※一部現実の番組表、ルールと相違ありますがゴルシちゃんによるウマムスキー粒子の影響(第1話参照)で変化が生じています。
※ところどころ時代設定に矛盾がある場面もありますがこれもウマムスキー粒子の影響です。
・気づいたら日間ランキングで度々ランクインしたり、評価が爆増していたり。皆さまのおかげで書く気力がわいてきます。ありがとうございます。これからも気が向くままに書いていきます
・ウマ娘が面白いおかげですね。5年前はな……すごく馬鹿にされておってな(古参ヅラ)
・競走馬パートが少し長くなってしまいました。あとがきもついつい楽しくなって色々と書いてしまいましたが読み飛ばしても問題ありません
2週間前、ダンスパートナー先輩がオークスで待望のGI勝利を飾った。桜花賞2着の雪辱を果たす勝利に厩舎は湧いた。
黒井先生もこれがGI初勝利らしく、笑顔を浮かべていた。
そんなムードの中、いよいよ俺のデビュー戦の日程が決まった。ゲートもすんなりと出れるし、調教タイムもいい時計を出してることから、ダービーが終わった次の週、つまり最初の2歳新馬戦に出走することになった。
厩舎ではダンスパートナーに続く期待馬として応援されている。
そうなると、調教も熱が入る。一週前追い切りともなると、馬にまでやる気が伝染したのか厩舎の先輩馬たちも俺を鍛えようと激を飛ばしてくる。
そして最終追い切りの日が近づいてきた。
「最終追い切りの日は騎手に乗ってもらうからな。お前も失礼はするなよ」
「先生、馬に何言ってんすか」
「こいつはわかるねん、人の言葉が」
「またまたぁ」
「担当の西京に聞いてみろ。俺よりもよく知っとるはずやで」
「ほんとですかぁー?」
俺の馬房の前で先生と厩舎スタッフが話している。騎手が最終追い切りで乗るのは珍しいことじゃない。特に期待されている馬なら、レース前に馬を知るために乗ってくれと依頼することも多くなる。
とはいえ、だ。
騎手が乗ってどうなるのか、俺は少し懐疑的だった。
育成牧場や調教で人に乗られることは何度もあるが、はっきり言って人に乗られると重い。
荷物を背負って坂路やダートを走るとそれはもうしんどいことこの上ない。
いくら騎手がいないとレースにならないとはいえ、騎手が乗ってない方が当然速く走れるのだから、乗せたくないのが本音だ。
厳密に言うと、下手くそが乗ったら走りづらくなるから、上手な人に来て欲しい、ということだが。
「先生、健二くん来ましたよ」
「おう。行ってくるわ」
スタッフが黒井先生を呼びに来た。どうやら噂の騎手が来たらしい。先生は馬房の前から去っていく。
残ったのは先程まで話していたスタッフのみ。
うーん、噂の騎手に会ってみたい……スタッフは壁によりかかりうつらうつらしている。眠いのだろうか、サボるつもりだったのか、休憩時間なのか。
俺も大人しくしていよう、と言いたいところだが。
現在の馬房の状況を説明しよう。扉が開いた状態で、目の前には金属の太い棒が横に設置されている。
普通なら馬は乗り越えるにもくぐるにもできない高さがあるため、ここからは出られない。
だがしかし! 俺は普通じゃない。そもそも、俺はほかのサラブレッドと比較しても大柄だ。
そして関節も柔らかい。これは生産牧場でマッサージをたくさんしてくれたみんなのおかげでもあるが、つまり何ができるかというと……
「よっこいしょ」
乗り越えられます。ポールがお腹を圧迫するけど大した苦痛ではないのでそれも問題なし。ぶつけないように注意をしながら乗り越えてからスタッフを確認した。
……シエスタである。邪魔してはいけない。
厩舎の事務所の方へ向かって歩いていく。幸い誰にも出くわさずにたどり着くことが出来たが、事務所の入口で見慣れない男がホウキとちりとりを持って掃き掃除をしていた。
小柄でヘルメットを被っている。騎手のように見えるが、なぜ掃除を?
