オリジナルキャラクター、マリイアの外見を若干修正しました。
影丸 康信(かげまる やすのぶ)という男が居る。
慕っていた祖父の葬儀。あれほど元気でも、人はいずれ老いて死ぬ。死ねば、何も残らない。
この時から彼は、不老不死を心の奥底で強く望むようになる。
官僚となり辣腕を振るい、そのころ家同士の付き合いがあった素封家の娘とお見合い結婚。
それなりに上手くやっていたが、嫁とは意見の対立も少なからずあった。
『康信。どれほどの財があろうと、権力があろうと…死からは、誰も逃れられない。だから。今を、この時を。懸命に生きるべきです』
両親も気づかなかった、不老不死への憧憬を早々に見抜いた嫁は毅然とした態度でこう告げた。
絵空事を、と当時の影丸康信は受け止めていた。
その後官僚を引退。直後に会社を立ち上げ、巨万の富を得る。
そのころ、軍事産業として大きな力を持っていた海馬剛三郎と接触、多大な資金援助を行う。
これ以降、海馬コーポレーションの繁栄の裏には、影丸康信という『影』が付きまとう事になる。
しかし、『影』は海馬コーポレーションを操る気など毛頭なかった。
海馬コーポレーションに求めていたのは、軍事産業部門への影響力という営利目的の為の投資。
この時期、影丸康信と海馬剛三郎にとって、生涯忘れられない存在との接触も起きた。
『初めまして、マリイアと申します。パラディウス社の総帥、ダーツ様の賓客としてお迎えに参りました。』
パラディウス社から送られてきた、金髪で金色の眼を持つ、病的なまでに白い肌を持つ蠱惑的な美女。
20歳ぐらいであろうその女性に、二人は圧倒された。
『…断る、と言ったら?』
マリイアは笑った。笑ったように、影丸康信は感じた。
懐から自然に拳銃を取り出し、自らの頭に突き付ける。
その一連の行動の間、二人の護衛で反応できたのは、たった3人。
残りの9名は反応すらできなかった。
『何、を』
『この場で自決いたします。総帥の命令を遂行できない社員として、当然の事。』
その瞳は狂信者特有の物では無い。彼女の静かな狂気に、周囲の護衛も気圧される。
これが。これがパラディウス社の社員、か。
その後行われたダーツとの会談を経て、影丸康信と海馬剛三郎は一つの共通見解を得た。
『ドーマには、手を出すな。』
ダーツとしては、進めていた計画に不確定要素が関わりそうだった為念押ししただけだったのだが、二人はこの一件を最後通牒と曲解。
その後、彼らの道が交わる事は無かったため、この勘違いは結局正されることは無かった。
そんな蜜月の関係にヒビが入る。海馬剛三郎の息子、海馬乃亜が交通事故で意識不明の重体に陥る。
息子を救うための手段を求めている海馬剛三郎に、影丸康信はある計画を告げる。
科学的なアプローチによる不老不死への案。記憶のすべてをデータ化し、コンピューターにインストールする事で電脳世界で生き続ける。
これを海馬乃亜に適用しないか?と。
交通事故を起こした相手が裁判の結果、執行猶予付きという判決が出た事、最愛の息子が助からないという絶望が重なった剛三郎にとって、影丸康信の提案は抗えない誘いだった。
この時、技術と情報を惜しみなく提供した背景には、海馬乃亜を通じてデータ収集するという下心もあったが、子を持つ親としての情と、今までの付き合いも少なからずあった。
海馬乃亜を通じ、そのデータを収集した影丸康信は絶望する。
人格面において、大きな変化が起きていたからだ。人格のデータ化による人格面の変質が起きている事は明らかだった。
自分が自分で無くなってしまう『不老不死』に、なんの意味がある?
