Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
「とりあえず、あー、オレ達が向かうのはメイザース領、ロズワールの屋敷だ。そこにおそらく……、いや確定的に魔女教が現れる」
作戦の説明はスバルを抜擢。
クルシュとの会談もスバルに一任されていて、良い流れを生み出した。今回のスバルやツカサにとっての本番に対する説明も、必ずや、やってくれる事だろう……と、そんな期待に満ちた声掛けではなく、毒吐き増し増し、相応のプレッシャーを与えたのはラムだったりする。
【魔女教……】
そんな身内の事はさて置き、魔女教の名を聞いた途端に、表情に複雑な感情が生まれ出した。
白鯨戦は修練であり、本番はこれからである、とツカサがクルシュに言っていた。それは皆にも伝わっているのだ。
だからこそ、相応の相手がこの先に待ち構えているだろうと解ってはいたが、実際にこの耳で聞くと、感じ方もかわってくる。
予想が現実のモノになったのだから。
「君たちは、魔女教が来ると確信しているのは解った。クルシュ様の加護と言う説得力も当然ある。私が気になるのは、白鯨と魔女教の関係性だ。どうして気付いた?」
ユリウスの疑問に答えるのはスバルではなく、ツカサの方だった。
無論、子供染みた感性で、ユリウスと話したくない! とか、スバルは思ってない……とも言えないが、説得力と言う面では、魔女教・白鯨の関連性に関してはツカサの方が適任なのだ。
「現在では、あの魔獣の呼び名は【白鯨】となっている様ですが、古い文献では【暴食】と呼ばれていたそうですね。魔女教には大罪の名を持つ幹部が居るとも聞いてます。―――大罪司教と呼ばれている者たちが」
現在、ツカサが出くわした大罪の名を冠する魔女教の幹部……大罪司教は【怠惰】の1人のみだが、調べてみれば怠惰を含めて6人存在するらしい。
あまりにも有名な話故に、調べるのは簡単だった。……憎悪を以て調べたが故に、容易に行きついた。
今回の件が終われば、ベアトリスの禁書庫で調べれるだけ調べさせてもらえないか? と相談するつもりだったりもする。
「……それは、私も知っている。いつから暴食から白鯨、と呼ばれる様になったのかまでは記録上では残ってはいないが。かの魔獣を一目でも見れば、白鯨と呼ぶ方が解りやすいと言えばそうだな。……しかし、根拠とするには、まだ弱いのではないだろうか」
「うん。ユリウス……ユーリの言う通りだと思うよ。白鯨の昔の名が暴食って名前だったから、魔女教がやってくる、エミリアさんの事を含めても、それだけじゃ騎士団でも動いてくれないと思う」
ツカサの言い分に、ユリウス事ユーリは苦い顔をした。
今回は、疑いを持った言い方をしているのだが、ツカサに関しては最早疑う余地等欠片も持ち合わせていないのだ。便宜上、皆にも等しく納得してもらうが為に、話を進めているだけに過ぎない。
ツカサの言い方だと、王国騎士団に助力を求めて、真偽不明な情報だからと断られてしまったのだろう。そう想像するのは容易い。
ただ、魔女教がらみの情報は幾つも寄せられている為、仕方ないと言えばそうなのだが……。
ユーリの苦い顔はツカサにも解ったのだろう、軽く頷いて見せた。
大丈夫だ、と言わんばかりに。
「ここからが重要なポイントだよ。……皆も知ってると思うけど、以前にオレは白鯨と相対した事がある。このリーファウス街道でね。………その時は、白鯨だけじゃなかったんだよ。ヘンな奴らに出会ったのは」
ツカサの言葉を聞いて、事前に聞かされていた身内、スバルやレム、ラムは特に変わらないが、他の者達には緊張の色が見えていた。
「黒装束に覆われた集団。有無を言わさずに襲い掛かってきた。……その時は、白鯨とのやり取りで、消耗してたから、応戦せずに逃げたんだ。………当時は、自分の記憶も無いし、ここがどこだかも解らないし、襲われる理由だって意味が解らない。……その時の仲間を護る事と自分の事でいっぱいいっぱいで、考える余裕だって無かったんだけど、今思い返してみれば明白。魔女教だったよ。魔女教大罪司教《怠惰》担当、って言っていた」
因みにこれは、この
云わば、並行世界で起きた出来事。
オットーと共に、白鯨の魔の手から逃げた後暫く旅をする事になるのだが、その時に遭遇したのだ。
力は大体全盛期だったと言えるかも知れないが、如何せん力の操縦技術が伴ってなかった事も有り、大事を取って
