Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
ヴィルヘルムの協力は、極めて僥倖と言えるだろう。
これから向かう相手は、白鯨とはまた違った厄介さを持っており、エミリア陣営の中でも最大クラスの戦力のツカサにとってもやりづらい相手と言うしかない。
魔女教徒との一戦、あの怠惰との一戦は、白鯨の様な単純な物量戦とはまた違う。
大罪司教ペテルギウスを中心に、指先と呼ばれる手練れも揃っており、更に兵員数も半端ではない。
正面衝突であれば、エミリア陣営側の有利性は前回のループでも証明されているが、ただ勝つだけでは駄目なのだ。
「……………」
ツカサはぎゅっ、と拳を握り締めた。
脳裏に浮かぶのは、アーラム村の皆の姿。
敵を殲滅するだけでは駄目なのだ。脳裏に浮かぶ村の皆の笑顔を守れて初めて勝利と言える。誰一人欠けてはならない。
この
それはスバル達にも言える事ではあるが。
だからこそ、こちら側も相応の兵力が求められる。
村の皆を護衛し安全に避難させる組。
魔女教徒と相対する組。
少なくとも、その二手は欲しい。
「フェリス!」
「は~~い! クルシュ様!」
色々と考え込んでいた時に、クルシュから凛とした鋭い呼びかけが場に響き、間をおかずにフェリスがさっ、と現れる。
つい今し方、此処から離れていた筈なのに? レムやラムと一緒に。と言う疑問を置き去りに。
「なんです? クルシュ様! 只今、ラムちゃんに無言なお説教を受けつつ、スバルきゅんと一緒にレムちゃん・ラムちゃんの説得、しょ~~じき、治癒のお仕事よりも大変大変~! だけど、クルシュ様のお願い訊くのは勿論1番だから最優先にゃんですけどぉ!」
「?? 説得?」
ラムとレムの説得―――と言う単語に反応を見せるのはツカサである。
考え事をしていたのは事実ではあるが、気になる事はしっかり耳に残す事だけは意識していた。だからこそしっかり頭の中に、耳に残ったのである。
「そそ! ツカサきゅんからも後で説得よろしくネ~! もっちろん! クルシュ様のご命令が最優先にゃけど」
軽い気持ちで言葉を話すフェリスを見て、深刻な状態ではないだろう、とクルシュは判断していたが、しっかりと確認・言質はとる。
討伐隊を一頻り眺めた後。
「命に関わる重傷者は?」
「重傷者から処置しましたけど、危なくにゃった人はきっちりゼロで~~す! 傭兵の皆さんも含めてにゃ。ツカサきゅん、スバルきゅんの頼みを聴くくらいの力は、み~~んな、残してくれてる! って、士気向上までしちゃってるにゃ。―――――でも、勿論駄目にゃ人にはしっかり駄目、って伝えてます。フェリちゃんはできる子。褒めてくださいにゃ」
一瞬真剣な顔つきになったが、クルシュに媚びる時は、その様子も消え失せている。
重傷者たちが、この戦いに勝利したがその後に命を落とす―――なんて、美談話に持っていかれるかもしれないけれど、非常に後味悪い結末になってしまう人は1人もいない様子である事の確認は取れた。
そこは安心出来るのだが、やはりレムやラムの事、つい今し方の大声の件、気になる箇所が増えてきているのも事実だ。
ツカサの懸念がクルシュに伝わったのか、安堵の傍らでフェリスの頭を撫でていたクルシュは。
「残る負傷者は搬送可能か。ならば、フェリス。この場の治療はここまでで良い。お前はこの後、ツカサ、ナツキ・スバルと共に同行し、同盟としての役割を果たせ」
「!!」
様々な疑念がツカサの中で巡っていたが、クルシュの言葉で、また消し飛んでしまった様だ。
クルシュ陣営にとっての一の騎士であるフェリスを同行させる。
それは即ち、自陣の負傷者より同盟相手を優先させる指示にしか映らない。
それに、フェリスはクルシュ・ファーストなのは見て通り、公言して通りだ。
治療が済んでいる、五体満足である、だからと言ってクルシュから離れてしまう事は、フェリスにとっては身を切る様な想いであり―――。
「了解しました。フェリちゃん、このままツカサきゅん達に同行します。ヴィル爺の治療も道すがら念入りに」
「手間をかけますな」
「にゃ~に。その分、ヴィル爺には存分に剣を振るってもらわなきゃだし? ツカサきゅんが、あ~~んなに想いを込めちゃう様な場面に向かうって事を考えたら、万全も万全にゃ状態にしとかにゃいと!」
身を切る、断腸の……と言った様子は皆無だった。
クルシュの命令は絶対なのかもしれないが、離れる指示を当たり前の様に受け入れているのに、やや動揺を隠せれないのはツカサだ。
だが、これもまたあるべき姿なのかもしれない。
主を第一に考える。それは一の騎士であれば当然の事だろう。感情を優先して、主の意向を蔑ろにするなど、本末転倒も良い所だ。
