名バ列伝『グレートエスケープ』【完結】   作:伊良部ビガロ

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ここからは番外編。
エンドクレジットなのでお好きな曲を流しながら聞いていただけると。
ちなみにうまぴょい伝説(大人数ver)がおすすめです。


エンドクレジット 夢は続いていく

登場人物紹介とその後(括弧内は初登場話数)

 

・グレートエスケープ(第1話)

 XX93年生まれ。幼名はクロスケ。黒鹿毛のサラブレッド。幼いころはやんちゃだったが、暴れたりはしないのでタチの悪い頭の良さを持っていると思われていた。競走馬引退後、社来SSで種牡馬入り。その際のシンジケートは総額36億円(一口6000万円×60株)、種付け料は1000万円でスタート。XX00年に供用が開始され、XX03年に産駒がデビュー。その後も活躍馬を出したが、XX15年の種付けを最後に、体調不良を理由に種牡馬を引退し、余生を懇備弐牧場で過ごす。XX18年8月26日死没(25歳)。

 

・ゴールドシップ=アズナブル(第1話)

 通称『赤い流星』のウマ娘スーツのパイロット。シャダイ公国軍の大尉であり、宇宙を面白おかしくするために地球の人間とウマ娘を全員ブリに変える兵器で一掃しようとしていた。メジロマックイーン=レイによって返り討ちに遭い、宇宙ブリとして元気にやっている。

 

・メジロマックイーン=レイ(第1話)

 トレセン学園連邦軍のパイロット。民間人だったが戦争中にウマ娘スーツに乗り込み、活躍したことで臨時で軍属となっている。生まれ故郷に伝わる天皇賞・春の盾の継承者であり、ゴールドシップからの攻撃を防いだ。その際の余波が遠い別次元の地球に降り注ぎ、一頭の運命を大きく変えたことで、世界の運命さえも変わったが、そのことは知らずに戦闘後にスイーツを味わっていた。

 

・牧場のあんちゃん(第1話)

 グレートエスケープに散々振り回された結果、彼に負けない頭の回転と技術を取得した。縄抜け、ピッキング、サラブレッドの言うことがなんとなくわかる、半径1㎞圏内のサラブレッドの位置などなど。グレートエスケープが種牡馬生活を引退してからも世話をしていた。その頃の年齢はおっさんに差し掛かっていた。

 

・天長働郎(第1話)

 懇備弐牧場の場長。古くから受け継いできた日本古来の牝系が花開き、グレートエスケープが活躍してからは度々インタビューを受けていた。その結果少し調子に乗りすぎてしまい、牧場の牝馬にサンデーサイレンスや、ディープインパクトといった大種牡馬を種付けしてしまい、経営が傾いたのは別の話。

 

・シルバーパート(登場無し)

 名前だけの登場。グレートエスケープの母。産駒にはブレーヴステップ、イリーガルバイト、ニゲルガカチ、レジウチマシーンといった馬がいる。しかしGⅠを勝利したのは、グレートエスケープのみだった。

 

・橘馬奈(第1話)

 グレートエスケープの名付け親にして初代オーナー。父親から継いだ会社の事業を拡大させた。そして馬主資格を取得すると、グレートエスケープに一目惚れをして購入。ちなみに庭先取引の際に場長は経営が苦しいのもあり、500万円で買われてほしいところをふっかけるつもりで800万円を提示するつもりでいたが、橘馬奈はその倍近い1500万円を提示。それ以来、懇備弐牧場の女神と崇められていた。グレートエスケープが重賞に出走すると、美人すぎる馬主として人気になる。その後末期癌が判明。グレートエスケープのダービー制覇を見届けると、この世を去った。享年29歳。

 

・ダンスパートナー(第3話)

 グレートエスケープの1歳年上の牝馬。引退後は繁殖牝馬として過ごす。グレートエスケープの種牡馬デビューの際に、交配相手としてグレートエスケープが選択され、種付けする。その際にひと悶着あったのは別の話。産駒は最終的に3頭おり、GⅠにこそ手が届かなかったものの、最初の産駒である牡馬『ブレイクダンス』はGⅠ2着2回、3着2回と善戦した。最終的に重賞は5勝するなど、活躍し、種牡馬入りした。

