よくある元ブラックサークルもの   作:ナップル

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『証拠なんていりません』

『最終コーナー、折り返し回ってきたのはゼンノロブロイ!

 しかしウオッカが大外から猛烈な追い上げを見せる!

 中盤まで脚をためていたのか、ぐんぐんと前との距離を詰めていく!

 あっという間に8番からトップへ躍り出た!

 直線に入ってもその脚は衰えない!

 二番手との距離を更に開いて、今一着でゴール!!』

 

『ビワハヤヒデ、中盤から飛ばす飛ばす!

 まるで他のウマ娘を子供扱いだー!

 その体格に見合ったスピード、スタミナ、パワーを持ちあわせていた!

 BNWの一角ビワハヤヒデ、ここでその本領を発揮してきた!

 これからのレースが非常に楽しみです!』

 

『芦毛をなびかせて、内角からオグリキャップが食い込んできた!

 せまい隊列をえぐりこむようにかわし、前へと駆け上がる!

 爆発的な脚力だ!

 これが本当にデビュー戦なのか!

 一着はオグリキャップ、オグリキャップです!

 これでサークル【アケルナル】の選手、全員がメイクデビュー戦で圧倒的な勝利を刻みつけました!』

 

テレビでは『復活の名門サークル!』という銘を打って特集が組まれていた。

いくらメイクデビュー戦とはいえ、安定して勝つことは難しい。

初勝利を刻むまで、何ヶ月も要するウマ娘もいる。

勝利できず、夢を諦め去っていくウマ娘もいる。

それを考えると、我がサークルながらなかなかの好成績を収めたものだ。

 

こうして実績を積み重ねて、ようやくお目当ての相手にお目通りが叶った。

 

「・・・それで、最近話題のサークルのトレーナーが、走ることの叶わない元競争ウマ娘になにか御用ですの?」

 

目の前にいるのは、故障した足を固定したメジロマックイーンだ。

かつては年代最強のステイヤーとして名を馳せた彼女も、故障には勝てなかった。

凛とした空気も、今は弱々しく感じる。

 

「自己紹介がいらないようで手間が省ける。

 メジロ家のご令嬢とこうして顔を合わせることができて光栄だな。

 半年前の天皇賞(春)は実に見事なレース展開だった。

 鍛えあげた筋力と、肺活量、ペース配分。レースを見るだけでどれだけ準備してきたか伝わってきたほどだ」

 

「それはどうも。しかし、ご存知でしょうけどもうあの頃のように走ることはできませんの。

 勧誘でしたら意味がありませんわ」

 

「ふむ、それは残念だ。

 うちのサークルでぜひもう一度、君の長距離戦を屈強に駆ける姿を見てみたいと思っているのだが」

 

「・・・世間話でもしに来たの?

 私もこう見えてやることはありますから。

 執事、お客様がお帰りですわ」

 

「そのやることというのはリハビリかな?

 まだ競争ウマ娘への復帰を諦めていないと見える」

 

「一人で歩けないようでは不便ですからね。

 せめて日常生活に支障のない程度には回復しようとしているだけですわ」

 

「歩けるようになるだけで満足なのか?

 メジロ家のご令嬢ともあろう者がずいぶん慎ましいことだ」

 

キッと目を釣り上げるマックイーン。

闘志はいまだ衰えてはいない。

 

「もう一度、君が走る姿が見たい。

 集団の先頭を、その銀髪をなびかせて颯爽と駆け抜ける姿。

 つらい長距離を、内心では歯を食いしばっているだろうに、すました顔をしてゴールを駆け抜けていた。

 何年も積み重ねてきた鍛錬の日々を、その苦労を、これで終わらせてしまうのか」

 

「・・・観客はいつも無責任なものですね。

 走れないものを走れという。追いつけ、逃げ切れ、ただ客席から大声で叫ぶだけ。

 私達ウマ娘は、すべてのトレーニングと意地をかけて最終直線を駆けているの。

 走ることをやめることが、一体どれだけつらいことなのか・・・あなたなんかにわかるものですか・・・!」

 

怒気を孕んだ声をにじませる。

 

「走れるなら走りたい。そう捉えて構わないかな」

 

