Fate/Grand Order operation Ark 作:山川山
あーでもないこーでもないと考えていたら、めちゃくちゃ長くなって遅れました。
フランスの兵隊との戦闘を峰打ちで済ませて、その後をつけて見つけた砦にて、私達は兵士からあのジャンヌ・ダルクが魔女として復活したことを聞いた。そして襲って来たワイバーンとの戦闘でルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクと出会い、今はこの森で腰を落ち着けている。
「簡単なものだが夕食だ。明日の為の英気を養ってくれ」
「いただきます」
エミヤが野草の煮込みを作ってくれた。疲れた体にその暖かさが染み渡る。
「あれ?小次郎は?」
「見回りに行っている。だが、やや遅れているようだ。そろそろ戻って来てもいい頃合いだが…」
「ただいま戻った。来客があって遅れたが、まだ飯は残っているか?」
小次郎が戻って来た。来客ってまさか…
「来客…襲撃があったのですか!?」
「そう焦るな、聖女よ。同じ空を飛ぶものであろうと、当たる的の大きい相手に遅れは取らぬ」
やっぱり敵襲があったようだ。しかも、ワイバーンの襲撃だったみたいだけど、そのワイバーンを的の大きい相手と言い切れるなんて、小次郎が切った燕って本当にただの燕なのかな?
「とりあえず、エミヤさんに作っていただいた料理を食べましょう。話はその後です」
マシュの一言でみんなもくもくと料理を食べる。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末さま。食器はまとめておいてくれ」
お腹が満たされたことで、気分にも余裕ができた気がする。そこからは、ジャンヌとの情報交換が始まった。まず私達の自己紹介と事情の説明、次にジャンヌからは、ジャンヌ自身が弱体化してること、ジャンヌが復活したジャンヌ・ダルクとは別人なこと、そして、その戦力についての情報が問題だった。
「黒い…鎧の者…」
「はい、オルレアン占拠の後から目撃され始めました。もう一人の私が連れている特に強力な戦力らしく、遠目に見た人の証言によると黒い玉を作りだし村を消し飛ばしたと聞きました」
多分、アークだ。アークからアークの宝具は、そういう使い方もできるって聞いたことがある。でも、本当に?あの、アークが…
「大丈夫です、先輩。アークさんはそんな事はしません。特徴が似ているだけの別人です」
『マシュの言う通りだ。僕がアークに協力をお願いした時だって自分はそのために召喚に応えたって言ってたし』
私もそう思いたい。あのアークが敵にだなんて…。あれ?すごい似合ってない?
「希望を持つのは結構だが、最悪を想定するのが戦場だ。もし、あちら側にアークがいる場合、現状の戦力での太刀打ちは不可能だぞ?」
エミヤの言うことも一理ある。アークは強い。例え、変身しなくても予測能力を使って、サーヴァントの2、3人を相手取る事が可能だろう。もし、ジャンヌの話通りなら変身しているはずだし、脅威はさらに跳ね上がる。
「私とマシュさんの宝具で攻撃を防いで、その隙にというのはどうでしょうか」
「無理であろうなあ。あれの宝具は敵の防御を無効化するに飽き足らず、その防御を己が力に変えてしまう。守ろうとすればするほど、丸裸になっていると同義よ」
ジャンヌの提案を小次郎が即座に否定する。うわー…、本当にどうしよう。
「………最悪、私の宝具を使ってアークを足止めする。その間に撤退して、霊脈を確保。アークに太刀打ちできるサーヴァントをカルデアから呼ぶというのが現状考えられる最善の策だろう」
エミヤが自分を犠牲にした作戦を提示する。
「でも、それじゃあエミヤが…」
『もしもーし。こちらダ・ヴィンチちゃんだ。聞こえてる?補足させて貰うと、カルデアで召喚されたサーヴァントの霊基は登録されている。例え、消滅したとしても記憶を所持した状態で再召喚が可能だ。それじゃ、私はまだ作業があるからこれで』
ダ・ヴィンチちゃんから通信が入る。例え、そうだとしても自爆、特攻に類する作戦は最終手段だ。
「とりあえず、アークがいたら話を聞いてみよう。みんなもそれでいいよね?」
「はい。異論はありません、先輩」
『僕も賛成だ』
マシュとドクターが私の言葉に答えてくれて、他の面々も頷きを返してくれた。
「あっ、そうです。言い忘れてました。さっきの黒い鎧の者と同一人物かはわからないのですが、もう一つ情報があります」
全員がジャンヌに顔を向ける。もう一つの情報?