 

・ラッキーパンチ(第4話)

 引退後は乗馬クラブで、優しい顔立ちと雰囲気から人気乗馬となる。グレートエスケープが活躍する度に「一緒に走ったことがある」と語って嬉しそうにしていたという。

 

・ダンスインザダーク(第6話)

 社来SSでグレートエスケープと再会する機会があった。その頃には普通の口調となっており、グレートエスケープにそこを触れられると突如暴れだした。社来SSの従業員の間で語られる『ダンスインザダーク、昔のライバルに闘志剥き出し事件』である。

 

・ロイヤルタッチ(第6話)

 再会の機会こそなかったが、種牡馬として生活。引退後はのんびり余生を過ごした。時々出会うグレートエスケープの産駒に対して強気に出て、ライバルだったと語っては尊敬を集めていた。

 

・イシノサンデー(第6話)

 種牡馬をひっそりとやりつつ、余生を過ごした。後に現れたディープインパクトを見て、夢の正体は彼だったことに気がついた。グレートエスケープ産駒がディープインパクトに負ける度に、「所詮はあの程度……」と笑っていたが、必ずレースを見るか、ラジオで聞いていた。

 

・サクラスピードオー(第8話)

 ダービー以降はマイル路線に進んだため、戦うことはなかった。しかし、ダービーで見たグレートエスケープのスピードに追いつくため、走り続けた。いつか、スピードオーと胸を張って名乗るために。

 

・グレートエスケープ単勝おっちゃん(第8話)

 グレートエスケープの単勝馬券を毎回給料全額つぎ込んだおっちゃん。妻と子に逃げられてヤケになった皐月賞で全額給料をグレートエスケープに賭けるが外す。しかし、かえって吹っ切れてしまいグレートエスケープと心中しようと決めてそれから給料ひと月分で単勝馬券を買うようになっていた。ざっと計算すると30倍以上は余裕で儲けていたが、最後のジャパンカップで儲けたぶんをすべてグレートエスケープの単勝にあてた。馬券は外したが、とても晴れやかな顔をしていたという。

 

・滝カナタ(第10話)

 言わずと知れたトップジョッキー。凱旋門賞やキングジョージを制した日本人ジョッキーとしてますます評判も高まっている。トップをひた走りながら、競馬界の普及のためにも活動し続ける。時には怪我で苦しんだ時もあったが、それでも馬に乗り続けている。特別な理由はない、馬に乗ることが好きだから。そして、またサイレンススズカやグレートエスケープのような名馬に出会いたいがために。彼は今日も馬に騎乗する。その姿は、紛れもないトップジョッキーだ。たとえ、勝利数が少なく成ろうとも、それは変わらない。

 

・バブルガムフェロー(第15話)

 引退後は種牡馬として活躍。子供たちにラップ口調やエセアメリカン口調が感染し、グレートエスケープの子供にも伝播したと聞いてグレートエスケープは馬産地でとても嘆いた。

 

・ファビラスラフイン(第15話)

 引退後は繁殖牝馬として過ごす。グレートエスケープが種牡馬デビューの年に配合相手としてグレートエスケープが選ばれ、種付けを行う。そのときに色々とあったのは別の話。ちなみに日付の関係でダンスパートナーより早かった。産駒のファビラスガールは良血と馬体から注目されたが脚元が弱く、デビューできなかった。しかし牝馬だったため繁殖入り。後にその産駒、つまりグレートエスケープとファビラスラフインの孫にあたるマキシマムパンチ(牡・父キングカメハメハ)がダート戦線で活躍、さらにトライデント(牝・父ハーツクライ)が芝GⅠを制した。

 

・カネツクロス(第15話)

