SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】短編集   作:大野 紫咲

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昼営業中の喫茶クロカゲに、ランチを食べにやって来たヨハネ。
注文はオムライス。
それを受けたムラサキは厨房で腕を奮いますが、ちょっとした悪戯を思いついたようで……?


隠し味はハートマーク

「はえ。オムライス???」

 

 ナラハシから注文を伝え聞いたムラサキは、お昼時の喫茶クロカゲの厨房で、きょとんと首を傾げた。

 

「せや。『特製』オムライスひとつな」

「ごはんはちょうどいい感じに余ってるし、玉ねぎとピーマンも余ってるから、できなくはないと思うけど……」

 

 それにしても、20分は見込んでしまうと思うのだが。

 お昼休みの注文にしては珍しい、と思いながら、ムラサキは暖簾の隙間からちらりと、テーブル席で座って先にコーヒーを飲んでいるヨハネのことを盗み見た。

 飴色をした木製のカフェテーブルにつき、背もたれに体を預けたヨハネは、カップを片手に持ちながら新聞を捲っている。昼休みでも、セブンスコードの事件や内情に関する情報収集を怠らないのだろう。話しながら食事を楽しむ客達の賑わいの中、一人綺麗な指先でページを捲る冷静な横顔の主が、この小さな店の平和の為にも陰ながら日々奮闘してくれていることを思うと、ムラサキは訳もなく誇らしさと嬉しさでいっぱいになる。

 今日も華々しく、タツノオトシゴをモチーフにした紋章入りの腕章が、その腕に光っていた。

 

「SOATの制服で来たってことは、仕事はまだ終わってないんだよね……。

お出しするのに少し時間掛かっちゃうと思うんだけど、大丈夫かな。普段でさえ時間掛かるのに、今右手が動かないし」

「そのくらい、向こうも分かっとるやろ」

 

 まあ一応聞いとくな、と声を掛けてくれたナラハシに手を合わせて、ムラサキはコンロの前に戻った。

 リアルでもバーチャルでもこれ以上なく体の弱いムラサキが、喫茶クロカゲの厨房という、最も体力を必要としそうな場所で働けているのには、理由がある。

 ひとつは、同じ従業員仲間のソウルやウルカ達もムラサキの体調に理解を示してくれているからだが、もうひとつは、ここがバーチャルの世界で、作り上げた料理の複製や長期保存が容易だからだ。

 時間の空いている時に作っておいた料理を、何十食分もコピーしてストックしてあり、それがなくなったら原則的には売り切れ扱いというシステムを取っているので、ムラサキが厨房に立ちっぱなしで必死に料理を作り足す必要がない。

 むしろ、ホールに出て手伝いをしたり、別日の仕込みや午後のカフェメニューのお菓子をのんびり焼いていたりすることの方が、多いくらいだ。

 

 だが、ムラサキの仕事はもう一つある。

 それが、「特製」と呼ばれる、喫茶クロカゲの裏メニューへの対応だった。

 これは常連客だけが発動できる権利で、分かっている人間は皆ナラハシに声を掛ける。「捕縛」の時からクロカゲで働いているナラハシが古株で、かつムラサキの料理の大ファンであり、今彼女が一度に対応できそうな量を、一括で把握しているからだ。

 何のことはない、少し時間が掛かってでも、コピーではなくどうしてもその場でムラサキに手料理を作って欲しい人間が、「特製◯◯をお願いします」と注文するのである。

 

 量産品の食品が別に不味くはないのと一緒で、コピーをしても料理の味や匂いに変化があるわけではなく、ムラサキはわざわざこんなことを頼む意味があるのかと、内心首を傾げている。

 ただ、自分の為だけに作ってくれる出来立てを食べたい、という需要は、ここの客には少なからずあるようで、おにぎりや蕎麦、ラーメンといったすぐできる簡単なメニューには限られるものの、意外と注文は入る。

 

 今ではすっかりここの客であり、ムラサキの上司かつパートナーでもあるヨハネがそのことを知らないはずはなかったが、わざわざピークの時間帯に「特製」を指定してくるのは、少し珍しいなとムラサキは思った。

