指揮官を見つけたら   作:名取クス

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モノは試し。ゆっくりしていってね。


『青年』とエンタープライズ 

昔、この青く広い海にはセイレーンなる人類の敵がいたらしい。

''らしい''というのはセイレーンがいたのは約100年も前の事で、実際に見た事はないからだ。

 

セイレーンは海に浮かぶ、武装をした謎の生物の勢力で1世紀前、シーレーンはかなりめちゃくちゃにされたらしい。

 

それを撃滅するため作られたのが人類の守護者、KAN-SENである。

また、セイレーンを打ち倒し海に平和をもたらす目的で作られたKAN-SEN達の軍事組織が『アズールレーン』である。

 

人類とセイレーンの戦いは日に日に激しさを増し、熾烈を極めた。

さらに当時人類側は各国のイデオロギーの違いから足並みを完全に揃える事ができておらず、人類同士のいざこざもまだまだ残っており戦いは泥沼となった。

 

しかしそんな中で全てのKAN-SEN達を纏め上げ、天才的な手腕で次々とセイレーンを撃ち破った指揮官達がいた。

 

KAN-SENは基本的に指揮官と呼ばれる存在にしか従わず、セイレーンとの戦いにケリをつけたかの指揮官達は特に『指揮官の中の指揮官』として【アルティメットアドミラル】と呼ばれていた。

 

アルティメットアドミラル達は協力してセイレーンとの最終決戦に臨のぞみ、その命全てを投げ打ちセイレーンを粉砕、完全に撃沈した。

 

その後アズールレーンは解体。

戦いの役目を終えたKAN-SEN達は個々に散っていった。

 

こうして多くの犠牲を払いつつ人類はセイレーンとの戦いに勝利し、現在にまで続く平和を作り上げたのであるーー

 

と、ここまでが教科書や学校の授業で習った事。

要約すれば

セイレーンが人類の敵。

KAN-SENは人類の守護者。

アズールレーンは各国のKAN-SEN達の軍事組織、という事である。

 

そして俺は今その人類存続の立役者にして英雄たる白髪のKAN-SENに、

 

「指揮官、好きだ。付き合ってくれ。」

 

「お断りします。」

 

告白されていた。そして流れるように断った。

 

白髪の女性はハハハと笑ったな。

 

「困ったな。フラれてしまったか。」

 

心底どうしようという風に髪を撫で付け、視線を明後日の方に飛ばした。

 

長い白髪をゆらし、肩が大きく露出したカッターシャツに黒のミニスカ、黒いガウンを羽織ったKAN-SENはエンタープライズと名乗った。

 

 

【 『青年』とエンタープライズ 】

 

 

俺たちはとある海の家に移動した。

俺はもともとランニングを終えて、呼吸を整えるためにゆっくり海沿いを歩いていたところで告白されたのだ。

「どこか腰を下ろして話さないか」とエンタープライズと名乗る女性に言われ、「近くによさげな店がある」と彼女に案内されてやってきたのがこの店だった。

いかにもといった木組みの年季を感じる店構えだった。

 

俺たちがテラス席に腰かけると中から可愛い店員さんが注文を取りにやってきた。エンタープライズはこの店の主人と知り合いらしい。注文は相席の彼女がまとめてしてくれた。

俺が思わず可愛い店員に目を奪われたのをめざとく見つけたのか、同じ卓を囲む彼女のジト目が俺を射すくめた。

俺はなんとなくバツが悪くなって本題を切り出す。

 

「で、話って何だよ。」

 

「指揮官、貴方が好きだ。私と付き合って欲しい。」

 

「それはさっき断ったばっかりだろ。そもそも俺は指揮官でもないし、お前とは初対面のはずだ。これは一体どういうことだ。」

 

「なに、貴方はたしかに私の指揮官だ。確かに貴方とは初対面だな。でも私は貴方を見た瞬間心臓が跳ね上がって、運命を感じた。言ってしまえば一目惚れだな。」

 

「というと、俺には本当にお前、エンタープライズの指揮官適正があったってことか。」

 

指揮官適正ーーそれはKAN-SENを運用する才能のようなものでそれがない者はKAN-SENをコントロールする事はできない。

また指揮官適正、一言でそういっても種類はたくさんある。

その適正によっては適合するKAN-SEN、適合しないKAN-SENが分かれてくる。

例えば駆逐艦Aの適正を持つ持つ者は駆逐艦Aの指揮官になれても、そのほかの駆逐艦BやCの指揮官にはなれない。

基本は単一の艦への適性しか持たない指揮官がほとんどだが、中には『〜型適正』や『戦艦適正』と言った姉妹艦全てや、その艦種全てへの適正を持つ指揮官もいるとか。

 

しかしこの適正というのは厄介な性質を持ち、そのKAN-SENと指揮官が実際に顔を合わせないとKAN-SENがその人物が指揮官であるとわからないそうだ。

 

なんでもKAN-SENは指揮官に会った時はビビビッ、とばっちりくっきりわかるらしい。

 

そもそも適正持ちが稀で、その上その性質じょう指揮官に会えぬまま人生を終えてしまう悲惨なKAN-SENもざらにいてしまうんだとか。

 

 

「ああその解釈で間違ってない。もしかすると他のKAN-SENにも適性あるかもな。無論、渡すつもりはない。」

 