結果、最も厄介でありオットーが無事では済まなかった魔女教との邂逅の運命は逃れる事が出来たのである。
なので、オットー自身も当然魔女教絡みでは身に覚えが無い筈なので、証人として呼ばれたとしたら、案外危なかったと言える。
嘘は誓って言ってないのだが、この正史世界では起こってない事だから。
王都にて単独白鯨撃破の偉業、最高位と呼ばれる勲章を授与された男の新たなる事実に、場にどよめきが生まれる。
世迷言や、盲信の類じゃないのは、誰もが解る。
ツカサがそこまで言うと、もう信じない者は誰一人としていない。
スバルにも、それが解った。皆の顔は、見ただけで解る程のものだったから。
「兄弟が、白鯨に続いて、今度は怠惰を退けたって新事実発覚。マジすげー、マジやべー、マジリスペクト!! さあ、もう安心だ!! って言いたいとこでもあんだけど、アイツらは数が滅茶苦茶多いんだ。……今回のは、敵と戦って殲滅するのが真の目的じゃない。村の皆や、エミリアを守る。それが出来なきゃ、オレ達の勝ちにはならないんだ。例え怠惰を倒したとしても……」
スバルの言葉に、ツカサも同じく大きく頷いた。
前回のループでペテルギウスと相対し、正面から戦って勝つ事は可能だ。問題なく出来た。……だが、空から見た敵の規模。隕石魔法で潰したとはいえ、まだまだ出てきたあの敵の数。
数の暴力とはよく言ったモノだ。
おまけに、単なる雑兵と言う訳ではない。武芸・魔法を満遍なく使い、誰かを殺す事に一切の躊躇もない狂人集団だった。
それでもツカサやラム、レム、(ついでに)スバルの4人で戦っても勝つのは、大したものだと思えるのだが、戦う術を持ち得ない村人たちの事を考えれば、ある意味白鯨戦より厳しく辛い戦いになるかもしれない。
誰一人欠ける事を良しとしていないのだから。
村の皆にはちょっとの間避難して、後は平和で過ごして貰いたい。……ただ、それだけだから。
「―――解った。それに騎士団の推測も間違っていなかったのだと、確認も取れたよ」
ユーリも頷き、周囲を確認。
その表情には最早一欠けらの疑いすら残っていない。本当の意味で信じて万全で望む事が出来る。
「そう言えば、ヴィル爺が追っかけてた資料でも、そんな結論に落ち着いてたみたいだよネ?」
「―――確証があるとまでは言えませんが、確かに白鯨の出現分布と魔女教が活動した記録が符号する点が幾つか見えましたな」
「ヴィル爺にとっては、白鯨が本命で魔女教はおまけみたいにゃもんだしネ。フェリちゃんも最初聞いた時は半信半疑だったけどぉ、確かに。白鯨のふっるーい名の方を考えてみれば、って思うよネ」
剣鬼ヴィルヘルム、そして最優の騎士ユリウス。
この2人の太鼓判だ。スバルの表情も明るく、ツカサも同じく頷いて相槌を打った。
「っしゃ、説得力倍増って意味じゃ、オレ達にとってラッキーこの上ねぇ。そういや、元々白鯨っつーか、魔獣? ってのは魔女が作ったんだろ? なら、アイツらにとっても切っても切れない関係性になりそうだけどな。……性質悪ぃ、猛獣飼ってる感じはすっけど」
「ああ、確かにそう言われているね。魔獣の存在や発生は未だに得体が知れない。普通の生物の様に繁殖する場合もあれば、白鯨のようにふいに湧くものもある。―――もっとも、白鯨の様な例外はせいぜい《黒蛇》と《大兎》ぐらいなものだがね」
ピクリ、とその魔獣の名を聞いてツカサは眉をひそめた。
「三大魔獣―――ですね。魔女教と白鯨の関係性が決して少ないものじゃないのだとしたら……」
「わーわー、取り合えず、おっかない魔獣の話は止め止め。マジ、噂して今回のに引っ付いてきたら最悪通り越しちまうよ。三大だか四天王だか、そんなヤベーの通り越してそうな奴らと連戦とか、考えたくも無い」
魔獣を関する以上、スバルの魔女の残り香は有効だろう。
だが、考えても解る通り、その三大魔獣の一角を討伐出来たとはいえ、ここまで消耗したのだ。
出現時間をハッキリわかった上での奇襲作戦。持てる戦力全てオールベッドして臨んだ対決でさえ、かなり際どかった。
なのに、同格クラスの魔獣が出てくるとか、カンガエタクナイ。と言うのがスバルである。
ツカサは、出てくるなら対処するしかない、と半ば悟りの境地だ。その辺はついていけない、と匙を投げるスバルだった。
――――ツカサに付いて行く?
