光の結社では、この日。アカデミアから久々に帰還した、斎王琢磨による講演会が開かれていた。
多くの信者が集まり、その最前線では美寿知の配下たる面々も拝聴している。
「…皆さん聞いてください。光のある所に、闇がある。それは、何故でしょう…。静かに目を閉じて、心に思い浮かべるのです!空に輝く、純白の太陽を…そしてそれに照らされる、果てしなく純白で平らな大地を!もしここに、突き出た突起があるとしましょう。そこに出来るのが影です、闇です!それこそが光を遮る悪なのです!我々は闇を生み出すその者を、徹底的に排除しなければならない!光はいついかなる時でも、平等に当たらなければならない。光こそが、平和と安らぎをもたらす!」
斎王の講演は続く。
最前列で敬虔に聞いている影丸光海と雷丸、氷丸、岩丸、炎丸。その内心は別の事を考えている。
(…シーラカンスを安定して場に出す方法が足りない。トランスターンというのがミズガルズ王国を中心とした海外発のパックに入っているらしいけれど、当方の手には無い。あったとしてもレベル6の魚族がマザー・ブレイン。オーシャンズ・オーパーを召喚、マザー・ブレインを特殊召喚、そこからトランスターン…出来なくはない?オーシャンズ・オーパーが戦闘破壊されればマザー・ブレインをサーチ出来る。初動を安定させるには…グリズリーマザーか?)
岩丸は
(…お腹が痛い。これ終わったらトイレに行かないと)
炎丸は
(あー、眠い。昨日夜更かししすぎたな…。眠らないように、気をしっかり持たないと)
氷丸に至っては
(まだ続くのかよ、腹減ったなぁ…。牛丼をかっ込みたい。卵はつけるのは当然として…サラダと豚汁、どっちをつけようかな?よし、この話が後5分伸びたら豚汁を追加しよう)
もしもこの時、破滅の光が最前線の幹部たちの思考を読んでいたら、この4人を制裁していただろう。
しかし、自分の教えに酔いしれている破滅の光はそんな些事には気づかなかった。
ただ一人、雷丸だけが
(…確かに、平等になれば争いが起きない、平和で安らかな世界になるだろう。だが…そこに進化はあるのか?互いに争い合い、傷つけ合い、その果てに進化があるのではないか?そうやって、人類は発展してきたはず…。だが、弱者は生きる資格すらないという世界がまともとは思えない。弱肉強食としたうえで、弱者を救うセーフティーネットを充実させるべきでは無いのか?)
真面目に考えていた。
講演会が終わり、それぞれ解散となり三々五々に別れていく。
「…光の結社の講演会、初めて聞いてどう思った。一華(いちか)」
光海はこの講演会に初めて参加した友人に話しかける。
「信仰協力費2000円、講演料3000円。そして収容された人数は4000人…光の結社は差し引き2000万円の利益か。」
高身長で綺麗な顔立ち、黒髪をポニーテールにまとめ、白い上着に赤い袴を履いた娘…。遠坂 一華(とおさか いちか)は腕を組む。
その腕に支えられ、豊乳が形を変える。
「…宗教団体は何かと金がかかる。」
「そこは理解している。ただ、内容には賛同できない。」
「どのあたり?」
「光を遮る物を徹底的に排除し、平等な世界を作り出す…。」
一呼吸おいて、遠坂は親友を見つめる。
「才災勝作が掲げていた正しい・リスペクト・デュエルを連想した」
「…あれと一緒にしないでもらいたい」
「除去カードを使う物は悪、それらを使わないデュエルをしろ、と言っていた才災と、光の結社の講演は似ていると思う。」
黙ってしまう光海を、一華は見つめる。
【未来オーバー】を使っていた事で、才災師範に破門され荒れていた時期に、光海は励ましてくれた。
芯の強い彼女は宗教に縋るタイプでは無いと思っていたが、事情があるのだろう。
聞き出すつもりは無い。話す気になった時、黙って聞く。
「…とりあえず、近江財団(おうみ ざいだん)の一員としての意見だが、光の結社に支援は出来ない。カードゲーム界への足掛かりは、別方面からアプローチさせてもらう。」
「あてはあるの?」
「今の所は無い。だが、光の結社とは組まない。」
こういう目をした時の彼女は決して考えを変えない。それなりの付き合いがある光海は、その事に気づく。
影丸理事長は医薬品・製薬業界で大きな影響力を持つ近江財団のスポンサーではあったが、既に故人。孫娘である自分の一存で手を貸してくれるほど甘い存在では無い。
近江財団もカードゲーム界への足掛かりとして、トップの姪である一華をサイバー流に所属させていた時期がある。
だが、一華の破門によりサイバー流とのかかわりは断ち切った。
彼氏募集中の一華に、遊城十代について話そうと光海が口を開いた瞬間。
「影丸!俺とデュエルするズラ!」
「…銀か」
銀 流星。シューティングゲームのチャンプで、最近光の結社に参加した少年が、デュエルディスクを構える。
「お前を倒して、俺は光の結社のさらなる高みに上るズラ!」
「…その野心は買うが、勝利は譲らない」
光の結社の一員がデュエルをするというので、光の結社のデュエリストレベルを図るべく、一華は離れて見守る。