 引退してからは種牡馬にならず、生まれ故郷の牧場で余生を過ごす。「ごっつい後輩がおってな。スタートでババーッていくとそのままドビューンと進んでな

、ゴールまでバーンやねん。えっぐいやろこいつ!」と牧場の若い馬に伝えるがさっぱり伝わらなかったため、GIで走ったことを信じられていなかった。

 

・エリシオ(第15話)

 社来グループによって購入され、種牡馬になったためグレートエスケープと再会する機会があった。凱旋門賞勝利したと聞いて、「なぜ私が現役の時に来ない」と少し怒っていたとか。

 

・シングスピール(第15話)

 出会う機会こそなかったものの、日本に輸出された産駒のアサクサデンエンやローエングリンはグレートエスケープの産駒と勝利を争った。シングスピールには産駒の活躍は届かなかったが、グレートエスケープへのリベンジを産駒が果たしてくれるよう祈ってもいた。

 

・ブレーヴステップ(第16話)

 グレートエスケープの1つ年下の半弟(父ダンシングブレーヴ)、度々好走していたが重賞は中々手が届かなかった。しかし、ついにGIIを制覇し、兄弟重賞制覇を達成した。良血が買われて代替種牡馬として種牡馬入り。種付け数も少なく、それほど成績が伸びなかったが、産駒のクロスステップが皐月賞を、大本命だったグレートエスケープ産駒のジョイエロを差し切って12番人気で勝利。種牡馬として兄に一矢報いた。

 

・ローゼンカバリー(第17話)

 中山得意な変なブリンカーをつけた馬。ブリンカーをいじったりいじられたりの動画はネットで密かな人気がある。グレートエスケープが引退した翌年、目黒記念を勝利し2年ぶりの勝利を挙げた。伊達に長く一緒に走っていないといわんばかりの、根性の勝利だった。彼にもまた、グレートエスケープの走りが受け継がれていた。

 

・サクラローレル(第18話)

 後にグレートエスケープが凱旋門賞を勝利してから、俺の方がすごいんだと種牡馬生活を頑張ったが、そこもグレートエスケープに負けてしまった。いつかリベンジするために体を鍛えているという。

 

・マーベラスサンデー(第18話)

 引退後は種牡馬として生活。グレートエスケープを上回る種牡馬としての活躍はできなかったが、現役時代先着されたことがないので良しとしている。

 

・マヤノトップガン(第18話)

 天皇賞・春では鬼脚を見せてグレートエスケープを撃破。その後に大活躍するグレートエスケープを見ても、驚くことは無かった。彼が活躍することは、わかっていたからだ。

 

・スペシャルウィーク(第20話)

 ジャパンカップ後の有馬記念では宿命のライバル、グラスワンダーと激突。数センチの差で勝利を逃した。彼はレース後、たくさん泣いた。そして、牧場に旅立つ合間にグレートエスケープに泣きつき、そして一緒に社来SSに向かった。社来SSでも仲良しで、毛色が一緒なのもあり兄弟みたいだと牧場スタッフに評されていた。厩舎ひいては栗東トレセンではグレートエスケープがボスとして君臨していたが、スペシャルウィークはコバンザメのようにくっついて調子に乗っていたと、後に黒井調教師の著書で暴露されたりもした。

 

・シルクジャスティス(第21話)

 被害集中1号。ちゃんとGⅠこそ勝てたが、梶田健二が主戦から奪われたり、走るレースことごとくグレートエスケープにかっさらわれたりするなど、敗北が多かった。史実でも有馬記念勝利以降は中々勝利を挙げられなかった。

 

・館山典佑(第22話)

 美浦のジョッキー。ジャパンカップをテン乗りで勝利に導いた手腕はまさに面目躍如といったところ。グレートエスケープ産駒に騎乗し、度々GⅠで波乱を起こした。もちろん、いい意味と悪い意味、両方で。

 

・エアグルーヴ(第22話)

