SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】短編集 作:大野 紫咲
ラストで突如脈絡もなく、弊一次創作のオメガバース世界に飛んだヨハネさんと、うちの直生くんが出てきます。
一杯の香り高いコーヒーというものは、いつでも心に平穏をもたらしてくれる。
……なんて、お高く止まって言ってはみたけれど、実際のところコーヒーっていうのは、ボクにとって悩みの種だ。
コーヒーブレイクは、仕事をする人間にとっては文字通りの息抜きで、気晴らしにもなる。
その飲み方も人によって様々で、別にミルクを入れようと砂糖を入れようと、ホットで飲もうとアイスで飲もうと、ボクに文句はない。
今、この喫茶店に任務後の休憩がてら一緒に入ったボクのパートナーも、その全部を確認してくれる店員に向かって、きちんとこう注文したところだ。
「ブレンドコーヒーを、ホットでお願いします」
「砂糖とミルクはお付けしますか?」
「あ……なしで大丈夫です」
来た。
いつの頃からか、彼女と並んで飲み物を手に休憩するのも当たり前の光景になっていたけれど、その最初の頃から、何度か聞いたことのあるやり取り。
そこで、悩む。ブラックでコーヒーを飲む大人の女性。その前でミルクと砂糖入りのコーヒーを啜るのは、果たして沽券に関わりやしないか、と。
ムラサキは、こう見えても大人だ。いくら歳の差があっても、パートナーとして、そこはボクも対等でなくてはならない。自分は砂糖とミルクをお願いしますなんて、言ったら微笑ましい目で見られたり、お子様舌だと馬鹿にされたりしないだろうか。いや、ムラサキはそこまで性格の悪い人間じゃない。けれどこれは、ボク自身のプライドの問題なんだ。ムラサキの前で、ボクがコーヒーの飲み方に理解があるほど、精神的に大人なんだってことを示すには、一体どうすれば……
みたいなことを、コンマ1秒くらいの間に、毎回頭の中で考える。
「ヨハネさんは? どうする?」
「じゃあボクも同じ奴を」
だから結局、何食わぬ顔をして頼んでしまう。ムラサキと同じ、砂糖もミルクもない、真っ黒なコーヒーを。
「う〜〜ん! チョコレートやケーキみたいな甘いお菓子には、やっぱりコーヒーが合うよね〜!」
「そ……そうだよね。やっぱ、通な食べ方と言えば、お菓子にはコーヒーだよな」
「おっ、ヨハネさん分かってるねぇ」
ほっぺたに手を当てながらフォークを掴む彼女。内心、冷や汗をかきながら適当に話を合わせるボク。実はボクは、そんなにブラックでコーヒーを飲んだことがない。
イサクが淹れてくれた奴とか自販機のくらいは、飲もうと思えば普通に飲めるけれど、それでもどちらか選べると言われたら、特に何も考えず砂糖とミルクを入れる。
彼女の言葉的に、やはりコーヒーはブラックしかあり得ないということなんだろうか。
そんなの、ボクが気にしたところでどうにもならない事ぐらい、分かってる。それでも、気になるものは気になる。
その日から先、ボクは自分もブラックを飲みながら、彼女が飲んでいるコーヒーの種類をそれとなく観察することにした。
最初は、敢えて何も入れずに飲むことで、コーヒーそのものの味とかが分かるようになるのかと思った。きっと、そういう違いを楽しめるのが、ムラサキみたいな大人だ。
SOATの休憩室では、やはりお菓子を摘みながらブラックのまま飲んでいるところを見かけたし、外でランチをした時にも毎回セットドリンクはブラックコーヒーだったし、家に遊びに行った時も何も入れずに飲んでいた。
その全部にボクは付き合い、そして舌を慣らすべく、色んな喫茶店のコーヒーを渡り歩いたものの……苦いものは苦い。
コーヒーそのものが苦手なわけじゃないのに、時にはとても苦く、味がよく分からないものもあった。苦味とか酸味とか、メニューにグラフで書いてある店もあったけれど、正直さっぱり違いが分からない。
