何というか理事長に孫娘がいたら、おじいちゃん大好きっ子というイメージしか湧きません。アムナエルとてただの駒、と作中で述べていたのに何故でしょう?
かつて財界の大物からサイバー流に寄贈された高級マンションの最上階で、才災勝作は豪奢な食事をむさぼっていた。
このマンションは、シーズン中ならば大勢の人が訪れる場所だが、シーズンオフの今は閑散としている。
分厚いが柔らかいステーキを挟んだサンドイッチ、卵4つと生クリームをふんだんにつかったフワフワのオムレツ。
大皿に盛られたグリーンサラダ。ジョッキには、砂糖とミルクをたっぷり入れたアイスコーヒーが注がれており、氷もコーヒーを凍らせた物だ。
才災の計画はこうだ。偽造パスポートを用意しアメリカへ逃げる。ろくに電波も届かない田舎まで逃げ、釣りや農業をしながら安穏に暮らす。
そのための逃亡資金をここで稼ぐ。自家発電機や生活するうえで必要になる物は多い。
地下デュエル場にて、昨夜才災は大勝を収めた事で、若干機嫌を良くしていた。
ゆえに、今日は少し快楽にふけるつもりだ。
才災は、逃亡生活を送り始めてから何かしら享楽にふけらずにいられなかった。
そうしなければ、不安とむなしさに心が押しつぶされそうになるからだ。無論、自業自得なのであるが。
アイスコーヒーを飲み干し、才災が片づけをしようと立ち上がった時。
フードを被った、小柄な人影が現れる。
「何者です!ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
「…アポイントメントを取っていないのは、当方の落ち度。申し訳ない。」
「女?」
一体誰だ?サイバー流の協力者だった者の刺客か?だが自分はサイバー流師範、才災勝作。
並の刺客なら返り討ちにして、その身柄は地下デュエル場に引き渡して金を貰う。
偶然、このマンションに居るのでは?と思って入りこんだ5人の男女は、既に悲惨な末路を迎えている。
だが、既に真っ当な精神状態では無くなった才災勝作にとっては些事でしかない。精々、350万円の臨時収入になったな、という感想しか持っていない。
フードを取る女。
はらり、と流れる長い黒髪。全体的に痩せているが、引き締まっている体つき。
切り揃えられた前髪から、強い意思を秘めた黒い吊り目が印象的。可愛らしいというより、綺麗という印象を受ける顔立ち。
その額には、ウジャト眼が中央にあしらわれた奇妙なサークレットが輝く。
「名乗りなさい!」
「当方は光海(ミツミ)。貴公の最後のデュエルの相手となる者。そして…」
一呼吸おいて、少女は告げる。
「当方の姓は、影丸。」
「?!まさか、影丸理事長の…!」
影丸理事長。三幻魔を覚醒させ、サイバー流を滅ぼすべくセブンスターズを送り込み、門下生に多大な危害を加え、自身のサイバー・エンド・ドラゴンすら粉砕した老害。
遊城十代に負けて死亡したはずだが。
「貴方の祖父を死に追いやったのは、遊城十代というリスペクト精神を持たないオシリスレッドの生徒ですよ!」
「おじい様の世話役から、詳細は聞けなかったが…。おじい様が三幻魔を復活させたのは貴公を倒し、サイバー流を壊滅させる為だとか。おじい様が倒れたなら、その無念と意思は当方が継ぐ。」
「…いいでしょう。三幻魔により私は手痛い敗北を喫しました。孫娘である貴女では物足りませんが、晴らさせてもらいましょう!」
「では、始めさせてもらう。」
そう光海がつぶやくと、ウジャト眼が輝き、才災と光海の周囲を、闇が包み込む!