「まじ有り得ねー、なんで俺が掃除しなきゃなんねーの。一応俺ちゃんGIジョッキーなのにさぁ……てか調教するんじゃねーのかよ」
ぶつぶつ言ってるのを聞くに、どうやらやらされているらしい。掃除が趣味のジョッキーは中々好感度高いと思うが、そんな奇特な人はあまりいないだろう。
小さく嘶いて挨拶をした。挨拶は人も馬も大切だ。
「ん……? うお、なんでこんなところに馬がおんねん……厩務員とかスタッフはどこや?」
「お、やっぱり抜けてきたか。できると思ってはいたが本当にやるとはなぁ。ははは、ええ馬や」
「黒井先生……」
「グレ坊、こいつは梶田健二。生意気なちゃらんぽらんやが腕はあるヤネ(騎手のこと)や。ほら、お前も挨拶しぃ」
「よろしくな。グレートエスケープ……グレ坊」
ぽんぽんと撫でてくる梶田騎手。童顔に見えるが、先生の話からすると本当に若いのかもしれない。
大丈夫だろうか。同じ厩舎の先輩馬が「若い騎手はグイグイ押してきたり、行かせてくれなかったり、中々楽に走らせてくれない」とぼやいていたのを思い出した。
そんな不安は、最終追い切りであっさり払拭されたのだった。
(軽い……というより、走りやすい! 確かに重量はあるが、走るときの動きを邪魔しないどころか……サポートしてくれているみたいだ)
栗東トレセンの坂路を駆ける。4F(800メートル)のタイムは自己ベストを大きく更新する数字だった。
併せ馬の先輩を置き去りにする結果に、俺は不安が自信に変わるのを感じた。
「どや。こいつは。走るやろ」
「賢いですね。乗り役の指示に逆らわないし、反応もいい。長く良い脚も使えますし」
「ゲートも得意やからな。前につけて抜け出す王道の競馬をやってくれるで」
ジョッキーと先生も満足の結果だったらしい。今週の新馬戦に向けた調整は正に完璧といえる。
「ところでこいつ脱走したんスか?」
「せやで。頭いいやろ」
「やばいっスよそれは! てか、管理どうなってんスか!」
「こいつ賢いから厩舎の周りで過ごすし、車のあるところ行かないしな。たまにはええやろ」
「いやいやいや!」
先生も話がわかる……と言いたいところだが。自分で言うのもなんだが。
……先生がこっち側なのは、まずいのではないですか。
こうして迎えた新馬戦。舞台は京都芝2000m、内回り、10頭立てのレース。直線はほぼ平坦で、波乱が起きやすいコースとして知られている。
俺は2枠2番、内枠を得ることができた。先生が騎手に指示していた前目につける作戦を考えれば、内枠はロスなく進める分、有利だ。
新馬戦では一部のマニアなファンが見に来るくらいで、騒がしいという印象はなかった。でも、競馬を見に来る人達の持つ熱量というものは、感じ取ることが出来た。
(ギャンブルだもんな。そりゃーそうだ)
パドックを周回しながら気持ちを落ち着かせようと息を入れる。俺の単勝オッズは2.2倍の1番人気。調教タイムが評価されたのだと言っていた。
血統とかよりもそのほうが自信がつく。努力や結果を認められるのであれば、それは俺の実力ってやつだからな。
「ダンスパートナーさん……見ててくれよ……勝ってみせるから」
ダンスパートナーさんはオークスに勝ったあと、フランスへ遠征している。
きっと大丈夫、頑張ってね?
そんな彼女の励ましに気合いが入ったのは言うまでもない。それと同時に、同厩舎の先輩たちからすごく睨まれた。外国人の美少女が新入りに優しくしているんだもの、確かにいい気分はしない。
だが、そんな先輩たちも併せ馬では俺が勝てるように本気で付き合ってくれた。
色んな人の期待を背負って、鍛え上げてもらった自分が負けるわけにはいかない。
パドックの周回が終わる。これから本馬場へ向かい、レースが始まるのだと思うと心臓が跳ね上がった。
――スタートは100点満点の出来だった。
内枠から飛び出してハナへ立つ。大丈夫、俺は冷静だ。冷静だ。そう言い聞かせながら第1コーナーへ走る。
外側から人影、いや馬影がやってくる。
「どきな芋野郎! ちんたら走ってたら眠くなっちまうぜ!」
元気に走り込んでくるなり、俺の斜め前にピタリとつけた。ハナを奪われても関係ない。落ち着いて控え、脚を溜めるだけのことだ。逃げても、先行してもいいと騎手も先生も言っていた。
「そうだよ大人しく引っ込んでな! 芋くせぇ厩舎に芋くせぇ馬、近づかれたら敵わねーよ!」
先頭を逃げた馬の名前は知らないが。俺と同じく2歳馬だろう。まだ若く、怖いもの知らず。初めてのレースではしゃいでる可愛い栗毛の若駒。
反対に俺は大人だ。馬としては同い年でも人間としては30年くらい生きていた……ような、気がする。
だからこの程度の挑発に乗るという精神的ミスは決してない。
「……? ペース速いぞ。抑えろ。おい……ん? おい、待てっ」
だからこれは別にキレたとかではなく、先頭で楽に逃がしたらまんまと逃げ切りを許してしまうだろうという戦術的判断によるペースアップだ。
キレたわけではない。俺は冷静だ。俺はとても冷静で……あいつを蹴り飛ばしてやるんだよ!!
手綱が引かれる。
このサインの意味はよくわかっている――そうだな、行けってことだな。
蹴り飛ばしてやれってことだな!