海馬剛三郎から海馬瀬人が会社を奪う交代劇の後も、海馬コーポレーションとの関係は続いた。
パトロンという関係であり、政界・財界へ働きかけが出来る影丸とのつながりを海馬瀬人は断ち切るわけにはいかなかった。
軍事産業からカードゲーム界への転身、という発表。その突拍子のなさに一度は質の悪い冗談かと思っていたが、インダストリアルイリュージョン社との提携と発展のための青写真を見せられたことで、影丸は考えを改める。
デュエリスト・キングダムをペガサスが開催している頃、再びドーマとの接触があった。
さほど高身長では無いが、肉付きのよい脂ぎった男はこう告げた。
『オレイカルコスの欠片を用いれば、不老不死になれる。』
その蠱惑的な誘いに、待ったをかけた男が居た。
『笑わせるな。オレイカルコスの欠片を持てば、心の闇が増幅され、最後はオレイカルコス・ソルジャーになり果てる』
影丸康信の庇護下に入った、錬金術師アムナエル。
真意を問いただそうとした影丸康信の前で、男がした事はドーマ製のデュエルディスクを構える事だった。
ドーマのデュエリストに敗北するとどうなるのか知っているため、怯んでしまった影丸康信をかばうように、アムナエルは前に出る。
『良い機会だ、私の実力を示そう。』
『お前のスタンバイフェイズに、罠発動!バトルマニア!さぁ、これで攻撃するしかないぞ!』
『…スタンバイフェイズ、速攻魔法発動、グランドクロス。風魔神-ヒューガ、雷魔神-サンガ、水魔神-スーガを破壊。』
『ぐっ、三魔神がっ!だ、だが!お前の場のモンスターもいなくなった!』
『愚かな。リバースカードオープン、異次元からの帰還。ライフを半分払い、除外されているモンスターを特殊召喚。原始太陽ヘリオス、ヘリオス・デュオ・メギストス、異次元の女戦士、D.Dアサイラント、そして、ヘリオス・トリス・メギストス!』
『う、うわああああああっ!だ、ダーツ様っ!お、お助け下さ』
救いの手は差し伸べられなかった。三つ子が不死鳥を作り出し、男のライフを削り落とす。
『…お前の主は、助けに来なかったな。』
アムナエルの実力が改めて分かった影丸康信。しかしパラディウス社の使者を倒してしまった以上、報復が来ることは明白。
パラディウス社の報復に備え、海馬剛三郎時代に入手した防衛兵器で守りを固めたシェルターに立てこもる。
建設当時、このシェルターの建造につぎ込んだ金額を知った嫁は、『何もそこまでしなくても』と呆れながら、快適に過ごせるよう内装を整えてくれた。
立てこもってから二週間ほどは生鮮食品だったが、やがて缶詰生活となる。美食に慣れた影丸康信にとって苦痛だった。
しかし、嫁が用意していてくれたソールズベリーステーキという、玉ねぎぐらいであまり混ぜ物をしない米国直輸入のレトルトハンバーグは、アムナエルの舌に実によくなじんだらしい。
付け合わせである、温野菜のニンジンとブロッコリーとホワイトアスパラガスは毎回残していたが。
…この時、影丸康信にとって不可解な事にパラディウス社からの報復は無かった。
実はこの時、ダーツは邪神ゲー復活の為の計画遂行を優先していた。影丸への接触は手駒にできればそれでよし、失敗したとしても魂を回収できるという打算から仕掛けたものだ。
ドーマが壊滅し、その派生が世界各地に飛び火。世界的な混乱期、辣腕を振るって極東アジアにおける事態の収拾を行っていた影丸康信は、ついに三幻魔の伝説にたどり着く。
しかし、ここで多くの問題が発生した。
三幻魔の覚醒には、多くのデュエリストの闘志が必要。だが、その島はすでに無人島。
デュエリスト・キングダムのような大会だけでは足りない。数と質が求められた。
そんな折、海馬瀬人が学校を作ろうとしている話を聞き、その計画に飛びついた。
『…わざわざ孤島に学園を建設するだと?』
その発想と行動力から、『変人』という至極真っ当な評価を猫崎俊二にされている男も、影丸康信から出された案に当惑を隠せなかった。
だが、カードゲームを授業のカリキュラムに取り込む専門学校設立の許可を、『前例がない』と文部科学省が難色を示し、許可を下ろさなかった事。
孤島に学園を建設するならば、文部科学省にも根回しを行い、かつ建造に必要な資材についても多大な提供をすると言われては断り切れず。何より。
『この俺を利用するというならすればいい。奴の計画が明らかになったところで丸ごと乗っ取ってくれる、ワハハハ!』
という思惑もあり、この計画に乗る。
目論見通り学園は建設できたが、さらなる問題が見つかった。三幻魔を操るには精霊の力が必要。
しかし、これについても早晩片が付く。この島には学校がある。精霊と心を通わす決闘者を入学させ、その者から奪えばいい。
後は、獲物がかかるまで延命すればいい。
その計画を、影丸康信は一度思い直す。
ある日、孫娘が宣言した。
『おじい様。当方は、デュエリストとしてプロの世界に行きたい』
三幻魔を操るための最後の鍵、遊城十代の入学。三幻魔を覚醒させるための手駒、セブンスターズを送り込む手筈も整った。
