今回は前やったアンケ企画の1つ目です。ひまうさ 氏の『そうだ、京都へ行こう』になります。
書いてたら何故か前後半になりました。なんで?
「そうだ、京都へ旅行に行こう」
「どういう流れ……?」
「響も強制連行です」
「えッ!?」
暇を見つけては家に遊びに来ていた響の髪を弄りながらも唐突に放ったこの一言が、またもカオスを生む事になろうとはこの時の朱里は知る由も無かった。
「ふむ……京都か。いつ向かう?私も同行しよう」
「……何故?」
「翼が行くと聞いてあたしも来た。チャリティーライブも終わったしな!」
「ライブお疲れ様です。あれ、ちょっと待って話滅茶苦茶デカくなってない?」
「折角の休みッ!翼と奏は京都へ行くッ!ならば、私も着いて行って何が悪いッ!」
「何も悪くないですマリアさん。なんか被害妄想みたいなの入ってませんかソレ」
「あ、朱里さんどうも。私も同伴して良いですか?」
「勿論ですよセレナさん。待って、やっぱり話デカくなり過ぎてない?」
「ちょっと響。やけに京都行くメンバー増えてない?」
「いやぁ、えっと、バイト先で軽く話したらこういう事に……」
「なぁんで軽く話したらとんでもなく豪華な参加者が激増してんのよおかしいでしょ!?」
「ハイ、ソウデスネ……」
そんなこんなで旅行出発日の正午。東京駅には壮大なメンバーが揃っていた。
「うむ。久しぶりの京都故、楽しみだな!」
「今日の翼、なんかいつにも増しておかしくなってねぇか?」
「彼女なりにテンションが上がってるんでしょ?あと奏、貴方変装し無さ過ぎよ。周りの視線を見なさい」
「あ〜?変装なんざしなくてもいいだ……ろ……おいマリア?滅茶苦茶囲まれてないか?」
「あーもうっ!この槍、鈍いッ!」
「おい鈍いってどういう意味だよそりゃ!」
「……ナニアレ?」
「朱里ちゃんの目が死んでるんだけど……」
「そうなった原因は響じゃないかなぁ……?」
「ええっ私!?」
「そうだよォ!なんでこんな出発前から胃痛に悩まされなきゃならんのよ私はぁ!?」
「ヒィィごめんなさい!?」
凄まじい量の人に朝から囲まれるツヴァイウィングとカデンツァヴナ姉妹、それを離れた場所から呆れ目で見る朱里とその親友2人が居た。
だが朱里、ここで唐突に腕時計をチェック。針が指し示す時刻に身体中が冷えていく感覚を覚えた彼女は、取り囲まれている4人に向けて進軍していく。
「ちょ、ちょっと朱里ちゃん!?どうしたの!?」
「こんな所で油売ってる場合じゃない!時間ヤバイ!」
「えっ、そんなにヤバいの?」
「あと10分無い!」
「「えっ」」
後日、SNS上には世界中で有名な歌姫達を引っぱって走る女子高生の画像が多数載ったとか。
「あっぶな……間に合った……」
「まさかあんなに時間を取られていたとは……不覚」
「まぁまぁ、間に合ったし良いんじゃねぇの?」
「「原因が慰めてる場合かッ!」」
「うぇっ!?いや、ゴメンって、な?」
新幹線内、その一部分では7人の女性が駆け込んできた直後のごとく息を切らしていた。いや実際駆け込んだのだが。
最初の方こそしばらく言い合っていたが、5分もすれば各々がそれぞれの方法で時間を過ごし始めた。
「マリア姉さん、ココとかどう?」
「金閣寺……面白そうね」
歌姫とその妹は観光スポットを品定めし始め
「翼、京都に着いて駅で急にあたしらが歌い始めたら面白そうじゃね?」
「奏、多分また凄い量の人に囲まれるよ……?」
世界に羽ばたく双翼はサプライズイベントを計画し
「みく〜?何見てるの?」
「つい数日前に出た新刊だよ。丁度いいから今見てるの」
「成程……私何しようかな?」
「朱里に何かゲームでも借りたら?」
「そうしよう!」
親友を超えてほぼ夫婦の2人はなんだかんだ別の事をし始め
「朱里ちゃ──ん?」
カタカタと何かを打ち込む音。
「朱里ちゃん?パソコンで何してるの?──ってイヤホン刺してるから聞こえて無さそう……」
滅多に見ない真剣な顔。鼻歌を唄ってこそいるが、ノートパソコンの画面に向けられているその視線は、獲物を見定める狩人の様に鋭い。
(えっ、肩叩いて呼んでいいのコレ……?なんかタイミング良さそうな時まで待ってた方が良さそうじゃない……?)