「これは…。」
深海を連想する才災。
「この光届かぬ深海こそ、貴公の最期にふさわしい。おじい様がセブンスターズに与えるために、アムナエルに作らせた最後の闇のアイテム。それがこのサークレット。」
本来の世界線ならアビドス3世に与えられていたアイテムは、この世界では光海の手にある。
「という事は、ダメージが実体化…!」
「そういう事は無い。ただ、負ければ助からない。」
才災と影丸の右足に、鎖が嵌められる。
「こ、これは!」
「敗者の鎖には、錨が取り付けられる。生きて脱出できるのは勝者のみ。敗者はこの光届かぬ深海に引きずり込まれる。引き分けになった場合は、双方引きずり込まれる…」
「…いいでしょう、ならば貴女を返り討ちにして、この深海に叩き込んでやります!」
「「デュエルッ!!」」
光海 ライフ4000
手5 場
才災 ライフ4000
手5 場
「先攻は、当方が貰う。当方のターン、ドロー。手札のサンダー・ドラゴンの効果発動。このカードを捨てて、デッキからサンダー・ドラゴンを二枚まで手札に加える。そして手札からヒゲアンコウを通常召喚。」
「まだデッキが読めませんね…」
「魔法カード、大波小波を発動。当方の場の水属性モンスターを全て破壊。その後、破壊したカードと同じ枚数の水属性モンスターを手札から特殊召喚できる。現れろ、超古深海王シーラカンス。」
「な、何ですかこの魚は!」
「効果発動、1ターンに1度、手札を一枚捨てる事でデッキから下級魚族を可能な限り特殊召喚する。手札のサンダー・ドラゴンを捨て、デッキからオーシャンズ・オーパー三体とレインボーフィッシュを特殊召喚。全て守備表示。」
「い、一気に四体も!」
「ただし、この効果で特殊召喚した魚族は攻撃も出来ず、効果も無効になる。」
「何ですかそれは。ただの壁ではありませんか!」
「…カードを一枚伏せ、ターンエンド。」
光海 ライフ4000
手2 場 超古深海王シーラカンス オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー レインボーフィッシュ 伏せ1
才災 ライフ4000
手5 場
「私のターン、ドロー!下級モンスターで壁を用意したようですが、サイバー流には通用しません!魔法カード、大嵐を発動!」
「…罠発動。水霊術-葵。レインボーフィッシュをリリースして、貴公の手札を確認し、一枚を捨てさせる。」
「なっ!?あ、貴女には対戦相手へのリスペクト精神は」
「当方は、貴公に褒められるほど酷い性格はしていない。」
才災の手札は、サイバー・ドラゴン・コア、サイバネティック・レボリューション、機械複製術、パワー・ボンド、サイバー・ドラゴン・コア。
「…パワー・ボンドを墓地へ。これで融合は出来ない。」
「このサイバー流師範、才災を侮ってもらっては困ります!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!効果発動、デッキからサイバーロード・フュージョンを手札に加えます!」
伝手を使って秘密裏に製造した、サイバー流の派生カードをサーチする才災。
逃亡生活を送りながら、海馬コーポレーションやインダストリアルイリュージョン社の監視をかいくぐって、新規カードを開発する辺りサイバー流を大きくした手腕は伊達では無い。
「魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ドラゴンを二体特殊召喚!」
場に並ぶ、サイバー・ドラゴンたち。
「バトル!サイバー・ドラゴンでオーシャンズ・オーパーを攻撃!」
「…戦闘破壊されたオーシャンズ・オーパーの効果発動。サウザンド・アイズ・フィッシュを手札に加える。」
「二体目のサイバー・ドラゴンでオーシャンズ・オーパーを攻撃!」
「戦闘破壊されたオーシャンズ・オーパーの効果発動。マザー・フィッシュを手札に加える。」
「速攻魔法、サイバーロード・フュージョン!融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、「サイバー・ドラゴン」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚!三枚のサイバー・ドラゴンをデッキに戻し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!追撃です!ご自慢のシーラカンスを攻撃!」
「シーラカンス…。」ライフ4000から2800
「私はカードを一枚伏せてターンエンド!」
光海 ライフ1200
手4 場 オーシャンズ・オーパー
才災 ライフ4000
手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン 伏せ1
「当方のターン、ドロー。魔法カード、貪欲な壺。墓地のサンダー・ドラゴン2体とオーシャンズ・オーパー2体とレインボーフィッシュをデッキに戻し、二枚ドロー。」
「フン、それでどうしようと。」
「手札のサンダー・ドラゴンを捨てて、デッキからサンダー・ドラゴンを2体手札に加える。魔法カード、鳳凰神の羽根を発動。手札のサンダー・ドラゴンを捨てて、墓地の超古深海王シーラカンスをデッキの一番上に戻す。」
「ふぅ、やれやれ。自らドローロックをかけてどうするのですか?」
「こうする。魔法カード、モンスターゲート。場のオーシャンズ・オーパーをリリース。デッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまで、カードをめくる。1枚目。超古深海王シーラカンス。」
