猫崎と光里はある日、海馬コーポレーションに呼ばれる。
出張して、才能のある子供を見出せという物だ。
思えば、この制度のおかげで猫崎はいじめられていた環境から脱出出来た。
次は俺が誰かを助ける番だろう。
行き先は…犬上村(いぬがみむら)。猫崎俊二の故郷だ。
「気が乗らないみたいね、俊二。」
「光里。今から行くのは、俺の地元、犬上村だ」
「?!御父さんと御母さんにご挨拶しないといけないわね。」
「俺としては、あんな二人から俺が産まれたと光里に知られたくないが。」
「どんな過去でも、ご両親が居なければ貴方は居なかった。」
「とりあえず、俺から離れないでくれ。」
「勿論。」
かつて猫崎が参加した、子供たちとの交流会を今度は猫崎が開く側に回る。
やるべきことが多い。前世の事もあって段取りが悪いと思ったが、子供たちの相手をしながらこれをこなすのは大変だ。
そんな時、聞きたくない声が聞こえる。
「俊二兄さん?俊二兄さんだろう!」
「…亮三(りょうぞう)か。」
兄と呼んだ相手に、冷たい目を向ける俊二。
才波はそれに反応する。
「弟さん?それにしてはあまり似て居ないわね。」
「そうだな。似て居なくて良かった。」
ぼうっと、才波光里に見とれる亮三。
「その女の子は誰?」
「俺の恋人だ。手を出すな。」
「なんで?」
不思議そうに、とても不思議そうに言う亮三。
「俊二兄さんの物なら、僕の物だろう?そんな綺麗な人なら僕にこそふさわしい」
「貴方の妻になんて、なる気はないわ!」
怒りのまなざしを向ける俊二。
「昔からそうだったな。俺の物をなんでも欲しがった。だがそれももう終わり、これで決着をつけよう。」
「何だ、デュエルか。俊二兄さんが僕に勝てるとでも?いいよ、叩き潰してやる!」
「「デュエルッ!!」」
俊二 ライフ4000
手5 場
亮三 ライフ4000
手5 場
「僕の先攻、ドロー!僕はマハー・ヴァイロを召喚!そして装備魔法を発動!デーモンの斧と悪魔の口づけ!」
「マハー・ヴァイロは装備魔法一枚につき攻撃力が500上がる。二枚装備した事で攻撃力は1000アップ。デーモンの斧と悪魔の口づけで1700ポイント攻撃力が上がるから、攻撃力は4250だな。」
「次のターンで終わらせてあげるよ。カードを二枚伏せてターンエンド!」
俊二 ライフ4000
手5 場
亮三 ライフ4000
手1 場 マハー・ヴァイロ デーモンの斧 悪魔の口づけ 伏せ2
猫崎が前世でデュエルモンスターズを始めた時、エースにしていたカードだ。
だが、これを主軸にして何度かデュエルに勝利すると弟の亮三が欲しがり、デッキごと奪い取られた。
逆らったら、『兄の癖に弟に譲らないとは何事だ!』と殴られた。恭一が欲しがった時には『弟なら兄に譲りなさい!!』と来た。
「俺のターン、ドロー!魔法カード、ハリケーンを発動!」
「カウンター罠!八式対魔法多重結界!手札の魔法カード、黒いペンダントを墓地に送り、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」
「魔法カード、精神操作を発動!マハー・ヴァイロのコントロールを」
「カウンター罠!フォース・フィールド!マハー・ヴァイロを対象とした魔法カードの発動と効果を無効にして破壊する!」
伏せカードがどちらも対象を取る魔法カードへの対策という事に驚く才波。
「思った以上に練り上げられたデッキね。」
「マハー・ヴァイロは装備魔法で強化するため、コントロール対策は必要と思って俺はデッキに入れていた。」
「なるほど、それで…。」
「まぁ、そのデッキを丸ごと奪われたけれど。」
容赦なく攻める俊二。
「俺はレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからライトロード・ハンターライコウとチューナーモンスター、Xセイバーエアベルンを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」
