SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】短編集   作:大野 紫咲

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「嘘は言ってない」の後日談的な位置づけの話。(内容は繋がってないので単体でも読めます)
夢主がヨハネさんの嫌いな唐揚げを間違えて作ってしまい、それを目にしたヨハネさんと夢主の反応がほっこりする話です。
……ほっこりかな?ほっこりでいいんだよね?←

距離感的には、両片思いの二人です。


嘘がつけない

 その日の夜、ヨハネはムラサキの家で夕飯を共にする約束をしていた。

 時空を渡ってログインしてきたという特異性ゆえに、SOATとしては警護と監視の対象である彼女も、プライベートで会う分にはただの友人だ。

 たまに、こうして互いの家で食事をしたり映画を見たり、時間のある時には泊まったりする程度には仲がいい。

 

 

(……いや。それって、友人の範囲内なのかな?)

 

 

 友人、と言い切るにはいささか微妙な気持ちが自分の中に含まれているような気もするが、それは一旦無視して、ヨハネは通いなれた玄関の呼び鈴を押した。

 

 

「いらっしゃ~い! 待ってたよ!」

 

 

 ひょい、と顔を出した彼女は、見慣れた着物と袴にエプロンを纏っていた。

 和服が普段着の彼女のことなので、今更驚きはしないが、その上に羽織ったワンピースのような袖のないエプロン姿は見慣れないものだったので、何となくそれを物珍しく思いつつも、いつも通り居間に通され。

 こぢんまりしたリビングのローテーブルに、彼女がところ狭しと用意してくれた皿と料理を囲んで、とりとめもない話をしながら食事の時間……になるはずだった。

 問題は、皿の上に盛られていたメニューにあったのだ。

 

 

「へぇ、今日のも美味しそうじゃん」

「春だから、旬の野菜を用意してシチューにしてみました~。新じゃがと新玉ねぎと新にんじんが出回る季節だからね! まぁ、こっちの世界は季節関係ないから、データで売ってるとこ探すの大変だったけど!」

「こっちの奴はサラダ?」

「そっちは新大根のサラダに、ヨハネの好きな青じそのドレッシング」

「相変わらず統一性のない食卓……まぁ、美味しいからいいんだけどね」

「わお。ヨハネに美味しいとか言われると照れちゃう。食べてみないと味わかんないよ?」

 

 

 基本的に無臭で無風のセブンスコードだが、部屋の中に並んだムラサキの料理や台所からは、お腹の鳴りそうな匂いがちゃんと漂ってくる。

 すん、と一度鼻を鳴らしたヨハネは、綻んだ表情のまま言った。

 

 

「そういえば、今日揚げ物の匂いする?」

「あ、うん! そーなんだ! メインディッシュはこっち!」

 

 

 じゃーん! と台所からその物体が山盛りにされた皿を、両手に抱えてにこにこ顔で戻って来たムラサキを前に、固まるヨハネ。

 

 

「……」

「うん? あれ? ひょっとして何か嫌いなものあった?」

「いや……その……」

 

 

 ヨハネには、それを苦労して作ったことは分かっていた。けれど、自分の苦手なものがまんま出て来た予想外の衝撃に、ついついその顔に狼狽が出てしまう。

 ころころとした、パリパリの皮が香ばしい、今揚がったばかりの物体――鶏の唐揚げに視線を落とし、ムラサキは言った。

 

 

「あ……えーと、もしかして」

「違っ……! 違うッ! 違っ、わないけど、えっと……!」

「大丈夫大丈夫! 唐揚げ苦手なんだよね? ごめんっ、私の確認不足で!」

 

 

 とんっ、と机に皿を置いてから、ムラサキはすぐさまエプロンを外すと、壁のラックからポシェットを引っ張り落した。

 

 

「あ、ちょっと、」

「でも、さすがに今からメイン作り直すと時間掛かっちゃうから、おかずになりそうなものぱっと買って来るね! ごめんね、お腹空いてるのに待たせちゃって。ちょっとだけ待ってて!」

 

 

 有無を言わさず、口を開けて手を差し伸べたままのヨハネを置いて、ばたん、とアパートの扉が閉まった。

 

 

 

 

(うおおお……よりにもよって一番時間と手間の掛かるメインディッシュが……全滅……!)

 

 

 行きつけの店に向かい、超特急でテイクアウトのおかずを用意してもらったムラサキは、料理が出て来るまでの間、無人の店でひっそりとうなだれた。

 こういう時に、待たされたり行列になったりすることも、品切れになることも滅多になく、望んだ品がすぐ飲食店で出て来るのは、バーチャルの世界ならではの利点だ。

 しかし。

 

 

(どうしようアレ……。さすがに持っ……ては帰れないんだよなぁ〜。バーチャルの物をリアルの食卓で並べるわけにいかないし。

ああ、でもちょっと勿体ない……勿体ないけど、ヨハネは何も悪くない! むしろ早めにわかってよかった!)

