海馬ドーム。かつて編入試験を受けた会場。
ここで、サイバー流との決着をつける。
控室で、深呼吸をして息を整える猫崎。そんな猫崎の背中に背中を合わせる光里。
言葉は交わさない。ただ、そこに居るだけで互いに落ち着く。そういう関係になっていた。
一方、丸藤亮の控室はひっきりなしに誰かが訪れるため、全然落ち着けなかった。
政界・財界の関係者が激励と称してやってくるが、要約すると『勝て』と言っているだけである。
当然、才災師範の所に対しては、それ以上の圧力がかけられている。
「…かなり参っているようやな?」
「才園か。」
京都ブロックを担当している才園が激励に来る。
「なぁ、正直。今のサイバー流の現状をどう思う?」
「…豊かになった。」
「そうやなぁ。サイバー流のプロ所属の決闘者は、ブロックに分かれてそれぞれの地域のサイバー流を統括する組織にまで発展した。年に一度は合宿として旅行も出来る。多角経営も始めていて、どれも好調や」
「何よりこのデュエルディスクを支給された。」
「かなり頑丈やしな、これ。」
サイバー・ドラゴンを連想させる、白を基調とし、銀色で縁取りされたデュエルディスクを見つめる才園。
「それに、偽造カードにも反応する。これらの経済的、技術的なバックアップを得られたのは小さくない。何といっても、門下生自体の数が増えた。」
「…だが、一子相伝のサイバー・エンド・ドラゴンが乱発された。」
「そうやな。門下生の質の低下は目を覆うわ。鮫島師範までのころはこんな酷くなかったんやけどな。サイバー・ツイン・ドラゴンやサイバー・レーザー・ドラゴンが主軸やったけど。」
互いに、わずかに沈黙する。
「…まぁ、頼むで、サイバー流継承者。鮫島師範すら倒すとなると、新人の皮を被ったベテランや。」
「君は、猫崎をどう思う?」
「んー、実年齢は30ぐらいあるんちゃう?」
「…そんなはずはないが。」
「まぁ、そうなんやけどな。うーん、勘が鈍ったんかいな?年齢当てゲームなら誤差±1以内で当ててきたんやけど。ああ、そうや。これを受け取ってくれへんか?」
渡されたカードケースを開け、中身を確認して目を見開く丸藤亮。
「これは…!」
「ウチと才川と才宮からの差し入れや…。使うかどうかは、任せる。鮫島師範の教えと、才災師範の教え、どちらを選んでも、ウチ等はあんさんの判断を『リスペクト』するで」
「…ありがとう。大切に使わせてもらう」
扉から出ていく直前で、才園は振り返る。
「そうそう、ちょこっと足止めしといたるわ。全然落ち着けてへんやろ?」
「…すまない。」
「気にせんでええわ。」
ひらひらと手を振り、才園は退出する。
それから30分間、誰も丸藤亮の控室には現れなかった。
政界と財界の関係者が代わりに矛先をどちらに向けたのかは…言うまでもない。
「…時間だな。」
丸藤亮は立ち上がり、会場へ向かう。
道中の廊下に、眼帯をつけた女性が腕を組んで壁に背中を預けている。
「才澤か。」
東北ブロックを担当している才澤だ。
「…サイバー・ランカーズとして謝罪する。」
「何故だ?」
「私達が猫崎を倒していれば、お前がこんな苦労をする事は無かった。不甲斐ない。」
深々と頭を下げる才澤。
「結果を出せなかった。不甲斐ない。」
「才郷、才川、才宮、才獏…いや、才田か。そして才澤はよくやってくれた。」
「だとしても、だ。…勝てよ、丸藤亮。」
頷き、丸藤亮は歩き出す。その後ろ姿を隻眼が見守る。
そのやり取りから10分後。
『さぁ、始まります!サイバー・ランカーズをことごとく打ち破った期待の新人、猫崎俊二と、サイバー流継承者、丸藤亮!』
『どちらもあのデュエル・アカデミアで無敗記録を打ち立てていますね。』
『在学中は対戦しなかったのですか?』
『寮が違ったのが原因だそうです。』
『さて、この勝負はどうなると思われますか?』
