グレスケを入れて育成すると、中々面白い。性能としては得意率さえなければという思いは強いが、適当に根性を叩いてるだけでスピードやパワーももりもり上がっていく。フレンドのSSRアイネスフウジンと組むとあとはスタミナと賢さをなんとかすれば結構いいステータスが作れていた。
「まぁキタサンとかクリーク積んでもいいんだけど、そっちは完凸するほど持ってないんですよ……」
「へー。課金してやるほどじゃないみたいだな」
私は夜になると、インターネットで知り合った同じウマ娘オタクの『ダラカニ』さんと通話でグレスケの性能を話していた。
元々は別ジャンルのゲームやアニメから知り合い、オフ会を経て仲良くなったのだが、彼は競馬ファンであり、ウマ娘はアニメ1期で知ったという。私は2期とアプリリリースがきっかけだったので、多くの知識を持つ彼の話を楽しく聞いていた。
「競馬ファンのダラカニさん的にグレスケ実装ってどうなの?」
「マンデーレーシングや社来サウザーファーム系じゃないし、実装はあり得ると思ってました。むしろアニメ1期の頃に出てこなかったのか不思議なくらいですよ」
「え、Twitterでは出てたって言ってましたけど、違うんですか?」
「あー、グレイテストランちゃん? あれはあくまでグレートエスケープをモチーフにしただけのキャラクター。本当はスペシャルウィークの先輩ポジ……それこそサイレンススズカの立ち位置に来てもいいくらいなんだけど、出せなかったからアニメでは凱旋門賞とジャパンカップのときに急にでてきただけなんだよね」
「ちょっとWikipedia読んだけど、やっぱり先輩って感じなんですね」
「オーナーも割とメディアに出てるくらいで、決してそういうの拒否する人じゃないんですが。結構意外なんですよ。それか遠慮してたのかな、制作陣が」
「遠慮ですか? 最強クラスだから、とか?」
「多分だけど、アニメ1期の前くらい、制作し始めてるくらいの時期はグレートエスケープは体調不良で種牡馬生活引退してるんですよ。高齢なのもあって、その時に許諾を取りに行くのはちょっと……ってなったのかもしれないです」
「そういえばWikipediaにもありましたね……」
私は2缶目の缶ビールに手を伸ばし、喉を潤した。
飲んだビールはぬるくて、随分話し込んでいたことに気がついた。
「話は戻すんですけど、グレスケの性能はなんか難しいですね。根性でさえなければぶっ壊れってすごい言われてますよ」
「むしろ根性にしてバランスとってる感じですけどね。最強なんじゃなくて、抜けがある感じがまた、グレ坊っぽくて面白いですけど」
やはりぬるいビールはダメだ。
このペースではビールはぬるくなるばかりで、美味しく味わえない。
席を外してウイスキーの水割りを用意して、再び飲み始めた。
「デザイン的にはどうなんですか?」
「わかりやすいくらいに勝負服モチーフだね。サングラスも多分ブリンカーをモチーフにしてるんじゃないかな?」
「そうなんですか……グレートエスケープってブリンカー……あの仮面みたいなやつ、してたんですね」
「してたよ。結構長い間つけていたから、ファンの間でも馴染みだったと思います。ゴールドシップとかも黒いのつけてましたけど、あんな感じ」
「あれがサングラスに……色々考えてるんですね。流石チャイゲ……」
「伊達に副業のチャイ販売で巨万の富を稼いでるわけじゃないよね」
「親会社の本業でしょう……」
チャイゲームスは元々、チャイの販売をしていたチャイバーエージェントが業務拡大してから生まれた子会社だ。
コラボカフェなどで出されるチャイはとても美味い。
「それはそうと色々調べてるとグレスケ推しちゃいそうです。サポカのイベントとかも結構優秀ですし、面白いキャラクターですよ。レンタルできるように設定してるので是非ご覧になってみてください」
「私はもう既に天井まで回して完凸したから……」
「あっはい」
廃人怖い。いや、この人そんなに課金する人だったか? 私はグレスケ推しなのではないかと思い、聞いてみることにした。
すると、ダラカニさんは小さく笑った。
「そんなんじゃないよ。ただ……気に入っただけだよ」
それは推しになったというのでは?