「な、なんですと!」
再び現れるシーラカンス。
「手札のサンダー・ドラゴンを捨てて、効果発動。オーシャンズ・オーパー2体、オイスターマイスターを2体特殊召喚。そしてオーシャンズ・オーパーをリリースしてサウザンド・アイズ・フィッシュを特殊召喚。これにより、相手は手札を公開する。意味は薄いけれど。」
「くっ…」
「そしてオーシャンズ・オーパーをリリースしてマザー・フィッシュを特殊召喚。これで終わり。装備魔法、団結の力を超古深海王シーラカンスに装備。攻撃力と守備力が4000ポイントアップ。」
「攻撃力6800!」
「超古深海王シーラカンスで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃。」
「うわあああああああっ!」ライフ4000から1200
「マザー・フィッシュでダイレクトアタック。」
「こ、このサイバー流師範、才災勝作がああああああっ!」ライフ0
ライフが尽きた才災師範の左足に、新たな鎖が取り付けられ引っ張られる!
「う、うわああああああああっ!」
「…まだ、終わりでは無い。」
「な、何を…」
「この闇のゲームは三回勝負。先に二回勝利した方が、勝者となる。」
「…いいでしょう。この才災勝作の底力を見せてやります!次は、私が先攻を貰いますよ!」
「構わない。」
「「デュエルッ!!」」
光海 ライフ4000
手5 場
才災 ライフ4000
手5 場
「先攻は貰いますよ!私の先攻、ドロー!私は、サイバー・ドラゴン・コアを召喚!効果発動、デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加えます!魔法カード、機械複製術を発動!デッキから、サイバー・ドラゴンを二体特殊召喚!」
「…サイバー・ドラゴンが3体。」
「カードを4枚伏せてターンエンド!」
光海 ライフ4000
手5 場
才災 ライフ4000
手0 場 サイバー・ドラゴン・コア サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン 伏せ4
「当方のターン、ドロー。当方は場のサイバー・ドラゴンを含む機械族3体を墓地に送り、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚。」
「なっ、なななっ?!」
自分が展開したサイバー・ドラゴンをまとめてキメラテック・フォートレス・ドラゴンにされた事で、才災は怒り狂う!
「なんて卑怯な!貴女には対戦相手に対するリスペクト精神は…!」
「…初めてやってみたが、機械族のパワーバランスを崩壊させてしまう。貴公が禁じるのも納得だ…。しかし、このデュエルは勝たせてもらう。光鱗のトビウオを召喚。」
攻撃力の合計は、4000を超えた。
「トビウオでダイレクトアタック。」
「ぐうううううっ!」ライフ4000から2300
「…勝った。キメラテック・フォートレス・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「罠発動!ゴブリンのやりくり上手を3枚発動!そしてチェーンして非常食!やりくり上手を3枚墓地に送り、ライフを3000回復!私はカードを4枚ドローして、1枚戻す。これを3回繰り返す!」ライフ2300から5300
「っつ!でも、ダメージは受けて貰う!」
「ぐあああああああああっ!」ライフ5300から2300
「…当方は、カードを一枚伏せてターンエンド。」
光海 ライフ4000
手4 場 キメラテック・フォートレス・ドラゴン トビウオ 伏せ1
才災 ライフ2300
手9 場
「私のターン、ドロー!魔法カード、サイバー・リペア・プラントを発動、デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加え、召喚!効果発動、デッキからサイバネティック・フュージョン・サポートを手札に加えます!」
「サイバネティック・フュージョン・サポート…。」
「そのまま発動!ライフを半分払います!」ライフ2300から1150
ライフの差は開くが、光海は慎重に才災のプレイングを見つめる。
「魔法カード、パワー・ボンドを発動!」
「チェーンして、スクラップ・フュージョンを発動。墓地のサイバー・ドラゴン2体とコアを除外して、当方の場にサイバー・エンド・ドラゴンを貴公の融合デッキから特殊召喚。」
「な、なななっ!」
「融合出来なければ、パワー・ボンドは不発になる。」
「…手札のサイバー・ドラゴンと場のサイバー・ドラゴン・コアを融合!来なさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」
「攻撃力、5600!」
「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンでキメラテック・フォートレス・ドラゴンを攻撃!」
「っつ!」ライフ4000から1400
「サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルで二回攻撃が可能!サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」
「…見事。」ライフ0
次は、光海の左足に枷が嵌められ、引っ張られる!