『新しい風、S召喚を取り入れた猫崎選手が有利と言われていますが、相手は完璧と呼ばれたデュエリスト。サイバー流継承者である丸藤選手が優勢という見方が強いですね。』
『なるほど。それでは選手の入場です!』
猫崎と丸藤亮は、初めて直接対峙する。
「…猫崎。こうしてデュエルをするのも話をするのも初めてだな。」
「そうですね。デュエルの前に、言っておきます。俺は、鮫島さんと話をしました。」
「?!師範と…」
「俺は、サイバー流が本来掲げていたリスペクト精神は、スポーツマンシップに近い物であると感じました。貴方にとって、リスペクト・デュエルとは何ですか?」
「リスペクト・デュエルとは自分の腕に驕らず、相手の事を考え、あらゆる可能性に対応したデュエルの事を指す…。スポーツマンシップに近い、という意見は斬新だ。」
互いに沈黙が流れる。
「…俺は貴方に勝ちたい。貴方を一人の決闘者として認めているから、そんな貴方に勝ちたい。」
「それはこちらも同じだ。行くぞ!」
「「デュエルッ!!」」
猫崎 ライフ4000
手5 場
丸藤 ライフ4000
手5 場
「先攻は俺だ、俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!」
『出ましたー!猫崎俊二のエースモンスターです!』
『確か、デッキからレベル3以下の獣族を二体特殊召喚出来ますが、エンドフェイズに破壊されるデメリットがあったはずですが…』
『いかにも。今までは使えないカードの烙印を押されていたカードでしたが…。』
「レスキューキャットを墓地に送り、デッキからチューナーモンスター、Xセイバー・エアベルンとライトロードハンターライコウを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」
『な、なんですかアレは?!レベル5の上級モンスターが出てきましたよ?!』
『あれがSモンスター、チューナーモンスターを含む素材となるモンスターの合計と同じレベルのモンスターを特殊召喚する方法!エアベルンのレベルは3、ライコウのレベルは2、よってレベル5のモンスターが特殊召喚されました!』
『な、なるほど…。攻撃力は2200ですか。Sモンスターと言っても、ゴブリン突撃部隊の敵ではありませんね。』
『それはどうでしょう?あのSモンスターは、なんと闇属性モンスター以外と戦闘を行うとき、なんとダメージ計算を行わずに破壊する効果があるそうです!』
『何?!サイバー流は光属性のモンスターが主軸、ここからは、あのモンスターがサイバー・ドラゴン系列のモンスターを一方的に破壊するワンサイドゲームになってしまうのか?!』
「…カードを一枚伏せ、ターンエンド。」
猫崎 ライフ4000
手4 場 カタストル 伏せ1
丸藤 ライフ4000
手5 場
「俺のターン、ドロー!魔法カード発動!エマージェンシー・サイバー!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える!そして相手の場にのみモンスターが存在する事で、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!そして、サイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!」
「サイバー・ドラゴンの派生カード…」
予想はしていた。勝負はこれからだ。
「効果発動!手札の魔法カード、サイバー・リペア・プラントを相手に見せることで、このターン、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う。俺は…サイバー・ドラゴンとなったツヴァイと、機械族のA・O・Jカタストルを墓地に送る!」
「?!」
融合のエフェクトが現れ、ツヴァイとカタストルが巻き込まれる!