俺をバカにするだけでなく、厩舎のみんなをバカにしやがった栗毛のあいつが、俺の前を走るのが許せない。
「待たんかいコラァァァァッ! お前どこの厩舎のもんじゃぁぁぁぁ! 人生めちゃくちゃにしてやるッッッ! 馬生めちゃくちゃにしてやるッッッッ! 騙馬にしてやるからなッッッッ!」
「うわっ、なんだこの芋野郎!?」
「てめー覚悟しろ! 口の中をいっぱいにしてやる! じゃがいもでッ!」
呑気に前を走る栗毛の馬めがけて、全速力で足を踏み出した。
「梶田騎手! レース後のインタビュー、よろしいでしょうか」
「なんスか。人気馬トバした若手騎手の騎乗ミス、ってタイトルにするつもりッスか」
「いえ、そんな! 私はあの馬のことについて聞きたいだけで……」
「冗談スよ……今日に関しては初めてのレースでかかったッスね。前の馬を追いかけようとしてペースを上げたがりました。折り合いもつけられなかったし、今日の敗戦は仕方ないッス」
「ですが逃げて前半1000mを58.2秒、しかも3着に粘り込みました。この馬の持ち味はスタミナとスピードを兼ね備えた点でしょうか」
「いえ、正直今日のレースは持ち味は欠片も出せていなかったッスね。3着になれたのも後ろの馬がついてくるだけでバテてただけで、グレートエスケープもかなりバテてましたから。むしろこんな一面があるのかって、マジビビりました。次は黒井先生とお話して、決めていくと思います」
「お話、ありがとうございました」
少し離れたところで、梶田騎手と記者が会話をしている。いつもなら聞こえる距離なのに、会話が全然頭に入ってこない。
前半1000mを超ハイペースで逃げたのだ。正直、頭の中がぼやぼやするほど疲れ切っていて、満足にあれこれ考える余裕すらない。
レースはあのいけ好かない野郎は最下位に沈んだが、直線ではもう脚が限界で差されて3着。途中から頭に血が上ってレースをしたなんてとてもじゃいえない、情けないレースだった。結果よりも、内容が悪すぎる。
元々そんなに怒りっぽかったかなぁ、なんてうなだれたまま、厩務員の西京さんに鞍などを外してもらっていると、黒井先生が俺の前にやってきた。
「これが競馬や。ちょっと賢いくらいじゃ勝てんのや。今日の負けはお前の慢心と経験不足や。せやけどな、落ち込んでる暇はないで」
黒井先生の一言に、沈んだ心が奮い立たせられる。
そうだ。次、勝てばいいんだ。まだレースはある。次勝って、仕切りなおせばそれでいいんだ。
俺は悔し涙を飲み込んで、馬運車へ乗り込んだ。
できれば避けたかったが、デビュー戦は終始暴走していたことは、厩舎の先輩たちに知られることとなった。
「ぎゃははは! おま、おまえ、あんな賢いですってツラしておきながら、お前挑発に乗って……ぶははは!」
「ちょ、笑ったら可哀そう……んんッ、ふふふっ」
「若さが出たってやつだな。くくく……うん、いいんじゃあないかな。おじさん、そういうの面白いと思う。くくくく……!」
当然の如く爆笑される。顔がぼうっと熱くなるがすべて事実なので理屈だった反論はまったくできない。先輩たちもここぞとばかりにイジってきた。
そんな先輩たちに対して、俺は苦し紛れに
「うるせーっ! うるせーっ!」
と繰り返すので精一杯だった。
ダンスパートナーさんがフランスに遠征していてよかった。あの人にまで笑われたら、立ち直れないかもしれない。
でも、なんだかんだ先輩たちは「次は勝てる」と励ましてくれていた。その優しさが少しだけ痛かったが、それ以上に嬉しかった。
次走は3か月先の未勝利戦のレースに決定した。
黒井先生曰く、新馬戦の疲労が抜け切れていないのと、暑さで疲労させたくないから夏は全休し、秋の阪神競馬場でのシリーズが始まったらそこで再始動する、と。梶田騎手からのローカルのような小回りにはあまり向いてないかもしれない、という意見も受け入れての判断らしい。
それまでは少しの間、故郷へ放牧に出されたり、あとはさらに能力をつけるべく、調教でトレーニングに専念することとなった。
敗因は俺の精神的な弱さが招いたものだが、実力が充分だったわけではない。
鍛えるべき能力は山積み、呑気していられる暇などほとんどない――とは、黒井先生のお言葉。負けに対して気にしていない風を装っているが地味に引きずっていることに最近気が付いた。
その分調教にも熱が入る。馬体が成長しきっていないから、負荷はかけすぎず、かといって軽くなることもない線引きを探りながらのメニューをじっくりと。ある週は楽で、ある週はハードで。
そんな調教を繰り返すある日のこと。少しだけ涼しい、夏の早朝の頃だった。
今日はウッドチップでの併走を厩舎の先輩である『ラッキーパンチ』さんと行った後、二人して厩舎に帰っている最中に、ラッキーパンチ先輩が口を開いた。
「お前、また速くなったなぁ」
「そうでしょうか。先輩や先生のおかげですよ」
「それもあると思うが、お前はよくやっているよ……お前は頭が良いし、何より才能を理解したうえで努力している。少し羨ましい」
ラッキーパンチさんは力なく笑った。俺よりも年上の3歳馬で、ダンスパートナーさんと同じく、厩舎に入った俺に優しくしてくれた先輩だ。