それを聞いていたラム。
後ろで、ハッ! と言っていたのもご愛敬である。
「魔女教の連中が狙ってるのは、間違いなくエミリアだ。……奴らは屋敷どころか、近くの村ごと焼き払う気だ。―――だから、どうにかして野郎共を追っ払わなきゃならねぇ」
「追い払う? スバルきゅんってば、甘っちょろい事言うよネ」
「……これに関してはフェリスに同意するよ、スバル」
あの地獄を見たのはスバルだって同じ筈だ、と静かだが、憎悪の炎を宿した目をしながら、フェリスに同意する、と言う形でスバルに訴えた。
スバル自身も、語弊があっただけだ、と言わんばかりに、視線を鋭くさせる。
「……そう、だな。追っ払う? ついつい軽い口調で言っちまったのは、オレって性分だと思ってくれ。内容通りじゃねぇよ」
「君の軽口については、此処にいる全員が共有しているとも。安心してくれ」
「ちっとも安心出来る様な内容じゃねーし! 過去ほじくり返すのって男らしくないぞ!」
ユーリの言葉に、スバルは大抗議―――するが、兎にも角にも、今は魔女教の話だ。
「第一は、エミリアと村の皆だ。皆の安全が第一に優先する。それ以外は殲滅。――――滅殺だ。オレが最前線のアタッカーでやってやりてぇ、って思ってんだが、デバフ特化型なんでな。足引っ張る未来しか見えねぇから適材適所でやってくつもりだ」
「ん。……怒りを覚えてるのはオレも同じだから。一緒に持ってくつもりだ」
スバルとツカサの魔女教に対する憎悪。
それは、隣でただ黙って傍で控えているだけの筈のレムとラムにも伝わっていく。
底知れない憎悪。
話を訊く限りでは、遭遇しただけの筈なのに、それだけに留まる様子は無い。
やや、気になる点ではあるが。
「……解った。君たちの彼らへの怒りは十分過ぎる程、伝わったよ。それに、魔女教が各地で甚大な被害を齎してるのも事実だ。……君たちと同じ境遇の者だって間違いなくいる。負の連鎖を、今解き放たないといけないな」
ユーリの気取った言い方に関しては、普段ならば文句の1つや2つ、茶々の1つや2つ入れてやろうか、と言う所存だが、生憎今は憎悪が勝ってる。
勝った憎悪だったが……あまり、周囲にそれを撒き散らすのも大人気ない、と考えたツカサは咳払いを1つして、どうにか殺気を抑えた。
「申し訳ない。色々、高ぶってしまったみたいだ。恰好悪い所を見せて」
「いいや。問題ないさ。……彼ら、魔女教に対して言えば、君の感性こそが正しい、と私も断言しよう」
「ッ~~~、ったく。まぁ、あれだ! 怒りと憎悪漲らせて~~じゃ邪推も良いとこだ! エミリアたんに近付いたのもそれが理由だなんて思われたら最悪中の最悪!! エミリアたん最高!」
「にゃーに突然言っちゃってんのサ! ツカサきゅんとユリウスで格好良く締めちゃってたのに、そーゆーとこ、まだまだにゃんじゃにゃい? それに、兄弟兄弟ってツカサきゅんの事ばーっか、スバルきゅん言ってるけど、スバルきゅんだってあれだけ自分の犠牲覚悟の作戦決行して、餌になっちゃって白鯨落としたんだよ? 今更誰がそんにゃ邪推するの?」
「ぅ……、ま、まぁ 別にきょーだいが凄過ぎるから、卑屈になってるって訳じゃないんだからね!」
「これまた、にゃーに言ってんのかサッパリ。でも、にゃんだか、その喋り方、フェリちゃんそそられちゃう」
ツンデレネタをスバルは披露したが、生憎異世界で需要は無さそうだ。フェリスは盛り上がってる様だが、今日、この日限りで消失しそうな気がする。クルシュに対してツンデレを求めるのは無理だし、クルシュにツンデレかますなんて、余計に無理だろうし。
とか何とか色々考えていたが、取り合えず頭を振って仕切り直し。
「あー、それとちょっと聞きたいんだけど、その、エミリアが名前出すと、魔女教連中が動きだす理由って、どっからきてんの? 白鯨との繋がり云々より、どっちかって言えばエミリア関連で納得してるのが多い気が済んだけど、基本魔女教って実体不明な部分が多いんだろ?」
「………それは、オレも気になる所、かな。予想はある程度出来てるけど」
予想はしているけれど、言葉にあまりしたく無さそうなツカサ。