「現れろ!キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」
『なんと丸藤選手!才災師範が禁じたサイバー流のカード、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚しました!これは…』
『別にデュエルワールドリーグでは禁止カードでは無いですよ?ただ、この局面はまずいです!そうそうに決着がついてしまうのかー!』
一方、特等席から見物していた才災師範は目を見開く。
「ま、丸藤!か、勝手なことを!くそっ!」
「だが、こちらが有利に立ったではないか。」
「このまま押し切れば、我々の勝ちだ。」
「おいおい、そもそもあのガキが勝ったところで…」
「おっと、そうだったな…ハハハ…」
一方、男たちは笑みを浮かべている。才災の教えは都合がいいが、大事なのは利益をもたらすか否かだ。
利益をもたらすなら、才災の教えを破ったところで丸藤亮をかばうつもりでいる。
そのような会話が行われているとは露知らず、丸藤亮はデュエルを続ける!
「バトルだ!行け、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!ダイレクトアタック!」
「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォース-!相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」
「くっ…」
ミラーフォースがキメラテック・フォートレス・ドラゴンとサイバー・ドラゴンを粉砕する!
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
猫崎 ライフ4000
手4 場
丸藤 ライフ4000
手3 場 伏せ1
この大舞台なら才災師範の教えに反するカードを使ってこないと思っていたが、使って来た。想定外ではあるが、勝たねばならない。
勝たなければ、才災師範に裁きを下せない。何より。
サイバー流が生き残ってしまったら、影丸理事長が浮かばれない。
彼とその親友であるアムナエルは十代に遺志を託した。この場にいるのは自分だが、その想いは同じだ。
「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、手札の大寒波を捨てて、デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!レベル4のサモンプリーストにレベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ギガンテック・ファイター!」
『今度はレベル8のモンスターですか。攻撃力2800!』
「バトル、ギガンテック・ファイターでダイレクトアタック!」
「ぐうううううっ!」ライフ4000から1200
「…俺は、カードを一枚伏せ、ターンエンド!」
猫崎 ライフ4000
手2 場 ギガンテック・ファイター 伏せ1
丸藤 ライフ1200
手3 場 伏せ1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、サイバー・リペア・プラントを発動!デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加え、召喚!効果発動、デッキからサイバー・ネットワークを手札に加える。」
「サイバー・ネットワークを?」
「魔法カード、2枚目のエマージェンシー・サイバーを発動!デッキからサイバー・エルタニンを手札に加える!行くぞ、俺は場のサイバー・ドラゴン・コア、墓地のサイバー・ドラゴンとツヴァイを除外し、サイバー・エルタニンを特殊召喚!」
「そのモンスターは!」
「効果発動!このカード以外のモンスターを全て墓地に送る!そしてこのカードの攻撃力は、除外した光属性・機械族の数×500ポイントアップする!」
『またしても、才災師範が禁じたサイバー流のカードです!ですが攻撃力1500!あまり高い数値ではありませんね』
『墓地に送る、という対処のしづらいカードですからね。ですが、これでダイレクトアタックが通るでしょう。』
特等席で、才災師範は歯ぎしりする。
「今度は、え、エルタニンまでぇ!一体どこで手に入れた!そんな機会は与えていないぞ!」
「このデュエルに勝てればそれでいい。」
邪悪な男たちの思惑が交差する中、丸藤亮は攻撃宣言を下す!
