルは愛している、と言ってくれたレムの決して穏やかとは言えないほどの声が聞こえて、気にならない訳がない。
だから、クルシュに1つ礼を入れて、向かったのである。
クルシュはクルシュで2人の想いも聞いているので、微笑み1つで見送った。
その声が長く続いてる、と言った訳では無いし、レムの事はスバルに任せれば問題ないとは、思っていたツカサだったが、取り合えず後に続こうとした。
でも、話があるとクルシュに呼び止められた形だ。
「正直に言うと、卿と話したい事は山の様にある……が、時間があるとは言い難い、それは互いにそうであろう?」
「……そう、ですね。白鯨の屍も有りますし、オレ達もそう。……
「そうか。それは喜ばしい事を聞いた」
クルシュは少し微笑むと、一歩前に出てツカサに聞いた。
「先ほどのナツキ・スバルと話をしていた件、聊か気になったのでな。確かに、ナツキ・スバルは武の面においては素人も同然。今回の功績については疑う余地無しと断言出来るが―――、
相手を騙そうとしたり、嘘で欺こうとする等、対象者に邪な考えが浮かんでいるのであれば、相応に見えやすくなるのが風見の加護。
ただの冗談、笑話、戯言等であるならば、往々にして見えにくくなる。
それはクルシュ自身にも解っていた。
例に挙げるなら、フェリスの会話がまさにソレだ。
時折騙されたりする事も有ったりするので、クルシュもそれなりには学習している。
更に言えば、加護を疑う事が何度もあったこの度の戦。己の加護に過信する事の無いように、と改めて肝に銘じた事も重なっている。
勿論、クルシュと相対……相応の気を以て相対した時の風見の加護を欺く事は至難どころか不可能に近い、と言うのも事実の1つだったりする。
ツカサは、揶揄い目的もあった。
だからこそ、余計な口を滑らせてしまった事にやや後悔をしそうになったが、相手が相手だ。それに、クルシュならば、構わないだろう、と結論。
「ユリウスの時もそうですし、メイザース領での魔獣騒動、果ては腸狩りとの一幕。本当に、生きてるのが不思議だ、って思うくらいの死線を潜ってるんです。スバルは。……オレの兄弟は」
もう背中が小さくなっているスバルを見据えながら、ツカサは更に続けた。
「最早 死と言っても良い、そう思う位の経験をスバルも重ねている。だからこそ、周りが最後の一線、その手綱は握らないといけないですから。レムは勿論、オレもラムも。――スバルに最後の一線は超えさせない様に、って。だから、釘を刺しました。でも、スバルに伝わるかどうかは、まさに神のみぞ知る、と言った所ですけどね」
苦笑いをしながらそういうツカサはクルシュの方を見なおした。
クルシュもスバルを見据える。
確かに、この戦では相応の武力が、魔力がある訳でもないのに、三大魔獣が一角、白鯨相手に見事なまでの立ち回りをして見せた。
結果、白鯨討伐を成しえた。
スバルが英雄的な活躍、と称する事に疑問の余地は無く、クルシュ自身も謝った情報が流れれば、自身の名誉にかけてそれを証明するとはっきり言えるのだ。
そして逆に、その危うさも見ている。
だからこそ ツカサが言う様に、一歩、ほんの一歩でも間違いがあれば、その命は容易に散らしていたであろう事は想像しやすいと言うものだ。
更に言えば、いつだったかヴィルヘルムがナツキ・スバルの目を見た時に同じ様な事を言っていたのをクルシュは覚えている。
スバルの眼。それは死線を幾度も潜り抜けてきた男の眼である、と。
スバルに対し、様々な考えが頭の中を巡る。
――軈て、クルシュの中で1つの結論が導き出された。
「ナツキ・スバルは果報者、だな」
クルシュは、ふっ、と自然と笑みと言葉が零していた。
それは考えて発した言葉ではない。極々自然に口から出てきたものだ。
クルシュにとっては珍しい事でもある。
「愛し、愛され、信じ、信じられ……か。……ほんの少し前までの私の見立てが大いに間違っていたと認めざるをえまい。私の目が少々曇っていた様だ」
「それは、直接本人に伝えてあげた方が良いかもしれませんね。物凄く顔を赤くしてあたふたしてる姿が目に浮かびます」
「それを言うならば、卿も同じであろう? ラムと卿の事、私もフェリスから聞いている。それと卿が、僅かな期間で王都に轟かせたその英雄譚。実は、私に届いている人物像、囁かれている人物像とはツカサ、卿から少々かけ離れていたのだ。……卿が感情豊かである事は、私もよく知っているつもりでな」