「っつ!」
「さぁ、後が無くなりましたね。祖父の所に旅立たせてあげましょう。さぞや寂しがっているでしょうからね!」
「…こんな早く旅立ったら、まだ早いと言われて現世に叩き返される。」
一呼吸おいて、光海は才災を見つめる。
リスペクトの名のもとに相手を批判・否定し、おじい様が倒そうとした憎い敵。
だがキメラテック・フォートレス・ドラゴンでの除去を、スクラップ・フュージョンの妨害を掻い潜った。
サイバー流の長というのは、伊達では無いようだ。
「最後のデュエル。勝った方が、脱出できる。」
「なら、勝つのは私です!」
「「デュエルッ!!」」
光海 ライフ4000
手5 場
才災 ライフ4000
手5 場
「私の先攻、ドロー!私は、サイバー・ドラゴン・ドライを召喚!レベルを5にします!私はカードを二枚伏せてターンエンド!」
光海 ライフ4000
手5 場
才災 ライフ4000
手3 場 ドライ 伏せ2
「当方のターン、ドロー。魔法カード、スターブラストを発動。ライフを1500払い、超古深海魚シーラカンスのレベルを4にする。」ライフ4000から2500
「くっ、そのモンスターは」
「レベル4となった、シーラカンスを召喚。効果発動、手札を一枚捨て、デッキからレインボー・フィッシュ3体と深海王デビルシャークを特殊召喚。」
「しかし、攻撃宣言はできませんよ!」
「心得ている。バトル、シーラカンスでサイバー・ドラゴン・ドライを攻撃。」
「永続罠、サイバー・ネットワークを発動!サイバー・ドラゴン・ドライを除外!ここでドライの効果発動、場のドライに破壊耐性を与えます!」
「でもダメージは受けて貰う」
「くっ!」ライフ4000から3000
「カードを3枚伏せて、ターンエンド」
光海 ライフ2500
手0 場 シーラカンス レインボー・フィッシュ レインボー・フィッシュ レインボー・フィッシュ デビルシャーク 伏せ3
才災 ライフ3000
手3 場 ドライ サイバー・ネットワーク(0) 伏せ1
「私のターン、ドロー!」
「罠発動、酸のラストマシンウィルス。場のレインボー・フィッシュをリリース。貴公の場と手札の機械族を全て破壊。手札は…。」
「サイバー・ネットワークでドライを除外し、場のドライに破壊耐性を付与!」
「だが、その前にサイバー・ドラゴン・ドライは破壊される!」
「さらにチェーンして、速攻魔法、禁じられた聖衣!
「サイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、パワー・ボンド…。」
「では、2体を破壊。そして1000のダメージを与える。」
「ぐううううううっ!」ライフ3000から2000
「…ドライを守備表示に。ターン、エンド。」
光海 ライフ2500
手0 場 シーラカンス レインボー・フィッシュ レインボー・フィッシュ デビルシャーク 伏せ2
才災 ライフ2000
手1 場 ドライ サイバー・ネットワーク(1) 伏せ1
「当方のターン、ドロー。場のレインボー・フィッシュとデビルシャークをリリース。轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚。」
「ご、轟雷帝…?ザボルグの亜種?」
「亜種ではない、上位種。効果発動、サイバー・ドラゴン・ドライを破壊。そして、光属性モンスターを破壊した事で、効果発動。互いの融合デッキからカードを選んで墓地に送る。」
「っつ…サイバー・エンド・ドラゴン3体と、サイバー・ツイン・ドラゴン2体を選びます。」
「バトル、ザボルグでダイレクトアタック。」
「リバースカードオープン!非常食!場のサイバー・ネットワークを墓地に送り、ライフを1000回復!」ライフ1500から2500
「ネットワークが墓地に…」
「サイバー・ネットワークの効果発動!除外されたサイバー・ドラゴン・ドライ二体を守備表示で特殊召喚!」
「ならば、ザボルグとシーラカンスで、それぞれ攻撃。」
場のカードは一掃した。
「ターンエンド。」
光海 ライフ2500
手0 場 シーラカンス レインボー・フィッシュ 轟雷帝ザボルグ 伏せ2
才災 ライフ2000
手1 場
「私のターン、ドロー!」
「酸のラストマシンウィルスの効果。」
「私が引いたのは、サイバネティック・フュージョン・サポート!」
「ここで、キーカードを…。」
「ライフを半分払い、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動!」ライフ2500から1250
「……」
「魔法カード、パワー・ボンドを発動!墓地のサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・ツヴァイを除外して、サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」
「攻撃力、5600…」
「これで私の勝ちです!バトル!」
「罠発動、フィッシャーチャージ。場のレインボー・フィッシュをリリース。サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊して、1枚ドロー。」
「ひ、卑怯なっ!な、なんなのですか、貴女のデッキは!シーラカンスを主軸に置きながら、サイバー流に対するメタカードばかりでは無いですか!」
「いかにもその通り。」
「恥ずかしく無いのですか!」
「当方は学生、貴公はプロとして活躍していた時期もある、サイバー流の師範。勝つにはここまで対策せねば土俵にすら上がれない。」
事実、対策していたにも関わらず、才災は一勝をもぎ取った。
「力あるカードには、リスクが伴う。」
「…パワー・ボンドの効果で、2800のダメージを、受ける」ライフ0
絞り出すように、つぶやく才災。
才災のライフが尽きると同時に、才災の鎖が引っ張られる!
「ひ、ひぃいいっ!」
「光届かぬ深海で、反省しつづけて貰う」
鎖の先につけられた、錨が下がっていく。才災師範は抵抗するが、敵うはずもなく引きずり込まれていく!
「い、嫌だいやだイヤダァ!な、何故私がこんな目にぃいいいい!」
引きずり込まれていく才災師範を、冷たい目で見続ける影丸光海。
やがて空間が晴れる。
「…おじい様。仇は討ちました。」
『見事、祖父の仇を討ったようじゃな。影丸。』
鏡が虚空に浮かび上がり、そこに巫女装束に身を包んだ、アホ毛で巨乳な巫女が映し出される。
「はい、美寿知様のおかげで才災の居場所を突き止め、こうして闇のゲームで罰ゲームを与える事が出来ました。感謝しております。約束通り、光の結社に喜んで入ります」
美寿知は新戦力が手に入った事で策を練る。
兄、斎王琢磨を救うための作戦を。
『ならば、一度来るが良い。合わせたい人物もいる。』