「な、なんだ。攻撃力2200じゃあないか。」
「バトル。カタストルでマハー・ヴァイロを攻撃!」
「やけになって…?!リミッター解除か!」
「いや、違う。カタストルが闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに破壊する!」
「?!ま、マハー・ヴァイロが!」
「カードを一枚伏せてターンエンド!」
俊二 ライフ4000
手2 場 カタストル 伏せ1
亮三 ライフ4000
手0 場
「ぼ、僕のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を」
「ライフを半分払い、神の宣告を発動!」ライフ4000から2000
「そ、そんな…ターンエンド。」
俊二 ライフ2000
手2 場 カタストル
亮三 ライフ4000
手0 場
「俺のターン、ドロー!チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚。バトルだ、カタストルと霞の谷の戦士でダイレクトアタック!」
「だけどライフは残る」
「速攻魔法、イージーチューニングを発動!墓地のチューナーモンスター、エアベルンを除外し、カタストルの攻撃力を1600ポイントアップ!」
「そ、そんなぁあああああっ!う、うわああああああっ!!」ライフ0
情けない悲鳴を上げて倒れる亮三。
「ま、負けた?僕が?出来損ないの俊二兄さんに?」
「俺の勝ちだ、亮三。」
「く、くそっ!み、皆に!みんなに言いつけてやる!」
「またそれか。別にいいぞ、集まってくれた方が手間が省けるからな。行けよ。」
這う這うの体で逃げていく亮三。
「…あれが、義弟になるの?」
「後、兄が一人いる。」
思わず空を仰ぎ見る光里。ふと、古風な洋館が目に入る。
「あの洋館は?」
「あれは、ヴィンフリートの館だ。かつてこの村に訪れたドイツ人が建設し、世界大戦後に引き上げた結果建物だけ残った。」
「今も使われているの?」
「定期的に掃除や修繕はしている。作りがしっかりしていて、いざというときの避難所にも指定されているからな。」
森の奥に建てられた洋館を、あらためて見つめる才波。
そんな時、二人組が近づいてくる。
「おうおうおう!まさか本当に帰ってきたとは驚いたぜ、俊二!」
「なんだなんだ?今更になって戻ってきたのか?」
ニヤニヤしながら話しかけてくるのは、かつて俊二を虐めていた連中だ。
「鳥貝(とりがい)と間似谷(まにや)か」
「…知り合い?」
「友人では無い。」
でかい図体にお似合いの高圧的な態度で、鳥貝が脅す。
「おい俊二。レアカードを寄越せ!毎月レアカード1枚だから…36枚のレアカードを渡してもらう!」
「しばらく姿をくらましていたからな!その分、取り立てさせてもらう!」
鳥貝の腰巾着で悪知恵担当の間似谷が、ニヤニヤしながら告げる。
そんな二人に絶句する才波。サイバー流の門下生でもここまでアレな奴は居ない。
才波の中で、田舎での生活に対する憧れというものが、音を立てて崩壊する。
「なら、デュエルだ。かかってこいよ。」
「俊二の癖に生意気だぞ!」
「「デュエルッ!!」」
俊二 ライフ4000
手5 場
鳥貝 ライフ4000
手5 場
「俺の先攻、ドロー!俺は切り込み隊長を召喚!効果発動、手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る。現れろ、ネフティスの導き手!」
「来るか。」
「俺はネフティスの導き手の効果発動!こいつと切り込み隊長を2体リリースし、デッキからネフティスの鳳凰神を特殊召喚できる!現れろ、ネフティスの鳳凰神!」
優美な姿で舞い降りるネフティスの鳳凰神!
