Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
「や~~、ジ~~ンとさせて貰っちゃったよ♪ ツカサきゅん!」
「……本心だから。言葉と決意。それが村の皆伝わって良かったよ」
「………う~ん、揶揄うつもりで行ったのに、にゃ~んか反応が違ってフェリちゃんつまんにゃ~い」
村人たちの説得。
最終的には、子供のペトラが振り絞った勇気に背を押された形となった。
まずは、村の子供達が我さきにと声を上げたのだ。
ペトラが前に出ると言うのなら、それに続かない訳が無い。リュカを先頭に、一目散に駆け寄ってツカサとスバルを囲んだ。
守ってくれる。その見返りがエミリアを助けてあげて欲しいと。
守らせて欲しい、と懇願して、その見返りがまだ幼気な少女を助ける事。……いや、助けると言うのも烏滸がましい。ただ、受け入れる事。
嫌悪し唾棄の念すら覚え、何よりも恐怖の象徴でもあるハーフエルフ。
そうじゃない。
ただのエミリアの姿を見て欲しい、と。
そして、地面に額を擦り付け、懇願するスバルの姿。
彼もまた、身体を張って魔獣から子供達を、村を守ってくれた内の1人だ。
上下の関係がある訳が無い。ツカサもスバルも、等しく大恩のある人であり、もう、皆信頼し、信用している筈なんだ。
そんな人に、人達にいつまでこの様な行動をさせるのか。
子供達が動いたのにも関わらず、自分達はそれでも尚拒絶するのか。
【あぁ、もう。しょうがないですね。ツカサ様も、スバル様も】
乱暴に頭をかきむしって前に出るのは、最初に不満を口にした青年団員の1人。
優劣をつける訳ではないが、やはり思ってしまうのはツカサの事。
ツカサの力は甚大だ。
村全体を覆いつくす土の魔法で、皆を守り、ギルティラウを筆頭に、岩豚やウルガルムと言った魔獣たちを蹴散らしたのを、村の住人は間近で見ている。
皆が助けられた。
あの時の村の防衛の殆どはツカサのおかげだ。ツカサが居なければ、犠牲者は確実に出ていた。……壊滅的な被害を被っていたと言っても良い。
そんな力を持つ人であれば、強大な力にモノを言わせて、従わせる方が圧倒的に早い。
王都にて、勲章を授与された、と言う話はもう聞き伝わっているし、権限を発令させたって良い筈なのだ。
だが、彼はそう言ったことは一切しなかった。
ただただ頭を下げ続ける。
スバルも出遅れたとはいえ、最初から最後まで地面に頭を擦り付けている。
【そんな一生懸命、守ってくれるなんて言われちゃ……仕方ないでしょう】
困った顔をしていたが、それでも何処か顔は晴れやかだ。
魔女教とハーフエルフ。世界に齎した被害を鑑みれば、絶望しかけたっておかしくない状況だった。
それでも、笑顔を取り戻す事が出来た。
【歳をとると嫌だね。なんだか涙腺が脆くなって……】
【本当に、困ってしまいましたよ。なんて脅し方をするんですか、まったく】
口々に呆れ半分な内容の言葉が飛ぶが、その声色には確かな安堵と温もりがある。それがハッキリと解った。
エミリアを拒絶する時の色は一切ない。それを感じる事が出来たからこそ、子供達が来ても尚、まだ地に額を着けていたスバルも顔を上げる。
【わっ、スバルの顔が真っ黒だよ!】
それに気づいたのは、ペトラだ。
【……ふふ、ふふふ】
ツカサもそれに気づいて、少し笑い声を上げた。
感慨極まる。願いを聞き入れてくれた村人に感謝をしつつ……。
【クルル。スバルを拭いて上げて】
【きゅきゅいっ!】
【へ? ぶわっっ!!!?】
顔を上げた真っ黒な顔目掛けて、此度スバルは初めての種類の攻撃?魔法を受ける。
それは水だ。顔面目掛けて水鉄砲を受けた。水系~と言えば治癒だったり、レムやツカサのヒューマ、インヴェルノと言った氷だったりなのだが、純粋に水をぶっかけられたのは初めてだった。
おまけに、クルルはテンペスト……否、規模の小さな風、ウインドを発動して顔を強制的に洗濯&乾燥。濡れた服も髪も完璧。
【ぶはっ、ぶははっっ!? い、いっくらなんでもあらっぽ過ぎるっ!?】
プルプルプル、と顔を振った時にはすっかり元通り。