私はそう指摘するのをやめて、そうですか、と納得した。
「ところで、グレートエスケープのことをもっと知りたいんですけど、いい動画や本はないですか?」
「じゃあ20世紀の名馬シリーズなんてどうですか。ファンが選んだ20世紀に走った名馬が投票でランキングに挙がっているんだけど、グレートエスケープも選ばれているんですよ」
「へぇー、何位なんですか?」
「1位です」
「やっぱり……オグリキャップとかディープインパクト並に聞いたことがある馬ですからね。それだけすごかったんですね」
「そうなんですよ、グレ坊はまず生い立ちからなんですけどね? 懇備弐牧場という大きいとはお世辞にも言えない牧場で生まれて――」
ノンストップで語られるグレートエスケープのすごさについて、1割だけ覚えていた私は、次の日に20世紀の名馬グレートエスケープ編を見てみるのだった。
〇〇〇
※本編では馬齢は現年齢表記でしたが、雰囲気のため、旧馬齢表記にてお送りいたします。
【20世紀の名馬100】
Ranking1(得票数××××)
グレートエスケープ XX93年4月1日生 牡/黒鹿毛
父 アイネスフウジン
母 シルバーパート
(母の父 シンボリルドルフ)
通算成績
27戦16勝 2着4回
海外 4戦3勝 2着0回
主な勝ち鞍
H8 日本ダービー
ジャパンカップ
H9 ジャパンカップ
H10 天皇賞・春
天皇賞・秋
有馬記念
H11 キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス
凱旋門賞
――イギリス、フランス。共に古くからの競馬の歴史を持ち、近代競馬発祥の舞台として多くのホースマンが、頂点を目指してきた。キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスと凱旋門賞が、その世界最高の舞台とされる、レース名だった。
日本からも、多くのサラブレッドが、ホースマンの夢を乗せて挑んでは、分厚い壁に跳ね返されてきた。
鎖された檻のように、強固で、困難な道のりをついに踏破したサラブレッドの名は、グレートエスケープ。
世界最高の舞台を制した、20世紀における最も輝かしい戦績を残した馬である。
生まれたのは北海道浦河町の懇備弐牧場。
年間約10頭前後のサラブレッドを生産する、小さな牧場で生まれた。
父は日本ダービーをレコードタイムで逃げ切ったアイネスフウジン。母は皇帝シンボリルドルフの血を引くシルバーパートという、外国産種牡馬全盛の時代ではあまり注目されていない血統だった。
グレートエスケープはデビュー戦こそ3着になるも、その後は未勝利、OP特別を2連勝。そして迎えた重賞初挑戦となる、ラジオたんぱ杯3歳ステークス。ここには大種牡馬サンデーサイレンスの期待産駒としてロイヤルタッチ、イシノサンデー、ダンスインザダークが参戦していた。
この年の皐月賞、ダービーはサンデーサイレンス産駒が制しており、来年のクラシックもサンデーサイレンスに違いないという前評判の中で、グレートエスケープは意地を見せた。
XX95年 第12回ラジオたんぱ杯3歳ステークス(GⅢ)
阪神/良 芝2,000m
「直線に入って先頭はグレートエスケープ!
イシノサンデー、ロイヤルタッチが追ってくる! ダンスインザダークは少し遅れている、グレートエスケープが逃げる逃げる、外からロイヤルタッチ、イシノサンデー内から!
ダンスインザダークはようやく伸びてくるがまだ届かない! グレートエスケープ先頭! グレートエスケープ先頭で逃げ切りゴールイン!
グレートエスケープこれは見事です。3連勝で重賞初制覇です」
1着グレートエスケープ(梶田)
2着ロイヤルタッチ(P.オスカー)
3着イシノサンデー(三井)
期待のサンデーサイレンス産駒相手に堂々の逃げ切り勝ち。年明け初戦の弥生賞は好位抜け出しの横綱競馬で完勝することで一躍クラシック戦線の大本命に挙げられた。
クラシック初戦、皐月賞。ライバルのバブルガムフェローは骨折で春は全休、ダンスインザダークは熱発で回避と、有力馬が他に居ないことでグレートエスケープは単勝オッズ1.8倍の圧倒的な人気で皐月賞を迎えた。
しかし――
XX96年 第56回皐月賞(GⅠ)
中山/良 芝2,000m
「第56回今スタートしました!