できることがあれば力になりたいが、どこまでいっても俺は馬。できることは限られている。せめて話だけでも、と言うと、ラッキーパンチ先輩はぽつぽつと口を開いた。
「俺、競走馬に向いてないんだよ。足は遅いし、根性もないからな……」
「そんな。この前のレースはハナ差の2着だったじゃないですか。次、勝てばいいんですよ」
「……その勝ちもお前のおかげさ。お前が走っているのを見て、どうするべきなのか、ようやくわかりかけてきた結果が2着さ。でも、次のレースはないんだよ」
「どういう、ことですか」
ラッキーパンチ先輩は淡々と説明し始める。
新馬戦で勝てなかった場合は未勝利戦で勝利を目指すことになる。しかし3歳馬の未勝利戦は8月まで、ここで勝てなかった馬は地方競馬の舞台へ行くか、格上となる条件戦へ出走するか、競走馬を引退するか……今は8月、もう先輩が出られる未勝利戦は開催されないとのことだった。
「じゃあ、先輩は」
「引退ってことになった……丁度乗馬としての働き先があったから、そこに行くんだ。俺は思い切り走るより、のんびり歩く方が似合ってるしさ……そっちで生きていくよ」
「……」
なんて声をかければいいのか、わからなかった。人間でいうなら、戦力外通告でチームを離れるプロのスポーツ選手といったところだろうか。
人間ならここで「また会いに行きますよ」「一緒にプレイできて楽しかったです」なんていうんだろうが……俺たちは馬だ。自分から会いに行くことはできない。かといって、一緒に走れて楽しかった、なんて言葉を気軽にかけていいのだろうか。
ついさっき、「次勝てばいい」なんて言葉を無責任に吐いた自分が。
「グレ坊。お前……きっと強くなれるよ。だから、乗馬している俺にもわかるくらい、すげえ活躍をしてくれよ。それで牧場で自慢するんだ。『アイツと一緒に走ってたんだぜ』って」
先輩のその言葉に、すぐに返事をすることができなかった。
次のレースで勝とう、なんて考えていた自分が恥ずかしいとすら感じている。『次のレース』は俺にはあるが、では勝つのは『どのレースの次』になるのだろうか。
次のレースを勝つんじゃない。目の前のレースを勝って初めて次のレースを考えることが許される。
甘えていた自分を蹴飛ばして、先輩に向き直った。
「先輩……俺、未勝利戦にもうすぐ出走するんです。厩舎を出るのは、それより後でしたよね」
「ああ、多分……」
「見ててください。俺、そこで必ず勝ってみせます。そこを勝って、先輩が自慢できるような競走馬になることを、約束します」
先輩は優しく笑ってくれた。
未勝利戦は夏競馬が終わった9月の阪神競馬場、芝1600m・外回りのレースになった。距離は長い方が向いてるがこのクラスならマイルでもいける、コーナーも大回りのほうが得意だろうという陣営の判断によるものだった。
残暑が厳しい、晴れの日。芝は乾いていてとても走りやすそうだ。
ちなみにパドックには橘ちゃんが来てくれていた。新馬戦のときは仕事の都合で難しかったらしいが、そう考えると来てくれなくてよかったのかもしれない。
「グレっち、前回は言うこと聞かなかったん? そりゃダメっしょ~! ちゃんと梶田騎手の言うこと聞くんだよ? そんでバイブス上げて、パパっと勝っちゃうカンジで頼むね~?」
「……黒井先生、橘オーナーってこんな感じなんスか。めっちゃパリピって感じッスね」
「……おまえ、それギャグで言っとんのか?」
ああ、橘ちゃんに撫でられて幸せ……ケンちゃん(梶田騎手が何回も調教乗ってくれてるので親しみを込めた呼び方にしている)は乗っててすごい楽だから好きだけどやっぱり橘ちゃんに乗ってもらいたい。
尻がいい。尻が……
「少し痩せた? ご飯食べてる? 体調悪くない? 平気? 一緒にドライブする? 愛車になるよ?」
「きゃっ、ちょっとグレっち、あまりもぞもぞしちゃヤバイって」
くすくすと橘ちゃんが笑う。
ふざけるのもほどほどにして、梶田騎手を背中に乗せる。厩務員が肩を貸しているのを見て、可哀そうだから姿勢を低くしたら先生に怒られたことを思い出した。
無暗に足に負担をかけるな、と。
橘ちゃん、今日は見ててくれ。それに……先輩も。勝って、約束するから……必ず。
「グレ坊はやたら橘オーナーに懐いとるな……今度調教で試しに女の騎手乗せてみようか……」
「先生、本気で言ってんスか?」
ゲート前に移動すると、何の因果か、新馬戦で一緒だった栗毛の煽り野郎がいることに気が付いた。競馬新聞で見たが未勝利戦を2戦していずれも入着するなど、力をつけていると陣営や評論家の解説が端っこに乗っていた。
栗毛野郎は俺に気が付くと声をかけてきた。
「おい芋野郎。とっくに馬肉にでもなったかと思ったぜ。ま、甘ちゃんだもんな。俺みたいに夏も走り続ける体力がねえのも仕方ねえか! 甘ちゃん馬に甘ちゃん厩舎、お似合いだな!」
これはこいつの戦法なのか、ただの性格なのか。いずれにしても、こいつなんて眼中にない。今日は勝たなくちゃいけない……絶対にだ。
先輩のためにも、勝たなくちゃいけないんだ。