「そして俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」
俊二 ライフ4000
手5 場
鳥貝 ライフ4000
手3 場 ネフティスの鳳凰神 伏せ1
「俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!そしてレスキューキャットの効果発動、このカードを墓地に送り、デッキからチューナーモンスター、Xセイバーエアベルンと逆ギレパンダを特殊召喚!レベル3の地属性逆ギレパンダに、レベル3の地属性Xセイバーエアベルンをチューニング!」
「な、何が起きているんだ?!」
「ほ、ほほ星が光に?!輪っかになって…。」
鳥貝と間似谷が驚く中、S召喚を決める。
「S召喚!Lv6!ナチュル・パルキオン!」
「こ、攻撃力2500だとぉ!お、お前一体何をした!その気色悪いモンスターは一体どこから湧いて出た!」
その鳥貝を、ナチュル・パルキオンがギロリと睨む。
「発動するカードはあるんだろう?」
「そうだな。そんな薄気味悪いモンスターにはこいつをお見舞いしてやる!罠発動!激流葬!場のモンスターを全て破壊する!」
「ナチュル・パルキオンの効果発動!墓地のレスキューキャットと逆切れパンダを除外し、罠の発動を無効にして破壊!」
「何だと!」
「バトルだ、パルキオンでネフティスの鳳凰神を攻撃!」
「うわあああああああっ!」ライフ4000から3900
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
俊二 ライフ4000
手4 場 ナチュル・パルキオン 伏せ1
鳥貝 ライフ3900
手3 場
「お、俺のターン、ドロー!天下人 紫炎を召喚!カードを三枚伏せてターンエンド!」
「あれは…罠カードの効果を受けないモンスターね。」
俊二 ライフ4000
手4 場 ナチュル・パルキオン 伏せ1
鳥貝 ライフ3900
手0 場 天下人 紫炎 伏せ3
「俺のターン、ドロー!魔法カード、精神操作を発動!紫炎のコントロールを得る!」
「ま、まさかそれでまたS召喚とかいうのをする気か!」
「チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚。レベル4の紫炎に、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!メンタルスフィアデーモン!バトルだ!」
「速攻魔法、スケープゴートを発動!」
「カウンター罠、魔宮の賄賂!スケープゴートの発動と効果を無効にして破壊!」
「何だと!」
「どうせその伏せカードは、吊り天井だろう。いけ、パルキオン、メンタルスフィアデーモン!」
「うわあああああああっ!」ライフ0
倒れる鳥貝。
伏せられていたカードが飛び散る。猫崎が言う通り、一枚は吊り天井だがもう一枚は力の集約だった。
力の集約にひっかかる才波。装備魔法を選択したモンスターに移し替えるが…メタカードか何かだろうか?
「と、鳥貝が負けた?」
「さぁ、どうする。間似谷」
「い、いい気になるなよ!次は俺が相手だ!」
「「デュエルッ!!」」
俊二 ライフ4000
手5 場
間似谷 ライフ4000
手5 場
「…俺の先攻、ドロー!俺は永続魔法、波動キャノンを発動!」
「自分のスタンバイフェイズを経過したターン×1000のダメージを与える永続魔法。」
「ヒヒヒ。俺はモンスターをセット。カードを二枚伏せてターンエンド!」
俊二 ライフ4000
手5 場
間似谷 ライフ4000
手2 場 セットモンスター 波動キャノン 伏せ2
「俺のターン、ドロー!メインフェイズ1の開始時に魔法カード、大寒波を発動!」
「なっ?!俺の伏せカードが!」
「これで次の俺のターンまで互いに魔法・罠カードを発動できず、セットも出来ない。召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、守備表示になる。」
「ヒヒ、守りを固めるつもりかい?だが、波動キャノンがお前に照準を合わせていることを忘れるな!」
「そして手札の魔法カード、大嵐を捨てて効果発動!デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚!現れろ、二体目の召喚僧サモンプリースト!効果発動、手札のサイクロンを捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!」