おおっと1枠1番グレートエスケープ出遅れました! つまずいてしまったか、ハナに行くと思われたグレートエスケープは後方からとなっています。
イシノサンデー好スタート、内から前を狙うのがトピカルコレクター、外からサクラスピードオーが先頭を狙って加速しています」
「さぁ直線に入りました!
先頭はサクラスピードオー、ダンディコマンドが先頭に変わるか!
外からイシノサンデー! イシノサンデーが上がってきている!
後ろからはロイヤルタッチが4番手まで上がってきている! イシノサンデー追い込んだ!
グレートエスケープは後方でもがいている! 残り100メートル、イシノサンデー先頭! ロイヤルタッチが追い込んでくるがイシノサンデー! イシノサンデー!
やっぱりイシノサンデー! サンデーだ!
バブルガムフェローとダンスインザダークが消えてもやっぱりサンデーサイレンス! イシノサンデー優勝ゴールイン!」
グレートエスケープはスタート直後につまずいて後方からの競馬となってしまう。終始折り合いを欠き、結果は人気を裏切る10着。
陣営は日本ダービーで必勝を期した。
XX96年 第63回日本ダービー(GⅠ)
東京/良 芝2,400m
父、アイネスフウジンがレコードを記録した日本ダービーを迎える。
当日はサンデーサイレンス産駒たちが人気となり、4番人気に。しかしここでグレートエスケープの本来の能力が爆発する。
「第4コーナーを回って直線に入る!
18万の大歓声が迎えている!
先頭はグレートエスケープ! グレートエスケープが先頭!
そして3番のダンスインザダークが追ってきている! ダンスインザダークが迫っている! 外からフサイチコンコルド、フサイチコンコルド!
外目をついて皐月賞馬イシノサンデーもやってきた! しかし先頭はグレートエスケープだ、グレートエスケープだ!
内の方からメイショウジェニエ! しかしグレートエスケープだ、グレートエスケープだ! ダンスインザダークは届かない!
サンデー旋風切り裂いて! 海外血統の檻から大脱出したのは、グレートエスケープだァァァァッ!」
1着グレートエスケープ(梶田)
2着フサイチコンコルド(藤川)
3着ダンスインザダーク(滝)
後続を2馬身離して、なんと父アイネスフウジンの記録を更新し、日本ダービーのレコードタイムを記録。
外国産種牡馬全盛の時代の中で、日本の血統も負けてはいないとホースマンたちを勇気づける、見事なダービー制覇だった。
しかしグレートエスケープの逃走劇は終わらない。彼の伝説は、ここから始まったのだ。
夏は故郷で休養を挟み、育成牧場で秋へ向けて牙を研いだ。グレートエスケープの風格は夏を越えたことで逞しく、王者のオーラを纏うようになっていた。
しかし、クラシック最終戦、菊花賞ではライバルであるダンスインザダークの凄まじい切れ味に屈して2着。
惜しくも敗れてしまったが、ダンスインザダークはこの後屈腱炎で引退してしまう。グレートエスケープはライバルたちの想いを背に、世界からやってきた強豪が集うジャパンカップに駒を進めた。
XX96年 第16回ジャパンカップ(GⅠ)
東京/良 芝2,400m
ここに出陣してきたのは凱旋門賞馬エリシオ、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを勝利したペンタイア、BCターフ2着のシングスピール、さらに4歳馬ながら天皇賞(秋)を勝利してきたバブルガムフェローなどライバルたちがいる中で、グレートエスケープは1番人気に推された。
ダービーと同じ舞台で、世界の名馬に敵うのか、果たして――
「グレートエスケープが先頭!
白い帽子ストラテジックチョイスがきている! 内からファビラスラフイン、シングスピールも伸びてこようとしている!