「子供の言っていた事ですし、その後、嘘だとも言っていたんですがその子はこう言ってました」
ジャンヌが告げる。
「黒い騎士に助けられたと」
「立香さんは、眠りましたか?」
眠りについた先輩の警護をしていた時、ジャンヌさんが話しかけてきた。
「慣れない野宿でしょうに意外とあっさり」
「…他の方々は?」
「少し離れた場所の見回りに」
「そうですか…」
ジャンヌさんは何かソワソワしているようですが、もしや…。
「………もしかすると、ですが。まだ何かわたし達に言っていないことがあるのでは?」
「……」
やはり…、何か悩み事だろうか?
「詮索するつもりはありませんが……。戦いの障害になるのであれば、払拭しておいた方がいいかと思いまして」
「そう、ですね。わかりました。告白します」
ジャンヌさんが話し出す、わたしで力になれることならいいのですが。
「先程、私が弱体化している事は言いましたよね?それには続きがあるんです。実は──」
ジャンヌさんが語った内容は、まるで自分サーヴァントの新人になったような感じであり、わたしたちの足手まといになってしまうのではないかというものだった。
「ジャンヌさん、それならそれなら大丈夫です」
「え……?」
そういうとジャンヌさんはおどろいた表情をする。
「だってわたしも、初陣みたいなものですから。わたしもジャンヌさんと同じです。デミ・サーヴァントですので英霊の力をフルに発揮できているわけではありません。それでも、わたしの中の英霊は「それでいい」と言ってくれた。先輩──マスターもわたしを信頼してくれてますし、アークさんはいつか成れると言ってくれました」
「アークさん…というのは先程の?」
「はい。そして、そんなアークさんがジャンヌさんの聞いた話のような事をするとは思えないのです。アークさんも、先輩も心や力が強いから戦っているというわけではなく、自分にできることを当たり前にこなそうとしているだけだと思いますから」
あっ、まずい。話が逸れてしまった。
「え、えーと…つまりわたしが言いたいのは、そんなに気にしなくても大丈夫ということです。全く根拠はないのですが…」
「…ありがとうございます。少し気が軽くなりました。アークさんの事もきっと大丈夫でしょう。この時代や土地については私に任せてください。明日からも頑張りましょう!」
「…はい!」
ジャンヌさんを励ますつもりが最後の最後で逆に励まされてしまった。でも、ジャンヌさんの目にも自信が戻って来たような気がする。ジャンヌさんの言う通り明日からも頑張ろう。
───翌日の朝
「それでは、出発しましょう。ついてきてください」
慣れない野宿だったが、思ったよりもグッスリ眠れた。これからはこういうことも増えるだろうし今のうちに慣れておかないと。朝食を昨日の煮込みの残りと携帯食で済ませて、今はジャンヌの案内でオルレアンへ向かっている。途中でラ・シャリテという街に寄って情報収集をするらしい。
「先輩、お体の方は大丈夫ですか?」
「うん。疲れもしっかりなくなってるよ」
マシュが私のことを心配してくれるけど、本当に疲れはない。アークも早く見つけたいしね。そして、しばらく進むと、ジャンヌが声を発した。
「もうすぐラ・シャリテです。なるべくここでオルレアンの情報が手に入るといいのですが…」
ジャンヌがラ・シャリテが近いことを教えてくれる。よし、がんばって情報収集しよう!
『ん?ちょっと待ってくれ。君達の行く先にサーヴァントの反応が探知された。場所は目的地のラ・シャリテだ。先に言うとアークじゃない』
一瞬、アークかと思ったけど違うらしい。キャスターだった時のランサーと同じはぐれサーヴァントかな?それとも、もう一人のジャンヌ達?
『あれ?でも、遠ざかっていくぞ?……ああ、ダメだロストした!速すぎる!』
「フォウ!フォーウ!」
「なんですかフォウさん、急に頭に乗って。向こうの空を見るんだ、ですか?街が…燃えてる!?」
「急ぎましょう!」
私にも見えた。礼装の自己強化機能を使ってみんなのスピードについていく。
「これは…」
ひどい。街が完全に壊れている。
「ドクター、生体反応を──」
『ダメだ。その街に命と呼べるものは…待って!巨大な魔力反応がある!ワイバーンだ!』
「「「「Gyaaaaa!!!」」」」
砦の時とは桁違いの量のワイバーンが現れる。ただ、違うのはそれだけじゃない。何というか…必死?
