Fate/spring blade (仮名) 《Fate×SAO》 作:クロス・アラベル
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「……嘘」
翌朝、今日は学校があるため、2人とも制服姿でセルカと共に朝食をとっていると、ニュースが飛び込んできた。
また、死体が発見されたのである。
「…姉様、これって…」
「……キャスター」
「いえ、あの時は少なくともあの魔力と同じものは感じられませんでした。もしかするとすれ違いだった可能性も捨てきれません」
「………セルカ、早めに帰ってきて。コイツ、一筋縄じゃ行かないみたい」
「___分かった。姉様も気をつけて!」
「ええ、勿論」
朝食を取りつつ考えを巡らせる。
もう既に味わうことも忘れ、熟考する。
「…(………すれ違い、か。でも、ただのすれ違い…だなんて思えない。もしかするとあの時………
「姉様?」
「…ぁ…ごめんね、ちょっと考え事してたわ。ご馳走様」
アリスは考え事を中断して、食器を台所へ運びながらキャスターに念話する。
『キャスター、もうそろそろ学校に行くけど、あなたはどうする?』
『私も行かせてもらいます。マスターが良ければの話ですが…』
『もちろん、こっちからお願いしたいくらいよ。いつ《サーヴァント》に首を斬られるか分からないんだもの。お願いね、キャスター』
『はい、こちらこそ』
洗い物を終え、自分の部屋からカバンを持ってくる。
アリスとセルカはそれぞれ、高校2年生、中学3年生。アリスは礫ヶ原高校、セルカは礫ヶ原中学校だ。この2つの学校は歩いて五分の所にあり、昼休み時間に行き来出来るほどに距離が短い。
いつもの時間まで、あと5分。もう学校に行く準備は出来ているため、直ぐにでも出かけられる。
「セルカ、準備は出来てる?」
「うん、もう行けるよ。姉様」
「じゃあ行きましょう。キャスター、今日からよろしくね」
『はい。私が近くで見ていますので、安心して登校してくださいね。セルカ、マスター』
二人はいつも一緒に登校している。
そして、一緒にいくメンバーはあと二人。
アリスの幼馴染が2人いる。
その2人と、場所を決めて待ち合わせしているのだ。
「あ、おはよう。アリス、セルカ」
「ええ。おはよう、ユージオ。ごめんなさい、待たせちゃったかしら」
「そんなことないよ。確かに二人にしては遅めだけど、約束の時間より五分くらい早い」
8時5分。いつもの集合場所、2つの自動販売機前。
ちょっと特殊な自動販売機で、飲み物は勿論、変な味のお汁粉やお菓子まで売っている。もう一つはなんと、フライドポテトやフライドチキンが売っている変わり物。下校途中の学生たちに人気の自動販売機だ。
二人が辿り着いた時には既に一人待っていた。
くせっ毛の亜麻色の髪に碧色の瞳。柔和な表情と、その雰囲気から、一時期はクラスメイトの女子達に白馬の王子様扱いされていた程のイケメンだ。(本人の自覚なし)いや、イケメンと言うよりも、激しく主張しすぎない優男…だろうか。
彼がアリスの幼馴染の一人、ユージオだ。
「そう。ちょっと寝不足気味なのよね……今でもあくびでそう」
「へぇ、アリスが寝不足かぁ。めずらしいね」
「姉様ったら、今日の小テストに向けて一夜漬けしたんだって!」
そんなセルカのセリフに、えっ、と驚くユージオ。
「こら、セルカ。平然と嘘つかないの。ただ単に調べたい事があったから本を読み漁ってたのよ。今日の小テストはもうすでに復習済み」
「はは、流石だね。クラス一位は伊達じゃないや」
それに笑って答えるユージオ。
この瞬間、アリスによるセルカの頭ぐりぐりの刑が決まったのだった。
「_____遅い」
あともう一人の幼馴染を待って、あれから15分後。
いつもの約束の時間を過ぎ、アリスの不機嫌顔が滲み出てきた。
「寝坊かな。ついさっきメッセージ送ったんだけど…」
「和人ってば、いつも時間1分前とか、二〜三分遅れて来たりするのに、今日は珍しいね」
制服のポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリへ。とある人物のトークを開いて確認すると、既読マークがついていない。
「ちょっと電話してみるよ」
そう言って電話をかけるユージオ。
しかし、一向に出ることはなく。
「……だめだ、時間的にそろそろ不味くないかい?」
「そうね。もう私達だけで行きましょう。私達はまだしも、セルカが和人のせいで遅刻したなんて聞きたくないし。まぁ、メッセージ送って、電話までかけたのに気付かないんだもの。さぁ、行きましょ。二人とも」
「……だね、ちょっと今回ばかりは反省してもらわないと…」
ちっとも起きてこない約束の幼馴染に呆れて3人は学校へと向かった。
「お、アリスにユージオじゃねぇか。おはようさん」
礫ヶ原高校の正門を抜けて校舎に入り、下駄箱に行くと、見知った顔があった。
くすんだ金色の髪に赤銅色に日焼けた肌。燃えるように熱いオレンジ色の瞳。
まさに若きボクシングチャンピオン…と言った感じの少年。
彼の名はイスカーン。実際にボクシングをやっている。
筋肉質な身体付きは無駄な部分は削ぎ落とされ、なおかつインナーマッスルが鍛え上げられている。