しかし関係ありません! グレートエスケープだ!
バブルは伸びない! エリシオは届かない! ファビラスは追いつかない! シングスピールは捉えられない! 見たか世界! これが偉大なる逃亡者だーッ!」
1着グレートエスケープ(梶田)
2着シングスピール(L.ベットーリ)
3着ファビラスラフイン(松村)
ジャパンカップを見事に勝利。日本内国産の4歳馬がジャパンカップを勝利するのは、初めてのことだった。世界の強豪にも劣らない実力を見せつけ、現役最強の声すら挙がるようになっていたグレートエスケープ。このあとは古馬戦線のため、休養に入ることが決まった。
翌年の春、5歳になったグレートエスケープは前哨戦を勝利すると、天皇賞(春)へ向かう。しかしレース中の骨折というアクシデントに見舞われ4着。春は全休となり、迎えた秋の復帰戦、グレートエスケープの走りは精細を欠いていた。
XX97年 第32回京都大賞典(GⅡ)
京都/良 芝2,400m
「ダンスパートナー来た! 外からインターユニーク、大外からポレールも来ているぞ!
グレートエスケープは苦しい、後退していく!
先頭はダンスパートナー、内からシルクジャスティス!
ダンスパートナーかシルクジャスティスか! 外からインターユニーク、シルクシルク! ダンスかシルクか、シルクジャスティスー!」
1着シルクジャスティス(梶田)
2着ダンスパートナー(海津)
3着インターユニーク(大野)
――――――――――
11着グレートエスケープ(滝)
XX97年 第116回天皇賞(秋)(GⅠ)
東京/良 芝2,000m
「残り200、バブルをかわした!
エアグルーヴ先頭、エアグルーヴ先頭!
内からバブル! 内からバブル! バブルか、エアか、バブルか、エアか、エアグルーヴ!!
恐ろしい馬です! 並みいる男馬をエアグルーヴが蹴散らしました!」
1着エアグルーヴ(滝)
2着バブルガムフェロー(岡谷)
3着ジェニュイン(佐藤勝)
―――――――――――
13着グレートエスケープ(梶田)
京都大賞典、天皇賞(秋)と共に大敗。
かつて府中を沸かせた粘り強さは影を潜めていた。早熟馬だったのか、故障による限界か。しかし、グレートエスケープ陣営は諦めていなかった。グレートエスケープ自身も、闘志を決して絶やしてはいなかった。
連覇がかかった次走のジャパンカップ、得意の舞台でグレートエスケープは再び府中を駆け抜けた。
XX97年 第17回ジャパンカップ(GⅠ)
東京/良 芝2,400m
「グレートエスケープが大きくリードを保ったまま第4コーナーに差し掛かります! 馬群からエアグルーヴが抜け出した!
エアグルーヴ頑張った! 外からバブルも来ている! 赤い帽子ピルサドスキーも伸び始めているがリードが縮まりません!
グレートエスケープ先頭! グレートエスケープの脚色は衰えない! 先頭はグレートエスケープ!
これは逃げ切る逃げ切る! 復活の逃亡者、グレートエスケープ! 栄光の舞台に返り咲いたのは逃亡者グレートエスケープだーッ! 後続を完封です!」
1着グレートエスケープ(館山)
2着ピルサドスキー(M.メモリアル)
3着エアグルーヴ(滝)
ジャパンカップで大逃げという奇襲が成功し、見事復活を遂げる。また、この勝利で史上初のジャパンカップ連覇を達成した。続く有馬記念こそ4着だったものの、差がない4番手。ここにダービー馬復活の狼煙が上がったことを、誰もが確信していた。
6歳になったグレートエスケープは年明け初戦の阪神大賞典を勝利すると、昨年は怪我で泣いた雪辱を晴らすため、天皇賞(春)に出走した。
ライバルは年下のグランプリホース、シルクジャスティスと、GⅠで惜しい戦いが続いているメジロブライト。しかし、復活したグレートエスケープは2頭に対して完封といっていい走りを見せた。
XX98年 第117回天皇賞(春)(GⅠ)
京都/良 芝3,200m
「ファンドリ逃げた、ファンドリが逃げた逃げた逃げた!