ただ、言われっぱなしは趣味じゃない。俺は栗毛野郎に言ってやった。
「ママ専用の種牡馬にでもなってろ」
「てめぇこの野郎!」
栗毛馬が暴れ出すが騎手が手綱を引いて落ち着かせようとバタついている。
「……うは、めっちゃエキサイティングしてんじゃん。近付かないようにしとけよ。蹴られたらやべーっしょ」
「せやな。いやー、自分の感情を抑えられない奴ってダメだよな」
ケンちゃんのぼやきと誘導に従い少し距離を取る。
それにしても人間だろうと、馬だろうと、motherf**kerは痛烈な罵倒になるとは。万国共通どころか種族を越えた罵倒っぷりに少し感動する。
言って悪いことではあるが、俺だけじゃなく先生たちまで馬鹿にしたんだ。お互い様だろう。
未勝利戦のファンファーレが鳴り、ゲートへ歩みを進める。今日は12頭立ての7枠10番の外枠での出走となる。
1番人気は前走の結果から俺で3.7倍、栗毛野郎は2番人気だった。
今回に関しては先生も騎手も枠順をあまり気にしていなかった。作戦はどうするのだろうか気になるところだが、そこは騎手に全部任せて、俺は走ることに集中するだけだ。
同じ轍は踏まない。
ゲートが開く。スタートは問題なく、外からハナを奪う。
内側には同じくいいスタートを切ったらしい、栗毛のあいつが右斜め後方に映っている。
「なんだ芋野郎! 今回はちんたら走るじゃねえかよ、えぇ!?」
鞍上の指示は特になし。今のペースで問題ないようだ。
阪神競馬場の1600mは朝日杯や桜花賞が行われるコースと同じでスタートから第3コーナーまで約400m、直線は約350mの直線があり、坂もあることから差しや追い込みの戦法が決まりやすい。
ペースを上げ過ぎては後ろの馬に差されてしまう。スローペースに落としたいものだが、展開はすんなり落ち着いたスローペースになった。
(そうか、前走で暴走したからそれを警戒してみんな追いかけてこないのか)
図らずも前走が今回に役立っているようだ。
しかし、そうなると後ろの馬たちはゆったり走って、瞬発力を発揮してくるのではないだろうか。
ハッキリ言って俺は瞬発力よりも持続的に速いペースで走る持続力型だ。
もう少し逃げるべきじゃないのか?
気持ちが徐々に前のめりになったそのとき、手綱が少しだけ引かれ、冷静さを取り戻す。
(大丈夫だ。ペースはケンちゃんに任せるんだ。俺がすべきなのは、とにかく冷静に走ることだ。逃げるんじゃない……俺は、勝つんだ!)
第3コーナーから第4コーナーにかけてペースを速めるよう、指示が入る。
ギアを上げていくように、じわじわとラップタイムを加速させていき、最後の直線もまだ持ったままで鞭が入らない。
「ケンちゃん! 後ろどうなってんの! 後ろ!」
当然返事はないが、鞍上はとてもリラックスしているようだった。
このままで問題ないのか。ペースを保ったまま、坂を上る。横目でターフビジョンを窺うと、ゴール前で独走している自分の姿が目に入った。後ろは4馬身ほど離れている。
「あっ……あれ……なんかすげー勝ってるなぁ」
ゴール板を駆け抜けてもまだ余裕たっぷり。それだけ完璧なレースができたというべきだろうか。
勝利の喜びよりもあれこれ気合を入れた割りにあっさり勝ってしまった困惑の方が強かった。大歓声でもあれば違うのだろうが、所詮は朝早くの未勝利戦。決して観客は多くないため、ちらほら声が聞こえる程度。
「この、芋野郎のクセに……! なんなんだ……なんだよ、アイツ……勝てねえよ……!」
栗毛のアイツが睨みつけてくる。だが、今更話すことなどはなかった。俺とほかの馬との間に勝者と敗者という線が容赦なく引かれ、会話すらも隔てていた。
これが、戦いの世界なのだろうか。だとしたら、それがとても恐ろしいことのように感じられた。
レースに出てくる馬たちはみんな誰かの思いを背負って走っている。その上で勝利というたった一つの席を巡って、争う。
勝てば栄光を掴み、負けたら何も残らない。
十分な結果を残せなければ、その未来は……。
それが競走馬の理で、そのことを理解して……俺は初めて『競走馬』になったのかもしれない。
検量室へ向かい、レースが確定したことで俺の初勝利が決定した。
「よしよし。よくやったわ。随分余裕そうやな。ケロっとしてるし、次はプラン通りにいけそうや。橘オーナー、グレ坊を褒めてやってください。ちょっと興奮してるかもしれないから、優しくな」
「あっはい……グレっちすごいね! 近くの馬主さんがね、すごく強いって言ってたよ。グレっちはサイコーなサラブレッドね!」
なでなでよしよしされる。
これはすごい、確かに興奮しちゃいそうだ。あっそこはくすぐったい……
その後の口取り式での写真撮影ではちょっとポーズでも決めようかと思ったけど、流石に危ないのでそれはやめた。
ただ、ケンちゃんが鼻の下を伸ばして橘ちゃんの隣に立とうとしていたので軽く蹴って追い払った。橘ちゃんの隣に立つのは俺だ。
後日、ラッキーパンチ先輩が厩舎を旅立つことになった。話すタイミングを窺っていたが、俺の馬房の前を通った時、少しだけ話をすることができた。