目の中に確かにあった涙も拭い去るまでもなく、洗い流してくれていた。
色々と抗議! といきたい所でもあるが、此処は先にしなければならない事がある。
ツカサと目配せをしながら、改めて村人たちを見て。
【ありがとな、皆……】
【本当に、ありがとう】
2人でまた、礼を告げるのだった。
「バルスは兎も角、肝心の話を何もしてなかったのは、ツカサらしからぬ事だわ。ええ、バルスは兎も角」
「ひでぇ!! 2回言った!」
場面は元に戻る。
感涙極まる村人たちとの和解の舞台。
確かにフェリスの言う通り、見る者が見れば感動する場面だと言えなくも無いが、結局の所いったい何をすれば良いのか、何をするのかが抜けてしまっているのも事実だ。
村人の皆とエミリアが仲良くなる―――まではいかずとも、拒絶をしない様に、助けてくれる様に取り繕う事は出来たかもしれないが、申し訳ない。今はそれよりももっと重要な事がある。
今迫る危険をどう回避するのか。
「ラムが傍にいてくれたから。ラムとレムなら、バッチリフォローしてくれる、って思ったんだよ」
ツカサは気恥ずかしそうにそっぽ向きながらそう言った。
それを聞いて、ラムは胸を張る。
レムもレムで、手を叩いて笑顔を見せた。
「当然でしょ」
「はい。微力ながら、これからもレムはお手伝い致します」
そう、このラムとレムがバッチリ後々の説明をしてくれたのである。
いたたまれなくなったスバル、ツカサを他所に、今回の損害に対する賠償の類は全てロズワールが持つ旨も伝えており、皆は身一つで王都・聖域へと逃げる算段だ。
聖域組には、ラムとレムが、王都組には ヴィルヘルムとフレデリカが夫々護衛についてくれる事になっている。
この時、聖域に向かう事に関してフレデリカが難色を示し、王都組へと変わった事が少々気になったが、あまり聞かない事にした。
「これが男としての差と知りなさいバルス。先は果てしなく長いわね。………見えないわ」
「ぐぅぅ……」
ツカサは恥ずかしい、と言いつつも、しっかりと隣に居てくれる人達の事を、ラムとレムを信じているから、と繋げた。ノータイムで。
それがその場凌ぎな上っ面な言葉じゃない事くらい、2人ともが解っているし、スバル自身もよーく解ってる。
感情的になりつつも、絶妙、天才的! と言わんばかりに回りに頼る事が出来るツカサの阿吽は最早芸術の域だ。
スバルにでさえ、ツカサは頼る場面が幾つもあった。
当然、それらが相手の
ほんと、先が見えないと言うラムの言葉が痛い程突き刺さるのだが。
「こうご期待願う!!」
「はっ」
「はい! スバル君はレムの英雄ですから。いつも、いつでも期待をしていますよ!」
姉妹して、それも双子なのに、こうも反応が違うと言うのも面白いと言うものだ。
「にゃはは。ほーんと、これからやる事考えたら、あ~んにゃに和やかに話してられないって思っちゃうんだけどね~」
「……変に硬くなってない、って思ってくれる方向で宜しくお願いするよ」
「ほいほーい。そっちはべっつに問題にゃいんだけど、フェリちゃんはやっぱし、エミリア様を言葉巧みに騙して、村の人達と一緒に遠くに追い払う作戦、納得いかにゃいんだよね」
フェリスは、揶揄ってる声色を残しつつも、最後の部分に関しては真面目に答えていた。
作戦上では、怠惰の殲滅は問題ない。ここまで奇襲出来る形であり、更に間者の存在も対処しているから、穴が無いと言えばそうだ。過信する訳ではないが、絶対的な自信がそこにはある。後は、持てる全てを力に変えて、怠惰へとぶつけるだけだ。
「その言い方、スバルが聞いたら更に騒ぎそうになるな」
エミリアを言葉巧みに騙す。
傍から聞いてなくても人聞き悪い。
「だってだって、エミリア様を遠ざける必要があるのか、って問われたらにゃ~。……フェリちゃんは無い、って答えるもん。スバルきゅんは、ぜーんぜん曲げずな平行線だったけど、エミリア様には、戦う力だってあるし、この領地を護る理由だってある。……違う?」
純粋たる力を考えたら、パックと言う大精霊を擁するエミリアの戦力は当然ながら大きい。