「当然でしょう。

 でも、それができないから・・・」

 

「走れる」

 

「・・・は?」

 

一瞬、令嬢にあるまじきぽかんとした表情を浮かべるマックイーン。

可愛い。

 

「走れるようになると言っているんだ。

 君さえ望めばもう一度・・・ターフの上を、一年前のように」

 

「なにをバカなことを・・・」

 

「繋靱帯炎、なるほど厄介な病気を患ったものだ。

 外科治療、内科治療、どちらにせよ完治が難しい。

 この病気で何人ものウマ娘がターフを去っていった。

 かつて俺のサークルにもその病気にかかった子がいたよ」

 

「それなら、わかるでしょう。

 この病気になってしまえば、一部の例外を除いて復帰は絶望的。

 私は発症からだいぶ経ってしまって、炎症も進んでいます。

 うちの主治医とは別に、セカンドオピニオンも行いましたが同様の答えが返ってきました。

 競争ウマ娘の道は諦めろと」

 

「アドマイヤベガ、というウマ娘を知っているかな」

 

「・・・ええ、ダービーウマ娘ですもの。

 一時期故障によりレースを休んでいましたが、今では復帰して勝ち星をあげていますわね。

 噂では繋靱帯炎を発症したのではないかと言われていましたが、あれは」

 

「あれは君と同じく左脚の繋靱帯炎だった。

 医者からは復帰は絶望的だと言われていた。

 菊花賞で敗北し、次の宝塚記念に向けて調整をしていたところでの発覚だったな。

 悔しさのあまりその場で足を折りかねないほど思いつめていた」

 

「・・・・・」

 

「当時は俺も若くて、死に物狂いで治療法を探した。

 効果が少しでもあると思われる方法はなんでも試した。

 治るかどうかもわからない方法を、来る日も来る日も。

 ベガの執念がなければ、おそらく途中で諦めていただろう。」

 

「ほ、本当に・・・繋靱帯炎を治したというんですか・・・」

 

震えた声で、手元を見つめるマックイーン。

可能性はないと思っていたところにうまい話が転がってきたのだ。

信じられないのも無理は無い。

 

「絶対に治せる、とは俺も言い切れない。

 だが実例があるのは確かだな。」

 

「しょ、証拠は・・・」

 

言いかけて、振り切るように言葉を続けた。

 

「いえ、証拠なんていりません。

 治る可能性があるというのなら、私はそれを信じて突き進むまでです。

 きっと、アドマイヤベガがそうであったように」

 

いい目をしている。

気高く、覚悟を持った目だ。

 

「つらいリハビリになるぞ」

 

「覚悟の上です。

 どんな辛いリハビリだろうとやり遂げてみせます」

 

その言葉が聞きたかった。

 

「よし、それじゃあニ人共はいってきてくれ」

 

俺は外で待機していてもらった二人を呼んだ。

 

 

「この人達は・・・」

 

「一人は知っているだろうな。彼女がアドマイヤベガだ。

 証拠というのであれば、生き証人といえる治療の実例だ」

 

「はじめまして、マックイーン。

 同じ病気になった者同士、治療を手伝わせてもらうわ。

 トレーナーから頼まれたよしみもあるしね」

 

「ありがとうございます。

 競争ウマ娘として忙しいでしょうに・・・心から御礼申し上げますわ」

 

「そして、もう一人は鍼師の先生だ。

 知る人ぞ知る名医でな。

 みためは胡散臭いが、腕は確かだ」

 

「ほっほっほ・・・・失礼なやつじゃな。

 まあ儂の鍼だけで治るわけではないが、治療の手助けにはなろう・・・」

 

「お願いします。

 治る可能性があるのであれば、泣き言は言いません」

 

「今日は二人の面通しだ。

 本格的な治療は明日から行う。

 鍼治療と内服薬で炎症を抑えて、治まってきた頃合いを見て外科治療をする。

 スケジュールはこの工程表にまとめてあるから、今日中に読んでおいてくれ。」

 

「こ、このびっしりと書き込まれたものが私のスケジュールですの・・・?