いつもとは違い過ぎる親友の様子に、流石に声をかけるタイミングを見失った響。
(で、でも、画面を見るぐらいは良いよね……?)
しかし、脳内の悪魔の囁きには耐えられず、遂に画面をチラリ。
「…………何このグラフ……?」
「〜♪────んあ?響?」
丁度そこで気付いたらしい朱里。イヤホンを取って振り返った彼女の顔は、いつもの顔だった。
「朱里ちゃん?何このグラフ?」
「ああコレ?株だよ」
「カブ……?」
「食べ物の方じゃないからね」
「し、知ってたよ!」
「本当でござるかぁ……?」
画面右側の方に見えた何かの数字。4桁の前に付いていたマークはドルマークだと流石に彼女も知っていたらしい。シレッと画面左下に置かれていた為替レートを確認した響の顔は、理解を放棄したソレと同じであった。
「……え、朱里ちゃん、こんな事してたの……?」
「やはり、金の価値が変動していくのは最高や」
「えっ?そんなキャラだったっけ?」
「おっと、本性が」
「本性!?」
………理解を放棄したままの方がマシだったかも知れないとは、後の響の言であるが、些か気付くのが遅過ぎた。
「まー響さんや、せっかく2人席で私1人なのになんでアンタ立ってんのさ。座りなさんなま」
「なさんなま……?まぁそういうなら……」
「コーラ持ってきたけど飲む?」
「飲む!」
受け取ったコ〇コーラをちびちび飲む響を横目にパソコンに向き合う朱里。今度はグラフでは無く何かのアプリを立ち上げてとんでもない量の文章を英語で打ち込んでいく。
唐突だが、朱里は響にダル絡みされても笑って流せる部類である。タチが悪いのは響もそれを理解している事だ。暇を持て余していた響には絶好の機会だった。
「ねぇ朱里ちゃん。この、えーっと……”ふどう”?って人に宛てたこの文、英語ばっかりで全く読めないんだけど何書いてるの?」
「お金ちょうだいって文章」
「えぇ……?」
無事京都に到着した朱里一行。ツヴァイウィングの知名度は圧巻で、おふざけで奏がゲリラショーをする前にもう取り囲まれる始末。マリアの手によって髪以外で判別出来ないぐらい変装させられた翼は、遠くからその様子を見ていた。だが助けを求めて駆け寄ってきた奏のせいで結局無意味になったそうな。
「わーいレンタカーだー」
「癖で右側を走りそうになるわ」
「マリア姉さん日本だと殆ど運転しないもんね……」
「そこのツヴァイウィングがバイクの免許しか持ってないのが悪い」
「ハァ?良いだろうがバイクだけでどうとでもなってんだから!」
「その通り過ぎて草が生えますわよ!」
「ちょっとうるさいわよそこの最年少お嬢様」
キャイキャイ叫びながらもホテルに1度到着した一行。2泊3日の旅行で彼女達は、それぞれ行きたい場所に一日掛けて行く事にしたらしい。
「はい、最初はだーれだ!」
「私達ツヴァイウィングの出番だ!」
「久しぶりに二寧坂に行きたくなってな」
「翼さん、あれ産寧坂とかありますけど何が違うんすか」
「身も蓋もない言い方をしてしまえば一本道を大きく3区切りして、それぞれに名前を付けているだけだな。ちゃんと意味もあるが」
「ほえ〜……あ、千枚漬けだ。後で買おっと」
「八ツ橋よりも千枚漬けの方に目が向くのか……やるな」
「あっ、この店知ってる!生八ツ橋専門店の本店だ!」
「珍しく朱里ちゃんのテンションが高い……ちょっと待って何個買ってるのそれ!?」
「いや〜詰め合わせセットは10箱は買わないと!」
「そんなに買ってどうするの……?」
「真面目な話すると配る相手が結構居るから8箱ぐらいは消えるよ〜。残りは自分用だけど」
「2箱も食べるの……?」
「ここが金閣寺……」