予想さえも届いておらず、この場にエミリアが居ないから、居ない場所でなら聞いてみる、と思ってるスバル。
色々と呆れた様子のフェリス。
「記憶にゃい、って公言してるツカサきゅんなら兎も角、にゃーんでスバルきゅんまでわっかんないのかにゃ~」
「うぐっ、耳がいてーけど、時間も有限だ。ちゃちゃっと頼むぜ」
スバルは慣れっこだ、これから英雄を目指すんだ、と自身に言い聞かせて、気にしない事にした様子。
実を言えば、情報を得る手段は持ち得ている。
最大級の信頼を愛情を得る事が出来たレムの存在がソレだ。
今も常に傍に控えてくれている支えてくれている。そんな彼女に説明を求めれば、色々教えてくれる事だろう。
それはツカサにも言える事。
だが、それはあの屋敷で何度もループした身からすれば、早々安易に話を聞けたりはしない。
姉妹と魔女教との因縁の深さを知った今、ラムとレムは気にしないのかもしれないが、男達の間柄では、ちょっとした禁忌になっている。特にただでさえ、スバルの魔女の残り香の事もあるのに、これ以上追い打ちをしたくなかったりしていた。
だが、こうやって魔女教と直接やり合う機会が訪れた以上、全てを知っておかなければならないのも事実だろう。
「ほーん、まぁツカサの兄ちゃんの例外って事も考えりゃ、スバルの兄ちゃんが知らんのに、仕切ってるのも割とおかしい事でもない気がしてきたわ」
リカードもその巨体に似合う大きな声で話に割って入ってきた。
どうやら、説明をしてくれる様だ。
「……魔女教が後生大事に信奉しとるんが《嫉妬の魔女》サテラや。これは知ってるわな?」
「一応な」
「ん」
リカードの問いに対して、スバルは勿論知っている。
何せ物凄く有名な話であり、スバルが言語、この世界の文字を覚える過程で使わせてもらったイ文字だけの本でも出ている程。
ツカサは、一足先にオットーと共に旅をしている間に、文字に情報に触れた。
そして、ベアトリスからも聞いている。
あの書庫で屋敷の1週間の繰り返しで幾度も目にしたから。
「実物見たヤツなんぞほとんどの残っとらん。ワイかて聞きかじりやがな。まぁ、魔女教徒がそのサテラを信仰しとるんがわかってたらええわ。んで、そのサテラっちゅう魔女がハーフエルフや。―――それだけでも見えてくるもんがあるやろ?」
リカードの言葉に眉をひそめた。
「エミリアの、その見た目の特徴が魔女とそっくりだからってんのか? だからってあの子を責める理由にはならねぇってもんだよ。まさにお門違いの逆恨みだ」
「大抵の奴はそうは思わん。サテラが世界にやらかしたんは、それ程根深いっちゅーことや。そら深過ぎてしゃーないわ。……んで、魔女教の話に戻る訳やが」
ハーフエルフに対する風当たりの悪さ。
同じ人種と言うだけで、どの様な視線を浴びるのか、想像するだけでも悍ましい。
それが、嫉妬の魔女サテラの伝えられている容姿と似通っているエミリアが現れたとするならば、ハーフエルフに対する憎悪の全てを集中させられると言われても、仕方が無い。
エミリアの事が好きなスバルだからこそ、毎回憤慨しているのだが、たかだか数ヶ月の付き合い、一瞬の出会い。その想いだけで、この400年を覆せる程、世界は甘くないと言うのも何処かで解っている。
それでも口に出さずにいられないのがスバルであり、自重して貰いたい面はあるにはあるが、それでこそスバルだ、と思い始めてしまってるツカサも困ったモノだ、と自虐に考える事だって多々ある。―――無論、ラムは反対派ではあるが。
話は逸れたが、リカードの本題に耳を傾けよう。
「単純な話、アイツらはハーフエルフの存在が邪魔なんやろなぁ」
「は?」
「………」
呆気にとられるスバル。
そして、ツカサはその言葉の真意を読取る。
あそこまでの破壊をした怠惰。
何故、そこまでハーフエルフに拘るのか。試練と称して破壊行為を行うのか。
その根幹が、邪魔だ、と言うその本当の意味は……。
「なんでだ? 普通に考えて………いやいや、あんな奴らの普通なんて、ある様で無い狂人だってわかってっけど、大好きな同じハーフエルフ。長い目で見りゃ血が繋がってても不思議じゃねーかもしれねぇのに、なんで迫害って考えに?」
スバルの疑問も最もだ。