大嵐とサイクロンがありながら、捨てていくプレイングを訝し気に見る才波。
「そ、そいつは!またS召喚とかいうやつをするつもりだな!」
「レスキューキャットの効果発動、デッキからレベル3以下の獣族二体を特殊召喚。現れろ、二体のチューナーモンスター、Xセイバーエアベルン!」
「どうやらレベルの合計が重要みたいだな…。チューナーとそれ以外のモンスターのレベルの合計なら、出せるのはさしずめ、レベル7とレベル11か。」
割と分析能力が高い事に驚く才波。
「ちょっと意外だわ。S召喚を見るのは初めてでしょう?」
「鳥貝とのデュエルを見ていたからね。眼前の出来事から物事を学ぶ、それがデュエリストって物だろう?」
褒められた性格では無いが、決闘者としてはまっとうな言動というギャップに目を白黒させる才波。
「俺は、レベル4のサモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv7!現れろ、ダーク・ダイブ・ボンバー!」
「今度は攻撃力2600でレベル7か。そしてその組み合わせがまだ残っているから」
「レベル4の魔法使い族の召喚僧サモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv7!アーカナイト・マジシャン!」
俊二のシンクロ時におけるセリフが若干違う事を耳ざとく聞きつける間似谷。
「…なるほど。S召喚とかいう奴は色々条件があるみたいだな。先ほどのダーク・ダイブ・ボンバーと違って、アーカナイトとかいう奴はチューナー以外の奴が魔法使い族でないといけないようだな。」
「相変わらず、耳聡いな。S召喚成功時、魔力カウンターが二つ乗る。そして魔力カウンター一つにつき、攻撃力が1000アップする!そして魔力カウンターを一つ取り除き、お前のセットモンスターを破壊!」
「あ、アステカの石像が!」
「終わりだ。ダーク・ダイブ・ボンバーとアーカナイト・マジシャンでダイレクトアタック!」
「うわあああああああっ!」ライフ4000から1400、1400から0
気絶する間似谷。
「大嵐とサイクロンがあるなら…。」
「こいつの伏せカードを見てくれ。」
「?!モンスターBOXとアヌビスの裁き…。」
「これがこいつのデュエル。波動キャノンを使って相手を焦らせ、突っ込んできたらアステカとモンスターBOXで返り討ちを狙い、除去魔法ならアヌビスの裁きで仕留める。」
色々と練られている事に驚く才波。
かなりバリエーションが豊かだ。才災師範率いるサイバー流以上かもしれない。
「まぁ、海馬コーポレーションがレクチャーして、カードをプレゼントしているからな。」
「俊二も受け取ったの?」
「俺が受け取ったレアカードは、恭一と亮三が奪っていった。」
その後、鳥貝と間似谷を起こし、先に行かせた後で猫崎と才波は歩く。
歩いていると猫崎に声がかけられる。切りそろえられた前髪、後ろの髪は腰まで伸ばした古風な感じの女性だ。
「俊二じゃない!亮三が言っていた事は本当だったのね!」
「我謝(ガジャ)さん。」
「もう違うわ。名前に義姉さん、をつけて呼んで。」
そう言われたため、俊二は彼女と恭一の仲が進展したことを悟り改めて名前を呼ぶ。
「…透子(とうこ)義姉さん。」
「ああ~、良い響き!ずっと末っ子だったから、そう呼ばれたかったの!亮三は一向に呼んでくれないし。」
亮三は我謝 透子さんに恋心を抱いていたが、自分と違って恭一の物を奪う事は許されなかったため反抗しているんだろうなと思う俊二。
一方、俊二の言葉でようやく理解する才波。
「?!という事は、俊二の兄と…。」
「えっ?!俊二って、な、名前で呼んだ…?もしかして貴女は俊二の…。」
その言葉に頷く才波。それを見た我謝は手を伸ばして告げる。
「ちょっと来て。」
こんな故郷に一人にしておきたくない俊二だが、透子さんなら無体な事はしないと考え直す。
それに、身体能力なら光里の方が上だろう。
やや離れた場所で、我謝は足を止める。
「ここならいいでしょう。改めて自己紹介を。私は猫崎俊二の兄、猫崎恭一と婚約した我謝 透子。」
「私は才波 光里。」
「色々、聞きたいことがあるんじゃないかしら?」
「…俊二は虐められていたの?」
「そうよ。」
「なんで!」
即答した我謝に怒鳴る才波。
「髪の色が違うから。」
「そんな、そんな理由で?」
「…この村だと、髪の毛を染めるのは悪い事とされているの。父母から貰った髪を染めるのはけしからん、と。だから…整形なんてした子は村八分にされたわ」
「でも、俊二のは地毛でしょ!」