「うええ、にがっっ……」
「あれ、ヨハネさん、今日はブラックで飲んでんの?」
「うちのは苦めだし、アメリカンにするか砂糖とミルク用意しようかって言ったんだけど、いらないって……」
首を傾げるソウルとウルカ達に見守られながらも、喫茶クロカゲのコーヒーにも何度か挑戦したが、ここのがダントツで苦かった。
美味しいんだけど……やはり、ずっとそのまま飲んでるのはキツい。
(でも、練習しないと……)
コーヒーもそのまま飲めないような奴だって、思われたくない。
ボクはまだ未熟かもしれないけど、サキを守りたいって想いだけは、一人前の大人なんだから。
大人の嗜むものにだって理解があるし、そういう人間にならなくちゃいけない。そうじゃないと、きっと彼女の隣に胸を張って並べない。
なんとか必死になって、顔を歪めずにブラックコーヒーを口に運べるようになった頃。
SOATでの勤務が終わって、ボクは喫茶クロカゲに立ち寄った。
たまにはミルクティーにスコーンとかでもいいかもしれない……とドアベルを鳴らして正面扉を開けると、レースのカーテンから揺れる光が差し込むカウンターに、先客がいた。
頭の大きなリボンを揺らした、袴姿の女性。ムラサキだ。
自分の背が小さいから登りにくい、と言っていた脚の長い椅子に珍しく座って、カウンターの中のウルカと何かおしゃべりをしている。
会えて嬉しい、という気持ちと、しまった、という気持ちが複雑にせめぎ合う。だって、ここで彼女に鉢合わせたということは、当然またブラックコーヒーを……
「え? ちょ……っと、待って……なんで。どういう、ことだよ」
こんなのって。
思わずへたりこんだボクの元に、慌ててカウンターの中のウルカが駆けてくるけど、当然ボクに取り繕う余裕なんてない。
椅子に脚をぶらつかせて座ったまま、びっくりしてこちらを見つめるムラサキの手元には、ソーサーに乗ったコーヒーが——傍にあるミルクポットと蓋の開いたハニーポットを見るに、クリームと甘味を入れたに違いない、カフェオレ色のコーヒーがあった。
*****
「えーーっっ!?!?!? それで私が、ブラック派の人だと勘違いしてたの!?!?」
気を利かせたウルカが移動させてくれたテーブル席で、ボクの目の前に座ったムラサキは、気まずげに説明をするしかないボクの言い分を聞いて、信じられないというように口に手を当ててぽかんとしていたかと思うと、案の定笑い出した。
ボクの分までコーヒーを運んできてくれたウルカが、トルコ柄のお洒落なカップとソーサーを目の前に置く。湯気と一緒に、いつものクロカゲ特製ブレンドのいい香りが漂ってきた。ムラサキのとお揃いのミルクポットを運んできたウルカは、それを置いて空のお盆を胸に抱えたまま、もう無理しないでねというようにちゃっかりウインクすると、踵を返して去って行った。
何もかも、読まれている。ウルカの服装は元からゴシック調だけど、白いエプロンとヘッドドレスをその上に着けていると、いかにも喫茶のメイドさんという感じがして、とてもよく似合っていた。ああいう服装は、ボクもいつかしてみたいな。
それはさておき、今はこの向かいに座っている笑い上戸をどうするか。
くっくっく、と肩を揺らしたムラサキは、温め直してもらった飲み差しのコーヒーを前に、目尻の涙さえ拭いながら楽しそうに笑っている。笑いすぎだ。
「だっ、だってっ……ふふっ、私がブラック好きだと勘違いしたまま、自分も飲めるようになろうと頑張ってくれたって……っ、ことでしょ、なんでそんな可愛いことすんのぉ……! 可愛すぎるんだけど!!! ねえ! 可愛すぎて胸が苦しい! ときめきでどうにかなりそう!」
「別にあんたに可愛いと思われたくてやったわけじゃないんだけどッッ!」
見た目とか服装で言われるなら、まだああはいはいと受け流せるけれど、これはない。
こんなことで可愛いとか言われてもちっとも嬉しくないし。それなのに、どういうわけか顔が熱い。