「す、すごい気迫です。どうやら空腹のようですが…」
「必死過ぎて、こちらに攻撃することにしか頭にないようだな。量が量だけに昨晩より骨がおれるやもと思ったが、これはどうなのやら…」
「ですが、それは逆に一撃でも受ければ余程の防御がない限り危険ということです。気を引き締めてください!立香さん、指示を!」
「わかった!エミヤ、弓でワイバーンの数を減らして!ワイバーンがある程度近づいたら全員で叩くよ!」
私の指示でみんなが動き出す。エミヤが弓と複数の矢を投影してワイバーンに放ち、着弾と同時に爆発させる。突然の爆発に取り乱しながらワイバーンが爆煙の中から出てくるがその数はさっきより少ない。比較的低空に出てきたやつをマシュ、ジャンヌ、小次郎が仕留めて、上空のやつはエミヤがさらに矢を射る。
「「Gyaaaa!」」
他のとは体色の違う、ワイバーンの上位種が2匹抜け出そうとしてくるが…
「
ニ閃。光の線が2回走ったかと思うとワイバーンの首が落ちた。
「やはり、他愛もなかったな」
「ふぅ……なんとかなりましたか」
「ワイバーンの他に敵はいないようです」
「状況終了だ。無事か?マスター」
「うん、大丈夫。お疲れ様、みんな」
結構あっさり終わって、みんな無傷だ。よかった…
『お疲れ様。それにしても、住民はどこへ行ったんだろう。さっきのワイバーンの様子ともそうだし、血痕がないってことは襲撃の前にはもう居なかったようだけど…』
ドクターの言う通りだ。犠牲者が出てないのはいいけど、襲撃をどうやって知ったんだろう?
『!?み、みんな気をつけて!さっきのサーヴァントの反応が反転して来た!まずいぞ…、みんなの存在を察知したらしい!』
「数は!?」
マシュがドクターに問う。
『おい、冗談だろ……!?数は五騎!速度が早い…ライダーか何かか!?と、ともかく逃げろ!サーヴァントの数は近いけどワイバーンの反応もある、ここは逃げるべきだ!三十六計さんもそう言ってる!』
「逃げない!」
「逃げません!」
ジャンヌと声が重なって、思わず顔を見合わせてしまったが今はそんなことどうでもいい。
「逃げられないよ、ドクター。アークの情報が手に入るチャンスかもしれないのに!」
「私も、真意を問いたださなければなりません」
『ええ!?本気かい!?ってそうこう言ってる間にもう間に合わなくなってる!仕方がない、やる事が終わったらすぐ逃げるんだよ!わかったね!』
一瞬、日の光が陰ったと思うと十数体のワイバーンが上空に現れていた。逆光でよく見えないが、そのうちの五体の上には誰かが乗っていて、こちらを見下ろしている。その5人の人物が地上に降りてくると、その姿が明らかになる。その中で最も目を引くのは…
「……っ!」
「なんて、こと。まさか、こんな事が起こるなんて」
今、私の隣にいるジャンヌにそっくりな人物がそこには立っていた。
「ねえ。お願い、だれか私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの。本気でおかしくなりそうなの。だってそれくらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!ほら、見てよジル!あの哀れな小娘を!なに、あれ羽虫?ネズミ?ミミズ?どうあれ同じことね!ちっぽけ過ぎて同情すら浮かばない!ああ、本当──こんな
ライダー?今、ライダーって言った?