「その通りよ。俊二も一度は染めた事があるけれど、そうしたら髪の毛を染めたといって余計いじめがひどくなった。」
絶句する才波。
「ここは、そういう村なの。もしも私が子供を産んで、その子の髪の毛が黒以外の色だったら、俊二みたいに虐められるんじゃないかって思うと…。」
「貴方は、俊二とどういう関係なんですか?」
「義理の弟よ。血はつながっていないけれど、恭一さんの弟。私は身内だけは何があっても大事にする。」
そっと、胸に手を置いてつぶやく我謝。
「私が、大事にされたから。今度は私が誰かを大事にしないと。」
「…我謝さん。私と、デュエルしてくれませんか?」
「デュエル?最初は俊二とデュエルするつもりだったけれど…いいわ、始めましょう。」
やや距離を取り、デュエルディスクを構える。
「「デュエルッ!!」」
才波 ライフ4000
手5 場
我謝 ライフ4000
手5 場
「私の先攻、ドロー!私はモンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンド。」
才波 ライフ4000
手3 場 セットモンスター 伏せ2
我謝 ライフ4000
手5 場
「私のターン、ドロー!手札からグリーン・ガジェットを召喚!」
「ガジェットデッキ?!」
「効果発動。デッキからレッド・ガジェットを手札に加える。この効果にチェーンして速攻魔法、サイクロンを発動!右の伏せカードを選択!」
「どうして先にサイクロンを発動しないの?」
「答えはこれよ!サイクロンの発動にチェーンして速攻魔法、サモン・チェーンを発動!」
「?!その、カードは!」
まさか、それを使う決闘者がいるとは思わなかった才波。
「チェーンを処理、まずこのターン、私は三回の通常召喚が可能になる。そしてサイクロンの効果で右の伏せカードを破壊。」
「サンダー・ブレイクが!」
才災師範のサイバー流から追放され、そしてデュエルアカデミアを卒業した今、才波はデッキに除去カードやカウンター罠などを投入していた。
「そしてレッド・ガジェットを手札に加える。二回目の召喚権でレッド・ガジェットを召喚し、イエロー・ガジェットを手札に加える。三回目の召喚権で…。」
イエロー・ガジェットを召喚すると思っていた才波だが。
「場のグリーンとレッドをリリースして、古代の機械巨竜をアドバンス召喚!」
「えっ?」
現れた古代の機械巨竜に、グリーンガジェットとレッドガジェットが組み込まれていく!
「バトル!古代の機械巨竜でセットモンスターを攻撃!グリーンガジェットをリリースした事で、古代の機械巨竜は貫通効果を持っている!」
「戦闘で破壊された、シャインエンジェルの効果発動!」ライフ4000から1800
「まだ効果は続く!戦闘ダメージを与えた事で、レッドガジェットをリリースした古代の機械巨竜の効果発動、400ポイントのダメージを与える!」
「シャインエンジェルの効果でプロト・サイバー・ドラゴンを特殊召喚!きゃっ!」ライフ1800から1400
「組み込むガジェットによって、効果が変わるのがこの古代の機械巨竜の真骨頂!カードを一枚伏せてターンエンド!」
なおこれを聞いた猫崎俊二は、前世で古代の機械巨竜を歯車街をぶっ壊して特殊召喚しかしてこなかったため、心がズキズキと痛んだ。
才波 ライフ1400
手3 場 プロト・サイバー・ドラゴン 伏せ1
我謝 ライフ4000
手2 場 古代の機械巨竜(貫通&戦闘ダメージで400バーン) 伏せ1
「私のターン、ドロー!我謝さん、今私が出せる全力で行きます!魔法カード、パワー・ボンドを発動!場のプロト・サイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」
「攻撃力2800…。」
「パワー・ボンドで融合召喚したモンスターの攻撃力は、元々の攻撃力分アップ!よって攻撃力は5600!そして一度のバトルフェイズで二回攻撃が可能!」
「その攻撃力で二回攻撃?!」
驚く我謝に対し、光里は宣言する。
「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで、古代の機械巨竜を攻撃!!」
「…勝負を焦ったわね。罠発動!万能地雷グレイモア!!」
「カウンター罠、トラップ・ジャマー!」
「?!サイクロンで破壊するカードを間違え…。いや、逆でもサンダー・ブレイクで割られていたか…お見事。」ライフ4000から1400、1400から0
サイバー・ツイン・ドラゴンが古代の機械巨竜を打倒し、続くダイレクトアタックでライフを削り落とす!