「ごめんって。嬉しくなっちゃったの。私のためにそこまで考えてくれたんだと思ったら。
ヨハネさんがどうやって飲んでるのかなんて、そりゃあ、へえブラックなんて渋いなあ、とは思ったけど、それ以上何も気に留めなかったよ。むしろ、私の方が子供なのかと思ってたくらい。
まさか二人とも、我慢して飲んでたなんて。ふふ」
意外だったのは、ムラサキも取り立ててブラックを好んでいたわけではない、ということだった。何度か苦さに耐え切れず、けれどブラックで注文した手前、我慢してボクの前で飲み続けていたこともあったらしい。
「一体なんで……」
「食事の時もおやつの時も、私普段は水かお茶だから、それと一緒で、飲み物の味に邪魔されたくないの。それにお腹に一緒に入れるものがあれば、カフェインも胃に障らないでしょ。ブラック単体じゃないから飲めるだけ。
あ、お菓子にコーヒーが合うって言ったのは本当だよ? 私甘すぎるの苦手で、甘い食べ物に甘い飲み物って、絶対に食べれないの。甘いもの頼んだら、片方はストレートかブラックでなきゃ」
もう隠し立てする必要もないので、久しぶりのミルク入りコーヒーを話しがてら啜れば、舌に優しい味がした。——うん。そのまま飲むより、よっぽど味が分かる。
クロカゲのホットコーヒーに提供するミルクは、牛乳ではなく乳脂肪分の高い生クリームを使用しているらしい。こうすることで、少ない量でもコーヒーが薄まらずにミルク感を出せるのだそうだ。
「まあ、私は生クリームでもお腹壊しちゃうから、頼んで牛乳に替えてもらうことが多いんだけどね。本当はお砂糖だけど、私の好みで蜂蜜に替えてもらってるし。ここは、顔馴染みな分そういうの気軽に頼みやすくて助かるよ」
「だ、だけど……あんた、ボクといる時にはそもそもブラックコーヒーしか頼まなかったじゃないか。いつも、家にいる時だって」
そう責めると、ムラサキは苦笑しながら、それはたまたまだと首を振る。
「自分で淹れるコーヒーは、分量よりかなり粉を少なくして薄めにしてるからね。
それにこっちでいつも行くお店は、コーヒーに淡めのメニューをちゃんと作ってくれてるし。それにヨハネさんとこの間行ったお店も、カフェインレスコーヒーがあったでしょ?」
「あ……」
「そういうお店だから私もそのまま飲めるだけで、濃いコーヒーのお店はさすがに私でもブラックじゃ飲めないよ。クロカゲの深煎り焙煎コーヒーなんてものすごく苦いから、私はカフェオレしか頼まないか、いつもウルカちゃんに頼んでミルクと蜂蜜たっぷりにしてもらってるもん」
そういえばここで二人でゆっくりお茶したことなんてなかったんだっけ……と、ムラサキはふと思い出したように言う。
そんなの、まさかなんだけど。
コーヒーなんて、そりゃ豆の産地とか焙煎の仕方で違いが出ることくらい知ってたけど、他はみな同じなんだと思っていた。
「……ボクでも、淹れれるかな」
「え?」
「二人とも飲めないんじゃ、飲める濃さのコーヒーを最初から作れた方が、どっちにとっても得でしょ」
「うん……でも、無理して覚えることないよ?」
「無理はしてない。ただ、やったことないから、練習してるうちは変な味のコーヒーになるかも……しれない」
ムラサキは、いつも部屋にあるサーバーでドリップコーヒーを作っていた。
濃いコーヒーは、苦いだけじゃなくてカフェインの量的にムラサキの体調にも関わってくるということなら、ボクもその淹れ方を習得するのが、可能な限り合理的な判断に違いない。
ボクがそう伝えると、サキはありがとう、と頬を綻ばせた。
「ヨハネさんのコーヒーが飲めるのかぁ。嬉しいなぁ。楽しみだな」
「そんなに期待しないで欲しいんだけど。逆に、こっちがサキみたいに上達するまで、付き合わせることになるし」
「私だって、自分が美味しいように淹れてるだけなんだから、そんなお店みたいに美味しいコーヒーの味って訳じゃないよ」