「………その英雄譚……は、聞かなかった事にします。ですから、クルシュさんも中身は言わなくても良いです」
「くっ、くくく。そうかそうか。了承した」
英雄譚。
それは当然白鯨を退けたあの日から始まっているのだろう。
更に続くのは、剣聖ラインハルトからの強い推し、最優の騎士と繰り広げた剣撃。何処から広がり続けているのかはわからないが、此度の英雄は、寡黙である、と言うイメージが根強かったりする。
或いは、好ましいとは思わないが、龍に仕えていた英雄が降り立った、と言う類のモノ。
同じく、寡黙であると言う印象。
本人を前にすれば、その様な人物像は露と消えてなくなるだろう。
そして、より好意的に、好ましく思う筈だ。
クルシュは、ツカサが願うならば、叶えられる範囲内においては、全身全霊を以て応えたい所存だった。
無論、スバルに対しても同じことを言えるのだが……。
「――――が、ナツキ・スバルには悪いかもしれぬが、私は卿の方を、ツカサの事がより好ましく、上回っていると断言してしまう。以前より伝えていた通りだ。浅ましいと言われても、より当家に誘いたいと言う気持ちが強まったようだ」
「!」
不意にクルシュから言われた言葉。
不意に……と言うより不意打ちと言う方が正しい。
「数多の勇者が集えど、此度の討伐が成った最大の功績は卿に有ると私は思っている。……ツカサ。卿は得難き幸いを、我らに齎してくれた様だ。その全ての功績を、当家に迎え入れて、我がカルステン家の全身全霊を以て報いたい、と強く想っている」
「…………」
その目は真っ直ぐに、何処までも真っ直ぐに自身を見据えていた。
ここまで真っ直ぐに向けられる瞳を、心にまで届いてくるかの様な瞳を向けられるのは、何度目だろう?
片手で数える程? 否―――1人しかいない。
「申し訳ありません、クルシュさん」
クルシュよりも前に、心を見据えてくれて、心に温かさをくれた人は、1人しかいない。
心の絆を、与えてくれた彼女の為に、この道を行きたい。この世界を進みたい、と思っているから。
「何処かの陣営、王候補者に仕える者、と言う意味では、オレは束縛なく、自由にさせてもらっている立場だと思います。ロズワールさんから言われた、エミリアさんの一番の騎士にならないか、という誘いも辞退もしてます。………でも」
拳をそっと握り、そして胸に当てた。
自分自身が解らない事は、今までも、これからも恐らくあるだろう。
完全に吹っ切れた訳ではない。心の弱さも、失う恐怖も、まだこの胸の中に残っている。
「オレの心は、預けていますから。共に在りたいと願っている人の元に」
晴れやかな笑顔、何処か赤みが掛かった笑顔。
それらが向けられた人物、寵愛を受けている人物。クルシュも良く知る人物だ。
良く知るからこそ―――この結果は当然見えていた。
言う前から解りきっている結果。
だが、それでも挑まずにはいられなかった自分に、少し戸惑いと驚きを覚える。
そして、最後には苦い笑顔だけが残る。
「……解っていた事ではあるが、それなりに……、いや、相応に応えるもの、だな。卿が
「あははは……。もし、そうだったらヴィルヘルムさんに捕まってしまってますね。空からの侵入みたいなものですから」
クルシュにしては珍しい。偶然の産物に対しての不満を口にした。
自らが龍になれば良い、と豪語してのけた戦乙女の異名を持つカルステン家の剛毅が、手に入らなかった英雄に対し、運が悪い、と言うどうしようもない現状に対して嘆きを入れている。
無論、そこまで本気である、とは思っていない。本気なのであれば、ここまでの笑顔は出来ないだろう。
クルシュとツカサは、少しの間笑い合うと、互いに目を合わせた。
まるで、それが合図であったかの様に、まずはツカサが声をあげる。
「クルシュさんは、素晴らしい人だと思います。……エミリアさんには悪いですが。短い間でしたが、貴女と接して、これぞ王の風格である、と思いました。肌で感じました。それは オレの偽らざる気持ちです」
風見の加護を持つクルシュだ。
ツカサのその言葉が本心である事くらい容易に解る。そして、使うまでも無く、解る。