前回ででも、村こそ守れなかったが、エミリアとフレデリカの2人で、怠惰と渡り合う事も出来ていたのだから。
―――だが。
「試練」
「??」
「あ、いや。……エミリアさんと魔女教を関わらせたくないのはオレもスバルと同じだよ。単なる力だけで、解決できるような事じゃない。……ハーフエルフであるエミリアさんと、試練と称して迫ってくる魔女教。……悪い予感しかしないから。まだ、まだ知らない
「―――例えば?」
フェリスの顔が楽観的なモノから、真剣な顔つきにへと変わる。
ツカサは知っている闇の手を知っている。スバルの身の内にある底知れぬ程の闇。それが具現化したのがあの闇の手。ほんの一部、片鱗を見ただけでも計り知れないナニカを感じ取れた。それこそ、世界1つ壊す程の力を。
「……あまり、言葉にしたくないよ。皆聞いてて良い気分にならないと思うし、オレも出したくない。エミリアさんはエミリアさんだ。ただ、
「…………はぁ」
フェリスもツカサが何を言おうとしているのか大体察していた。
ツカサ自身の口からそれを聞こうと思ったのだが、口を閉ざしてしまった事に対して不満は残る。
だが、正直聞きたくない分類である事も解る。
荒唐無稽な話―――とは思えないから。目の前の男が正体不明の超人であり、英雄である事を考慮したら。
「フェリス。この問答はもう決まっている事だろう。お前がクルシュ様に期待する在り方がある様に、スバル殿にも、エミリア様に望む在り方がある。―――そして、それを支えるのがツカサ殿だ。こちらの考えを強要するのは宜しくない」
「ヴィル爺……」
「意志は尊重する。そして何より、真摯である事は理解した筈だ」
ただ、安易な考えからエミリアを遠ざける、なんて事はスバルは話してないのは解っていた。
その根幹部分までは流石に解らないが。
「お前がクルシュ様を慕う様に、スバル殿もエミリア様には健やかであって頂きたい。―――好いた女子の安寧を願うのは男児として自然な事だ」
「………オレとしては、それはラムに言ってあげたい言葉、でもありましたね」
スバルとラム、レムが話をしている方をツカサは見た。
ヴィルヘルムの言う通りだ。好きな人には幸せになって貰いたいし、健やかに有って欲しい。間違っても危険が迫るのを承知で、その死地へと誘うのは嫌だ。
だが、今回は例外。
「むむ! でもでも、それって、ツカサきゅんは矛盾しちゃってにゃい? ラムちゃんをこーんな危ないトコに連れてきたんにゃし? 言ったよね? ラムちゃん、結果的にレムちゃんもそう。2人の身体の方は限界に近いって。これ以上酷使したら、オドまで削る事になるって。スバルきゅんと違って、好きな女の子の健やかな安寧は願ってにゃいっていうの?」
自身の意見が通らないとみるや、少々悪戯っ子の様に指摘するフェリス。
だが、ツカサは首を横に振った。
「フェリスの言う通り。言動と行動が一致してないのは理解してるよ。結果ラムは一緒に来れたから、好都合だって思ってるかもしれないけど、……エミリアさん同様、無理にでもここか離す方がラムにとっては安全だし、オレも安心する」
「ほらほら」
「フェリス。……今のはスバル殿の考えを私が考察したのであって」
ヴィルヘルムの言葉を遮る様に、ツカサは一歩前に出た。
「―――片時も離れたく無かった、って言うのが正しい。オレのエゴだよ。クルシュさんにも見抜かれてしまったし」
「!」
建前で隠す様な事はせず、ありのままの気持ちをフェリスに告げた。
ラムの力が必要だったのも本当だ。村の皆を護る為に。……でも、それ以上にツカサはラムと離れたく無かったのかもしれない。
でも、結局は直ぐに離れる事になるのだが。
「……はいはーい。ほんと、お熱いよネ。結局ラムちゃんは聖域組で、戦闘に参加しにゃいから、離れちゃうって言うのに」
「ん………、それ以上は我儘言えないよ。ラムの願いも叶って、オレのも叶って。……でも、何処かで帳尻を合わせなきゃいけないから」
ツカサは拳を握った。
ずっと傍にいてくれると言った。言ってくれた。……ならば、その先の為に。未来の為に力を振るう事をツカサは決めているのだ。