彼女はそう言って照れたように手を振るけれど、暗にボクが、あんたの淹れる味を気に入ってるって称しているのが、伝わっただろうか。そうじゃなきゃ、「あんたみたいな味」を目指すなんて、言ったりしない。
とにかく、これでボクが、これ以上変な痩せ我慢をする必要はなくなったわけだ。
コーヒーの苦味も誤解もすっかり解けたところで、ほっとしながらカップを置いたボクに、ムラサキは頬杖をついたまま、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ。どんな味のコーヒーでも、二人でいれば美味しく味わえるはずだから」
「?」
「どんなコーヒーでも、ヨハネさんと一緒に飲むコーヒーが、一番美味しいもん。
そりゃ、他のどんな友達と飲むコーヒーも、それぞれ特別な思い出があって、だーいすきだよ。
ても、君と一緒に飲むのは、家で飲む時も、外で飲む時も、いっとう特別」
「っ……」
なんであんたは、いつもそういうことを平気な顔して言えるんだろう。
そういう時のあんたの顔は、どんな砂糖を口に含んだ時よりも甘そうに綻んでいて、とても見ていられたもんじゃない。
あんたに誇れるように……とかあれこれ考えていた自分が、バカみたいだ。
込み上げるのは恥ずかしさが半分……残り半分は何かなんて、そんなの気が付きたくもない。
「ヨハネさんは? 違うの?」
「……そんなん、言わなくても分かるでしょ」
照れを隠そうとしたボクが、そっけなくそう答えるしかできない事さえお見通しみたいな顔で、彼女はにっこり笑ってみせる。
まるで罠だ。苦みの先に待ち受ける、甘い罠。
初めて会った時からずっとそうだ。ボクを振り回し、惹き寄せる。
たったのコーヒー一杯についてすら、ボクは彼女を理解できずに、左右されてしまう。
でもそんな、薄すぎたコーヒーみたいに失敗だらけのボクを、彼女はお互い様だから、といつでも包み込んで、手を引っ張ってくれる。頼りたいと言ってくれる。
ボクには、その事実だけで、今は十分だ。
「……なあ、あいつらに本当に砂糖って必要か?」
「しーっ! 静かに! 今いいところなんだから!」
柱時計が、夕焼けの中で静かに時を刻んでいく。
黙り込んで顔の熱さを冷ますのに必死だったボクは、腹の影でソウルとウルカにひそひそ言われていたことさえ、知らないままだった。
*****
「うええ、やっぱりにっっが」
「なるほどな。そんな事があったわけか。にしても、もう無理して飲む必要ねーだろ、それ」
そう言って、ボクの前で大柄な橙の長髪の主——
訳あって、ここはボクがいたセブンスコードとは違う世界。
第三の性、いわゆるオメガバースの跋扈する世界だ。
ひょんなことからこの世界にやって来て以来、ボクはこいつの家に居候するみたいな形になりながら、半ばズルズル友人関係を続けている。
結局、あれからムラサキの前では、彼女に準じて気分でブラックコーヒーを飲んだり、そうではなかったりまちまちなものの、あの意味があったのかなかったのか分からない特訓のおかげで、人並みにブラックでも飲めるようにはなった。
ただ、初見の店で飲めるコーヒーが出てくるのかどうか、判別がつかないのは相変わらずだ。
思いがけずたまらなく苦いコーヒーが出されても、サキの前ではなんとか見栄を張って、そう? なんて涼しい顔をしてみせたり出来るけど、こいつの前では、ダメだ。
ていうか、直生の前で取り繕う必要もない。
感情通りに正直に歪んでしまう眉根を見て、こいつはいつも笑っている。
「お前、本っ当に苦そうな顔で飲むのな。んな険のある表情で飲まれたら、コーヒーも浮かばれねえだろ」
「しょうがないじゃん、ここの店こんなに苦いなんて思わなかったし……。
それに、苦味を堪えてる時の顔が険悪になる事くらい、自分でも自覚してる。だからサキの前では見せたくないんだろ」