グレートエスケープがかわしたか、かわしたー! グレートエスケープ先頭!
後ろからはシルクジャスティスが真ん中割ってやってくる、外からメジロブライト、そしてなんとステイゴールドも突っ込んでくる!
グレートエスケープだ、グレートエスケープです! 去年の雪辱を晴らしてグレートエスケープゴールイン!
見事去年の忘れ物をとりにきましたグレートエスケープ! 天皇賞(春)を制しました!」
1着グレートエスケープ(滝)
2着メジロブライト(海津)
3着ステイゴールド(球磨川)
春の天皇賞を完勝し、6歳になってますます充実のシーズンを迎えたグレートエスケープ。陣営は海外遠征も視野に、現役最強馬の称号を引っ提げて宝塚記念に向かった。
XX98年 第39回宝塚記念(GⅠ)
阪神/良 芝2,200m
宝塚記念では現役最強牝馬エアグルーヴ、そして重賞を連勝中のサイレンススズカが立ちはだかった。ファン投票、単勝人気共に1番に推されたグレートエスケープだったが……
「サイレンススズカ先頭! サイレンススズカ先頭! それを追ってグレートエスケープ! 梶田の左ムチがとんでいる! ステイゴールド来た! ステイゴールドが差を詰めてきた!
そしてサンライズフラッグを追ってきている! 外からシルクジャスティスとエアグルーヴが並んで上がってきた!
サイレンススズカまだ先頭、グレートエスケープが追いかけるがまだサイレンス粘っている、グレートエスケープが追う!
外からエアグルーヴ、エアグルーヴ、ステイゴールド! しかしサイレンスだサイレンス! グレートエスケープが襲い掛かるがやっぱりサイレンスだー! サイレンススズカ結局逃げ切った! グレートエスケープは2着!」
1着サイレンススズカ(西井)
2着グレートエスケープ(梶田)
3着ステイゴールド(球磨川)
惜しくもサイレンススズカに逃げ切りを許し、現役最強の名を完全にモノにすることはできなかった。
次走の札幌記念を2着に終えると、天皇賞(秋)への出走を敢行。
そこに当然、サイレンススズカも参戦していた。
前哨戦の毎日王冠ではエルコンドルパサーとグラスワンダー相手に貫禄の逃げ切り勝ち。
まさに世紀の対決として、当時は頭文字をとってSG対決と謳われた。
しかし――
XX98年 第118回天皇賞(秋)(GⅠ)
「サイレンススズカに故障発生です! なんということだ! 4コーナーを迎えることなく、レースを終えた滝カナタ! 沈黙の日曜日!
先頭はグレートエスケープ、まだ後続に10馬身以上の差がある!
グレートエスケープ先頭、オフサイドトラップが抜け出してくる、ステイゴールドが迫っているがグレートエスケープにはちょっと届きそうもない!
グレートエスケープ先頭、圧勝で今ゴールイン! 勝ったのはグレートエスケープ、やはり現役最強! 他馬をまるで相手にしていませんでした!」
1着グレートエスケープ(梶田)
2着オフサイドトラップ(柴畑吉)
3着ステイゴールド(球磨川)
サイレンススズカと他馬を置き去りにしながらの逃げ対決。その最中に襲ったサイレンススズカの故障発生という悲劇に対して、グレートエスケープは7馬身差の圧勝劇を見せつけた。
長距離だけではなく、中距離でも類い稀なスピードを披露してみせたグレートエスケープ。レコード決着の影響を考慮し、陣営は3連覇のかかるジャパンカップではなく、万全を期して有馬記念出走を選択。
古馬の王者として、一年の締めくくり、有馬記念を出走したグレートエスケープは、王者に恥じない走りを見せた。
XX98年 第43回有馬記念
中山/良 芝2,500m
「さぁ中山の直線に入りました! 中山の直線は短いぞ!
セイウンスカイ、セイウンスカイ、グレートエスケープ上がってきた!
グレートエスケープが上がってきた! エアグルーヴ、メジロブライト、グラスワンダー、グラスワンダー伸びる!