「―――この世界に落とされて、右も左もわからない、記憶もない状態で投げ出されて、あの魔獣と相対して、王都に入って―――本当に言葉にできない程に色々ありました。もしも、寄る辺もなく、何も無い状況でクルシュさんに、クルシュさんの様な方に手を差し伸べられたら、きっと迷う事なく、その手を取り、クルシュさんの為に、力を尽くしていたと思います。……そうなってたら、きっとフェリスと毎日の様に騒がしくしてたかも、ですね」
「――――ああ。確かに。目に浮かぶ様だ」
クルシュ第一主義なフェリス。
ツカサの様な男が、クルシュの為に力を尽くす―――となったら、フェリスはどう思うか
火を見るよりも明らか、とはこの事なのだろう、と言える程だ。
ある意味ではスバルよりも解りやすい。
―――なぜだろう。……光景を夢想すればするほど、何処か懐かしい。
クルシュは、自分とフェリス、そしてツカサの3人が居るカルステン家を想像すればするほど、懐かしいと言う不可解な心情になっていた。
そして、その理由は直ぐ後に判明する事になる。
次はツカサ自身が、クルシュがそうした様に、真っ直ぐにクルシュのその榛色の瞳を見据えながら告げる。
「自由な立場とはいえ、オレの心の在処は愛する人と共に在ります。ですから、今は政敵の間柄であるのは事実かもしれません。最終的にどんな形になるのかも解りません。でも、オレは……私は皆と共に厄災と戦い、それを打倒しました。……今、ここで生まれた繋がりを、心の、魂の繋がりを絶ちたいとは決して思えないし、思いません」
心の繋がり。
嘗ては、繋がっていく事を恐れた。失ってしまう時の事を、
だけど、今はもう大丈夫なのだ。立ち向かうだけの勇気を、桃色の少女から貰ったから。
「最後の最後まで、私はクルシュ様に、……そして共に戦った戦友達に「―――敬意を払い、友好的であろう」!」
最後まで言い切る前に、クルシュが言葉を繋げた。
少しだけ、驚いた表情を見せたツカサだったが、クルシュは逆に笑っていた。
「まさか、私が言わんとする言葉を、ツカサが先に言ってしまうとは、な。そう言えば、確か卿は未来が見えるのだった。―――成る程、手合わせした時よりも更に脅威に映るな」
「あ、いえ。それは………」
「ふふ。戯言だ。聞き流せ」
一歩、クルシュはツカサに近付いた。
肩の力を少し抜きながら、少しだけ苦言を告げる。
「それに卿は優しすぎる。それがいつの日か、仇になる可能性を私は危惧する。……が、無用の心配か」
「いえ。無用、なんて思わないですよ。……ただ、クルシュさんが考えてる通りでしょう。……ラムが傍にいてくれるなら、オレは大丈夫だって思えてます。オレが、オレで居る限り」
「…………存外、堪えるものだ」
「え?」
クルシュの言葉に、首を傾げた。
そんなツカサの反応を見て、1つ呼吸をすると。
「思えば、これ程までに気持ちよく、誘いを断られるのは初めての経験だった。成る程。ラムは、最早卿の一部。余地など端からなかった、か。……清々しささえ覚える敗北感だ」
クルシュの言葉に対して、ツカサは何も言えない。
ラムと共にある未来を決めているのだから、ここまで自身を評してくれているのは光栄であり嬉しい事でもある、が。自身の我儘で、主であるロズワールやエミリアと袂を分かつ訳にはいかないだろう。
不義理な真似は、如何に心の繋がりが出来た相手とはいえ、したくは無い。
心の繋がり、と言うのであれば、エミリア達とだってツカサは同じだと考えているから。
ベアトリスに聞かれたら、キモチワルイ! と即答されるかもしれないが、それでも。
「卿の二番煎じとなってしまったが、私からも言わせてもらおう」
クルシュは吹っ切れた様に、続けた。
「雌雄を決する機会がきたとしても、私は、卿に、……卿らに対し、友好的であろうとここに誓う。いずれ必ずくる決別の日にあっても、今日の日の卿らへの恩義は、私は決して忘れまい。故に敵対する時がきたとて、私は、私も卿らに最後まで敬意を払い、友好的であろう」
同じ言葉なのかもしれない。
意味として見れば、同じ事をクルシュは言っているのかもしれない。
だが、ツカサは大きく首を横に振りたい。
二番煎じ? とんでもない。
器の大きさが、存在の大きさがまるで違う。
この世界に降り立ってほんの僅かな時を過ごした程度の自分。確かに魔法や力は強いのかもしれないが、そんなものは関係ない。