校長が鮫島から才災に変わったが、自身の思惑通り生徒を鍵の守護者に選抜する。
しかし、この渦中に光海が飛び込む。そうなれば、セブンスターズと鍵の守護者との戦いに孫娘が関わる。
真相を伝えて鍵の守護者になる事を拒否させたとしても。三幻魔を覚醒させ遊城十代を倒した場合、孫娘の交友関係は崩壊する。大事な思春期に。
だが、この機を逃せば不老不死は潰える。
そんな時、思わぬ知らせが舞い込む。孫娘が不合格になった。成績が悪かったのか?権力と伝手を使って調べ上げた結果。
アカデミアは、才災の『似非ペクト』養成校になりさがっていた。そして、その卒業生も『似非ペクト』に染まっている。
サイバー流への対処について、海馬瀬人とペガサス会長が『猫崎』とかいう少年を使って計画を立てているようだが、そんな物に任せておけない。
影丸康信は、計画を修正。
不老不死では無く、サイバー流の『似非ペクト』を葬り去る為に、三幻魔を覚醒させる。
この計画と前後して、アムナエルを通じて孫娘に真意を伝えさせた。後は、計画を実行するだけ。
三幻魔は覚醒した、才災に鉄槌を下したが…。当初の計画で倒すはずだった遊城十代に敗北。
想いを次世代に託し、老人はこの世を去る…
はずだった。
不老不死への妄執、今まで何でも成し遂げて来た自分が最後の最後で何も成し遂げられなかった無念が、影丸康信の魂をこの世界につなぎとめていた。
本人の資質もあるが、一度三幻魔を手にした事による加護。
ある世界線において…破滅の光の盟主が見通した、遊城十代を白く染め、彼を先兵とする事でアカデミアを白く染める…
という運命の輪を動かした。
白い光の空間で、筋骨隆々の青年と、おかっぱ頭で、鋭い目つきをした女性が対峙する。
「…三幻魔に縋ってまで、死が恐ろしかったか?」
「確かにそうだ。だがあの時は…サイバー流を止める一心だった。」
「残留思念よ、滅びを与えよう。恐れるな、孫娘もすぐに同じ場所に送ってやる」
デュエルディスクを構える女性。
殺意をたぎらせながら、影丸もデュエルディスクを構える。
「…貴様の名前はなんだ?」
「消えゆく者に名乗る必要は無い、などと野暮なことは言わぬ。我はヴァルキリア。」
「始めるぞ」
だが、ヴァルキリアは待ったをかける。
「デュエルの前に宣言しておく。お前が勝利するには、我が幻魔を召喚した後にライフを0にしなければならない。」
「な、何だと!」
「最も、闇のアイテムで闇のゲームになればそのルールも適用されなくなるが…。」
理不尽すぎる特殊ルールに、歯噛みする影丸。
まずは相手のデッキの情報を、少しでもつかまなければならない。
「しかし、何故それを話す?」
「この能力の代償として、一度敗れた時点で話さねばならない制約があるからだ。始めるぞ。」
「「デュエルッ!!」」
影丸 ライフ4000
手5 場
ヴァルキリア ライフ4000
手5 場
「先攻は譲ろう。」
「…私の先攻、ドロー!モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド!」
影丸 ライフ4000
手4 場 セットモンスター 伏せ1
ヴァルキリア ライフ4000
手5 場
「我のターン、ドロー!手札から、爆走特急ロケット・アローを特殊召喚!」
「?!こ、攻撃力5000だとっ!」
巨大な列車が現れ、影丸の眼前に立ちはだかる。
「最も、このカードを特殊召喚するターン、我はバトルフェイズを行えない。さらに我は、このカードが場にある限り、カードの効果を発動できずカードをセットすることもできない。しかも、スタンバイフェイズに手札を全て墓地に送らねばならぬ…。我はこれでターンエンド」
「このエンドフェイズに永続罠発動!神の恵み!」
「…ターンエンドだ」
影丸 ライフ4000
手4 場 セットモンスター 神の恵み
ヴァルキリア ライフ4000
手5 場 爆走特急ロケット・アロー
「私のターン、ドロー!神の恵みでライフを500回復!」ライフ4000から4500
「残留思念になり果ててもなお、死が怖いと見える」
「何とでもいえ!魔法カード、増援を発動!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。創世者の化身を手札に加え、召喚!」
「そのモンスターを召喚したという事は…」
「私は創世者の化身の効果発動!このカードをリリースして、現れろ!創世神!」
三幻魔を手に入れる前、影丸を支え続けたエースモンスターが最後のお勤めとばかりに、紫電を迸らせながら現れる。
「守備表示、か。妥当な判断だな」
「カードを一枚伏せ、これでターンエンドだ」
影丸 ライフ4500
手2 場 セットモンスター 創世神 神の恵み 伏せ1
ヴァルキリア ライフ4000
手5 場 爆走特急ロケット・アロー
「我のターン、ドロー!このスタンバイフェイズ、手札を全て墓地に送る。バトルだ、行けロケット・アロー!創世神を破壊せよ」
圧倒的な火力で、創世神は粉砕される!