 いつもなら、ムラサキの忙しさを考慮して、通常メニューの定食を注文していくことが多いからだ。

 

(しかもオムライスとは)

 

 たしかまだ、メニューには載っていない。

 「特製」はムラサキが客の注文に応じてくれるシステムなので、極端に言えば、通常メニューにないものでも、ムラサキが作れそうなものを客がリクエストできる権利でもある。

 そこまで無理難題を押し付けられるわけでもないし、作った事のない料理が無茶振りで来ても、料理好きのムラサキとしては気軽に楽しんでいたのだが、そんなにジャンクフードや油っこいものを好まないヨハネが、わざわざオムライスというのが珍しい。

 

(えーっと……ウインナーは冷蔵庫に、残ってたよね)

 

 昼食なら、軽いもので大丈夫だろう。

 ムラサキは、炊飯器の冷やご飯の量から一人分を素早く目測し、冷蔵庫の袋からウインナーを2本取り出した。野菜には、玉ねぎとピーマンを選ぶ。

 

(小さめだし、玉ねぎは一個入れちゃおうか。ピーマンも二つぐらい大丈夫だよね)

 

 ムラサキの料理のポイントは、これでもかというくらい野菜を入れることだ。

 最終的にはご飯と同量くらいになる玉ねぎとピーマンを、慣れない左手の包丁でとんとんと微塵切りにしていると、再びナラハシが厨房に顔を出した。

 

「ムラサキちゃ〜ん、ヨハネ、卵少なめでええて」

「ん、わかった。ありがと」

 

 フライパンに野菜を入れたムラサキが、顔を上げながら答える。

 オムライスや卵焼きの卵といえば、だいたい二〜三個使うのが相場だろうが、あまり胃に重くない料理を好むムラサキは、自分が食べる時は意図して一個しか使わないことが多い。ヨハネもそれに倣ったのかもしれない。

 ぶつ切りにしたウインナーを加え、ご飯を後で加えることも考慮しながら、気持ち多めのオリーブオイルで炒めていく。とはいっても、世間の外食ほどは全然使っていないと思うが。

 

(味付け、ケチャップだけでいいかなあ)

 

 先に塩胡椒を加えて具をしんなりさせながら、ムラサキは考えた。

 本当ならここに、コンソメを加えたいところだが……残念ながら顆粒のコンソメはここにはない。炒め物の場合は、固形のコンソメを砕くと入れすぎたり上手く混ざらなかったりしそうだ。

 

(……よし)

 

 ご飯を入れてヘラで砕きながら考えていたムラサキは、ケチャップを入れた後に、流しの下を開けると、みりんと醤油を取り出してほんの少しずつ垂らした。中火のフライパンが、じゅわあといい音を立てる。

 前、ナポリタンを作った際に、レシピを見て隠し味に加えていたものだ。

 ナポリタンで美味しかったのなら、多分ケチャップライスに使っても美味しくなるだろう。

 

 ほどよく調味料が絡んだところで、ムラサキはフライパンの中身を白いお皿に移し、ヘラで形を整えた。

 同じフライパンに油を敷き、熱している間に今度は卵を溶く。

 少なめでいいと言われたので一個をボウルに割り入れ、これならあっさりしたままボリュームアップできるかもしれないと、牛乳を少々加えた。

 

(ん……そうだ。折角なら)

 

 紙を巻いたナイフを取り出し、ムラサキは冷蔵庫のバターを確認した。

 残り少なかった欠片から、10g分ほどを切り取り、熱したフライパンに入れる。

 

(いつも油なんだけど……ちょっとくらい贅沢してみてもいいよね)

 

 あまりくどくならないといいが、と祈りつつも、卵を入れて火が通った縁から焼け始めた時には、ふうわりと広がったバターのいい香りに、ムラサキは頬を綻ばせた。

 軽くかき混ぜながら様子見し、まだ火の通り切らない半熟でフライパンを下ろすと、ムラサキはそれを振って卵をぽうんと放り、ケチャップライスの上に着地……などというリスキーなことはせず、フライパンを皿の横に並べるように持ちながら、そろそろとご飯の上に下ろした。