「バトル!エルタニンでダイレクトアタック!」
「っつ!」ライフ4000から2500
「俺はカードを一枚伏せてターンエンド」
猫崎 ライフ2500
手2 場 伏せ1
丸藤 ライフ1200
手2 場 エルタニン 伏せ2
「俺のターン、ドロー!魔法カード、光の護封剣を発動!ターンエンドだ!」
『おっと、ここで守りに入りました!』
『S召喚がメインですが、それ以外にも優秀な汎用カードを多数用いているのが猫崎選手のデッキです!』
猫崎 ライフ2500
手2 場 伏せ1 光の護封剣(3)
丸藤 ライフ1200
手2 場 エルタニン 伏せ2
「俺のターン、ドロー!ターンエンドだ。光の護封剣のターンカウントが進むな。」
猫崎 ライフ2500
手2 場 伏せ1 光の護封剣(2)
丸藤 ライフ1200
手3 場 エルタニン 伏せ2
「俺のターン、ドロー!ターンエンドだ。」
『またしても動かず!』
『何かを狙っているのでしょう。我々は静かに見守るとしましょう』
猫崎 ライフ2500
手3 場 伏せ1 光の護封剣(2)
丸藤 ライフ1200
手3 場 エルタニン 伏せ2
「俺のターン、ドロー!永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョン!次の俺のスタンバイフェイズに、融合モンスター1体をお互いに確認し、そのモンスターによって決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。俺はこれでターンエンド。」
猫崎 ライフ2500
手3 場 伏せ1 光の護封剣(1)
丸藤 ライフ1200
手3 場 エルタニン 伏せ2 未来融合(0)
「俺のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」
猫崎 ライフ2500
手3 場 伏せ2 光の護封剣(1)
丸藤 ライフ1200
手3 場 エルタニン 伏せ2 未来融合(0)
「俺のターン、ドロー!未来融合の効果発動!デッキからサイバー・ドラゴン2体、サイバー・ドラゴン・ドライ3体、サイバー・ドラゴン・コア2体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ2体、サイバー・エルタニンの計10体を墓地に送り、次の俺のスタンバイフェイズに、キメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚する!」
『うーむ、キメラテック・オーバー・ドラゴンも才災師範が禁じたサイバー流のカードですが…』
『別に運営委員である我々に口出しする権利はありません。個人的に、このデュエルにかける丸藤選手の想いが伝わってきます!』
「魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!場と墓地のサイバー・エルタニンを合わせて2枚、サイバー・ドラゴン2体、サイバー・ドラゴン・ドライ3体、サイバー・ドラゴン・コア2体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ2体の計11体を除外!現れろ、キメラテック・オーバー・ドラゴン!」
『攻撃力8800!』
『しかし、キメラテック・オーバー・ドラゴンにはリスクがあります。それこそ、才災師範が禁じるだけのリスクが。』
「キメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚した事で、未来融合と伏せていたサイバネティック・レボリューションとサイバー・ネットワークは墓地に送られる!」
『なるほど。自身以外のカードを墓地に送ってしまうのですね!』
『折角サーチしたサイバー・ネットワークもむなしく墓地へ埋葬されてしまいましたね…』
「ここで墓地に送られたサイバー・ネットワークの効果発動!除外されていた、サイバー・ドラゴン3体とサイバー・ドラゴン・ドライを特殊召喚!」
場に並ぶ、機光龍達!
「カードを1枚伏せる。ターンエンドだ!サイバー・ネットワークの効果を使用したターン、攻撃はできない。だが、このエンドフェイズに光の護封剣も消滅する!」
『こ、これは…何というタクティクス!流石サイバー流継承者!パーフェクトです!』
『キメラテック・オーバー・ドラゴンの墓地送りのリスク、サイバー・ネットワークの攻撃出来ない代償を全て帳消し、光の護封剣も消滅!次のターンの総攻撃の準備完了といった所ですね!』
猫崎 ライフ2500
手3 場 伏せ2
丸藤 ライフ1200
手2 場 キメラテック・オーバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ドライ 伏せ1
場にはキメラテック・オーバー・ドラゴンに、三体のサイバー・ドラゴンとドライ、強力なモンスターが立ち並ぶ。
それを見ている特等席では、外国製のスーツに身を包んだ男達が、歓声を上げる!