あまり考えたくはない。嫉妬の魔女サテラとエミリアは違う。全くの別人だ。エミリアはエミリアだ、と長く言い続けてきたスバルだが、ハーフでも《エルフ》だ。エルフの種族がどれ程の数かはわからないが、少なくとも王都や村では人間の数の方が圧倒的に多かった。
種族数が、その絶対数が少ないのであれば……遠い親戚……とか考えられても不思議じゃない。
「信奉し、これ以上ない存在だと思うからこそ、同じ様で違う存在が許せないんでしょう。……似ているのに違う、紛い物。―――その存在が、憎い」
その声はひどく冷たかった。
口調こそはいつもと違うが、その声の主が誰なのかは直ぐに解る。……フェリスだ。
何処までも冷たい目をしていた―――が、直ぐにその表情を崩す。
「にゃーんてフェリちゃんは推測してみちゃったり?」
「……推測の域を出ないのが現状。後は本人に確認するしかない。………話が通じる相手じゃない事は保証するけど」
フェリスは陽気な表情に戻った……が、その代わりにツカサが底冷えする様なフェリスの雰囲気を引き継いだかの様に、その瞳の奥は暗く沈んでいた。
フェリスも一瞬ぞわっ! とするが、自分のせいでこうなってしまったのか、とやや責任を感じた様で、勢いのままに手を叩くと。
「はいはーーい、魔女教の奴らが頭おかしいのなんて、今に始まった話じゃないし、そんな感じでいーんじゃない? 問題は、エミリア様を狙う魔女教―――怠惰の方」
フェリスの言葉に頷くユーリ。
「魔女教大罪司教……、嘗て 傲慢。憤怒。怠惰。強欲。暴食。色欲。―――大罪の名を冠した6人の魔女がいたが、嫉妬の名を受けたサテラにより呑みこまれている。……その失われた大罪の魔女たちの代わりに、現在名乗っている、と聞いている。そして、嫉妬の名を持つ大罪司教は存在しない。彼らが信奉するサテラの象徴だからね。―――つまり、それ以外の6つ。大罪司教は6人存在する」
「6人………」
続くユーリの説明を聞いて、底冷えする声色や雰囲気の時とはまた違った緊張を生んだ。
ペテルギウスの怠惰を聞いた時点で、調べていなかったスバルでさえも、想像がついていたが、あんな狂人が他に5人もいるなんて考えたくない。
確かに、前回は直接的なバトルにおいては完勝した、と言えなくもないが、能力がえげつなさすぎるのだ。
自惚れではないが、時間を行き来する事が出来るある意味
あのアーラム村の光景を思い返せば……。
「まとめて来てくれるのなら、全部叩き潰せるまたとない機会でもあるな」
「……おおっ! さっすが兄弟。オレより早く言っちゃってくれてるね! 魔女教そのものを一気に傾けてやれるチャンスだな」
「およ~~、強気じゃん! うんうん、得体のしれない魔女教をぶっ潰すいい機会だっていうのはフェリちゃんも同意見。あの連中、ルグニカだけでも相当舐めたマネしてくれてるし」
魔女教に対して、思うのは一般的に同じなのだろう。
フェリスでさえ、言葉遣いが変わる程だから。
そして、それは騎士の中でも、最優と呼ばれ、騎士の鏡でもあり、非常に真面目な男、ユリウス事ユーリも同じ様だ。
「白鯨同様、世界中が被害を被っている。騎士団も長く辛酸を味わわされてきた相手だ。私以外にも、多くの騎士がそうだろう。―――機会が得られるのはありがたい」
模範とされる騎士である彼でさえ、同じなのだ。
全員の意志が1つに。……元々白鯨を討伐した間柄であり、討伐に参加出来なかった者たちも含めて、更に強くなったと言って良いだろう。
「相手は大勢だ。蛆虫みてぇに湧いて出てくる。でも、ユリウスたちが合流してくれたおかげで、人数的な不安は完全に消えた。……痛みを伴う戦いかと寸前まで考えてなかった訳じゃねぇが、今回に限っては、一方的に連中を蹂躙させてもらうぜ」
ぎりっ、と強く歯を喰いしばるスバル。
意志は同じ、1つだ。
ツカサは勿論の事。
一言も口を挟まず、夫々の傍で控えているレムとラムも。
「1つ、訂正したいのだが」
そんな中、ユリウスが手を上げた。
「私の名前はユーリだよ。ツカサの様に、少し間違えたとしても訂正してユーリと呼んでくれないか。ユークリウス家の長子とは親しくしているのは事実だが、間違えない様に」