 4歳から5歳にかけて覇を競い合ったライバル。牝馬ながら牡馬の一線級と互角以上に戦った女帝。引退後は初年度にサンデーサイレンスとの間に産まれたアドマイヤグルーヴが活躍。翌年から2年連続でグレートエスケープが交配相手に選ばれた。その2頭のうち、産駒のプリズンブレイク(牝)はオークスを勝利。ダイナカールから数えて親子3代オークス制覇を達成した。種付けのときに騒ぎがあったのは別の話。

 

・ピルサドスキー(第22話)

 勃起ッ! 引退後は日本で種牡馬に。メタ的な話をするともっとコメディ路線で絡ませる予定だったが上手く行かなかった。種牡馬として活躍はできなかったが、ムスコは元気いっぱい、大活躍。ピルサドニシパ……これが、勃起……!

 

・メジロドーベル(第23話)

 度々グレートエスケープとレースを走った牝馬。引退後、グレートエスケープが交配相手に選ばれ、種付け。産まれた産駒、メジロエスケープ(牝)は勝ち上がりこそしたものの、500万クラスからは上がれず。その後繁殖入り。メジロの血脈を次繋いで、子孫でついにGⅠに手が届くが、それは遠い先のお話。

 

・メジロブライト(第24話)

 被害集中2号。唯一のGⅠを奪われてしまった。申し訳ないと思ってほしいなら早くウマ娘に実装してください! それはそうと度々グレートエスケープに肉薄した牡馬。いつか末脚が届くと信じて追い続けていたが、ついに先着することはできなかった。ただ、大きな背中を追い続けた日々は、悪いものじゃないと思っていた。

 

・ステイゴールド(第26話)

 なんか変な奴。後に香港ヴァーズを勝利したことは語るまでもない偉業だが、種牡馬としても活躍。社来SSではグレートエスケープに絡みに行って追い返される動画がひそかにウケていた。

 

・サイレンススズカ(第27話)

 天皇賞・秋ではグレートエスケープと激闘を繰り広げた。GⅠ1勝、されど魅せた走りは未だに語り継がれている。この世界ではグレートエスケープ、サイレンススズカ論争が頻発し、ここにディープインパクトやアーモンドアイ、ウオッカなどが参戦しているなど、平和に掲示板で喧嘩するネット民は多い。最強馬は個人個人に最強馬がいる。しかし最終的に黒井最強で締めくくられるのがお約束。

 

・ハードバトラー(第31話)

 グレートエスケープの帯同馬の役目を終えると、引退。競技馬として活躍する。早く走るのはもう難しくなったが、大人しく、従順な気性から後に総合馬術の競技や障害馬術などで活躍。オリンピックに出場もした。いつか金メダルをとり、KG6&QESと凱旋門賞を制した偉大な馬に相応しい実績を目指して、今日も彼は飛ぶ。ちなみに引退後も世話焼きなのは変わらず。

 

・青山祐一(第31話)

 ニューマーケット滞在中、グレートエスケープの調教つけていた。騎手として華々しい活躍はできなかったが、こういった確かな技術を持つ騎手が影で競走馬や厩舎を支えている。数年後、調教師試験に合格したため、引退。調教師になってから10年後、GⅠ勝利を管理馬で達成した。グレートエスケープのような名馬を育てることが、目標。

 

・シーヴァ(第32話)

 のちに繁殖牝馬として日本に来日し、種付けする。産駒はGⅠこそ勝てなかったものの、善戦し、種牡馬入りする。ほそぼそとした血脈は、後に欧州を席巻するサイアーラインを築き上げるのだが、それもまた、遠い先の話。ちなみに、すごくデレデレで社来の繁殖牝馬は怖い顔をしていたという、出処のわからない噂がネットにひそかに流れている。

 

・デイラミ(第33話)

 凱旋門賞後はBCターフを勝利し引退。欧州の古馬最強馬として面目を保った。種牡馬として活躍しきれなかったが、後に半弟のダラカニが凱旋門賞を勝利。いつかグレートエスケープの子供が欧州に来ないか、ひそかに楽しみにしている。

 

・モンジュー(第34話)