そう言い残し、美寿知を映していた鏡が消える。
才災が居た場所を見る影丸光海。
(…普通に強かった)
ポーカーフェイスで無表情で割と知られていないが、光海は割と感性が豊かである。
(水霊術-葵でパワー・ボンドを落としてどうしようも出来ないだろうと思っていたら、コアからサイバーロード・フュージョンを持ってこられてメッチャ焦った…もしかして当方って弱い?それともなんだかんだ言って才災が強かっただけ?元とは言えプロでサイバー流の師範、というだけのことはあるか。)
デッキから、システム・ダウン、酸のラストマシンウィルス、キメラテック・フォートレス・ドラゴンなどの対機械族メタを抜きながらかつてアカデミアを受験したときのことを思い出す光海。
(キメラテック・フォートレス・ドラゴンとスクラップ・フュージョンまで使っても負けるとか、当方って本当に才能が無いのかも…。)
ここまで対策したのだ、これで一敗を喫するとは。未熟さを痛感する光海。
カード知識についても考えをめぐらす。
(会心の出来だったけれど、筆記で当方不合格だし…。というか筆記4位だけど何がいけなかったのかな?名前を記入し忘れた?リスペクト精神に関する記述問題の解答を述べてからしばらくして、すごく機嫌が悪かったけれど…。理由は話してくれなかったし。)
思考をめぐらす。同じく不合格だった雷丸は14位、氷丸は17位、岩丸は18位、炎丸は19位だ。
基準が分からない。何かの記述でよほど問題があったとされたのかもしれないが、心当たりがない。
(光の結社…、氷丸が加わったと聞いて良い印象は無いけれど、雷丸が参加しているなら行かないと。泥棒猫が近づいたら一大事…というか。)
先ほど、美寿知の姿が映っていた虚空を睨みながら光海は考える。
(アホ毛で巨乳で妹で巫女とか、属性盛り過ぎだぞ美寿知さん。精霊術師ドリアードか?むむむ。当方はいつ成長期を迎えるのか…?)
自らの体を改めてみる光海。女性らしい起伏は到底及ばない。
努力はしているが、結果が出てこない。
…
……
………
同時刻。深海に引きずり込まれた才災は、深海にも関わらず呼吸を行う事は出来た。
しかし、暗い。寒い。重い。
一体自分の何がいけなかったのか、才災はわからなかった。
『リスペクトデュエル』を、『正しい思想』を広めようとしていた。正しい行いをしていた。にも拘らず、邪魔をされた。
邪魔者は多かった。リスペクトに反する『過激思想』は筆記の順位に関係なく不合格にした。リスペクト精神を持たないなら、ノース校にでも行け。
一方、実技試験であえてそういう生徒を少数入学させた。その後『改心』すればよし。しなければサイバー流の正しさを定着させるための『敵役』になってもらう。
そのやり方に対し、反対した教員が居たので追い出した。
月一試験でリスペクトに反する生徒は、ブラックリストに入れて昇格させなかった。
だがそれは正しかった!その結果、私はちゃんと『成果』を出した!
鮫島前師範の考えに染まっており、改心の兆しがない門下生は追い出し、改心した者を門下生として受け入れ、数を増やした。
サイバー流の教えは、『敵役』のおかげで効率よく定着させることができた!
このままいけば、カードゲーム界は政界・財界・報道界・宗教界と一つになり、世界に羽ばたけるはずだった!あと、あと二年あれば!
それを全て壊したのが猫崎だ!あの忌々しい金と銀のツートンカラーめ!レスキューキャットめぇ!
門下生を投入したがことごとく倒された。何故あんな『リスペクト精神』を持たない生徒一人倒せない?
今までの『敵役』は倒せたのに!
『ブロック代表』は何の役にも立たなかった。私が禁じたサイバー流のカードを解禁したのに、それでも負けた!
あんな新人一人倒せず次々と倒されるとは、不甲斐ない!しかも丸藤亮は、許可なく私が禁じたカードを使っておきながら、負けた!
あれだけ!あれだけ目をかけてやったのに!ブロック代表どもは、私の『財産』を横取りした!
ああ、ああ!何故だ!私は『正しい事』をしているはずだ!なのに何故!
何故こうも邪魔が入る!その邪魔者を追い出してもまた邪魔者が現れる!
そもそも、どうして卑怯なコントロール奪取を、除去カードを、バーンカードを、カウンター罠を、ハンデスカードを、全体除去からのワンキルを、ロックカードを、何故当たり前のように使える?