「貴方は…貴方は、誰ですか!?」
「愚問ですね。見ればわかるでしょう?私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ。もう一人の"私"」
「いいえ、違います。貴方は聖女などではない。私がそうでないように。それよりも、何故この街を襲ったのですか?」
「…何故かって?そんなもの、明白じゃないですか。単にこのフランスを滅ぼす為です。政治的に、経済的になんて面倒くさいし、物理的に潰す方が確実で簡潔でしょう?」
「バカなことを…!」
「バカなこと?愚かなのは私達でしょう、ジャンヌ・ダルク。何故、こんな国を救おうと思ったのです?何故、こんな愚者達を救おうと思ったのです?裏切り、唾を吐いた人間と知りながら!」
「それは…」
「私はもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、主の声も聞こえない。主の声が聞こえない、という事は、主はこの国に愛想を尽かしたということです。だから、滅ぼします。主の嘆きを私が代行します。全ての悪しき種を根元から刈り取ります。人類種が存在するかぎり、この憎悪は収まらない。このフランスを沈黙する死者の国に作り変える。それが、私。それが死を迎えて成長し、新しい私になったジャンヌ・ダルクの救国方h「わあああああああああ!」っ!何なんですか一体!?」
「立香さん!?一体どうしたのですか!?」
ジャンヌには悪いけど話が長過ぎる!このままだと私が話すタイミングを逃してしまう。私だって聞きたいことがあるのだ。
「そこの黒ジャンヌ!単刀直入に聞くけど、アークはどこ!?」
「い、いきなり黒ジャンヌとは失礼ですね!貴方から燃やして…今、アークと言いましたか?」
「そう!あなたが似た人を連れてるって聞いたんだから!」
一瞬、驚いた顔をした黒ジャンヌだったけど、すぐに悪い笑みを浮かべる。
「そう…ライダーを鑑定した時に見えたもう一つのパスは貴女のものだったのですね。でも、残念。貴女のサーヴァントは私に下りました。無様ですね!見たところ貴女は魔術師として三流とも呼べない半人前以下。そんなマスターよりも、聖杯を持つ私を選ぶのは当然のこと。彼は良く私に尽くしてくれていますよ?なにせ、ここに来るまでの村や街は全て彼が潰したのですから!」
黒ジャンヌの言葉は何よりも衝撃だった。嘘…、じゃあ、ジャンヌが聞いた情報は真実?
「ああ、今思い出してもいい気分です。彼の宝具で一瞬にして村や街が崩れ落ちる様子を見ると、それはそれは爽快な気分でした。そういえば、そのおかげでオルレアン以来、彼以外の出番がありませんでしたね。バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン出番です。念の為、ワイバーンをつけますが、そんなへっぽこマスターとそのサーヴァント程度、貴方達2人で充分でしょう」
黒ジャンヌがそう言うと、その後ろにひかえていた4人の人物の内2人が前に出てくる。
「久方の出番だ。私は血を戴くとしよう」
「いけませんわ王様。そちらの男共はどうでもいいですけど、彼女達の血や肉、
「強欲だな。では男共は私がもらうとして、魂はどうする?」
「魂なんて何の益にもなりません。名誉や誇りでこの美貌が保てると思っていて?」
「よろしい。では魂は私が戴こう!皮肉なものだ。血を啜る悪魔に成り果てた今になって、彼女の美しさが理解できるようになったとは」
「ええ、だからこそ感動を抑えられない。私より美しいものは許さない。いいえ、それよりも私より美しいものの血は、どれほど私を美しくしてくれるのかしら?」
目の前の男女、サーヴァント達が聞いているだけで気分の悪くなる会話を繰り広げている。
「さて、マスターよ。あちらで勝手に相手を決められてしまったがどうする?」
「いや、割と悪くない組み合わせかも。確かアサシンってサーヴァントの中でもステータスが低い方なんだよね?アサシンはマシュとジャンヌのどちらかの防御で引き付けてもう一人が攻撃。ランサーは速さが特徴だから、小次郎が肉薄して、それをエミヤが援護するっていうのはどう?」
小次郎の問いかけに、自分の考えを提示する。
「なかなか悪くない作戦だ。…来るぞ」
2人のサーヴァントが私達に襲いかかる。
「…来るぞ」
小次郎さんの声で身構える。先程の会話通り、わたしとジャンヌさんには女性のサーヴァントが攻撃を仕掛けてきた。
「死になさい!」
魔力でできた光弾。それを盾でガードする。
「ジャンヌさん、わたしが攻撃を受けます。その隙に攻撃を!」
「わかりました!」
敵、アサシンのサーヴァントへジャンヌさんと近づいていく。相手も先程の光弾を連続して放ってくる。
「くらいなさい!」
光弾による攻撃が無駄だと悟ったのか、爪による攻撃に切り替えてきたが、あの時のアーサー王の一撃には遠く及ばない。難なく盾で防ぐ。
「今です!」
「はっ!」
ジャンヌさんが旗を振りかぶって、相手に殴りかかる。
「あら、私に近づくと危ないわよ?」
敵アサシンが杖をジャンヌさんに向けると地面から鉄でできた何かが現れる。その前面がガバっと開くと中には大量の針が見えた。
「っ!」
「あら、残念」
ジャンヌさんがすんでの所で後ろに飛び、直撃は免れるが、閉じかけていたそれの針に片方の足を引っ掛けて負傷してしまう。
「流石に2人相手はきついわね。まずは数を減らしましょう。ワイバーン達よ!」
「ジャンヌさん!」
アサシンがそう言うとワイバーンの群れがジャンヌさんに殺到する。盾で受け止めていた爪をアサシンごと弾き飛ばし、ジャンヌさんに加勢する。
「っ…。済みません、マシュさん…」
「いいえ、お気になさらず」
ジャンヌさんといっしょにワイバーンを倒す。だが、ジャンヌさんの動きは足の負傷のせいで圧倒的に遅い。傷を見ると引っ掛けただけにしては傷が深い。ここは…
「先輩、支援を!」
「わかった!応急手当!」
先輩に支援を要請すると、的確な支援が飛んでくる。
「ジャンヌさん、どうですか?」
「…ごめんなさい。ダメなようです」
改めて確認すると先程よりは良くなったが、未だ深い傷が残っている。これは、単なる傷ではなく呪いに近い傷なのだろうか?