「たわいもない…むっ?」
影丸の場で発動している罠カードに目を向けるヴァルキリア。
「罠発動!ブロークン・ブロッカー!攻撃力よりも守備力の高い守備表示モンスターが戦闘で破壊された時、デッキから同名カードを二体まで特殊召喚!」
「壁に縋るか。ターンエンドだ」
影丸 ライフ4500
手2 場 セットモンスター 創世神 創世神 神の恵み
ヴァルキリア ライフ4000
手0 場 爆走特急ロケット・アロー
「…私のターン、ドロー!神の恵みで、ライフ回復!」ライフ4500から5000
「時間稼ぎしたいならすればいい。しかし、三幻魔無しのデッキで、攻撃力5000にどう立ち向かう?」
「私は、ザ・カリキュレーターを召喚!」
奇妙な電卓が現れ、計算を始める。
「このカードの攻撃力は、私の場のモンスターのレベルの合計×300となる!」
「レベルの合計は18、5400?!」
「二体の創世神を攻撃表示に変更!バトルだ、ザ・カリキュレーターでロケット・アローを攻撃!」
「っつ、ロケット・アローが!」ライフ4000から3600
「二体の創世神で、ダイレクトアタック!」
悲鳴すら残さず、ヴァルキリアは消滅する。
「…呆気なさすぎる。」
突然、頭に奇妙な映像がなだれ込んだ事で、影丸は額を押さえる。
ひしゃげた、車体。流れる赤い血。
凄惨な列車事故現場のようだ。小さな、とても小さな手が映る。
『…パパ、ママ、タスケ…』
影丸は困惑する。もしや、ヴァルキリアの正体は…。
ヴァルキリアと面識は無いが、心当たりならある。
幻魔を手にした事があるという共通点。
しかし幻魔が入っているという割に、機械族とはどういうことだ?
DNA改造手術などを使って、悪魔族に変えるのか?それとも…。
思考をめぐらす影丸の眼前に、先ほど消滅したはずのヴァルキリアが平然と現れる。
「?!」
「さて、始めよう」
「…先ほどの話は本当だった、という事か」
「なるほど、信じていなかったからとどめを刺したのか…ほぅ?」
ヴァルキリアが酷薄な笑みを浮かべる。
「お前の孫娘が、ようやく一仕事を果たしたようだなっ!」
「?!ま、まてっ!」
獲物を見つけた猛禽類のごとく、白い空間に取り込まれた遊城十代に迫るヴァルキリア。
スタートダッシュこそ遅れたが、影丸は機先を制す。
光海への伝言を託しつつ、遊城十代を逃がすことに成功する影丸。
ただ、脳という重要な所に敵の攻撃が掠った事が気がかりだ。
「…お前の目論見は失敗に終わったぞ」
「まぁ、良い。これも運命だろう。今日の所は不確定要素たるお前を消去するにとどめておくとしよう。」
影丸は、戦い続けた。
デュエルに勝つたび、映像がなだれ込んでくる。
『…これが、伝説の幻魔…!』
『け、決着ー!第37回アフリカ合衆国グランプリの優勝者が決定しました!』
『…優勝賞品と賞金を渡してもらう。君の不正が発覚した。証拠?それはこれから作る。そうそう、君の幻魔のカードも渡してもらおう』
黄色の眼と、赤い口をもつ、白い靄のような塊。
『娘よ。我の洗礼を受け、光の使徒となってこの世界を終わらせるのだ。』
『…アフリカ合衆国デュエルリーグ運営長に、危害を加えたな…。お前はもう終わりだ。』
『ヒヒヒ!ここまで来れば、お前にも見えるだろう!運命の終幕がっ!』
『…吾輩は、運命などに屈しない。そんな…ものにっ!ドロー!甲虫装機 ダンセルを召喚!』
断片的な映像だが、それらをつなぎ合わせ、影丸は相手の正体をほぼ把握する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「…何故、諦めない?」
どうしようもない愚か者を見るような、蔑んだ視線を向けられる影丸。
「我が、幻魔を召喚するとでも?召喚しなければ、デュエルに負けても何のペナルティも無いのに」
「……」
「それとも、我が諦めると考えているのか?愚かな、我はお前を滅ぼすという決意を固めている。」
影丸康信は、気づいた。気づいてしまった。
