Fate/spring blade (仮名) 《Fate×SAO》 作:クロス・アラベル
○
「アリス……どうして、ここに」
「どうしても何も、そこの彼女に襲われたから私のキャスターが守ってくれた。ただそれだけよ」
「《私のキャスター》…?」
アリスは、女騎士より前に出て笑顔でそういった。
全く、話が見えてこない。
なんでここにアリスがいるのか。
「…今の状況、分かってないんでしょう?」
「あ、ああ。全く…」
「だろうと思った。サーヴァントの事も知らないんでしょ」
「さ、サーヴァント…?」
「ええ、分かってないわよね。仕方が無いわ、私が説明してあげる_____セイバーさん、あなたのマスターはこの通り一般人とそう変わらない。あなたのことも全然理解してないの。だから、まぁ、私が説明云々をするから……今は休戦しない?」
アリスからこの提案。
何も知らない俺に、説明とやらをしてくれるらしい。
ありがたいが……休戦って…
「_____休戦、ですか」
「ええ。私としても今ここで戦りあうのは避けたい。住宅地のど真ん中だもの、あなたが高潔な英霊なら_____民間人への被害は避けたいでしょう?」
「____ええ。分かりました、キャスターのマスター。あなたの提案に乗ります。私のマスターは___本当に何も知らないようですし、ね」
「ありがとう、セイバー。さ、ここではなんだし、少し歩きましょう。行きたい所もあるしね」
なんだか、俺抜きに話しを進められて、ちょっと不満だった。
俺を置いてけぼりにしないでくれよ…!
「あ、アリス!行きたい所ってなんだよ…!」
「この状況____《聖杯戦争》について説明するには私だけじゃ時間がかかる。だから、聖杯戦争について詳しく説明してくれる人の元へ行くのよ。
それに、聖杯戦争が正式に始まったかどうかを知りたいの。まぁ、私もあそこには行きたくないんだけどね」
「聖杯戦争…?」
「ええ。まぁ、歩きながらちょっと話しましょう」
アリスはくるりと身を翻して、街の方へと歩いていく。
「…わかった、行くよ………何が何だか…」
話についていけない。
聖杯…?だかなんだか知らないが___
「____マスター、怪我はありませんか?」
「あ、ああ。別にこれくらい大丈夫……だと思う」
目の前にいる彼女が、人間の度を超えた存在であることは確かだ。
俺は_____かなり面倒なことに首を突っ込んでしまったらしい。
「_______和人。あなたが呼び出したのは、《サーヴァント》と呼ばれるものよ。あなたの隣にいる、セイバーの事ね」
「はぁ……サーヴァント…確か、使い魔ってヤツじゃないか?漫画とか、ゲームで聞いたことはあるけど…」
「《使い魔》、ではあるわね。けど、使い魔、なんて呼び方するのがおこがましくなる程、《サーヴァント》っていうのは強いの」
暗い町の中。
俺とアリス、2人の女騎士と共に歩いていく。
もう夜だし、最近騒ぎになってる連続殺人事件のせいで人の気配はない。
「《サーヴァント》っていうのはね、《英雄》と呼ばれていた存在が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したものなの。サーヴァントっていうのは、歴史に名を残した英雄だったり、伝説や伝承として残っている英雄達を現代に蘇らせる…そう言った方がわかりやすい…かしら」
「……その前に、魔術師ってなんだよ。いや、分かるといえば分かるんだが、本当にいるのか?」
「ええ。私がそうだもの」
「…さいですか」
もう驚くことばかりだ。
魔法なんて、それこそ漫画や小説の中のものだとばかり思ってたんだが…
「続けるわよ?……このサーヴァントって言うのは通常、絶対に呼べないものなの。けど、それに例外がある。それが《聖杯戦争》。聖杯の力を使って英霊を呼び、自分の使い魔とする。それが___」
「…聖杯戦争ってなんだよ。聖杯って……アレか?どんな奇跡でも起こせるっていう」
《聖杯》。ありとあらゆる奇跡を起こす、伝説、御伽噺上の産物。