店の奥から女店員さんが機材を運んでこようとしていた。

見たところバーベキューとかに使う小さな七輪のようなものだった。

目の前で料理を作るタイプの店だったのだろうか。

 

しかしそれを手で持って制したのは目の前に座るエンタープライズだった。

 

店員さんは驚いたような、しかしすぐに嬉しそうな表情になって再び店の奥に消えていった。

 

「なんだよお前。」

 

「事情があるんだ。」

 

それから俺たちは話をした。

俺とエンタープライズは指揮官とKAN-SEN

フった男と告白した女。

でも初対面。

そんな縁で結ばれた奇妙な関係だ。

俺たちは料理を待つすがら、どちらともなしに話しはじめた。

ちょっとした世間話から、お互いの事まで。

いきなり話しかけて告白してきた時は、俺はこの女を異常な奴だと思った。

でも最初に思ったほどとんでもない女じゃなかった。

よく笑って、明るくてフランクに接してくるKAN-SEN。

ただの雑談だけど、まるで長年の親友と久しく会ったような感じ。

 

「お待たせしました。ご注文のベーグルサンドです。」

 

俺たちの前に具沢山のベーグルサンドが一人に二つずつ並んだ。

茶色く香ばしい焼き色をのぞかせる肉とフレッシュなレタスとトマトが挟んであった。

実に食欲をよく誘った。

 

彼女がウェイターにチップを渡すのをみて、俺も慌ててコインを取り出した。

 

そうか、たしかエンタープライズはユニオンで産まれた船か。

 

「これは私のお気に入りだ。指揮官もきっとそうなる。」

 

そう言われてはもう黙っていられなかった。

 

「いただきます。」

 

今度は狼狽(うろた)えたのはエンタープライズの方だった。

 

「そうか、貴方の出は重桜だったか。ええと………。」

 

「いただきます。いただきますって言うんだ。食材に感謝して。」

 

「いただきます。…いい言葉だな。」

 

そうして俺とエンタープライズはベーグルサンドに豪快にかぶりついた。

溢れる肉汁に噛みごたえのある肉。シャキシャキと音を立てる野菜が心地よい。

 

ーーーうまい。

 

それが俺の素直な感想だった。

 

「うまいか?指揮官。私のオススメはここだ。この肉の端っこのちょっと焦げてるところ。コレが美味しい。」

 

言われるがままかぶりつく。さっきより硬めの肉はよく味を放った。 

 

「うまい。美味しい。この店を知れただけで君と知り合って良かったと思ったぐらいに。」

 

「ははは、言うな指揮官。そのブリスケットの焦げた切れっぱしはバーントエンドという。気に入ってくれたみたいで嬉しい。…それに君よりもエンタープライズ、そう気さくに呼んでくれ。」

 

「なら指揮官呼びもなしだ。なんだかむず痒い。そうだな、ブラザーとでも気さくに呼んでくれ。」

 

遠回しなお付き合いヘの拒絶。

 

「そうか、よろしくなブラザー。」

 

知ってか知らずか、彼女は溌剌(はつらつ)と答えた。

 

そのあと俺たちはもう話もせず黙々とベーグルを(むさぼ)った。

咀嚼(そしゃく)する音に僅かに混じる潮騒(しおさい)。その静かな時はとても気持ちの良い沈黙だった。

 

すっかり空になった皿を見てエンタープライズがいった。

 

「こういう時は何て言うんだ?」

 

「ごちそうさま。」

「ごちそう…さま。」

 

俺にエンタープライズが少したどたどしく続いた。

 

名残惜しそうに席を立つ俺にエンタープライズは言った。

 

「海は綺麗だな。」

 

「ああ綺麗だな。」

 

マリンブルーの海を、夕日が鮮やかに茜色に染めていた。

海風に揺れる白髪を抑えながら彼女はいった。

 

「指揮官、実は私は目の前で調理された物しか食べられないタチなんだ。戦いの記憶のせいで。」

 

それでか、あの時店員が俺たちの前に調理器具を持ってこようとしたのは。合点がいった。

 

「でも指揮官と今日訪れて、全くその心配が湧かなかった。私は目の前で作られたわけでもない、何があってもおかしくないベーグルを食べるというのに(まった)く恐れはなかった。今までずっと避けていたのに、(まった)く。それも全部貴方のおかげだ、指揮官。」

 

「どうかこれからもそばで私を安心させてくれないか、指揮官。」

 

俺とアイツの瞳が交錯する。

 

「すまないが、断る。」

 

「またフラれてしまったか…。」

 

「まぁ、たまに遊ぶぐらいには付き合う。」

 

エンタープライズはハハハと帽子の鍔を下げ笑った。

でもすぐ前を向いた。美しい真剣な眼差しと目が合う。

 

「なぁ指揮官。私の二つ名、知ってるか?」

 

「たしかグレイゴースト、ギャロッピングゴーストだっけか。先の大戦で何度も重桜に沈められたと報告されてなお、必ず戦場に舞い戻る灰色の亡霊。」

 

 

「そうだ、私はエンタープライズ。何度でも生き返る不屈のKAN-SEN。」

 

「一度や二度と撃沈(ふら)れたぐらいで素直に沈む船じゃない。」

 

「だって私はエンタープライズ。」

 

「きっと君さえ沈めて(おとして)みせる。」

ーー私という海にな。

 

パァッと、亡霊というにはあまりにも眩しい笑顔が咲いた。




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