ライフが尽きるも、毅然とした態度を取る我謝。
「ありがとうございました。」
「…光里さん、俊二をお願いね。」
「はい、透子さん。」
デュエルに勝利した才波と我謝は軽く抱き合う。
「そろそろ戻りましょうか。」
歩き出す我謝についていく才波。この辺りはまだ不慣れだ。
ゆっくり歩きながら、ガールズトークを始める二人。遠からず、お互いの馴れ初めについての話になる。
「才波さんは、芋煮会って知っている?」
「芋を煮る会ですよね?里芋と色々な具材を煮て…」
「そうよ。それぞれの家で味噌を使わない味付けをするの。我謝家はキノコ尽くしだけど、猫崎家はカツオと昆布出汁で…」
「ちょっと待って、味噌はダメなの?」
「味噌を入れたら豚汁になるでしょ。それぞれの家庭で芋を煮て居る間に、自家製の味噌を他家の鍋にぶち込みに行くの!首尾よくぶち込めたら、『やぁ、これはおいしそうな豚汁ですな』と笑顔で言うの!」
おかしい、サイバー流で行われた芋煮会と何か違う。
「無論、入れられる方はたまったものじゃないから、吊り網や落とし穴を仕掛けて守りを固めるし、味噌を入れようとした所を見つかれば獣道を走って逃げないといけないわ。」
味噌をぶち込みにいって恭一さんに見つかり、獣道を…一時間弱くらい走り…自分が仕掛けた吊り網に誘い込み、まんまと恭一さんが吊り上げられた瞬間を見た時に惚れた、とほんのりと頬を染めながら笑顔で言う我謝さんを、未確認生命体を発見した探検隊員のような目で見つめる才波。
無論、それはきっかけなだけであり、それ以前の交流で互いを意識していたのが表面化したのがこの出来事というだけである。
なお、普段虐められていた俊二だが、味噌をぶち込めた時は褒めてもらっていた。恭一や俊三が褒められる時と違い、二言三言でしかなかったが。
「最後まで豚汁にされることなく完成した芋煮を、村人全員でつつく、というのが芋煮会なんだけど…貴女は違うの?」
「も、もう少し穏やかなイベントです。」
「私と恭一さんのなれそめを話したから、今度は貴女と俊二の出会いを聞きたいわ。」
「えっと。私はサイバー流に所属していて、そこの師範から俊二とデュエルをするように言われて…完敗してサイバー流から追放された。」
「サイバー流は初耳だけど…。追い出されたのにサイバー・ドラゴンは持たせてくれるなんて寛大なのね。」
「そう、そうなのかもしれない。その後色々交流していくうちに惹かれていったわ。」
「変わっているわね、貴女。俊二は貴女をサイバー流から追放させるきっかけになった相手でしょう?」
少なくとも三国志演義に出てくる諸葛孔明の南蛮行に出てくる南蛮勢がやりそうな芋煮会で惚れたなどと、楽しげに言う我謝さんだけには『変わっている』などと言われたくない、と内心憤然としながら才波は答える。
「サイバー流には前の師範が居て、私はその人の考えに近かったから今の師範は気に入らなかった。だから、離れられてホッとしているわ。」
「今の師範さんは追い出したくて、貴女は離れたかったからちょうどよかったのね。」
才波と我謝が村に到着した時、猫崎俊二の前に最後の『敵』が現れる。
「俊二!やっと帰ってきたのね!」
「どちら様ですか?」
猫崎俊二は冷たく『母』に告げる。
硬直する『母』
「お前!勝手に家を出て行って!俺の許可を得ずに何を考えているんだ!」
そんな『父』を猫崎俊二は冷たく見つめる。
この肉体の子供にとって『父親』なのだろうが、憑依者にとっての親父は厳しく、仕事が終わって帰ってきたら酒を飲んで酔っ払う男だが、休日には家族サービスをする立派な男だった。
たまに約束をすっぽかしてゴルフに行ったりしていたが。
母親は毎日弁当を作ってくれた。前世で一人ぐらしを始め、それがどれほど大変なのかを身をもって知った。
「その女の子は誰?」
「…光里は俺の彼女です。」
「?!」
ぐいっと引き寄せて、腰に手を回すと『母』は驚いたようだ。
だが、光里の様子が妙だ。
「どうした?光里?」
「ねぇ、親子なんでしょう?」
「俺を川に突き落とした相手に怒りもしない、他人だ。ああ、その点でいえば感謝はしている。」
俊二は一礼して告げる。
「ありがとう、俺が死にかけても犯人に対して怒らないでいてくれて。おかげで俺は吹っ切れる事が出来ました。」
ショックを受けているようだ、いい気味だ。
…心なしか、光里もショックを受けているような気がする俊二。
そう話していると、『兄』がようやくやってくる。
「お前!お父さんとお母さんに対して、なんだその態度は!」
「…恭一か。」