「これはもうかったな!」
「ああ、ここから巻き返すのは不可能に違いない!」
「よくやったぞ、才災!」
「ぐ、ぐぐぐぐ…、キメラテック・オーバー・ドラゴンまで…何故だ、何故私の正しい教えを無視する…!」
一方、観客席にて、一人の少女がじっと猫崎を見つめる。
「…ここから、巻き返せるの?猫崎」
そんな少女の傍らには、半透明のブリザード・プリンセスが興味深そうに眼前のデュエルを見つめる。
少女とはかなり離れた別の観客席にて。門士郎はカイザーのデュエルを見ていた。
全てを出し切った全力の布陣。もしも、あの場にいるのが猫崎では無くて自分ならどう突破するか。それについて考えをめぐらす。
アカデミアの卒業生達とは別の観客席にて、黒髪の兄弟が俊二を見つめる。
「恭一兄さん、これはもう俊二兄さんの負けだよね?この分だと、僕たちの仕事はキャンセルかな?」
「…最後の最後まで、何が起きるかわからない。これはデュエルだけではなく、臨時の仕事でもそうだぞ、亮三。」
「でも、ここからどうやって勝つのさ?カタストルとかいう機械族は通用しないし…。」
「だが、俊二は諦めていない。なら、俺はただ見届けるだけだ…。絶縁されたが、それぐらいの権利はある。もしもここから俊二が勝ったら、仕事だ。」
「はーい」
多くの観客が、最後になるであろう猫崎俊二という決闘者のラストターンを見届けようとしていた。
ここで有効打を打てないなら、そのまま敗北するだろう。
「俺のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のレスキューキャット、エアベルン、ライコウ、召喚僧サモンプリースト、霞の谷の戦士をデッキに戻して二枚ドロー!」
『ここで手札補充を引き当てましたか!』
「召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードを守備表示に変更する。手札の大寒波を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚。レスキューキャットを墓地に送り、デッキからX-セイバーエアベルンとライトロードハンター ライコウを特殊召喚!」
「罠発動!スリーカード!これでお前のXセイバー・エアベルンと伏せカード二枚を破壊する!」
『な、何ですかあのイラストは!』
『まさにサイバー流と猫シンクロの決戦であるこの場に相応しいカードですねぇ!資料ではサイバー・ランカーズのブロック代表がデザインした物ですが、この大勝負にふさわしいカードです!』
「スリーカードにチェーンしてカウンター罠、魔宮の賄賂を発動!」
「ぐっ!だが、カードを一枚ドローする!」
猫崎はチェックメイトをかけるべく、S召喚を行う!
「レベル4のサモンプリーストとレベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、ミスト・ウォーム!効果発動、サイバー・ドラゴン3体を手札に戻す!」
「?!何故、キメラテック・オーバー・ドラゴンを戻さない…?」
訝しむ丸藤亮。
「死者蘇生を発動!墓地のサモンプリーストを特殊召喚!手札の魔法カード、精神操作を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!レスキューキャットを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンと異次元の狂獣を特殊召喚!レベル4のサモンプリーストとレベル3の異次元の狂獣に、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!現れろ!A・O・Jディサイシブ・アームズ!」
「これは…!」
「相手の場に光属性のサイバー・ドラゴン・ドライが居る事で、手札を全て墓地に送り効果発動!相手の手札を確認し、その中の光属性モンスターを全て墓地に送り、墓地に送ったモンスターの攻撃力の合計分のダメージを与える!」
「?!ミスト・ウォームでサイバー・ドラゴンを3体バウンスしたのはこのためか…!」