頭がおかしいんじゃないか?使われたら嫌だろう?自分が嫌な事を他人にして、何故平気でいられる!
ああ、ああ!これで、これでカードゲーム界はおしまいだ!もうダメだ!
卑怯者が卑怯な戦術の応酬を行い、それを卑怯者達が見て悦にいる…。
い…い…いいわけが無い!何を諦めている、才災勝作!
お前の『リスペクト』が、あんな影丸理事長の孫娘に倒されて終わりでいいのか?いや、いいはずがない!許されるはずがない!
立ち上がれ!戦え!『正しいリスペクトデュエル』を定着させるために!
待てよ?これだけ、これだけこの私が、このサイバー流の師範!才災勝作が、正しい教えをしても聞き入れないなら…教え方を変えねばならない!
そうと決まったら、まずはこの罰ゲームの空間から脱出する!どんな、どんな手を使っても!!
………
……
…
才災が闇のゲームに負け、罰ゲームを受けているころ。
海馬コーポレーションの会議室。
そこに、海馬瀬人、城之内克也、万丈目長作、庄司、そして天馬月光が集まる。
「ふぅん…万丈目グループの方でも、才災勝作の行方は分からんか」
「そうだ。海馬コーポレーション、インダストリアルイリュージョン社と我々が動いて見つからないとなると…」
万丈目長作議員に、弟が口を開く。
「兄者、捜査の手を国外に広めては?」
「正規の手段なら、出国履歴で分かるが。逃がし屋、『凶鳥』が絡んでいるならお手上げだ。各国の入国管理局が躍起になって、この様だからな…。」
庄司の声に反応するのが、城之内克也。
つい先日までミズガルズ王国にて奮戦していたため、海外渡航の手順どころか、その裏まで把握している。
「そうなりますと…お手上げですね。」
海馬コーポレーション、インダストリアルイリュージョン社、万丈目グループ。彼らは現代日本の常識に縛られているため
『最近巷で有名な、斎王美寿知という巫女に才災勝作の行き先を占ってもらおう!』という発想は当然出てこない。
一方で影丸光海は、祖父の友人であるアムナエルが錬金術師であることもあって、元々占いという手段を取ることに躊躇いはない。
アムナエルからは、その真贋を見極めるだけの教育を受けているのも大きい。
「では、才災勝作とその協力者達が進めていた計画について話しませんか?」
「…あと二年、あと二年遅ければ、手遅れだったな。」
「兄者、あの計画書をシミュレーションしてみたが…日本の富の80%を20%の人間が、富の20%を80%の人間が分け合う超格差社会になるという結果が出たぞ。」
「馬鹿な!それでは国が成り立たん!」
超格差社会が広がるというシミュレーション結果に、長作議員は驚く。
「危ないところだったな、動ける人員は他の任務で釘付けにされていたわけだからな…。城之内もそうだ。」
「まぁな、ミズガルズ王国の不穏分子を操っていたラング伯爵とやりあっていたからな。そうそう、俺はミズガルズ王国から準男爵という爵位を貰ったぜ!」
「準男爵、フン、貴様にはお似合いだな」
「てめぇっ!」
そんな伝説の決闘者達を見ながら、万丈目兄弟は顔を見合わせる。
「…庄司、ミズガルズ王政府から準男爵、というか爵位を貰った日本人は居たか?」
「いや、記録にはないはず…。となると、日本史上初という事になるな。」
「準男爵で国民栄誉賞の申請は難しいか…。」
いや、逆にここで高く評価して、宇宙開発の先進国であるミズガルズ王国との外交を若干やりやすくするのもありか?と政治関連に思考をめぐらす長作。
党内派閥のパワーバランス、そして他党をどこまで説得できるか、ミズガルズ王国との外交を有利に進める事で反発が予想される諸外国の反応とその対応に、脳内をフル回転させる。
「ん?なんでそんな話になるんだ?」
別に日本で功績を上げたわけでは無いのに、何故そんな話になるのか気になった城之内は話しかける。
「ミズガルズ王国は宇宙開発の先進国。日本としては手を結べれば…」