ツカサの場合、ラムと強く深く想っているからこそ、見てくれはアレだが、想い人が居ると言う意味では、フェリスも似た様に思ってしまうのでは? と考えてしまったのだ。
それはややフェリスの事を見縊っていた事にもなるかもしれない。
「にゃにゃ、にゃ~んか、複雑な気持ち? フェリちゃんの事、今色々考えてにゃい? ツカサきゅん」
「いや、そんな事は………」
考えを読んだのか、如何とも形容し難い表情―――とはこの事と言うべき顔になりながら、フェリスは首を傾けた。無論、そんな表情は一瞬で消え失せるが。
「にゃふふふ。ツカサきゅんの実力は、この白鯨討伐戦で、もうよ~~く解った事にゃし? 恩をたーーっぷり売っておくって言う面はフェリちゃんにとってすご~く価値がある事にゃの。……ま、複雑にゃけどネ」
ツカサなら、クルシュがピンチな場面になれば、恐らく打算抜きで助けてくれる事だろう。
その人柄は、接してきた過程でよく理解した。珍しい分類とも言える人柄。
兎に角、クルシュにとっても多大なる益を生むであろう最上の男であるのは間違いない。
色々と複雑なのは、フェリスの中の複雑な男の娘心と言うヤツだろうか。
「ありがとう。よろしく、お願いします」
そして、ツカサにとっても当然ながらフェリスの同行はヴィルヘルムの同行にも匹敵すると言って良い。
王国一の治癒術士であるフェリスだ。死なない限り治すと豪語する程の者だ。
あまり考えたくはないが、もしもの時はフェリスが助けてくれると信じて良いから。
ただ、フェリスはクルシュの事を第一に考えている、思っている、その事だけは肝に銘じておく。
「にゃっふふ。………ま、
フェリスは誰にも聞かれない程度の大きさの声で呟いた。
夢幻の未来を幻視したのは、クルシュだけではない、と言う事である。
「あ、そうそう。ツカサきゅんも説得手伝ってよ」
「?? 説得?」
突然会話をぶった切って話題を変えるフェリスに追いつけないツカサは、ただ首を傾げた。
誰を説得するのだろう? と。
そして、その疑問に答えてくれるのは、フェリスではない。
「フェリス様! レムは、レムはまだ納得しておりません!」
レムの声が場に響いてきたから。
時折、苦痛に顔を歪ませてる様だが、それでも覇気だけは一切萎えていない。
「……ラムが居るべき場所はツカサの傍。それ以外はあり得ないわ」
静かだが、レムの激昂以上のモノを内包しているのがその隣に居るラムである。
どうやら、説得と言うのは、レム……そして遅れて行ったラムに関する事らしい。
「ツカサきゅんに説得して貰いたいのは、レムちゃんラムちゃんの事だにゃん。お留守番して~~って話。クルシュ様と一緒に王都に戻る組に回って~~って」
ツカサに対してウィンクをするフェリス。
納得いかない
3者に囲まれてツカサは混乱気味。
スバルはスバルで、同じ様に説得を任されていたのだろうが、レムの圧の方が上回っている様だった。
「レムなら大丈夫なんです! これから皆が、スバル君が、ツカサ君が、危ないところに向かうと言うのに、レムや姉様がいなくてどうして……!」
「そんな事いっても、身体、もう動かないでしょ? マナ酷使しすぎ。鬼族の力を使って周囲のマナを取り込んだとしても、器たるレムちゃんラムちゃんの身体には限度ってモノがあるの。マナを取り込めても、酷使した身体は いわばヒビが入った容器みたいなモノにゃ。……壊れてしまったら元も子もないにゃ」
鬼族は、角を介して周囲のマナを取り込む事が出来る。
だからこそ、無尽蔵のマナを扱える――――様に聞こえるかもしれないが、当然ながらそんな甘いモノではない。取り込めたとしても、フェリスが言う様に容器と称した身体が持たなければ、壊れてしまえば意味を成さない。
酷使し過ぎた結果……最悪の状態だって覚悟しなければならない。
「今は治癒術士として言います。これ以上の無理はさせられません」
フェリスはいつになく真剣。
死に急ぐ姿勢を見るのは嫌いだ、と言わんばかりに。
声色こそは、殆ど変わらないものの、その雰囲気はラムやスバルを揶揄っていた時とは全然違う。
「ラムちゃんだって、解ってるにゃ? ……自分の身体は、自分だけのものじゃにゃくにゃってる。……感情に流されて、大局を見誤る様な真似はしにゃいよね?」
「ッ――――……」
ツカサの事を指しているのだろう。
ラムにもそれは理解出来る。
超常的な力を有するツカサの精霊クルルのおかげもあり、五体満足以上に戦う事が出来たものの、はっきり言えば依存してしまっていると言って良い状態だ。
ラムの角が戻った訳じゃない。
自力で戦えるレムとは圧倒的に違う所でもある。
「兄弟。……どう思う?」
「…………」
まだ首を横に振らない2人を尻目に、スバルがツカサに聞いた。