「自分が女であったことを悔やむことね。まあ、サーヴァントならその傷はしばらくすれば治るでしょう。但し、貴女の場合は治らないわ。ここで死ぬのだから!」
アサシンの魔力が高まる。これは…宝具!
「全ては幻想の内、けれど少女はこの箱へ……『
先程地面の中から現れたものより大きいものがジャンヌさんの目の前に現れる。間違いない、これは有名な拷問器具アイアン・メイデンだ。これを宝具として所有しているとはつまり…。いや、それよりも!
「宝具開帳、『
今にも閉じようとしていたアイアン・メイデンとジャンヌさんの間にわたしの宝具をねじ込んで、閉じるのを阻止する。しばらく耐えると、アイアン・メイデンが消える。
「ジャンヌさん。一端、下がりましょう」
「ちっ、仕留め損ねたか」
ジャンヌさんを連れて先輩のもとまで下がる。そこには、小次郎さん達もいた。
「いやはや、まいった。形あるものであるならノミ程度であろうと正確に斬れる自信があるが、流石に霧は斬れん」
「攻撃手段がないわけではないのだが、それを使えば味方ごと巻き込んでしまう上に、ワイバーンの妨害が激しい。状況を打破するのは厳しいだろうな」
「こちらも、致命傷はありませんが、このまま戦える状況ではありません」
「済みません。私がしっかり避けていれば…」
敵を警戒しながら、戦闘について簡単に報告し合う。
「ごめん。私がもっといい作戦を思いつけばジャンヌだって…」
「いや、我々もその作戦に賛同した。それを責めるなら、マスターだけでなく、ここにいる全員が責められるべきだ」
エミヤさんが先輩をフォローする。エミヤさんの言う通りだ。
「ランサーという戦闘に適したクラスである上にワイバーンの助けがあって敵を仕留められないなんて、恩情をおかけになられたのかしら。"
『"
わたし達と同様に、一端引いていた敵サーヴァントの会話からドクターが男性の方の真名を推測する。
「…人前で我が真名を露にするとはな。不愉快だ。実に不愉快だ。そして、それを言うならば貴様もそうであろう。宝具を使っておいて仕留め損なうとは、貴様の最後のように滑稽だ。そう思わないか、エリザベート・バートリー。いやさカーミラよ」
ドクターの推測はあっていたようだ。そして、もう1人の女性もわたしの予想通り、あの血の伯爵夫人エリザベート・バートリー、もといカーミラであった。
「やめなさい。貴方達が敵意を向ける先はそこの小娘達です。仲間割れは後にしてください」
「まあ。誤解ですわマスター。私、先達としてヴラド公を密かにお慕いしておりますのに」
「なるほど、初耳だ。慕う、とは暗殺する機会をうかがうことだったとはな」
『うわぁ……。仲間同士で睨み合ってるよ。イヤな職場だな、あっちは…』
ドクターの言う通り仲間同士の仲は悪いみたいだが、その殺気は今も衰えていない。
「言われてもいがみ合うとは…まあ、いいです。貴方達のやる気は本物のようですし。とはいえ、やや時間が掛かっているのも事実です。他の三騎も投入します」
『ま、まずい…!立香ちゃん、今度こそ撤退だ!流石にサーヴァント五騎はヤバい!』
「おや、逃がすとでも?」
ドクターが撤退を指示するがワイバーンに周りを囲まれてしまう。どうすれば…。
「…みなさん、私を置いて逃げて下さい」
「ジャンヌ!?」
ジャンヌさんの言葉に先輩が驚きの声を上げる。
「ご覧の通り足を負傷している私は、逃げるときに負担になります。それならば、ここで敵の足止めをするのが最善です」
「でも…!」
先輩がジャンヌさんの言葉に異を唱える。だが、ジャンヌさんの案以外には手が思いつきそうにない。
「さあ、早く!みなさん、行って下さ……!」
「これは…ガラスの薔薇?」
どこからともなくガラスの薔薇が降ってくる。これは一体?