兄と名乗る『他人』が話しかけてくる。
「俺とデュエルしろ!俺が勝ったら謝れ!」
「…俺が勝ったら今後は俺と光里とその家族に手も出さず口もはさむな。」
「フン、だがお前が困ってもウチはお前を助けないからな!」
「「デュエルッ!!」」
俊二 ライフ4000
手5 場
恭一 ライフ4000
手5 場
「俺の先攻!ドロー!俺は手札の沼地の魔神王を捨てて効果発動!デッキから融合を手札に加える。そして融合を発動!手札の神竜ラグナロクとロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者を融合!現れろ、竜魔人キングドラグーン!」
「出たか。」
「キングドラグーンの効果発動!手札からホルスの黒炎竜Lv6を特殊召喚!そして魔法カード、レベルアップ!を発動!ホルスの黒炎竜Lv6をLv8に進化させる!カードを一枚伏せてターンエンド!」
俊二 ライフ4000
手5 場
恭一 ライフ4000
手0 場 竜魔人キングドラグーン ホルスの黒炎竜Lv8 伏せ1
手札は使い切ったが、場の状況は割と強いと思う才波。キングドラグーンでドラゴン族をカード効果の対象にとれず、ホルスの黒炎竜で魔法を封じている。
おそらく伏せは王宮のお触れだろう。
凡骨の意地で大量ドローする万丈目長作議員と違って爆発力は無いが、制圧力の高い布陣だ。
少なくとも、先攻1ターン目でこの布陣を敷かれたらデッキの相性もあるが、長作議員は手も足も出ないだろう。
「俺のターン、ドロー!召喚僧サモン・プリーストを召喚。このカードは召喚成功時、守備表示になる。さらに手札の魔法カード、サイクロンを捨てて効果発動!デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!」
「そんな雑魚を並べてどうするつもりだ?」
「レベル4のサモン・プリーストにレベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ギガンテック・ファイター!」
「?!こ、攻撃力2800だと!」
「バトル!行け、ギガンテック・ファイター!キングドラグーンを攻撃!」
「ぐううううっ!」ライフ4000から3600
「俺はこれでターンエンドだ。」
俊二 ライフ4000
手4 場 ギガンテック
恭一 ライフ3600
手0 場 ホルスの黒炎竜Lv8 伏せ1
「俺のターン、ドロー!それがSモンスターとやらか。だが、そんな物が俺のホルスデッキに通用するか!」
「そうだよ、勝って!恭一兄さん!」
亮三が応援する中、恭一はデュエルを進める!
「バトル!行け、ホルスの黒炎竜Lv8!ブラック・メガフレアッ!」
「ギガンテック・ファイターが戦闘で破壊されたとき、墓地の戦士族を選択。そのモンスターを特殊召喚する。」ライフ4000から3800
「何!という事は…。」
「ギガンテック・ファイターを特殊召喚!」
「なるほど、厄介だな。だが俺のホルスデッキには戦闘で破壊されない壁モンスターを処理するためのモンスターも入っている。ターンエンドだ!」
「忍者マスターSASUKEだろ。三回も頭を殴って、力づくで奪いとっておきながら偉そうに」
かつて奪われたレアカード名をつぶやく俊二。
俊二 ライフ3800
手4 場 ギガンテック
恭一 ライフ3600
手1 場 ホルスの黒炎竜Lv8 伏せ1
「俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!効果発動、このカードを墓地に送り、デッキからコアラッコとチューナーモンスター、Xセイバー・エアベルンを特殊召喚!」
「チューナー!またS召喚とやらをする気か!」
「コアラッコの効果発動、場に獣族がいるとき、相手モンスターの攻撃力を0にする!」
「何だと!ぐっ、ホルスの黒炎竜Lv8の攻撃力が!」
「レベル2のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ナチュル・ビースト!バトルだ、ギガンテック・ファイターでホルスの黒炎竜Lv8を攻撃!」
「うわああああああっ!」ライフ3600から800
「終わりだ、ナチュル・ビーストで。」
攻撃宣言しようとした瞬時に対し、『父』が騒ぎ出す。
「俊二!お前、弟の癖に兄に刃向かうのか!手加減をしろ!」
「…俺が。おれが亮三とデュエルすれば、『弟相手に何だ。負けてやれ。』と言う癖に!」
「お前と亮三は違う!」