「でも、ノルウェーとは領土問題を抱えているぜ?」
「領土問題?」
日本の財界で辣腕をふるっているが、海外事情の全てを庄司は網羅していない。
「それは初耳ですね。」
天馬月光も参加する。
「あの辺りには、雪と氷に覆われたマーナーク島という小さな島があるんだが、そこの領有権というか管轄権をめぐってミズガルズ王国とノルウェーは対立している。」
「そこに何がある?石油か?」
「パラディウス社が建造した北欧支部。」
さらりと告げる城之内に、天馬月光と万丈目庄司は思わず体勢を崩す。
「ぱ、ぱ…パラディウス社?!」
「その、北欧支部…?」
「パラディウス社壊滅後、その管轄権をノルウェーが管理。遅れてミズガルズ王国が自分達にも絡ませろと言ったがノルウェーが拒否、それ以来対立している。」
そこまで話した後、コーヒーに手を伸ばし一息に飲み干す城之内。
思わぬ情報が飛び込んだことで、万丈目兄弟は顔を見合わせる。
ダーツは居なくなったが、パラディウス社が残した施設や技術を巡る国家間の対立が生じてしまった。
この事情を聴いたとき、ドーマをただ倒すのではなく時間をかけて解体すべきだった、と城之内は深く反省した。
天馬月光は話題を変える。
「城之内さんは、今回ミズガルズ王国の不穏分子を壊滅させたわけですね?」
「まぁ幹部クラスが多少逃げたが、黒幕のラング伯爵は牢屋にぶち込んだし…これで平和になるんじゃねぇかな?オージーン殿下の手腕にかかっているけれど。」
なおすでに替え玉を用意して脱獄し、『凶鳥』の伝手を使って日本に潜伏していることを、城之内は知らない。
「ただ、サイバー流は…肝心の才災勝作の身柄が拘束できていませんからね…。どこかで再起を図っているかもしれません。」
「ふぅん、今度出てきたらその時はこの俺が直々に叩き潰してくれるわ!」
「それで、しばらくはサイバー流の残党狩り、という事でいいですね?」
「そういう事になるな。」
「であれば、サイバー流が経営していた事業のいくつかは…」
「ふぅん。そこは早い者勝ちだ。日本を征服した後も重要な資金源かつ拠点にする予定だったらしく、設備投資は惜しんでいなかったからな。俺としても気になる物件がいくつかある。」
サイバー流が経営しているステーキハウスがあったが、そこで提供されたステーキが思った以上に美味だった。
あの店舗は抑えておくつもりだった。
庄司の方も目をつけている物件がいくつかある。そこは譲らないつもりだった。
「…何というか、もう金勘定のことしか考えて居なさそうだ。」
「そうでもなければ、やっていけませんからね。企業の経営というのは。」
結局、才災勝作の身柄はどこも抑えられていない事が判明したため、天馬月光は思考をめぐらす。
先に抑えておけば、その後がやりやすくなる…というのは建前だ。
ペガサス様が作り上げたデュエルモンスターズのカードを、一方的に『リスペクトに反している!』と言って批判・否定した男。
この手で直接制裁しなければ気が済まない。
「…なんか、俺場違いだなぁ…。爵位を貰ったのに。」
準男爵の称号を授かったが、根っこが庶民の城之内君にとってこの空気はかなり居心地が悪い。
成長しているが、周りも成長しているからその差が縮まった気がしない城之内君なのであった。
メタカード積めば勝てるなら、三沢君と万丈目君はアニメで十代相手に何回か勝っていると思います。このカードゲーム、そこまで甘く無い。
ミズガルズ王国の場所が不明なので、ノルウェーの西辺りにある事にしました。アニメでは衛星打ち上げた北欧の小国、というぐらいしか情報が無いので。
ダーツが成仏した事でパラディウス社が残した施設や技術を巡って各国が争うようになり、その争いに巻き込まれていく主人公、という設定で誰か書いてくれませんかね?それか、ダーツが残した遺産を赤の他人に渡さない!というドーマの構成員視点というのも面白そうです。