列車事故で家族を失い、そこからデュエルモンスターズの世界大会で優勝するも、その大会運営者に嵌められ、再び失意の底に落ちた。
身勝手な『人類』という種族そのものに失望し、破滅の光の手を取り、不老不死となった女。
おそらくこの世界の住人では無く、並行世界の住人なのだろう。アフリカ合衆国などという国家は、この世界に無い。
この女は、自分だ。不老不死を手に入れてしまった、自分自身。
仮に、自分が三幻魔で不老不死になれば、他の権力者達が嗅ぎつけて奪おうとする。
一度手にした不老不死を、自分が手放せるわけが無い。幻魔を奪われ、失意の底に落ちれば、破滅の光が持ち掛ける提案を間違いなく飲むだろう。
ようやく、ようやく影丸は気づいた。
人格が変質しない不老不死などありえないという事を。
思い返せば、自分自身幼少期、青年期、老年期で趣味や生き方、考え方などは変化している。
あの日、祖父が死んだあの日から…自分はありえない物を追い求め続けていた。
もう何度目かわからぬデュエルが、始まる。
意識が朦朧とする中、限界を迎えつつある影丸はそれでも立ち向かう。
この『自分自身』を止めるのが、自分の最期の義務だから。
「「デュエルッ!!」」
影丸 ライフ4000
手5 場
ヴァルキリア ライフ4000
手5 場
「…私の先攻、ドロー。フィールド魔法、死皇帝の陵墓を発動。ライフを2000払い、守護天使ジャンヌを召喚。」ライフ4000から2000
「そいつか」
団結の力と魔導師の力を装備し、伏せカードまで追加された事で攻撃力が5100になり、何度も列車モンスターを戦闘破壊された結果、到底削り落とせないライフになり…。
先ほどのデュエルでそのまま押し切られたヴァルキリアは、ジャンヌを睨みつける。
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
影丸 ライフ2000
手3 場 守護天使ジャンヌ 死皇帝の陵墓 伏せ1
ヴァルキリア ライフ4000
手5 場
「我のターン、ドロー!カードを2枚伏せる。ターンエンドだ」
影丸 ライフ2000
手3 場 守護天使ジャンヌ 死皇帝の陵墓 伏せ1
ヴァルキリア ライフ4000
手4 場 伏せ2
「私のターン、ドロー!魔法カード、トレード・インを発動。手札のガーディアン・オブ・オーダーを捨てて二枚ドロー!創世者の化身を召喚!このカードをリリースして、手札より創世神を特殊召喚!」
「攻撃表示だと?」
「永続魔法、生還の宝札を発動!創世神の効果発動!墓地のガーディアン・オブ・オーダーを選択!手札の死皇帝の陵墓を捨て、墓地から特殊召喚!生還の宝札で一枚ドロー!」
引いたカードを見つめる影丸は、躊躇ったのちにバトルフェイズに入る。
「バトルだ!行け、守護天使ジャンヌ!ダイレクトアタック!」
「手札から、除雪機関車ハッスル・ラッセルの効果発動!相手モンスターが直接攻撃を宣言した時に発動!このカードを手札から特殊召喚し、我の場の魔法・罠カードを全て破壊し、一枚につき200ポイントのダメージを与える!」
「400のダメージか」
「ここで、除雪機関車ハッスル・ラッセルの効果にチェーンして、永続罠、メタル・リフレクト・スライムを2枚発動。我の場に守備表示で特殊召喚」
「そんな事をしても…?!な、何故破壊されない!」
ヴァルキリアを守るように立ち並ぶ壁モンスターたち。
「メタル・リフレクト・スライムはモンスターゾーンに出ているため、ハッスル・ラッセルの効果の外だ」
「…ターンエンドだ」
影丸 ライフ2000
手1 場 守護天使ジャンヌ 創世神 ガーディアン・オブ・オーダー 死皇帝の陵墓 生還の宝札 伏せ1
ヴァルキリア ライフ4000
手3 場 除雪機関車ハッスル・ラッセル メタル・リフレクト・スライム メタル・リフレクト・スライム
「我のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊する。」