その道を塞ごうとする、壊そうとする
「
「ちょいちょい、作戦会議ってんなら、オレも入れてくれ。今からエミリアの所に行くんだろ? シナリオはきっちり出来てるからよ!」
ちょっと遅れ気味でスバルが到着。
タイミングが良いのか悪いのか、フェリスは苦笑いしつつ、その持ち前の猫耳を垂れ下げた。
「スバルきゅん、タイミングわる~~い、フェリちゃんの愚痴、ぜーんぶツカサきゅんにぶつけて終わっちゃったよ~」
「なんだそれ。つーか、オレに愚痴言う気だったのかよ」
フェリスは、またぶり返すのも長くなるし、ツカサ以上にスバルも今回のエミリアを逃がす件に関しては絶対に曲げないのは解ってるから、何を言っていたのかは、語ったりせずに首を横に振って笑った
一先ず、フェリスとの件はこれで良い。
話も一区切りだろう。擦り合わせは必要かもしれないが、大部分は決まった。スバルがどうにかこうにか、名演技を見せてくれる。
後は、魔女教の動向を見張るだけ。ラムの千里眼は多用すると身体に負担が大きいから、使うのは、ツカサのサーチ・テンペストだけだ。
もう、それだけで問題ない。
テンペストの準備をしようとしたその時だ。
視界の中にユリウスが見えた。
「あ、ユリウス、お帰り。さっき頼んでた件は――――」
「ボクのことかい? それならちゃんと聞いてるから安心して」
その場に割り込んできた第三者の声に、殆ど全員が息を呑んだ。
ただ、スバルとツカサ、少しだけ離れた位置にいるラムとレムだけが落ち着いており、ツカサに至っては、話しかけられた当人なので、それに応える様に上を見上げた。
「久しぶり。パック」
ふわふわと宙に浮かび、長い尾を揺らす猫型精霊――パックだ。
違う時間軸では争った間柄でもある。殺意をその身に受け、愛する人や大切な人、兄弟、仲間、全てを白で覆いつくそうとした張本人。
必ず対面する時は来る、とは思っていても一縷の不安が頭の中にあった様だが、その不安は杞憂だった。
何ら問題なくパックと相対する事が出来たから。
一度、殺されたスバルも同様に。
「はい久しぶり。……でも、ちょっと君には話さなきゃいけない事があるんだ。わかるかい?」
「ああ、勿論解ってるよ」
ひょい、と手を掲げてテンペストを発動させた。
今までのテンペストは、暴風を使った攻撃魔法だから、今回のサーチ系はまるで別物。
そして、今使ったテンペストも少し勝手が違う。
「パック。オレからも言わせてくれ」
よっ、と手を上げて入ってくるのはスバルだ。
「スバルも久しぶりだね? どっちかと言えば、ボクはスバルの方にきつ~~く、言ってあげたい気分でもあるんだ。ツカサには、お願いをした間柄だし、約束~とはちょっぴり違うからね。ボクも今は頗る調子が良いし、愛娘についた悪い虫の退治でもしようかな~、って思っちゃったり?」
「……いや、オレが悪い事したのは解ってる。エミリアとの約束破ってこっちまで帰ってきた。兄弟やラム、レムまで巻き込んで戻ってきた。言い訳のしようがないオレの罪だ」
「!」
まさか、こうもハッキリと答えてくるとは思わなかった様だ。
読心を使えるパックも、スバルのその謝意が心から来ている事も解る。
「パック。お前が怒る理由だって解る。精霊術士にとって、約束って言うのがどんだけ大切なモノなのか、オレは全然解ってなかった。―――それを学んだ時にはもう既に遅かった、って言うべきだ。だから、お前が罰を与えなきゃ気が済まないってんなら、大人しく受ける覚悟もある。……でも、それは今じゃないんだ」
本音で、心から真摯に。
嘘偽りのない言葉をパックに告げる。
エミリアに危険が迫っている事、それを護る為に来た事。それを告げる為に。
何度も間違って間違って、兄弟にしりぬぐいをして貰って……。でも、今は拭ってもらう訳にはいかない。
エミリアの親と称する
「エミリアに危険が迫ってるんだ。エミリアを助ける為に。……その為に、約束を違えてでも、戻ってきた。今も尚、予断を許さない状況なんだ。頼む協力してくれ」
「……随分と調子の良い話だね」