 凱旋門賞、ジャパンカップを走った次の年も現役続行。キングジョージを制すなど、最強馬として活躍を見せつけた。後に産駒のハリケーンランが、エレクトロキューショニスト、日本から遠征したハーツクライ、グレートエスケープ産駒のエスペラがキングジョージで激突。見事に勝利するなど、産駒同士でも激突した。

 

・エルコンドルパサー(第34話)

 ジャパンカップ当日、昼休みに引退式を行う。最終レース後にはグレートエスケープの引退式もあり、ちょっとしたお祭りデーだった。グレートエスケープと言葉を交わし、種牡馬としてもGⅠ勝利、凱旋門賞勝利を先にとることを誓った。しかし、夭折してしまい、それは叶わなかった。後に父グレートエスケープ、母父エルコンドルパサーの牡馬が活躍。出走した凱旋門賞では……いえるのは、種牡馬入りして、グレートエスケープ、そしてエルコンドルパサーの血を繋いでいったということ。

 

・アグネスデジタル(第35話)

「僕は――アグネスデジタル! 受け継いだ意志を叶えてみせる。例え、世紀末覇王が相手だとしても。勝負だ、テイエムオペラオーッ!」

 後に芝、ダート、そして世界の至るところでGⅠ勝利を挙げてみせた。場所を選ばず、勝利を目指す姿は多くのファンに勇気を与え、語り継がれていく。そしてその意志もまた、受け継がれていく……。

 

 

 

 

 

 ――XX19年、5月26日。東京競馬場。東京優駿、日本ダービー当日。

 

 パドックには世代の頂点を決める戦いに参戦する、18頭の馬たちと、それぞれの陣営が集まっていた。

 そのうちの1頭、1枠1番の黒鹿毛の馬に、一人の男が跨った。

 少し童顔ながらも、顔にはしわが刻まれ、酸いも甘いも噛み分けた彼は、騎手として堂々たる振る舞いを見せつける。

 

「ありがとうございます。グレートエスケープの子供に、ダービーで乗せてくれて。皐月賞には間に合いませんでしたけど、今日のこいつは気合が漲っていますよ」

 

・梶田健二(第4話)

 グレートエスケープの主戦騎手。グレートエスケープ引退後も騎手として活躍。時に不振で勝てず、落馬による怪我、外国人ジョッキーの参戦などでGⅠレースの勝利が遠のくこともあった。しかし、彼は諦めず、地道にできることをこなしていった。そして、今日の日本ダービーに挑むのだった。天に旅立った相棒以来の栄光を、再び掴むために。

 

 調教師が、不敵に笑う。

 若いころの頼りなさげな振る舞いは鳴りを潜め、かつての師匠のように、豪快に構えていた。

 

「ここを勝つために調整してきました。あとは1番に入線するだけです。こいつでダービーを勝てなかったら、もう一生縁がないと思うくらい。まだグレ坊の子供はダービーを勝っていませんからね、ラストチャンスですから、勝ちたいですよ」

 

・白村駿輔(第4話)

 黒井調教師の調教助手として活動していたが、3度の挑戦の末、調教師免許に合格。黒井厩舎から独立した。開業から12年、度々日本ダービーに管理馬を送り出していたが、最高が4着と勝利できなかった。それでも諦めることなく、13年目の今日、日本ダービーに管理馬を送り出す。奇しくも、その馬は、グレートエスケープのラストクロップの牡馬だった。

 

 寡黙な厩務員は出走する管理馬の馬体を隅々までチェックする。

 もしも不調があれば、例え唯一のチャンスだろうと、出走取り消しを進言することも厭わない思いで。

 だが、それは杞憂に終わる。2年間見続けてきた管理馬は、ホースマンすべてが唸るほどの絶好調だった。

 

「……問題なし。大丈夫です」

 

・西京白哉(第4話)