俺が知っているのはそれくらいだ。
妹の直葉が小さい頃に神話とか、そういった類の本を読み聞かせてたせいか、俺も若干覚えている。
「そ。その通りよ、和人。あらゆる奇跡を起こす最高位の聖遺物。それを巡って魔術師同士で殺し合う。それが聖杯戦争よ」
「こ、殺し合う…!?」
待て、じゃあ……アリスはそれに参加しているとでも言うのか。
坂道を登る。
アリスの目的地はこの上にあるらしい。
「……私ももちろん参加してるわ。私の目的としては、聖杯欲しさ、というより、その聖杯のもたらすこの戦争。それが引き起こす被害を抑えるため…っていうのが本音だけどね」
「え……じゃあ、聖杯の為じゃなくて___」
「___この街を守るため。それこそ、聖杯戦争による災害や事件っていうのは結構多いし、規模が大きいの。聞いた話によると、街一つを巻き込んだ大火災になったこともあったって聞くわ」
街、一つ。
じゃあ……この街が、焼け野原になる可能性もあるという事か。
「なんだよそれ……危険過ぎるじゃないか」
「ええ。でも、私は、見て見ぬふりは出来ない。傍観している側なんて、まっぴらごめんなの」
その理由は、彼女らしい。
見知らぬ所で、誰かが傷つき、死んでいくのを見たくない。
それは確かに、人として正しい。
けれど、その考えは時に自身をも滅ぼす。
____だけど。
その在り方は、純粋に好きだった。
あの頃と、ちっとも変わっちゃいない。
アリスがこういう人間だから、俺とユージオは彼女を慕い、友達でいようとするんだろう。
「______そうか、まぁ…アリスがそう言うなら別にいいか」
「…止めないのね」
「止めようたって無駄だろう?随分と頑固なのは昔から変わってないからな」
「あら、それは褒めてるのか貶してるのか…」
純粋に褒めてるんだよ、と俺は零した。
「___私は、聖杯を手に入れたって変な願いを叶える気もない。私にとって大切なのは、この戦いにおいて犠牲者を出さないことよ。まぁ、出来なかったけどね」
「…?どういうことだ?」
「だって、あなたっていう犠牲者が出てるんだもの。死んでないだけマシだけど」
「犠牲者……ぇ、もしかして、あの男に殺されかけた事か!?」
「ええ。あ、言ってなかったっけ?アレ、サーヴァントよ。一応、聖杯戦争や魔術は秘匿されなきゃいけないから、万が一一般人に見られた場合、殺すか記憶を消すかをしないといけないの」
「……じゃあ俺は前者だったと」
「その通り。まぁ、私は殺そうとは思わない。それに、あなたマスターなんだもの。魔術と完全に無関係って訳でもなさそう」
…は?
今、アリスの奴…俺と魔術が無関係じゃないって言ったのか?
「待ってくれ。俺、魔術なんて全く知らなかったんだぞ?無関係だろ」
「マスターっていうのは、例外なく魔術師なの。いえ、詳しく言うと、魔術回路を持つ人間ってことね」
「魔術回路…?」
「和人、あなたは魔術回路を持っていたからその令呪を宿した。ほら、その左手の甲にあるでしょう?」
「令呪…って、これか」
そういえば、学校の帰り際に蚯蚓脹れのような赤い跡があったのを思い出した。
左手の甲を見ると、そこにはくっきりと何かの紋章のような何かが描かれている。
「…で、その令呪って?」
「召喚したサーヴァントに対する絶対命令権。3回だけしか使えないけどね」
「絶対命令権……この令呪っていうのが出てる奴がマスターってことか」
「そう。これはね、魔術回路を持っていなきゃ絶対に宿らないの。普通、聖杯戦争は《聖杯》について知っていてなおかつ、力のある魔術師が聖杯によって選ばれる。たまに、和人みたいに何も知らない人にも宿ることがあるらしいけど」
「俺はその例外って訳だな」
「マスターとして令呪を宿すって言うことは、和人には魔術回路があるってこと。私も思いもしなかったことだけどね」
「…俺だって知らなかったんですけど…」
「話を戻すと、この聖杯戦争では、七人のマスターが聖杯によって選ばれる。そして、それぞれのマスターがサーヴァントを召喚するの。私が召喚した《