「グレ坊。ありがとう。お前が勝ってくれて嬉しいよ」
「先輩……ありがとう、ございました……!」
「俺は大したことしてねえよ。でも……いいな。いつかお前にお礼をされたって自慢できる。ダンスパートナーさんっていうスターとも一緒にいられたしな」
「……俺、すげえ馬になります。俺にはそれしかできないですけど……いつか俺に色々聞いてくる馬がいたら言ってやります。ラッキーパンチ先輩って馬に優しくされたから、今があるって」
「馬鹿野郎……ウケねえよ、それは」
ラッキーパンチ先輩は少しだけ涙ぐんでいるように見えた。
俺は我慢できず、涙を流してしまった。
彼が新天地でも幸せに過ごせるように祈り、そして彼に俺の活躍を届けられるように、より一層強くなろうと誓った。
×××
いよいよイベントレースの日がやってきた。
トレセン学園には一般の観客も多数来場し、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。それもそのはず、今回のイベントレースに出走するウマ娘は錚々たるメンバーがそろっていた。
大歓声の中、入場するウマ娘たちを実況者が読み上げる。
「トレセン学園エキシビジョンレース、今回は芝2400m、左周りで行われます。さぁ、入場するなり大歓声が響き渡りました! 3枠3番に入るのは『レースに絶対はないが、彼女には絶対がある』と評された皇帝・シンボリルドルフ!」
「6枠6番には孤高の王者、シャドーロールの怪物・ナリタブライアン!」
「ターフの名優、メジロマックイーンは1枠1番へ! 2枠2番へミホシンザンが収まります」
「葦毛の怪物、オグリキャップも参戦! オグリは4枠4番へ」
「7枠7番へ入るはヤマニンゼファー、この距離でもいけると自信たくさんのコメントがありました」
「5枠5番へはメジロラモーヌ! トリプルティアラウマ娘が堂々とゲートに入ります!」
いずれもGⅠ競争で勝利を挙げた超一流ウマ娘たち。いくらイベントレースといえど、あまりに豪華なメンツに新聞で号外が出たという。
余談だがなぜこのような豪華なレースメンバーになったかというと。
まず、生徒会長であるシンボリルドルフが観客たちを呼び込むために出走を宣言。同じく生徒会の副会長であるナリタブライアンがシンボリルドルフとのレースを望み、滅多にレースをする機会がないが故に、チャンスと挑んだのがメジロラモーヌ、ミホシンザン、そしてヤマニンゼファー。
オグリキャップとメジロマックイーンは優勝賞品の一流パティシエによる絶品人参スイーツを目当てに参加した。
その中で異色だったのが――
「8枠8番の大外枠に入るのは、なんとなんと! デビュー前のジュニア級所属ウマ娘、グレートエスケープ! 直前のインタビューでは『1着が目標』とだけ短く答えていました。果たして、どこまで通用するのでしょうか」
――グレートエスケープだ。
彼女は賢く、鍛錬を積んだウマ娘だということはわかるが、相手がシニア級――それも歴史に名を残すウマ娘たちが相手となると話は変わる。
ジュニア級とシニア級ではそもそも肉体の完成度が違う。経験も、まだトゥインクルシリーズで走ったことすらないグレートエスケープと他のウマ娘とでは天と地ほどの差があるだろう。
「2400mという距離はクラシック級の春になってようやく走り出す距離だ。大まかに中距離という枠組みでこそあるが、最長でも2000mまでしかレースのないジュニア級のウマ娘にとっては長距離レースとすらいえるだろう」
「どうした急に」
「ましてやジュニア級のデビュー前のウマ娘にとって走り切るだけでも相当困難だ。さらに相手はいずれも超一流のウマ娘たちだ」
「どこまでやれると思う?」
「無理だ。こんな挑戦、無謀とすらいえる……だが超一流ウマ娘との戦いはグレートエスケープにとって貴重な経験になるはず」
「つまり未来に向けた挑戦ってやつか」
「ああ。未来のダービーウマ娘はグレートエスケープかもしれないな……」
観客たちが口々に意見や疑問を口にする。
確かに一流ウマ娘と走ることは得難い経験になるだろう。冷静で賢いグレートエスケープならば未来を見据えたレースを選択することは予想できる。
だが――
『来週のトレセン学園のイベントレースに出走する』
あの時、宣言した彼女の瞳は本気だったように見えた。本気で最強たちに勝とうとしている、挑戦者の目だった。
「やはり癖があるウマ娘だな……良い才能はあるが、いくらなんでも傲慢というものだろう」
「ああやって現実を知っていくものなのよ。とはいえ、あそこまで無謀だなんて……彼女は天才なのか、愚かなのか、紙一重ね」
「そもそも2400mをいきなり走ろうとすることの方が危険よ。足の負担など考えてないのかしら……ああいうタイプは遅かれ早かれ、怪我で引退してしまうわ」
以前彼女をスカウトしていたトレーナーたちも冷ややかな視線を向けるばかり。
だが、彼女なら何かやってくれるんじゃないか。だから――
半ば祈るようなそんな気持ちでグレートエスケープを見つめた。
(頑張れ……グレートエスケープ……!)