「───優雅ではありません。この街の有様も。その戦い方も。思想も主義もよろしくないわ。貴女はそんなに美しいのに血と憎悪でその身を縛ろうとしている。善であれ悪であれ、人間ってもっと軽やかにあるべきじゃないかしら?」
「……サーヴァント、ですか」
赤い、大きな帽子をかぶったサーヴァントが現れる。
「ええ、そう。嬉しいわ、これが正義の味方として名乗りを上げる、というものなのね!貴方が誰かは知っています。あなたの強さ、恐ろしさも知っています。正直に告白してしまうと、今までで一番怖いと震えています。それでも、貴女がこの国を侵すのなら、わたしはドレスを破ってでも、貴女に戦いを挑みます」
「貴女、は…!?」
敵のセイバーと思われるサーヴァントが驚愕の声を上げる。
「まあ。わたしの
「バーサーク・セイバー。彼女は何者?」
「…この殺戮の熱に浮かされた精神でもわかる。彼女の美しさは私の目に焼きついていますからね。ベルサイユの華と謳われた少女。彼女は、マリー・アントワネット」
「マリー・アントワネット王妃!?」
思わず声に出てしまった。この方が、あの…?
「はい!ありがとう、わたしの名前を呼んでくれて!そしてその名前があるかぎり、どんなに愚かだろうとわたしはわたしの役割を演じます。我が愛しの国を荒らす竜の魔女さん。無駄でしょうけど質問してあげる。貴女はこのわたしの前で、まだ狼藉を働くほど邪悪なのですか?革命を止められなかった
「黙りなさい。宮廷で蝶よ花よと愛でられ、何もわからぬままに首を断ち切られた王妃に、我々の憎しみがわかると?」
「そうね、それはわからないわ。でも、わからないことは、わかるようにする。それがわたしの流儀です。だから、今の貴女を見過ごせない。ああ、ジャンヌ・ダルク。憧れの聖女!今のわたしにわかるのは、貴女はただ八つ当たりしているだけということ。理由も不明、真意も透明。何もかも消息不明だなんて、日曜日にでかける少女のようでしてよ?そんな貴女に向ける礼はありません。わたしはそこの、何もかもわかりやすいジャンヌ・ダルクと共に、意味不明な貴方の心を、その体ごと手に入れるわ!」
「な………」
「え、えっと…はい?」
何というか、イメージからかけ離れた発言に困惑するしかない。
「あ、しまった。しっぱいしっぱい。えっと、誤解なさらないでくださいね?今のは、単に"王妃として私の足下に跪かせてやる"という意味ですから」
『ああ……崩れる…。僕の中のアントワネット像が崩れていく……。そ、そうだ。こういう時こそマギ☆マリに…』
「茶番はそこまで。いいでしょう。ならば、貴女は私の敵です。バーサーク・サーヴァント達よ!ワイバーンと共にあの連中を始末しなさい!」
「そうね、語らいはこのあたりで。わたし達は失礼させていただきます。アマデウス!」
「任せたまえ。宝具開放、『
周囲に音楽が流れ始める。その途端、ワイバーンの動きが乱れ、中には墜落するものまで出てくる。それは、サーヴァントも例外ではないらしく、敵サーヴァント達は苦悶の表情を浮かべる。
「くっ…、重圧か…」
「ちっ……!」
「さあ、みなさん。今のうちにわたしの馬車にお乗りになって。アマデウス、貴方も」
その言葉にしたがって、馬までガラスでできた馬車に全員で乗り込む。馬車の中は明らかに見た目よりも広い。
「それでは、ごきげんよう。オ・ルヴォワール!」
マリー・アントワネット王妃が黒いジャンヌさん達に向かって、別れの挨拶をする。こうしてわたし達は絶体絶命の状況から抜け出すことができた。
避難者の子供「村は壊れちゃったけど、黒い騎士様が逃してくれて…。あっ、なーんちゃって、やっぱ嘘!」
主人公君は多分次回も出ません。