《
《
この七騎が相争う……これが聖杯戦争」
おお、なんだかゲームみたいだな。職種があるわけか。
「へぇ……クラスがあるわけか」
「これは理解してくれるのね」
「まぁ、ゲームで散々覚えることだしさ」
「ふーん…あ、もうすぐよ」
「もうすぐ…?」
アリスに言われて前を見ると____
「…教会?」
「ここに、今回の聖杯戦争の監督役がいるの。私、あんまりここには来たくないんだけど…」
坂道を登りきって、そこに建っていたのは教会だった。
この街にある唯一の教会。
山の中腹にあるせいで俺も来たことは無いんだが…
「じゃあ、行きましょう。一応連絡は入れたし、起きてるとは思うんだけど」
アリスはそのまま門を開けて、敷地内に入っていく。
「マスター」
その時、後ろで黙っていたセイバー…(で、いいのだろうか?)が、初めて話しかけてきた。
「ん、な、なんだ?」
「…私はここで待ちます。よろしいですか?」
「ああ、別にいいけど…どうしたんだ、急に」
セイバーはそう言って門の前で立ち止まる。
「____いえ、ここの見張りは必要ですから」
セイバーはそのまま教会の正反対_____街を見下ろしながら目を閉じた。
多分、俺が何を言っても動かないだろう。
「___じゃあ、俺が戻るまで頼んだ」
門を開いて敷地内に入る。
かなり大きい教会で、俺が想像していたよりも荘厳だった。こんなのがあったとは驚きだ。
「んで、ここの教会も魔術の召喚の関係者なのか?」
「そうよ、聖杯戦争の監視役。聖杯戦争が正常に行われているかを確認する…《聖堂教会》ってところから派遣されるんだけど、今回は修道女としてやってきた人なの。私個人としては苦手で……一応、教会から派遣されてるから、最低限接してる感じよ」
「……へぇ」
アリスが《嫌い》では無く、《苦手》っていうとは。
珍しいな。
「_____うん、明かりも着いてる。失礼します、シスター」
アリスはそう言って教会の扉を開けた。
「____おお、教会っぽいな」
両際に7列程の長椅子、真ん中には赤いレッドカーペット。奥には主祭壇。その奥には大きなパイプオルガンがある。左奥には黒い扉があり、別の部屋につながっているんだろう。
そして、その主祭壇に誰かがいた。
藤色の長い髪。
シスター服を来たその女性のようだ。
あの人がアリスの言っていた監視役の修道女だろうか。
「貴方から連絡を入れてくるなんて珍しいわね、アリス。驚いちゃったわ」
「_____御無沙汰です、《クィネラ》さん。こんな夜分遅くに申し訳ありません」
振り返りながら声をかけてきたその人にアリスはよそよそしく挨拶した。
「いえ、怒っている訳では無いのよ?ただ単に珍しかったものだから」
その、《クィネラ》と呼ばれた女性は微笑しながらこちらにやってくる。
____不意に。
その笑みに嫌なものを感じて、後ずさってしまった。
「_____それで、彼がその件の?」
別に、変な所なんてない。
おかしな所なんて何も無い。
けれど_____絶世の美貌、その裏に、ドス黒い
確証はない。
彼女とは初対面。
だけど、確かに。
「そうです。彼がセイバーのマスターの___」
「…桐ヶ谷 和人です」
あの髪と同色の瞳に_____悪寒がする程の冷たいモノを感じたのだ。
「そう、最後のマスターが決まった訳ね。分かりました。ではこれより、聖杯戦争を___」
「___待ってくれ」
俺の自己紹介を聞いた彼女は毅然とした態度で___おおよそ、聖杯戦争の開始を宣言しようとしたので、俺が声を上げる。
「___聞きたいことがいくつかある。聖杯戦争とやらを始めるのはその後にしてくれ」
「…そういえば、あなたはほぼ一般人と変わらないと聞いたわ。確かに、なんの説明も無く始めるのは酷ね。なら、あなたの質問に答えるとしましょう」
「じゃあ、聞かせてもらおう。全部、洗いざらいな」
俺はそう言って、この女_____《クィネラ》と名乗る修道女に質問を容赦なく浴びせることにした。