ただただ、クルシュ・カルステンと言う人物が、その言葉を、その口から発すれば、圧倒されてしまうだけだ。
もしも、最初にクルシュと共に在ったとしたら……。
「クルシュさんと最初に出会えたら―――って考えた時、言葉に出した時、此処にいないとはいえ、ラムに悪いと思ってしまった自分も居ます」
ラムからは沢山貰った。
立ち向かう勇気をくれた。
この世界に居る意味を、絆を、口では言い表すことができない程のモノを貰った。
嘘じゃない。間違いなどあり得ない。愛しているのはラム。
ツカサはラムを愛している、とはっきり言える。
それでも……。
「……仕方ない、仕方ないです」
ラムを卑下にする訳じゃない。
裏切る訳でも当然無い。
ツカサは、色々と矛盾した自分自身に対して、苦笑いをした。
そこには申し訳なさも何処かある様だ。
「もう、一度でも考えた事は、一度でも口に出した事は、変えれません。飲み込めません……ですから、ラムに思いっきり怒られてこようと思います」
「ふっ……。そうか。どうやら、私は一矢報いる事が出来たのだな。胸がすく思いだ」
故にツカサは、審判をラムに委ねる結論に至った。
自分では処理しきれないと匙を投げた様だ。
英雄にしては、聊か情けない思考かもしれない。でもクルシュは何処か満足そうに頷く。
「卿がそうである様に、私も私の心は、私自身ではない場所に預けてある。――――私の夢の果てに」
あの日、誓ったフェリスと共に誓った。
フェリスと自分自身と―――自身の中に確かに在る獅子王に。
3人で未来を創る、と。
「………!」
―――ああ、なるほど。そういう事か。そういう事だったのか。
この時、クルシュは理解した。
自分の中に確かにあるかの王の事を思い返した時、クルシュは理解した。
ツカサとフェリスと自分。
騒がしくも、共に笑い合う姿。
―――懐かしいと感じる訳だ。
かの王と……クルシュの中に在る獅子王とツカサが似ているとは言えない筈なのに。
色褪せる事なく、存在し続けている彼とツカサは似ても似つかない筈なのに。
夢想したその3人と過ごす未来が、かつて過ごしたあの時と、重なって見える。
だが同時に思う事もある。
それは、かの王の代わりなど存在しないと言うこと。
唯一無二であり絶対だから。
そしてそれは、目の前の彼に対しても同じ事である。
そもそも、そんな事端から考えてない。
恥知らずではありたくはないし、何より
だが、それでも尚、何故だか心地よくも思える。
納得できている自分も確かにいた。
淡く優しい未来の姿に、身を委ねてしまいたくなった自分も確かにそこにはいた。
だがそれは、自分の内だけに留めておく事を、クルシュは決める。
人の心と言うのは、例え自分の事であったとしても、それは非常に難解である事を自覚しているが故に。
「………さて」
クルシュは、それ以上は考えることをやめた。
まだやらなければならない事が多い現実。そこから逃避しないために。
「このまま私は負傷者と白鯨の屍を王都へと運びたいところだ、が。まだ使命が残っている様だな」
「―――はい。その通りです。ここから、ここから本番が始まると言っても良い。皆には申し訳ないが」
ツカサの言葉に、クルシュは興味をより強く持った様だ。
「ほう、即ちこの白鯨討伐が肩慣らし……、云わば勝負所を前にした修練と言った所か。……卿程の男が言い切る程の事態が待ち受けているとなれば――――手が必要。そうであろう?」
「……はい。その通り、です」
白鯨を叩き落とす程の魔を持つツカサが苦々しい顔をする。
「例え勝てたとしても、………大切なものを、守れなかったら………」
ここから先を考える。
忌々しい怠惰の集団と一戦交える。
アレらとの対決は、白鯨とはまた違った難しさを要する。
以前は、殲滅する事は出来たが、村は壊滅をしてしまった。……護れなかった。
それでは意味はない。
だが、今は時間的不安要素は省く事が出来たと言えるが、白鯨との一戦での消耗具合を考えたら不安はある。
暴走するパックを退けた力をまだ切り札として持っているが、使い処や判断を誤れば、例え戻ったとしても、そこ先から辿る道は絶望しか残っていない袋小路になりかねない。