グラスワンダーが伸びてきてかわすか!? 届かない! グレートエスケープだ、グレートエスケープ先頭だ!
もう日本に敵は無し! 世界に飛び立つ逃亡者、グレートエスケープ先頭でゴールイン!
グレートエスケープです。これは来年が楽しみになりました。海外遠征へ夢が膨らむ完勝です。
2着はグラスワンダー、ここで復活の兆しを見せました」
先行して4コーナーで先頭に立つと、そのまま押し切りゴール。
まさに横綱相撲という危なげない競馬でこの年GI3勝を飾った。
翌年、ついに陣営は海外遠征へ動き出す。イギリス、ニューマーケットの地に降り立ったグレートエスケープ。
初戦のGIIレースでは完勝するが、次走のエクリプスステークスでは大敗してしまう。
そして迎えたイギリスの最高峰レースのひとつ、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに駒を進めた。
XX99年 キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス
アスコット/良 芝2,400m
相対するのは当時欧州最強とされたデイラミ。
グレートエスケープは日本からの実績馬だが、前走の敗戦で実力不足とされたか、少し離れた3番人気となった。
日本から多くの観光客が押し寄せ、アウェーでありながら大歓声がグレートエスケープに注がれた。
声援を背に受けて、伝統の最強決定戦、キングジョージ6世&クイーンエリザベスでグレートエスケープはさらに開花した。
「直線に入って滝カナタが追い出しました! グレートエスケープにムチが入る!
グレートエスケープ先頭、グレートエスケープ先頭! デイラミが抜け出してくる! デイラミ凄い脚だ!
グレートエスケープに並んだ、グレートエスケープ頑張れ! グレートエスケープ頑張れ!
並んだまま、抜かせない、抜かせない!
グレートエスケープが粘っている! グレートエスケープとデイラミが粘っている! 残り200、栄光まで200、グレートエスケープがもう一度伸びている!
欧州最強か、日本最強か!
首の上げ下げ、首の上げ下げ! 内グレートエスケープ、外デイラミ!
抜け出せるか、抜ける、抜け出せ!
グレートエスケープ抜け出した!
僅かにグレートエスケープかーッ!
やった!! やった日本、やったグレートエスケープ!
ついに、ついに欧州最高峰レースに手が届きましたグレートエスケープ! 歴史的快挙です!
日本最強は欧州でも最強だ!」
1着 グレートエスケープ(滝)
2着 デイラミ(L.ベットーリ)
3着 ネダウィ(G.セガール)
ついに掴んだ世界一の栄光。
日本馬として世界最高峰のレースを制したことで、陣営はもう一つの最高峰レース、凱旋門賞への出走を決断。
4年近く走り続けてきた不屈のスーパーホースは、ここでさらなる真価を発揮しようとしていた。
XX99年 凱旋門賞(GI)
ロンシャン/不良 芝2,400m
ついに迎えた大一番でグレートエスケープは3番人気で出走することとなる。
モンジュー、デイラミ、そして日本から同じく遠征し、フランスで好成績を残してきたエルコンドルパサー。
いずれも世界的名馬だが、凱旋門賞の栄光を掴むのは、ただ一頭。
調教過程も、気合も、6歳馬でありながら過去最高の状態となっていたグレートエスケープ。
焦がれ続けた世界最強の称号まで、あと一歩だった。
「――グレートエスケープが大外枠に収まります。最内枠にはエルコンドルパサー。夢は彼方フランスへ、さぁ凱旋門賞スターあああっとグレートエスケープつまずいた! グレートエスケープは大きく外に膨らんでから中団へ取りつきます。
エルコンドルパサーは好スタート、2番手にジンギスカンがつきました。エルコンドルパサー鞍上海老原は先行策を選択しました。
3番手にタイガーヒル、内に入るのはモンジュー。登り坂に差し掛かりつつ、エルコンドルパサーは4馬身ほど差をつけて逃げています。好位につくと思われましたが逃げています。
レゲラが外を上がって、そのうちにダルヤバ、モンジューは内で溜めています。
デイラミは中団やや後ろ、グレートエスケープはその外について第3コーナーにつきます。
馬群がつまってきた、第4コーナーを前にフォルスストレートに入ります。
エルコンドルパサー溜めている、良い手ごたえだ! グレートエスケープはちょっと後ろの方というところ!