丸藤亮の手札は、サイバー・ドラゴン3体とパワー・ボンドとサイバー・ジラフと大嵐だった。
「サイバー・ドラゴン3体とサイバー・ジラフを墓地に送る!」
「うわああああああっ!」ライフ0
『な、なんという事でしょう!あのサイバー流継承者、丸藤亮までもが敗れました!』
『これが、S召喚デッキの強さですか。しかし、これで日本のカードゲーム界は荒れますね…。』
デュエルが終わり、猫崎は控室に戻る。
「ふぅん。まぁまぁだったな。」
「ありがとうございます。」
「これで、サイバー流の評判はがた落ち、サイバー流に支援をしていた連中もサイバー流を見限る。ようやくカードゲーム界は健全に…」
そこまで言ったところで、招かれざる客がドカドカと押し寄せる。
「き、貴様っ!なんと、なんという事をしでかした!」
今までカードゲーム界を制御するために、サイバー流を道具として使っていた政界、財界、報道機関、宗教界の大物たちだ。
「俺は、プロデュエリストとしてデュエルをしただけです。」
外国製のスーツに身を包んだ男が、杖を床にたたきつけながらわめく。
「サイバー流はな、日本のカードゲーム界を効率よく管理する最良の選択肢だった!それをよくも壊したな!」
「政界、財界、宗教界と報道機関を全て敵に回してカードゲーム界が発展出来ると思っているのか!」
「後、あと二年で完璧な物になったのにぃ!この償いはさせてやるぞ!眠れぬ夜を過ごすがいい!」
「くだらんな。」
そんな戯言に対し、海馬瀬人は短くつぶやく。
「なんだと!」
「貴様らはサイバー流に金銭的な支援をしたが、一方でサイバー流の腐敗を招いた。投資が無駄になったのは貴様らの見る目が無かっただけ。それを俺達に責任転嫁した所で、俺達が聞き入れる必要はない。」
「ぐうっ…」
「それよりも、自分たちの身の振り方を考えるんだな。」
「何を言って…電話?」
男たちの携帯が一斉に鳴り響く。
「私だ。何の用…弾劾?!」
「な、なんだと!私を追放するだと!」
「…当たり前だ、確実に実行しろ!いいな!」
「そ、それは本当か?ま、待て、時間を稼げ!今すぐ戻る!」
顔を青ざめる者、脂汗を流しながら走り出す者、こっそりと指示を出す男。見るに堪えない醜態を繰り広げる。
「海馬様、これは…」
「ふぅん。奴らの派閥も一枚岩ではないという事だ。カードゲーム界への足掛かりを目論んでいた連中と対立していた一派とすでに話をつけておいた。最も、貴様が負ければ連中も動かなかっただろうがな。」
すでに手を回していたことに、猫崎は戦慄する。
猫崎俊二と才波光里は、後始末を海馬瀬人に任せて、一足先に宿泊施設へ戻るべく海馬ドームを後にする。
解放感に包まれた二人は予約してあるホテルまで、雑談しながら散策する。
そんな二人に、熱心な目を向けている4人の男達が居る。
黒い車に乗り込み…戦闘服を纏い、野戦ブーツを履き、スタンガンやブラックジャック、アーミーナイフなどの凶器を所持している。
しかも車には、毛布や手錠、ガムテープが用意されている。
職務質問を受ければ完全にアウトな状況だ。
「雇い主の先生方から、連絡があった。仕掛けるぞ」
万が一、丸藤亮が負けた時に備えて配備されていた、拉致を目的とした一団。
そっと車からでた男達の前に、一人の人影が現れる!
「…俊二のファンにしては、随分と物騒だな。」
「そこをどけ。」
「断る、と言ったら?」
男はアーミーナイフを携えて、素早く突進する!だが、
「ガッ!」
人影は、膝で男の手首を真下から打つと、戦闘服を着こんだ男は自らのアーミーナイフで頬を切り裂いてしまう!
悲鳴を上げかける寸前、手刀を浴びせられて気絶する!
「くそっ、やってやる!」
二人が同時に襲い掛かろうとした時、後方の指揮官らしき男がドサリ、と倒れ伏す。
「なっ?!」
「も、もう一人いたのか!」
軽く手を払う人影。やや緊迫感が無い様子だが、次の瞬間。
「あがっ!」
その人影は一気に距離を詰め、左側の男の鳩尾をえぐる!
「な、なな…!」
最後に残った男は、想定外の事態に動揺。
そんな男の足に衝撃が走る。
人影は足を踏みつけた状態で拳を突き出す!その拳は男の顎を正確に撃ち抜く!