おおよそ、この学校で校下一武闘会なんてものを開けば彼が確実に優勝だろう。
進路についてはもう既にとあるスポーツ大学への推薦入学がほぼ決定している。
「あ、おはよう。イスカーン」
「おう……ん?二人とも、あいつはどこいったんだ?」
「あー……遅刻だと思う。寝坊でね」
「へぇ、あいつが寝坊ね。まぁ、珍しいことじゃないか」
「そうかな」
「ああ。ぼーっとしてそうだからな!」
「多分、夜中までゲームしてたんだろうね」
「まったく、月曜日なんだから加減しなさいって話よ」
「ド正論だな」
彼はユージオ達とは5年前に知り合った。小学校を卒業し、中学校に上がる前____幼馴染三人とセルカで遊んでいた所に引っ越したばかりの彼が加わった。
それからというもの、セルカ共々仲良くしてくれている。ユージオ達より1つ上の3年生だ。
「そういえば、大会近いよね。調子はどうだい?」
「おう、絶好調……とまでは言わねえが、悪かねぇな。」
彼はあと2週間後にはボクシングの大会が控えている。それに向けて今日も朝練をしていたらしい。
因みに礫ヶ原高校にはボクシング部は無いので、個人でボクシングのクラブに入っている。今日もひと汗流して学校に来たようだった。
仲良く話しながら上履きに履き替えて教室へ向かう。
2年生と3年生の教室は階が違うので、途中で別れてアリスとユージオは2年1組の教室へ入った。
ユージオの席は窓際側の一番端の列の後ろから2番目。アリスはその右隣の席だ。
「さて、ユージオ。ちょっとした賭けをしない?」
「賭け?」
「ええ。和人が教室に辿り着くまでどれくらいかかるか…もとい、ホームルームまでに間に合うかどうかよ」
「うーん……負けた方はどうなるの?」
「そうね、パンをひとつ奢ってもらいましょうか」
「分かった、それくらいの賭けなら乗るよ。僕は……間に合うと思うな」
「私はギリギリアウトな気がするわ」
「はぁっ、はぁっ、ぜー、ぜー、ぜー______し、死ぬぅ…」
と、息を切らしながら教室に入ってきた男がいた。
「「あ、和人!!」」
二人でハモって声をかける。
ホームルームまであと一分。賭けはユージオの勝ちらしい。
「何やってるんだよ和人!僕らいつもの時間より10分も待ったのに全然来ないじゃないか!」
「そうよ!まさかまた夜中までゲームしてたんじゃないでしょうね?」
「うげ……なんで、わかる、んだよぉ…」
アリスの指摘に、苦い顔をする彼。
彼こそが、アリスのもう一人の幼馴染。
桐ヶ谷 和人。
黒髪に同色の深い瞳の少年。ユージオに負けず劣らずの中性的な顔つきである和人は何よりもこれが1番ききたくないことばだった。
汗をかきながら自分の席に倒れ込むように座った。ぐったりと机に突っ伏した。
「なんでって、当たり前でしょう?10年以上幼馴染やってれば普通にわかるわよ」
「和人の事だ。どうせ限定クエストがどうとかって言ってたんだろう?」
「ヴッ…」
ちょっと冷たい2人の態度とユージオの推理はまさに的を射ていた。
「だってさ…昨日はクライン____もといゲーム仲間と限定クエスト言ってたんだよ。何せ月一の奴だったし、ミスれないし…あと、アイツ社会人だから…」
それでもまだゲームの話をする彼にアリスが言い放つ。
「それは別の日にでもできるでしょう?特に今日は小テストがあるんだから…!」
「いや、今日までだったから___え?今なんて?」
「?」
「いや、今小テストって…」
「…まさか和人、小テストのこと忘れて勉強してきてない、なんて言わないよね?」
「……」
ダラダラと汗が出る。小テストのことを完全に忘れていたようだった
「…確か、あれ三限目だったよな?なら一、二限目使えば…!」
「一、二限目潰す気なのかい君は…」
「…出来なくもないわ」
「アリス…?」
キリトの危なげな発言にド真面目な顔で答えるアリス。それに引きつった顔で振り返るユージオ。
「よし、そうと決まれば早速___」
『ホームルームを始めます。皆さん、着席してください』
「…ほ、ホームルームの後にな」
和人は担任のアズリカ先生の声に驚いたが、すぐさま小テストの範囲の教科書を一夜漬けならぬ、2時間漬けを敢行すべく、不敵な笑みを浮かべて自分の席で鞄の中をさぐった。
「______」
そんな、3人の日常風景を見ながら、霊体化したままアリスは悲しそうな顔をした。
『私が生まれなければ、こうなることもあったのかもしれない』
心の中で呟くキャスター。生前の一部の記憶を呼び覚まさせる。
この聖杯戦争において、サーヴァントは____生前の記憶を全て持ち得る訳では無い。
幾つかの記憶を欠如した状態で召喚される。
時には、切磋琢磨しあった仲間を。
時には、犯してしまった罪を。
時には、宿敵を。
そして___時には、愛する人との記憶を。
しかし、キャスターはその中でも、比較的その作用が少なかった。
『_____魔力探知、開始』
キャスターは霊体化したまま、魔力の探知を開始する。
アサシンへの対抗の為の保険。
この人が多過ぎる高校で、魔力を発する人間は一人だけ。
『____マスターだけ、ですか。なら良いのですが…』
その危惧が、ただの杞憂に過ぎないことを願うキャスターだった。
ユージオと和人も登場ですね。