ある休日の朝6時、足立朱里は既に起きていた。
とある一軒家。巨大ではあるが1階建てで見た目は古く、言うなれば昔あった長屋の壁をぶち抜いて1つの家とした様な、そんな家。中も彼女の私物が適度に散乱してパッと見は汚いが、部屋の壁や床そのものは新品の物になっており清潔さを保っていた。その家の彼女の寝室にて……
「……雪音先輩まだかな」
彼女は待ち人を待っていた。
そんな想いが届いたのか、彼女の携帯が鳴った。床に寝転がっていた彼女は弾き出されるかのごとく携帯を手に取り、かかってきた電話に出た。
「はいモスィモスィィィイイ?」
『……掛け間違えた』
「待って、待ってください先輩。そりゃないです」
『あたしが知ってる足立朱里ってのはもう少しマトモな脳ミソを持ってたハズなんだが』
「その足立朱里で合ってます。私です私」
『オレオレ詐欺の派生系に出会っちまったなあたし』
「いつまでやるつもりですかコレ」
『お前が過ちを認めるまでだが?』
「……すいません」
随分とマトモな話し出しが出来ないらしい彼女は、なんとか落ち着いてから本題を切り出した。
「……それで、今日もやるんですか?」
『あ、ああ。なんか予定とかあったか?』
「先輩の為に予定空けたんですよ?無いに決まってるじゃないですか」
『ほ、ホントか?じゃあ、12時からで良いか?』
「全然良いですけど……なんか理由でもあるんですか?」
『いや、どうせならキリ良くしたいなぁって』
「すっごい分かりますソレ。じゃあ12時からでよろしくお願いします」
12時に何かの約束を取り付けた2人は、電話を切って、何の因果か2人ともそれぞれのベッドに寝転がって、殆ど同じ事を呟いた。
「「頑張るか……配信」のアシスト」
何が始まろうとしているのだろうか。
その日の正午。とある動画配信サイト、その生放送欄に1つの配信があった。
非公式配信ではあるが、その同時接続数は脅威の15000人超え。異常とも言える量であった。では、その内容は何なのか?少し覗いて見るとしよう。
「おいココに敵居んぞ!」
「もう1人ダウンさせましたよセンP」
「センPってなんだよ新しい略称か!?」
「点Pの進化系でセンパイも略せないかなって」
「何言ってんのか訳わかんねぇよ!よしダウン!」
……なんと足立朱里と、その友人でありリディアンにおける先輩でもある『雪音クリス』が偽名を使ってFPSゲームの配信をしていた。
そう、2人が取り付けた約束は配信、そのゲスト参加であった。朱里は最近知った事なのだがクリスはどうやらゲーム配信をしているそうだ。ヘンテコな言い回しとカワボ、異様な銃系ゲームの実力等から彼女は一瞬にしてネットで話題となり、中堅配信者の1人となった。
だが彼女には1つ欠点があった。そう、性格だ。独特な言い回しとその口の悪さを自覚していて自己完結するその性格から、彼女はこれまでずっと他の有名配信者とコラボの誘いは来た事はあるものの断り続けていた。そこに目を付けたのが朱里だった。
《これ、上手い事やれば私有名になれるのでは?》
そんな私欲丸出しの理由をよりにもよってクリス本人に堂々と話しながら、ある日朱里はクリスの配信への参加を持ちかけた。クリス本人もそのド直球度合いに辟易しつつも実際そういう相手を求めていた事から了承した。
――それが、全ての始まりだった。
これまでのクリスの配信は多くて同接5000人。充分多いのだが……その日は違った。脅威の同接10000人超え。
何があったのか?それは全てこの朱里のせいであった。その時の配信を振り返ろうと思う。
「よう、スノウだ。今日も配信やってくぜ」
彼女、雪音クリスはネット上では『スノウ』と名乗っている。”雪”音クリスだからスノウ。成程、随分と人に言えないぐらいには直球らしい。
「だが今日は特別だ。1人ゲストを呼んでいる」
現時点で同接1700人程。ゲスト という言葉にコメント欄が一気に盛り上がる。何故か?スノウ自身がコラボはやる気が無いと宣言していたからだ。
誰だ?〇〇か?△△も有り得そうだな 等と様々な有名配信者の名で盛り上がる中、彼女はゲストの正体を語った。
「予想してもらってる所悪いが、ゲストはあたしのリア友でヤベー奴筆頭だ。本人に自己紹介してもらおう。おい、頼むぞ」