 グレートエスケープの担当厩務員。引退後も黒井厩舎で働いていたが、白村が調教師となるタイミングで白村厩舎へ移籍する。新人で頼りない白村調教師を、寡黙に働きながら、支え続けた。そして、グレートエスケープ産駒の担当になると、ダービー制覇を目標にしながら、世話をし続けてきた。寡黙に、こつこつと。その成果は、今日の日本ダービーに表れるだろう。

 

 調教師を引退し、競馬評論家となった男は、かつての管理馬の面影を残す黒鹿毛の馬を見て、感嘆の声を漏らす。

 思い出深いあの馬を思い出すと、つい涙腺が緩くなる――密かに目元を拭った。

 

「それにしてもこいつ、グレ坊にそっくりやな。一回り小柄なくらいやが……あとは全部瓜二つや。コラムでちゃんと二重丸を打ってよかったわ」

 

・黒井昭寿(第3話)

 栗東に開業している調教師。懇備弐牧場へ訪れた際に、橘馬奈と出会い、管理を頼まれる。最初は血統を聞いてもあまり走らないと思ったが、グレートエスケープを見てこれは走ると思い、預託を決めた。

 引退後も名馬を送り出し、後に調教師を引退。その後は競馬評論家として活躍している。時々本を出してはたくさん売れており、競馬ファンの間ではエピソード豊富な調教師として知られている。

 

「しかし……ありがとうございます。わざわざ関係者として招待してくださって。――橘オーナー」

 

 黒井調教師――黒井は振り返る。

 馬主記章をつけたスーツ姿の女性は、懐かしむように微笑んだ。

 

「わがままを聞いていただいたのはこちらの方です。初めて所有した競走馬なら、この方々と一緒にレースに臨みたいと思っていましたので……まさか日本ダービーに出走できるとは思ってもみませんでしたけど」

「違いますよ。初めての馬じゃないです」

「え?」

「我々の誰もが思っていますよ。貴方は、グレートエスケープの馬主だった。そこは、自信を持って言ってください。お姉さまと、橘オーナーの二人が、あいつの馬主だったんです」

「……ありがとうございます」

 

 橘恵那は小さく笑って、頭を下げた。

 丁度20年経っていても、あのときとよく似た、優しい笑顔だった。

 

・橘恵那(第12話)

 グレートエスケープ引退後は馬主資格がなくなり、元の生活に戻った。その後は獣医に関わる医療器具メーカーを設立。0からスタートし、瞬く間に会社を大きくしてみせた。そして、ついに馬主資格を自力で取得した。最初は懇備弐牧場で生まれたグレートエスケープ産駒(母父サンデーサイレンス)を購入。体調不良で種牡馬を引退していたため、ラストクロップだった。グレートエスケープが死去した翌年、その牡馬で日本ダービーへ挑む。

 

 橘恵那は所有馬を撫でた。

 手触りもそっくりで、懐かしさに身がぶるりと震える。

 その黒鹿毛の牡馬は嬉しいのか、自らのオーナーに身体を押し付け、甘えた。

 

「それじゃあ、頑張ってね――グレチャン……」

「ひひぃんッ!」

 

・グレートチャンプ(エンドクレジット)

 父グレートエスケープ。母父サンデーサイレンス。グレートエスケープのラストクロップ世代たるXX16年生まれ。天長牧場長がチャレンジしてサンデーサイレンスを種付けし、生まれた牝馬にグレートエスケープを付けたことで生まれた、懇備弐牧場生産の牡馬。2歳にデビューするが勝ち上がりが少し遅れ、弥生賞では優先出走権を獲得できず、皐月賞は諦めた。その後京都新聞杯を勝利し、日本ダービーへ臨む。

 

 

 

 ――サラブレッドの血脈、輝かしい栄光と希望。そして、ホースマンの願い、意志、祈りは受け継がれていく。

 これからも、ずっと。




これからはウマ娘編だったり、競走馬編dったり、思いついたものを書いていきます。
更新ペースは落ちるかもしれませんが。
ひとまず種牡馬生活編やウィキ、大百科、ファンの評価などなど、書きまくりたいですね。お楽しみに。

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