「あ、スバル間違えてたね」
「いやいやいや、その設定公的な場面以外じゃ完全に邪魔なだけだろ!? この場の全員事情しってっし、わざわざ言う必要ないって思っただけだが!」
「普段から留意する事こそが、肝心な場面でボロを出さない秘訣だよ」
「何言ってやがる! そもそも近衛騎士の格好とかしてきてる時点で、【僕、ユリウスです】って、証明しながら歩いてる様なもんだろーが! 特徴的な髪の色とか、面とかしてんだからよ! 作り込みが浅すぎだ!」
軽く一悶着があり、―――いい具合に発散出来たから、気を取り直して本題に入れると言うものだ。
魔女教憎し、それは一致団結しているが、怒りは必要以上に力を与えたとしても、冷静さは著しく失われる。
作戦会議をする上では、あまり好ましくない感情の1つなのだから。
「ありがとう、ユーリ」
「何に対しての礼かは、解らないが。……受け取っておくよツカサ」
大体察するツカサ。
そして察したツカサを察するユリウスこと、ユーリ。
解ってないのはスバルだけ。
「ハッ。そういうトコよ」
「どーいうトコだよ!?」
しれっとラムからの野次が飛びつつ―――本題に入る。
「こっからが肝心なトコだな。クソったれの魔女教野郎を倒す方法は至ってシンプルだ。―――こっちの動きが割れる前にかち込み。……有無言わさず叩き潰す!」
ゴッ!! と力強く左右の拳を当ててならせるスバル。
意気込みは買うが、具体性に欠けるのも事実。
「うーん、ツカサきゅんや、ラムちゃん、レムちゃんが居る以上勢いだけ、って訳じゃにゃいと思うんだけど……」
「そりゃ、どーもすいやせんでしたね! 解ってるよ! オレ1人じゃ説得力欠片もねーって事くらい! これから期待しててくださいーー!」
フェリスはスバルの言葉を聞くと軽く咳払い。
自分からふったとは言え、ここからはかなり重要な話だ。茶化す場面ではない。
「森の中に居る魔女教。どうやって見つけるの? 400年尻尾を掴ませない連中の集まりにゃんだよ?」
「あー、そこなんだがな。……事前打ち合わせ、身内だけの秘密の会議で、最適解はもう導き出されてるんだよ」
ニッ、とスバルが笑うとツカサが頷いた。
「基本は、白鯨の釣り方と一緒で、オレの臭いを使う。つまりは向こうから寄ってくるって算段だ。んで、ネックなのは、広大な森の中だって事。どっから沸いて出てくるか不透明な部分もあるから、その辺の探索は、兄弟が一任してくれる」
「はい。一任されてます」
ひょい、と手を上げた。
ツカサに対する皆の信頼はよくわかる―――が、一部例外がいる。
今の今までは、特に作戦実行の内容では無いので、聞き手側だけだったが、いざ実行内容の話ともなると、憂いは1つでも残ってはいけない、と考えるのが普通だ。
「一体なんの根拠で、あのメイザース領の広い森林の敵を把握するですか? それに、匂いでつる? 根拠が乏しすぎて、信じろと言われても――――」
ミミの弟のティビー。
部隊を率いている者として、魔女教と言う世界の敵であり、強大な敵を相手に、不確かな情報で攻めて、皆を危険に晒せられない。
そう考えるのは至極真っ当だと言えるだろう。
ただ、ティビーはツカサと一緒に……、つまり白鯨討伐に参加していない。
かの討伐戦に参加していたなら、恐らく信じる事が出来ただろう。
それをまるで象徴するかの様に。
「ぎゃんっっ!!」
ティビーの頭を杖で叩く者が居た。
姉のミミだ。
討伐戦に参加し、無条件で信じるに足る様になった者の1人でもある。
「なにするですかっ!?」
「おにーさんとおにぃを信じらんないなら、ティビーはお姉ちゃんの事信じてついて来ればいーの!!」
「…………」
いつもの行き当たりばったりの勢いだけ……だとしたなら、ティビーももっと反論していただろう。部隊の命を預かっているのだからそれも当然。
だが、ミミの目は、いつもの勢いだけのモノではない、と弟だからこそ、解った様だ。
「おにーさんとおにぃ、ってどっちがどっちかわかんないです!」
「あっちのすげーーのが、おにぃで、こっちのぬぼーーのが、おにーさん! おぼえとくよーに!」
「ぬぼーーってなんだそりゃ!?? この世界来て初めて云われた単語だよ!!」