「………へ?あっ、すいませんジュース飲み終わるまで待ってください」
「マイペースかお前は!?ジュースなんて後からでも飲めるだろ!」
「へーい……あっ、名前決めてなかった」
「はぁ!?」
異様とも言える滑り出しで始まった彼女の配信は、中盤に差し掛かる頃には同接10000人という異常な数値を叩き出していた。いったい何が起きたのか?それは……
「相変わらずこのバトロワゲー難しいですね……なんでそんな遠距離カービンでガンガン当ててるんですか?」
「やってたら慣れたんだよ。ていうかお前はさっきからどんだけチャーライでちょっかい掛けてんだよ?」
「いや、アーマー育てるの楽しくて……ほい、赤アーマー完成。センパイその白アーマーください」
「ほらよ。……お前今何ダメージ出してんだ?」
「1500辺りですね。まだ中盤だけどもうハンマー出そうです」
「……コイツ、上手くね?」
「センパイが近距離しっかり抑えてくれるからですよ」
「あたしがダウンした時にセンチネルでクイショして1人吹っ飛ばした奴が何言ってんだ……?」
そう、朱里が異常な実力を発揮していた。
最近話題のAp〇xをやっていた2人。今回はゲスト有りの為、初の試みである視聴者を入れずにデュオをしていたのだが……このゲーマー、異常な程にプレイが上手い。まさかのスナイパー2本という、このゲームに置いては異常を通り越して変人呼ばわりされる武器構成でA〇exではまぁまぁ上手い方と呼ばれるクリスをドン引きさせていた。
ちなみにネット名を呼ばず普通にセンパイ呼ばわりされているのもドン引きを加速させている。諦めてクリスは名前考えるの面倒くさがった朱里をコウハイと呼ぶ事にした。
ちなみにこんな事をしているせいか、コメント欄は中々に阿鼻叫喚であった。
『なんだこの変人』
『2000ハンマーなんで2ラウンド開始時点で取れそうなんですかねぇ』
『チャーライ嫌いだけどここまで完璧に当てられたら笑うしかねぇわ』
『なんでこの子スナイパー以外持ってないの?』
『スナイパーと手を溶接したんでしょ』
『後輩の手は金属製だった…?』
などなど、実力に関してロクな褒め方をされていなかった。だがただ上手いだけならそこまで伸び切らない。伸びた理由はもう1つ、その掛け合いにあった。
「……あそこ2パやり合ってますね。突っ込みます?」
「そうすっか。コウハイ、ウルトは?」
「63%」
「……もうラウンド2だぞ?遅くないか?」
「スイマセン!スイマセン!もう溜まってますから!」
「なんで嘘ついてんだよお前!?」
「ウルトが使えるのは63%なんですよ?知りませんでした?」
「初めて聞いたわそんなの!お前の世界は数字どうやって数えてんだよ!?」
「うおぉぇぇぇぇえ!?なんだコイツ!?」
「急に叫ぶな!ていうかお前いつの間にどんだけ離れてんだよ!?」
「ちょっと物資欲しくて……はいクイショでヘッショ、アイツはハンショ」
「急にラップみたいにしてんじゃねぇよ案外余裕だなお前!?」
無駄に上手いそのプレイとクリス……スノウ弄りの上手さ、大量に生産される迷言等様々な点から望み通り彼女は有名プレイヤーの1人となり、スノウも有名配信者の1人となった。これが彼女達が有名プレイヤーとなった馴れ初めである。
そして今日は……
「スパチャありが……1ダメージ×10円!?」
「出た富豪の遊び……えっ、2人の合算?ガチの富豪じゃんこの人怖…」
「……チャーライ持つ?」
「センパイは近距離専門では?それともランパートでも使います?」
「話の繋がり全く分かんねぇぞ……ガスおじするわ」
「じゃあワットソンちゃん使いますね」
「なんで籠城セットなんだよ」
「育てたアーマーで着替え量産しようかなって」
「そういう事考える脳ミソあったんだな」
「久しぶりに泣きますよ?」
今日もいつも通りであった。
コラボしてみたいんだけどこの主人公コラボ先出れそう?
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行けるやろ
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無理やで