 

 

 袋を手に提げ、頑張ってポジティブシンキングに切り替えながら、アパートへの道を走る。

 懐中時計を見れば、家を出てきてから十五分くらいが経っていた。

 

 

(うう、お腹空いた……料理冷めちゃったかなぁ。先にある物で食べといてって言っとけばよかったかも。本当に私って気が利かないし、推しの好みも把握してないとか、それでいて結構苦労して作った料理を食べて貰えないとか……いやいや、私が落ち込んでどーすんの)

 

 

 階段の前で、一度ぱんぱんと頬を手で叩く。

 

 

(ヨハネさんは優しいんだから、私がこれ以上あの子に気を遣わせちゃダメ。若者は若者らしく、好き嫌いでも何でもすればいいの。っていうか、嫌いがまんま顔に出るって可愛いじゃん。申し訳なかったけどさ)

 

 

 袴の裾を踏まない程度に急いで廊下を走り、慌ただしく扉を開けて、声を上げる。

 

 

「ただいまー!」

「……おかえり。っていうか、行くならボクも行ったんだけど……止める間もなく飛び出して行くんだから」

 

 

 出て行った時と同じ位置で、呆れながらヨハネが座っている。いつの間にか切れていた息を整えながら、袋を食卓に置き――ムラサキは、ずいいっと唐揚げの山を凝視した。

 

 

「んん? んんんんっ??? なんかちょっと小さくなってない? 山!」

 

 

 ばっ、と振り返ったムラサキから、同時に目を逸らしたヨハネの口元が、リップではない何かでてかっていた。思わず詰め寄るムラサキ。気圧され気味に、カーペットで正座をしたまま後ずさるヨハネ。

 

 

「は!? ちょっと! 食べたの!?」

「少しだけ……」

「なんで無理して食べるの!? 苦手なんでしょ!? てかあなたこの間私が苦手な桜餅を食べた時に止めましたよね!?」

「あれは買ったヤツだけど、こっちはあんたが作ったヤツだろ! 手間暇掛けて作ったもんを、ボクが無駄にしたい訳ないじゃんか!」

 

 

 先ほどまでは気まずそうだったが、今度は開き直って怒り始めるヨハネを見て、引き換えにムラサキが呆れた表情になる。

 

 

「あのねぇ。気にしなくていいって……」

「気にしない訳ないでしょ……。ごめん。ボクのため、って言って作って待ってたのに。……サキは、大人だから。ボクがもうちょっと大人だったら、多分、あんたに何にも悟らせずに、何食わぬ顔して食べれたんだ。きっとあんたをこんな目に遭わせることなんか、なかったのにさ」

「あなたはこれ以上大人にならなくていいよ……。それより、味はどうだったの?」

 

 

 しゅんとしたその頭を撫で、おそるおそる尋ねるムラサキに、やや複雑そうな顔を作るヨハネ。

 

 

「思ってたより、悪くはなかった」

「そう。でも、山が見てわかるほど減るって、結構食べたんだね」

「うん……」

「で、本当は?」

「……ごめん。ちょっと今結構吐きそう」

「ほらあぁぁ! なんで私のこと気にしてそんな無理して食べるの! それ、見てる側からしたら食べてもらえないより逆効果だからね!?」

 

 

 半ギレになりながら、ちょっと横になってなさいとムラサキがヨハネをベッドに押しやる。

 着ていたシャツを緩めて褐色の肌を晒しながら、弱弱しく前髪の下で瞳を開けたヨハネは、必死で訴えた。

 

 

「でも、ホントに今まで食べた唐揚げの中では、結構イケてる方だったんだ。あんまり脂っこくないし、味も濃くなくて、びっくりするぐらい美味しかったのは本当だよ……? ただ、まだあんまり鶏と油の臭いが……うう」

「分かった分かった、無理して食べないで」

「無理じゃない。あんたのなら、多分食べれる。もう少し、油切れさえよければ……」

「ごめんって。まさか嫌いだと思わなかったから、唐揚げ好きな人ならこれでもいけるだろ、ぐらいの適当さで作っちゃったんだよ」

「適当ったって……揚げ物って結構作るの大変なんでしょ……」

「食べたあなたの体調不良ほど大変なもんじゃないよ!!!」

 

 