「「デュエルッ!!」」
光海 ライフ4000
手5 場
銀 流星 ライフ4000
手5 場
「先攻は俺だ、ドロー!見るがいい、これが斎王様から与えられたカードズラ!!フィールド魔法、巨大要塞ゼロスを発動!発動時、デッキからボスラッシュを手札に加える!」
斎王、というより破滅の光が作り出したカードの性能に縋る銀 流星。
「さらに、巨大要塞ゼロスの効果発動!1ターンに1度、手札の巨大戦艦を特殊召喚!いでよ、巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ!」
現れたのは攻撃力2400の巨大戦艦。だがその攻撃力は500ポイントアップする。
「攻撃力が2900に。」
「それだけでは無いズラ!守備力もアップするし、相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない!しかも、こいつは今までの巨大戦艦と違って、召喚・特殊召喚成功時にカウンターが三つ乗る。さらに巨大要塞ゼロスの効果発動!俺の場に巨大戦艦が特殊召喚された時、その巨大戦艦が使用するカウンターが一つ乗る!」
「カウンターが4つ…。」
「永続魔法、ボスラッシュを発動!ターンエンドズラ!」
光海 ライフ4000
手5 場
銀 流星 ライフ4000
手4 場 巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ(4) ボスラッシュ 巨大要塞ゼロス
巨大戦艦デッキのキーカードであるボスラッシュをサーチする効果、巨大戦艦の展開を補助し、耐性を付与。優秀なフィールド魔法。
友人の実力は知っているが、これは中々厄介な布陣だ。
「当方のターン、ドロー。永続魔法、ウォーターハザードを発動。当方の場にモンスターがいない時、手札の水属性モンスターを特殊召喚。オイスターマイスターを特殊召喚」
「そんなモンスターを出した所で!」
「さらに、光鱗のトビウオを召喚。効果発動、このカード以外の場の魚族をリリースする事で、相手の場のカードを一枚破壊する。巨大要塞ゼロスを破壊」
「さ、斎王様から与えられた力が!」
「オイスターマイスターの効果発動。戦闘で破壊される以外で場から墓地に送られた時、オイスタートークンを特殊召喚。トビウオの効果発動、トークンをリリースし、巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱを破壊」
「ぐっ、だ、だが俺の場にはボスラッシュがあるズラ!これがある限り、このターンのエンドフェイズに、新たな巨大戦艦を特殊召喚出来るズラ!」
「…バトル。光鱗のトビウオでダイレクトアタック」
「ぐうううっ!」ライフ4000から2300
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「このエンドフェイズにボスラッシュの効果発動ズラ!巨大戦艦 ビッグ・コアMk-III!このカードは召喚・特殊召喚に成功した時、カウンターを3つ置くヅラ!」
光海 ライフ4000
手2 場 光鱗のトビウオ ウォーターハザード 伏せ1
銀 流星 ライフ2300
手4 場 巨大戦艦 ビッグ・コアMk-III(3) ボスラッシュ
「俺のターン、ドロー!くっ、魔法カード、手札抹殺を発動するズラ!」
「当方は超古深海魚シーラカンスと貪欲な壺を捨てて二枚ドロー。」
「俺は巨大戦艦 クリスタル・コア、巨大戦艦 テトラン、巨大戦艦 ビッグ・コア、巨大戦艦カーバード・コアを捨てて4枚ドローするヅラ!」
引いたカードを見て、銀 流星は笑う。
フィールドバリア、巨大要塞ゼロス、魔宮の賄賂にサイバー・サモン・ブラスター。
「俺は2枚目のフィールド魔法、巨大要塞ゼロスを発動するヅラ!デッキから二枚目のボスラッシュを手札に加えるヅラ!さらに永続魔法、フィールドバリアを発動するヅラ!」
「……」
「バトル!ビッグ・コアMk-IIIで、トビウオを攻撃!」
「…破壊される」ライフ4000から3000
「カウンターが一つ減る。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」
光海 ライフ3000
手2 場 ウォーターハザード 伏せ1
銀 流星 ライフ2300
手1 場 巨大戦艦 ビッグ・コアMk-III(2) ボスラッシュ フィールドバリア 伏せ2
「当方のターン、ドロー。死者蘇生を発動、墓地の超古深海魚シーラカンスを」
「させないヅラ!カウンター罠、魔宮の賄賂!死者蘇生の発動と効果を無効にして、相手は1枚ドローするヅラ!」
新たなカードを引く光海。
「ウォーターハザードの効果発動、手札からヒゲアンコウを守備表示で特殊召喚。そしてヒゲアンコウをリリース、超古深海魚シーラカンスをアドバンス召喚」
「くっ…」
「永続罠、リビングデッドの呼び声を発動。墓地から光鱗のトビウオを特殊召喚。」
「ま、またそいつヅラ?!」