訝しむ様にパックはスバルを見下ろす。
エミリアの事を心配しているのも、助けようとしているのも解る。
全て嘘じゃない事も解る。
それでも、事は愛娘であるエミリアの事だ。不穏な気配が、歪な気配が近づいてきてる様な気はしていた。
実の所、パックの虫の居所が悪かったのは、スバル云々と言うよりも、どちらかと言えば、警戒網に引っかからない魔女教の連中にあったのだ。
どうしたものか、と腕を組んで思案している最中。
「巻き込んだ、ってスバルは言ってるけど、意志は全員同じだよ、パック」
掌の風を森の全域に飛ばした後、更に反対の左手の上にクルルを召喚して、パックを見据えた。
「
「――――……」
ツカサの言っている意味をパックはある程度だが理解出来ているつもりだ。
虚実もあるが、大部分が真実であるからこそ、虚実を見抜く事が出来ない。導き出される結果が、エミリアの為になる、エミリアを敵視していないに繋がるから、尚更パックにも見る事が出来ない。
「視えたからこそ。……オレ達はここに戻ってきた。皆でやらなきゃ、
エミリアを失ったあの瞬間から、パックの全てが終わったと言っていた。
言葉を話す事も拒絶した。
最後の最後で、希望の糸が見えて、魔女教の事を口にした。
「終わらせない。そうだろ? スバル」
ツカサはスバルを見る。
そして、スバルは力強く頷き、胸を大きく、強く叩いた。
「終わらせてたまるかよ。エミリアは大事だ。超大事だ。絶対に救ってみせる。――――オレは、
眼下の2人の人間。
生まれて幾星霜―――様々な人間と会ってきた。色んな人間を見てきて、人と言う生き物を解っていたつもりだったが……。
「やれやれ。ボクもまだまだ無知だって事なのかな? 凄く長生きはしてきたつもりなんだけど」
解らない。
この2人に関しては別枠で、ある意味別格だ。
ただ、それでも唯一間違いが無い。絶対だと解る事がある。
「……君たちがリアを大事に思ってる事。それは痛い位伝わってきてるよ。この件とは別に、話してみたい事が増えちゃったんだけど、それは
「…………」
「きゅっ!」
ツカサはちいさく頷き、クルルはひゅんひゅんと、回りながらパックの元へ。
「クルル。君もボクの愛娘の事――――ずっと想っててくれるかい?」
「きゅんっ!」
「………はは。そうだよね。出会った時から好きだって言ってくれてたよね。それに、君はこのボクの親友にもなってくれたんだった」
パックはそう言うと、ゆっくりと手を上げた。
クルルも同じく上げて、ぱちんっ! と手を交わす。
勿論、【にゃっ!】と【きゅっ!】の合いの手も添えて。
「ごめんごめん。ツカサ。もう守らなくても大丈夫だよ。しっかり抑えたから」
「……はぁ、その辺はしっかり解ってたんだね」
「うん。君の風の魔法で、
髭をこしこし、と触ると続けた。
「あー、愛娘に引っ付いてきたのが、君の方だったら、ボクも安心して余生を過ごせるってもんなんだけどね~~」
「あ!! コラパック!! 兄弟に娘やる! なんて言わねーよな!? エミリアたん一筋はオレだけだぞ!」
カラカラ、と笑うパック。
スバルも異議あり! と口にしてはいるモノの、笑顔だ。
他の面々も、ツカサの風に覆われて、守られていた事を実感していたとはいえ、ほんの一瞬でも、あの大精霊のとんでもなく強烈なプレッシャーを身に受けたのだ。
終焉の獣の名に相応しい、身も凍るような威圧感。一瞬でも受ければ息が止まる。息をするのも忘れる―――のだが、パックが解放し、ツカサも風の領域を更に伸ばして周囲の探索に回ったのを確認すると、本当の意味で安心する事が出来た。
この中では、距離的にも武力的にもフェリスがきつかっただろう。
「も、もう大丈夫? いきなり殺されたりしにゃい?」
「ふふ。安心しなよ。同じ猫耳仲間じゃないか。ボクがそんな怖い精霊に見えるかい?」
フェリスの憂慮に軽口で応じるパック。
と言うより、頬を膨らませてぷんぷん、と怒る仕草まで。
何度も言うが、ツカサの風で護ってくれたとはいえ、一瞬でも受けたのだ。笑えない冗談だ、と言えなくもないが、風の守りの無い今でも消えたところを見ると、もう大丈夫なのだろう、と理解した。