タイガーヒルが上がって2番手、さぁ、さぁ、残り500mで直線を迎えました!
世界まで500、エルコンドルパサー先頭! クリークダンスが突っ込んでくるがエルコンドルパサー先頭だ! 凱旋門賞まであと少し、頑張れエルコンドルパサー!
しかし後ろからモンジューだ、モンジューがきた! モンジューがきた! モンジューがきた!
さらに外から、外からグレートエスケープ突っ込んできた!
これはすごい脚だ! 残り200、エルコンドルパサー差し返す! モンジュー、グレートエスケープ!
グレートエスケープ抜け出した! 日本ワンツーなるか、グレートエスケープ先頭!
グレートエスケープだ、グレートエスケープです!
世界よ、これが日本が生んだ偉大なる逃亡者だ!
世界に名だたる競走馬たちの追跡を振り切って、大脱出だ!
グレートエスケープ先頭でゴールインッ!
やった日本ッ! ホースマンの夢が、ついに、ついに、世界へ届きました!
グレートエスケープの活躍に、誰が文句を言うでしょうか!
やりました、グレートエスケープ!
滝カナタは大きくガッツポーズ!」
1着 グレートエスケープ(滝)
2着 エルコンドルパサー(海老原)
3着 モンジュー(M.メモリアル)
ついに世界の頂点に、日本の努力の結晶が実った。
日本ではスターホースの快挙が連日報道され、誰もがこの偉業に酔いしれた。
この戦いで引退の予定だったが、JRAの要請に従い、ジャパンカップへ出走が決まる。
かつて栄光を掴んだ地で、グレートエスケープはファンに最後の勇姿を見せつけた。
相手は、凱旋門賞で争ったモンジュー。
そして、同厩舎の後輩、スペシャルウィークが最後のライバルとして立ちはだかった。
XX99年 ジャパンカップ(GI)
東京/良 芝2,400m
「先頭はグレートエスケープ! 残り400でまだ2馬身のリードがある!
外から上がってくるのはスペシャルウィーク、モンジューもきた! そしてハイライズ、インディジェナス!
先頭はグレートエスケープ、まだ粘って、スペシャルウィークかわしたかわした!
スペシャルウィーク先頭、グレートエスケープがもう一度差し返す!
内からインディジェナス、外からモンジュー、しかしスペシャルウィークだ、スペシャルウィークだ! スペシャルウィークが先頭だ!
スペシャルウィーク先頭でゴールイン!
グレートエスケープは2着、世界最強は譲らないぞスペシャルウィーク!
まさに日本総大将、スペシャルウィークが勝ちました! 勝利タイムはなんとなんとご注目!
あのオグリキャップとホーリックスが記録したレコードを0.1秒更新する2.22.1です! 文句なしのワールドレコード!」
ワールドレコードを演出する高速逃げを見せながら、僅差の2着。
このレースを最後にグレートエスケープは4年にわたる長い競走生活に幕を閉じた。
日本のホースマンが描いた夢を現実に手繰り寄せた名馬、グレートエスケープ。
彼は種牡馬となった今でも、更なる名馬が送り出されることを、期待されている。
〇〇〇
DVDの映像は短くまとめられていたが、それでも見終えたころには、映画を一本見終えたような感想を抱いた。
「はえー、すっごい……本当に長かったな……一本見ただけなのに半年くらいかかった気分だ……」
私はPCのそばに置いておいたポテチを食べながら、マウスを操作した。
関連動画にはグレートエスケープが関わる様々な動画が表示されていた。
「何から見ようかな……動画……うーんどうしようか悩むな……」
仕事はやめて暇なのだから、しばらくグレートエスケープを追いかけよう。
私はマウスを忙しなく動かすのだった。
活動報告でアンケート中。備忘録も兼ねているので気軽にお答えください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=270000&uid=37842
更新速度は落ちると思いますが、気が向きしだい書きます