できれば、楽しい記憶が彼女に残って欲しい。
ボクの表情のせいで、無理をさせたのではないかと、悲しい気持ちにさせたくない。
ボクとの時間を、あれほどまでに大切に想ってくれる、彼女とだからこそ。
「一途だなぁ、お前」
「不器用って言ってくれる? 一本道しか通れないんだ」
なんか、その手の褒め言葉は嫌いじゃないけどムズムズする。ボクって全然、そういうキャラじゃないと思ってるから。
喫茶店の窓ガラスを、雨が叩いている。こいつは有名人だから、それなりに眺めのいい奥の席に通されたみたいだけど、ガラスに微かに反射するくっきりした目鼻立ちといい、蝶の羽を広げたような分厚い睫毛といい、たしかに一眼見て芸能人だと分かる程度に、その美人さが際立っていた。
元々美人とちやほやされていたボクがそう思うくらいなんだから、これはよっぽどのものだ。
ボクだってお洒落にぐらい気を遣うけれど、もはや気を遣うとかいうレベルじゃなく洗練されて作り上げられた直生の造形は、神々しい神様のようだった。本人の努力を知っているだけに、尚更。
そんな触れるのも恐れ多い存在が、平然とここでボクと言葉を交わしているという事実に、毎度のことながら脳がバグりそうになる。
とあるブランドから出た新作のオールインワンの胸元に、煌びやかなビジューのネックレスを纏った直生は、今日は胸を潰してさらりとした着こなしを意識しているらしかった。こいつが着ると、一色のオールインワンも全くパジャマや作業服に見えないのが不思議だ。
そこまでしておきながら、さっきから口元に運んでいるのは、ホットココアだったりする。
ムラサキもだが、こいつのことも大概、読めない。
「直生こそ、自分が選ぶ飲み物とか食べ物ひとつで、名前に傷付いたらとかって考えたりしないの?」
俯いて尋ねると、きっとブラックコーヒーを相手に合わせて頼むかどうかなんて悩みもしないであろう友人は、んー、と声を出してから顎に長い指を当てた。
「そりゃー、売り方ってもんはある程度あるし、全く意識しねえわけじゃないけどな。
けど、オレが幾ら気にして媚び売ったとこで、全員に好かれるのは無理なんだから仕方ねーだろ。
ファン増やす為にオレがキャラ作るんじゃなくて、オレを好きな奴がファンになってくれりゃあそれでいいんだよ。
それに、どっちにしろ今はオフだろ。だったらそん時の気分で好きなもん飲むわ」
「……強いな、直生は」
てか、ボクといる時はオフ認定なのか。
それはそれで、貴重なものを見てる気がするけど……それこそ、ボクが気にしたって仕方がない。
何の因果か、ボクはたまたま直生に選ばれた。それだけのことだ。
他にも喉から手が出るほど彼の隣に座りたいファンがいるのにとか、それ以上考えると怖いことになる気がして、ボクは頭を振ったまま残りのコーヒーを飲み干した。
「口直しに甘いもんでも頼むか?」
「飲み物はもういいな……パフェがいい」
「夏だからって、あんま冷たいもん頼むと腹壊すぞ」
「家でひよこのTシャツ着て腹丸出しで寝てるあんたに言われたくないんだけど」
「オレは丈夫だからいーんだよ」
どういう謎理論だよ。
まあ、けれど、目の前でにっと歯を見せて笑う表情には、ボクと同じで、何も含むところがないのだろう。
サキと同じで、それがあんたの中に思い出として重なるのなら、ボクとしてはこう、なんというか、別に悪い気分じゃない。
自分が、本心を打ち明けてもらえる唯一の友達と言えるほど、偉い立場に立ったつもりはないけれど、互いにふとした感情が思わぬ時に出てしまう関係は、不思議でありつつもどこか居心地が良いと、そう思った。
ムラサキの前では耐えて涼しい顔して飲むけれど、直生くんの前では絶対にその表情を隠すことができない。
……というエモさを書きたいだけのおまけでした。特にオチはつかなくなりました←
一応大抵のブラックコーヒーは、ムラサキよりはヨハネさん飲めると思いますよ!