○
「グレートエスケープ!」
ゲート前で精神統一を行っていると、声をかけられた。声をかけてきたのは、生徒会長にして皇帝と称される三冠ウマ娘、シンボリルドルフ。
――最強の称号を持つウマ娘。
彼女はにこやかに手を差し出してきた。
「噂は聞いている。レースに出たら年功序列、デビューの前かどうかは関係ない。だが君のような新進気鋭のウマ娘が出走してくれて、嬉しく思う。今日はいいレースをしよう」
友好的な態度だが、にじみ出るオーラは熱く、鋭い。
身長でいえば私の方が上だというのに、シンボリルドルフ会長は巨大な一つの岩のように大きく見えた。
頬を汗が伝う。冷や汗か、脂汗か。
心臓を鷲掴みにされたような迫力を覚えながらも、私は握手を拒否した。
「……私は勝つためにレースをする。勝ったレースがいいレースだ」
「ほう……そうか。それは失礼した。緊張しているかと余計な気をまわしてしまったようだ……自家撞着だな。ならば、全力で相手をしよう」
シンボリルドルフ会長の視線が鋭くなった。普段の生徒会長としての姿は威風堂々としているが、こうしてレースを共に走る段階になって、より威圧感の溢れるウマ娘であることを実感する。
なるほど、皇帝と呼ばれるわけだ――最後にゲートに入る。武者震いか、怯えか、震えを落ち着かせる間もなく、ゲートが開いた。
○
「あーあ、なんだか可哀そうになっちゃいましたね。スタートは完璧、ハナをとったのに直線ではすぐに抜かれて最下位入線……しかもかなり離されて」
「当然よ。相手はGⅠをいくつも勝ったウマ娘たち。幾ら才能があろうと、トレーナーもついていないデビュー前のウマ娘が戦える相手じゃないのよ。時々いるけどね。そういうことがわからないウマ娘が」
「やれやれ。三冠まで手が届く……というのは買い被りだったか。彼女のスカウトはしなくてよかったかもしれないな……言うことを聞かない気性難ではレースで勝つのは難しいだろう」
レースが終わり、トレーナーたちがスタンドから去っていく。俺はいつまでもゴールを見つめていた。
グレートエスケープは完璧なレースをしたように見える。もし相手がジュニア級のウマ娘であれば、彼女は完勝していただろう。
(彼女はやはり素晴らしい才能を持っている)
ただ、まだ彼女は自分を囲う檻から飛び出すことができていない。彼女自身も、それを目指して必死に足掻いている最中なのではないだろうか。
無謀なだけなウマ娘が緻密にスケジュールを立てて、自分で緻密なトレーニングメニューやスケジュールを組むだろうか。
グレートエスケープは自分の才能を信じて、さらなる高みへ上るために走り出したばかりのウマ娘だ。
彼女を現実が見えていないウマ娘と評価するにはまだ早すぎるような気がした。
帰宅する際に、コースから蹄鉄の音が聞こえてきた。
この時刻は寮の門限に近付いていて、外に出ているウマ娘は普通ならいないはずだ。
念のため誰がいるのかコースへ向かうと、芝のコースを走るウマ娘がいた。
「はぁっ、はっ……はっ……はっ」
黒い髪と尻尾を靡かせるウマ娘――グレートエスケープが芝のコースを駆け抜けていた。
慣れない2400mのレースを行ったその日に休まず、芝でトレーニング。しかも、クールダウンなどではなく、負荷も以前見たトレーニングと変わらない。それどころか、それ以上のペースだ。
「まだタイムが遅い……くそっ……まだまだ……!」
(明らかにオーバーワークだ!)
あれだけ綺麗だったフォームはばらつき、直線で右にヨレたり、コーナーでは大きく膨らんでしまっている。
我武者羅に走っている状態では怪我をしてしまう。
彼女の名前を呼ぶ。
――グレートエスケープ!