 お願いするかどうかもわからなかったのに、こんなものを」

 

「やるかどうか決まってから作っては遅いからな。

 まあ不要になっても紙が無駄になるだけの話だ」

 

「なぜ、赤の他人である私にここまで・・・」

 

「言っただろう。

 君のターフで走る姿がもう一度見たいと。

 そのためなら、これくらいは安いもんだ」

 

あとはダイヤに頼まれたのも大きいが・・・。

 

「・・・・ありがとう、ございます。

 この恩はきっと・・・」

 

「恩というほどのものではないが、もし完治したら頼みたいことがある。

 うちのサークルにトウカイテイオーがいるのは知っているな」

 

「・・・はい、よく存じてますわ」

 

「あいつが未だに燻ぶってるもんでな。

 同期のよしみで、ケツを叩いてやってくれ。

 なにG1レースを2つ3つも取ればあいつも火が付くだろう」

 

「ふふふ・・・簡単に言ってくれますわね。

 でも、望むところですわ。言われずとも」

 

「その意気だ。それじゃあまた明日、朝9時頃に来る」

 

「お待ちしていますわ」

 

そう言って、俺は応接間を出た。

これでダイヤにようやくいい報告ができるな。

あれから毎日三回はマックイーンの治療はまだかまだかとうるさかったからな・・・。

 

しばらく歩くと、玄関の前で一人の婦人が待っていた。

 

「お・・・?これはこれは、メジロ家の大奥様ではありませんか」

 

「その様子だと、マックイーンは治療を受け入れたようですね?」

 

「ええ、なんとか。

 私のような得体の知れない1トレーナーを会わせていただいたおかげですよ」

 

「謙遜が過ぎますわね。

 トレセン学園ではあまり名前が知られていませんが、企業サークル内ではとても有名ですよ。

 いろいろな意味で」

 

「ははは、手厳しいですね。

 これからこちらに伺うことも多くなりますので、お手柔らかにお願いします」

 

「もちろんです。

 私の孫娘のこと・・・どうぞ、よろしくお願いします」

 

「・・・はい、必ず。私も全身全霊で治療に取り組みます」

 

「それでは、また」

 

「はい」

 

ふう・・・緊張するな。

偉い人と会うのは久しぶりだったから失礼がなかったか不安だ。

コネという意味ではこれ以上ないかもしれないが、そんなつもりで会ってたら即見透かされそうだな・・・。

 

「それでは私も今日はこれで失礼します。

 ところで、トレーナーはいつ前の厩舎に戻ってきてくれるんです?」

 

アドマイヤベガから唐突に言われた。

 

「いや追い出された手前戻ることはできそうにないんだが・・・」

 

「トレーナーを追い出した無能管理職だったらもう総スカンされていないから戻れると思いますけど」

 

「え、そうなの?

 しかし、理事長に拾ってもらった手前もあるしな・・・」

 

「じゃあ私がトレセン学園に入園するしかないかしら」

 

「ははは、5年おそグホッ」

 

「いつも一言多いんですよ、トレーナーは!

 それじゃあまた!」

 

ウマ娘の膂力でツッコミは命に関わるぞ・・・。

 

「ウマ娘と仲が良いのは相変わらずじゃなぁ。

 儂も今日はこれくらいで帰るぞ」

 

「ええ、忙しいところ来ていただいてありがとうございます。

 また一杯やりながら、ウマ娘について語り合いましょう」

 

「ほっほっほ、君の新しいサークルの子たちの話であれば、いい肴になりそうじゃ」

 

「ところで先生、お弟子さんの暴走はどうにかなりませんか。

 突然ふらっと現れては新しく考えた治療を闇雲に施して去って行くと私にも苦情が来ているんですが・・・・」

 

「あれは自称弟子じゃと何度も・・・」

 

この先生とはかれこれ二年の付き合いになるが、趣味が非常に合うので仕事は抜きにしても仲良くしている。

いつかたづなさんも連れて三人で飲んでみたいものだ。

 

 

 

 

 




タウラス杯は順調ですかみなさん。
おかげさまでグレードリーグ決勝進出決められました。(自慢)
200連してSSR一枚しか引けなかったりもしたけど私は元気です。(震え声)

ところで青因子3がでたら一本書くって話してたんですけど
二人でちゃったらもう一本書かないとですかね・・・。
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