賑やかになるのは結構だが、話を先に勧める事にしよう。
「まず、えっと……」
チラッ、と視線を向けるのは先ほど疑問を呈した獣人のティビー。
彼の名が中々出てこなかったが、それも一瞬だ。
ミミがティビーの名を連呼していたから。
「ティビーが疑問視していた相手の探索だけど、それはオレの魔法で可能なんだ」
「魔法?」
ティビーは、名を呼ばれたので、取り合えず姉と絡むのを一時中断してツカサを凝視。
無論、広範囲探索ともなれば、興味がわかない訳が無いのだろう、作戦の要でもあるので、他の全員もツカサに集中した。
手に平をそっと差し出すと―――周囲に変化が起こる。
全員が集まったこの場所は、大体半径5~6mの円形で固まっている。
その皆を最初から包んでいたかの様に、そよ風が、ゆっくりゆっくりと渦を描き―――軈てツカサの掌に潜り込んでいった。
「白鯨を落とした風の魔法【テンペスト】の応用。今見せた通り、これに当たっても無害。攻撃したり、何かを飛ばしたりする風じゃないから。―――ただ周囲に散って泳がせる。そこにある空気の様に。でも、これはオレの感覚と繋がってる状態にしているから、触れれば解る。森の何処に連中が居るのか解るんだ」
ツカサの説明を聞いて、涼しい顔をしていたユーリだったが、少し顔を強張らせた。
隣のリカードも同様。
「凄まじい魔法だな。敵地偵察の重要性は、私も良く知っているつもりだ」
「ワイらも同じや。情報は強力な武器。兄ちゃんの今のヤツもワイは全くわからんかった」
敵陣を丸裸にするも同然な風による探索魔法に驚き、それが周囲に伝わっている所で、ツカサが但し付けをする。
「そんな良いモノじゃないよ。解るって言っても、触れたモノの位置とかだ。その詳細まで解る訳じゃない。敵味方の判別がつくって訳でもないから、街中とかじゃ意味を成さないし、ひょっと敵が紛れ込んだとしても、それを判別できる訳でもない。広範囲探索が出来る分、長時間するのは大変だし、集中してやらないといけないから、丸腰にもなる。……デメリットが多いけど、今回はメリットの方が大きい。何せ、あの魔獣の群生地でもある森の中で、人型の何かが居るっていう今の状況下なんだから。最大の効力を発揮してくれるんだ」
「そうやゆーてもなぁ、兄ちゃん。十分破格の力やで? 謙遜し過ぎやろ」
がっはっは! と笑うリカード。
何処までも謙虚でいて、強大な力を持つツカサに改めて、リカードなりの敬意と尊敬の念を送る。
「……ツカサ。ラムも千里眼を使うわ。戦うな、と言うのには従うつもりだけれど、当初の予定通り、千里眼で手伝いはさせなさい」
「!」
直ぐ傍にいたラムがツカサに言う。
フェリスに言った通り、ラムとレムはエミリアや住人達の避難側に回って貰う予定だったので、魔女教の連中と相対する場面には連れて行かないつもりだった。
色々と我慢をして貰って、信じて貰う予定だった……のだが。
「ツカサはラムが心配で心配で仕方が無い事は、ラムにもよくわかってるわ。愛するラムだもの、当然よ。……だから、ツカサが
ラムはそういうと、チラリとフェリスを見た。
もうテコでも聞き入れない事を解っているので、半ばフェリスは呆れた様子で首を振る。
「ラムちゃんってば、フェリちゃんの言う事は聞いてくれにゃいじゃにゃい。……そこにはフェリちゃんも居る。何かあっても直ぐ対処できる様に、フェリちゃんも傍にいる事。それを条件に加えてくれるなら、太鼓判を押す」
「ラムは構いません。……ツカサ」
視線がツカサに集まった。
最後は、ツカサは少し笑みを浮かべる。
「心強いよ。……本当に」
「ってな訳で、超英雄パワーも借りて、連中の位置を把握。そんでもって、オレを餌におびき出して、狩り尽くす。………村人の安全確保。クルシュさんとこの使者が親書をエミリアに渡すって手筈にもなってるから、同盟成立は理解してもらえる。だから、後は魔女教を叩き潰すだけに集中できるってワケだ」
最後はスバルがそう締めた。
「……成る程。準備万端。これ以上ない形での奇襲も可能ってわけやな」
「魔女教にこれほど優位に挑める戦いは、そうは無いでしょうな。―――宿願を果たした上に、このような機会を与えられた。血沸くな、と言われる方が難しい」