「ドレインシールドが…」
「これで、これで懸念事項は消え去った。我は融合を発動!レベル10の除雪機関車ハッスル・ラッセルと、メタル・リフレクト・スライム2体を融合する!」
「何だと!」
思わぬカードに驚く影丸。
「現れよ、幻魔帝トリロジーグ!」
「幻魔の融合モンスターだとっ!」
「これこそ、我が持つ幻魔!効果発動!特殊召喚成功時、相手モンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える!我は、守護天使ジャンヌを選択!」
「があああああっ!」ライフ2000から600
まさかの融合モンスターの幻魔に、影丸は一気に追い詰められる。
「お前のデッキは、死皇帝の陵墓と創世神を用いて大型モンスターを展開するデッキ。お前のデッキに手札誘発モンスターは皆無!行け、幻魔帝トリロジーグ!創世神を攻撃!」
これを防ぐ術はない。影丸の戦意が薄れていく。
一方、創世神はそんな影丸をかばうように前に出て、壁となる。
勝利に導くことも、敗北から救う事も出来ない以上、死に場所ぐらいは選びたかったからだ。
そんな主従の想いを、幻魔帝は容赦なく打ち砕く!
「ぐ、がああああああっ!」ライフ0
ライフが尽き、足元から消えていく影丸。
影丸の消滅を見届けたヴァルキリアは、酷薄な笑みを浮かべる。
「これで不確定要素は消えた。遊城十代を洗脳して手駒にできれば最善だったが、我の一撃を受けた以上、デュエリストとしては再起不能。」
ヴァルキリアは報告するため、その場を去る。
遊戯王SSのストーリーにおける、影丸が幻魔を特殊召喚した後勝利しなければならない、という特殊ルールが相手の能力の元ネタです。
ゲームでは割とさっさと出してくれますが、対人戦でこのルールだとこういうチキンプレイされたらどうしようもない気がします。
影丸と海馬コーポレーションとの関係について、だいぶねつ造設定を入れました。
剛三郎と影丸をダーツの下へ案内した使者とその後の会談、アムナエルVSドーマの使者などその最たるものです。
影丸自身の目的についても、アニメと変えています。
もう一度青春を取り戻したかったから~というのがアニメでの理由でしたが、拙作では若い時から不老不死を追い求めていたという設定にしています。
影丸理事長と海馬瀬人の関係について。
三幻魔の言い伝えが古くからある孤島に学園を海馬瀬人が建設した理由として、影丸の意向があった為と推測しています。
学校建設時の根回しを影丸が助け、学園を建設するに際し色々と根回しする代わりに孤島に建てろ、と言う条件を海馬が受け入れた、というのがアカデミアを孤島に建設した経緯なのではないか?と思います。
そうでなければ、わざわざ孤島に全寮制の学校を築かないかと。資材の運搬とか考えたらわりに合わない気がします。
ドミノ街に作った方が安上がりでしょう。
最も、あの海馬社長が誰かの思惑通りに動くか?といわれるとちょっと詰まってしまいます。ただそうなると…
Q:何故三幻魔の言い伝えがある孤島にアカデミアを建設したのですか?
A:海馬社長だからです。
という結論になってしまいます。こちらの方がしっくりくる?ごもっとも…。
創世神
死からの逃避を追い求め続けた男が、デュエルモンスターズと出会った際に切り札としたモンスター。
不老不死へのアプローチと共に、死者蘇生を求めていた男にとってこのカードは理想的な切り札だった。
長らくその男がデュエルする時にはその高い守備力で時間を稼ぎ、逆転への道筋を作り続けた。
その男が念願の三幻魔を手に入れ、そのための専用デッキを構築した時点でこのモンスターの居場所は無くなった。
だが、それでも。
最も自らを長く使ってくれた男の為、このモンスターは残留思念となった男の下へ、はせ参じた。
自分の声を聴くことも出来ない男。だが、そんな事はこのモンスターにとって行動しない理由にはならなかった。