「マリアさんすっごい関心した様な顔してるんだけど、あれって金箔貼り付けてるd──うわなにをするやめア゛ア゛ア゛ァ゛!!?」
「朱里ちゃんは尊い犠牲になったのであった……未来の犠牲に」
「女性が出してはいけない声が聞こえた気が……」
「気の所為だよし行こうマリアこの先にある建物は──」
「……翼の押しの強さ、やたら強い様な気がするのだけど」
そんなこんながありつつも太陽は沈み、自然と全員はホテルへ足を向けていた。各々が自由に夕食や入浴を済ませ、ホテルの部屋にて……
「………んん……朝……?」
午前2時、所謂丑三つ時に響は珍しく目を覚ました。当たり前の様に横で寝ている未来を軽く見た響は2度寝しようとするも、どうも目が覚めて仕方ない。
朝がしんどくなるな、と思いつつもベッドから身体を出して窓際に向かう。カーテンを開ければ綺麗な満月が見えた。
しかし、響の目線は空とは違う場所に向けられていた。
「……あれっ……朱里ちゃん……?」
自分の良く知る人間のような、しかし黒1色の服のせいで見た目が良く分からないナニカがホテルから出て行くのを見つけた彼女は、その好奇心を抑える事が出来なかった。
今思い浮かべた親友からプレゼントととして貰ったグレーのパーカーをいそいそと羽織って、まずは思い浮かべた親友が泊まっている部屋をノックする。しかし反応が全く無い。少しばかりの疑念を抱きつつも響は親友の様な雰囲気を漂わせている何者かを追い掛けていく。
最初は100m程度離れた所にあるコンビニにでも行っているのかと思っていた。しかしどんどん謎の存在は進んでいく。時には路地にも入り、遂にはホテルからどれだけ離れているかも分からない、公園のような場所にまで来てしまっていた。
そこまで来た所で急に謎の人物が立ち止まった。見つかる訳にもいかないので響も急いで近くの遊具に隠れる。すぐに変化は訪れた。
「──―い。────経ったと──」
「ごめ────ここまで──」
聞こえてきた2つの声は、響にとっては衝撃的すぎた。
「……
あまりに理解不能な光景に脳内がパンクしそうな響。遂に耐えられず、遊具から顔だけを出して状況を覗き見てしまった。
「──で、あのシス────どう──」
「いや、あれは────じゃない──」
15mは離れている為話し声は良く聞こえない。だが、照明の近くで会話しているのが功を奏して響には会話している2人の顔が良く見えた。
1人は自分が良く知る朱里が、上に黒いパーカーを羽織っていただけだった。自分の勘は間違っていなかったと思いつつももう1人の方に視線を向け、思わず息を飲みこんだ。
「顔も髪も色が薄いし、目も青い……アルビノ?でも顔は完全に朱里ちゃんと
「ッ……なに、あの右目………
肌の色も髪の色も全体的に白く、目の中の虹彩部分がかなり青みがかってはいるものの、確かに彼女の良く知る朱里と全く同じ見た目の女性がそこには居た。
しかし、決定的な相違点が1つ。右目の虹彩部分が異常だった。不規則に虹彩の範囲が広がったり、狭まったり。真っ直ぐ前を見据えても右目だけが常に、まるで右目だけが別の生物のように流動していた。
「じゃあ、この────いじ────って!?」
「だからおち────からは────」
気付けば響の足は無意識に、2人の方へ向かっていた。残っていた理性を頼りに、途中にある遊具を上手く利用しながら少しずつ近付いて行く。
2人との距離、残りわずか8m。そこで響は、ある言葉を聞いた。
「お────、響達を見殺しにしたお前がッ!────を──」
感情が昂って大声になった、自分の知る朱里の声を聞いた響には、その言葉の意味は到底理解出来そうになかった。