「ケガ人だって、放っておいて良い状態じゃない。人数も多い。皆命を懸けた、悲願を叶えた後なのに、更に無理を、なんて言えないから。…………クルシュさんにもやらなければならない事がある筈だし、オレの一存で色々決めたりできる訳じゃない。でも、……これ以上頼む訳には………」
「―――ならば、この老躯、使いつぶされるがよろしいでしょう」
不意に会話に割り込んできたのは、静かな歩調で歩み寄る男。
全身に浴びた返り血が乾く間もなく、更なる死地へと赴こうと決意に満ちた顔をした老剣士ヴィルヘルムだった。
そして、まずはクルシュより承った宝剣を差し出した。
「クルシュ様、お貸しいただいたものを、お返しいたします。並びに、此度の1件。心より感謝を申し上げます。―――我が身の悲願がこうして叶いましたのも、クルシュ様のご協力があればこそ。―――ありがとう、ござます」
「私の目的と卿の悲願、互いの利害が一致しただけの事だ。……その剣、今しばらくは卿が持っているがいい。使い潰される事を望むのであれば、丸腰では話になるまい」
「――――は。ありがたく」
ヴィルヘルムの謝意に、クルシュが短く応じた。
「ツカサ殿。ナツキ・スバル殿にも、私の感謝の意を、お伝えしております事を先に―――」
続いて、ヴィルヘルムはスバルに対しても伝えている事を先に告げた。
そして、その場で膝をついた。
それが相手への最上の敬意を示すモノである事、最敬礼である事はツカサとて解る。
「此度の白鯨討伐。成りましたのは貴殿の協力あらばこそ。貴殿の力無くしては、天を泳ぐ魔獣に対し、私の剣は届かず、霧に呑まれ、道半ばでこの命尽きていた事でしょう」
深く頭を下げたまま―――言葉を紡ぐ。
「ツカサ殿、そしてナツキ・スバル殿。―――この身が今日まで、生き永らえてきた意味を全うする事叶いましたのは、紛れもなく、貴殿らあっての事です。感謝を。感謝を。―――――私の全てに懸け、感謝を申し上げる」
ヴィルヘルムの万感の思いは、あの時聞いた。
彼が戦い続けた歳月に比べれば、瞬きの様。……閃光の様に短いひと時だった事だろう。
だが、その一瞬であっても感じられた。
「貴方の想いを遂げる為の。……白鯨討伐一翼を担えたと言っていただけて、光栄です」
ツカサも片膝をついた。
「ヴィルヘルムさんの想いを。愛する人を想うその心を、私は多くを学ばせて貰いました。………私がもし――――って考えると」
胸が締め付けられる。
14年もの間、ヴィルヘルムはかの魔獣を追い続けた。愛する人を奪った魔獣、白鯨を。
自分自身が、同じ境遇であれば……?
それがどれほど恐ろしい事なのか、どれほど辛い事なのか、どれほどの苦しみなのか。想像が遥か遠く、及ばない。
その地獄の苦しみの歳月を過ごし、思いを果たす事が出来たその姿を、ツカサははっきりと目に焼き付けた。
「ヴィルヘルムさん。貴方の費やしてきた歳月を思えば、安易に口に出して良いとは思えません。思いたく、ありません。……ですが、言わせてください」
頭を下げ、目を閉じていたヴィルヘルムが、はっきりとツカサの眼を見た。
その黒い瞳を、はっきりと。
「―――お疲れ様、でした」
失った者は帰ってこない。
それでも亡くした妻への愛を燃やし続け、到達した。運命と戦い続けて勝利した彼に。
その戦いに明け暮れた日々に少しでも労いの言葉を。
「―――感謝を」
短く、声を震わせた。
ここではあえて口に出す事はしなかったが、ヴィルヘルムは思う。
―――紛れもなく、2人は兄弟なのだろう、と。
その兄弟である、と言うのは決して比喩などではない。
或いはそれ以上。
血のつながりよりも濃いモノが2人にはあるのだろう、と。
何故なら、少し前―――ヴィルヘルムはスバルからも、戦いの日々を終えた事に対する労いの言葉を、受け取っているから。
そして数秒、ヴィルヘルムはツカサと目を合わせた後、クルシュの方を見た。
小さくうなずくのを見て。
「―――クルシュ様より、許可は頂いております。この身をお預けしましょう。存分にお役立てください」
「………大切な人たちを、護る為に。……敵を滅ぼすのではなく、大切な人たちを、護る為に。どうか、どうか………よろしく、頼みます」
差し出された手。
ヴィルヘルムは、言葉に出すまでもない。
出された手を受け取り、力強く握りしめた。
恩人たちに受け取った返しても返しきれない多大なる恩に報いる事が出来る。
―――これ以上ない喜び、なのだから。