 強情にも無理はしてないと言い張るヨハネに、水と胃薬を渡すムラサキ。単なる食べ過ぎだったようで、ほどなく具合と食欲は回復したらしい。

 ベッドから食卓に戻ってもなお唐揚げの皿に箸を伸ばそうとするヨハネの手を、ムラサキが軽くぱしんと叩く。

 

 

「こら。さっき酷い目に遭ったんでしょうが。まだ懲りないか」

「だから、大丈夫だってば」

「深窓の令嬢みたいな顔色しといてどの口が言うのよ」

「でもこれ、食べないと……処分するしかなくなるだろ? こんなにあるのに」

「いや、ヨハネはそれ以上無理して食べたら、具合悪くなっちゃうよ?」

「別に、ここはバーチャルなんだから関係ないよ。食べられる量に際限はないし、苦手意識で一時的に感覚が狂うぐらい、どうとでもなる」

「いやいや、私じゃねぇんだからやめなさいって! でも確かに、どうしようか。リアルに持ち帰るわけにもいかないし、好きそうな人に配っとく? ミカちゃんとかソウルくんとか」

「それは……なんか、ヤダ」

 

 

 ヨハネが食べなくても無駄が出ないようにと提案するムラサキだが、渋い顔でヨハネは首を振る。顎に手を当てたまま、ムラサキはリボンの頭を上げた。

 

 

「んー、じゃあWeiβちゃん達の差し入れにしてもらう? オージさんに頼んだら、持ってってもらえるでしょ。あの子達アイドルだから、夜のお稽古これからじゃない?」

「……それも、ちょっと」

「あ……そっか、ごめんね。ヨハネさん元プロデューサーだし、私が作ったって知られるの恥ずかしいもんね。ごめん、そこまで至らなくて」

「そーじゃなくてッ! ……そういう、ことじゃなくて」

 

 

 うん? と首を傾げるムラサキの首元に、ハーフアップから零れた髪が落ちる。

 

 

「じゃあ、どうする? 他に誰かあげたい人いる?」

「そーじゃなくて、……人にあげるのがイヤだって言ってんだけど」

「えっ……あのまさか、あまりに不味かったから、目の前でゴミ箱に捨てるまで見届けないと気が済まないと……? それはなかなかに残酷」

「そうじゃないんだってばッ! ……言わないとわかんない?」

 

 

 半ば本気で激昂したヨハネは、今度は拗ねるような表情になって、むっつりとそっぽを向く。

 頭に疑問符をいっぱい飛ばしたムラサキが、狼狽え気味に首を傾げるのを見たヨハネは、盛大に溜息を吐いた。

 仕方ないなというように、ぼそっと小声で言葉を紡ぎ出す。

 

 

「……たとえ苦手でも、あんたが作ったもの、他の奴に食べさせたくない」

「……」

 

 

 微かに目を見開いたムラサキは、あっけに取られた表情だったが、やがて柔らかく微笑んだ。

 テーブルを挟んで向かい側に座るヨハネの傍にやって来ると、こちらを見ようとしない色黒の顔を、ゆっくりと覗き込む。

 

 

「わかった。……じゃあ、『今回は』他の人に分けよ?

その代わり、近いうちに必ず、今度はもっと美味しくなる方法調べて、ヨハネでも食べやすい唐揚げ、作れるように練習するから。そしたら、一緒に食べよ。ね」

 

 

 子供のような扱いに、尚もむっとした様子を見せているヨハネだったが、ムラサキが作った他の料理のこともあって、今回は妥協案として溜飲を下げることにした。

 

 

「……約束、だからね」

「うん、約束約束」

「絶対に、約束だからねッ! ボクが食べれるようになるまで、あんたにはずっと唐揚げ作ってもらうからッ!」

 

 

 気を取り直して、向かいでビシッと箸を突き付けるヨハネを、ムラサキはぽかんと見つめていたが。

 やがて、可笑しそうに肩を震わせて笑い出した。

 

 

「……ふふっ」

「……何がそんなに可笑しいんだよ」

「いや、なんかね、ヨハネが食べれるほど美味しくなるまで唐揚げ作ってくれ、なんて言われると……なんかプロポーズみたいだなぁって」

「なッ……!」

 

 

 泡を食ったように慌てるヨハネの前で、ムラサキは掌ごと箸を振ってから、菜の花のおひたしをつまみ上げる。

 

 

「だいじょーぶよ、私がそう思いたかっただけで、勘違いなんかしてないから。安心して」

「いや、だからそれはっ、その……多分、勘違いじゃな……っ、ああ、くそッ!」

 

 

 唐揚げの件が解決しても、尚悔しげに小声で何やら呟いているヨハネを見て、ムラサキは向かい側できょとんと瞬きしたのだった。

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