「ここで、シーラカンスの効果発動。手札を一枚捨て、デッキからオイスターマイスター2体とオーシャンズ・オーパーを特殊召喚。」
一気に並ぶ魚族。銀 流星の頭が真っ白になる。
「あ、あああ…」
「光鱗のトビウオの効果発動。場のオイスターマイスターをリリース、フィールドバリアを破壊。オイスターマイスターの効果で、オイスタートークンを特殊召喚。トークンをリリースして、トビウオの効果発動、巨大要塞ゼロスを破壊」
再び崩れ落ちる巨大要塞ゼロス。
「光鱗のトビウオの効果発動。場のオイスターマイスターをリリース、伏せカードを破壊。オイスターマイスターの効果で、オイスタートークンを特殊召喚。トークンをリリースして、トビウオの効果発動、巨大戦艦 ビッグ・コアMk-IIIを破壊」
戦意喪失する銀 流星。
「超古深海魚シーラカンスで、ダイレクトアタック。」
「うわああああああっ!」ライフ0
ライフが尽きた銀 流星は茫然とする。
「そ、そんな…。影丸を倒せば、斎王様の目に止まって、プロデビュー出来ると思ったのに…。」
それが目的だったらしい。まぁ、向上心があるのは良い事だ。
「良いデュエルだった。」
そんな光海のデュエルを見て、一華は安心する。
光の結社に入って、友人が変わってしまったのではないかと心配していたが、どうやら腕は落ちていないようだ。
「それにしても、宗教団体と聞いていたが、参加する理由は人それぞれか」
「…思想に賛同している者もいる。鎧塚(よろいづか)、少しいい?」
近くを通りかかった、黄色い帽子を被り、黄色のジャケットを羽織った軽装の少女に声をかける光海。
「はい!何でしょう?」
「何故、光の結社に入った?」
「強い決闘者とデュエルしたいから。」
真っ直ぐな瞳で、言い切る鎧塚。
一切の迷いが無い姿勢に、一華は思わず目を見張る。
「その、光の結社の理念に賛同したとかでは無いのか?」
「そういう事を聞かれますが、デュエルにおいて主義主張が異なるから戦う、という発想自体がデュエルに対する冒涜では?」
「えっ?」
思いもかけぬ言葉に、一華も光海も考えが止まる。
「例えば。貴方のデュエルはリスペクトに反するから、デュエルでその考えを正すと因縁をつけられたと仮定します。そんな事は無い、私のデュエルはリスペクト精神に則っているという雑念をデュエル中に少しでも寄せること自体が間違っている。目の前に相手が居て、デュエルをするならばデュエルそのものにのみ集中。それ以外の考えなどデュエルには不要のはず。」
「…光の結社の理念が間違っていると言われても、反論すらしないのか?」
「デュエル中なら、デュエルを進めるべきだと思います。そういう事はデュエルが終わった後に勝者が声高に言えばいい事。まぁ私が参加したのは、中学のクラスメイトの恐竜族使いが、デュエルアカデミア本校に進学して、骨のある相手が減ったから参加しているだけ。」
「…貴女もデュエルアカデミアに進学すれば良かったのでは?」
「父が、『似非ペクトを掲げる才災を校長にするような、海馬瀬人がオーナーの学校になど通わせられるか!』と猛反対したので。」
「そ、そう。」
やや鎧塚は考えた後口を開く。
「もしかして、光の結社の理念に賛同して入った、という信者をお探しで?」
「そういう所だ」
「そうなると、杉多(すぎた)ぐらいですよ。ドミノ支部だと、光の結社に入ったのはプロリーグに行きたいという決闘者、私のように腕試しで参加、異性との出会いを求めて参加。中には光の結社に入って後に新興宗教団体を立ち上げるために参加した、という人も居るのですから」
一枚岩と思っていたら、ひび割れていた事に軽く眩暈を起こす一華。
「…随分詳しいな」
「三日前、バーガーワールドでピクルス増量キャンペーンの時に、皆で行きましたよ?」
「私は誘われていないぞ」
「美寿知様の側近の方々以外でしたので。雑談の途中、何故光の結社に入った?という話題になって…」
「そこで知った、という事か。」
「あ、噂をすればなんとやら、杉多!ちょっといい?」
「何だ?鎧塚」
角刈りで肩幅の広い少年がやってくる。
「なんで、光の結社に入ったの?」
「勿論、斎王様の掲げる理想に共鳴したからだ!才災をはじめとしたサイバー流も、斎王様の教えに導かれていれば、あんな狂った教えに染まる事は無かった!斎王様こそ、この世界に光と平和と繁栄と安らぎをもたらす、平穏の使徒!」
目をまるで星々のように、輝かせながら言う杉多少年。
一華はドン引きである。
「そういえば、斎王様の事を普通に良い人、と言っている女子が居たな。」
「忠告するわ。女子の言う『普通に良い人』というのは、『良い人なんだけど、所詮普通止まりなので恋愛対象では無い』という意味よ。」
「何ぃ?!そ、それは本当なのか!よ、鎧塚。俺は君にとってどういう存在だ?」
「…普通に良い人。」
「畜生~!!」
寸劇を見ながら、一華は決心する。
やはり、宗教とは関わるべきでは無い。祖母の教えが正しかったことを痛感しつつ、一華は足早にその場を後にする。