「ああ違うとも!俺はお前たちと違って二枚舌では無いからな!いいだろう、恭一!こいつが手加減しろというから、あ・え・て・手加減してやる。ターンエンドだ。」
俊二 ライフ3800
手4 場 ギガンテック ナチュル・ビースト
恭一 ライフ800
手1 場 伏せ1
「お、俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット。ターンエンド!」
俊二 ライフ3800
手4 場 ギガンテック ナチュル・ビースト
恭一 ライフ800
手1 場 セットモンスター 伏せ1
「俺のターン、ドロー!Xセイバーエアベルンを召喚。バトルだ!ナチュル・ビーストでセットモンスターを攻撃!」
「仮面竜の効果発動、デッキから二体目の仮面竜を守備表示で特殊召喚!」
「エアベルンで仮面竜を攻撃!」
「俺は三体目の仮面竜を守備表示で特殊召喚!」
「ギガンテック・ファイターで仮面竜を攻撃!」
「デッキからデコイドラゴンを守備表示で特殊召喚!」
「よし!デコイドラゴンだ!これで恭一の負けは無くなった!」
何か言い出す『父』を無視する俊二。
「メインフェイズ2で魔法カード、精神操作を発動。デコイドラゴンのコントロールを得る。そしてデコイドラゴンにエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!ターンエンドだ」
俊二 ライフ3800
手3 場 ギガンテック ナチュル・ビースト カタストル
恭一 ライフ800
手1 場 伏せ1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、龍の鏡を発動!墓地の仮面竜3体と神竜ラグナロクとデコイドラゴンを除外して、F・G・Dを」
「ナチュル・ビーストの効果発動!デッキの上からカードを二枚墓地に送り、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」
「何だと!」
奈落の落とし穴、貪欲な壺が墓地へ行く。
「俊二、お前!兄に手向かいするとは何事だ!兄の魔法カードを封じるなんて」
「先に魔法カードを封じたのは、恭一だ。」
場を見渡す猫崎恭一。弟の場には、不死身のギガンテック・ファイター、魔法を封じるナチュル・ビーストに未知の機械族モンスターまで並んでいる。
対して恭一の手札はタイラント・ドラゴンのみ、伏せカードは王宮のお触れ。
「…ターンエンド。」
俊二 ライフ3800
手3 場 ギガンテック ナチュル・ビースト カタストル
恭一 ライフ800
手1 場 伏せ1
「俺のターン、ドロー。このままダイレクトアタックすれば俺が勝つけれど、そこの男が手加減しろと言うからな。」
「……。」
「さて、どうしたものか…」
「なぁ、俊二。もしかして。」
恭一は、決定的な事を言ってしまう。
「俺たちの事を、恨んでいるのか?」
憎悪と殺意に満ち溢れた顔を一瞬浮かべる猫崎俊二だが、スッと表情が変わる。
無表情と、無関心に。
「聞いたよ。透子義姉さんと婚約したらしいな、おめでとう。」
「え?あ、ああ。」
「いつか子供が産まれるんだろうなー。」
「…授かりものだからわからないが。」
一切の感情が込められていない声で話す俊二。
「そいつが俺みたいな髪の毛の色をしていなければ、イイネ。」
「?!」
愕然とする恭一。
そんな恭一の姿をじっと見守る我謝。
「…そろそろデュエルに戻っていいか?なぁ。」
「…ああ。俺に発動するカードは無い。攻撃してくれ。」
「な、何を言っている!恭一!」
『父』が何か喚くも
「…バトル。カタストルでダイレクトアタック。」
「…す…ま…な…っ…た」ライフ0
カタストルのレーザーが、恭一のライフを0にする!
恭一が負けた事で、周りのいじめっ子だった連中から完全に戦意が喪失する。
「俺の勝ちだな。今後、猫崎家は俺と光里に手出しも口出しもしない。俺からも金の無心をすることも無い。」
ショックを受け、放心していて返事をしない恭一。
そしてそんな恭一に駆け寄り、寄り添う婚約者。
「…行こう、光里。」
「待ちなさい!俊二!」
「その名前で俺を呼ぶな!」
「何を言っているのよ!私は母親なのよ!私が産んだのよ!」
「産んでくれって誰が頼んだ!」
そう返すと言葉につまる『母』。
足りない、こんな言葉では。
暗い衝動に突き動かされる猫崎俊二の肩に手をかけられる。
「光里?」
「もういいの。行きましょう、俊二。」
そう言いながら、光里は俊二の頬に触れる。
「…辛かったのね。」
光里の手が離れた時、乾いていたはずの手は何故か。
濡れていた。