剣鬼も燃えている。
宿願である白鯨討伐を無し、燃え尽き症候群の様になるか、と一縷の懸念があったが、この老剣士に安寧と安息は必要ない、と言わんばかりだ。
剣に生き、剣に死ぬ。
その相手が世界に仇名すモノであり、恩人の両名を苦しめる相手であると言うのなら、これ以上ない。
「えっと、取り合えずこんなもん、か。猿でも出来る―――」
「―――スバル。怠惰に関する最後の情報がまだ残ってるよ。
「っと! そだったそだった。……まさか、このオレ最大の功績をオレ自身が忘れるとか、全然笑えねぇな」
スバルは、苦笑いしつつ、軽く咳ばらいをして皆の視線を集めなおした。
荒ぶる、高ぶる気を抑える様に、また静かになる。
「もう1個伝える事があった。……怠惰のヤツに関しての情報だ」
「それはつまり、大罪司教本人の情報、と言う事か?」
スバルはそれに頷き、そしてツカサも同じく頷く。
「敵の頭の情報忘れてるとか、抜けてるどころの話じゃねぇな、全く。アイツには、【指先】って呼ばれてる部下が居る。薬指、小指、名前で呼んだりしねぇ。特別な部下で信頼してる、って感じでもねぇ。平気で頭握りつぶしたりしてたからな。………それで、怠惰の能力。それは自分の意識を、他人に上書きして、精神的に乗っ取ってきやがるんだ。あちこちに顔を出す理由も、それで説明がつく」
「便宜上、能力の名を憑依―――としてる。……怠惰は、例え絶命したとしても、他の誰かに己の意識を植え付ける事で、生き延びているんだ。信じがたいかもしれないけど……」
「いや、それは無いよ」
信じられない。
今更、2人の言葉を疑問視するモノはいない。
それは、ミミに殴られたティビーだって同じようだ。
「以前、私は古い文献で似たような研究を見た事がある。文献によると、術者の魂を焼き付ける対象はかなり限定されている様だ」
「ま、当然だよね。個々のゲートまで上書きするのは並大抵のことじゃにゃいもん」
「ああ。それと同様に、【憑依】にも厳しい条件がある可能性が高い。―――条件は魔女教徒。それも限られた人員にのみ、可能な術法と推測できる」
「つまり、それがさっきスバルきゅんが言ってた【指先】って連中の事ににゃるのかな?」
「ああ。……恐らく予備の肉体。だからこそ、指の名を名付けたのだろう。……大罪司教らしいと言えばそうだ。悪趣味極まりない」
ユーリはそういうと顔を顰めた。
ペテルギウスの性質の一端を触れただけでも唾棄を覚える。
スバルやツカサ、レムやラムの様に実際に目の当たりにしたら、それ以上の気持ち悪さを覚える事間違いない。
「ツカサが言っていた様に、例え絶命したとしても、指先が健在な限り、復活を果たす事だろう」
「……裏を返せば、大罪司教の残機、全部削りきる。……指先を壊滅させれれば、野郎の行先は無くなる」
「いや、1つ有るよ。……地獄だ」
「ああ。行先はそこしかないだろう。………そして、大罪司教の今世の最後だ」
これで全てだ。
全て伝え終わった。
「―――最後の最後にスゲーヘビーな戦いがある。あれだけしんどい白鯨戦があった後だっていうのに。………白鯨に殺された人も、消された人も居る。倒れた人は戻らない」
スバルは、スバルとツカサだけが覚えている人たちを可能な範囲内で、その表情を思い返す。
「白鯨と魔女教は繋がっている。……だから、あの魔獣を落として終わりという訳じゃ無かったんだ。……本当の意味での弔いは、今まで倒れて、世界から消された皆の無念を晴らすのは、ここからなんだと思う」
「ああ。………でも、これ以上犠牲はいらない。此処に居る誰も死なないで完勝する。村もエミリアも、漏れなく全員。誰一人取りこぼす事はしない。……白鯨だって狩ってみせたんだ。魔女教になんか負けてやらねぇよ」
理想論。
誰一人欠けずに勝って戻る。青々しい理想論だ。まさに青二才。
だが、それを強く信じている。信じて疑わない者が居る。
そして、信じるに足る力を持つ者がいる。
「誰も死なずにいこう。あんな奴らの為に死ぬのなんかバカげてる。―――それじゃ、いっちょ頼むわ」
負けられない戦いが、今始まる。