「実を言えば、最初からそんなに怒ってなかったんだけどね。さっきの村の人達に話をしているところも、影でこっそり聞いてたから」
「え……、そ、それは気付かなかった。
「きゅきゅ~~♪」
「【聞き入ってたから】って何だよそれ! パックが来てたなら、さっさと言ってくれても良かっただろっ!?」
状況を考えたら。
前の次元でも暴走する巨獣と相対した事を覚えている筈のこのクルル。
もうひとつのナニカと変わった訳ではない様子なのが性質が悪い。
クルルも何処となく愉悦を望んでるのか、と疑ってしまいたくもなる。
「んだよそれ。オレの土下座は、そんな安売りするつもりなかったのに!」
「うんうん、ツカサに便乗した形だったけど、スバルもナイスだったよ? 下手に言葉にするんじゃなくて、行動をする。それもダイナミックに。そう言う意味じゃ、加点だね」
「だーーもう!! それより、エミリアの為の話し合いしようぜ! 掘り返すの禁止! さっき散々言われた!! つーか、ユリウスも! パックと接触出来たんなら、先に言えってんだよっ!」
飛び火するユリウス。
そんなスバルを他所に、ユリウスは平然と返す。
「いや、意図して驚かせたわけではないよ。大精霊様がいらしたのと、蕾たちが戻ってきたのは同時の事だった。穏当に話し合いが済んで一安心、と言った所かな」
ユリウスの周囲にも瞬く光が居た。
彼女――と呼んでいる事から性別があるとすれば女の子なのだろうか。準精霊だから大精霊のパックに当てられて、怯えている様な感じだったのだが、今はそんな様子は無い。
安心した、と言っている様にも見える。
小さな精霊も含めて皆が一安心、と言った所で本題だ。
「パックをここに呼ぼう、って言うのはスバルの案。エミリアさんを避難させる為には、パックの説得が絶対条件だったからね。オレも最善だと思ってたから言わなきゃ言うつもりだったし」
「リアの身の安全、って言われちゃ、ボクは絶対に首を縦に振るよ。スバル風に言うなら、OKってヤツかな」
ぐっ、とOの形を作るパックに苦笑いする
「流暢に、完璧に使いまわしてくれて、教え込んだ身とすれば、感無量だよ。フレデリカやパックまで抱き込んで置いたら、エミリアだって頑なに拒むワケにはいかねーだろ?」
「だね。反対できないと思うよ。………でも、ほんと凄い入念な準備してたんだね。親書貰った時からある程度解ってたつもりだったんだけど、想像を遥かに超えられちゃったよ」
それ程までの事態なのかい? とパックは聞きたかったようだが、スバルが聞かれる前に答えた。
「相手は魔女教の連中だ。あいつら相手なら、いくらやってもやり過ぎって事はない。幾ら、兄弟が世界最強の兄弟だったとしても、更に入念な準備を整える。勝ち戦しか、オレはしねーのよ」
「はっ。結局は他力本願って訳じゃない。乞うご期待と言ったのはどこのバルスだったかしら?」
「っ~~! こんなタイミングで突っ込んでこないで、姉様!! これからです! 今回のは成長途中なので、温かい目で!!」
いつの間にか、村人への説明を終えて、レムと共に傍に控えていたラムだったが、ここぞと言うタイミングで駄目だしをするのは流石の一言だ。
和気藹々、としても良いんだが、生憎パックはそうはいかない。
【魔女教】
その名を聞いてから。
何処か遠くを見ている様な、そんな仕草。
彼もまた、何か因縁めいた事があるのだろうが、それを追求する事はしなくて良いだろう。
パックもまた、話そうとしていないのも解るから。
「それで? スバル発案、リアを騙して連れ出す方法の詳しいやり方は?」
「言い方!! んでもって、オレ発案とか付け加えるのヤメテ!! ほんとの事だとしても凹む! 更にお前にまでそう言う風に言われるとより凹むだろうが! それに、話きいてたんなら、大体解ってるよなっ!?」
何はともあれ、まずは目先の脅威を回避するのが先決。
スバルは、何処からともなく取り出したローブを掲げて高らかに言った。
「秘密兵器を投入しつつ、皆で小芝居だ」