「オレは、レムに頼むからフェリスの言う事を、って言ったよ。あんま無茶すんなって。―――だから、安心して愛する男達の、英雄の帰りを待ってろ、って。ま、ラムには散々毒吐かれちまったけどな」
他力本願も良いとこだ、とスバルはスバルで自虐的に笑って見せた。
でも、レムはまだ曲がってない所を見ると………。
「オレの想像上の事ではあるし、レム自身が口に出した訳じゃねーから何とも言えねぇんだけど……、多分、レムは兄弟……、クルルの手を借りたい、って思ってる筈だ。……それを口に出来ねぇのは、ツカサの負担になるかもしれない、それが天秤を大きく揺らせてる」
他力本願の見本であると自覚しているスバルにとっては、耳の痛い話だ。ツカサの事を頼って仕舞おう、と言う事なのだから。否定も出来ない。自らがやり続けているから。
「あーーー、もう。なっさけねー英雄だな、オレ。まさに、レベル1だわ。…………」
結局は英雄の上に居る、超英雄に任せなければならない事に苦言を零した。
ツカサなら、最善を選ぶ。そして最善を選び、掴みとるだけの力を有している。
目指す目標の高さに、目が眩みそうだ、とスバルは首を振った。
だが、だからと言って目指さない訳はないが。
今、力が足りないのなら、ヴィルヘルムの様に只管愛する人の事を思い描きながら、戦い続ける。それだけだ。
ツカサは、スバルの話を聞いてゆっくりと頷くと。
「ラム、レム」
2人の元へと向かった。
少し身体を震わせたレム。そしてラムも同じく。
傍に居たい。傍に有りたい。離れるのは嫌。
狂おしい程好き。愛している。
向けている先が違えど、その心の内なる想いは姉妹共々同じだ。
だからこそ、固唾をのんでツカサの言葉を待っていた。
ただ、その口から発せられた言葉は、全く想像もしていなかった内容。
「これから、奴らより早く、アーラム村に着けて、皆を避難させるとしたら……王都側だけって考えるのは悪手だと思うんだ。出来る限り目立たせたくないし。土地勘も無いし、地理に詳しいって訳でもないから、2人の意見、聞いてみたい」
目を丸くするラムとレム。
それはフェリスも同じく。スバルに関しては、ツカサに全て任す! と半ば無理矢理なげやり感になってた為、3人の様にはなってなかった様だ。
「……ラムなら、半数は王都に、半数は聖域に案内する事が最善と判断するわ。聖域にはロズワール様もいらっしゃるから」
「―――ッ」
レムよりも早くに言葉を発したのはラムだ。
ツカサの心情やその言葉の裏を読めた―――訳ではない。今回に限っては ラムも解らないから。
「ちょちょ、ツカサきゅん? それってまさかとは思うケド……、ラムちゃん達連れてく、って前提の作戦会議、って訳じゃにゃいよね?」
間に割って入ってくるフェリス。
呆気に取られていた様だが、フェリスもまた持ち直した。
ツカサならば、間違いなく賛同してくれる―――と信じて疑ってなかったからこそ、この対応には目を見開いてしまう。
ここで、漸くツカサは本心を口にした。
「ラムとレムを、これ以上戦わせない、と言う意見には賛同しています」
「んでも、戦地に向かえば、2人は絶対無茶するにゃ!? それくらいツカサきゅんなら解ってる事でしょ!?」
火を見るより明らかだ、と断言しつつ、フェリスは真剣な顔つきになる。
お調子者な雰囲気だけでなく、表情のソレもガラリと変えてきた。
「これは、治癒術士としての忠告。今の状態で無理無茶すれば命の保証はしない」
フェリスの言葉を正面から受け止める。
確かに、ラムやレムが………と考えれば、考える程、身体の内側から焼かれる様な苦しみを覚える。
ヴィルヘルムの14年もの歳月を鑑みた時も同じ感想だった。
でも―――。
「魔法や武器の、武力だけが、戦いじゃない、って思ってます」
ツカサもまた、真剣な顔つきのままで、フェリスに言った。
「レムやラムが、傍に居てくれるだけで、安心出来る筈なんです。エミリアさんへの説明や、アーラム村の人達。聖域の事やロズワールさんの事。スバルとオレだけじゃ、役者不足だ。……特にスバルなんか、エミリアさんと仲違いしちゃった勢いだし」
「うぐぐっっ!! 予想外!! まさかの射程外からの強装弾!?」
思い出したくもない苦い記憶を、突然不意打ち気味に思い出されてしまったスバル。
まさに弾丸を受けたかの様に身体を、くの字にさせてしまっていた。
「クルシュさんの、皆さんのおかげで戦闘に関しての憂いは無くなりました。……だから、2人に無理は絶対させません。……それに無理する役目は、
ツカサは、手のひらにポンッ! と無理させる、と断言した相手を出した。
そこには、エメラルドとルビーの輝きを持つ精霊が……、【………え?】と言った感じで周囲を見回していたのだった。
フェリスは納得しかねる、とレムやラムがつい先ほどまでしていた顔をしていたが、最終的には折れる結果(クルシュの一押しで)となったのだった。