走る彼女が止まった。こちらを見る目は以前のような落ち着いた眼ではなく、今にも嚙みつきそうな視線だった。
「……この前のトレーナーか」
なんだか雰囲気が違う。少したじろぐと、グレートエスケープは笑った。
「ん、ああ、素が出てたかな。まぁ、いいか……それで。何の用だ。私は今忙しいんだ」
普段の雰囲気は猫をかぶっていたのだろうか。そっちも気になるが、彼女に今ではオーバーワークになることを伝えた。
グレートエスケープはため息をつく。
「……かもな。だがやらなきゃならないんだ。今日の敗北を見ただろう。まだまだ最強には遠い。着差以上の実力差を感じたよ」
確かに敗北した。けど相手は遥か未来に位置する最強ともいえるウマ娘たちだ。
そんなウマ娘相手にハナを奪い、善戦した。
いいレースだった。
「いいレースね。いいレースとは何かな。トゥインクルシリーズ……いや、ウマ娘のレースはいつだって勝者は一人だ。敢闘賞はない。その戦いの中でいいレースをしたって言えるのは……勝ったときだけじゃないか?」
グレートエスケープはそう反論した。彼女の目は本気だ。
普段は礼儀正しく、成績も優秀な姿こそ見せているが、その実、どこまでもストイックに勝利を求めるウマ娘が、本当の彼女だ。
「言いたいことはそれだけかな。トレーニングに戻らせてもらうが……」
――君がスカウトを断る理由がわかったよ。
「ほう……そういえば、君は私と契約を結びたいと言っていたな。その願いは今も変わらないか?」
彼女が持つ才能。そしてその才能を武器に、発露する勝ちたいという鋼の意志。
俺は彼女と共に、頂点へと上り詰めたい。その思いは変わらないどころか、レースを見てから強くなるばかりだった。
「だったら、私が満足のいく答えを言えたら契約させてもらおう。それで、何故私がスカウトを断るかだが……どうかな」
――君は、最強を目指している。最強を本気で目指す相棒を、君は求めているからスカウトを断っている。
頂点に届くのかどうか、そんなことはまったく考えずに。ただ勝ちたいという思いだけを胸に、藻掻いて、足掻いて、走り続けている。
――君はトレーナーの実力のあるなし以上に、本気で夢を目指す相棒を必要としているんだ。それが理由だ。
俺がそう締めくくると、グレートエスケープは涙を流していた。
どこか痛めたのかと思って慌てるとグレートエスケープは首を横に振る。
「……嬉しくなってしまって、涙が溢れてしまった。すまない」
彼女が目元を拭う。表情は幾分か和らいでいた。
「幼いころから、私は最強のウマ娘になりたかった。だが、それを聞いた誰もが笑うばかりだった……笑われても関係ない。負けないように走り続けてきたが……」
それも今日までだと、彼女は笑った。
ジャージについた泥や芝を払うと、彼女は手を差し伸べる。
「トレーナー……私だけのトレーナーになってくれないか。私と共に、頂点へ至る道を歩んでほしい」
彼女が初めて夢を持ってから、ずっと孤独だったのだろう。応援されることはなく、認めてもらうこともなく、嘲笑ばかり浴びて。
それでも、孤独だろうと戦い続けてきた彼女の気高い意志が報われるように、全力を尽くすことを誓う。その証として、彼女の手を握りしめた。
「……なんだか照れるな。だが、悪くない。これからよろしく頼むよ、相棒」
そう言って笑うグレートエスケープの笑みは穏やかで、年相応の表情に見えたのだった。
○競走馬ワールド
馬主
橘馬奈(タチバナ・マナ)
所有馬……グレートエスケープ
馬主歴1年
父から継いだ会社が軌道に乗ってきたことで馬を購入。28歳の若い女社長として頑張っているが素はギャルでパリピ。時代背景的に未来を先取りしているがウマムスキー粒子(第1話参照)のせいなので仕方ない。大人になってきたことでいい加減卒業するべきかと思い始めてきたがそもそも素の性格だったので卒業も何もなかったことに気が付いた。グレートエスケープのことを人懐っこく、賢い馬だと思っており、尻や太ももをよく見られていることには気づいていない。
所属厩舎
黒井昭寿(クロイ・アキトシ)厩舎・栗東 前年成績 24勝(全国32位)
今年で50歳、調教師歴17年目。徐々に有力馬も増え、調子がいい年は調教師リーディング上位にいけるようになってきた。色々と規格外な人でエピソードに事欠かない。有力馬に乗せたい騎手に必ず厩舎前で掃き掃除をさせる、まだ3歳の牝馬をゲートに縛り付けて出遅れ癖矯正などなど。
他の所属馬
・ダンスパートナー(OP・3歳)
このとき3歳。オークスを勝利し、黒井調教師に初GⅠをプレゼント。現在フランスへ遠征中。ゲートが苦手。暗くて狭くて怖いらしい。オークス前にはゲートに縛り付けられて克服させられたが、まだ怖いらしい
・ラッキーパンチ(未勝利・3歳)
未勝利戦で掲示板に乗ったり、乗らなかったり。未勝利戦で勝ちあがれなかったため、引退となってしまった。最後のレースでは最低人気ながら2着に突っ込み、波乱を巻き起こした。引退後は乗馬クラブで過ごし、穏やかな気性とのんびりとした顔立ちや雰囲気からちょっとした人気馬になった
梶田健二(カジタ・ケンジ)騎手。栗東 前年成績 60勝(全国13位)
現在22歳。新人年からバリバリ勝っている期待の若手騎手。馬やレースのことでは調教師や先輩騎手にも物怖じせず意見するが普段はチャラ男でパリピ。ただ、黒井調教師のことを恐れている。重賞も勝ち始めており、GⅠ勝利が次の目標。
栗毛の若駒
父が外国産種牡馬でスピードが自慢。グレートエスケープに負けてからトラッシュ・トークは鳴りを潜めた。この後も7歳まで現役を続け、最終的に2勝クラスで掲示板に度々乗るなどして賞金を稼いだ。
○ウマ娘ワールド
イベントレース
・グレートエスケープ除く馬は全頭GⅠ3勝以上。どうやって戦えばいいんだ!!当然、トレセン学園には8万人くらい集まり、入場制限がかかった。レースを企画した担当者は「流石にシンボリルドルフとナリタブライアンだけで済むと思っていた」と弁明。残業が増えた。
トレーナーたち
・彼らも頑張っているが如何せんグレートエスケープを見るときの印象が悪かった。そりゃあ言うこと聞かない、無謀、傲慢ときたら手を引きますわ
モブのお兄さん
・どうした急に。