「…他には居ないか?」
「いないはずだよ、恭一兄さん。」
「よし。引き上げるぞ。」
「ええ~、もう?俊二兄さんから礼の一つでも」
「年長者のいう事が聞けないか?」
「うっ、わ、わかったよ…。でも、いい物を持っているね。」
「こんなのが欲しいなら、後で買ってやる。それとホテルの冷蔵庫にあった飲み物、好きなだけ飲んでいいぞ」
「やった!」
人影の片割れがその場を去り、残った人影はある地点に向かって手を振る。
「…いやぁ、敵に回したくないねぇ」
飄々とした態度で、ひげを生やしたフリーのジャーナリストらしき男が現れる。
「国崎。情報提供、感謝する。」
「何、いいって事よ。それじゃあ俺は第一目撃者って事で海馬コーポレーションに報告するが…いいのか?この件を伝えれば、弟さんと和解出来るんじゃ?」
「俺はもう、俊二の兄ではない。これはただのけじめだ。」
今回、政界と財界の関係者が、誘拐事件を起こそうとしていることを突き止めた国崎だが、ターゲットの姓が知人と同じである事に気づく。
試しに話をしてみたところ、血縁者と言う事が判明。
肩をすくめ、海馬コーポレーションに電話を入れる国崎。そんな彼をしり目に、猫崎恭一は一点を見る。
もう、俊二の姿は見えない。
「…達者で暮らせよ、俊二。」
そのような出来事が起きていたとは露知らず。俊二と光里はホテルで休む。
清涼飲料水を飲んで一息ついた俊二はベッドに横になり、光里がマッサージを行ってゆっくりと休んでいるころと同時刻。
才災師範は、丸藤亮に与えられた現金と、今まで政界、財界、報道機関、宗教界から与えられた宝石類、小切手、土地の権利書の一部を毛布で包み、ロープで縛って逃げだしていた。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ…」
流石に全ての資産は持ち出せなかったが、それでもかなりの額だ。これだけあれば、再起は図れないが隠れて生き延びるには十分な額になるはずだ。
才災師範には、わからなかった。何故自分が、脂汗にまみれ、息を切らしながら逃げなければならないのか。
全ては順調だったはずだ。
政界・財界・報道機関・宗教界から支援を受けられるという話を鮫島師範が断った時、彼らに協力するから鮫島師範を追い出す手伝いを求め、サイバー流師範に上り詰め、デュエルアカデミア校長に就任。それからは我が世の春だった。
今までは到底できなかった贅沢が出来るようになった、誰もがちやほやしてくれた、欲しいものは何でも手に入った。
だから気前よく、他の門下生にも贅沢をさせてやった。
にも関わらず、自分を認めなかった愚か者が居たので追い出した。そうやって一生懸命、頑張って正しい『リスペクト精神』を伝えて築き上げたサイバー流は。
猫崎俊二というガキに全部叩き潰された。鮫島元師範も、先ほどデュエルした丸藤亮も、手を抜いていたに違いない。
そうだ、丸藤亮!こともあろうことに、このデュエルで自分が禁じたサイバー流のカードを勝手に使用した!
自分の教えを捨てるとは!このデュエルで除去カードさえ使わなければ、『猫崎が勝てたのは卑怯な除去カードを使ったから』と主張でき、サイバー流は多少の傷で済んだのに!