 オムライスに卵を被せるには、卵を焼いたフライパンの上にご飯を乗せてから巻くようにして皿に一気に移す、薄く焼いた卵を持ち上げて被せる、など色々方法があるが、ムラサキの経験上、どれも破れてばかりだった。

 これが一番失敗が少ない。半熟にしておけば、適当にご飯の上に乗せてもそこまで失敗には見えないものだ。

 

「ふう、これでよし!」

 

 ここのオムライスを出すのは初めてのような気がするが、ヨハネは喜んでくれるだろうか。

 完成して額の汗を拭った時、グラスを下げてきたウルカが厨房に顔を出した。

 

「おいしそう。出来上がり?」

「うん。あ、そうだ、テーブルにケチャップは置いてないんだっけ」

「そうだね。仕上げにかけるなら、私がやって運んでおくよ」

 

 そう言って、ウルカは自ら冷蔵庫のケチャップを出してくれる。

 その様子を見ていたムラサキは、ふとぴーんと思いついた。常連客なのだし、何より気の知れたパートナーなのだから、これくらいは許されるだろう。ヨハネの反応を想像しながら小さく笑うと、不思議そうにウルカが振り返った。その手元に、ムラサキは片手を差し出す。

 

「ウルカちゃん。そのケチャップ、少し貸してくれる?」

 

*****

 

「おまたせしましたぁ〜、特製オムライス一つ!」

 

 聞き慣れたナラハシくんの声に、ボクは雑誌から顔を上げた。

 さっきウルカがカトラリー類と一緒にスープとサラダを置いていってくれたから、待っていたのはメインのこれだけだ。

 スプーンを手に、湯気を立てて置かれたそれを何気なく見て……ボクは一瞬で固まった。

 

(な……ッ!?!!!?!?!?!?)

 

 傍に立ったナラハシくんが、空の皿を下げながらにやにやしているのがわかる。

 だって。

 これは……

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

「あ〜〜〜〜!?!? おいおいおい! 自分、折角のムラサキちゃんの愛の結晶に何すんねん!?!?」

「うるさいッッ! 何書いてあろうと腹に入れば一緒だろ!?!?」

 

 思わず客に振り返られるほどの大声を上げてしまった。

 たまらず卵の表面にあったケチャップをスプーンでぐちゃぐちゃに塗り広げたボクは、そのままばくりと乱暴に掬い取った一口を口へ放り込む。

 

「あっっっッッつ!」

「アホちゃうか……」

「いくらナラハシくんでもそれは言われたくないよ……」

 

 火傷をした口で涙目になるボクの横で、ナラハシくんはしゃあしゃあとお冷のおかわりを注いでいた。

 主犯がいるであろう厨房の入り口を睨むと、案の定暖簾の隙間からボクの反応を見たらしいムラサキが、小さく舌を出しつつも嬉しそうに、エプロンのリボンをふりふり、奥へと戻っていく。

 ボクは深々とため息を吐いた。

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜……。こんな事してる暇があるなら、真面目に仕事してよね」

「盛り付けかて立派な仕事やろ?」

「だからって……こんなん人によって差を付けてたら、他の客にも贔屓だ何だって言われるし、よくないと思うけど」

「あんまりグチグチ言わんと、素直に受け取っといたらどーや。今日は二人、一日別の場所で仕事で話せんのやろ? ちょっとくらいムラサキちゃんが気持ち通じ合いたいなぁ思てたかて、しゃーないやんか」

 

 そんなこと、言われなくたって分かっている。

 分かってるけど、その言い方はどうなんだって感じだし……別に今は業務外だから、ムラサキに何をされようと言われようと問題はないけれど、それ以上に何か、勘違いをしてしまいそうで。

 ボクは下の上のオムライスを味わいながら、運ばれてきたばかりの卵の表面を思い出す。

 帽子のようにご飯の上に被さった、黄色い卵の上。

 ケチャップで、大きな大きなハートマークが書いてあった。

 じっくり見ずにすぐに崩してしまったのは、今思えばほんの少し勿体無かったような気もするけど、そんなこと言ったって、恥ずかしいものは恥ずかしいし。ホントに、一体なんてことしてくれてんだ。

 軽い気持ちでオムライスなんか注文するんじゃなかった。

 

 恨みがましい思いでオムライスを口に運んだけど、悔しいぐらいに美味しかった。

 卵から漂うほんのりしたバターの香りが風味を引き立ててるし、炒められたケチャップライスは、玉ねぎからもピーマンからもほんのり甘い味がする。ボクは料理は詳しくないけど、程よい濃さで味がついたケチャップライスは食べやすく、それでいてどこか懐かしい味がした。

 ボクが食べたことある味、というよりは、素朴で親しみを感じる味、と言えばいいだろうか。なんだか胸がほっとする。

 

「こってりしてなくて、どんどんスプーンが進む……なんでだろう」

「醤油と味醂が隠し味なんやって、ムラサキちゃん言うとったで? 洋風の味にほんのちょっと足すと、ぐっと食べやすくなるそうや」

「へえ……色々考えられてんだね」

「ムラサキちゃん自身も少食やからなぁ」

「ていうか、ナラハシくんも何気にどんどん料理詳しくなってるよね」

「そりゃあ、僕はムラサキちゃんへの取次係第一人者やからな! ムラサキちゃんが気ぃ付けとる事は知っとって当然や!」

 

 誇らしそうに、胸を張るナラハシくん。

 SOAT外にいてボクの目が届かない時でも、彼女のことをきちんと見ていてくれているようで何よりだ。

 ……うん。これは監視目的だからね。別に、ナラハシくん経由でムラサキの事が色々知れるのがラッキーだと思ったり、それ聞いてナラハシくん相手にモヤついてたりはしないから。

 とりあえず今は残りのオムライスの味に集中しようと、ボクは手に持ったスプーンを握り直した。

 

 それから、半分近くオムライスを食べ終わった頃。

 ホールに出てきたムラサキが、馴染みの客と談笑しながら、空の皿を下げていく様子が目に入った。

 腕の筋力がないので力仕事は戦力外だと自分で言っていたが、ピークを過ぎた時間帯だったからか、ムラサキが少しずつゆっくり皿を運んでいても客が憤ることもなく、時々引き止められては、投げ掛けられる冗談に笑いを返したりしている。

 和装用のエプロンを纏った袴姿が、大正浪漫風の飴色の店内によく似合っていた。

 ケチャップの仕打ちを思い返してボクがじとっと見つめていると、お盆から顔を上げたムラサキと、ぱちっと目が合った。滑るように床を歩いてきたムラサキは、何食わぬ顔でボクの空のサラダボウルに手を掛ける。

 

「こちらのお皿、お下げしますね」

 

 澄ましたように言ったムラサキは、ふと何かに気が付いたような顔になると、唇に微笑みを浮かべて、今下げかけた皿の下あたりを、とんとんと指先で叩いて示した。

 

「……?」

 

 思わずボクは、自分のオムライスが乗っていた皿の下を覗いた。

 何か、メモ帳のようなものが挟まっている。さっきまでは気が付かなかったけど、ナラハシくんが運んできた時に置いていってくれたのだろうか。

 メモを手に両手で開くと、中にはたったの二行だが、手書きで文字があった。

 

『お疲れ様。お仕事、頑張ってね♡♡』

「ッ……!?」

 

 ぶわっと瞬時に血が上った頭を上げると、ムラサキはとっくに食器を下げて踵を返した後だった。向こうの方でも客に呼ばれているらしく、ウルカとコーヒーの注文を受けている。

 まったく、たったこれだけの言葉、ここに来て言うより書く方がよっぽど手間だろうに。わざわざこんな目に見える形で残すなんて。

 だからって、別に普段言われた時と特段変わりがあるとか、そんなわけないんだからね。なんかちょっと嬉しいかも……とか、ハートマークが2個もついてるとか、そんな事にいちいち舞い上がってるとか、言い返せないのが悔しいとかじれったいとか、そんな事はボクという人間に限って絶対……

 

(……ああッ、もうッ!!!)