どいつもこいつも役立たず…。
怒りと贅沢三昧な生活を続けた事で、現役時代と違い体がなまっていた事、荷物が想定以上に重かった事で足元がふらつき、才災師範は倒れる。
きちんと縛られていなかったロープが解け、土地の権利書が散乱する。
「?!わ、私の、私の財産が!」
今の才災勝作には、もはや自分の物と信じる財産しか頼れる物が残っていなかった。
それらは全てサイバー流の為に託された物であるというのに。
「さ、才災師範…?」
茫然とつぶやくのは、才田。師範が行方不明という事で、足取りを追ってきた彼女だが、その様子にたじろいでしまう。
「これって…」
散乱した書類の一つが土地の権利書である事に、才川が気付く。
「なんだと!さ、才災師範…が持ち逃げしようとしていたのか?」
才宮が疑惑の眼差しを才災師範に向ける。
「っつ!来るなぁ、寄るなぁ!」
才災は、毛布の上に身を投げ出す。
「私の金だぞ!誰にも渡さんぞぉ!」
錯乱する才災師範を、何とか才田はなだめようとする。
「お、落ち着いてください。その荷物を運ばないといけないのですか?なら私達が」
「その必要はないっ!いいから離れろっ!」
そんな醜態にサイバー・ランカーズであり、プロとして活動している面々は思わず黙り込む。
「ようやく追いついた!才災師範!いや、才災!これはどういうことだ!」
「さ、才郷!私はサイバー流師範だぞ!それを呼び捨てにするな!」
「何故サイバー流の資産を貴方が持っている!それは貴方の財産では無いぞ!」
「黙れだまれダマレェ!!だ、誰のおかげで、サイバー流がここまで大きくなったと思っている!私のおかげだぞ!」
「そうだ、その通りだ。だが、サイバー流の財産は鮫島元師範から貴方に引き継がれたように、その財産もゆくゆくは次のサイバー流師範が引き継ぐ物だ。」
「い、嫌だいやだイヤダァ!これは私の金だ!私の物なんだぁあああっ!」
負けるはずがないと信じていたサイバー・ランカーズの連敗。
自らが卑怯と断じた、禁断の機光龍…サイバー・エルタニン、キメラテック・フォートレス・ドラゴンとキメラテック・オーバー・ドラゴンを許可しても倒せない猫崎。
自分の正しい教えに忠実だったがもはや力不足と断じてブロック代表を入れ替えさせて、挑ませるも敗北。
その敗北する光景が、何故か中継され、報道機関に文句を言うも心当たりがないと返される。
そのたびに、政界・財界・宗教界で今まで自分をちやほやしてくれた者達が、手のひらを返して責め立て続けるストレス。
最後のチャンスでも、丸藤亮が自分の『正しい教え』を破って、どこからか手に入れた、卑怯な禁断の機光龍を使用したにも関わらず敗北したことで、完全に才災師範の理性は飛んでしまった。
元々、彼はサイバー流の長を務める器では無かった。師範を裏方でサポートする、根回しをするという縁の下の力持ちとして活動していれば、こうはならなかっただろう。
カードゲーム界を制しようとした一派はそこを間違えた。言う事を聞くという理由で鮫島を追い出したことで、全ては狂ってしまった。
才郷はこの時点で、完全に才災師範を見限る。
「才田。才澤と才園に連絡を入れろ。才災…師範が見つかったと。」
「わ、私が?」
「仕方ないだろう?俺は携帯番号を知らないんだから。」
「「え?」」
思わずハモる才川と才宮。
「なんだ?お前たちは知っているのか?」
「あ、うん。」
「ちょっと前に連絡先を交換したけれど…。」
「何で俺には教えてくれないんだ…。ってそんな事より。お前たちは財産をまとめてしっかり運べ。」
「ああ、わ、わかった。才郷はどうするんだ?」
「…才災…師範を説得してから連れて帰る。この事件は口外するなよ。今回の一件でサイバー流の権威失墜は免れないが…、師範が金を持ち逃げしようとしたことが明らかになれば、破滅だ。」
才郷はサイバー流に見切りをつけながらも、その門下生までもが後ろ指を指される事が無いよう、穏便に済ませるべく動き出す。
だが、全ては時遅し。
その事実はペガサス会長と海馬社長によってネットを通じて拡散され、サイバー流の権威は崩壊。
サイバー流の道場は次々と閉鎖に追い込まれ、サイバー流が副業として行っていた飲食店などは倒産か買収されたが…いくつかの店舗はそのまま存続した。
サイバー流に協力していた政界、財界、報道機関、宗教界の大物は次々と失脚、追放されていき。
サイバー流は壊滅することとなる。
その後、猫崎俊二はS召喚の初代テスターとして歴史に名を残す事となる。