 

 なんで昼休憩に来ただけなのに、こんな情緒ぐちゃぐちゃにされないといけないんだよ!

 頭を掻き毟りたいのを堪え、彼女がこっそり仕込んだメッセージを、ボクは結局捨てられないまま折り畳んで手帳に挟む。

 今でこそタイピングでの文字入力や電子ペンが当たり前になってしまった、セブンスコードの中での、紙とペンで書かれた文字。捨てられなかったのは、その珍しさだけが理由じゃない。手帳をしまった胸が、ほんのり温かい気がする。

 もう一度、ムラサキがこっちを通るまで待っている時間はなさそうだ。

 ボクは、隊服のポケットに挿しっぱなしだったボールペンに手を伸ばした。

 

*****

 

(……お。帰ったか)

 

 会計の仕事も済ませて、次にムラサキがヨハネのいたテーブルを回った時には、そこは空席になっていた。

 いつもはムラサキの上がる時間帯に訪ねて来て、ウルカやソウル達ともだべった後で一緒に帰ってくれることが多いので、ヨハネが去った後の席を目にすると若干の寂しさを覚えるものの、自分相手に長時間しゃべっているところを印象づけて、SOATの隊長が油を売っていると客に思われるのもよろしくない。

 

(まあ、勤務中なんだから仕方ないし、ヨハネさんも頑張ってるんだもんね。

甘えたこと言ってないで、私ももうひとがんばりっと)

 

 しゅんとしかけた気持ちを振り払って、ムラサキはテーブルを布巾で拭いていく。

 

「……あれ?」

 

 皿をお盆に乗せようと持ち上げかけた時、ふとその横にわざとらしく紙ナプキンが置いてあることに気が付いた。使用済みではないらしい。

 不思議に思い、一度手にしたお盆をテーブルに置いてから、どきどきしつつナプキンをそっと広げると、中には綺麗な筆跡でヨハネの字があった。

 

『ごちそうさま。美味しかった』

「……!」

 

 たったその二言なのに、思わずぱあっとムラサキの顔は輝いてしまう。瞳が潤んでいるようにさえ見える。

 オムライスを見た直後は照れ隠しで即ケチャップを消してしまうほどだったが、それでもムラサキの気持ちを考えて、不器用なりに礼を伝えてくれるヨハネの優しさが、嬉しかったのだ。

 大それた言葉ではないし、ものすごい特別感があるわけでもない。それでもヨハネは、たとえ平凡なありふれた言葉だとしても、ムラサキがその時一番欲しがっている一言を、決して怠けずに伝えてくれる。端的でそっけない一言が、ムラサキにとっては何よりのご褒美なのだった。

 目を細めてから、そのナプキンを幸せそうに一度エプロンの胸に抱き締め、大事に畳んでポケットにしまうと、ムラサキは片付け終わった食器を手にご機嫌で踵を返す。

 その様子と笑顔を、クロカゲに残っていた客達は見届けていた。

 

「あ〜んなに分かりやすいのに、付き合ってないのかねぇ……」

「いや、もう付き合う付き合わないとかの次元じゃないのかもしれねえぜ」

「まぁ、いずれにせよSOATの隊長さんは随分奥手みたいだからなぁ」

「甘酸っぺえ……あ〜あ、俺もあんな彼女が欲しい……」

「ムラサキちゃんはやめとけ、隊長さんにどやしつけられても知らねえぞ」

 

 何度目になるか分からない嘆息を、客達は漏らす。

 スタッフも含め、この喫茶店で見守る面々が陰ながら一致団結していることを、ムラサキとヨハネは知る由もないのだった。

 

 次回に店を訪れた際、今度こそはとハートマークのオムライスを写真に収めたヨハネが、それをうっかりリアとミライに見せた結果、この二人にオムライスの作り方を教えて欲しいと詰め寄られてムラサキが目を白黒させたのは、もう少し先の話である。


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